アウトドア・防災 政策

南海トラフ地震「80%発生確率」の真相と地震保険料率の歪み – 時間予測モデルが生んだ数字の独り歩き

南海トラフ地震だけが時間予測モデル採用、その物理的根拠と批判

政府の地震調査研究推進本部(地震本部)によれば、南海トラフ沿いで今後30年以内にマグニチュード8~9クラスの巨大地震が発生する確率は「80%程度」に達した(2025年1月時点)。しかし、この「南海トラフ地震発生確率80%」という数字には重大な疑問が投げかけられている。実は、南海トラフ地震だけが他の地震とは異なる「時間予測モデル」という特別な計算式で確率評価されており、これが数値を大幅に押し上げているのだ。

時間予測モデルとは、前回の大地震から次回までの間隔が、前回地震の規模(すべり量)に比例すると仮定するモデルである。南海トラフの場合、歴史上の南海トラフ巨大地震(宝永地震1707年・安政地震1854年・昭和南海地震1946年)の震源域の隆起量データから次の地震までの期間を推定し、その期間と現在経過時間に基づいて発生確率を計算している。具体的には、室津港を中心とする複数地点(室津・土佐清水・志摩など)の隆起量・津波痕跡を総合し、尤度最大化で平均間隔を約88年(95 %信頼区間70–104年)と推定した。この値を元に計算すると、2019年初め時点で「30年以内に70~80%」という高確率が得られる。地震本部はこの評価を2013年に公表した長期評価(第2版)で採用し、以降「70~80%」と発表してきました(2025年に経過時間増加を反映して「80%程度」に更新)。

問題は、このモデルの前提とデータの信頼性です。複数の地震学者は『時間依存モデルの適用は科学的議論が続く余地がある』と指摘し、Hashimoto (2022) は“過大評価の可能性”を15–25 %レンジで試算している。まず室津港の隆起量データ自体、江戸時代から伝わる古文書(久保野文書)などに基づくもので測定誤差が大きく、正確さに疑問があります。例えば宝永・安政地震について、どの地点でいつどのように測定されたか記録が不明であり、潮位の影響などで最大50cmもの誤差が生じ得るのに補正されていません。こうした不確かなデータを精密なモデルに当てはめれば、確率計算自体が成り立たなくなる恐れがあります。実際、京都大学防災研究所の橋本学教授は「観測誤差を考慮しておらず過大評価だ。地震本部の報告書では科学的議論だけでなく政治的な思惑も絡んで確率値が採用されたのに、その過程が明らかにされていない」と厳しく指摘しています。もっとも、地震本部は『時間依存モデルは室津港データだけでなく沿岸地形変動を総合評価した結果だ』と説明しており、見解は割れている。

さらに根本的な問題として、南海トラフ沿いでは地震の発生パターンが多様で、毎回すべての震源域が一度に破壊されるとは限らない(部分的な破壊も起こりうる)のに、全域に時間予測モデルを適用すること自体に無理があるとされています。他のプレート境界型地震(日本海溝沿いなど全国6地域)の長期確率は、過去地震の発生間隔を平均して求める「単純平均モデル」で算出されており、南海トラフだけ特別扱いされている状況です。もし他と同じ単純平均モデルを使えば南海トラフも「20%程度(15〜25%前後)」の確率に落ちると試算されています。この差は極めて大きく、専門家から「あれは科学と言ってはいけない」「信頼できない数値」との声が上がるゆえんです。

では、なぜ南海トラフだけ時間予測モデルが採用されたのか――背景には「想定される被害の甚大さ」があります。南海トラフ巨大地震は西日本広域に壊滅的被害を及ぼす恐れがあり、行政や防災担当者は常に強い危機感を持ってきました。「発生確率が低い」と国民に受け取られることへの抵抗感もあったとみられます。2013年の政府会議では「他地域と同じように確率を下げるのはけしからん」と防災政策の専門家たちが猛反発し、地震学者らが提案した「20%への見直し案」は一蹴されてしまいました。結果として「行政の都合で確率を下げる案は無視された」形で、高い数値が独り歩きすることになったのです。

地震保険料率の計算方式と地域格差 – 「高確率=高料率」の実態

南海トラフ地震の発生確率が“特別扱い”で引き上げられていることは、実は地震保険の保険料率にも影響しています。地震保険(住居用建物・家財を対象)は、全国どこの損保会社で契約しても共通の基準料率で計算されますが、その料率は地域(都道府県)ごとに異なる仕組みです。損害保険料率算出機構(料率機構)が、地震本部の公表データ等を用いたハザードシミュレーションに基づき都道府県別の純保険料率を算出し、これを各社が適用しています。平たく言えば、「その地域で想定される地震発生頻度被害の大きさ」に応じて保険料が決まる仕掛けです。高いリスクが見込まれる地域ほど保険料率も高く設定され、「高確率地域=高保険料率」という傾向が生じています。

現在、地震保険料率はリスクに応じた3区分の等地制度が採られています。例えば最も保険料が高い「3等地」に指定されているのは、静岡県、千葉県、東京都、神奈川県など巨大地震が懸念される8都県で、耐火建築物の場合の年額保険料は保険金額1,000万円あたり2万7,500円にもなります。一方、最も安い「1等地」は北海道や岡山、福岡など28道県で、同じ条件でも7,300円程度です。地域によって3倍以上の格差があるのが実情です。この差は、日本が地震多発国とはいえ極端ではないかとの指摘もあります。実際、料率機構も「極端な料率格差は社会的連帯の観点から適当でない」とし、大きく開いた地域差を一定範囲で平準化する見直しを行ってきました。しかしそれでもなお、南海トラフ巨大地震の再評価によって「現在最大3倍以上ある料率格差がさらに拡大する可能性」が懸念されています。

この懸念は現実のものとなりつつあります。近年の料率改定では、南海トラフ震源域に当たる徳島県・高知県や首都圏の茨城県・埼玉県などが大幅値上げ(約30%増)となりました。たとえば高知県と徳島県(耐火建物)は2019年に年額1万3,500円から1万5,500円へ15%アップし、2022年にも1万7,700円から2万3,000円へ約30%アップするなど、 合計約1.7倍に跳ね上がっています。一方で、想定リスクが見直された愛知県・三重県・和歌山県などは逆に料率が引き下げられました。このように都道府県別のリスク評価によって保険料率は頻繁に見直され、上がる地域と下がる地域が発生しています。

では、南海トラフ地震の発生確率「80%」は具体的に料率にどう作用しているのでしょうか。料率機構は明示的に「発生確率そのものではなく、発生時の被害の大きさを基準に料率算定している」と説明しています。確かに保険料率には、地震の規模(マグニチュード)や建物密度、地盤特性なども考慮されます。しかし発生確率が高ければ被害発生頻度も上がるため、結果的に高確率地域は高い損失リスクが算出され、高料率となるのが実態です。南海トラフ巨大地震のリスクが集中する静岡県や高知県などが最高料率に位置し、確率の低い北海道や九州の一部が最低料率になる構図は、その典型といえます。

問題は、この仕組みが「科学的不確実性の大きい数字」に影響されていることです。前述の通り南海トラフの80%という確率値には疑問符がついており、本来であれば「20%程度」で再評価されるべき可能性が指摘されています。料率機構自身も「震源モデル(ハザードモデル)の精度には限界がある中、料率差のみ精緻化しても合理性を欠く」と述べ、過度な地域格差の拡大に慎重な姿勢を示しています。つまり、リスク推定の不確かさと保険料負担の公平性という二律背反に直面しているのです。この制度上の歪みを是正しつつ、保険本来の趣旨である「社会の連帯による備え」をどう維持するかが問われています。

地震保険料の仕組み – 損保会社からJER・政府へ、国庫の役割とは

次に、地震保険料がどのように集められ、巨大地震時にどのように支払われるか、その仕組みを見ていきます。地震保険は政府と損害保険各社が共同で運営する官民共同の保険制度です。契約者が支払った保険料は各保険会社から日本地震再保険株式会社(JER)にすべて集約され、JERが政府と再保険契約を結ぶ窓口となっています。JERは受け取った純保険料の一部を政府に再保険料として納め、政府はそれを財源に地震再保険特別会計で巨災時の支払備金を積み立てています。平時は民間(損保会社)と政府がそれぞれ準備金を蓄え、大災害が起きたときに共同で保険金支払いに充てるのがこの制度の骨子です。

ただし、政府といえど無限に支払い責任を負えるわけではないため、法律で1回の地震につき総支払限度額が定められています。現在、その限度額は1回の地震で支払う保険金総額の上限12兆円(政府負担分約11.66兆円+民間保険会社分約0.34兆円)と決められており、関東大震災級の超巨大地震でもこの範囲で収まるよう随時見直されています。万一これを超える保険金支払いが必要な場合は、各契約への支払い額を按分して削減できる規定もあります。実際には、過去の巨大地震でも保険金支払いが限度額を超えたことはありません。阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)でも、支払い保険金は限度額内に収まり、保険金は円滑に支払われました。

制度上の責任分担をもう少し詳しく見ると、小~中規模の地震損害は民間保険会社が負担し、損害額が一定規模を超えると政府が再保険で負担する仕組みです。具体的な分担割合は累進的に定められており、例えば支払保険金総額が1,150億円までは民間(JER含む)が全額負担、それを超え5兆5,000億円程度までは政府と民間が按分負担、さらに上限までの超過分はほぼ政府が全負担、というように階層化されています(※詳細な割合は毎年財務省資料等に公表)。結局、超巨大災害時の大半の支払いは国庫が肩代わりする設計なのです。政府はこのリスクに備え、地震再保険特別会計で毎年数千億円規模の準備金を積み立てており、民間損保各社もJERを通じて責任準備金を積み増しています。

この仕組みのメリットは、民間単独では支えきれない巨大リスクを国が財政力でバックアップすることで、地震保険の普及と被災者救済を可能にしている点です。一方でデメリットは、政府財政(=税金)が事実上ほぼ無限大の支払いリスクを背負うため、巨大地震が頻発すれば国庫負担が累積し得ることです。しかし日本では幸いにも、複数の巨大災害が短期間に連続発生した例はなく、制度は維持されています。また、保険金の支払い実務は民間損保会社が行いますが、最終的な財政負担を政府が負うことで、保険会社の信用不安・倒産リスクを防ぎ社会全体の安心を担保しています。官民共同の「社会のセーフティネット」といえるでしょう。

なお、契約者の立場から見ると、実際の保険金支払いは損保会社から行われるため国が前面に出る機会は少なく、「政府関与」は意識しづらいかもしれません。しかし大災害時には政府・損保各社・JERが連携し、巨額資金を動員して保険金支払いに当たります。例えば東日本大震災では、被災者78万件に総額1兆2千億円超という前例のない保険金が支払われました。これは政府と民間の積立金を合わせて取り崩し対応したもので、支払い業務は混乱なく遂行されました。地震保険制度の枠組みがなければ、これほど多くの被災者に迅速な金銭支援を行うことは困難だったでしょう。裏を返せば、それだけ公的支えがなければ地震リスクを保険でカバーするのは難しいという現実でもあります。

東日本大震災で見えた地震保険の限界 – 7%のカバー率と査定の課題

2011年の東日本大震災はM9.0という未曾有の超巨大地震で、日本の地震保険制度にも創設以来最大の試練を突きつけました。前述のように地震保険金の支払い総額は約1兆2千億円に上り、過去最大件数(約78万件)への支払いが実行されました。保険業界は全国から社員・鑑定人を総動員し、発災後3か月で約7割、6か月で約9割の件数を支払い終えたと報告されています(※損保協会資料より)。制度設計どおり政府特別会計と民間準備金を取り崩して支払いに充てた結果、地震保険は一応の機能を果たしたと評価されました。

しかし、これだけでは被災者の生活再建に充分とは言えません。東日本大震災による経済的被害は推定16兆円規模ともいわれ、地震保険で支払われた1.2兆円は全体のわずか約7%に過ぎません。残り93%以上の損失は保険でカバーされず、国や自治体の公的支援や被災者自身の負担に委ねられました。日本の自然災害保険全般で見ても、地震は保険カバー率が極端に低い災害です。米国では地震の保険カバー率が数十%に達する例もありますが、日本では家計向け地震保険の加入率が当時まだ2割台後半(2010年度末で世帯加入率23.7%)に留まり、企業向け地震保険も普及が遅れていたことが大きな原因です。さらに地震保険金額そのものが火災保険の30~50%の範囲と上限設定があり、全壊しても建物時価の半分程度しか保険金が出ない仕組みになっています。多くの被災世帯は保険金だけでは家屋再建に到底足りず、貯蓄の取り崩しや二重ローン、公的支援金などで穴埋めせざるを得ませんでした。

また、震災時の鑑定・査定業務にはいくつか課題も浮き彫りになりました。地震保険では損害の程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4段階に区分し、それぞれ保険金額の100%、60%、30%、5%を支払うルールです(※2017年以前は「半損(50%)」区分でした)。この区分にわずかでも満たないと保険金は出ないため、軽微な損壊では支払ゼロ、一部損でも5%しか出ません。東日本大震災では「一部損にしか認定されず修理費が全く足りない」「隣家より被害が酷いと思うのに半損と判定されず不満だ」といった査定結果への不満が各所で聞かれました。実際、一部損(5%)と半損(50%)では10倍の差があり、その線引きに泣いた被災者も少なくありません。特に全壊家屋が少なかった内陸部などでは、大半が5%の支払いに留まり「保険金が焼け石に水」との声も上がりました。

保険会社側も、大災害では被害が広範囲に及ぶため現地調査の人手不足査定のばらつきが課題となりました。東日本大震災当時、損保各社は延べ数万人規模の要員を被災地に派遣し対応しましたが、それでも見落としや誤判定が皆無とはいきません。特に津波で建物自体が流失したケースでは「全損」認定がスムーズでしたが、中途半端に損壊した建物の判定は難しく、一部損か小半損かで結果が変わる境界事例も多発しました。後に「査定員によって判定基準が異なるのではないか」との指摘もあり、損保業界は基準見直しを進めています(実際、震災後に半損区分を細分化し基準を細かく改定しています)。巨大災害時に短期間で多数の保険金を支払うには、一定の簡素化・画一化は避けられないものの、被災者感情とのギャップをどう埋めるかは今後の課題です。

こうした反省を踏まえ、現在では地震保険の商品性の改善も図られています。例えば耐震等級に応じた割引制度の導入や、巨大災害発生後に保険金の早期仮払金制度を設けるなど、契約者救済のための仕組みが拡充されました。また、保険金の迅速支払いへ向けたデジタル技術の活用(ドローンやAIによる被害認定サポート)なども検討されています。もっとも、いかに制度を手当てしても、地震保険が 「生活再建費用の全てをカバーするものではない」ことは認識しておく必要があります。地震保険はあくまで当面の生活資金を迅速に給付するセーフティネットであり、被災後の生活再建には公的支援金や共助・自助による備えも欠かせないのです。

「数字を水増し」して防災予算確保?政策的意図の有無と論点

南海トラフ地震の発生確率が時間予測モデルによって“水増し”されている問題は、単なる学術論争に留まりません。背景には「その数字を使って防災政策を進めたい思惑があるのではないか」という観測すらあります。実際、政府の確率発表方針を決める会議では、地震学者らが「信用できない数字だ」と反対したにもかかわらず、防災担当の行政側がそれを押し切った経緯がありました。名古屋大学の鷺谷威教授(地殻変動学)は「確率には裏の意図が隠れている。南海トラフだけ予測方法が全国と違うのは行政の都合だ」と告発しています。

行政側の本音として推察されるのは、「せっかく国民の防災意識が高まっているのに、今さら確率を下げたら予算確保や対策実施に支障が出る」という懸念でしょう。東日本大震災以降、政府は南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策として毎年巨額の防災予算を投じており、ハード面では堤防強化や耐震化、ソフト面では避難訓練や減災教育などを進めています。これらは政治的にもアピールしやすい政策で、巨額の予算措置が伴います。もし突然「南海トラフの脅威はそれほど高くない」と公に評価が変われば、こうした予算の正当性に疑問が生じかねません。行政や政治家にとって、リスク数値は予算獲得や制度立案の重要な根拠であり、言わば政策を下支えする数字なのです。

しかし、この姿勢には副作用もあります。確率を強調するあまり、国民に過度の恐怖心や誤解を与えるリスクです。南海トラフ地震に関しては「2030年代までに来るのでは」といった噂めいた話も流布し、防災関連ビジネスの宣伝文句に利用される例もあります。行政が半ば演出した数字が独り歩きすれば、かえって国民の信頼を損ねる危険も指摘されています。実際、地震本部の長期評価報告書では「時間予測モデルによる高い確率」が本文冒頭で強調され、一方で「20%程度」という低い試算値は本文の後段にひっそり記載されただけで、概要資料や記者会見でも触れられませんでした。この不透明な情報開示姿勢は、専門家からも「隠していると言われても仕方ない」と批判されています。防災啓発のためにリスクを強調するにせよ、科学的根拠と不確実性について正直に説明することが信頼構築には不可欠でしょう。

政策的意図の有無を断定することは難しいものの、少なくとも「数字をどう扱うか」に関する議論は必要です。確率予測は防災計画策定の一材料ではありますが、絶対的な予言ではないことを政府も強調しています。内閣府も「確率が低くても明日地震が起こる可能性はある」とし、数字にかかわらず常時備えるよう呼びかけています。重要なのは、数字に基づいて何をするかです。高い確率と聞けば人々は不安になりますが、その不安を具体的な備えや行動に転換させる政策誘導こそ建設的です。一方、数字ばかり独り歩きすると「結局いつ来るか分からないなら意味がない」「不安を煽るだけだ」といった無力感や反発を招きかねません。リスクコミュニケーションのあり方として、行政は専門家の異論も含め丁寧に情報発信し、国民の理解を得る努力が求められています。

「確率論」より「備え」に軸足を – 読者への提言

南海トラフ地震の発生確率をめぐる論争や地震保険制度の歪みを見てきましたが、最後に強調したいのは、私たち一人ひとりが「確率」に一喜一憂せず「備え」に注力することの大切さです。確率論的な予測は年々精緻になっていますが、それでも地震の厳密な発生時期を予知することは不可能です。30年以内80%とは「明日発生してもおかしくないし、30年以上先になるかもしれない」ことを意味します。極端に言えば、20%でも明日発生しうるし、80%でも外れる可能性があるのです。東日本大震災の例を振り返れば、当時三陸沖の長期確率は決して高くない中で突然超巨大地震が襲いました。一方、かねて「87%の確率」と言われた東海地震(静岡県沖)は結局、予測体系自体が見直され発生しないまま現在に至っています。確率はあくまで長期的なリスク目安であって、日常の行動判断に細かく適用できるものではありません。

重要なのは、「来るかもしれない」という意識を持ち続け、具体的な防災・減災行動に繋げることです。幸い、日本では行政のハザードマップ整備や企業の事業継続計画(BCP)策定など、防災対策は着実に進んでいます。しかし最終的に自分の命・生活を守るのは自分です。耐震補強や家具固定、非常食・飲料の備蓄、避難経路の確認、保険への加入や見直し——できる備えは数多くあります。読者の皆さんには、ぜひ「確率が高いから備える」のではなく「確率に関わらず備える」という発想を持っていただきたいと思います。実際、被災者の声にも「天変地異はいつ起こるかわからない。備えは常に怠りなく」という教訓が多く聞かれます。

地震保険についても、加入すれば絶対安心というものではありませんが、公的支援と自助努力を繋ぐ大事なセーフティネットです。保険金だけで生活再建は難しくとも、少額でも現金が迅速に給付される意義は東日本大震災で実証されました。「地震保険は役に立たない」と決めつけず、補償内容を正しく理解した上で上手に活用することが大切です。同時に、制度の不備や課題については今後も監視と改善提言を続けていく必要があるでしょう。

南海トラフ巨大地震は確かに日本史上類を見ない巨大リスクですが、いたずらに怯える必要はありません。科学的知見は日進月歩で進化し、防災技術も社会の備えも昔とは比べものになりません。私たちがすべきは、「80%」という数字に振り回されることではなく、その数字が示すリスクを直視しつつ冷静に対策を積み重ねることです。確率論より「備え」に軸足を置き、一人ひとりがレジリエンス(防災力)を高めていく――それが結果的に被害を最小化し、数字以上に確かな安心を得る道ではないでしょうか。

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【参照資料】

  • 地震調査研究推進本部, 「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」 (2013)
  • 内閣府, 防災情報のページ (南海トラフ地震関連)
  • 財務省, 「地震保険制度の概要」 (2025)mof.go.jpmof.go.jp
  • 損害保険料率算出機構, 「日本の地震保険 (2022年版)」giroj.or.jpgiroj.or.jp
  • PRESIDENT Online, 「南海トラフ地震発生確率70~80%はウソだった…」 (2024)bunshun.jpbunshun.jp
  • 文春オンライン, 「南海トラフ地震の発生確率『江戸時代の古文書』が根拠」 (2023)bunshun.jpbunshun.jp
  • 東京新聞 (小沢慧一記者), 「南海トラフ地震の真実」 (連載, 2019)dpri.kyoto-u.ac.jpdpri.kyoto-u.ac.jp
  • ウェザーニュース, 「地震保険の地域格差3倍以上」 (2019)weathernews.jpweathernews.jp
  • ダイヤモンド不動産研究所, 「2022年地震保険料改定」 (2022)diamond-fudosan.jpdiamond-fudosan.jp
  • 損保協会, 「東日本大震災に対する損保業界の対応」 (2012)mof.go.jp
  • 植村信保, 「自然災害の保険カバー率」 (2011)nuemura.comnuemura.com
  • 原田直人 (関西大学), 「東日本大震災での保険会社の対応」 (2013)semi.disasterpolicy.com

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