
日本のメディア環境は大きな転換期を迎えています。新聞や地上波テレビといったオールドメディアと、SNS・動画配信といったニューメディアの勢力図が塗り替えられつつあり、マーケティング戦略や情報発信の手法も再構築が迫られています。本記事では、広告費やメディア接触時間の最新データを踏まえて両者の現状を分析し、信頼性や規制動向も交えながら、2025年以降に最適なメディアミックスを考察します。
- 対象読者:経営層・広報/PR担当・マーケティング担当・編集者
- この記事で得られるもの:旧来メディアと新興メディアの最新動向と課題、規制への対応策、生成AI時代の検索・回答面での可視化戦略
要点(TL;DR)
- 総広告費は過去最高を更新:2024年の日本の総広告費は7兆6,730億円(前年比104.9%)に達し、インターネット広告費が3兆6,517億円(109.6%増〔前年同月比+9.6%相当〕)で全体の47.6%を占めた。動画広告・SNS広告が牽引し、マス4媒体も3年ぶりに微増。
- ネット利用時間がTVを逆転:2024年度の総務省調査(情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書)では、全世代平均で平日のインターネット接触時間181.8分がテレビ154.7分を上回り、休日でもネット183.7分≒テレビ182.7分となった。年代別では、休日の40代で初めて『インターネット>テレビ(リアルタイム)』に逆転、高齢層含め視聴行動がシフト。
- ニュース消費の変化と信頼低下:若年層ほど動画・SNS経由のニュース志向が顕著で、テレビや活字離れが進行。日本の新聞発行部数は20年で半減し約2,600万部に。世界的にもニュースへの信頼度低下とソーシャル依存増が報告される。
- TVer等で放送×デジタル融合:民放公式配信のTVerは2025年1月に月間4,120万UBを記録(前年同月比117%)と急伸。テレビ番組の同時・見逃し配信やライブ配信が定着し、コネクテッドTV(CTV)経由のリーチ拡大で従来放送との融合が進む。
- ステマ規制の本格施行:2023年10月1日施行の景品表示法改正で、広告であることを隠すステルスマーケティングが違法に。SNS投稿等では「#PR」「広告」明示が必須となり、インフルエンサー起用時は契約と表示の徹底が求められる。
- 検索・プラットフォームのAI化:Google検索は2023年以降生成AIによる概要表示(SGE)やAIモードを導入。公式ガイドによれば従来のSEO基本施策がそのまま有効で、AI概要に載せる特別な最適化は不要。一方、良質で独自性あるコンテンツこそAI時代に選ばれる鍵。
- クロスメディア戦略と測定高度化:ブランド認知にはテレビ等のマス広告の即時大量到達が依然有効、若年層関与にはSNS・動画が不可欠。企業は目的別にオールド×ニュー配分を見直しつつ、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)や増分リフト検証で効果を統合計測。2025年にはビデオリサーチがCTV広告視聴データサービスを開始し、TVと配信広告を同一指標で捉える動きも加速。
- SEOとLLMOの両立:検索上位とAI回答への引用双方を狙うには、正式名称や定義の明示、要約や箇条書き、Q&A形式、データ表と出典脚注など再利用しやすい構造をコンテンツに盛り込むことが重要。学術界でもGEO(Generative Engine Optimization)という概念が提唱され、引用されやすい記述(例: 引用符付きの核心フレーズ)が可視性向上に有効との報告がある。
定義とスコープ
結論:オールドメディアとニューメディアの境界は次第に曖昧になっています。それぞれの定義を確認しつつ、CTV(コネクテッドテレビ)やニュースアグリゲーターなど橋渡し領域にも注目する必要があります。以下では本記事で用いる主要なメディア概念を整理します。
- オールドメディア(伝統的メディア): 一般に新聞・雑誌・地上波テレビ・ラジオなど、古くからマスメディアとして確立されてきた媒体を指します。それぞれ発信者が編集管理し、不特定多数へ一斉伝達する点が特徴です。例:全国紙(新聞)、地上波テレビ局の番組放送、AM/FMラジオ番組など。
- ニューメディア(デジタルメディア): インターネットを介して双方向・オンデマンド型に情報流通する新興媒体です。具体的にはSNS(Twitter/X・Instagram等)、動画配信プラットフォーム(YouTube・Netflix等)、CTVアプリ(TVer等)、ポッドキャスト、Eメールニュースレター、さらには検索エンジンや生成AIによる回答サービスまで含めます。ユーザーが参加・発信でき、個別最適化されたコンテンツ提供が可能なのが強みです。
両者の融合も進んでいます。例えばTVerは在京民放テレビ局が連携したテレビ番組の見逃し配信プラットフォームで、地上波放送の延長として新世代にリーチしています。また新聞各社はウェブサイトやニュースアプリを通じて記事を配信し、SNSで拡散されるケースも一般的です。CTV(Connected TV)はインターネットに接続したテレビ受像機を指し、YouTubeやNetflixをテレビ画面で視聴するスタイルは「どこまでがテレビか/ネットか」の境界を曖昧にしています。
用語整理(本記事内の表記ブレ防止のため補足):
- マスコミ四媒体: オールドメディアを代表する「新聞・雑誌・テレビ(地上波+衛星)・ラジオ」の4種。電通の広告費分類などで用いられる。
- インターネット広告媒体費: インターネット広告費のうち、広告制作費やECプラットフォーム内広告費を除いた純粋な媒体出稿費。検索連動型広告・動画広告・ディスプレイ広告・ソーシャル広告など。
- CTV(Connected TV): ネット接続されたテレビ。FireTVなど外付け機器含め、テレビ画面で配信動画を視聴できる環境全般を指す。従来放送とのハイブリッド視聴が可能に。
- SGE(Search Generative Experience): Googleが実験提供中の生成AIを活用した検索概要表示機能。検索結果上部にAIによる回答サマリーと出典リンクが示される。2023年に英語版で開始し、日本語の「AIモード」も2023年秋から展開。
以上の定義を前提に、以下では日本の広告費・媒体利用のマクロ動向から具体的な事例、戦略論まで総合的に見ていきます。
実務ポイント:
- 自社の扱うメディアが「旧来型」「デジタル型」のどちらに主軸を置くか改めて把握し、クロスメディアで補完し合う設計を意識する。
- CTVやニュースアプリなど中間的領域の活用も検討し、オールドとニューの長所を組み合わせてターゲット接点を最大化する。
- 社内で用語の定義を揃え、「テレビ広告」と「動画広告」等の区別を明確にして戦略策定・効果測定を行う。例えばCTV経由のYouTube広告は「テレビ的だがデジタル広告」という位置づけになるため、部署横断の認識共有が必要。
マクロ動向:広告費と接触時間のシフト
結論:日本の広告市場ではインターネット広告費が年々拡大し総広告費の約半分を占めるに至りました。同時にメディア接触時間でもネットがテレビを上回り、特に若年層ほど顕著です。以下に最新データを用いて広告費の媒体別構成と、平日・休日におけるメディア接触動向を整理します。
まず、広告費の構成変化です。電通の発表によれば2024年の総広告費は7.67兆円(前年比+4.9%)となり、4年連続の市場拡大となりました。内訳を見ると、インターネット広告費が3.65兆円(+9.6%)と引き続き二桁近い伸びを示し、総広告費の47.6%に達しています。一方、マスコミ四媒体広告費(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)は2.34兆円(+0.9%)と微増ながら3年ぶりに前年比プラスに転じました。プロモーション(屋外・交通広告や折込チラシ、DM等)も含め、広告費の3つの大分類がいずれも前年超えとなっています。
媒体別広告費(2024年 日本):
媒体カテゴリ | 広告費(億円) | 前年比(%) | 構成比(%) |
---|---|---|---|
総広告費 | 76,730 | 104.9 | 100.0 |
– マスコミ四媒体計 | 23,363 | 100.9 | 30.4 |
新聞 | 3,417 | 97.3 | 4.5 |
雑誌 | 1,179 | 101.4 | 1.5 |
ラジオ | 1,162 | 102.0 | 1.5 |
テレビ(地上波+衛星) | 17,605 | 101.5 | 22.9 |
– インターネット広告費計 | 36,517 | 109.6 | 47.6 |
インターネット広告媒体費 | 29,611 | 110.2 | 38.6 |
├─ 検索連動型広告 | 11,931 | 111.2 | 40.3* |
├─ 動画(ビデオ)広告 | 8,439 | 123.0 | 28.5* |
├─ ディスプレイ広告 | 7,630 推定 | (注) | 25.8* |
└─ ソーシャル広告 | 11,008 | 113.1 | 37.2* |
物販系ECプラットフォーム広告費 | 2,172 | 103.4 | 2.8 |
インターネット広告制作費 | 4,734 | 108.6 | 6.2 |
– プロモーションメディア計 | 16,850 | 101.0 | 22.0 |
屋外広告 | 2,889 | 100.8 | 3.8 |
交通広告 | 1,598 | 108.5 | 2.1 |
折込広告 | 2,442 | 94.8 | 3.2 |
ダイレクトメール(DM) | 2,863 | 92.3 | 3.7 |
フリーペーパー | 1,306 | 96.5 | 1.7 |
POP | 1,483 | 101.5 | 1.9 |
イベント・展示・映像ほか | 4,269 | 111.0 | 5.6 |
出典:電通「2024年 日本の広告費」発表資料より作成(単位:億円。*印はインターネット広告媒体費内の構成比%)
表を見ると、インターネット広告の中でも検索連動型広告が約1.19兆円と最大シェア(40%弱)を占め、動画広告(8,439億円)が前年比+23%と急成長しています。ソーシャルメディア広告も1.1008兆円と初めて1兆円を突破しました。一方、新聞広告費は減少傾向が続き、雑誌・ラジオ・テレビは微増または横ばいです。こうした数字は、広告主が予算配分をオンラインへ継続シフトさせていることを如実に示します。
次に、生活者のメディア接触時間のシフトを見てみましょう。総務省情報通信政策研究所の調査(令和6年度)によれば、全世代平均でインターネット利用時間がテレビ視聴時間を上回る状況が定着しています。平日・休日それぞれの一日あたり平均利用時間を比較すると以下の通りです。
区分 | インターネット利用時間 | テレビ(リアルタイム視聴)利用時間 |
---|---|---|
平日(全世代平均) | 181.8 分 | 154.7 分 |
休日(全世代平均) | 183.7 分 | 182.7 分 |
出典:総務省「2024年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」
平日はネット約3時間02分、テレビ2時間34分という差で、ネットがテレビを約27分上回っています。休日は両者ほぼ同水準(ネット3時間04分、テレビ3時間03分)ですが、前年からの変化を見るとネット増加・テレビ減少の傾向が読み取れます。実際、前年との比較では平日・休日とも「ネット利用が増え、リアルタイムテレビ視聴が減少」しています。
また年代別では、40代の休日でついにネット利用時間がテレビ視聴を初めて逆転し、60代でもテレビ視聴時間が大幅減少するなど、高齢層にも変化が及んでいます。若年層(例えば10代~30代)では以前からネット優位でしたが、中高年にもその波が広がったことで、「全世代でネットが最長メディア」という状況になりました。
要因として、スマートフォンの普及や定額制動画配信サービスの浸透、SNSでの動画視聴増加、TVerなどの広がりが考えられます。テレビ(特に地上波)のリアルタイム視聴は減退傾向にあり、録画視聴や配信で後追いするスタイルが一般化しています。一方、インターネットは娯楽から情報収集までオールマイティなプラットフォームとなりつつあり、若者だけでなくシニア層もスマホでニュースや動画を見るケースが増えています。
以上をまとめると、広告費配分と生活者の時間配分の両面で「デジタルシフト」が明確です。ただしテレビや新聞が完全に消えるわけではなく、総広告費の3割は依然マス4媒体が占めています。また高齢層ほどテレビ志向がまだ強い点や、ネット利用の中身にテレビ系コンテンツが含まれる点(TVer視聴など)にも留意が必要です。次章では、このメディア消費の実像を日本と世界の比較からさらに深堀りします。
実務ポイント:
- 広告予算配分をデータドリブンに見直す:自社のターゲット年代における媒体接触データを踏まえ、テレビや新聞への出稿を続ける意義・役割を再検証。特に若年層向けにはデジタル比率を高める。
- クロスデバイス統合プランニング:テレビCMとデジタル動画広告を一体でプランニングし、重複リーチや増分リーチを考慮する。たとえば、テレビ×YouTube×TVerの同時活用でリーチ最大化と頻度最適化を図る。
- KPIの再設定:旧来はGRP(延べ視聴率)や部数等が指標だったが、現在はインプレッション・ビューアビリティ・サイト訪問誘導率などデジタル指標も含めたKPI体系に移行する。テレビもリアルタイム視聴率だけでなく、タイムシフトや配信視聴を加味した総合視聴指標を活用する(例: Video Researchの統合視聴率サービス)。
コンテンツ消費の実像(日本×グローバル比較)
結論:日本のユーザーは依然としてテレビやポータルサイトからニュースを得る割合が高いものの、若年層ではSNSや動画共有プラットフォームが主要な情報源となっています。世界的にもニュース消費はソーシャル化・モバイル化が進み、全般にニュースへの信頼度低下や有料ニュースへの抵抗が課題です。日本と海外の調査結果を比較し、今後のメディア戦略のヒントを探ります。
日本のニュース消費傾向
オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所のDigital News Report 2025によると、日本のメディア状況は「急激に変化しており、新聞は世帯普及率1超から急落、テレビも視聴者をYouTube等に奪われつつある」と分析されています。実際、日本の新聞発行部数は2004年の5,300万部から2024年には2,600万部へ激減しました。新聞各社はデジタル移行が遅れたため、ポータルサイト(Yahoo!ニュース等)やLINEニュースに読者を握られ、「無料でニュースが読めて当たり前」という文化が定着したとも指摘されています。有料電子版に成功した例は日経電子版くらいで、経済紙の日経はデジタル有料会員数が100万を超え紙部数(130万部)に迫る一方、朝日新聞はデジタル30万で紙の10分の1と伸び悩んでいます。
またテレビも曲がり角です。地上波テレビはまだ高い到達率を持ちますが、Netflixの日本有料会員数が2024年に1,000万超と報じられるなどSVODが浸透し、TVerは月間4,120万ユーザーに上りました。若者ほどテレビ離れが進み、ニュースもSNSや動画から得る傾向があります。総務省の前掲調査でも「情報源として最も重要なメディア」として10~40代はインターネットを挙げ、50代以上はテレビが最多という結果でした。娯楽としては全年代でインターネットがトップ(80.4%)、信頼度では新聞が全世代で最も高い(59.9%)というデータもあります。このように、日本では「信頼は新聞、速報性や手軽さはネット、娯楽はネット、テレビは総合的な高利用だが信頼感は中位」という独特の構図が見られます。
興味深いのは日本のニュース信頼度は近年低下傾向にある点です。2022年時点では「ニュースを大いに信頼する」人の割合が低下し、テレビ局の不祥事(例:大手局でのハラスメント隠蔽騒動)により主要テレビ各局のブランド信頼度スコアが下がったとも報じられています。これはメディア不信がSNS上で拡散される構図とも関連し、近年、日本でも若年層を中心にニュース接触のソーシャル化が進み、政治分野でもSNSの影響力が指摘されています。ネット上の言説と伝統メディア報道とのギャップが露呈した例と言えます。
グローバルの動向・比較
世界全体では、Reuters Instituteの報告によれば「テレビ・印刷・ニュースサイトへの関与が低下し、ソーシャルメディアへの依存が続伸」という傾向が顕著です。特にアメリカでは2023年に初めて「ニュース入手経路トップがテレビからソーシャルメディアへ」逆転し、動画プラットフォームへのシフトが「パブリッシャーのPivot to videoは本物だった」と分析されています。ニュースへの信頼度も世界的に低下しており、48か国平均のニュース信頼度は過去最低水準との指摘があります。政治的分断やフェイクニュース拡散で、多くの国で「ニュースを避ける人」も増えています(いわゆるニュース回避層)。
一方、ポッドキャストやニュースレターなどニッチなチャネルがコアなファン層に支持され、メディア各社は新たな接点を模索しています。特にポッドキャストはグローバルで聴取者が増え、日本でも2024年に月間利用率が約10%に達したとのデータがあります。また若年層(18~24歳)はテキストより動画ニュースを好む傾向が強く、TikTokやInstagramでニュースクリップを見る割合が上昇しています。
有料ニュース購読の壁も依然高く、日本はわずか9%程度しかオンラインニュースに支払い意向がないとの調査結果もあります(欧米でも15~20%程度で頭打ち)。このため、多くのニュースメディアは広告モデルや寄付モデルに頼らざるを得ず、プラットフォーマーとの関係改善(例えばGoogle・Metaからのコンテンツ使用料合意など)が課題となっています。
日本のデジタル普及率データ
最後に、日本のデジタル基盤についてDataReportalの統計を補足します。2025年初頭時点で、日本のインターネットユーザー数は約1億900万人で人口の88.2%に達しました。ソーシャルメディアのユーザーアカウント数は9,700万(人口の78.6%)と推定されます。ソーシャルプラットフォーム別ではLINEが月間利用者約9,700万(人口の78%)で突出し、Twitter(X)・Instagramがそれに次ぐ規模と報じられています。YouTubeも利用率は8割前後で、特に10~20代ではYouTubeが「テレビ以上に見る動画メディア」になっています。
このように、日本はICTインフラが整い国民の大半がデジタル接続されているものの、コンテンツ利用においては従来メディアから新興メディアへの過渡期にあります。各世代・各ジャンルで異なる消費様式が混在する点に留意が必要です。
実務ポイント:
- ターゲット層によるチャネル戦略の差別化:高齢層にはテレビ・新聞を組み込みつつ、若年層にはSNS・動画主体の戦略を立てるなど、世代や関心領域に応じてメディアミックスを調整する。ニュース提供でも、記事+要約動画+SNS図解などフォーマットを複数用意する。
- 信頼性の確保と訴求:メディア不信が広がる中、自社発信においては出典エビデンスの提示や第三者検証の導入で受け手の信頼を得る工夫を。例えば「専門家コメント掲載」「ファクトチェック済みマーク表示」等。
- 新興フォーマットへの参入:ポッドキャストやニュースレター、ショート動画などユーザーの新たな習慣になりつつあるフォーマットを試験運用する。特にコアファン育成やエンゲージメント向上には、深掘りコンテンツを届けるニュースレター、有識者との対談ポッドキャストなどが有効。
事例:橋渡し領域としてのCTV/TVerと放送のデジタル化
結論:TVer(ティーバー)をはじめとするコネクテッドTV上の動画配信サービスは、テレビ放送とインターネットの架け橋として急成長しています。従来の「リアルタイム視聴」中心の放送モデルから、「ユーザー主導のオンデマンド視聴」への転換が進み、広告主にとっても放送×配信の一体プランやCTV向けクリエイティブ開発が重要になっています。ここではTVerの最新動向と、放送業界のデジタル化事例を解説します。
TVer:4000万ユーザー規模の民放公式配信
TVerは日本の民放テレビ5社(日本テレビ・テレビ朝日・TBS・テレビ東京・フジテレビ)が共同出資する公式テレビ番組配信プラットフォームです。地上波で放送されたドラマ・バラエティ・アニメ・報道番組などを放送後1週間無料で見逃し視聴できる他、スポーツなどのライブ配信やオリジナルコンテンツも提供しています。
このTVerの普及は目覚ましく、2025年1月の月間ユーザー数(ユニークブラウザ数)は4,120万に達し過去最高記録を更新しました。前年同月比約117%という伸長率です。背景には、年末年始のスポーツライブ配信(箱根駅伝・高校サッカー等)や新作ドラマ配信の好調があり、ユーザー層もドラマ・バラエティ以外にスポーツ・アニメ視聴者まで広がっているようです。
TVerは当初、見逃し配信中心でしたが、近年はリアルタイム同時配信にも注力しています。キー局のゴールデンタイム番組をTVerで同時ストリーミングする取り組みや、人気番組のスピンオフ配信、地方局コンテンツの全国配信などテレビの枠を超えた視聴機会創出が行われています。ユーザー側から見ると「普段見ない局の番組もTVerでチェックする」動線ができ、テレビ全体のリーチ延伸・若年層開拓に寄与しています。
広告主にとってもTVerは魅力的な場です。テレビCMと同じ動画広告をTVerアプリ内に出稿でき、しかも接触データやクリック計測も可能です。TVerの広告在庫は番組再生前後や途中のCM枠として提供され、テレビCMと同様の15秒・30秒スポットが多く使われます。さらにターゲティング配信(地域・性別・興味カテゴリ等)も一部実現しており、旧来のテレビでは不可能だった細かなオーディエンス絞り込みができる点もメリットです。
放送局のデジタル戦略とCTVの拡大
TVerは放送局主導の成功例ですが、それ以外にも放送のデジタル化は多方面で進んでいます。各キー局は独自の見逃し配信サイトや有料アーカイブ(例:日テレのTVer子サービス「日テレ無料TADA!」やTBSの「TBS FREE」など)を運営し、テレビとネットの融合を模索しています。またNHKもNHKプラスで地上波番組の同時・見逃し配信を開始し、受信料制度との兼ね合いを調整しつつデジタル強化を図っています。
技術的にも、スマートテレビやストリーミング端末(Fire TV Stickなど)の普及で「テレビでネット動画を見る」行動が一般化しました。これがCTV(Connected TV)の広がりであり、総務省調査でもテレビ画面でYouTube等を視聴する層が増えていることが示されています。つまりテレビというデバイスは残りつつ、中身は放送波とIP配信が混在する状態になっています。
こうした環境変化に応じ、広告業界でもCTV対応が進んでいます。2024年にはニールセンがYouTubeのCTV広告視聴測定を日本を含む11か国で展開開始し、テレビCMとの重複やリーチを統合分析できるデータ提供を始めました。また、ビデオリサーチ社は2025年10月から「CTV広告データ」サービスを開始し、自社のテレビ視聴率パネルを活用してTVer・YouTube上の広告接触を可視化する取り組みを発表しています。これは全国約1万世帯の視聴ログから、テレビCMとCTV配信広告の到達率を横断把握できるもので、広告主がクロスメディアキャンペーン効果を一元評価する助けとなります。
要するに、テレビ局も広告調査会社も「テレビ+配信」をセットで扱う時代になってきました。放送コンテンツ自体がデジタル展開するのはもちろん、広告・測定の世界でも統合が進んでいます。
実務ポイント:
- テレビ×配信の統合プラン策定:テレビCM予算を検討する際は、必ずTVerやYouTube、ABEMAなど主要動画プラットフォームでの動画広告出稿もセットで計画する。オーディエンスの重複と補完を考え、総リーチ最大化と周波数コントロールを図る。
- CTV向けクリエイティブ:CTV(テレビ画面)で視聴されることを想定し、高解像度かつ音声リッチな動画広告を用意する。スキップ可能枠では冒頭5秒で訴求点を入れるなどYouTube的最適化もしつつ、15秒・30秒の定型TVフォーマットも併用する。
- 測定とPDCA:ビデオリサーチ等の提供するCTV視聴データ、あるいはプラットフォーム側の指標(完視聴率・クリック率)を活用し、テレビ+配信の効果検証を行う。たとえば「TVer配信でテレビ未接触層に〇万人リーチ追加」「YouTubeとテレビでブランドリフトの差異」などを分析し、次回プランに反映する。
信頼・規制・プラットフォームガバナンス
結論:メディア運用において透明性と信頼性がこれまで以上に重要になっています。特に2023年10月施行のステルスマーケティング規制により、広告であることの明示義務が強化されました。またプラットフォーム側でもフェイクニュース対策やAI検索導入に伴うガイドライン変更が進んでいます。本章では、新規制の要点とGoogle等プラットフォームの最新動向を整理し、実務上の留意点を述べます。
ステルスマーケティング規制の施行
「ステルスマーケティング(ステマ)」とは、広告であるにも関わらずそれと消費者に分からないよう表示する行為を指します。具体例として、企業から報酬を受けたインフルエンサーが広告であることを隠して商品を褒める投稿をするケースや、サクラレビュー・記事広告の非開示などが該当します。こうした行為は消費者を誤認させ公正な意思決定を阻害するため、2023年改正景品表示法で新たに「不当表示」として禁止されました。
- 施行日:2023年10月1日より規制開始(経過措置なし)。以降、この種の表示は違法となります。
- 規制内容:景品表示法の告示で「一般消費者が事業者の表示であることを判別できない表示」が不当表示として指定されました。広告であることを隠した全媒体の宣伝行為が対象です(ネット上の投稿に限らず、テレビ番組や雑誌記事内でも同様)。
- 対象者:あくまで広告主である事業者が処罰対象です。インフルエンサー本人など「依頼を受けた第三者」は直接の規制対象ではありません。ただし事業者と一体となって表示内容を企図すれば共犯的に扱われる可能性はあります。
- 対象外:個人の純粋な感想や、誰の目にも広告と明らかな表現(例:テレビCM枠の広告、明示的なPRマーク付き記事など)は除外されています。
この規制を受け、企業はSNS投稿やタイアップ記事に「#PR」「広告」などの表記を明確につける対応を進めています。またインフルエンサー起用時の契約書に「広告である旨を表示する義務」を盛り込む、ステマに当たらない投稿ガイドラインを共有する、といった措置が必要です。実際、施行後まもなく初の行政処分事例も報告されており、消費者庁は違反行為を積極的に摘発すると表明しています。
戦略論:オールド×ニューの最適ミックス
結論:オールドメディアとニューメディアを対立軸で考えるより、マーケティングファネルの各段階で適材適所に組み合わせる戦略が有効です。マス広告は一度に大衆へリーチでき信頼構築に寄与し、デジタルは精緻なターゲティングとエンゲージメント深化を得意とします。加えて、効果測定やデータ活用を高度化し、クロスメディアのシナジーを科学的に検証するアプローチが重要です。本章では目的別メディア配分の考え方と、組織体制・データ活用のポイントを示します。
目的別メディア配分の考え方
- 認知拡大(Awareness): 新商品発売やブランド認知向上が目的の場合、即時に大量到達できるテレビCMや新聞全面広告などオールドメディアが有効です。例えば全国ネットのテレビ枠で15%のリーチを一気に獲得し、その後デジタル動画広告で頻度を補完する、といったプランが考えられます。テレビ×オンライン動画の同時露出は認知効果が相乗するとされ、統合キャンペーンが望ましいです。屋外広告や交通広告も、都市部で常時視認される環境作りに役立ちます。またプレスリリース配信や記者発表会(PRイベント)で新聞・ネットニュースに取り上げてもらう広報戦略も並行し、マスメディア報道による社会的証明を得ることも有効です。
- 関与・興味喚起(Engagement): ある程度名前は知られたが詳しくは知らない層にリーチし、興味関心を高めたいフェーズでは、ニューメディア中心の施策が適しています。具体的にはSNSキャンペーン(ユーザー参加型のハッシュタグ企画等)やYouTubeチャンネルでの解説動画配信、専門サイトでのタイアップ記事、ポッドキャストでの対談番組提供などです。双方向性を活かしてコメントやリアクションを通じた対話を生み、ブランドに対する理解と好感を醸成します。またオウンドメディアでブログ記事やホワイトペーパーを公開し、検索経由で詳しい情報を探すユーザーに応えるのも効果的です。イベント・展示会(プロモーション領域)で直接体験機会を提供し、その模様をSNS配信することでオールド×ニューを連携させる手もあります。
- コンバージョン誘導(Conversion): 購買や申込みなど具体的行動を促す段階では、デジタル広告の精確なターゲティングとリマーケティングが力を発揮します。検索連動型広告で購入意図の高いユーザーを逃さずキャッチし、ソーシャル広告でサイト訪問者にクーポン訴求を再表示する、といった戦術です。テレビや雑誌も購買喚起に使えますが、測定が難しいため直接CVにつながるクリアな導線(例:テレビCMで「○○で検索」と促し、ウェブ誘導して計測)は工夫が要ります。最近はQRコードをTVや新聞に掲載してオンラインと紐付けるケースも増えました。重要なのはファネル下部ではOne to Oneに近いコミュニケーションほど効果的な点で、メールマーケティングやLINE公式アカウントによるプッシュ通知など、既存接点を活かして背中を押すことが欠かせません。
- 信頼確保(Trust & Loyalty): 既存顧客のロイヤルティ醸成やブランド信頼向上は、企業の継続成長に直結します。ここではマス媒体の信頼感や権威付け効果も引き続き有用です。例えばテレビの長寿番組やビジネス誌で特集されると「一流ブランド」の印象が強まり、株主や取引先への訴求にもなります。同時に、自社発信ではSNSでCEO自ら情報発信する、カスタマーコミュニティを運営するなどニューメディア施策も組み合わせ、ファンとの直接対話を継続します。オールドメディア露出は量より質(一級媒体への露出)を重視し、ニューメディアでは頻度と双方向性で絆を深めるイメージです。
効果測定とデータドリブン戦略
複数チャネルを組み合わせるほど、どの施策がどれだけ貢献したかを捉えるのが難しくなります。そこで活用したいのがマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)や統計的増分テストです。
- MMM: 広告投下量や販促施策と売上実績などの時系列データから、媒体ごとの売上貢献度を回帰分析する手法です。オールドメディア含む全施策を横断で評価でき、長年テレビCMを打ってきた企業などで導入が進んでいます。ただし分析構築に専門知見が必要で、短期的効果検証には向かない(粒度が荒い)という側面もあります。
- 増分リフト測定: デジタル広告では、広告を見た群と見ていない統制群の行動差を比較するリフト検証が一般的です。FacebookやGoogleもブランドリフト調査やコンバージョンリフト実験の機能を提供しています。これをテレビCMや屋外広告にも応用し、地域ごとにオンオフ比較するなど工夫で効果を推定できます。例えば「CM放映エリア vs 非放映エリアで検索ボリュームが何%増えたか」を分析するなどです。
- CTV計測と統合指標: 先述のように視聴データ統合が進み、地上波・配信を合算したリーチ・頻度指標が取れるようになってきました。さらにタッチポイント間の波及(例:テレビCM視聴後にスマホ検索した割合など)も、アドバンスドな分析で見える化が試みられています。Googleや各社は「メディア効果の重複を除いた総合リーチ」や「クロスプラットフォームでのユーザー行動追跡」(Cookieレス時代には難しいテーマですが)を模索中です。
企業実務としては、ファーストパーティデータの活用が鍵です。自社サイトやアプリで蓄積した顧客データを統合し、広告配信やメール施策と連動させるCRMマーケティングを強化しましょう。近年はデータクリーンルームと呼ばれる仕組みで、プライバシーに配慮しつつプラットフォームと自社データを照合し、重複排除や効果分析を行う技術も登場しています。
コンテンツ運用体制の整備
オールド×ニューを横断する戦略には、組織やプロセスの整備も不可欠です。サイロを排した一貫したブランドメッセージ発信、法令遵守や品質管理の徹底など、いくつか留意点を挙げます。
- 編集ガイドライン統一: プレスリリースからSNS投稿まで、トンマナ(Tone & Manner)を揃えるためのガイドを策定します。表記ゆれや用語統一、禁則事項(差別的表現や薬機法NG例など)をまとめ、全担当者が共有することでコンプライアンスと一貫性を両立させます。
- 法務・広報レビュー体制: スピードが求められるSNSでも、不用意な発信は大炎上リスクがあります。リーガルチェックと経営承認をどこまで入れるかはバランスですが、少なくともキャンペーン趣旨や表現のリスク度合いに応じて社内レビューを行うフローを決めておきます。2023年のステマ規制対応も法務と広報/マーケが連携して運用すべきです。
- PDCAとナレッジ共有: オールドメディア施策は効果測定が難しく経験知がものを言う面があります。一方デジタルは即時データが出ます。これらを横断して振り返る定例会議を設け、例えば「テレビCM後のサイトアクセス増をデジタル担当が報告、テレビ担当と知見共有」「新聞掲載の反響をコールセンター問い合わせ件数で計測し共有」など部門間の情報交換を活性化します。これにより組織全体でクロスメディア最適化の精度が上がります。
実務ポイント:
- マーケファネル×媒体の役割表を自社用に作成し、施策選定時に参照する。例:「認知:全国TV・YouTube、興味:Twitter・記事タイアップ、CV:リスティング・店頭POP、信頼:新聞・口コミサイト」等、自社ビジネスに合わせてマッピングしておく。
- 効果測定スキームを予算化:MMM導入やブランドリフト調査実施にはコストが伴うため、マーケ予算の一定割合を検証費用として確保する。結果データを経営層と共有し、次期予算配分の根拠にすると説明しやすい。
- ファーストパーティデータ活用計画:顧客データベースの整備(メールアドレスやCookie ID統合)、プライバシーポリシーの整備、データ分析人材の配置など、中長期で自社データをマーケティング資産に育てるロードマップを描く。第三者Cookie規制が進む中、自社データで広告効果を高められる企業が競争優位に立つため。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「オールドメディア」と「ニューメディア」の違いは何ですか?
A1. オールドメディアは新聞・テレビ・ラジオなど一方向型の伝統的大衆媒体を指し、情報発信源が限定されています。一方、ニューメディアはインターネット上のSNS・動画配信・ウェブメディアなど双方向型で参加型の媒体です。両者の境界は次第に曖昧化しており、例えばTVerはテレビ番組をネット配信する「中間形態」です。基本的には旧来のマス媒体 vs デジタル媒体という理解で良いでしょう(詳細は定義とスコープ参照)。
Q2. 若年層にリーチするにはテレビ広告は無意味ですか?
A2. 決して無意味ではありませんが、補完策が必要です。テレビ単体では若年層の多くをカバーしきれないため、YouTube・Instagram・TikTokなど若年層のいるプラットフォームで動画広告やプロモーションを展開する必要があります。テレビCMで認知喚起しつつ、SNSでハッシュタグキャンペーンを行うなどメディアミックスがおすすめです。また近年は若者もTVerやNetflixでテレビ番組を見るケースがあるため、地上波と配信の両面で露出することが肝要です2。
Q3. テレビCMや新聞広告のKPIはどう設定すればいいですか?
A3. テレビCMは従来GRP(延べ視聴率)が代表KPIでしたが、近年はリーチ×頻度や広告投下後の検索リフトなども重視されます。新聞広告は部数や想定閲読率を用いるケースがありますが、問い合わせ数やクーポン利用と結びつけて測定する工夫が必要です。たとえば新聞広告に専用電話番号やQRコードを載せ、その反応件数をKPIにする方法があります。テレビCMも、CM放映地域のアクセス増・売上増を追跡して貢献度を推計するのが望ましいです(詳細は戦略論:測定高度化参照)。
Q4. CTV(コネクテッドTV)の広告効果はどう測ればいいですか?
A4. CTV広告は基本的にデジタル広告の一種なので、インプレッション数・完視聴率・クリック率などが計測可能です。また接触ユーザーのサイト訪問や購買行動もトラッキングできます。さらに、ビデオリサーチ社の「CTV広告データ」サービスではテレビ視聴率パネルからCTV広告の到達率や重複を推定できます。従来のテレビCMとCTV広告の合算リーチやクロス頻度を分析し、キャンペーン全体の効果を評価することが可能になりつつあります。
Q5. ステルスマーケティング規制で具体的に何をすればいいですか?
A5. まず、自社や関係代理店のすべての宣伝物に「これは広告だ」と分かる表示を付けることが鉄則です。SNS投稿では「#PR」「提供: 〇〇社」等、記事では冒頭やタイトルに【PR】と明記します。またインフルエンサーには事前に説明・同意を取り付けます。過去にステマと疑われる投稿があれば訂正投稿するなど、発信済みコンテンツの洗い出しと是正も必要です。社内教育を行い、「紛らわしい宣伝はしない」マインドを徹底することも大事です。
Q6. 新聞やテレビをまだ使うメリットは何ですか?
A6. 信頼性と一斉到達です。新聞記事やテレビ番組に取り上げられると、ネット広告にはない権威付け効果があります。また高齢層など一部ターゲットには今なおテレビ・新聞が主情報源なので、その層へのリーチには必要です。テレビCMは短時間で数百万人にリーチ可能で、新商品認知拡大などスピード勝負の場面に適します。新聞も経営者層や地方高齢者層には浸透率が高く、紙面広告は保存性(切り抜き・回覧など)もあります。要は目的とターゲットによって、依然オールドメディアは有効な手段となり得ます。
Q7. 生成AI時代にSEOは不要になりますか?
A7. SEOの重要性はむしろ増しています。AI検索やChatGPTの回答も、結局はウェブ上の優良情報に依拠しています。自社サイトが適切にクロール・インデックスされ良質と評価されなければ、AIの回答にも反映されません。さらにAIが引用リンクを表示する場合、トップクラスの信頼サイトしか選ばれません。したがって従来以上にコンテンツ品質を高め上位表示を獲得することが、AI時代の流入確保に直結します。加えて、LLMO的視点でAIに拾われやすい構造(要約や表の活用など)はSEOとも親和性が高いです。要は「ユーザーファーストなSEO」がそのままLLMOにもなるので、SEOは不要どころか戦略の基盤となります。
Q8. GEO(Generative Engine Optimization)とは何ですか?
A8. GEOは生成エンジン最適化のことで、ChatGPT等のAI回答エンジンに自社コンテンツを露出させるための工夫を指します。研究段階の概念ですが、具体例として「引用してほしいキーフレーズは引用符で囲む」「ページ内で明確な定義文を入れる」といった戦術が提案されています。実務では、FAQで回答を完結に書いておくなどAIが引用しやすい書き方を意識するのがGEO的アプローチです。ただしSEOと対立するものではなく、良質な内容を分かりやすく構造化することが結果的にGEOにもつながると言えます。
Q9. マーケティングミックスモデル(MMM)は本当に使えるのでしょうか?
A9. MMMは長期的・マクロな視点でチャネル貢献度を知るには有効な手法です。数年間の広告投下と売上データから統計分析するため、テレビやプロモーションの効果も平均的な数字で捉えられます。その結果をもとに予算配分を調整しROI最大化を図る企業もあります。ただ、モデル構築に専門性が必要で結果解釈にも注意を要します。例えばオンライン広告の短期効果などは埋もれがちです。そのためMMMだけに頼るのではなく、デジタルのA/Bテストやリフト計測と併用して総合判断するのがおすすめです。
Q10. 自社サイトのコンテンツは全部AIで書いていいですか?
A10. 全面的にAI任せは避けるべきです。AI生成文には事実誤認や紋切り型表現が混じりやすく、検索エンジンから低品質と見做されかねません。Googleも「自動生成コンテンツそのものは禁止しないが、品質が低ければ評価しない」としています。AIはあくまで補助ツールと位置づけ、下調べや文案作成に使いつつ、人間が編集・加筆して独自性や正確性を保証することが重要です。特に専門領域では人間専門家のレビューが欠かせません。またAI利用時も自社のトーン&マナーに合わせる等、人の目で整えるプロセスを必ず踏みましょう。
まとめ
オールドメディアとニューメディアのせめぎ合う現在、日本企業が取るべき方策は「両刀使い」で顧客とのあらゆる接点を最適化することです。テレビや新聞は信頼と大量リーチの武器、デジタルは精密照準と双方向エンゲージメントの武器です。それぞれを理解し組み合わせることで、単独では成し得ない効果が生まれます。
最後に、これから90日間で実行すべき次のアクションを3段階に整理します。
- 【0〜30日】現状診断とルール整備: 現行のメディアプラン・コンテンツを棚卸しし、主要指標(テレビ視聴率・サイトPV・SNSエンゲージメント等)の現状値を把握します。同時にステマ表示やコンプラ観点で問題がないか全チャネル点検し、不足するガイドラインや契約書修正があれば対応します。このフェーズでは経営層・関連部署の合意形成も図り、全社でクロスメディア戦略に舵を切る土台を作ります。
- 【31〜60日】クロスメディア施策の試行: 次の四半期キャンペーンにて、テレビ×デジタルの統合施策をパイロット実施します。具体的には「テレビCM + YouTube動画広告 + Twitterキャンペーン」を同期させ、MMMやリフト調査の設計も組み込みます。あわせてコンテンツLLMO対応として主要ランディングページを改修(要約文追加・FAQ拡充など)し、生成AI経由流入を観察します。効果測定のためのデータ取得もこの期間に集めます。
- 【61〜90日】検証と全体最適化計画: パイロット結果データを解析し、どの媒体組み合わせがどう奏功したかを評価します。例えば「テレビとTVerの重複○%、新規リーチ△万人」「SNS経由トラフィックがコンバージョン率◻︎%向上」等。これを踏まえ、翌年度のメディアミックス配分モデルを策定します。同時に社内組織体制も見直し、必要なら部署再編や専門人材の採用計画を立てます。また、この段階でナレッジをドキュメント化し、成功事例・失敗教訓を社内共有して次サイクルに備えます。
刻々と変化するメディア環境に対応するには、データに裏付けられた意思決定が不可欠です。闇雲に新しい流行に飛びつくのでなく、かといって古い手法に固執もせず、エビデンスをもとに戦略を柔軟に修正しましょう。「まずユーザー本位で役立つ情報を届ける」という原則さえ守れば、どんな媒体でも成果はついてきます。オールドとニューの“いいとこ取り”で統合的なマーケティングを実践し、そしてPDCAを怠らなければ、2025年以降の激動期も必ずや乗り越えられるはずです。
参考文献
- 電通『2024年 日本の広告費』発表|電通|2025-02-27 – 電通による公式推定。総広告費7兆6,730億円・インターネット広告費3兆6,517億円等を公表。rtbsquare.workrtbsquare.work
- 総務省情報通信政策研究所「2024年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」概要|総務省|2025-06-27公表 – 全国13歳~のメディア利用調査。全世代平均で平日ネット181.8分・テレビ154.7分とネットが上回るgamebusiness.jp。全年代でインターネット利用時間が最長との結果gamebusiness.jp。
- Reuters Institute Digital News Report 2025(日本篇・総論)|Reuters Institute|2025-06 – 世界46か国のニュース消費調査。日本では新聞部数の半減や若者のSNS志向が指摘されるodg.itodg.it。世界的に伝統的ニュース接触減・信頼低下・ソーシャル依存増の傾向reutersinstitute.politics.ox.ac.ukatc.gr。
- TVer「2025年1月の月間ユーザー数 過去最高の4,120万UBを記録」プレスリリース|TVer株式会社|2025-02-10 – 民放公式配信TVerの利用動向。2025年1月に月間4,120万ユニークブラウザを達成(前年同月比117%)tver.co.jp。スポーツライブや新ドラマ配信が寄与tver.co.jp。 ↩
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」|消費者庁|2023-10-01施行 – ステルスマーケティングを不当表示指定した告示。caa.go.jp広告であることを隠す行為全般が違法となり、広告主が規制対象caa.go.jp。インフルエンサー投稿等でPR表記が必須。
- Google 検索セントラル「AI 機能とウェブサイト」|Google Developers|2023-09 – Google公式ドキュメント。AIによる検索概要(SGE)でもSEO基本方針は同じと明示developers.google.com。「AIに表示される特別な最適化は不要、従来の技術要件と有用性が重要」developers.google.comdevelopers.google.comと記載。
- ビデオリサーチ「『CTV広告データ』提供開始」プレスリリース|ビデオリサーチ|2025-09-25 – 業界初のCTV広告視聴測定サービス発表。全国テレビ視聴率パネルを活用し、TVerやYouTube等CTV上の広告接触を把握可能videor.co.jpvideor.co.jp。テレビCMとCTV広告を横断比較・合算リーチ算出できるvideor.co.jpvideor.co.jp。
- Aggarwal, Pranjal et al. “GEO: Generative Engine Optimization” (arXiv preprint)|Princeton Universityほか|2023-11-16 – 生成AI検索での可視性向上に関する初期研究。GEO手法で最大40%表示増との主張sandboxseo.com。引用符付き文追加が有効、キーワード詰め込みは逆効果と報告sandboxseo.com。
- DataReportal「Digital 2025: Japan」|We Are Social / Meltwater|2025-01 – 日本のデジタル統計レポート。2025年初頭インターネットユーザー数1億900万人(人口の88.2%)、ソーシャルメディア利用者9,700万(78.6%)datareportal.com。LINE利用率78%で約97百万MAUと最も高いとされる。
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