国際 政策

中国の2025年以降における主要外交戦略

習近平政権の外交方針の核心:「大国外交」と新たな国際構想

習近平政権は、「中国特色大国外交(中国の特色ある大国外交)」を掲げ、自国の大国としての地位を背景に積極的な外交を展開しています。その核心には、「人類運命共同体」の構築という理念があります。これは、異なる社会制度や文明を持つ国々が共存共栄し、「持続的平和」「普遍的安全」「共同繁栄」「開放包容」「清潔美麗」という5つの目標を共有する世界を目指すものです​。この理念は近年の中国外交の主軸となっており、2023年末の中央外事工作会議(外交工作会議)でも「人類運命共同体の構築」が外交方針の主線として明確化されました​。習近平外交思想のもと、中国は「歴史の正しい側」「人類進歩の側」に立つことを強調し、不確実な国際情勢に中国の「確実性(安定性)」をもたらすと自任しています。

こうした理念を具体化するため、中国は「三大イニシアチブ」と呼ばれる新たな国際構想を提唱しています。第一にグローバル発展イニシアチブ(GDI)、第二にグローバル安全保障イニシアチブ(GSI)、第三にグローバル文明イニシアチブ(GCI)です。それぞれ開発協力、安全保障協力、文明間対話の強化を目的としており、2024年末時点でGDIには82か国が参加、GSIも119か国・国際機関から支持を得るなど一定の国際的支持を集めています。また2023年の国連総会では、中国提唱の「文明間対話国際デー」が全会一致で採択されるなど、中国の理念が国際機関でも形となっています。これらの構想は、中国が主導する形で多国間協力の枠組みを築き、米欧中心の既存国際秩序に代わるより公平な新秩序を模索する試みと位置付けられます​。習近平政権は、自らの権威強化も背景に、欧米主導のルールへの挑戦姿勢を強めつつ、長年培った発展途上国(グローバルサウス)への影響力を戦略的に活用して「核心的利益」(台湾や海洋権益など)の擁護を図っています​。

こうした外交方針の下、中国は「大国」としての責任を強調し、気候変動や地域紛争の解決にも関与を深めています。例えば、ウクライナ危機やパレスチナ・イスラエル紛争といった国際的な火種に対して政治的解決を積極的に促し、和平に向けた中国の貢献をアピールしています。2023年3月には中国の仲介で中東の宿敵であったサウジアラビアとイランの国交正常化が実現し、中国が調停役として存在感を示しました。また、2024年以降も国連安全保障理事会常任理事国として外交的影響力を行使し、制裁や紛争解決において独自の立場を取ることが予想されます。

まとめると、習近平政権の外交の核心には、「中国の発展に有利な平和的国際環境の維持」と「多極化した秩序の中で中国の理念を広める」という二面があります。そのために大国外交を展開し、「人類運命共同体」やグローバル三大イニシアチブといった新たな国際ビジョンを提示しつつ、米欧に偏らない多元的な国際関係の構築を目指しているのです。

米国との関係:対立と協調の行方

米中関係は依然として中国外交における最重要課題であり、2025年以降も戦略的競争が続くと見られます。特に、ハイテク分野や経済、安全保障を巡る対立は激化しています。米国では対中強硬姿勢が超党派で強まっており、2024年の米大統領選後に発足した新政権(仮にトランプ政権2期目の場合など)は、中国への高関税賦課や先端技術封鎖など、経済的「デカップリング(切り離し)」を一層推進する見込みです。実際、2025年初頭には米中の貿易戦争が再燃・激化し、中国製品に対する米国の平均実効関税率が113%前後に達するとの試算も出るなど、関税報復合戦がエスカレートしました。中国側も「最後まで闘う」姿勢を崩さず、米トランプ政権の関税攻勢を「脅迫」と非難して対米報復関税を最大125%に引き上げるなど先に折れない構えを見せています​。さらに中国政府は米中貿易摩擦に関する2万8000字に及ぶ白書を発表し、対話の意志を示しつつも「自業自得だ」と米側を強く牽制しました​。

安全保障面でも、台湾問題や南シナ海を巡り米中間の緊張が続いています。米国は「自由で開かれたインド太平洋」戦略の下で日本やオーストラリア、インドなど同盟・パートナー国との連携(QUADやAUKUSなど)を強化し、中国への包囲網を築いています。一方、中国側はこれを「対中抑圧」とみなし強烈に反発しています。習近平主席は「中国の核心的利益(台湾や香港問題など)に関わる内政干渉には断固反対し、国家主権と領土保全を守る」と繰り返し強調しており、必要とあらば米国に対して「斗争」(闘争)も辞さない立場です。ただし実際には、米中双方とも軍事衝突の回避は共通利益であり、偶発的な衝突を防ぐための高官対話やホットライン整備など最低限の協調も模索されています。2023年11月の米中首脳会談(米サンフランシスコ)では気候変動対策や人道問題での協力継続が確認されるなど、一部分野では対話も維持されました。

2025年以降の米中関係は、一言でいえば「競争と対決が基本線ながら協調の余地を探る関係」となるでしょう。中国は米国との全面対決による自国経済への破滅的影響は避けつつも、一極支配に抗して多極化を促すために米国には譲歩しない方針です。中国外交部(外務省)は、米国が同盟国に働きかけて中国を封じ込めようとする動きを批判し、「新冷戦」には断固反対するとしています。また、米国抜きの国際枠組みの強化(例えばBRICS拡大や地域貿易協定の推進)によって、米国の影響力低下を図る戦略も取られています。もっとも、中国側も対米関係悪化がもたらす自国への打撃は認識しており、例えば半導体などの先端技術や金融分野では輸入代替や国内需要振興でリスク緩和を図っています。同時に、「必要なら対話の扉は開いている」とアピールしつつ、対等な立場での関係修復を米側に促すでしょう。

要約すれば、中国は米国に対し「新興大国vs既存大国」の構図の中で覇権競争を繰り広げつつも、直接衝突は避けるという二重戦略で臨むと考えられます。経済面では報復合戦も辞さない強硬姿勢を見せながら、金融市場の安定策や第三国との経済協力強化でダメージコントロールを行い、安全保障面でも抑止と対話を両立させながら米国との力の均衡を模索していくでしょう。

欧州との関係:経済協力と戦略的駆け引き

欧州(EU)との関係は、米中対立が深まる中で中国にとって米国以外の主要な交渉相手となっています。中国は欧州を「戦略的パートナー」と位置づけ、米国と一線を画した独自の対中政策(いわゆる「戦略的自立」)を期待しています。一方欧州側も、近年「デリスキング(リスク低減)」との表現で対中関与の見直しを図りつつも、完全なデカップリングには慎重であり、経済協力の維持を望む声が強い状況です。

2025年はEUと中国の外交関係樹立50周年という節目であり、中国は欧州との関係強化に力を入れています。例えば2025年4月にはスペインのサンチェス首相が公式訪中し、習近平国家主席と会談しました。サンチェス首相は「スペインは中国をEUのパートナーと見なしており、対話・互恵・調和に基づく強固で均衡のとれた二国間関係や経済通商関係の推進に努めていく」と述べ、長年にわたる協力関係を強調しています。このように、欧州主要国の首脳は中国との経済関係を重視しつつ、米中対立が激化する局面でも対話の窓口を開き続ける姿勢を見せています。中国側も欧州各国にハイレベル訪問団を派遣し、フランスやドイツなどとは気候変動や貿易投資での協調を模索しています。特にドイツやフランスとは「包括的戦略パートナーシップ」を掲げ、定期的な対話メカニズムを維持しています。2024年夏にはフランスのマクロン大統領が訪中し、米国と距離を置いた対中関与発言が注目を集めるなど、中国としては欧米分断を図る好機とみています。

しかし、欧州との関係には依然火種も存在します。ウクライナ戦争における中国の立場(ロシア寄りとの見方)に欧州は懸念を抱えており、習近平政権がロシアと緊密な関係を続ける限り欧中関係の信頼醸成には限界があります。また、人権問題(新疆ウイグルや香港)や安全保障(中国企業による欧州戦略インフラ投資への規制など)でも欧州側は警戒を強めています。2023年にはEUが対中経済安全保障戦略を策定し、先端技術分野での対中投資審査を強化する動きもみられました。中国としては欧州の「デリスキング」政策が過度なものとならないよう、経済的インセンティブを提示しつつ外交的働きかけを強めると予想されます。例えば市場アクセスの拡大や欧州企業への公平な競争条件の保証などを約束し、欧州企業の対中ビジネス継続を後押ししています。また、中国はEU最大の貿易相手としての地位を活用し、輸出入拡大策や大規模商談を通じて欧州経済界への影響力行使にも努めています。

総じて、欧州との関係強化は中国外交において「米国一極」を牽制する上で重要な柱です。中国は欧州を対等なパートナーとし、共に多極化と自由貿易を推進する姿勢を示します。一方欧州も、米中どちらか一方に過度に依存しないバランス外交を模索しており、中国との関与を続けるでしょう。ただし価値観や第三国情勢を巡る溝は残るため、経済協力の裏で慎重な駆け引きが続く見通しです。今後、中国は欧州に対し「対話と互恵によるウィンウィン関係」を強調しつつ、自らへの批判や制裁の芽を摘むべく丁寧な外交を展開すると考えられます。

ロシアとの戦略的連携:反西側の「同盟」関係

ロシアとの関係は、習近平政権下でかつてないほど緊密になっています。中国とロシアは公式に「新時代における包括的戦略協力パートナーシップ」を謳い、2022年には「無制限の戦略的パートナーシップ」を確認する共同声明も発出しました。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降も中国はロシアとの絆を維持し、欧米からの制裁に追随せずにロシアを経済的・外交的に支えています。

2025年2月、ウクライナ戦争勃発から3年を迎えた日に習近平主席はプーチン大統領と電話会談を行い、この「無制限の戦略的パートナーシップ」を改めて再確認しました​。中国国営メディアによる公式発表によれば、両首脳は「いかなる第三者にも影響されない独自の『内部原動力』によって結ばれた長期的関係」であることを強調しています。習主席は「中ロ関係は強大な内部エンジンと独自の戦略的価値を有し、いかなる第三者に向けたものでも、いかなる第三者からも影響を受けない」と述べ、両国関係が外圧に左右されない自律性を持つことを明言しました​。これは名指しは避けつつも、米国をはじめとする西側からの制裁や干渉への明確な牽制メッセージです。

中国にとってロシアは、国連安保理など国際場裏で相互に背を預ける重要な戦略パートナーです。例えば台湾問題や新疆・香港など中国の内政とする問題でロシアは常に中国支持の立場を取り、一方で中国もウクライナ問題でロシアへの直接的非難を避け「ロシアの安全保障上の正当な関心に配慮すべき」と西側に訴えてきました。また両国は軍事面でも連携を強め、東シナ海・日本海での合同軍事パトロールや中央アジアでの合同演習を実施するなど、安全保障協力をアピールしています。エネルギー分野では中国がロシア産原油・天然ガスの一層の輸入拡大を図り、パイプラインや貿易決済でドル離れを進める動きもあります。経済的にはロシアが中国にとってそれほど大きな市場ではないものの、戦略物資の安定供給源かつドル依存から脱却する実験ケースとして重要です。

もっとも、中国はロシアとの連携を深めつつも一定の一線を画しています。例えばウクライナ侵攻に際して、中国は「主権と領土一体性の尊重」と「安全保障上の合理的配慮」のバランスを主張し、中立的立場を装っています。武器の供与など直接的な軍事支援は行わず、人道支援や和平案提案に留めています。2023年春に中国が発表したウクライナ和平案(12項目)も抽象的内容にとどまり、欧米からはロシア寄りと受け止められました。しかし、中国としては表向き中立を維持することで、欧州との関係悪化を最小限に抑えつつ、裏ではロシアとの経済関係強化で利益を得ている状況です。

2025年以降も中露の戦略的接近は続くでしょう。両国は「反米・反西側」という利害の一致で結ばれており、ブロック化が進む国際社会で互いの背を預け合う関係です。同時に、中国はロシアが国際的に完全孤立する事態は望んでおらず、ロシアと米欧の対話についても支持を表明しています。習主席はプーチン大統領との会談で、ロシアと米国が対話を行うことを支持し、ウクライナ紛争の平和的解決に向けて中国として協力する用意があると述べています。これは中国が「和平仲介者」としての役割も演じつつ、ロシアへの影響力を保持する狙いといえます。

要約すると、中国の対露外交戦略は「準同盟的な連携」に近いものです。公式には同盟を結ばずとも、安全保障から経済まで包括的に協調し、米国主導の国際秩序に対抗する二国間関係を深化させています。これにより、中国は西側への強力なカードを手にし、ロシアは経済面で中国に依存を深めるという相互依存関係が強まっています。この関係は長期的・構造的なものであり、2025年以降も世界情勢に大きな影響を与え続けるでしょう。

東南アジア・近隣外交:周辺地域での主導権追求

中国にとって、自国の周辺地域(近隣外交)は安定確保と影響力拡大の両面で重要です。特に東南アジアは経済的・地政学的要衝であり、中国はここで主導的役割を発揮しようと努めています。習近平政権は「親誠恵容」(周辺国に親善・誠意・互恵・包容をもって接する)の方針を掲げつつも、南シナ海での領有権主張や経済圏構想によって影響力を浸透させています。

ASEAN(東南アジア諸国連合)に対しては、ASEAN中心性を支持すると表明し、多国間協調に前向きな姿勢を見せています。例えば「中国ASEAN運命共同体」の構築を提唱し、ASEAN諸国との自由貿易やインフラ連結を進めています。2010年の中国・東盟自由貿易圏発足以降、双方の貿易額は増大し続け、2020年代には中国にとってASEANがEUを抜いて最大の貿易相手となりました。中国はこの経済関係を土台に、一帯一路イニシアチブの下で東南アジア各国へのインフラ投資を積極化しています。その成果として、中国~ラオス鉄道(2021年開通)やジャカルタ~バンドン高速鉄道(2023年開業)など、地域を結ぶ大規模プロジェクトが実現しました。さらに東南アジアを南北に縦断する経済回廊や、周辺インフラ相互連結のプラットフォームも構築されつつあります。

一方で、南シナ海問題は東南アジア外交の最大の火種です。中国は南シナ海の大半に歴史的権利を主張し、人工島の造成や軍事拠点化を進めてきました。これに対しフィリピンやベトナムなどASEAN加盟国と摩擦が生じ、2016年の仲裁裁判所判決では中国の主張が否定されています。習近平政権はASEANとの間で「南シナ海行動規範(COC)」の策定交渉を進め、紛争管理のルール作りに取り組んでいますが、その進展は鈍く、依然として緊張が残ります。それでも中国は対話を続ける姿勢を見せ、2024年にもCOCの枠組み合意に向けた協議を重ねています。中国側は、自国の権益を損なわない範囲での現状維持と、米国など域外勢力の介入排除を狙っており、ASEANとの間で巧みな駆け引きを展開しています。

また、東南アジア以外の周辺国についても触れれば、南アジアや東アジアでの外交も重要です。インドとは国境紛争(中印国境係争地帯)で緊張が続きつつも、BRICSや上海協力機構(SCO)で共にする場面もあります。中国はインドに対して「競合と協調」を使い分ける戦略で、インド太平洋で米国側に傾斜させないよう配慮しています。日本や韓国といった東アジアの近隣については、歴史問題や領土問題で対立要素があるものの、経済的結びつきが深いことから安定維持に努めています。特に日本との関係は近年悪化していましたが、石破新首相の就任後に対話が再開され、中国側も関係改善の意向を示しています。朝鮮半島情勢についても、中国は伝統的盟友である北朝鮮との関係を維持しつつ、韓国とも経済協力を継続する二面外交をとっています。

総じて、周辺外交における中国の戦略は「懐柔と圧力」を巧みに組み合わせたものです。東南アジアでは経済協力と地域主導権の確立を図りつつ、領有権など核心利益は譲らない態度を貫いています。これは地域の不安を招きつつも、多くの隣国が中国経済に依存しているため、大きな反発には至っていません。2025年以降も中国は、周辺に安定した友好圏を築くための投資と外交対話を続ける一方、軍事力も背景に影響力を誇示し、地域覇権の確立に向けた長期戦略を推進していくでしょう。

アフリカ外交:経済協力と影響力拡大

アフリカは中国にとって「発展途上国の盟友」であり、長年にわたり経済援助と投資を通じて影響力を培ってきた地域です。習近平政権はアフリカを「運命共同体」の構築相手と位置づけ、インフラ開発や資源協力、人材育成など包括的な支援を行っています。2021年には中非協力フォーラム(FOCAC)で今後3年間で400億ドル規模の支援を表明するなど、巨額の融資・援助を継続してきました。その結果、アフリカ諸国にとって中国は最大の貿易相手国・投資国となり、多くの国が一帯一路構想に参加しています。

具体的な成果としては、東アフリカのエチオピア〜ジブチ鉄道やナイジェリアの鉄道網整備、ケニアの港湾開発など、中国主導の大型プロジェクトが次々と完成しました。また通信分野でも中国企業(ファーウェイなど)がアフリカ各地で通信インフラを構築し、デジタル分野での進出も進んでいます。中国は資源確保の面からもアフリカを重視しており、アンゴラやコンゴ民主共和国などから石油・鉱物資源を長期契約で輸入し、自国の経済発展に活かしています。外交面では、アフリカ諸国の多くが台湾と断交して中国と国交を結んでおり、中国は国連などでアフリカ票の支持を取り付けやすい状況です。例えば2022年にはアフリカの最後の台湾承認国だったマラウイが台湾と断交し、中国と国交樹立するなど、現在では53か国中50か国以上が北京を承認しています。

こうした関係強化の一方で、最近では「債務の罠」への懸念も指摘されています。中国からの巨額融資により債務負担が膨らんだ国もあり、モザンビークやザンビア、ケニアなどで対中債務の持続可能性が問題となっています。実際、ケニアやザンビアでは中国からの借款返済が滞り、IMF主導での債務再編協議が行われました。中国側も無制限に融資を拡大するのではなく、近年は「質の高い共同発展」を強調して投資案件の精選にシフトしています。防衛省防衛研究所の報告書によれば、中国はアフリカ支援に総額7兆円超を投じた一方、債務問題の顕在化によって一部で対中関係の見直しの動きも出ているといいます。中国政府は債務帳消しや再交渉にも応じつつ、信頼関係を維持しようと努めています。

2025年以降も中国のアフリカ外交は「経済協力による友好関係強化」が軸になるでしょう。中国は西側諸国に比べ政治的条件を付けない援助(いわゆる「無償の友情」)を売りに、アフリカ諸国政府や国民との結びつきを強めています。ただしアフリカ側でも中国依存への警戒感が出始めており、中国製品や労働者の流入が地元産業に与える影響や、安全保障面での進出(軍事基地の建設など)にも注目が集まっています。中国はこうした懸念に配慮しつつ、教育・医療といったソフト面の協力や文化交流も通じて、アフリカにおける好意的イメージを保つ戦略です。今後も国連や国際舞台でアフリカ諸国の支持を得る見返りに、中国は積極的な経済関与を続けると見られます。

中東における役割拡大:エネルギーと外交イニシアチブ

中東は中国にとってエネルギー安全保障上欠かせない地域であり、同時に米国の影響力が相対的に低下しつつある地域として外交的なチャンスが広がっています。中国は長年、内政不干渉と経済協力を基本に中東諸国と関係を築いてきましたが、近年は政治・安全保障面でも関与を深める動きを見せています。

まず経済面では、中国はサウジアラビアをはじめとする湾岸産油国から大量の原油を輸入しており、エネルギー協力が外交関係の礎となっています。サウジとは包括的戦略パートナー関係にあり、2022年末の習近平主席のリヤド訪問では中サウジ・中アラブ首脳会談が開かれ、一帯一路下での協力文書が多数調印されました。イランとも伝統的友好関係を維持し、米制裁下にあるイラン産石油の輸入や経済協力を継続しています。また、トルコやエジプト、UAEなどとも経済圏構想やデジタル・宇宙分野での協力を拡大中です。2023年にはBRICS首脳会議でサウジアラビアやUAE、エジプト、イランなど中東の主要国が新規加盟国に招請され、2024年から正式にBRICSに加わることになりました。これは中国が主導する新興国連携に中東諸国を取り込み、経済・金融面で西側支配への対抗軸を作る狙いがあります。

外交面で特筆されるのは、中国が中東の調停者役に乗り出していることです。冒頭でも触れたように、2023年3月に中国の仲介で実現したサウジアラビアとイランの電撃和解は象徴的出来事でした。長年敵対してきた両国を北京に招き、対話の末に国交回復で合意させたことで、中国は中東の和平に寄与する新たなパワーとして脚光を浴びました。この成功に自信を深めた中国は、他の紛争(イエメン内戦やシリア問題など)でも対話促進を呼びかけています。2023年秋に発生したイスラエル・ハマス間のガザ危機でも、王毅外相(当時)は即時停戦と「二国家解決」に基づく和平交渉再開を訴え、中東和平特使を現地に派遣しました。もっとも米欧主導でない和平仲介には限界もあり、現時点で中国の介入が決定打となったケースは限定的です。それでも中東諸国からは、中国を米国に代わる大国パtronとして歓迎する声もあり、「中東における選択肢の多様化」が進んでいます。

安全保障の観点では、中国はジブチに初の海外軍事基地を設置して以降、中東・アフリカ地域でのプレゼンスを高めています。2022年には初めて中国・イラン・ロシア3か国による合同海軍演習をアラビア海で実施し、2023年には再び同様の演習を行いました。このように、中国は軍事面でも中東への関与を強めており、アメリカの長年の覇権に挑む動きとして注目されています。湾岸諸国も中国製の軍用ドローンやミサイル防衛システムの導入に関心を示すなど、防衛分野の協力も拡大する可能性があります。

結論として、中国の中東戦略は経済協力を基盤に政治的影響力を広げる形で展開されています。エネルギー利権の確保という現実的利益と、「公平な仲介者」としての国際的評価向上という名誉の両面を追求しており、2025年以降もその路線が続くでしょう。米国の中東関与縮小(いわゆるアジア重視へのシフト)を背景に、中国は中東におけるパワーバランスの変化を巧みに利用し、自国に有利な外交環境を築きつつあります。

中南米との関係強化:経済進出と影響圏の拡大

中南米(ラテンアメリカ・カリブ諸国)は、地理的には遠いものの中国が近年存在感を急速に高めている地域です。中国は中南米を「21世紀のシルクロード」の延長と捉え、一帯一路構想に組み込む形で経済進出を加速させています。現在、ラテンアメリカの20か国以上が一帯一路協力文書に署名しており、地域全体でのインフラ・投資プロジェクトが進んでいます。

経済面では、中国は既にブラジル、アルゼンチン、チリなど多くの国にとって最大の貿易相手国となっています。鉄鉱石や大豆、リチウムといった資源・農産品を中国が大量輸入する一方で、中国からは工業製品や投資が流入しています。例えばアルゼンチンでは2023年に親中的な左派政権から右派リバタリアンのミレイ政権に交代しましたが、政権交代後も対中輸出は15%増加するなど、経済関係の強さが伺えます。中南米各国は米国以外の巨大市場として中国との関係強化を図っており、ブラジルのルラ大統領は2023年に訪中して人民元建て貿易決済の拡大などを協議しました。また、中国は地域のインフラ投資にも熱心で、エクアドルの水力発電所やアルゼンチンの鉄道整備、ペルーの港湾建設など、多額の融資と建設事業を請け負っています。

一方、政治外交面では、台湾承認国の切り崩しが進みました。中南米・カリブ海地域はかつて台湾を承認する国が多く残っていましたが、2017年以降パナマ、エルサルバドル、ドミニカ共和国、ニカラグア、ホンジュラスと相次いで台湾と断交し中国と国交樹立しました。2023年3月にはホンジュラスも台湾と断交し、中国と国交樹立したことで、現在この地域で台湾を承認するのは僅かにグアテマラやパラグアイなど数か国を残すのみとなりました。中国は経済援助や投資を梃子に中南米諸国の外交転向を促し、台湾の国際的孤立化を推し進めています。

米国は伝統的に中南米を自らの勢力圏(モンロー主義的な「裏庭」)とみなしてきただけに、中国の進出に神経を尖らせています。2025年の米新政権でも対中強硬派が中南米重視を唱え、スペイン語話者のルビオ国務長官(想定)が初外遊で同地域を訪問するなど牽制に乗り出しました。これに対し中国外交部は異例の声明を出し、米国が中国と中南米の間に「不和」を生じさせようとしていると非難し、中南米と中国の協力深化は「不可逆的な流れ」だと強調しました。このように米中は中南米でも影響力争いを繰り広げており、中国は着実に経済関与を強めながら政治的発言力も高めています。

2025年以降も中国は中南米での「南南協力」路線を推進するでしょう。具体的には、現地のニーズに合わせたインフラ整備(港湾、エネルギー、5G通信網など)を支援し、自由貿易圏の構想(中国と中南米のFTAなど)も提案する可能性があります。また、開発銀行(中国の国家開発銀行など)を通じた融資や、AIIB(アジアインフラ投資銀行)への中南米諸国の参加を呼びかけるなど、多角的な経済ネットワークを築くでしょう。政治的には、中南米諸国と気候変動や国連改革など地球規模課題で共闘し、「グローバルサウスの声を結集する」といったフレーメで影響力を行使すると考えられます。中国にとって中南米は米国の影響圏を揺さぶる地政学的前線であり、今後も巧みな経済外交によってこの地域での足場を固めていく展望です。

「一帯一路」構想の現状と今後の方向性

習近平政権の代表的な国際戦略である「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative, BRI)は、2023年で提唱10周年を迎えました。この10年間で一帯一路は中国外交の中核に位置づけられ​、アジア・アフリカ・欧州から中南米まで150以上の国が参加する巨大経済圏構想へと発展しています​。中国政府によれば、2023年時点で152か国・32の国際機関と200以上の協力文書を締結し、ユーラシア大陸を横断する6大経済回廊の整備や鉄道・港湾など多数のインフラプロジェクトが進展しました​。この結果、2013~2022年に中国と一帯一路沿線国との貿易総額は累計13兆ドルに達し、年平均8%という高成長を遂げています。一帯一路は発展途上国の経済発展に寄与し、中国自身も貿易拡大とエネルギー・資源確保の利益を得てきました。

しかし、近年は量から質への転換が模索されています。初期の「大書き(大写意)の絵から、精緻な工筆画へ」との比喩が示すように​、大規模プロジェクト一辺倒から受益者の生活向上に直結する“小さくても魅力的な事業”へと軸足を移す動きがあります。また、環境への配慮や汚職防止、債務持続性といった課題にも対応し、持続可能で高品質な共同建設を目指すとされています。習近平主席は2023年10月に北京で開催した第三回一帯一路国際協力サミットフォーラムにおいて、この構想の新たな指針として中国が取る「八項目の行動」を発表しました​。その内容は以下の通りです:

  1. 多次元的な互聯互通ネットワークの構築:中欧班列(中国~欧州貨物鉄道)の高品質発展や、跨里海国際輸送回廊の建設に参加するなど、鉄道・道路・海運・航空を組み合わせた新たなユーラシア物流ルートを整備する​。これにより、大陸と海上・空を繋ぐ「立体的シルクロード」を構築する。
  2. 開かれた世界経済の支持:シルクロード電子商務(eコマース)協力パイロット区を設立し、より多くの国と自由貿易協定や投資保護協定を締結する​。また中国は製造業分野の外資参入制限を全面撤廃し、サービス貿易やデジタル分野も高水準で開放する。​今後5年間(2024-28)に中国の貿易総額は財貨で累計32兆ドル以上、サービスで5兆ドル以上に達する見込みであり、世界の経済成長に寄与する。
  3. 実務協力の推進:大型のシンボルプロジェクトと各国民生に資する「小さく美しいプロジェクト」を両立させる​。中国は国家開発銀行と輸出入銀行にそれぞれ3500億元(約7兆円)の融資枠を設け、シルクロード基金にも800億元を追加拠出して、一帯一路事業を市場・商業原則で支援する​。また、1000件の小規模民生援助プロジェクトを実施し、魯班工房(職業訓練校)などで職業教育協力を進めるとともに、プロジェクトと要員の安全確保にも注力する​。2023年フォーラム期間中の企業家大会では総額972億ドルの契約が締結された​。
  4. グリーン発展の促進:グリーンインフラ・グリーンエネルギー・グリーントランスポート等での協力を深化し、一帯一路グリーン発展国際連盟への支援を拡大する​。また「一帯一路グリーンイノベーション大会」の継続開催や、太陽光産業対話メカニズムの構築、パートナー国に対する2030年までの10万人研修計画などを通じて、低炭素発展を支援する​。グリーン投資原則の履行も推進する。
  5. 科技イノベーションの推進一帯一路科技イノベーション行動計画を継続実施し、初の「一帯一路科技交流大会」を開催する​。今後5年で共同設立する聯合実験室(共同研究所)を100箇所に拡大し、各国の若手科学者を中国に受け入れて短期研究を支援する​。さらにグローバルAIガバナンスイニシアチブを提案し、各国と対話を強化して健全で安全なAI開発を共同で促進する​。
  6. 人文交流(ピープル・トゥ・ピープル交流)の支持良渚フォーラム(文明対話フォーラム)の開催などを通じ、沿線国との文明対話を深化させる。既に設立済みのシルクロード国際劇場・芸術祭・博物館・美術館・図書館の連盟に加え、新たにシルクロード都市観光連盟を立ち上げた​。また引き続き「シルクロード」中国政府奨学金プログラムを実施し、人材交流を拡大する。
  7. 廉潔の道の建設:汚職防止の取組強化。パートナー国と共同で「一帯一路廉潔建設の成果と展望」報告や「高級原則」を発表し、参画企業向け廉潔コンプライアンス評価システムを構築する。また国際機関と協力し一帯一路事業の廉潔性向上に関する研究・研修を実施する。
  8. 国際協力メカニズムの強化:エネルギー・税務・金融・グリーン発展・防災・反腐敗・シンクタンク・メディア・文化などの分野で、一帯一路参加国によるマルチ協力プラットフォームを強化する​。さらに一帯一路フォーラム(BRF)を今後も定期開催し、恒常的なフォーラム事務局を設立する​。

以上の「八項目の行動」に示されるように、一帯一路の今後は「高質量発展」がキーワードです。単なるインフラ建設から、デジタル経済・グリーン投資・人材育成などソフト面にも広がり、国際規範づくり(例:AIガバナンスや廉潔経営)にも踏み込んでいます。これは、中国が一帯一路を通じて経済のみならずグローバル・ガバナンスに影響を及ぼそうとしていることを意味します。一方で、一帯一路には課題も顕在化しています。前述の債務問題や、一部プロジェクトの商業性欠如、受入国での政治的反発(政権交代に伴う契約見直し等)です。例えばマレーシアでは政権交代後に高速鉄道計画が中止されたり、スリランカでは港の租借を巡り内政問題化しました。中国政府はそうした反省を踏まえ、案件の精査やパートナー国の負担軽減に努めるとみられます。実際、近年は融資よりも共同投資や現地通貨建て決済など新たな手法を模索しています。

2025年以降、一帯一路構想は「第二段階」に入ると位置づけられます。10周年を経て、新たな10年に向け中国は各国との協力を制度面でも強化しつつ(フォーラム事務局設立など)、質の高い成果を積み重ねていくでしょう。一帯一路はまた、中国の外交を象徴するブランドでもあり、習近平政権のレガシーとして今後も推進されることは確実です。ただしグローバル経済の変動や米国の対抗的なインフラ支援(米主導の「グローバル・ゲートウェイ」や「パートナーシップ・フォー・グローバル・インフラ」など)の影響も受けるため、以前のような急拡大路線からは緩やかな成長にシフトしていくと考えられます。

国際機関における中国の影響力拡大

中国は近年、国際連合(UN)や世界貿易機関(WTO)など主要な国際機関での存在感を飛躍的に高めてきました。習近平政権は「真の多国間主義」を掲げ、米欧主導の国際秩序に対抗してより開かれた包摂的な国際システムを提唱しています。その一環として、国連をはじめとする既存国際機関の中で主導権を握る努力と、新たな国際枠組みの創設という両面作戦が取られています。

まず国連における影響力ですが、中国は安保理常任理事国として拒否権行使などで大きな発言力を持つだけでなく、専門機関のトップポストにも中国出身者を送り込んできました。近年では国連食糧農業機関(FAO)の事務局長や国際電気通信連合(ITU)の高官などに中国人が就任した例があります(※ITUは2022年に中国候補が落選)。また国連予算への分担金も拡大し、現在では米国に次ぐ第2位の出資国です。これにより中国は国連の議題設定や決議交渉で影響力を行使しやすくなっています。特に人権分野では国連人権理事会などで「発展権」を重視する中国の姿勢が反映され、西側諸国の対中非難決議を退けたり、中国寄りの文言を組み込ませたりする動きが見られました。また、先述の「人類運命共同体」理念は2017年以来毎年国連総会決議に盛り込まれており、その核心的要素は国連の将来ビジョン文書「Our Common Agenda(未来契約)」にも反映されています。2023年には国連で「国際文明対話デー」が創設され、中国提唱の「文明の多様性尊重」メッセージが採択されています。このように中国は自国の理念や語彙を国連文書に浸透させ、国際規範の形成に影響を与えつつあります。

WTOなど経済分野の国際機関でも、中国は積極的役割を果たしています。WTOでは本来途上国として恩恵を受ける立場でしたが、近年は米国の一方的通商措置(関税引き上げや輸出規制)に対抗し、多角的貿易体制の擁護者を自任しています。中国はWTO改革でも開発途上国の発言権拡大を主張し、紛争解決機能の維持に尽力しています。また、国際通貨基金(IMF)や世界銀行でも出資比率の増大とともに発言力を伸ばし、新型コロナ危機下ではG20の債務救済イニシアチブに参加するなど多国間協調に貢献しています。もっとも、中国が自ら創設したアジアインフラ投資銀行(AIIB)BRICS新開発銀行(NDB)といった並行的枠組みも活用し、既存機関だけに頼らない金融ネットワークを広げています。これら新機関には多くの途上国が参加しており、中国は融資・援助を通じた影響力を確保しています。

安全保障分野では、国連平和維持活動(PKO)への要員派遣や、軍縮・軍備管理交渉でのイニシアチブ発揮などが挙げられます。中国はPKO派遣要員数で常任理事国中最多を維持し、2024年にはキプロスPKOの司令官に中国人が任命されるなど、その貢献を誇示しています。また、核不拡散条約(NPT)や化学兵器禁止機関(OPCW)でも存在感を示し、米ロが不在の軍備管理議論で中国の発言力が増しています。

地域機関では、上海協力機構(SCO)やBRICSといった非西側大国の枠組みを通じて、中国は議長国などを務めながら主導権を握っています。2024年は中国がSCOの議長国を務める「中国年」に当たり、地域協力を新段階に引き上げる計画です。BRICSも2024年に議長国を務めた南アフリカに続き、2025年にはロシアが議長となりますが、中国は背後からBRICS拡大を後押しし、「グローバルサウスの声」を代弁する枠組みとして育てています。G20でも、2023年インド、2024年ブラジルと新興国が議長を務める中、中国は途上国連帯を唱え、開発問題への取り組み強化を訴えています。

要するに、中国は国際機関内での影響力強化と新たな国際ルール形成の両面で攻勢を強めています。その背景には、「米国中心の国際秩序から多極的で公正な秩序へ移行させる」という長期目標があります。中国は国連憲章の精神に立ち返るべきと強調しつつ、自らに都合の良い議題(開発権尊重、制裁反対、デジタル主権など)を前面に出しています。他方で普遍的な人権や民主主義の基準に関しては主権尊重を盾に反論し、国際社会の価値観競争の場でも熾烈な綱引きが行われています。2025年以降も、中国は各種国際機関で「議長国外交」人的プレゼンスを通じて影響力を投じ続けるでしょう。それは国際規範や議題設定を巡る米中間の見えない戦いでもあり、各国にとっても両大国のはざまで自国の利益を守る舵取りが求められる局面となります。

国際社会および国内への影響:その光と影

以上の中国の外交戦略は、国際社会中国国内の双方に大きな影響を及ぼします。まず国際社会への影響から見ると、ポジティブな側面としては発展途上国への投資やインフラ整備が促進され、グローバルな経済成長と貧困削減に寄与する点が挙げられます。中国が主導する一帯一路や開発協力によって、これまで投資が届きにくかった国々で港湾や鉄道、発電所が建設され、市民生活の改善や産業振興につながったケースも多く報告されています。また、中国が呼びかける多極化は、特定の超大国による支配を緩和し、中小国にも発言機会が増える可能性があります。実際、BRICSやSCOの拡大により、南半球の新興国が結集して国際問題で影響力を行使する場面が増えてきました。これは従来の先進国クラブ中心の国際政治に変化を与え、より多様な価値観が反映される余地を生んでいます。

一方で、ネガティブな側面も顕著です。まず安全保障面では、米中対立や中印・中日など中国と主要国の緊張が高まることで、新たな冷戦構造や軍拡競争が懸念されます。中国の台頭に対抗して、米国は同盟国との軍事協力を強化し、日本やオーストラリア、インドなどが軍備増強に乗り出しています​。台湾海峡や南シナ海での軍事的偶発事態のリスクも高まり、地域の不安定要因となっています。また経済面では、中国と米欧との間で技術・サプライチェーンの分断が進む「デカップリング」は世界経済に二重のシステムを生み出し、効率性を損なう恐れがあります。実際に米中貿易戦争が激化すれば、互いの経済成長を数%押し下げる打撃となりうるとの分析もあります​。関税の応酬や投資規制の強化はグローバル市場の不確実性を高め、他国にも波及するでしょう。さらに、中国の融資攻勢による債務問題や環境破壊、一部地域での政治腐敗助長(キックバック疑惑など)といった副作用も指摘されます。これらは受入国のガバナンスを弱体化させたり、社会不安を招いたりするリスクがあり、中国モデルへの批判に繋がっています。

国際秩序そのものへの影響としては、ルールや価値観の競合が挙げられます。中国が強調する「主権尊重」「内政不干渉」は、普遍的人権や人道的介入の概念とは相容れない場合があります。例えばウイグル問題や香港問題では、中国は国際批判を「内政問題」と退け、国連でも自国擁護の決議を通すなど影響力を行使しました。これに対し欧米諸国は中国の国連戦略に懸念を表明しており、国際機関が人権や自由の価値を守れるか試される局面が増えています。つまり、中国外交の台頭は、国際社会における価値観の競争を激化させ、国連などの場で投票が二分される状況を生んでいます。長期的には、現在の国際秩序(第二次大戦後に構築されたリベラルな国際秩序)が揺らぎ、新たな秩序への過渡期が続く可能性があります。その過程で摩擦や不安定が生じることは避け難く、各国は対応を迫られています。

次に中国国内への影響についてです。習近平政権の外交政策は国内政治と密接に連動しています。一つには、強硬な外交姿勢や対外プロジェクトの成功が国内世論のナショナリズムを高揚させ、政権の正統性強化に資する側面があります。例えばアメリカとの対立に妥協しない態度は「不屈の大国」として中国国民の誇りを刺激し、台湾や領土問題での強硬姿勢も愛国心を煽ります。また、一帯一路などで海外に雄飛する中国企業・労働者の姿は、「中国夢」を体現するものとして国内宣伝で強調されています。2025年に予定される習近平国家主席の訪露や(場合によっては)米中首脳会談実現のニュースなども、国内向けに「大国として国際舞台で欠かせない存在」と印象付けるでしょう。さらに、発展途上国から感謝される外交(ワクチン提供や災害支援など)は、中国共産党の統治正当性を補強する材料となります。

もう一つは、外交環境が中国の経済運営に直接影響を与える点です。中国経済は輸出や海外からの資源に大きく依存するため、対外関係の安定が成長の前提条件です。習近平政権が多国間主義を訴え平和的協調を掲げるのは、究極的には国内の経済発展という「党の命題」を支えるためでもあります。例えば米中対立が激化し関税や制裁が飛び交えば、中国のGDP成長率は数%低下し雇用にも悪影響が及ぶと予想されます。そうなれば国内の不満が高まりかねず、政権にとって脅威となります。そのため中国政府は、強硬姿勢といえども「自国経済への壊滅的な影響は避ける」(JIIAの分析)よう細心の注意を払っており、米国以外との経済関係を強化する余地を模索しています。実際、RCEP発効やEUとの投資協定推進、グローバルサウスとの貿易拡大などは、米国依存を下げリスク分散する戦略です。また国内で経済が減速すると、対外的には融和姿勢が出てくるという指摘もあります。景気が悪い時期には外国資本や市場が必要となるため、中国が国際協調に前向きになるとの見方です。一方、国内経済が好調な時期には強気の外交に出るという説もあり、経済と外交はシーソー関係にあるとも言われます。

さらに、中国の外交政策は国内の安全保障にも影響します。例えば米国との緊張が台湾海峡で高まれば、中国軍は備えを強化し軍事費も増大します。これは経済に負担となるだけでなく、万一衝突が起これば国内の社会安定が揺らぎます。また一帯一路で海外に進出した中国人や企業がテロや政変に巻き込まれるリスクも増えており、中国政府は自国民保護のための軍事・警備行動を余儀なくされるケースもあります。そうした対策は国内の安保態勢強化(例えば海軍力増強や民間警備会社の育成)につながっています。逆に言えば、外交面で平和と安定を維持できれば、国内の発展に集中できるため、習近平指導部は「発展に資する和平的国際環境づくり」を最終目的としています。外交の成果が国内経済の好循環を生めば、政権への支持も盤石となるでしょう。

総括すると、中国が2025年以降に追求する外交戦略は、国際社会において新たな勢力図とルールを形成しようとするものです。その野心的な試みは、多くの発展途上国には歓迎されつつ、先進国からは警戒をもって見られています。経済的・安全保障的な利益とともに、国際規範や価値観をめぐる競争も激化させています。国内的には、強大国としての威信が高まり人々の愛国心を刺激する半面、外部との軋轢が経済に跳ね返るリスクも孕んでいます。習近平政権はこれら光と影を慎重にマネジメントしつつ、「中国の夢」=中華民族の偉大な復興を実現すべく外交を駆使していくと考えられます。その行方は、米中関係の動向や国際社会の反応次第で変化し得るものの、少なくとも近未来において中国が世界の外交舞台で中心的プレーヤーであり続けることは間違いありません。その意味で、2025年以降の中国外交は世界秩序の行方を占う重要な鍵となるでしょう。

参考文献:最新の中国政府公式発表や政府系メディア報道、国際関係専門家の分析より作成(2024年後半~2025年4月)​asahi.comjetro.go.jpjp.reuters.combloomberg.co.jpbloomberg.co.jpjp.reuters.com

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