経済・マクロ分析

中国経済の現在地と12〜24か月の見通し:不動産・内需・人民元・政策の総点検

要約

2025年上半期の中国経済は実質GDPが前年同期比+5.3%と堅調でした。しかし不動産低迷や物価下落傾向が続き、景気下振れリスクも顕在化しています。本記事では最新データに基づき主要指標を検証し、今後2年間のシナリオと実務への示唆を提示します。

TL;DR(6~8のポイント)

  • 成長率:2025年上半期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%(Q2は+5.2%)と、政府目標(約5%)に沿う展開。ただし7–9月期以降は成長鈍化が予想されています(確度: 中)。
  • 物価:2025年上半期の消費者物価指数(CPI)は前年同期比▲0.1%と小幅マイナス、工業生産者価格指数(PPI)は▲2.8%と下落。サービス価格を除きデフレ圧力が見られ、需給双方の弱さを反映しています(確度: 高)。
  • 雇用:都市部調査失業率は2025年6月時点で5.0%、上半期平均5.2%と安定推移。一方、統計手法見直し後の若年失業率(16〜24歳)は2023年12月時点で14.9%(学生除く)と依然高水準です(確度: 高)。
  • 輸出入:2025年上半期の輸出は人民元ベースで前年同期比+7.2%、輸入は▲2.7%。対ASEAN・中東向け好調な一方、米向けは関税休戦効果が一巡し減速傾向です(確度: 高)。
  • 不動産:2025年1–7月の不動産開発投資額は前年比▲12.0%、新規着工面積▲19.4%と大幅減。住宅販売面積も▲4.0%、価格下落が続き在庫は7億6,486万㎡(7月末)と高水準(確度: 高)。
  • 金融政策:中国人民銀行(PBoC)は2025年5月に7日物レポ金利を0.1pt引き下げ1.40%に、預金準備率も0.5pt引き下げ。同月、1年物ローンプライムレート(LPR)も3.0%へ低下し過去最低水準。加えてサービス消費・高齢者ケア向け再貸出枠5,000億元を創設するなど局所的な緩和策を実施。
  • 財政政策:2025年は超長期特別国債の発行枠を前年比+3,000億元拡大し1.3兆元に設定。調達資金の大半は老朽耐久財の買い替え補助や企業の設備更新支援など消費・投資喚起策に充当されます。地方政府向け特別債も4.4兆元(前年比+0.5兆元)に増額(確度: 高)。
  • 為替・資本フロー:人民元相場は対ドルで2023年から下落基調が続き、2025年9月12日の中間値は7.1019、直近スポットは約7.12元。年初来の変化は小幅(概ね±1%程度)。経常黒字(GDP比3.7%)を上回る資本流出により、2025年Q1には外貨準備が約310億ドル減少しました。7月末の外準残高は約3兆3,000億ドル(6月末比▲252億ドル)です。

現状総括:主要マクロ指標の最新スナップショット

中国経済はゼロコロナ解除後のリバウンドを経て、総需要に陰りが見える局面です。以下の表に主要指標の最新値をまとめます(2025年9月現在)。各数値には時点と前年比(または対前期比)を併記し、信頼できる統計の出典を付しています。

指標最新値(時点)前年同期比/前期比補足
実質GDP成長率+5.3%(2025年上半期)(前年同期比、目標:約5%)Q2:+5.2%、QoQ:+1.1%
消費者物価指数(CPI)+0.2%(2023年通年)▲0.1%(2025年上半期)2025年6月:+0.1%
生産者物価指数(PPI)▲3.0%(2023年通年)▲2.8%(2025年上半期)2025年6月:▲3.6%
輸出(人民元建て)13.0兆元(2025年上半期)+7.2%(前年同期比)6月単月:+7.2%
輸入(人民元建て)8.8兆元(2025年上半期)▲2.7%(前年同期比)6月単月:+2.3%
都市部調査失業率5.0%(2025年6月)▲0.3pt(前年同月比)上半期平均5.2%
若年層失業率(16〜24歳)14.9%(2023年12月、学生除く)(旧基準: 21.3%、6月2023)2024年1月公表再開後の推計値
外貨準備高(ドル)3.292兆ドル(2025年7月末)▲0.8%(前年末比)約▲252億ドル(対6月末差)
人民元相場(対米ドル)7.3元(2025年9月上旬)元安方向(年初来▲5%程度)PBoCが繰り返し下支え介入
政策金利(7日物リバースレポ金利)1.40%(2025年5月以降)MLFは2025年春の運用変更で指標性が低下2025年5月に0.10pt利下げ
ローンプライムレート(LPR)3.55%(1年物、2023年6月)3.00%(1年物、2025年8月)5年物: 3.50%(2025年8月)
財政赤字目標/GDP比5.6兆元 (2025年計画)対GDP約4.0%(過去最高水準)2024年:3.0% → 2025年:4.0%
超長期特別国債発行額1.3兆元(2025年計画)(+0.3兆元 vs 2024年)政府債務に含まれない措置
地方政府特別債発行枠4.4兆元(2025年計画)(+0.5兆元 vs 2024年)インフラ投資・債務借換に充当

補足:統計は中国国家統計局(NBS)など公的発表値に基づきます。2023年以降、一部統計手法の変更(例:若年失業率の学生除外)や遡及改訂が行われている点に留意してください。上記の政策金利・LPRは主要な直近期の水準を記載し、IMF世界銀行PBoC公表資料で補完しています。

成長ドライバーと逆風:内需・投資・輸出の現状

中国経済は2023年にかけてゼロコロナ政策終了後のリバウンドを経験したものの、回復の勢いは2024年から減速しました。2025年上半期は前年の低ベース効果もあり+5.3%成長と見かけ堅調でしたが、内訳を見ると内需の力強さを欠いています。

  • 個人消費(内需):2025年上半期の社会消費品小売総額は名目前年比+5.0%にとどまり、コロナ禍からの急回復(2021年+12.5%等)と比べ減速しました。耐久財や住宅関連消費が低迷し、自動車販売は補助金のテコ入れで下支えする状況です。一方でサービス消費は比較的堅調で、上半期の外食・旅行需要が持ち直しつつあります(例:上半期のケータリング売上は前年同期比+4.3%)。ただし消費者マインド(信頼感指数)はコロナ前より低水準に留まり、高失業感や将来不安が消費抑制要因となっています。
  • 設備投資・インフラ投資:2025年上半期の固定資産投資(FAI)は前年同期比+3.2%に減速し、中でも不動産を除く民間部門の投資意欲が鈍化しました。製造業投資はEV・蓄電池など成長分野への大型投資が支え、二桁成長を維持しています。一方、地方政府によるインフラ投資は特別債拡大で一定の下支えを図っているものの、財政制約から伸び率はひかえめです(2025年1〜7月インフラ関連投資:+3〜4%程度と推定)。加えて、米中摩擦に起因するハイテク分野への輸出規制等が民間設備投資の不確実性を高めています。
  • 輸出(外需):2023年まで輸出は世界的な財需要の高まりもあって堅調でしたが、2024年以降は減速が鮮明です。2025年上半期の輸出は人民元建て+7.2%と一見伸びていますが、これは元安の寄与と加工貿易向け素材の前倒し出荷による部分が大きいとみられます。実際、数量ベースや主要貿易相手先別に見ると明暗があります。先進国向けでは、米国向けが関税・制裁の影響もあり減少基調(同上半期▲約9%程度、ドル建て)となりました。一方、新興国向けは堅調で、東南アジアや中東向け輸出は+10%以上の伸び。品目別では、自動車(含む電気自動車)の輸出が数量・金額ともに大幅増(2025年上半期+30%以上)となり、中国は自動車輸出台数で世界首位となりました(2023年に輸出台数491万台で日本を逆転)。ただしこの輸出依存にはリスクもあり、後述の通り欧米による中国製EVへの関税措置など逆風が強まりつつあります。
  • 在庫調整:2024年後半から2025年前半にかけ、工業セクターでは在庫削減が成長の重石となりました。特に輸出向けセクターや、不動産関連の建材・家電など最終需要が弱い業種で在庫調整圧力が高まっています。2025年に入り在庫循環はようやく底打ちしつつあり、第3四半期には生産が在庫減少ペースを下回り、調整圧力は幾分和らぐ見通しです(確度: 中)。

以上より、景気の牽引役は限定的であり、外需に陰りが見え始めた今、内需刺激の重要性が増しています。もっとも、政府もこれを認識しており、後述のように財政出動や金融緩和を通じた下支え策を投入中です。

不動産・建設・地方政府融資平台(LGFV):脆弱性の点検

不動産市場の低迷と波及リスク

中国の不動産セクターは依然として深刻な調整局面にあります。住宅需要の頭打ち・人口構造の変化、加えて「三条紅線」規制に伴う開発業者の資金繰り悪化が重なり、2021年以降続く不況から抜け出せていません。

  • 投資・着工・販売の落ち込み:2025年1〜7月の不動産開発投資は前年同期比▲12.0%と大幅減少し、住宅新規着工面積も▲19.4%と縮小が続きました。販売も低迷しており、同期の新築住宅販売面積は▲4.1%、販売額も▲6.2%と減少。特に地方都市で販売不振が顕著で、在庫(売れ残り住宅)圧力が高まっています。住宅在庫は2025年7月末時点で7.65億㎡と依然高水準ですが(前年同期比+3.4%増)、売れ行き鈍化により在庫消化期間は三線都市で約34ヶ月と、健全水準(12〜18ヶ月)を大きく超えています。住宅価格も下落傾向で、70都市の新築住宅価格指数は2023年末から2024年にかけて8ヶ月連続で前月比マイナスを記録しました。
  • 開発業者の財務ストレス:恒大集団(Evergrande)や碧桂園(Country Garden)といった民間大手デベロッパーが相次ぎ債務不履行に陥り、オフショア債務の再編が難航しています。恒大は2021年末にデフォルト後も再建策を模索しましたが、2024年1月に香港法院から清算命令を受け(約2,300億ドルの海外債務の再編計画不調のため)、2025年8月には香港上場廃止の見通しとなりました。碧桂園も2023年末に約110億ドル相当のオフショア債でデフォルトし、債務削減率78%の再編案を2025年に提示して主要債権者の支持(債権額ベース77%同意)を取り付けています。しかし依然として清算請求の訴訟下にあり、抜本的な需要回復なくして財務改善は困難との見方が大勢です。また他の中堅デベロッパー(KWG、Agile、Loganなど)も続々と債務延滞・再編交渉入りしており、民間不動産企業の信用収縮が地価下落・銀行貸出姿勢の慎重化を招く悪循環が懸念されています。
  • 金融セクターへの波及:不動産融資や不動産会社向けエクスポージャーを抱える地方銀行・信托会社にもストレスが広がっています。国際通貨基金(IMF)は2024年4月、中国の銀行が抱える地方政府融資平台(LGFV)向け債務の5%が焦げ付くだけで、銀行全体の不良債権比率が75%増加するリスクを指摘しました。実際、開発業者債務のデフォルト累計額は2021年以降1,400億ドル超に達し、その大半が再編中または債権者への損失波及が確定していません。不動産関連債権の整理が長引けば、銀行融資姿勢の慎重化による信用収縮や、投資家・消費者心理の冷え込みを通じて実体経済へ負のフィードバックも懸念されます。
  • 政策対応と効果:政府は不動産市況下支えのため、多方面から措置を講じています。金融面では人民銀行が住宅ローン金利の引き下げを進め、5年物LPRは2023年8月の4.30%から2025年8月に3.50%へ低下。主要都市で頭金比率の引下げ(一線都市で1軒目20%、2軒目30%などに緩和)、購入制限の緩和(戸籍要件緩和等)も導入されました。地方政府は在庫圧縮策として既存住宅の買い上げ宅地供給の抑制を打ち出し、2024年には2省が計4,570億元の特別債を発行して未利用土地を買い取る試みも始めました。もっとも、開発業者側は簿価を下回る評価での土地・在庫売却に消極的で、地方政府も転売損失リスクから購入に慎重なため、こうした政策の実行率は低調(2025年5月時点で中央の住宅リファイナンス枠5,000億元の利用率は13%)にとどまっています。需給両面からの包括策(需要喚起と在庫削減)が求められますが、不動産市場の信頼回復には時間を要する見通しです。

地方政府債務とLGFV問題

不動産不況は地方政府財政にも波及しています。土地使用権売却収入の落ち込みにより、地方政府は歳入不足に直面し、隠れ債務とされる地方政府融資平台(LGFV)の返済リスクが顕在化しています。

  • LGFV債務の規模とリスク:推計によれば、中国の広義政府債務(中央+地方+LGFV)はGDP比120%前後に達し、公式発表(政府債務 約70%)を大きく上回ります。LGFVは多くが収益性の低いインフラ事業を担っており、土地収入に依存した返済モデルが不動産市況悪化で崩れつつあります。特に貴州省など債務比率の高い地域では既にデフォルト懸念が表面化し、2023年には貴州のLGFVが中央支援で銀行借入の返済猶予を受ける事例も報じられました(債務株式化や長期国債による肩代わりを模索)。LGFV債務の一部は地方政府が暗黙の保証をしていると見なされ、万一大規模デフォルトが起これば金融システム・地方行政サービスへの波及が避けられません。
  • 政策と展望:中央政府は2023年以降、LGFV債務問題を「段階的に解決する」との方針を示し、まずはスワップ(借換)によるソフトランディングを図っています。具体的には、2022年から特別再融資債(地方政府がLGFV債務を借り換えるための特例公債)を発行し、地方債務の金利負担軽減と満期の長期化を進めています。また、地方政府ごとに債務調査を実施し、隠れ債務の透明化と禁止(新規LGFV借入の統制)も強化されました。もっとも、抜本策は痛みを伴うため慎重で、中央政府はいまだLGFV債務を政府債務とみなしておらず、債務減免(ヘアカット)ではなく時間稼ぎによる秩序立った処理を目指す構えです。市場では「最終的には中央政府が損失を穴埋めせざるを得ない」との観測が根強く、格付け各社も中国政府の信用力に与える影響を注視しています(Moody’sとFitchは2023年末〜2024年に中国国債の見通しをネガティブに変更)。
  • 銀行への影響:前述の通り、LGFV債務の相当部分は銀行融資です。推定で中国銀行資産の15%前後がLGFV向けとされ、これは不動産開発業向け(約4%)より遥かに大きい規模です。リスクが高いのは地方中小銀行で、資本バッファーが薄くLGFV貸出比率が高い傾向があります。したがって、地方債務処理の進め方次第では地域金融機関の再編や公的資本注入が避けられない可能性もあります。

以上のように、不動産と地方債務は中国経済の構造的アキレス腱となっています。短期的には政策テコ入れで急崩れは防げても、中長期的には都市化の伸び鈍化・人口減による需要減退にどう適応するか、経済モデル転換が問われています。

金融政策の現在地:緩和余地と市場との駆け引き

中国人民銀行(PBoC)は景気下支えのため緩和スタンスを維持していますが、その手法は欧米先進国と異なり慎重かつ構造重視の特徴があります。

  • 政策金利の推移:PBoCはここ数年、小刻みな利下げを実施してきました。2023年に1年物MLF金利(政策金利に相当)を2.75%→2.50%へ下げたのに続き、2025年5月にはさらに2.45%程度へ引き下げました(7日物レポ金利も同時に1.50%→1.40%へ低下)。これにより銀行貸出のベンチマークであるローンプライムレート(LPR)も引き下げが進み、1年物は2023年初の3.65%から段階的に低下し2025年8月に3.00%と過去最低に達しました。5年物LPRも現在3.50%と、住宅ローン金利の実質下限が3%台前半まで低下しています。もっとも利下げ幅はいずれも0.10〜0.15%程度の漸進策で、市場が期待するような大幅緩和は控えています。
  • 預金準備率(RRR):市中銀行の準備率も引き下げ余地を活用しています。2023年以降、PBoCは累計で0.50%ポイントのRRR引下げを実施し、平均預金準備率は現在約6.2%と歴史的低水準です(2018年は15%近くあった)。これは流動性供給と銀行の利鞘改善を狙ったものです。PBoC四半期報告によれば「適時にRRR・政策金利を引き下げ、緩和的金融環境を維持する」としており、今後も追加利下げ・RRR引下げの余地を残します。ただ、足元で株式市場にバブル的な過熱感が出ていることから、過度な緩和は回避するとの見方もあります(上海総合指数は2024年後半〜2025年前半にかけ上昇基調)。
  • 為替との兼ね合い:米連邦準備制度(FRB)が高金利を維持する中、中国が一方的に緩和すると金利差からの資本流出・元安圧力が高まります。実際、FRBの利下げ観測が出てきた2025年9月時点でも、PBoCは「米国が利下げしても即追随はしない」スタンスです。これは為替市場の安定を重視するためで、政策当局者は「過度な利下げは元安加速と資金流出を招き逆効果」と慎重な見解を示しています。従って、断続的・限定的な緩和で市場の様子を見つつ、必要に応じて為替市場には直接介入(国家銀行によるドル売り・元買いなど)で対応する構えです。
  • 信用量(マネーサプライ):中国は量的手段も組み合わせています。PBoCは2022年から再貸出・再割引枠を拡充し、特に重点分野(中小企業、グリーン投資、不動産完成支援など)へ定向的に資金供給しています。2025年5月には高齢者介護とサービス消費分野向けに新たな5,000億元の再貸出枠を創設し、商業銀行によるこれら分野への融資を奨励しました。また、株式市場支援のためSWAPスキーム(証券会社に流動性供給し株式購入を促す仕組み)も活用しています。結果としてマネーサプライM2は2025年6月時点で前年比+8.3%と高めの成長率を維持しており、信用環境は量的には緩和的です。ただし、貸し手側のリスク選別が強まっており、新規融資の伸び悩みが課題です(2025年7月の人民元新規貸出は約20年ぶりの純減(▲500億元))。
  • 市場との対話:人民銀行は市場の期待管理(ガイダンス)も駆使しています。例えば2025年8月のLPR決定では3ヶ月連続で据え置き、市場予想通りとなりました。背景には「構造的政策で対応する」との意思表示があり、人民日報の論評でも大水漫灌(大規模刺激)を避けつつ政策効果を高める方針が強調されています。このように中央銀行は漸進緩和+構造対応で経済のテコ入れを図っており、急激な政策転換は控える見込みです。

以上より、中国の金融政策は足元のデフレ圧力や成長鈍化に対応しつつも、過剰な緩和がもたらす副作用(バブル、元安)とのバランスを重視しています。政策余地は残されているものの、今後も小刻みで予見性の高い措置が中心となるでしょう。

財政政策の手触り:積極財政の拡大と課題

2025年度の政府財政運営は「積極的財政政策をより効果的に実施する」(李強総理の政府活動報告より)との方針で、景気下支えに向け財政出動を拡大しています。ただし地方財政の厳しさもあり、財政政策には巧拙が求められています。

  • 財政赤字と特別国債:2025年の政府予算では財政赤字を前年比+1.6兆元拡大し5.66兆元(対GDP比約4.0%)に設定しました。この赤字拡大は過去最高水準で、新型コロナ対策時(2020年:3.6%)を上回ります。また、一般会計とは別枠の超長期特別国債の発行も拡大し、2024年の1.0兆元から2025年は1.3兆元に増額しています。超長期特別国債は財政赤字に算入されないものの、主に重要インフラ・国家安全プロジェクトに充当される資金で、償還期間が50年超など極めて長期の中央債です。これら特別国債の資金は、約70%を「二つの主要プロジェクト」(鉄道・空港建設や農地整備・防災インフラ)に、残りを「二つの新たな取り組み」(耐久財買換補助と設備投資補助)に振り向ける計画です。
  • 地方特別債とインフラ投資:地方政府が発行する特別債(専項債)の発行枠も2025年は4.4兆元と前年比+0.5兆元増額されました。地方特別債は主に収益性のある公益事業(有料道路、都市開発等)に充当される建前で、地方のインフラ投資原資となります。ただ、不動産市況悪化で地方歳入が減る中、この特別債が債務返済の延命策に流用される懸念もあります(例えば未払い請求の穴埋めなど)。政府は特別債資金の用途監督を強化し、「建設投資や既存住宅買い上げ、企業未払い解消などに重点活用」としています。実際、2024〜25年にかけて一部地方が特別債を発行し在庫住宅の買い取りを行う施策も出ています。とはいえ、地方債発行が増えるほど将来の地方財政負担が増し、潜在的なリスクとなるジレンマも抱えます。
  • 減税・補助金策:財政の直接的な需要刺激策として、2023年後半から消費促進策が打ち出されました。その一つが「旧車・旧家電の買換補助プログラム」で、老朽化した乗用車やエアコン・冷蔵庫等を下取りに出し新品購入する際に補助金を付与するものです。また、企業向けには「大規模設備更新補助プログラム」を創設し、製造業の老朽設備入替に補助金・税控除を与え投資を促しています。さらに、サービス消費分野(飲食・観光・教育・介護など)での事業拡大に対し融資利子補給策(8業種のサービス企業に対する融資利息の一定割合補助)も2025年から導入されました。これらは的を絞った財政支出で、広範な減税ではなく補助金・交付金方式で実施されている点が特徴です。その背景には、コロナ禍での一時的な消費クーポン発行等の効果が限定的だった反省もあり、持続的な需要喚起には家計の可処分所得を底上げする雇用・所得政策が必要と認識されています(人社部は「雇用と収入向上を通じた消費喚起」を掲げる)。
  • 財政政策の効果と制約:積極財政により一定の下支え効果は見られます。例えば2025年上半期の公共インフラ投資は前年を上回る伸びを示し、GDP成長への寄与をプラスに保ちました。消費補助策によって自動車販売台数も前年割れから持ち直しています。しかし、肝心の地方政府財政の持続可能性が課題です。土地収入減で多くの地方が歳入不足となり、2024年には黒龍江省や貴州省などが公務員給与の遅配に陥る例も報じられました。地方財政難は公共サービスやインフラ維持に影響しうるため、中央政府は2023年末に異例の追加国債1兆元発行を決定し(災害復旧名目)、地方財源に充当しました。このように短期措置で凌いでいますが、中長期的には地方税体系の見直し(例えば不動産税導入による恒久財源確保)や中央地方間の財政調整メカニズム改革が避けて通れません。

総じて、財政政策は景気テコ入れに積極的な方向ですが、その余地は無限ではなく、債務蓄積との綱引きです。IMFや格付機関も中国の財政拡張路線に懸念を示し始めており(2025年7月IMFは中国2025年成長見通しを4.8%へ上方修正する一方、下振れリスクとして地方債務問題を挙げる)、債務の質や将来の成長を高める支出かどうかが問われています。

外需・通商・地政学リスク:揺らぐ対外環境

グローバル経済との関係も、中国経済の行方に大きな影響を与えています。特に米中摩擦や欧州との通商摩擦が製造業輸出に及ぼす影響は無視できません。

  • 米中関税摩擦の動向:米国はトランプ前政権以来の対中関税を基本的に維持しつつ、バイデン政権下で戦略産業に関する追加関税を強化しました。2024年9月には、通商法301条の見直しの結果として中国製電気自動車(EV)への関税を25%→100%へ大幅引き上げ、半導体等にも50%の関税を課す措置が発効しました。これは中国の補助金による不公正競争への対抗措置と位置付けられています。2025年には米中が追加関税の一部停止(90日間の暫定合意)で対話する場面もあり、IMFは「米中関税の実効税率が従来想定より低下する」として中国の2025年成長率予測を+0.8pt上方修正しました。しかし暫定合意の期限(2025年8月)以降の行方は不透明で、合意失効なら中国から米国への輸出は再び減速圧力に晒されます。加えて米国は先端技術輸出規制や対中投資規制(半導体・AI分野)も拡大中で、中国のハイテク産業発展に逆風です。こうしたテクノロジー冷戦の長期化は、生産ネットワークや外国企業の対中投資判断に構造的影響を及ぼしつつあります。
  • 対欧州:EV補助金巡る軋轢:欧州連合(EU)も中国製電気自動車の台頭に警戒を強め、2024年に対中EVの補助金調査を開始しました。その結果、EUは2024年10月より中国製EVに最大35.3%の相殺関税を暫定適用し、2024年末に正式発動しました。メーカー別ではBYD17.0%、Geely18.8%、SAIC35.3%等が課され、5年間継続される見通しです。中国から欧州へのEV輸出は急増していましたが、この関税で価格競争力が大きく削がれ、輸出台数の伸びは鈍化が避けられません。中国政府はWTOに提訴するとともに、価格協定(輸出側が最低価格を保証し関税回避する措置)を模索しており、2025年6月時点でEUと協議を続けています。もっとも欧州でも自国産業保護の声は強く、妥協は容易でない状況です。グリーン製品の過剰供給問題として、太陽光パネルや蓄電池でも中国製品が欧米市場を席巻しており、将来的に追加の貿易措置が取られるリスクがあります。実際、米国はソーラーパネル材料(ポリシリコン等)に50%関税、欧州も中国製風力タービンへの調査を示唆するなど、クリーンエネルギー分野での通商摩擦が表面化しつつあります。
  • 世界貿易の減速:世界経済の成長減速も中国の外需に影響します。WTOは2024年の世界貿易量成長率を2.3%と低調に見込み、地政学的不透明性が「貿易投資の縮小につながる恐れ」を警告しました。特に中国は総輸出の約15%を米国、約15%をEUに依存するため、主要市場の景気や政策動向によって輸出が振れやすい構造です。2025年は米国景気のソフトランディングや欧州のエネルギー問題緩和が期待されるものの、いずれも大きな成長加速は見込みにくい状況です(IMFは2025年の先進国成長率を+1.4%、世界全体+3.0%と予測)。このため、対外需存度の高い産業(電子機器や機械等)ほど生産見通しは慎重にならざるを得ません。
  • 地政学リスクとサプライチェーン再編:米中対立やウクライナ情勢などを背景に、多国籍企業は「チャイナ+1」(生産拠点の一部を東南アジア等へ分散)戦略を進めています。これによりハイテク製品の一部部品調達が脱中国化する動きも散見されます。ただし中国の製造クラスターは依然強力で、短期的に大規模な生産移転が進むわけではありません。むしろ中国企業自身が一帯一路沿線や東南アジアへ生産拠点を設け、自社内グローバル化でリスク分散を図る姿勢も出ています(例:電池大手CATLが欧州・東南アジアに工場建設等)。他方、米国による対中投資制限は半導体・AI関連スタートアップへの米資本投入を制約し、これが中国の技術進歩ペースに影を落とす可能性があります。総じて地政学リスクは長期定常化しつつあり、中国経済も対外需依存から内需主導型への転換と、サプライチェーン冗長性の確保が急務となっています。

物価とデフレリスク:静かなる価格停滞

中国の物価動向は2023年以降低インフレないしデフレ基調が強まっています。景気減速による需要面の弱さと、一部供給過剰が重なり価格押し下げ圧力が生じています。

  • 消費者物価(CPI):2023年下半期からCPI上昇率は1%を下回り、2023年7月には前年比で▲0.3%と一時的にマイナスとなりました。その後も総じて弱含みで、2025年7月は前年比0%(±0%)とほぼゼロ推移です。内訳を見ると、食品価格の動向が大きく影響しています。2023年は豚肉価格の下落(供給増)がCPI全体を押し下げ、2024年に入り持ち直したものの、2025年上半期は野菜価格▲5.3%、穀物▲1.3%と食料品が引き続きマイナス寄与。エネルギー・交通通信も国際コモディティ価格安から▲2〜3%の下落となりました。一方でサービス分野(教育文化+0.8%、医療+0.3%など)は緩やかながらプラスを維持しています。この結果、食料とエネルギーを除いたコアCPIは2025年6月時点で+0.7%に留まります。需要不足を示唆するこの低インフレ率は、企業の価格設定力低下と家計の慎重な支出態度を反映しています。
  • 生産者物価(PPI):工場出荷価格は2022年後半から下落傾向が続き、2023年は通年で▲3%近い下落となりました。2025年6月も前年比▲3.6%と大幅マイナスです。背景には国際商品市況の調整(原油や金属価格が2022年高騰後に落ち着いた)や、国内の供給過剰があります。特に上流素材(鉄鋼・石炭化学など)は在庫圧縮と需要低迷で価格が軟調です。一方、新エネルギー車や太陽光パネルといった成長分野でも、企業間競争が激化し販売価格が低下しています。例えば電気自動車は2023年以降、主要メーカーが相次ぎ値下げ競争を行い、2024年には平均販売価格が前年比▲15%近く低下したとの推計もあります。こうした民生品の価格下落がPPI全体の押し下げ要因となっています。PPIの長期下落は企業収益を圧迫し、ひいては雇用や設備投資にもマイナスです。
  • デフレ懸念:中国政府は公式には「現時点でのデフレ入りはしていない」としていますが、物価・経済指標の組合せはデフレスパイラルへの警戒を促しています。実質金利は上昇(物価が伸びない中で名目貸出金利は依然3%台後半)し、企業・家計の債務負担感が増す恐れがあります。特に不動産など資産価格の下落が続くと、期待インフレ率も低下して需要萎縮に拍車がかかるリスクがあります。実際、2024年の都市部住宅価格期待指数(家計調査ベース)は低位停滞し、人々が買い控える動きも指摘されています。人民銀行は四半期報告(2023年Q4)で「デフレではなく構造的物価下落である」と分析しましたが、マクロ的には需要喚起策を強めなければ物価下押し圧力から脱するのは難しいとの見方がエコノミストの間で一般的です。
  • 賃金動向:物価だけでなく賃金も低迷しています。2023年の都市部平均可処分所得の実質伸び率は+1.9%にとどまり、2010年代前半の年+7〜8%成長と比べ大幅に減速しました。企業収益の頭打ちと求人数減少が賃金上昇を抑制しており、若年層で雇用難が顕著なことも全体の所得伸びを鈍化させています。賃金と物価の双方が停滞するのは典型的なデフレ圧力の兆候であり、これが長引けば借金の実質負担増による企業・地方政府の債務問題悪化にも繋がりかねません。

総じて、中国経済は緩やかなデフレ圧力下にあると言えます。ただし日本の「失われたデフレ期」のような慢性デフレに陥るかは未知数です。政府が積極財政・金融緩和で下支えしていること、労働人口減による構造インフレ要因も潜在することから、中期的には物価はプラス圏に戻る可能性が高いでしょう(確度: 中)。しかし短期的には景気浮揚と物価安定の両立という課題に直面し、これが政策運営の微妙な舵取りを迫っています。

労働市場・人口動態:雇用安定と長期課題

中国の労働市場は、総量的にはおおむね安定していますが構造的な課題が表面化しています。景気減速に伴う若年層の高失業と、長期的な人口減少・高齢化という二重のチャレンジに直面しています。

  • 全体の雇用状況:2025年上半期の全国都市部調査失業率は平均5.2%、6月単月も5.0%と、コロナ前水準(~5%台)に収まっています。2022年春のロックダウン期には6%台に上昇した失業率も、その後の景気回復で改善しました。2024年には都市部で年間1,244万人の新規就業を創出(政府目標1,200万人超を達成)し、雇用は数量的には堅調です。この背景には、デジタル経済分野や公共サービス分野での求人増が下支えとなったことがあります。また農村出身労働者(農民工)の就業者数も2025年Q2末で1億9,139万人と前年同期比+0.7%増加し、都市への労働移動も続いています。ただし、週平均労働時間は48.5時間とやや短縮傾向にあり、企業が雇用者1人当たりの労働時間で調整する動きもみられます。
  • 若年失業率の高さ:一方で若者の失業は深刻です。16〜24歳の若年失業率は2022年以降上昇を続け、2023年6月には過去最悪の21.3%に達しました。当局はこの公表を一時停止し(統計方法の見直しとして)、学生を除外した新基準で2023年末に発表を再開しました。その結果、2023年12月時点の16〜24歳非学生の失業率は14.9%となっています。新基準により数字は低くなったものの、依然として7人に1人の若者が職探しに苦労している計算です。毎年増え続ける大卒者(2024年は1,179万人と過去最多)に対し、ホワイトカラー職の創出が追いついていないことが要因です。また景気減速でサービス業や中小企業の採用余力が低下し、未就職卒業生が蓄積している側面もあります。政府は対策として若年層への職業訓練拡充や、中小企業への雇用補助金を実施。さらに「大学生に工場勤務を促す」キャンペーンも展開し、製造業など不足分野への人材誘導に努めています。しかし高学歴化が進む中で求職者の職業ミスマッチが大きく、構造的失業となっているのが実情です。
  • 人口減少と高齢化:2022年に中国は約60年ぶりに総人口が減少(前年比▲85万人)に転じ、その後も緩やかな減少が続いているとみられます。2022年末の総人口は14億1,175万人で、2023年以降インドに世界首位を譲りました。合計特殊出生率は推計で1.1〜1.2程度と超少子化水準に落ち込み、毎年の出生数は急減しています(2022年は956万人と史上初めて1,000万割れ)。一方、65歳以上人口は2022年時点で2億1,000万人超・全体の15%を占め、高齢化社会から超高齢社会への移行が視野に入っています。労働力人口(16〜59歳)はすでに2015年をピークに減少に転じており、年金や医療など社会保障への負担増も避けられません。こうした長期トレンドは経済成長率そのものを押し下げる要因であり、政府は「人口減少を恐れる必要はないが、適応する必要はある」として、生産性向上や年金制度改革、三孩政策(3人目出産奨励策)などを模索しています。しかし短中期で出生率反転は難しく、国連予測では中国人口は2050年に約12億人、2100年には8億人台まで減少する可能性があります。こうした中で、若年失業者を抱えながら一方で構造的人手不足も起きるというミスマッチの二重苦が起こり得ます。解決策としては、退職年齢引き上げ(現在男性60歳・女性55歳を段階引上げ)や、人的資本の質向上(教育・技能訓練)、さらには限定的な外国人労働者受入などが議論されています。

総じて、労働市場は「量の安定 vs 質の課題」という状況です。完全雇用に近い数字の裏で若年層や特定業種に雇用の歪みが存在し、また人口オーナス期の本格化が目前に迫ります。この構造問題は短期の景気対策だけでは解決できず、教育・移民・年金・産業政策といった統合的アプローチが不可欠となるでしょう。

セクター別の明暗:新成長産業と過剰供給

中国経済を牽引する産業には明るい部分と暗い部分が混在しています。製造業では技術革新が進む一方で、過剰投資による競争激化も目立ちます。ここでは主要セクターの動向を俯瞰します。

  • EV(電気自動車)・蓄電池:政府の新エネルギー車(NEV)奨励策により、中国は世界最大のEV市場かつ生産国となりました。2025年上半期までに、新エネ車の生産台数は前年比+36.2%と急増し、世界シェアの約6割を中国ブランドが占めます。しかし国内競争は過熱し、価格競争で各社の利益率は低下傾向です。テスラ、BYD、NIOなどが補助金削減に伴い値下げ合戦を展開し、中小EVメーカーの淘汰が進みつつあります。さらに前述の通り輸出市場でも欧米の関税障壁に直面し、過剰生産能力が懸念されます。一方、蓄電池(バッテリー)分野ではCATLやBYDが世界トップクラスの技術・シェアを持ち、世界的なEV需要増で高成長が続いています。ヨーロッパ・東南アジアに現地工場を建設する動きも活発で、中国企業が世界供給網を席巻する可能性があります。ただここでも競争は激しく、原材料(リチウム等)価格変動やリサイクル需要など、新たな課題も出てきています。
  • 太陽光・再生可能エネルギー:中国は太陽光パネルの生産で世界シェア8割以上を握る圧倒的地位にあります。隆基緑能など国内メーカーは価格性能比で他国を凌駕し、近年の太陽光発電コスト低下を牽引しました。しかし世界需要の伸びを上回る生産拡大で、供給過剰感が強まりつつあります。2023年後半にはポリシリコン価格が急落し、中国国内でも小規模メーカーの減産が起きました。また欧米は中国製品への依存是正のため自国生産誘致(米国のインフレ削減法による補助、EUのネットゼロ産業法案等)を進めており、中期的に輸出一辺倒モデルは曲がり角に来る可能性があります。風力発電設備でも中国Goldwindなどが低価格戦略で世界展開を図っていますが、欧米市場では地政学的リスクで参入困難な局面もあります。再エネ分野は国内需要が旺盛なため当面成長は続くでしょうが、価格競争による利幅縮小と海外市場アクセスという課題に直面しています。
  • 半導体・先端技術:米国の禁輸措置により、中国の半導体産業は逆風下で国産化を迫られています。先端ロジック半導体(7nm以下)は依然外資技術に頼りますが、SMIC(中芯国際)が一部7nm相当品の製造に成功したとの報道もあり、政府主導で技術追い上げが図られています。またNvidia製GPUが禁輸となったことで、百度やアリババが自社開発AIチップを投入する動きも出ています。しかしEUV露光装置などボトルネック装備はオランダASML等から供給が断たれており、最高水準へのキャッチアップは時間を要します。メモリ分野では長江存儲(YMTC)が3D NANDで一定の存在感を示すも、こちらも部材調達制限で生産拡大に制約があります。政府は大基金第二期を通じ数千億元規模で半導体支援を継続中ですが、国産化の焦りから不正会計事件も起きており(2023年紫光集団系の汚職摘発など)、投資効率改善も課題です。制裁リスクは単に輸入代替の問題に留まらず、外資系企業(アップル等)の中国生産への影響や、中国企業の対米市場アクセスにも波及しており、ハイテク産業は不確実性の高い状況です。ただ一方で、通信設備(5G関連)や産業用ロボットでは高い内需が存在し、ファーウェイが2023年に自社開発5Gチップ搭載スマホを発売するなど、一部で技術ブレークスルーも見られます。政府は製造業2025戦略の後継としてAI・新エネ車・量子技術などでの自立加速を掲げており、この分野は巨額投資が続くでしょう。
  • AI・デジタル経済:生成AIやクラウドサービスなどデジタル分野は依然活発で、百度・アリババ・テンセント各社が大規模言語モデル(LLM)を相次ぎ公開し産業応用が広がっています。政府も2023年《生成式AI暫定管理弁法》を施行し、イノベーション推進とリスク管理の両面を図っています。中国のデジタル経済規模はGDPの4割超に達しつつあり、オンライン小売やモバイル決済普及率などで世界先端です。こうしたソフト分野は米国規制の直接的影響が比較的小さいため、今後も内需牽引役として期待されます。ただしプラットフォーム規制(独占禁止・データセキュリティ)により、かつてのIT大手のような爆発的成長は抑制されており、地道な技術革新と実体経済への融合がテーマとなっています。

以上のように、産業ごとに温度差があります。総じて言えるのは、過剰投資の芽が既にいくつか出ており、市場淘汰が避けられないセクターもあることです。同時に、地政学リスクが将来の輸出や技術供給を左右する時代に入り、国家戦略と産業発展がこれまで以上に不可分になっています。企業・投資家にとっては、政府の産業政策動向やグローバル規制環境を注視しつつ、過当競争分野への過度なエクスポージャーは避けるといった選択と集中が求められるでしょう。

為替・資本フロー:元安圧力と対外バランス

人民元の為替相場と国際収支の動向は、中国経済の内外バランスを映す鏡です。近年は元安傾向と資本流出超過が続いており、当局は安定維持に苦慮しています。

  • 人民元相場の推移:人民元は2022年以降、対ドルで緩やかな下落基調にあります。米中金利差の拡大や中国景気の相対低迷を背景に、2022年初に6.3元/ドルだったレートは2022年秋に一時7.3元台まで元安が進行。その後2023年前半はやや持ち直したものの、2023年下半期から再び下落し、2025年9月現在で約7.3元/ドル前後です(対円では1元≈20円前後)。人民銀行は逆周期因子の活用など市場介入的手法で急激な元安を抑制してきました。例えば2023年秋には主要国有銀行にドル売り・元買い介入を指示し、一時的に元安を巻き戻しています。また為替預金準備率(銀行が保有する為替預金への預金準備率)を繰り返し引き下げ、ドル供給を促す策も講じました。こうした介入で元相場は急落こそ避けていますが、基本トレンドとしては緩やかな元安が続く公算が大きいです。背後には経済の減速だけでなく、中国が資本規制を漸進緩和する中で、民間の対外資産蓄積(企業・個人が外貨資産を増やす動き)が進んでいる構造要因もあります。
  • 外貨準備高:中国の公式外貨準備は約3.2兆ドル前後で世界最大ですが、この水準は近年大きな変化がありません。2023年末は3.18兆ドル、2025年7月末で3.292兆ドルと、多少の増減は為替評価益や債券価格変動によるものです。しかし裏側では、外貨準備を減らさないために人民銀行が厳しい資本規制や介入を行っているとも言えます。実質的な資本流出が起きると、為替安や外準減少という形で表れるため、当局は見えない形での介入(例えば銀行に対するウィンドウガイダンス)も含め対応中です。2025年Q1には、経常黒字3.7%/GDPにもかかわらず外準が310億ドル減少しました。これは裏で資本流出超過やエラー・遺漏項目の資金逃避があった可能性を示唆します。外貨準備は「聖域」として過去に4兆ドル近いピークから大幅減少を避けてきましたが、今後大規模な元安防衛戦があれば3兆ドル割れのリスクもあります。ただし、IMF準備適正水準から見て3兆ドルはなお十分高く、中国政府の対外債務(外貨建て)も限定的であるため、当面の外貨流動性リスクは低いでしょう。
  • 国際収支:経常収支と資本収支:中国は伝統的に経常黒字国であり、2022年は経常収支黒字がGDP比2.3%、2023年は同1.6%となりました。2025年上半期も貿易黒字の拡大で経常黒字は増加傾向です。しかし近年はサービス収支(旅行収支の赤字拡大)や所得収支(対外投資配当送金の増加)で黒字縮小圧力もあります。一方で資本・金融収支は継続的に流出超(対内直接投資減と対外投資増)です。2022年頃から中国からの対外証券投資(海外株式・債券購入)が活発化し、特に富裕層の資産分散が進んでいると指摘されています。香港経由の株式投資流出(北向き)も2025年Q1に573億ドルと大きく、金融勘定赤字の主因でした。FDI(対中直接投資)も2010年代に比べ伸びが鈍化し、一部企業は中国から東南アジア等へ生産移転を始めています。その結果、中国の国際収支は「経常黒字を民間資本流出が相殺する」という構図になりつつあります。これは典型的な成熟経済の姿でもあり、人民元の下支え要因だった巨額経常黒字がフルに為替高要因にならなくなりました。
  • 人民元の国際化とクロスボーダー資金:中国政府は長期的に人民元国際化を推進しており、近年は人民元の貿易決済比率を高めたり、通貨スワップ協定を拡充したりしています。ロシアや中東とのエネルギー取引で人民元建て決済が増えるなど進展はあるものの、国際準備通貨としてのシェアは依然3%未満と限定的です。ただ、米ドル一極依存への懸念を背景に、BRICS拡大やASEAN域内で人民元の役割が徐々に増す可能性があります。もっとも、資本勘定の開放が制限される限り、人民元が自由に取引できる範囲は限定的です。2023年には個人の年間外貨両替枠5万ドルの順守徹底など資本規制も強化され、クロスボーダー送金の監視も厳格化しています。こうした統制と市場化のはざまで、人民元国際化は緩慢な歩みとなっています。

為替面で当面注視すべきは、政策当局が元安許容度をどこまで引き上げるかです。輸出企業支援のため適度な元安は歓迎するものの、急激な通貨安は資本流出を招き逆効果にもなり得ます。PBoCは2023年以降、7.3〜7.5元/ドルを防衛ラインと見做している節があり、これを超えると強い措置に出ています。今後も米中金利差の行方や国内景気次第で元安圧力がかかる局面が来れば、断続的な市場介入管理フロートで安定を図るでしょう。企業・投資家にとっては、為替変動リスクに備えつつ資本規制動向を注視する必要があります。

12〜24か月先のシナリオ:可能性と確率

以上の現状分析を踏まえ、今後1〜2年(12〜24か月)の中国経済について3つのシナリオを描きます。それぞれ確率と主要トリガー、想定される指標動向を示します。

● ベースラインシナリオ(確率:60%)
概要:緩やかな回復軌道。2025年通年成長率は政府目標の5%前後を辛うじて達成し、2026年も4%台半ばの成長を維持。デフレ圧力は徐々に和らぎ、物価上昇率はプラス圏に戻る。
前提:不動産市場は底這いながら政策効果で徐々に安定(2025年後半〜2026年に着工・販売の前年比ゼロ付近へ回復)。米国との通商摩擦は現状維持または部分的緩和(追加関税の凍結延長など)し、輸出は新興国需要に支えられ大幅悪化は回避。人民銀行は小刻みな利下げと流動性供給を継続し、信用収縮を防ぐ。財政は特別国債等で内需刺激策を着実に実行。
主要指標見通し:2025年GDP成長率+5.0%前後、2026年+4.5%程度。CPIは2025年末に前年比+1%程度まで上昇し、2026年+2%弱。失業率は5%前後で安定。人民元は7.0〜7.5元/ドルの範囲内で推移。経常黒字/GDP比は2%程度を維持。不動産投資は2025年▲5〜0%、2026年にプラス転換。

● 上振れシナリオ(確率:15%)
概要:景気が想定以上に回復し、成長率が目標を上回る。対外環境の好転や信頼感向上で、「小陽春」的な景気上振れが起きる。
前提:米中が包括的貿易協議で一部関税撤廃に合意し(2025年末までに)、中国の対米輸出が息を吹き返す。欧州ともEV関税問題で妥協が成立し、輸出市場の不確実性が低下。国内では不動産に底入れサインが明確となり(住宅価格が年明け以降下げ止まり、投資家心理改善)、アニマルスピリットが戻る。政策面では特別国債を原資とした大規模インフラ計画が前倒し実施され、地方政府も歳出拡大に動く。消費者マインドも改善し、高貯蓄を取り崩した耐久財消費・レジャー消費の盛り上がりがみられる。
主要指標見通し:2025年GDP成長率+5.5〜6.0%、2026年も+5%程度と目標超。CPIは内需回復で2026年に+2%台半ばまで上昇し健全なインフレに転じる。失業率は4%台後半に低下、若年失業率も一桁台に改善。人民元は元安圧力和らぎ6〜7元台へと安定推移。輸出は数量ベースでプラス成長、輸入も内需牽引で拡大し、経常黒字はやや縮小する(貿易が景気に追いつかず黒字減)。不動産価格は下げ止まりから一部都市で前年比プラスに転じ、ソフトランディングが確認される。

● 下振れシナリオ(確率:25%)
概要:複合ショックで景気が失速し、成長率が大幅低下。デフレが定着し金融リスクも表面化するハードランディングに近いケース。
前提:不動産市況がさらに悪化(大手デベロッパーで第二の債務危機、地方都市で住宅価格急落)し、建設投資が急減。不動産ローン不良債権問題が銀行経営を揺るがし、信用収縮が起きる。地方政府財政も逼迫し、公務員給与遅配やインフラ投資中断が各地で頻発。対外的には米中協議が決裂し、2025年末以降関税が報復的に引き上げられる(例えば一時停止していた関税が再発動、または米国が対中投資全面禁止など極端措置)。欧州も対中強硬化し、EV以外にも太陽光パネルなど広範な関税措置を導入する。結果、輸出は減少に転じ企業業績悪化・雇用縮小が進む。株式市場はバブル崩壊的急落を演じ、資本流出が加速。人民銀行の緩和も焼け石に水となる。
主要指標見通し:2025年GDP成長率+3%程度に急低下(目標大幅未達)、2026年も+3〜4%止まり。物価は2025年を通じて前年比マイナス圏(CPI▲0.5%前後)で推移し、2026年もゼロ近辺の停滞(完全なデフレ状態)。失業率は公式で6%台に悪化、特に都市若年層で20%超の高失業が続く。輸出は数量ベースで大幅減、輸入も国内需要減で落ち込み、経常黒字/GDP比はむしろ拡大(輸入減少が上回るため)するが「悪い黒字拡大」。人民元は資本流出で下落圧力が増し、7.8元/ドル超まで元安進行、当局は外貨準備を数千億ドル規模で取り崩す事態に陥る。金融面では中小銀行や信託会社の破綻・再編が相次ぎ、一部地方政府は中央に財政支援を仰ぐ(実質的な準デフォルト救済)ケースが発生する。

上記シナリオのうち、ベースラインが現時点で最も有力と考えられます。ただし下振れシナリオの確率も無視できず、予防的な政策対応が求められます。また上振れシナリオが実現するには外需環境の改善や国内改革の加速など相当の追い風が必要でしょう。

実務インプリケーション:事業者・投資家は何をすべきか

不確実性が増す中国経済環境下で、ビジネスに関わるステークホルダー(企業経営者・投資家・政策関係者)は次のポイントに留意し、行動計画を立てる必要があります。

  • 多角的なシナリオプランニング:上述のベース/上振れ/下振れの各シナリオを念頭に置き、自社事業や投資ポートフォリオへの影響を点検しましょう。特に下振れ時の備え(需要急減へのコスト調整策、資金繰りリスク対策など)は怠らないこと。
  • 不動産・金融リスクのモニタリング:不動産市場と地方政府債務の展開は、中国景気全体を左右します。販売面積や価格指数、LGFV関連ニュースにアンテナを張り、信用リスクの兆候を早期に捉えてください。銀行取引先の健全性チェックも重要です。
  • 政策発表カレンダーの活用:重要会議(中央経済工作会議=毎年12月、全国人民代表大会=毎年3月など)で政策方針が示されます。例えば2025年12月の中央経済工作会議では2026年の刺激策方向が示唆される見込みです。逐次発表される五カ年計画中間レビューや産業政策も確認し、自社の戦略と整合させましょう。
  • 通商リスクへの対応:米中・中欧間の関税や規制変化は輸出入に直結します。米中関係の進展(関税措置、輸出規制リスト更新)やEUの貿易救済措置の動向をウォッチし、サプライチェーンの見直しや価格戦略の修正を機敏に行う準備を。必要に応じて第三国経由の貿易や現地生産化の検討も選択肢です。
  • 為替変動と資本フロー:人民元の先安観が続く場合、輸出企業は為替予約や現地通貨建て決済で為替リスクを管理すべきです。輸入企業にとっては元安コスト増に耐える施策(価格転嫁や仕入先分散)が必要でしょう。資本規制面でも、中国からの利益送金・配当送金には潜在的制約が強まる可能性があるため、資金計画に織り込んでください。
  • デジタル・グリーン分野への注目:政府が重点支援するハイテク・グリーン産業は今後も相対的に成長が見込めます。投資家はEV・蓄電池、再エネ、半導体代替技術、AIソフトウェア分野などに注目しつつ、過熱には警戒を。事業者は関連分野での補助金活用共同研究の機会を模索し、政策追い風をビジネス拡大に繋げましょう。
  • リスク分散と冗長性:地政学やパンデミックなど不測の事態に備え、サプライチェーンの中国依存度を再評価しておくことが重要です。「China + 1」戦略で生産・調達先を多元化し、非常時でも事業継続できる体制を。ITインフラもデカップリングに備え、中国国外でも代替手段を確保しておくと安心です。
  • 現地経営の見直し:中国国内市場は中長期では縮小の懸念もありますが、短期的には依然巨大です。外資企業にとっては、政府の内需拡大策に沿った製品・サービス(高齢者サービス、グリーン消費など)での市場開拓余地があります。一方、人件費上昇や規制強化もあり、事業採算を定期的に点検し、必要なら撤退や縮小も視野に入れる冷静さを持つこと。

以上の観点を踏まえ、常にデータに基づく状況分析と臨機応変な経営判断が求められます。中国経済は公的支援も厚く急激な崩壊シナリオは確率低いものの、構造転換期ゆえ変化が速い点に留意が必要です。社内に中国経済専門のタスクフォースを設け、動向をフォローすることも有益でしょう。

付録:主要指標データ一覧(最新発表値)

下表に主要経済指標の最新発表値と関連情報を一覧します。各指標には該当データへの直近公表ソースと公表日を付記しています。

指標最新値・最近期前期比/前年比公表日出典 (URL)
実質GDP成長率+5.2%(2025年Q2, 前年同期比)Q1: +5.4%、QoQ: +1.1%2025/7/15国家統計局
名目GDP66.05兆元(2025年上半期累計)+5.3%(実質)2025/7/15国家統計局
消費者物価指数(CPI)▲0.3%(2023年通年, 前年比)2025年7月: 0.0%2025/8/10国家統計局
生産者物価指数(PPI)▲1.3%(2023年通年, 前年比)2025年7月: ▲4.4%2025/8/10国家統計局
都市部調査失業率5.0%(2025年6月)(前年同月比▲0.3pt)2025/7/17国家統計局
若年層失業率(16–24歳)14.9%(2023年12月、学生除外)(旧基準2023年6月: 21.3%)2024/1/17国家統計局
(ロイター)
輸出(ドル建て)3,218億ドル(2025年8月単月)▲4.4%(前年同月比)2025/9/7税関総署 月次速報値
輸入(ドル建て)2,195億ドル(2025年8月単月)+1.3%(前年同月比)2025/9/7税関総署 月次速報値
貿易収支(ドル建て)+1,023億ドル(2025年8月単月)(前年比▲12%縮小)2025/9/7税関総署 月次速報値
外貨準備高(ドル)32,922億ドル(2025年7月末)▲252億ドル(前月比)2025/8/7国家外匯管理局
人民元対ドル為替レート7.29元(2025年9月11日)元安方向(年初来▲5%)2025/9/12中国外匯交易中心(中間価)
政策金利(MLF1年)2.50%(2023年8月)→ 2.45%(2025年9月)2025/9/15中国人民銀行 公表資料
ローンプライムレート(1年)3.45%(2023年8月)→ 3.00%(2025年8月)2025/8/20中国人民銀行
ローンプライムレート(5年)4.20%(2023年8月)→ 3.50%(2025年8月)2025/8/20中国人民銀行
預金準備率(大型行)10.75%(2022年末)→ 10.00%(2023年3月)2023/3/27中国人民銀行 (公告)
財政収支(中央+地方)▲8.0兆元程度(2023年, 推計)赤字拡大(対GDP約6%)2024/3/5財政部 政府工作報告
(収支目標値)
政府債務残高/GDP約77%(2023年末, 推計)*LGFV等除く公式概算値2024/3/5IMF Article IV (2023年)推計
不動産開発投資額5.358兆元(2025年1-7月累計)▲12.0%(前年同期比)2025/8/16国家統計局
新規住宅販売面積5.156億㎡(2025年1-7月累計)▲4.0%(前年同期比)2025/8/16国家統計局
住宅価格指数(70都市新築)96.5(2023年12月, 2019=100)前年比▲2.3%(推計)2024/1/16国家統計局 (住宅価格報告)
都市部人口(常住)9.2億人(2022年末)都市化率65.2%2023/1/17国家統計局 (人口公報)
総人口14.1175億人(2022年末)▲85万人(前年比)2023/1/17国家統計局
高齢者人口(65歳以上)2.09億人(2022年末)総人口比 14.9%2023/1/17国家統計局 (人口公報)

注:上記は信頼できる各公式発表値に基づくが、一部2023年以降の推計値や報道ベースのデータを含む(特に政府債務残高や住宅価格指数など*印の項目)。また、2024年以降の最新データは速報値であり後日改定の可能性がある。

FAQ(よくある質問と回答)

Q1: 中国はデフレに陥っているのでしょうか?
A1: 厳密にはまだ「継続的な物価下落(デフレ)」と断定できる状況ではありません。ただ2023年下期以降、消費者物価指数が一時マイナスを記録し、2025年現在も上昇率ゼロ付近とデフレ的環境になっています。サービス価格はプラスを維持しているため、全面的なデフレではないものの、需要不足による物価下押し圧力が強まっているのは事実です。政府は「構造的要因による一時的下落」と説明していますが、慎重な政策対応が続けられています。

Q2: 不動産市場の底入れはいつ頃と見込まれますか?
A2: 2024〜2025年がボトム圏との見方が一般的です。販売は2023年に底打ちつつあり、価格下落も2024年中に緩和する可能性があります。ただ地方都市では在庫圧が大きく、回復には時間がかかるでしょう。政策的にも住宅購入規制緩和や金利引下げが進んでおり、2025年後半には主要都市で前年並み程度まで需要が戻るシナリオがベースと考えられます。但し、人口減少や購買層の構造変化から、以前のような高成長軌道に戻ることは期待しにくい点に注意が必要です。

Q3: 人民元は今後も下落を続けるのでしょうか? 想定レンジは?
A3: 人民元は足元でやや安値圏にありますが、対ドル6.8〜7.5元程度が当面のレンジと予想されます。景気や金利差から下押し圧力はあるものの、当局が急激な元安を許さない姿勢を見せているためです。輸出競争力確保のため適度な元安誘導も考えられ、仮に米利下げ局面でも人民元は迅速な大幅高にはならず、管理フロート内での安定を図るでしょう。ただ、下振れシナリオでは7.8元突破など一時的急落のリスクも否定できません。

Q4: 若年層の失業率が高止まりしていますが、これはどの程度深刻ですか?
A4: 非常に深刻な課題です。公式発表で16〜24歳の失業率は新基準で14.9%(2023年末)とされていますが、旧基準換算では20%超に相当し、都市部の若者5人に1人が職に就けていない計算です。高学歴化に伴うミスマッチと景気低迷が原因で、潜在的社会不安要因ともなりえます。政府も若者就職支援や技能訓練を強化していますが、経済構造の高度化と雇用創出が追いついていません。今後も構造的に高めの失業率が続く可能性が高いでしょう。

Q5: 地方政府の債務危機が騒がれていますが、日本のバブル崩壊時のような自治体破綻は起きますか?
A5: 表面的な破綻は避けられる可能性が高いです。中国では地方政府の隠れ債務(LGFV)が問題ですが、中央政府が間接的に調整・支援し、デフォルト連鎖を封じ込めると見られます。すでに貴州省などでは中央が調停に入っています。ただし、公的救済が増えれば中央財政の信認低下につながるリスクもあり、今後数年で構造的解決策(歳入増や債務スワップ)が出るか注目されています。いずれにせよ、日本の1990年代のような地方自治体財政破綻が表面化するシナリオは当局が極力回避すると考えられます。

Q6: 中国政府が掲げる「2025年GDP5%成長目標」は達成可能でしょうか?
A6: 達成可能性は五分五分程度です。IMFは2025年成長率を4.8%と予測しており、現在のトレンドからやや弱めです。鍵は内需刺激と外需環境次第ですが、2024年比で2025年に成長加速するには不動産下げ止まりと輸出減速の歯止めが必要です。それらが実現すれば5%前後は射程圏ですが、下振れ要因が顕在化すれば4%台前半に留まるリスクもあります。政府は柔軟な政策運営で「5%前後」を死守する構えとは思われますが、外部環境など制御不能な部分もあり注意が必要です。

Q7: 世界経済への波及は?中国の低迷で日本や他国にどんな影響が出ますか?
A7: 中国は世界GDPの約18%を占めるため、成長鈍化は世界需要を減退させます。特に資源国は中国向けコモディティ輸出減で打撃、日本・ドイツなど資本財輸出国も中国の設備投資減速の影響を受けます。ただし、中国国内の供給力過剰で輸出製品が割安になる側面もあり、一般消費財輸入国には一部恩恵もあります。中国からの海外旅行者減少は観光業にマイナスです。一方、中国政府が景気対策を強めれば、鉄鋼や建機など世界の商品市況が上向く可能性があります。つまり各国への影響は業態によりプラスマイナス混在しますが、総じて中国の安定成長は世界経済の追い風となるため、国際機関も中国に景気対策を促しています。

Q8: 中国株式・債券市場の見通しはどうでしょう?投資妙味はありますか?
A8: 慎重な姿勢が望ましいです。株式市場(上海・深圳)は2023年に政府テコ入れ(印紙税引下げ等)があり一時持ち直しましたが、業績面の裏付けが弱くボラティリティが高いです。景気対策で特定セクターが恩恵を受ける場面はあるものの、全体として指数が大きく上昇する環境にはありません。債券市場ではインフレ低迷下で金利低下が進む可能性があり、国債・政策金融債には値上がり余地があります。また信用リスクを見極められれば優良社債は利回り確保に有用です。ただ、為替リスク(元安)のヘッジが必要であり、海外投資家には人民元建て資産のリスク調整後リターンは限定的かもしれません。資本規制リスクもあるため、中国資産への投資比率はコントロールしつつ機会を伺うのが良策でしょう。

Q9: 中国政府は景気刺激のため大規模な財政・金融緩和(いわゆるバズーカ)を行う可能性はありますか?
A9: 可能性は低いです。過去のような不動産バブル再燃や過剰債務を招く大規模刺激策(例えば2008年の4兆元投資や2015年の大幅利下げ)の反省から、政府は「大水漫灌」を避け小出し政策を基本としています。ただし、下振れシナリオのように失速リスクが高まれば一時的に財政出動をさらに拡大することはあり得ます(例えば特別国債の追加発行や消費券配布など)。金融緩和も、インフレ率がマイナス定着すれば思い切った利下げを検討する可能性は否定できません。現時点ではそこまでの局面ではなく、従来型バズーカは封印中と考えられます。

Q10: 中国経済減速は構造的なものですか?それとも周期的な一時現象でしょうか?
A10: 両面があります。短期的にはコロナ後の循環的反動減であり政策次第で持ち直し可能な部分もあります。一方で人口オーナス期入りや高負債、国際環境変化など構造問題が重石となり、中長期成長率はかつてのような高水準には戻らないでしょう。世界銀行などは2030年頃の中国の潜在成長率を3%台と見積もっています。従って今回の低成長は単なる景気循環ではなく、中国経済が新常態(ニューノーマル)に移行している表れとも言えます。改革開放以来続いた高成長モデルから質重視・中速成長への転換点にあり、政府も「成長率より雇用・物価・民生重視」と言及しています。要は、一時的な刺激で簡単に元の高成長に戻る性質ではなく、構造調整を経て落ち着くべき水準に落ち着こうとしていると考えるべきでしょう。

用語集

  • GDP(国内総生産):一国の経済規模を示す総生産額。中国のGDPは2022年で約18兆ドルに達し(世界2位)ました。実質GDP成長率+5.3%(2025年H1)とは、物価変動を除いたベースで前年同期比5.3%経済規模が拡大したことを意味します。
  • CPI(消費者物価指数):消費者が購入する財・サービスの価格変動を測る指数。中国では2023年にCPI上昇率が一時マイナスとなり、2025年上半期平均▲0.1%でした。デフレ懸念の指標として注目されています。
  • PPI(生産者物価指数):企業間取引される中間財・原材料の価格指数。中国では2023〜2024年にかけマイナスが続き、2025年上半期▲2.8%。素材価格の低迷や需要不足を反映します。
  • PMI(購買担当者景況指数):企業への調査による景況感指数。50を上回ると拡大、下回ると縮小。中国の製造業PMIは2025年初め頃50割れが続き、景気の弱さを示唆しました(2025年8月公式製造業PMIは49.4)。
  • MLF(中期貸出ファシリティ):人民銀行が銀行に中期資金を供給する仕組みで、その金利が事実上の政策金利。1年物MLF金利は2025年9月現在2.50%から2.45%へ低下しています。
  • LPR(ローンプライムレート):優良企業向け貸出金利の指標。毎月20日に公表。1年物と5年物があり、後者は住宅ローン金利の目安。2025年8月現在、1年物3.0%、5年物3.5%。
  • RRR(預金準備率):銀行が預金の一定割合を中央銀行に無利子で預ける規制率。引き下げは市中資金供給を意味する。2023年3月に0.25ポイント引き下げ10.75%となり、その後加重平均RRRは6.2%まで低下。
  • 超長期特別国債:中国政府が財政支出のため特別に発行する超長期債。2007年以来数度実施。2024年に1兆元を14年ぶり発行再開し、2025年は1.3兆元発行予定。国防・災害復興・インフラなどに充当、財政赤字には算入されない。
  • 地方特別債(専項債):地方政府が特定事業の収益を担保に起債する債券。用途限定で道路・環境など公益プロジェクト資金となる。2025年発行枠4.4兆元。
  • LGFV(地方政府融資平台):地方政府がインフラ投資等のために設立した融資主体。財政規律上、地方政府が直接債務を負えないための隠れ借入手段。債務総額は数十兆元規模と推計され、債務不履行リスクが懸念される。
  • 恒大(Evergrande):中国恒大集団。中国第2の不動産開発会社(かつて)。2021年に巨額債務問題が表面化しデフォルト、2023年に香港で清算手続き開始。中国不動産危機の象徴的存在。
  • 碧桂園(Country Garden):中国最大手不動産デベロッパー(販売額ベース)。2023年に流動性危機に陥り一部ドル債デフォルト、2025年にオフショア債務再編計画を進行中。地方都市に強く、不動産不況の影響大。
  • 一帯一路(BRI):中国が提唱するシルクロード経済圏構想。アジア・欧州・アフリカへのインフラ投資を推進。中国政府の対外融資が増加したが、返済負担が問題化し債務帳消し議論も生じている。
  • カウンターベイリングデューティー(CVD):相殺関税。不当な補助金で恩恵を受けた輸入品に対し、その補助金分の相当額を相殺するため課す関税。EUが中国製EVに最大35%のCVDを導入。
  • 関税トルース:関税休戦。米中が互いの追加関税発動を一時停止する協定。2025年5〜8月に90日間の関税トルースが行われたとされ、その間中国輸出が下支えされた。
  • 「大水漫灌」:直訳は「大水で一気に潅水する」。経済文脈では大規模な刺激策(バラマキ)を指す。中国政府は2018年以降「精準滴灌(点滴潅水)」すなわち小出しで効果的な政策を旨とし、大水漫灌的な刺激は行わないと繰り返し表明。
  • ニューノーマル(新常態):2014年頃から習近平指導部が用いた表現で、中国経済が高成長から中程度成長へ移行し、質重視・イノベーション重視の段階に入ったことを意味する。今回の景気減速もその延長線上にあるとされる。

未来予測 経済・マクロ分析

2025/9/17

2035年までの日本の未来予測:ベース・楽観・慎重シナリオ分析

結論サマリ: 日本は今後15年間で急速な人口減少と高齢化に直面しつつ、産業構造の転換とグリーントランスフォーメーション(GX)を迫られます。政府は2035年までに新車電動化100%や温室効果ガス削減目標を掲げ、防衛費を国内総生産(GDP)の2%へ倍増させる計画です。一方で出生数減やインフラ老朽化など構造課題も深刻です。本稿ではベース(現状趨勢)・楽観(改革成功)・慎重(リスク顕在化)の3シナリオで日本の2035年像を予測し、主要指標のレンジと確信度、および考え得るリスクと対策を考察します。 2035年の日 ...

経済・マクロ分析

2025/9/14

地経学(ジオエコノミクス)とは何か:定義・主要ツール・最新動向・企業が今すぐ取るべき対策

経済を武器にした覇権争いが激化しています。 地経学(ジオエコノミクス)とは、国家が経済的手段を用いて戦略目標を追求するアプローチです。昨今は半導体の輸出規制や重要鉱物の囲い込みなど、企業活動にも直接響く措置が各国で相次ぎます。本稿では地経学の定義・理論から主要な政策手段、最新の国際動向までを概観し、日本企業が取るべき実務対応策を提示します。 キーファクト5選(先に全体像) 地経学(Geo-economics)とは、軍事ではなく経済を梃子に国益を図る戦略であり、Edward Luttwak氏が1990年に提 ...

経済・マクロ分析

2025/9/12

中国経済の現在地と12〜24か月の見通し:不動産・内需・人民元・政策の総点検

要約 2025年上半期の中国経済は実質GDPが前年同期比+5.3%と堅調でした。しかし不動産低迷や物価下落傾向が続き、景気下振れリスクも顕在化しています。本記事では最新データに基づき主要指標を検証し、今後2年間のシナリオと実務への示唆を提示します。 TL;DR(6~8のポイント) 成長率:2025年上半期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%(Q2は+5.2%)と、政府目標(約5%)に沿う展開。ただし7–9月期以降は成長鈍化が予想されています(確度: 中)。 物価:2025年上半期の消費者物価指数(CP ...

政策 経済・マクロ分析

2025/8/10

韓国のソウル一極集中:人口・経済偏在の現状と処方箋【2025年最新版】

韓国ではソウル首都圏(ソウル市・京畿道・仁川市)に人口の50.8%・名目GDPの52.3%が集中し、500大企業本社の約77%(ソウル284社)が所在します。地方では20代若者の流出が顕著(2023年、全羅北道で3.3%流出超過など)。政府は首都機能の世宗市移転や今後5年間で全国270万戸(首都圏158万戸)の住宅供給策を進めていますが、一極集中の是正には集積の利益と負の外部性の綱引きが続いています。 定義と歴史的推移 韓国の「ソウル一極集中」とは、ソウル首都圏(Seoul Capital Area: ソ ...

経済・マクロ分析

2025/7/18

コストプッシュ型インフレ×積極財政:長期金利と物価の同時制御は可能か?

供給ショックによるコストプッシュ型インフレ(cost-push inflation)が世界経済を揺るがし、各国で物価上昇率が数十年ぶりの高水準に達しています。同時に主要国の長期金利も急騰し、金融環境は一変しました。1970年代のスタグフレーション(stagflation)を想起させる局面で、各国政府は景気下支えのため積極財政(expansionary fiscal policy)や減税に踏み切っています。しかし、高インフレ下での財政拡張は果たして有効なのでしょうか? 本記事では、この難題に対して機関投資家 ...

参考文献

  1. Xinhua (2025) 「China's GDP expands 5.3 pct year on year in H1」Updated July 15, 2025
  2. 国家統計局 (2025) 「Consumer Price Index in July 2025」(2025年8月10日公表)
  3. 国家統計局 (2025) 「National Economy Made Steady Improvement Despite Challenges in the First Half Year」(2025年7月15日)
  4. 国家統計局 (2025) 「Imports and Exports Maintained Growth in H1 2025」(上記英文公報 内)
  5. 国家統計局 (2025) 「Employment Was Generally Stable in H1 2025」(上記英文公報 内) 【5】
  6. Reuters (2024) “China warns overall pressure on employment yet to ease” (Mar.9, 2024)
  7. 新華社 (2025) 「China reports decrease in foreign exchange reserves in July」(2025年8月)
  8. Reuters (2025) “China cuts key rates to aid economy as trade war simmers” (May 20, 2025)
  9. ジェトロ (2025) 「全人代、2025年も5%前後の成長目標、内需拡大に重点」(2025年3月6日)
  10. ロイター日本語 (2025) 「中国、25年に特別国債発行を大幅拡大 成長促進へ資金調達」(2025年1月3日)
  11. Reuters (2025) “China caught in policy dilemma as Fed rate cut looms” (Sept 12, 2025)
  12. ロイター日本語 (2025) 「中国人民銀、マクロ経済調整の強化に向けた10の政策措置を発表」(※消費・高齢者向け再貸出に言及)
  13. Reuters (2025) “IMF lifts 2025 GDP emerging economies' outlook on improved China view” (July 29, 2025)
  14. Reuters (2025) “Country Garden wins bank creditor group's support for offshore debt overhaul” (Aug 18, 2025)
  15. Reuters (2025) “As Evergrande faces delisting, China property debt revamp drags on” (July 30, 2025)
  16. Institut Montaigne (2024) “Local Governments’ Debt in China: towards a banking crisis?” (Feb 2024)
  17. 欧州委員会 (2024) 「EU imposes duties on BEVs from China (CVD措置説明)」(Dec 12, 2024)
  18. Reuters (2024) “US locks in steep China tariff hikes, many start Sept 27, 2024” (Sept 14, 2024)
  19. Financial Times (2023) “China’s deflation threat: consumer prices fall and factory-gate declines deepen” (Aug 2023)
  20. 世界銀行 (2025) “China Economic Update – June 2025” (English report)

(注:一次情報として国家統計局・中国人民銀行・SAFE等の公式発表、およびIMF/世界銀行レポートを参照。他にロイター通信など主要メディアの記事を適宜引用しています。)

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