政策 社会

右翼と左翼の違いとは何か?初心者向け解説

① 右翼と左翼とは何か

政治における右翼(右派)と左翼(左派)とは、人々や政党の思想的な立場を表す言葉です。
一般には伝統や権威を重んじる保守的な思想、は平等や改革を志向する革新的・リベラルな思想を指します。たとえば、左翼は自由平等人権など近代に生まれた理念を社会に広め、実現しようとし、既存の差別や階級制度に批判的で改革(場合によっては革命)を目指します。一方、右翼は歴史的に受け継がれてきた伝統や人間の情緒を重視し、「長年続いてきた秩序は多少の弊害があっても簡単に変えるべきではない」という姿勢をとります。王政や身分制など非民主的な制度であっても、右翼はそれ自体に権威と価値を認め、急進的な変革には否定的です。こうした考えから、右翼(保守)は国内の歴史・文化の維持に重きを置くためナショナリズム(民族主義)に傾きやすく、左翼は国境を越えた普遍的理念を追求するため国際主義の傾向があります(ただし、左派にも独立運動や反植民地主義と結び付く“左翼ナショナリズム”が存在し、一概に右翼専有ではありません)。

なお、日本語では「右翼」と「右派」、「左翼」と「左派」はほぼ同義ですが、「右翼」「左翼」という言葉の方が過激な響きを持ちます。そのため新聞やテレビでは「右翼/左翼」よりも、右側を指す保守、左側を指すリベラルといった表現がよく使われます。

② 右と左の違い(思想・政策)

では、右翼(右派)と左翼(左派)では具体的にどんな点が違うのでしょうか。
その思想信条政策の特徴を比較してみましょう。右翼と左翼は、政治・経済・社会に対する考え方が対照的です。以下に主要な項目で両者を比較します。

観点左翼(左派・リベラル)右翼(右派・保守)
基本的な価値観平等、公正、博愛を重視。社会的弱者の救済を優先。自由、伝統、秩序を重視。競争と自己責任を強調。
経済政策のスタンス大きな政府:高負担でも弱者支援や所得再分配を重視し格差是正。小さな政府:減税・規制緩和で成長促進。競争の結果生じる格差は容認。
社会・文化的姿勢革新的:新しい価値観を受け入れ多様性尊重(例:LGBTQの権利保障、夫婦別姓推進)。保守的:伝統的家族観を重視し現状維持(例:家制度や現行憲法の伝統を守る)。
安全保障・外交平和主義的:軍事力の増強に慎重。国際協調・多国間主義を重視。国家主義的:防衛力強化に積極的。自国の利益・主権を優先しやすい。
支持基盤の傾向労働者・低所得者層との結びつきが強い(労働組合支持など)。企業経営者・富裕層との結びつきが強い(経済団体支持など)。

左翼は上記のように社会的平等や弱者救済を重視するため、富裕層への課税強化や高い社会保障で格差縮小を図ります。
その結果、政府の役割は大きくなり大きな政府となります。一方、伝統的教科書的整理では、右翼は競争原理による成長を重視し、市場の自由に委ねる傾向があります。減税や規制緩和による小さな政府志向が強いのも特徴です。

社会・文化面では左翼が多様性など新しい価値観を受け入れる革新派であるのに対し、右翼は伝統的な家族観や文化を守る保守的立場をとります。
外交・安全保障では左翼は平和主義を掲げ軍事力の行使に慎重なのに対し、右翼は国家防衛を最優先し軍備増強に積極的です。

③ 左右概念の由来と歴史

政治における「右」と「左」という概念はいつ、どのように生まれたのでしょうか。
その由来は18世紀のフランス革命にまで遡るとされています。革命後のフランス憲法制定国民議会(1789年)で、議長席から見て右側に座っていたのが王権や貴族制度の存続を主張する保守派左側に座っていたのが王権廃止や急進的改革を唱える革新派だったことに由来します。以後、議会で保守勢力を「右派(右翼)」、革新勢力を「左派(左翼)」と呼ぶ習慣が定着し、現代まで受け継がれました。

歴史的に見ると、右翼と左翼の対立はしばしば階級(身分)の対立と結びついてきました。
一般に右翼は旧来の支配層・上流階級の利益を擁護し、左翼は被支配層・下層階級の利益を代表する立場でした。右翼(保守)は固定化された特権や権力を防衛し、左翼はそれらを攻撃して利益の平等機会の平等を求めて闘いました。

しかし現代では、政治家個人や政党内でも思想が多様化し、左右の境界は以前ほど単純ではありません。
例えば保守政党内にもリベラルな議員がいたり、一人の政治家が政策によって右寄りと左寄りの考えを併せ持つこともあります。つまり「右翼か左翼か」は相対的な尺度に過ぎず、状況やテーマによって判断が分かれることもあるのです。

④ 現代日本での左右の例

現在の日本の政治において、具体的に右翼・左翼はどのような形で現れているでしょうか。
一般に与党第一党である自由民主党(自民党)は保守色が強く、伝統や国家安全保障を重視する右翼政党とみなされています。主要野党では、立憲民主党がリベラル志向の中道左派日本共産党社会民主党などは明確に左翼政党です。逆に日本維新の会は小さな政府志向で右翼寄りと言えるでしょう。このように与党・野党それぞれに保守・革新の傾向が混在しており、一概に二極へ区分できません。

(※なお、公明党は平和主義・福祉重視の中道路線をとる党で、中道寄りと位置づけられます。)

左右の違いは政治を理解する基本軸ですが、現実には両者だけで語れない課題も多々あります。
自由伝統を重んじる価値観と、平等改革を求める価値観のせめぎ合いが政治を動かしており、最終的にどの路線を取るかは有権者が選択するものなのです。

よくある質問(FAQ)

Q: 右翼と左翼ではどちらが正しい主張ですか?
A: 「右翼(保守)」と「左翼(革新)」のどちらが正しいかは一概に決められません。
それぞれ重視する価値観が異なるだけで、どちらが優れているとは言えません。最終的に何を優先するかは有権者自身の判断に委ねられています。

Q: 「保守」「リベラル」と「右翼」「左翼」は同じ意味ですか?
A: 基本的には同じ意味です。右=保守(伝統や現状維持を重視)、左=リベラル(個人の自由や平等を重視)と考えてよいでしょう。
ただし「右翼」「左翼」は語感が強いため、メディアでは「保守」「リベラル」という言葉がよく使われます。

Q: 日本の主要政党はそれぞれ右翼と左翼のどちらですか?
A: 日本の政党も理念によりおおまかな傾向があります。
例えば、長期政権を担ってきた自民党は保守色が強い右翼寄りの政党で、立憲民主党はリベラル志向の中道左派、共産党社民党は明確な左翼政党です。逆に日本維新の会は小さな政府志向で右翼寄りと言えるでしょう。このように与党・野党問わず保守・革新の色合いを持つ政党が混在しており、単純に二分はできません。

おすすめ入門書 3冊

  1. 『右翼と左翼』(浅羽通明) – フランス革命から現代日本まで、右翼と左翼の思想的定義や歴史的変遷を詳しく解説した定番書。
  2. 『14歳からの政治入門』(池上彰) – 人気ジャーナリスト池上彰氏が中学生にもわかる平易さで政治の仕組みと右・左の基本を説いた入門書。
  3. 『今さら聞けない!政治のキホンが2時間で全部頭に入る』(馬屋原吉博) – 社会科講師が監修し、憲法や選挙制度から保守と革新の違いまでポイントを押さえた「学び直し」に最適な一冊。

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参考文献
  1. 浅羽通明『右翼と左翼の違い、説明できますか?』幻冬舎plus, 2019.
  2. 消費者経済総研「2025 参院選 政党一覧比較」2025‑07‑19 公開.
  3. 政経百科編集部「右翼と左翼と中道」政経百科, 2024.
  4. Encyclopædia Britannica “Left and Right (political spectrum)” 最新版.
  5. Wikipedia 共同執筆者「French Revolution」「中道 (政治)」最終更新 2025‑07‑15.
  6. 朝日新聞「自民党は“保守政党”か」2024‑11‑12 朝刊.
  7. The Japan Times “How Japanese parties map onto the global left‑right axis”, 2023‑04‑18.

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