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技能実習制度は2027年に廃止へ──新制度「育成就労制度」で何が変わるのか

日本の外国人技能実習制度が2027年までに廃止され、新たに「育成就労制度・在留資格『育成就労』」が導入されます。長年問題視されてきた技能実習制度の低賃金や人権侵害といった課題は、この新制度でどこまで改善されるのでしょうか。本記事では、技能実習制度の目的と実態、新制度創設の背景、育成就労制度の仕組みと特徴、そして期待される効果と残る懸念点を総合的に解説します。

外国人技能実習制度(以下、技能実習制度)が2027年4月1日までに廃止され、それに代わる新しい外国人受入制度「育成就労制度」が創設されることになりました。技能実習制度は1993年に始まって以来、多くの外国人労働者を受け入れてきましたが、低賃金労働や人権侵害の温床であるとの批判が国内外から寄せられてきました。新制度への移行は、こうした問題を解決し、日本社会の人手不足に対応するための大改革です。しかし、「制度が変われば本当に問題は解決するのか?」という不安を抱く方も多いでしょう。本記事では、いわゆる「育成技能制度」と呼ばれることもあるが、法律上の正式名称は「育成就労制度」である新制度について、制度の背景と狙い、技能実習制度の問題点、新制度で改善される点・残る課題などを分かりやすく解説します。

技能実習制度とは何だったのか

技能実習制度は本来「国際貢献」を目的に1993年に創設された制度です。 日本で培われた技能や知識を開発途上国へ移転し、その国の経済発展を担う人材育成に寄与するという名目で始まりました。法律上は「技能移転による国際協力」が目的とされ、「技能実習は労働力の需給調整の手段として行ってはならない」とも明記されています。つまり、建前上は日本で働きながら技術を学んでもらい、帰国後に母国で活躍してもらうための人材育成制度でした。

しかし、制度創設の背景には、日本国内の人手不足への対応策という側面もありました。1990年代当時、日本は高度経済成長を経て労働力不足が深刻化しており、「研修生」の名目で外国人労働力を受け入れる仕組みが模索されていました。技能実習制度は、その延長線上で「研修・技能実習」という形を取りつつ、実質的には単純労働分野で外国人を受け入れる制度として機能してきたのです。

技能実習制度の仕組みと在留資格

技能実習制度では、外国人は雇用契約を結んで最長5年間働きながら技能を習得します。 初期には在留期間3年でしたが、2017年施行の技能実習法により優良な受入先では最長5年まで延長可能となりました。在留資格は「技能実習1号(1年)」「技能実習2号(2年)」「技能実習3号(2年)」に区分されており、段階的に技能レベルを高める建前です。

受入れ形態には企業単独型団体監理型の2種類があります。企業単独型は、日本企業が自社海外拠点や取引先の従業員を直接受け入れる方式ですが、全体の約98%は事業協同組合等が間に入る「団体監理型」で行われています。団体監理型では、非営利の監理団体(協同組合や商工会など)が送り出し国の機関と連携して人材募集・送り出しを行い、傘下の企業(実習実施者)で受入れる形となります。実習生は来日後に日本語や法的保護に関する講習を受けてから企業に配置され、送り出し機関・監理団体・実習実施者が連携して技能習得を支援する仕組みです。

技能実習生は建設業、製造業、農業、介護など幅広い職種で受け入れられており、2023年末時点で在留する技能実習生は約40万人と過去最多に達しています。このように技能実習制度は、日本の人手不足産業を支える存在となってきましたが、その一方で制度の趣旨と実態のギャップが大きく、次章で述べるような様々な問題を抱えてきました。

技能実習制度の主な問題点

技能実習制度は「国際貢献」という理念とは裏腹に、労働現場での深刻な人権・労働問題が頻発してきました。 典型的な問題として指摘されるのが、低賃金・長時間労働未払い残業です。実習生は最低賃金ギリギリかそれ以下の報酬で長時間働かされるケースが後を絶ちません。厚生労働省が発表した2023年の監督指導結果によれば、実習生を受け入れる事業場の約73%で労働基準関係法令違反が認められたとされています。特に多い違反事項は「機械の安全基準不備」「割増賃金(残業代)の未払い」「健康診断結果について医師の意見聴取をせず放置」「法定外の長時間労働」などで、重大・悪質な違反により送検されたケースも年間20~30件に上ります。低賃金で長時間働かせながら安全管理も怠る企業が少なくない現状が浮き彫りになっています。

労働災害や死亡事故の多発も深刻な問題です。 若い実習生が過酷な労働環境で命を落とすケースも後を絶ちません。法務省のまとめでは、2010年から2019年の10年間で260人もの技能実習生が死亡したと報告されています。死因として多いのは脳・心臓疾患などの病死ですが、業務中の事故や過労死、自殺に至った例も含まれています。20代・30代の働き盛りの若者が将来を断たれる悲劇に、国内の人権団体や労働団体からは「現代の奴隷労働だ」という厳しい非難の声が上がっています。

実習生の人権をめぐる問題も制度の構造的欠陥として指摘されてきました。 例えば、一部の実習先ではパスポートや在留カードを取り上げる、給与から高額な天引きをする、寮からの外出や転職を事実上禁止するといった行為が報告されています。実習生が来日前にブローカーに多額の借金を負わされるケースもあり、その返済のために過酷な条件を我慢せざるを得ないという心理的拘束につながっていました。また、技能実習制度では原則転職(転籍)が認められず受入企業に縛られるため、パワーハラスメントや暴力を受けても逃げ場がない状況が生まれやすかったのです。「より良い待遇を求めて別の会社で働きたい」という希望すら叶えられない閉鎖的な環境が、人権侵害の温床となっていたと指摘されています。

こうした抑圧的な状況への出口戦略として増加してきたのが「失踪」問題です。耐え難い労働や低賃金から逃れるため、在留期限内に実習先から逃げ出し不法就労に移行する実習生が後を絶ちません。法務省の統計によれば、2023年に失踪した技能実習生は9,753人(前年比8.3%増)と過去最多を記録しました。失踪者数は制度開始以来累計で数万人規模に達し、技能実習生の約2~3%が途中離脱している計算になります。失踪は本人にとっても不法滞在者となるリスクを伴いますが、それでも逃げざるを得ないほど現行制度の下で追い詰められている実態がうかがえます。

制度の目的と実態の乖離も構造的問題として見過ごせません。表向きは「技能習得→帰国・母国発展」という建前ですが、実際には受入企業側の即戦力労働力として働き続けるケースがほとんどです。送り出し国への技術移転や国際貢献という理想は、現場では二の次になっていました。日本弁護士連合会や人権団体からは、「技能実習制度は名ばかりで、本質は安価な外国人労働力を使い捨てにする仕組みだ」との批判が繰り返し提起されてきました。実際、日弁連は早くも2013年に「外国人技能実習制度の早急な廃止を求める意見書」を政府に提出し、2022年にも「技能実習制度を直ちに廃止し特定技能制度へ一本化すべき」との意見書を公表しています。国際的にも米国務省の人身取引報告書等で日本の技能実習制度は強制労働の懸念があると指摘され、ILO(国際労働機関)や各国メディアからも度重なる批判を受けていました。こうした内外の声が積み重なり、ついに政府も重い腰を上げて制度の抜本見直しに着手したのです。

制度見直しの経緯と育成就労制度創設の狙い

政府は2022年末から有識者会議を設置し、技能実習制度の抜本的見直しと新制度創設の検討を進めました。 「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は2022年12月に第1回が開催され、約1年間にわたり官民の専門家らによる議論が行われました。背景には、前章で述べた深刻な制度不備に加え、少子高齢化による人手不足が一層進行する中で「実習」と称して労働力を確保する現行スキームには限界があるとの認識が広がったことがあります。また、2019年に創設された特定技能制度との二本立てが分かりにくく、一貫した外国人労働受入れ戦略が必要だとの問題意識もありました。技能実習から特定技能1号への移行は制度上可能でしたが、両制度に目的や要件の差異が多く、外国人本人や企業にとっても複雑でした。このため「実習」と「就労」二つの制度を統合的に再設計し、将来の在留資格キャリアパスを明確化する狙いがあったのです。

2023年5月に有識者会議は中間報告書を公表し、その中で「技能実習制度の廃止」を明確に打ち出しました。さらに同年11月には最終報告書が取りまとめられ、表現こそ「技能実習制度の発展的解消」とされましたが、事実上現在の技能実習制度を終了させ、新たな制度へ移行することが提言されました。最終報告書の柱は以下のような内容でした。

  • 技能実習制度の発展的解消:現行制度を速やかに終了させ、人材育成と人材確保を目的とする新しい在留資格制度へ移行すること。
  • 新制度(育成就労制度)の創設:特定技能1号水準の技能を持つ人材を育成しつつ、その分野の労働力確保につなげる制度とすること。制度目的に「人材確保」を明記し、建前と実態の齟齬を是正する。
  • 特定技能制度との連携:新制度で育成された人材が円滑に特定技能1号へ移行できる仕組みを整備し、将来的には特定技能2号(長期就労・家族帯同可の在留資格)へのステップアップも視野に入れること。
  • 転籍(職場変更)要件の緩和:一定の条件の下で本人の希望による受入先変更を認めること(後述)。
  • 監理団体・送り出し機関の適正化:新制度では監理団体に代わる「監理支援機関」制度を導入し、外部監査の義務付け等で不正を防止。送り出し国とは二国間取決め(MOC)を結び、ブローカー排除や手数料の上限設定などで本人負担の軽減を図ること。
  • 新たな支援機関の設置:技能実習生を保護してきたOTIT(外国人技能実習機構)に代えて、「外国人育成就労機構」を新設する。新機構は転籍支援や特定技能1号外国人への相談支援など、新制度・特定技能制度双方の運用に関わる役割を担う。

こうした提言を受け、政府は2024年の通常国会に入管法等の改正案を提出しました。改正出入国管理及び難民認定法と、新たな「育成就労法」(正式名称:「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」)が2024年6月に成立・公布され、新制度導入が正式に決定しました。公布日から起算して3年以内(遅くとも2027年6月まで)の施行と定められており、政府は2027年4月1日を施行日とする方向で準備を進めています。

単なる名称変更ではなく制度設計自体を変える必要があった理由は、前述のように現行制度の根本的な矛盾を解消するためです。技能実習という看板の下で実質的に労働力として働かせている現状では、建前との乖離が大きく不正の温床になります。そこで初めから「育成就労」という就労目的を正面に掲げ、適切なルールの下で受け入れることで、制度の透明性と持続可能性を高めようというわけです。また、新制度では外国人本人のキャリア形成や権利保護にも配慮した設計とし、日本で一定期間働いた後も更に長期就労や定住につなげられる道を開くことが志向されています。政府はこの制度再編によって、「外国人材の受入れと共生」を推進し、日本の労働市場の実情に即した健全な仕組みに転換したい考えです。

育成就労制度の仕組みと特徴

育成就労制度は、就労を通じた人材育成と人材確保の両立を目的とする新しい在留資格制度です。 改正入管法および育成就労法に基づき創設され、技能実習制度を発展的に解消した上で2027年4月に施行されます。在留資格の名称は「育成就労」で、対象分野は「育成就労産業分野」と呼ばれます。この分野は現行の特定技能制度の受入れ14分野のうち、実務を通じて技能習得させることが適当な業種が指定される見込みです。具体的には、介護・ビル清掃・農業・漁業・食品製造・外食・宿泊・建設・造船・自動車整備・産業機械製造・電気電子・航空など、人手不足が深刻で技能実習生を多く受け入れてきた業種が中心となるでしょう。

基本的な在留条件と期間

育成就労の在留期間は原則3年間と定められています。3年間の就労を通じて特定技能1号相当の技能・経験を身につけることが制度の目標です。なお、3年以内で設定する具体的な期間(例えば2年など)は各分野の業務内容に応じて省令で定められますが、最大でも3年が上限となります。例外として、所定の試験に不合格となった場合などには最大1年の在留延長が認められる規定もあります。これは、育成期間内に技能検定や日本語試験に合格できなかった場合に再挑戦の機会を与えるための救済措置です。

育成就労外国人として入国するためには、まず受入企業等が「育成就労計画」を作成し、それが認定される必要があります。育成就労計画には、(1)育成期間(3年以内)、(2)従事させる業務の内容、(3)達成すべき技能水準や日本語能力の目標、(4)受入れ企業側の指導・サポート体制、(5)外国人が送り出し機関に支払った手数料額などを記載し、それらが定められた基準に適合していなければなりません。認定は新設の外国人育成就労機構が行い、適正な計画のみが受入れを許可されます。計画段階で不当に低い賃金設定や過剰な費用負担がないかチェックすることで、問題のある受入れを未然に防ぐ狙いがあります。

転籍(受入先変更)の条件

育成就労制度では、本人の希望による転籍(受入企業の変更)が一定の条件下で認められます。 技能実習制度では転籍は原則禁止(受入先の倒産・廃業等やむを得ない場合のみ許可)でしたが、育成就労制度ではやむを得ない場合に加えて「一定期間働いた後、本人の意向での転籍」が可能となります。

具体的な条件は分野によって異なりますが、最低でも1年間、場合によっては2年間は当初の受入企業で勤務することが求められます。政府の基本方針案では、例えば建設業や外食業など7分野では最初の受入先で2年勤務しなければ転籍できないとし、それ以外の10分野は1年経過で転籍可能とする方向が示されています。このように転籍の「待機期間」を業種ごとに設定するのは、地方の中小企業などから「自由に移られては人手が流出する」との懸念の声があったためです。政府内でも議論がありましたが、当面は分野に応じて1~2年の転籍制限期間を設けることで調整されました。いずれにせよ、一定期間が過ぎれば本人の意思でより良い条件の職場へ移る道が開かれる点は、技能実習制度と比べ画期的な改善と言えます。

ただし、転籍にはいくつかの前提条件があります。まず、転籍先の業種(業務区分)が現在と同一であることが必要です。例えば農業分野で働く育成就労外国人が、全く異なる分野(例えば介護)に移ることは認められません。そして、一定の技能水準と日本語能力を身につけていることも条件とされています。有識者会議の報告では、「就労開始後1年超が経過し、技能試験と日本語試験に合格していること」を本人意向による転籍の要件とするよう提言されました。具体的には、「技能検定基礎級」(各分野で実施される技能試験の初級)と日本語能力試験N4相当(A2レベル)以上に合格していることが求められます。これは、最低限の技能とコミュニケーション力を証明することで初めて転籍が権利として認められるという設計です。

転籍を希望する場合、現在の受入れ先での育成就労計画を途中で終了し、転籍先企業で新たな育成就労計画を認定し直す必要があります。この際、転籍先の企業が適正な受入れ態勢を備えていることも審査され、問題のある企業への移籍は認められません。転籍時のマッチング支援については、監理支援機関のほか外国人育成就労機構やハローワークが職業紹介を行うことになります。一方で、民間の有料職業紹介事業者(いわゆる人材ブローカー)は関与できない仕組みとされました。これにより、転籍が悪質ブローカーの利潤の場とならないようにし、公正な手続きで行われることを担保しています。

日本語能力要件と技能評価

育成就労制度では、日本語能力の要件が新たに導入されます。 技能実習制度では介護職種を除き日本語要件はありませんでしたが、育成就労では開始時および在留中の日本語習得が重視されます。

まず、就労開始時までに日本語能力A1相当以上(例:日本語能力試験N5レベル)の試験に合格、またはそれに相当する日本語講習を受講していることが求められます。A1とはごく基本的な日本語コミュニケーションレベルですが、最低限の言語力を持って入国してもらうことで職場での意思疎通円滑化を図る狙いがあります。

その上で、就労開始後1年経過時までに、先述の技能検定基礎級等の技能試験と、日本語試験(A2相当以上)に合格することが本人意向の転籍条件とされています。A2(日本語能力試験N4程度)は日常的な簡単な会話ができる水準で、現行の特定技能1号の要件(原則N4以上)とも一致します。つまり1年間の就労期間内で、日本語力を少なくともN4レベルまで高めることを新制度は期待していると言えます。受入れ企業や監理支援機関はこの目標達成のため、勤務時間内外での日本語研修機会の提供などサポートが求められるでしょう。

育成期間を終えた後に特定技能1号へ移行(在留資格の変更)する際には、各分野の特定技能評価試験または技能検定3級相当の試験に合格し、かつ日本語能力がA2相当以上であることが必要になります。技能実習制度では同一職種であれば技能試験免除で特定技能に移行可能でしたが、新制度では試験合格が必要とされます。これは、新制度出身者と直接海外から来る特定技能試験合格者との公平性を図る意味もあります。もっとも、新制度の3年間で計画的に日本語学習と技能試験対策を行う前提ですので、適切に運用されれば移行要件を満たすハードルは決して高すぎるものではないでしょう。

以上のように「働きながら学ぶ」ことを重視している点が育成就労制度の特徴です。日本語力向上は職場での安全確保や地域社会への適応にも資するため、制度として言語習得を組み込んだ意義は大きいでしょう。

関係主体の役割と送り出し機関対策

育成就労制度では、技能実習制度から続く監理団体・送り出し機関の役割見直しが図られます。

まず、日本側の受入れ支援機関として「監理支援機関」が創設されます。これは従来の監理団体に相当するものですが、許可要件が強化されています。具体的には、十分な職員体制や財政基盤を持つことに加え、外部監査人を設置することが許可の条件となりました。さらに、監理支援機関の役職員のうち受入れ企業と密接な関係を有する者(例えば親族や利害関係者)をその企業担当にさせてはならないとも規定されています。これは監理団体と受入れ企業が結託して不正を行うのを防ぐための措置です。また、監理支援機関には「監理支援責任者」の選任も義務付けられ、内部統制の強化が求められます。これらにより、新制度下では監理団体の質の底上げと不正抑止が期待されます。

一方、外国人育成就労機構(仮称)は、技能実習機構(OTIT)に代わる認可法人として設立されます。この機構は従来の監督指導や相談窓口業務に加えて、育成就労者の転籍支援特定技能1号外国人への相談援助といった新たな役割を担います。転籍希望者への職業紹介・情報提供、公的支援の調整などを行うことで、受入れ現場と外国人本人をサポートします。また、行政(入管当局や労働局)との連携拠点として機能し、制度運用状況のモニタリングも強化される見込みです。

送り出し国側については、技能実習同様に各国政府との二国間取決め(MOC:Memorandum of Cooperation)を結ぶ方針です。送り出し機関の認定制や手数料の上限制などを協力覚書に盛り込み、悪質業者を排除するとともに、派遣前教育の質の確保やトラブル時の政府間連携を図ります。特に問題視されていた「送り出し時の高額手数料」については、外国人が支払った手数料額を育成就労計画の中で申告させ、それが不当に高額でないことを認定要件とする仕組みが導入される予定です。例えば借金して渡航するようなケースを減らすため、日本円にして数十万円程度の上限を設け、それを超えるような場合は計画不認定や送り出し機関への指導を行うなどが考えられています。送り出し国政府との協力の下、ブローカーによる搾取の芽を摘むことが新制度の重要課題です。

以上が育成就労制度の概略です。次章では、これら新制度の要素が技能実習制度と比べて何がどう変わるのか、一覧表で整理してみましょう。

技能実習制度と育成就労制度の比較──何がどう変わるのか

技能実習制度と育成就労制度の主な相違点をまとめると以下の通りです。

項目技能実習制度育成就労制度
目的人材育成を通じた国際貢献(技能移転)
※実態として人手不足対応
人材育成と人材確保の両立
在留資格「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」「育成就労」(資格区分の一本化)
在留期間1号:最長1年
2号:最長2年
3号:最長2年(合計5年)
原則3年以内(分野別に設定、最大3年)
※不合格時は+最大1年延長可
転籍(職場変更)原則不可(倒産等やむを得ない場合のみ例外)一定期間後に本人希望で可能(同業種内、1~2年経過+技能・語学要件)
受入前の職歴要件あり(関連分野での職歴や研修を原則要求)なし(職歴不問、より幅広い人材受入れ)
帰国後の就職支援あり(原雇用先への復職斡旋等を送り出し機関に求める)なし(帰国後の義務規定は設けず)
日本語能力要件原則なし※(介護職種のみN4相当必要)あり(入国時A1相当、在留中にA2相当取得目標)
特定技能1号への移行同一職種なら技能試験免除、N4相当の日本語試験合格で移行可試験合格が必要(技能検定3級または評価試験合格+日本語A2)
受入れ監理体制監理団体(非営利)による監理
※許可制だが不正事例も多い
監理支援機関(外部監査人設置を義務化、密接利害者の関与禁止)
外国人育成就労機構(新設、転籍支援・相談機能を強化)
送り出し機関各国の認定送出機関(MOC締結国)
※高額手数料や不正が問題
各国の認定送出機関(MOC締結)
手数料上限制等の導入

※表中の「A1」「A2」はそれぞれ欧州言語共通参照枠(CEFR)での日本語能力レベル(A1は入門、A2は初級程度)。日本語能力試験ではA1≒N5、A2≒N4相当。

この比較から分かるように、新制度では公式に「人材確保」を目的に掲げ、転籍や日本語要件など人権・キャリア面の配慮が強化されている点が大きな違いです。一方で、日本に中長期定着するための仕組み(家族帯同の可否など)や、現場の運用に委ねられる部分も残されています。次章では、育成就労制度によって期待される改善点をさらに詳しく見てみましょう。

育成就労制度で期待される改善点

育成就労制度には、技能実習制度で問題となっていた点を是正し得るいくつかの重要な改善が盛り込まれています。

まず第一に、制度目的と実態の整合性が図られた点は大きな意義です。技能実習制度では建前と現実の乖離が制度的不正を助長していましたが、新制度では人材育成と人材確保を公式に目的として掲げることで、受入れの意義を正直に位置付け直しました。これにより、「国際貢献」と「労働力確保」の二律背反に悩むことなく、現実に即した政策運用が期待できます。例えば、特定技能制度との連携によって育成→定着というキャリアパスが明示されたことで、外国人本人も将来の展望を描きやすくなりますし、受入れ企業も長期的な戦力として育成に取り組みやすくなるでしょう。

第二に、本人の意思による転籍(職場変更)が可能になったことは人権・労働環境改善の観点から画期的です。これまで実習生は酷い待遇でも逃げ場がなく失踪するしかない状況でしたが、新制度では適切な手続きを踏めば合法的に転職できる道が開かれます。転籍条件として一定期間の勤務や試験合格が課されますが、それでも「全く転籍不可」から「条件付きで転籍可」へ転じた意義は大きいです。転籍権が担保されることで、受入れ企業側にも劣悪な環境では人材が定着しないというインセンティブが働き、賃金や労働条件の改善に努める動機づけになると期待されます。「転籍されては困る」という声もありますが、それは裏を返せば魅力ある職場づくりを怠っていることの表明とも言えます。新制度は企業間の健全な人材獲得競争を促すことで、全体として待遇底上げにつなげる狙いがあるのです。

第三に、日本語能力要件の導入はコミュニケーション改善と安全確保に寄与すると考えられます。一定の日本語力がある人材を受け入れ、かつ在留中にも継続して日本語学習を支援することで、現場での指示理解ミスや孤立を減らせます。特に労働災害防止の観点から、安全教育やマニュアルが言葉の壁で伝わらない問題が指摘されていましたが、日本語A2レベルの習得を目標とする新制度では言葉の面での相互理解が深まり、危険回避能力も向上するでしょう。また、日本語ができれば地域社会との交流や生活上の自立もしやすくなり、共生社会づくりにもプラスです。企業にとっては日本語研修の負担が増えますが、それを含めた育成コストと考え、将来的に戦力となる人材への投資と捉えるべきでしょう。

第四に、送り出し機関・仲介者に関する改善策も期待されています。新制度では入国前の手数料を厳格にチェックし、高額な借金を背負わせない仕組みを入れました。これにより、来日時から債務に縛られて弱い立場に置かれるケースの抑止が見込まれます。また、監理支援機関や外国人育成就労機構による転籍時の公的支援を行うことで、怪しげなブローカーや不法な圧力介入を排除し、透明性の高い人材移動が可能になります。外部監査人の導入や利害関係者の排除といった監理団体改革も、不正斡旋やピンハネの構造を断ち切る効果が期待できます。制度全体で「借金漬け+逃げ場なし」だった構図を改め、必要な支援は公的機関が担い、搾取的な仲介にはメスを入れる枠組みが整いつつあるのです。

最後に、キャリアパスの明確化も見逃せません。育成就労(最長3~4年)→特定技能1号(最長5年)→特定技能2号(期限のない就労資格)という道筋が示されたことで、本人が長期的なライフプランを立てやすくなりました。技能実習生の頃は「3年経てば帰国」という前提で生活基盤を築きにくく、日本に馴染みづらい面がありました。しかし、新制度から特定技能2号まで進めば通算8年以上の就労や家族帯同、さらには永住権取得も現実味を帯びてきます。本人にとっては「日本でキャリアを積み、将来は家族と暮らし安定した生活を送る」ことも射程に入り、日本社会にとっても熟練した外国人が定着して労働力となるメリットがあります。制度間の垣根を低くしシームレスにつなぐ今回の改革は、「一時的な労働力」ではなく「将来的な定住人材」として見据えた受入れへと舵を切ったとも評価できるでしょう。

以上のように、育成就労制度には技能実習制度の教訓を踏まえた多くの改善策が組み込まれています。もっとも、制度が良くなることと現場で問題が無くなることは必ずしもイコールではありません。次章では、依然として残り得る課題や新たに懸念される点について整理します。

それでも残る課題・新たに生じうる懸念

育成就労制度への移行によっても、運用次第では技能実習制度と似た問題が残る可能性があることに注意が必要です。 有識者会議の最終報告や有識者の意見でも、「制度が変わっても中身(現場)が変わらなければ意味がない」との指摘がなされています。

まず懸念されるのは、受入れ企業や監理支援機関の意識・運用の問題です。制度上転籍が可能になっても、企業側があの手この手で実質的に引き留めや妨害を図る恐れがあります。例えば転籍の前提となる技能試験や日本語試験の受験機会を与えない、勉強する時間を与えないといった嫌がらせです。労働時間が長く休みも少ない環境では、そもそも自主学習の余裕が生まれません。また、パワハラ的な手法で「転職なんて許さん」と圧力をかけるブラック企業も出てくるかもしれません。転籍権は制度上の権利として認められても、現場でそれを行使できるかは別問題であり、弱い立場の外国人が泣き寝入りしては本末転倒です。この点、監理支援機関や育成就労機構がどれだけ実効的に介入・支援できるかが問われます。

次に、監督・指導体制の限界も依然として課題です。厚生労働省の労基監督や入管当局の取締りには人的リソースの限界があり、全国で何万社ともなる受入れ現場の全てをカバーするのは容易ではありません。技能実習制度でも違反率7割超という現実がありながら是正が追いついていない現状があるように、制度が変わっても悪質企業を見逃してしまえば状況は改善しません。特に地方や中小零細企業ほど監視の目が行き届きにくい傾向があります。育成就労制度では監理支援機関に外部監査を義務付けましたが、それも年に一度の形式的チェックで済まされては意味がありません。監督する側の人員拡充や専門性向上、罰則強化なども並行して進めないと、絵に描いた餅に終わる危険があります。

また、日本語要件の引き上げが思わぬ弊害を生む可能性も指摘されています。N4レベルの日本語試験は決して簡単ではなく、特に学歴の高くない層の応募者にとってハードルとなりえます。送り出し国によっては日本語教育のインフラが整っておらず、優秀でも語学試験に不慣れな人材が門前払いされる恐れもあります。結果として応募者数が減少し、人材確保がかえって困難になるリスクや、試験合格のために不正(替え玉受験や賄賂)が横行するといった懸念もあります。ただ、この点に関しては送り出し国側も日本語教育に力を入れ始めており、優秀な人材ほど日本では語学力も磨けてキャリアアップできるというポジティブな情報発信をしていくことが重要でしょう。

制度の複雑さも現場を混乱させる可能性があります。育成就労制度は技能実習・特定技能の二つを組み合わせるような仕組みのため、関係法令や手続きが多岐にわたります。受入れ企業の担当者や地方自治体の窓口が制度を正確に理解し、適切に運用できるようになるまでには時間と研修が必要です。過渡期には旧制度(技能実習)と新制度が並行する場面もあり、「どちらで受け入れるべきか」「移行手続きはどうするか」など現場が戸惑うケースも出てくるでしょう。制度理解の不十分からくる運用ミスが外国人本人の不利益やトラブルにつながらないよう、政府はわかりやすいガイドライン整備と周知徹底を図る必要があります。

さらに、依然として家族帯同不可・在留期限ありの枠組みは維持されるため、外国人本人にとって日本での生活が一時的・不安定な身分であることに変わりはありません。本人がいくら日本で定住を望んでも、特定技能2号などに進まない限り結婚相手や子どもを呼び寄せられず、永住権の取得も容易ではありません。「労働者である前に人間である」という視点からすれば、依然として使い捨て的な要素が残るとの批判もありえます。国際人権基準から見ると、一定期間で帰国を前提とする制度設計自体が問題だという根本的指摘もあります。

そして最後に、この改革自体が十分かどうかという問いもあります。技能実習制度の問題は「制度が悪い」というより「労働環境全体の問題(低賃金構造、人権意識の欠如)」の縮図でもありました。育成就労制度に移ったからといって、日本の労働市場で外国人労働者が抱える根源的課題(例えば同じ仕事でも日本人より低賃金になりがち、日本社会で差別的扱いを受ける等)が魔法のように解決するわけではありません。今後も制度を監視し、不備や新たな問題が明らかになれば柔軟に見直していく姿勢が求められます。政府は基本方針の策定や有識者会議でのフォローアップを続ける予定ですが、受入れ現場や当事者の声を十分に反映し続けることが不可欠でしょう。

受け入れ企業・現場が今から準備すべきこと

新制度への移行に備え、外国人材を受け入れる企業や現場担当者は早めの準備と意識改革が求められます。

まず、育成就労計画の作成体制を整えることが急務です。2027年の施行以降、新たに外国人を受け入れる際は技能実習計画ではなく育成就労計画の認定を受ける必要があります。企業は監理支援機関と連携し、自社でどのような技能をどの程度習得させたいか、そのためにどんな指導や教育を行うかを具体的にプランニングしなければなりません。計画には業務内容だけでなく、技能習得目標や日本語教育計画も盛り込みますので、現場の熟練者によるOJT指導体制、日本語講習の手配などを準備する必要があります。従来は「とりあえず働いてもらう」ことが先行しがちでしたが、新制度では計画に沿った育成・評価が求められるため、受入れ企業も研修担当者を決めたりカリキュラムを用意したりといった努力が必要になります。

次に、労働法令の遵守徹底と職場環境の整備です。技能実習制度で明らかになったように、長時間労働の是正、適正賃金の支払い、安全衛生対策の強化、ハラスメント防止は最低限守らねばならないポイントです。今後は転籍制度によって、待遇の悪い企業からは人材が流出しやすくなります。裏を返せば、労務管理がしっかりしていて働きやすい企業には人材が定着しやすいということです。法令違反があれば監督機関から是正勧告や企業名公表、場合によっては送検・受入停止措置もあり得ますし、何より外国人から見限られてしまいます。育成就労者も労働者である以上、日本人従業員と同様の権利があります。労働時間管理や給与支払いはもちろん、寮の居住環境や健康診断の実施まで、基本的な労務管理を今一度点検・改善しておきましょう。

日本人従業員への教育・多文化共生の取組みも重要です。異なる文化や言語背景を持つ外国人を職場に受け入れるには、周囲の日本人スタッフの理解と協力が欠かせません。これまでにも「職場で孤立してしまう実習生」「指示が通じないことへの苛立ちから生じるトラブル」といった問題がありました。企業は多文化理解研修を実施したり、指導担当者にコミュニケーションスキルを身につけさせたりといった取り組みを強化すべきです。例えば簡潔で平易な日本語で話す、ジェスチャーや図を用いて伝える、困っていそうなときは声をかける、といった基本を共有するだけでも違います。また、宗教上の配慮(食事・礼拝)や生活習慣の違いにも留意し、お互いに尊重し合える職場風土を醸成することが大切です。それが結果的に企業の魅力向上にもつながり、人材確保の強みとなるでしょう。

制度移行期のトラブルに備えることも欠かせません。技能実習生を現在受け入れている企業は、彼らの在留期間が満了する2027年前後に新制度への切替えを経験することになります。たとえば2026年頃に技能実習生を受け入れる計画がある場合、施行時期によっては当初技能実習として入国予定だった人を育成就労で入れ直す必要が出るかもしれません。また、施行後も既存の技能実習生は一定期間そのまま実習を継続できますが、途中で育成就労に在留資格変更して特定技能への移行を目指したいと希望するケースも考えられます。現行の実習生と新制度の育成就労者が混在する期間には、それぞれ適用ルールが異なるため混乱が起きやすいでしょう。企業の担当者や監理団体(監理支援機関)は、法務省・出入国在留管理庁から発出されるガイドラインをよく確認し、必要に応じて専門家(行政書士や社労士等)に相談しながら適切に手続きを行うことが重要です。

結局のところ、受け入れ企業に求められるのは「単なる労働力の確保」から「人材育成と共生」への意識転換です。制度が変わるこのタイミングを、社内の体制見直しや社員教育の機会と捉え、外国人も日本人も働きやすい職場づくりに努めてください。それが結果的に企業の生産性向上や人材定着にもつながるはずです。

外国人本人・日本社会の視点から見た今後の課題

新制度の成否は、外国人本人の生活設計や日本社会への定着支援の充実にもかかっています。 育成就労制度は外国人労働者を「一時的な存在」ではなく「将来の戦力」として位置づけ直す契機になりますが、現状ではまだ中長期的な課題が残されています。

まず、家族帯同や長期定住の可能性についてです。育成就労の在留資格自体には家族帯同(配偶者や子)のビザ発給は認められていません。そのため、たとえ3年間まじめに働いても、その間ずっと母国に残してきた家族と離れ離れという状況は変わりません。特定技能1号も同様に帯同不可で、家族帯同が許可されるのは特定技能2号に移行してからとなります。現時点で2号に移行できる職種は建設・造船など限られていますが、政府は今後対象分野を拡大する方針を示しています。しかし、たとえ対象が広がったとしても、8年以上働いてようやく家族を呼べるというのはハードルが高いと言わざるを得ません。家族と暮らせないことが外国人本人のメンタルに与える影響も無視できませんし、日本で長く働いても所詮は一時滞在者という扱いでは、定着へのモチベーションも上がらないでしょう。将来的には、人手不足分野で一定期間就労した外国人には家族帯同や永住への道をより早期に開くことも検討課題になるかもしれません。

次に、地域社会への受け入れと共生支援です。外国人労働者が増える地域では、生活者としてのサポート体制を整える必要があります。例えば自治体による多言語相談窓口の設置、生活ガイダンスの提供、日本語教室の支援などは不可欠です。育成就労制度では外国人育成就労機構やハローワークが相談業務を担うとはいえ、日常生活に密着した悩み(住居探し、病院受診、子どもの教育など)は地域コミュニティでの支えが重要です。また、技能実習生時代から問題視されていた人権侵害の通報窓口についても、引き続き強化が必要です。法務省や労働基準監督署、警察など、どこに相談すれば良いかわからず泣き寝入りしていたケースがありました。新制度では情報提供や苦情受付のチャネルを多様化し、SNS等も活用して若い外国人がアクセスしやすい仕組みにすることが求められます。

さらに、日本社会全体として外国人を「選ばれる国」にする努力も問われています。グローバルな人材獲得競争が激化する中、日本は必ずしも魅力的な労働先と思われていない現実があります。給与水準は他の先進国に比べ低迷し、言語の壁や永住権取得の難しさも敬遠されがちです。このままではせっかく制度を改めても肝心の外国人が来てくれない事態になりかねません。例えば隣国の韓国は、日本の技能実習制度に相当する外国人労働受入れ制度(EPS)で積極的に改善を重ねていますし、台湾やシンガポールなども待遇向上策を講じています。欧米諸国でも単純労働分野への移民労働者受入れを拡大する動きがあります。日本が国際競争で後れを取らないためには、労働環境や待遇、キャリアの展望で他国に負けない魅力を作る必要があります。具体的には、最低賃金の底上げ、資格取得支援やスキルアップの機会提供、将来的な定住支援策(例えば地方への定住者に住宅補助を出す等)など、総合的な環境整備が求められるでしょう。

また、日本人社会の意識改革も続けていかなければなりません。いまだに一部には外国人労働者に対する偏見や差別的な見方が残っています。技能実習制度が批判された背景には、日本社会側の「単なる安い労働力」としてしか見てこなかった姿勢への反省もあります。新制度がうまく機能するかどうかは、日本人が外国人を対等な仲間・住民として受け入れ、ともに地域社会を作っていけるかにかかっています。その意味で、教育現場や地域コミュニティでの多文化共生の取り組み、メディアの果たす役割も重要です。お互いの文化・価値観を尊重し合い、安心して暮らせる社会を作ることが、結局は日本の魅力アップにつながり、人材が集まる国になる道筋といえるでしょう。

結論:制度を活かすも殺すも運用次第

2027年に向けて進む技能実習制度から育成就労制度への移行は、日本の外国人労働政策にとって大きな転換点です。確かに制度名称を変え枠組みを刷新すること自体は重要ですが、本当に大切なのは現場でそれをどう運用し、社会全体で支えていくかです。技能実習制度で浮かび上がった数々の課題は、制度だけが悪かったわけではなく、我々日本社会の姿勢を映す鏡でもありました。その反省を踏まえ、育成就労制度をより良いものに育てていくことが求められています。

新制度には、転籍の解禁や日本語教育の充実など希望の持てる改善が盛り込まれましたが、同時に懸念も残されています。今後数年間は過渡期として注視すべきポイントがいくつかあります。例えば、転籍制度は実際に機能するか(どれだけの育成就労者が円滑に職場変更でき、失踪者が減るか)、労働条件の改善は進むか(違反率が下がり、死亡事故や人権侵害が減少するか)、送り出し側の搾取構造にメスは入るか(借金ゼロで来日できるケースが増えるか)、特定技能への移行・定着は順調に進むか(育成就労者がスムーズに特定技能1号・2号へステップアップできているか)等が注目されます。政府はこれら指標をモニタリングし、必要なら制度の追加修正も辞さない姿勢でいてほしいものです。

結局のところ、制度改革はゴールではなくスタートラインに過ぎません。これから現場で生じるであろう問題に一つ一つ向き合い、改善を積み重ねていく地道な努力が欠かせません。企業、支援団体、自治体、国の機関、そして外国人本人一人ひとりが、「より良い共生社会を築く」という共通の目標を持って協力していくことが大切です。日本で働きたいと願う外国人が「この国に来て良かった」と思えるような環境を整えることこそ、少子高齢化に立ち向かう日本社会の持続可能性を高める鍵でもあります。

技能実習制度の30年の歴史を教訓に、育成就労制度がより公正で開かれた仕組みとして根付くよう期待しつつ、私たち一人ひとりも引き続き関心を持って見守りたいと思います。制度を活かすも殺すも、それを使う人々と社会次第です。外国人と日本人がともに尊重し合い、安心して働き暮らせる未来を目指して、今後の歩みを進めていきましょう。

参考文献

  • 法務省 出入国在留管理庁 「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書」(2023年)および政府対応方針
  • 法務省 出入国在留管理庁 「育成就労制度の概要」「育成就労制度・特定技能制度Q&A」(2024年)
  • 厚生労働省 「令和5年 技能実習生の監督指導・送検等の状況」(2024年7月公表)
  • 厚生労働省 「外国人労働者の労働災害発生状況」(2023年公表データ)
  • 公益財団法人 国際人材協力機構(JITCO) 「外国人技能実習制度とは」「育成就労制度とは」(2025年)
  • 日本弁護士連合会 「技能実習制度の廃止と特定技能制度の改革に関する意見書」(2022年4月)
  • 外国人技能実習生権利ネットワーク・移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連) 「有識者会議最終報告書案に対する声明」(2023年11月)
  • 産経新聞 「外国人材育成就労の政府案、建設や外食業など7分野は転籍2年に設定」(2025年8月)
  • ヒューライツ大阪 「厚労省、2023年の技能実習生受入企業に対する監督指導状況を公表」(2024年8月)
  • 入管庁統計 「技能実習生の失踪者数の推移」(法務省公表資料 2018~2023年)

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