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ライフサイクルマネジメント（LCM）とは？目的・メリットと各業界での活用事例

LCMとは何か？その意味と目的

ライフサイクルマネジメント（LCM：Life Cycle Management）とは、製品や設備、IT機器などの資産について、企画・調達から導入、運用・維持管理、更新、そして最終的な廃棄に至るまでの全ライフサイクルを一貫して管理する手法を指します。もともとIT資産管理の文脈で使われることが多いビジネス用語で（1960 年代の国防調達や設備保全でも用いられており、起源は IT に限定されない）、パソコンやサーバーなどのIT機器・システムの導入から廃棄までの一連のサイクルを適切に管理することを意味します。しかし、この考え方はIT分野に限らず、製造業や建設業など幅広い領域で重要であり、各分野に共通点が多い概念です。

LCMの基本的な目的は、対象となる資産や製品の価値や効率性を最大化し、ライフサイクル全体にわたって適切に管理することにあります。例えば、資産のメンテナンスやアップデートのタイミングを適切に管理することで、故障やトラブルのリスクを最小限に抑えられます。また、LCMを導入することでコスト削減、持続可能性（サステナビリティ）、品質向上などの効果が得られ、長期的な経済性と環境保護の両立が実現します。要するに、LCMは資産や製品の「寿命を延ばし、その間の総合的な利益や価値を最大化する」ための戦略的な管理手法なのです。

LCMを導入するメリット

LCMを実践することで、企業や組織はさまざまなメリットを享受できます。ここでは主なメリットをいくつか紹介します。

  • コスト削減とTCOの最適化：LCMでは資産の取得から処分まで一貫管理し、機器の使用期間を延ばしたり適切な更新計画を立てたりすることで、余計な購入を減らしコストを抑えます。特に重要なのがTCO（Total Cost of Ownership、総保有コスト）の概念です。TCOとは資産の購入から廃棄までにかかる総費用を指し、LCMでは初期導入費用だけでなく保守・運用・故障対応などの隠れたコストも含めて管理します。これにより、資産ライフサイクル全体でのコスト最適化が可能となり、最終的な経済効果が高まります。
  • 業務効率の向上：ライフサイクル全体の管理を徹底することで、担当者が煩雑な資産管理業務に追われる時間を削減しコア業務に集中できるようになります。例えば、計画的な保守やアップグレードのスケジューリングによってシステム停止などの中断を最小限に抑えることで、業務の継続性が確保されます。その結果、生産性が向上し、人員リソースの有効活用にもつながります。
  • リスク管理・セキュリティ強化：資産をライフサイクル全体で把握し管理することで、適切なタイミングでのセキュリティ対策（パッチ適用や老朽機器の更新等）が可能となり、情報漏えいやサイバー攻撃のリスクを軽減できます。古いソフトウェアやハードウェアを放置せず適時に見直すことで、脆弱性を減らし信頼性の高いIT環境を維持できるでしょう。また、予防保全を徹底することで機器の故障リスクも下がり、非常時のダウンタイム削減や安全性向上にも寄与します。
  • 環境負荷の軽減とSDGsへの貢献：LCMでは資源の有効活用と廃棄物削減にも注力します。資産を必要以上に追加購入せず適切に使い切ることで資源消費や廃棄物を削減でき、老朽化した機器も適正にリサイクル処理すれば環境への負荷低減につながります。例えば、IT機器のLCMサービスでは故障機のデータ消去や再利用可能部品の取り外しなどを徹底し、環境負荷を最小限に抑えた廃棄処理が行われます。こうした取り組みを通じて組織としてSDGs（持続可能な開発目標）への貢献も実現できます。

以上のように、LCMの導入は経済面（コスト・効率）と環境・社会面（リスク・環境配慮）の双方で大きな利点があります。次章では、そのLCMの具体的な管理プロセスについて見ていきましょう。

LCMのライフサイクル管理プロセス

LCMサービスにおける典型的なライフサイクル管理プロセス（「調達」→「導入」→「運用」→「廃棄」）の概念図。各フェーズで専門的な支援を受けることで、IT資産管理の負荷軽減とTCO削減が可能になる。

LCMでは、対象資産のライフサイクルをいくつかのフェーズ（段階）に分けて管理します。一般的には「計画・調達」→「導入」→「運用・維持（保守）」→「更新」→「廃棄」という流れになります。各フェーズで押さえておくべきポイントを以下に整理します。

フェーズ主な内容（管理業務）
計画・調達ニーズに合った資産の計画立案、機器選定、購入・リース契約手続き、ベンダー管理、ライセンス管理など。適切な調達手段（購入/レンタルなど）の検討を含む。
導入調達した資産を現場に設置・初期設定し、運用開始できる状態にすること。必要ならばキッティング（セットアップ）作業やユーザーへのトレーニング、セキュリティ対策の実施も含まれます。
運用・維持（保守）日常の資産稼働を支える段階。ヘルプデスクによる問い合わせ対応や故障時の原因究明、代替機の手配など保守対応を行います。またソフトウェアのパッチ適用、資産や構成情報の監視・管理、定期点検など、継続的に資産を安定稼働させる業務全般を含みます。
更新（アップデート）資産の性能やセキュリティを維持向上させるために、必要に応じてハードウェア増設・交換やソフトウェア更新を行う段階です。老朽化や技術陳腐化に合わせて適切なタイミングでアップグレードやリプレースを実施し、故障や障害の発生を未然に防ぎます。計画的な更新は長期的なコスト削減にもつながります。
廃棄ライフサイクル終盤の段階です。不要となった資産を安全かつ適切に処分します。具体的には、機密データの消去や初期化、法令に従った産業廃棄物処理、再利用可能部品のリユース・リサイクルなどを行い、環境への負荷を最小化するよう努めます。場合によっては、中古市場での売却やリファービッシュ（再生）による再利用も検討されます。

各フェーズにおいて、自社内で対応することも可能ですが、近年では専門業者によるLCMサービス（アウトソーシングサービス）を活用する企業も増えています。例えばIT資産管理の場合、資産の選定からキッティング、保守、廃棄処理に至るまでを包括的に代行するサービスを利用すれば、情シス（情報システム）担当者の負担を軽減しつつ、より専門的・効率的な運用が可能になります。自社の状況に応じて、必要なフェーズのみ部分的に委託することもできます。いずれにせよ、LCMの考え方に沿ってライフサイクル全体を見通した管理を行うことが重要です。

各分野におけるLCMの活用例

LCMは様々な業界・分野で活用されています。ここではIT資産管理、製造業、医薬品業界、建設・インフラ、環境・サステナビリティという観点で、それぞれLCMの具体例や着目点を紹介します。

IT資産管理におけるLCM

企業の情報システム部門では、社内のPCやサーバー、ソフトウェアライセンスなどIT資産のライフサイクル管理が大きな課題です。LCMの手法をIT資産管理に取り入れることで、機器選定から導入、日々の運用保守、廃棄までを一元的かつ最適に管理できます。例えば、ソフトウェアの定期的な更新やパッチ適用、セキュリティ管理を徹底することでサイバーリスクを最小化しつつ、ハードウェアについても耐用年数を意識した更新計画を立てることで機器寿命の最大化とコスト節減が図れます。古くなった機器は適切に廃棄・リプレースすることでセキュリティリスクと保守コストの増大を防ぎます。

近年はPCのライフサイクルマネジメント（PCLCM）サービスを提供するベンダーも多く、キッティング（初期設定）からヘルプデスク、資産台帳管理、データ消去・廃棄処理に至るまでアウトソーシング可能です。大企業はもちろん、中小企業でもこうしたサービスを活用するケースが増えており、自社で管理するよりコストダウンにつながったという声もあります。IT資産という移り変わりの激しい領域だからこそ、専門的なLCMの考え方で常に最新・最適な状態を維持することが重要になっています。

製造業におけるLCM（PLM）

製造業では自社製品に対するLCMとして製品ライフサイクルマネジメント（PLM：Product Lifecycle Management）の概念が確立されています。PLMは商品の企画・設計から製造、販売、アフターサービス、廃棄に至るまでを対象としたマーケティング・開発手法であり、製品のライフサイクル全体を通じた最適化を目指すものです。具体的な目的には、コスト削減、市場投入までのリードタイム短縮、品質向上、環境負荷低減などが含まれます。製品開発の各段階を個別最適で管理するのではなく、製品の生涯価値を最大化するために全体最適でマネジメントする点がPLM（ひいてはLCM）の特徴です。

例えば、エレベーターやコピー機のような製品では、販売時に利益を上げるだけでなく使用期間中の保守サービスや消耗品供給によっても収益を得るビジネスモデルがあります。PLMの考え方を導入すれば、このように製品のライフサイクル全体で利益を創出する仕組みを構築できます。費用面でも、使われ方を踏まえてマニュアルを工夫し保守コストを下げるなど、生涯コストを抑える取り組みが可能になります。また、後述するように環境面でもライフサイクル全体での設計改善（例：リサイクルしやすい素材採用）によって持続可能性を高めることができます。このように、製造業におけるLCM/PLMは製品戦略そのものと直結し、競争力強化に欠かせない手法となっています。

医薬品業界におけるLCM

医薬品業界でもLCMの概念は重要です。新薬は特許期間があるものの、開発に長い年月と莫大な費用がかかります。そのため、一度上市した医薬品について製品価値を継続的に高め、製品寿命を延ばす戦略が取られます。これが医薬品におけるライフサイクルマネジメントです。具体的には、適応症の追加（新たな疾患への効果承認）や剤形の改良（飲みやすい剤形への変更）、用法・用量の改善といった改良を加え続けることで、既存薬の価値を高め長期間にわたり有効活用しますanswers.ten-navi.com。適応症拡大などの取組みによって特許期間の延長も可能となり、後発医薬品（ジェネリック）対策としても有効です。

近年、新薬の開発スピードが鈍化している中で、既存薬の価値を最大限引き出すLCM戦略は製薬企業にとってますます重要になっています。例えばあるブロックバスター薬では、錠剤から徐放性剤形への変更や、小児用のシロップ剤導入、新たな疾患領域への適応追加などLCM施策を次々に展開し、市場寿命を大幅に延ばしたケースがあります。医薬品LCMは企業の収益最大化だけでなく、患者にとっても長期にわたり有効な治療薬が供給されるというメリットがあり、医療の質の向上にも寄与しています。

建設・インフラ分野におけるLCM

建築物や社会インフラ（橋梁、道路等）の分野でもLCMの考え方が注目されています。建築業におけるLCMとは、建物の企画・設計・施工・運用・メンテナンス・解体といった全ライフサイクルを通じて、資産価値や効率性、環境への配慮を最大化する手法のことです。例えばビルの設計段階から将来的な維持管理を考慮し、修繕しやすい構造にしておくことや、耐久性の高い資材を使って更新頻度を減らす設計とすることで、長期的な維持コストを大幅に削減できます。実際に、建物のライフサイクル全体を見据え計画的な修繕・更新を行えば、初期建設費用は多少増えても長期ではトータルコストを低減できることが分かっています。

また建設分野では、LCMによって環境負荷の軽減にも大きな効果があります。高効率な断熱材や省エネ設備を採用して建物運用時のエネルギー消費を抑えたり、リサイクル可能な材料や再利用資材を取り入れて建設時・解体時の廃棄物を減らすといった取り組みがその例です。実際に大手建設会社では、解体後の資材をデータベースで管理して再利用を促進するような資源循環プラットフォームを導入するケースも出てきています（例：「my Upcyclea」というシステムによる建設資材リサイクルの推進）。インフラ老朽化が社会問題となる中、LCMによる長寿命化計画やメンテナンスの高度化は、持続可能な社会インフラ維持に欠かせない視点となっています。

環境・サステナビリティにおけるLCM

LCMは環境経営やサステナビリティの分野でも重要なキーワードです。企業活動による地球環境への影響を低減するには、製品やサービスをライフサイクル全体で捉えて環境負荷を評価・低減していく必要があります。そのため多くの企業が、自社やサプライチェーン全体のCO2排出量削減や資源循環の取り組みにLCMの考え方を取り入れています。具体的な手法の一つにライフサイクルアセスメント（LCA）があります。LCAでは製品の製造から使用、廃棄に至る各段階での環境負荷（温室効果ガス排出量など）を定量的に評価し、どの段階で負荷が大きいかを分析します。この結果を踏まえて、例えば設計段階で廃棄時のリサイクル負荷を減らすため「分解しやすい設計」を採用したり、生産時から輸送効率を考えて軽量な梱包材を使うなど、ライフサイクル全体で環境配慮設計を行うことが可能になります。

こうしたLCMによる環境配慮の取り組みは、企業のCSR（企業の社会的責任）戦略やSDGs達成にも直結します。近年は世界的にSDGs（持続可能な開発目標）への意識が高まっており、LCMを通じて環境負荷軽減に貢献できることから自社製品・サービス全体の環境戦略としてLCMを推進する企業が増えています。例えば素材メーカーの東レでは、製品のライフサイクル全体での環境影響を捉える「グリーンイノベーション製品認定制度」を設け、LCAによる評価結果をもとに開発・改良を進めることで、自社およびサプライチェーンの温室効果ガス排出削減に努めています。このように、LCMの観点を環境施策に組み込むことは、企業が持続可能な社会づくりに貢献しつつ、自社の環境ブランド価値を高める上でも有効なアプローチなのです。

よくある質問（FAQ）

Q1. LCMとLCA（ライフサイクルアセスメント）はどう違うのですか？
A1. LCM（ライフサイクルマネジメント）は製品や資産を企画から廃棄まで包括的に「管理」する手法であり、コスト・品質・環境などあらゆる側面を最適化する経営手法です。一方、LCA（ライフサイクルアセスメント）は製品ライフサイクル全体の環境負荷を定量的に「評価」する手法を指します。つまり、LCAは環境面に焦点を当てた分析ツールであり、その結果はLCM上の環境配慮施策に活かされます。両者は密接に関連していますが、LCMは経営管理の枠組み、LCAは環境評価の技術という位置づけです。例えば「製品AのCO2排出量をLCAで算出し、LCMの中で設計改善策を講じる」といった形で併用されます。

Q2. LCMとPLM（製品ライフサイクルマネジメント）の違いは何ですか？
A2. PLM（Product Lifecycle Management）は主に製造業で使われる概念で、自社製品の企画・開発から市場投入、販売終了までのライフサイクルをマーケティング視点で管理する手法です。製品戦略部門が中心となり、製品の市場寿命を延ばし収益を最大化することを目的とします。一方、LCMはより広義の概念で、製造業のPLMも包含しますが、それ以外にIT資産や設備、インフラなどあらゆる資産の導入から廃棄までを対象としています。PLMは製品開発・販売戦略寄りの用語、LCMは資産管理全般に関わる包括的用語と言えます。ただし両者の本質は共通しており、いずれもライフサイクル全体を見据えた全体最適化を図る点で同じ考え方です。

Q3. 中小企業でもLCMは必要なのでしょうか？
A3. はい、規模の大小に関わらずLCMの考え方は有効です。確かに当初は大企業が中心でしたが、近年では中小企業でもIT資産管理サービスとしてLCMを活用するケースが増えています。リソースや予算が限られる中小企業こそ、ライフサイクル全体で無駄を省き資産を長持ちさせる工夫が重要です。例えば少人数の情シス担当しかいない企業でも、PCの導入・保守・廃棄をアウトソーシングするLCMサービスを利用すれば、本来の事業に人手を集中でき結果的にコスト削減と業務効率化が実現できます。また製造業でも、製品開発からアフターサービスまで一貫して考えることで市場での競争力を高められます。要は企業規模に応じて適切な範囲からLCMを取り入れることが大切で、そうすることで長期的なメリットが得られるでしょう。

Q4. TCOとは何ですか？LCMとどう関係していますか？
A4. TCO（Total Cost of Ownership）とは「総保有コスト」と訳され、資産の取得から廃棄までにかかるすべての費用の合計を指します。たとえばパソコン1台について、購入代金だけでなく、設置設定にかかった人件費、保守契約料、電気代、故障修理費用、最終的な廃棄処理費用まで含めた総額がTCOです。LCMではまさにこのTCOを意識した資産管理が重視されます。初期費用だけでなくライフサイクル全期間のコストを把握・最適化することで、「安く買ったが維持費が高くついた」といった事態を防ぎ、真のコスト削減効果を得ることができます。LCMを導入する際は、自社資産のTCOを算出・分析し、削減余地のある領域（例えばメンテナンス費やエネルギー費など）を見極めることが重要です。

以上、LCMの基礎からメリット、各分野での活用例まで解説しました。ライフサイクルマネジメントは、資産や製品を「生まれてから役目を終えるまで」責任を持って管理する考え方であり、現代のビジネスにおいて欠かせない視点です。自社の状況に合わせてLCMを上手に取り入れ、効率的で持続可能な運用を実現していきましょう。

参考文献・情報源：（※以下は記事内で参照した出典です）

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