
静かな退職(Quiet Quitting, クワイエットクイッティング)とは、実際に会社を辞めるわけではなく、仕事に対する熱意や意欲を失って必要最低限の業務だけをこなす働き方を指します。言い換えれば、与えられた職務範囲の中で決められたこと以外は「頑張りすぎない働き方」です。この言葉は2022年に米国のキャリアコーチがSNS上で発信したことで注目を集め、Z世代を中心に広まりました。一方で日本でも近年話題となり、「心理的に会社を辞めている状態」とも表現されています。
静かな退職の具体的な行動例
静かな退職を実践している従業員には以下のような特徴的な行動や態度が見られます:
- 求められた以上の仕事はしない。指示された業務範囲外の追加タスクやプロジェクトへの参加は理由をつけて断り、責任範囲を超える仕事を積極的に引き受けることがありません。
- コミュニケーションが最低限。業務上必要な会話以外はほとんどせず、雑談や職場の親睦イベント(飲み会や社内イベントなど)への参加も避ける傾向があります。会議でも発言が減り、同僚との意見交換を避けるようになります。
- 受動的な姿勢。自分から新しいアイデアを提案したり課題を見つけにいくことはなく、常に指示を待って動くようになります。自己啓発やスキルアップへの意欲も低下し、昇進・昇格にも関心を示さなくなります。
- 定時で退社しオフは応答しない。毎日決められた就業時間きっちりで退社し、勤務時間外に仕事の連絡が来ても基本的に返信しません。ワークライフバランスを重視し、仕事と私生活の境界線を明確に引いています。
- 仕事に情熱を込めない。与えられたタスク以上の努力や創意工夫はせず、仕事そのものに対するやりがいや自己実現を求めなくなります。しかし、遅刻や無断欠勤など基本的な規律は守っているため、一見すると問題社員とは言えない微妙な状態です。
これらの行動により、静かな退職者は職場には在籍しているものの精神的には会社から距離を置いている状態だと言えます。周囲から見ると「最近あまり積極的ではない」「必要なことしかしなくなった」といった変化として映るでしょう。
日本における静かな退職の背景・原因
静かな退職が増加している背景には、職場環境や働き方に関する様々な社会的変化があります。特に日本において考えられる主な原因を挙げます。
- 価値観の変化(ワークライフバランス重視): コロナ禍を経て在宅勤務の普及など働き方が大きく変化し、仕事よりプライベートを重視する傾向が強まりました。特にZ世代の若年層はワークライフバランスや時間効率(タイパ)を重視し、私生活も充実させたいと考える人が増えています。その結果、「残業してまで頑張りたくない」「人生は仕事だけではない」と考える人が増え、必要以上の労働を避ける動きにつながっています。実際、ある調査では「できることなら働きたくない」と感じている人が約57%に上りました。
- ハッスルカルチャーへの反発とバーンアウト懸念: かつて称揚された「仕事に没頭し24時間働く」ようなハッスルカルチャーに対し、若い世代を中心に疑問や反発が生まれています。上司や先輩世代が長時間労働で疲弊している姿を見て、「がむしゃらに働いても報われるかわからない」と感じるようになったことが一因です。過度な残業や責任の押し付けによる燃え尽き症候群(バーンアウト)への危機感から、自衛手段として静かな退職を選ぶ人もいます。
- 働き方・収入源の多様化: 副業解禁やフリーランスの増加など、本業以外でも収入を得たり自己実現を図ったりする選択肢が増えたことも大きな要因です。終身雇用が崩れつつある中で転職が当たり前になり、「会社にしがみつかなくても生きていける」という意識が広がりました。その結果、組織への帰属意識が薄れ、今の職場に全力を尽くすより自分主体でキャリア形成を模索する人が増えています。
- 努力が報われない職場風土: 一生懸命に働いても評価や昇進につながらず、かえって仕事量が増えるだけ…という経験から「頑張っても損をする」「働きがいが感じられない」と諦めてしまうケースもあります。年功序列で実力が正当に評価されない、人事評価が不透明といった不満がエンゲージメント低下を招き、静かな退職の原因になっています。実際、国内調査では静かな退職者がその理由として「努力しても正当に評価されず給与に反映されない」ことを挙げています。これは企業が従業員の熱意や「働きがい」を搾取している(いわゆる働きがい搾取)と感じさせる要因にもなっています。
- キャリアパスの不透明さ: 自身の将来像が描けないことも静かな退職を選ぶ一因です。日本型雇用の過渡期で社内での昇進だけがキャリアではなくなりつつある中、「この会社にいても先が見えない」と感じる人もいます。現職で出世レースから降りて、代わりに副業や資格取得など社外で自己成長を図ろうと静かな退職に至るケースもあります。
- コロナ禍以降の労働環境・人間関係の変化: パンデミック下でテレワークが急増した結果、職場との一体感や人とのつながりを感じにくくなったという声もあります。在宅勤務が可能な人と不可能な人で柔軟性に差が生まれ、不公平感やストレスを感じる社員もいました。こうした環境要因から職場への愛着が薄れ、静かな退職に拍車をかけたと考えられます。
- ミドル・シニア世代の意識変化: 静かな退職は若手だけの現象ではありません。日本では40代~60代の中高年世代にも静かな退職予備軍が多いと言われています。背景には「人生100年時代」で定年延長や役職定年など働き方が大きく変わったことがあります。組織から早期退職を促されたり、給与カットや出向を経験した世代は、将来への不安や職場への期待低下から安定志向を優先しがちです。家庭では子育てや介護といったライフイベントも重なり、仕事にこれ以上エネルギーを割けない事情もあります。その結果、豊富な経験を活かしつつも現状維持で淡々と働くことで乗り切ろうとする人が増え、この世代も静かな退職状態に陥りやすくなっています。
以上のように、日本における静かな退職の背景には、個人の価値観シフトや職場の制度・文化の問題など複数の要因が絡んでいます。これらが重なり合い、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意)低下を招いているのです。
静かな退職の兆候・サイン
本人が「静かな退職」状態に陥っている場合、あるいは周囲から見てその兆候に気づく場合、いくつかのサインがあります。以下は静かな退職の主な兆候です。
- 仕事への取り組み方が消極的になる: 以前は積極的だった社員が、新しい課題への挑戦や責任ある仕事を避け、与えられた作業だけ淡々とこなすようになります。20代の若手であれば自己啓発や成長意欲の低下という形で表れ、30代では仕事の質や進捗管理がおろそかになるなどの変化が見られます。
- コミュニケーションの減少: チームミーティングで発言しなくなったり、周囲への相談・報告の頻度が減ったりします。同僚との雑談や意見交換を避け、必要最低限のやり取りしかしなくなるため、「何考えているか分からない」状態になりがちです。指摘や助言にも受け身で、自らは情報発信しなくなります。
- 職場行事や社交の回避: 社内の懇親会や飲み会、ランチミーティングなど業務外の交流を避けるようになります。以前は参加していた社内イベントに顔を出さなくなる、リモートワーク時にもカメラをオフにして存在感が薄れる、といった変化も兆候の一つです。
- 定時退社の徹底と私生活優先: 毎日きっちりと定時で退社し、必要がなければ残業しません。勤務時間外はメールやチャットにも反応しなくなり、休暇も遠慮せず取得します。ワークライフバランスを尊重する姿勢自体は望ましい面もありますが、業務への主体性低下とセットで現れると静かな退職のサインと言えます。
- 昇進やキャリアへの関心喪失: 将来のキャリアプランについて語らなくなり、昇進・配置転換の話にも消極的になります。「今のままでいい」といった発言が増え、野心や向上心が感じられなくなります。40代以降の社員では部下育成への熱意が下がり、自分の経験を共有しなくなることも顕著です。
- 業務態度以外に大きな問題行動はない: 静かな退職者はあくまで「与えられた範囲では仕事をしている」ため、遅刻常習や職務放棄といった懲戒に値する行為はしません。表面的には規律を守りつつ目立たないため、管理職も見逃しがちです。しかしその陰で内心は仕事への期待や情熱を失っており、周囲から見ると「やる気がない人」として映ります。
これらの兆候に早めに気づくことができれば、本人と対話して原因を探るなど対処の手立てを講じることも可能です。特に急な成績悪化や明らかな態度の変化が見られた場合、静かな退職状態に陥っていないか注意する必要があります。
静かな退職が個人に与える影響
静かな退職は本人にとって一見「楽な働き方」に思えるかもしれません。しかし、そのままの状態でいることはキャリア面や精神面でいくつかのデメリットを伴います。
- 成長機会の損失: 必要最低限の仕事しかしなくなるため、新しいスキル習得やキャリアアップのチャンスを自ら閉ざしてしまいます。積極的に仕事に関わらなければ、経験値が増えず市場価値も高まりません。長期的に見ると、同世代の同僚と比べて専門性や人脈の面で差がつき、キャリアの停滞を招きます。
- 評価・報酬への悪影響: 周囲から「意欲が低い」と見なされることで、人事評価が伸び悩み昇進や昇給の機会を逃しやすくなります。上司によっては重要な仕事を任せなくなるため、さらに活躍の場が減る悪循環にも陥りかねません。その結果、社内で不遇を感じて本当に離職するリスクも高まります。
- 仕事のやりがいや満足感の低下: 自ら意欲を持って取り組まなければ、仕事から得られる達成感や「働きがい」は乏しくなります。毎日を惰性で過ごすうちに自己肯定感も下がり、仕事以外の面でも無気力になる恐れがあります。静かな退職状態が長引くことは「燃え尽き」とは異なる形のメンタル不調(いわゆる退職予備軍の倦怠状態)をも招きかねません。実際、ギャラップ社の研究では熱意を持って働いていない人ほど職場で強いストレスを感じていることが報告されています。
- キャリア上の信用リスク: 静かに退職状態でいると、周囲から「向上心がない人」「貢献意欲が低い人」という印象を持たれてしまいます。これは社内に留まる場合も不利ですし、転職する際にも前職での評価が芳しくなくなる原因になります。本人にその気がなくても、「与えられた以上のことはやらない人」という評判は知らぬ間に広まり、キャリアの足かせとなる可能性があります。
このように、静かな退職を続けることは個人の成長やキャリアにマイナスの影響を及ぼします。ただし、本人がすでに深刻なストレスやバーンアウト状態にある場合は、一時的に仕事のペースを落として心身を守ることも必要です。重要なのは、その状態を長期化させず根本原因に向き合うことです。
静かな退職が組織に与える影響
従業員の静かな退職が増えると、企業や職場全体にも様々な悪影響が及びます。主な影響をまとめます。
- 生産性の低下: 熱意のない社員が増えると組織全体の生産性が落ちるのは避けられません。静かな退職状態の人は必要最低限しか働かないため、緊急時に機動的な対応が求められる場面でも戦力になりにくくなります。その結果、少数の熱意あるメンバーに負荷が集中し、チーム全体のパフォーマンスが下がります。
- 職場のコミュニケーション停滞: 受動的な社員が多い職場では意見交換や議論の活発さが失われ、創造的な対話が減少します。静かな退職者は自分から協力や提案をしなくなるため、新しいアイデアや改善提案が出にくくなり、組織のイノベーションが阻害されます。
- 周囲の負担増とモチベーション低下: 必要最低限しか働かない人がいると、その埋め合わせを他のメンバーが担うことになります。結果として真面目に働く社員ほど仕事量が増え、不公平感や疲労感が蓄積します。頑張っても評価されずサボった者勝ちになる職場だと感じれば、真面目な社員までやる気を失いかねません。こうしてチームワークの悪化や士気の低下といった連鎖的な影響が広がります。
- 職場環境の悪化: 静かな退職者が増えると職場全体が活気を失い、張り詰めた沈滞ムードが漂うようになります。互いに干渉し合わず必要なことだけこなす風土では、社員同士の信頼関係も築きにくくなります。放置すれば組織文化そのものが形骸化し、「ただそこにいるだけ」の社員が多数を占める職場になってしまう恐れもあります。
- 優秀な人材の流出: 静かな退職状態の社員自体も戦力としては問題ですが、それ以上に深刻なのは他の優秀な人材に与える影響です。やる気のない同僚に不満を持ったり職場の将来性に見切りをつけたりして、高い成果を出していた人ほど会社を去ってしまう可能性があります。また、組織内で後進を育てる意欲が低下するため、将来的に中核となる人材の成長機会も失われます。静かな退職が蔓延する職場は長期的に見て組織の競争力を著しく損なうでしょう。
以上のように、静かな退職は組織の健全性・持続的成長に対する大きなリスクとなります。人員が足りているように見えても実質的な戦力低下が起こり、放置すると企業業績にも響きかねません。そのため、経営者や人事担当者にとって早期発見と対策が重要な課題となっています。
従業員側の対処方法:静かな退職に陥ったら
もし自分が「静かな退職」に近い状態だと感じた場合、個人として取れる対処法があります。単に現状に甘んじてモチベーション低下を放置するのではなく、以下のようなアクションを検討してみましょう。
- 現状と気持ちを自己分析する: まず、なぜ自分がやる気を失っているのか原因を掘り下げましょう。仕事量が多すぎて燃え尽きたのか、評価されない不満があるのか、それともやりたいことと業務内容にギャップがあるのか。自分のキャリア目標や価値観を改めて見直し、何にストレスを感じ何があれば意欲が湧くのかを書き出してみます。この自己分析によって、解決すべき課題(例:部署異動したい、裁量が欲しい、ワークライフバランスを改善したい 等)が明確になるはずです。
- 上司や同僚に率直に相談する: 静かに不満を抱えたままでは状況は好転しません。信頼できる上司や人事に、自分の感じている課題を伝えてみましょう。伝え方は「忙しすぎて対応しきれません」「仕事の優先順位を相談したい」等、前向きな改善提案の形にすると相手も受け入れやすくなります。多くの企業は従業員のエンゲージメント向上に関心を持っており、声を上げれば職場環境が改善される可能性は十分あります。遠慮せず建設的にコミュニケーションを図ることが大切です。
- キャリアプランを練り直す: 今の職場で情熱を持てなくなった原因が、自分のやりたいことと合っていないからであれば、改めて将来のキャリアプランを描き直してみましょう。5年後・10年後にどうありたいか、そのために今の仕事で習得できることは何かを考えます。もし「この会社では目標を達成できそうにない」と判断した場合でも、それ自体が貴重な気づきです。現職に留まりつつ必要なスキルを身につける計画を立てたり、転職や社内異動も視野に入れて動き出すなど、主体的にキャリアを切り拓く(キャリア自律)姿勢が自身の成長と満足感につながります。
- モチベーション源を増やす工夫をする: 仕事の中に小さな目標ややりがいを見出す努力も有効です。例えば、「このプロジェクトで○○を学ぶ」「業務フローを改善してみる」など、自分なりのチャレンジ目標を設定してみます。難しければ資格取得の勉強や社外のセミナーに参加するのも刺激になります。ポイントは、受け身ではなく能動的に行動することで停滞感を打破することです。上司に希望を伝えれば新しい仕事を任せてもらえるかもしれませんし、研修制度を利用してスキルアップを図るのも良いでしょう。
- 働き方と私生活のバランスを調整する: 静かな退職に陥る人の中には、単に疲弊して休息が必要なケースもあります。まずはしっかり休暇を取り、睡眠や運動などセルフケアに努めましょう。その上で、仕事量や働き方を見直し、無理のないペース配分を上司と相談します。ワークライフバランスの見直しによって心身が回復すれば、再び仕事に前向きになれる可能性もあります。ただし「楽をしたいから静かな退職のままでいいや」と妥協してしまうと、先述のように自分の成長機会を失ってしまう点には注意が必要です。
- どうにもならない環境なら思い切って行動を: 上司に訴えても改善されない、職場のパワハラや不当な扱いが原因で心が離れた、といった深刻な場合は、黙って耐え続けるのは得策ではありません。そのままでは自分のキャリアにも健康にもマイナスです。信頼できる社外の人に相談したり、転職活動を開始する、場合によっては専門家に相談する(労働相談や法律相談)など、現状打破の行動を起こしましょう。「石の上にも三年」と我慢しても状況が変わらないなら、環境を変えることも視野に入れるべきです。自分の人生とキャリアは自分のものです。決して投げやりにならず、常にベターな道を模索する姿勢が重要です。
以上のように、従業員側では自己理解と主体的な働きかけが鍵となります。静かな退職に陥たままではなく、一歩踏み出して行動することで、現在の職場であれ転職であれ、より充実した働き方に繋げることができるでしょう。
企業・管理職側の対応策
企業としては、静かな退職の兆候を見逃さず組織的に対策を講じることが求められます。従業員のエンゲージメントを高め、離職予備軍を減らすために、以下のような取り組みが有効です。
- 定期的なエンゲージメント調査と対話: 社員の本音を把握するために、エンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)やパルスサーベイを定期的に実施しましょう。匿名アンケートや1on1面談を通じて職場の課題や不満を吸い上げ、早期に問題点を特定します。その際、結果を踏まえて現場で改善策を講じるフィードバックループを作ることが大切です。社員の声に耳を傾け、心理的安全性の高い風通しの良い職場づくりを行うことで、静かな退職を未然に防ぎやすくなります。
- 人事評価制度の見直しと公正な処遇: 「頑張っても報われない」という従業員の諦めを生まないよう、評価・報酬体系を点検します。年功序列や曖昧な評価基準を改め、成果や貢献を正当に評価して昇給・昇格に反映する仕組みにアップデートしましょう。特に静かな退職を防ぐには、不公平感の解消が重要です。誰かに業務が偏っていないか、努力が見過ごされていないかをチェックし、必要なら評価者に対する研修も行います。納得感のある評価と処遇がなされれば、社員は「もっと頑張ろう」と思いやすくなります。
- 適切な業務量とリソース配分: 従業員が燃え尽きてしまえば静かな退職に陥る可能性が高まります。長時間労働の是正や業務負荷の見直しは基本中の基本です。現場の残業状況をモニタリングし、人手不足の部署には増員や応援を検討します。業務の優先順位づけを明確にし、「常にキャパオーバーで余裕がない」状態を解消することが肝要です。負担が適切に分散されれば、社員一人ひとりが無理なく力を発揮でき、モチベーションの維持につながります。
- 柔軟な働き方の導入: リモートワークやフレックスタイム、週休3日制など、可能な範囲で多様な働き方の選択肢を提供することも有効です。社員が自分の生活に合わせて働き方を調整できれば、私生活との両立に悩んで静かな退職に至るケースを減らせます。実際に、静かな退職者の多くは「プライベートの時間を確保できる」点をメリットと感じています。企業側が率先してワークライフバランスを支援すれば、従業員も安心して働き続けられるでしょう。
- キャリアパス・成長機会の充実: 従業員が将来に希望を持てるように、複数のキャリアパスを用意しましょう。マネジメント職だけでなくスペシャリスト職を拡充する、人材育成プログラムや社内公募制度で新しい挑戦の場を作る、といった施策です。社員各自が「なりたい自分像」に向けて成長できる道筋を示すことで、現状に停滞せず意欲を引き出すことができます。やりたい仕事や目標が見つかれば静かな退職状態から抜け出すきっかけになります。逆に言えば、成長機会が乏しくキャリア展望が描けない職場では静かな退職者が増える傾向にあるため、その点の改善は不可欠です。
- 権限移譲と働きがいの創出: 従業員が主体性を発揮できるよう、仕事の進め方にある程度の裁量権を与えることも有効です。細かく管理しすぎず任せることで責任感とやりがいが生まれ、「信頼されている」という意識がエンゲージメント向上につながります。また、仕事の意義や価値を丁寧に伝えることも重要です。自分の役割が組織や社会にどう貢献しているか実感できれば、単なる作業以上の意味を見出しやすくなります。働きがいを感じられる環境づくりは、静かな退職の抑止に直結します。
- 管理職のマネジメント力強化: 静かな退職を防ぐキーパーソンは現場の上司です。管理職が部下一人ひとりに関心を持ち、適切に目標設定・フィードバック・承認(褒める・叱る・感謝する)を行うことで、部下のエンゲージメントは大きく変わります。そのためには、管理職自身への教育・支援も欠かせません。1on1ミーティングの導入やコーチング研修などを通じて、部下の変化に気づきモチベーションを引き出すスキルを磨いてもらいます。上司との信頼関係が醸成されれば、部下は悩みを相談しやすくなり、静かな退職に陥る前に対処できる可能性が高まります。
- 職場環境の整備: オフィスの設備や人間関係など、働く上での衛生要因にも目を配りましょう。例えば空調やデスクなど作業環境の不満、ハラスメントや派閥争いといった人間関係の問題は、社員のやる気を奪います。それらを放置すれば静かな退職者予備軍を増やすだけです。匿名の意見箱や従業員満足度調査を活用して不満点を吸い上げ、可能な限り改善します。「会社が従業員のために環境改善してくれている」と感じられれば、社員の会社への愛着は高まり、進んで貢献しようという意識も芽生えやすくなります。
以上の対策を講じることで、社員のエンゲージメント(仕事への熱意)を高め、静かな退職を予防・解消することが期待できます。ポイントは、単発の施策ではなく継続的な取り組みとして組織文化に根付かせることです。社員が生き生きと働ける職場環境を整えることが、結果的に企業の生産性と競争力向上にもつながるでしょう。
最新の統計や調査結果で見る静かな退職

図:日本における「働きたくない」願望と「静かな退職」実感者の割合(マイナビ調査) – マイナビの「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版」(2023年実施)によれば、20~50代正社員の約5割が「自分は静かな退職をしている」と感じていることが分かりました。また、「できることなら働きたくない」と感じている人も56.9%にのぼっています。このデータから、半数近い日本の社員が現状では仕事に積極的に打ち込めていないと自己認識していることが読み取れます。
さらに、Great Place To Work® Institute Japanが2024年に行った調査では、静かな退職を選択している人の約3割が20~34歳の若手層である一方、残りの約7割は35歳以上となっており、幅広い世代に静かな退職者が存在することが示されました。この調査によると、静かな退職という働き方のメリットとして最も多かった回答は「プライベートの時間を確保できる」(約48%)で、次いで「仕事のプレッシャーが減るから」(約27%)が続いています。一方で、「特にメリットはない」と感じる人も12%ほどおり、静かな退職が必ずしも本人にとって満足度の高い状態ではないことも伺えます。興味深い点として、静かな退職を選んだ人の約70%が入社後にその働き方に至ったとされ、その理由として「仕事より私生活を充実させたいと思うようになった」「努力しても正当に評価されない(給与に反映されない)と感じた」といった要因が挙げられています。これは前述した背景・原因とも合致する結果です。
静かな退職は日本だけでなく世界的にも広がりつつある傾向です。ギャラップ社が2022~2023年にかけて世界160カ国の労働者を調査したところ、世界全体の59%が「仕事に熱意を持っていない」(=静かな退職状態)と判明しました。対して「仕事に熱意あふれる従業員」はわずか23%に留まっています。特に日本は従業員エンゲージメント(熱意度)が世界最低水準で、最新の報告ではたった5%の社員しか仕事に積極的に関与していないとされています。これは米国(30%以上が熱意あり)など他国と比べても極端に低く、裏を返せば日本では実に9割超の人が静かな退職予備軍と言っても過言ではありません。このような状況は以前から「日本の社員は会社へのエンゲージメントが低い」と指摘されてきましたが、コロナ禍以降さらに深刻化したと考えられます。
また、仕事への関与度が低い社員ほど職場でストレスを感じている割合が高いことも報告されています。ギャラップの分析によれば、積極的に仕事に打ち込んでいる人の方がストレスレベルが低く、逆に静かな退職のように不本意ながら働いている状態だとかえってストレスが増す傾向があります。これは皮肉なようですが、充実感なく働くこと自体が心身に負荷を与えている可能性を示唆しています。
以上の統計データからも、静かな退職は決して一部の人だけの問題ではなく、多くの働く人に共通する課題であることが分かります。企業側・個人側双方の対策を講じ、エンゲージメント高く働ける環境を作ることが、日本全体の生産性向上や働き方改革の観点からも急務と言えるでしょう。
参考文献・情報源: 静かな退職に関する各種調査データおよび専門家の解説kokuyo-furniture.co.jprecruit-ms.co.jpkokuyo-furniture.co.jpkokuyo-furniture.co.jpnews.gallup.comnews.gallup.comなど。
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