
はじめに
気候変動への対応やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現に向けて、環境技術の最新動向はかつてないほど重要視されています。各国政府・企業は再生可能エネルギーの導入・普及だけでなく、産業プロセスや運輸分野からの排出削減にも積極的に取り組んでおり、残余排出の対策として新技術の開発・導入が急務となっています。特に2025年以降、日本が掲げる2050年カーボンニュートラルの達成や2030年度目標達成のためには、最新技術の活用が求められています。ここでは、2025年以降に注目される6つの環境技術トレンドを、技術概要や市場規模、成熟度、政策動向、導入事例、課題の観点から詳しく解説します。
1. CCUS(Carbon Capture, Utilisation & Storage)
- 技術概要: CCUSは石炭火力発電所や製鉄所、化学プラントなどの排出源からCO₂を分離・回収し、地中に貯留(貯蔵)したり、化学品製造等に再利用したりする技術です。石炭・ガスなどの燃料燃焼や産業プロセスで生じるCO₂を直接低減できる点が特徴で、実現には分離・捕集、輸送、貯留といった一連のバリューチェーンが必要です。
- 市場規模: 市場調査では、世界のCCUS技術市場は2024年に約34億USDと評価され、2029年には約96億USDに達すると予測されています(年平均成長率約23.1%)。IEAによれば、2030年には年間約4.35億トンのCO₂を回収する能力が見込まれており、今後大きく拡大する見通しです。
- 技術成熟度: 現在、世界には45件ほどの商用CCUS施設が稼働中で、さらに700件以上のプロジェクトが開発中です。EUや米国では政策支援も得て第一世代プロジェクトが本格稼働しつつあり、実証から商用化へと移行段階にあります。一方日本では、2023年にJOGMECが七大プロジェクトを選定し、2030年までに年間13MtのCO₂貯留を目指しています。
- 政策支援・政府動向: 米国では2021年投資・雇用法(IIJA)でCCS補助金やDAC支援に約10億USD以上を投入し、欧州でもイノベーション基金から数十億USD規模の資金がCCUSに割り当てられています。日本は2023年末にカーボンマネジメント基本法を策定し、CCUS推進法整備や支援措置を検討中です。
- 主な導入事例:
- ヨーロッパ:オランダのPorthosプロジェクト(2030年~25万t/年)、イタリアのRavenna CCS(2024年開始予定)
- 日本:JOGMECの選定したプロジェクト群(北海道~九州の産業拠点、2030年までに6~12Mt/年の貯留目標)
- その他:米国の米国エネルギー省CCUS実証プロジェクト(複数)、中東の石油化学プラント等でのCO₂再利用実証。
- 現在の課題: 鉱山のような貯留施設へのアクセス整備やコスト削減、長期的な安全性・規制整備が課題です。また、大規模適用の前提となるCO₂パイプライン網や貯留ライセンス制度の整備も途上にあります。現行の技術コストは高く、特に回収・圧縮に大量エネルギーを要するため効率化が急務です。
2. 直接空気回収(DAC: Direct Air Capture)
- 技術概要: DACは大気中に薄く含まれるCO₂(約0.04%)を化学吸着や膜分離で回収する技術です。発電所等の排ガスを対象とする通常のCCSとは異なり、都市大気やリモート環境でも設置可能で、負の排出技術(ネガティブエミッション)として注目されています。吸着剤へのCO₂付着→再生による回収を繰り返しますが、吸着剤や電力等の消費量が大きく、エネルギー効率とコストが課題です。
- 市場規模: 現状、DAC市場は小規模ですが成長中です。2024年には小規模実証施設数十基程度で、世界の捕捉能力は1万トン/年オーダーです。将来は欧米中心に計画が急増しており、2025年頃にStratosプロジェクト(米国テキサス)が年間50万トン/年の運転を目指し、またアイスランドのClimeworks社は2024年に36千トン規模の「Mammoth」を開始。市場規模は今後急拡大が見込まれ、IEAは2030年に技術系CO₂除去量50Mt/年規模を想定しています。
- 技術成熟度: まだ実証段階が中心です。北米・欧州を中心に複数の商用級プラントが建設中または計画されており、2020年代後半にはメガワット級、2030年には数百万トン規模に拡張する目標があります。日本では政府がDACロードマップ検討会を設置し、米欧での大規模実証に追随して産業化促進を検討中です。
- 政策支援・政府動向: 米国のインフラ投資法(IIJA)ではDAC補助に12億USDが配分され、EUも補助金やCCS許認可の緩和で後押ししています。日本政府もカーボンニュートラル基金の活用やクレジット制度検討等で支援を検討しており、2024年度中にDAC事業の公募開始を目指しています。
- 主な導入事例:
- ヨーロッパ:アイスランド・Climeworks社の「Mammoth」(2024年運転開始、36千t/年)
- 中東:サウジアラムコとシーメンスエナジーが協同開発した実証プラント(2025年3月稼働、年12t回収)
- 北米:カーボンエンジニアリング(カナダ企業)のStratosプロジェクト(米国テキサス、年間50万t予定)
- その他:マイクロソフト等IT企業の需要創出(DACクレジット購入)や、北欧企業によるバイオマス+DAC複合プラント(バイオエネルギー由来CO₂回収)。
- 現在の課題: 1トンのCO₂回収に必要なコストは現状約$500~1,000と高価であり、大規模普及には再生可能電力の大量供給とプロセス効率改善が必須です。また、回収したCO₂の貯留・利用インフラの整備と、社会の受容性確保も課題となっています。現行技術では設備投入資本が大きいため、官民協力による実証補助やカーボンクレジット制度の導入等で市場拡大を図っています。
3. グリーン水素・燃料電池
- 技術概要: グリーン水素は、再生可能エネルギー(太陽光・風力など)を用いて水の電気分解で生成される低炭素水素です。燃料電池では、この水素と酸素を反応させて電気を取り出し、排出物は水のみとなります。長距離輸送・重工業向け燃料や緊急電源などに期待されており、水素を燃料とするFCVや燃料電池発電機の開発も進んでいます。※「グリーン水素」:再生可能電力由来の水素を指し、石油改質等従来技術由来水素は「グレイ水素」などと区別されます。
- 市場規模: 国際エネルギー機関(IEA)によれば、2023年の世界水素生産量は約9,700万トンで、そのうち低炭素(水素+CCS)水素は1%未満でした。再生可能電源による新規プロジェクトは急増しており、2024年時点で発電設備ベースで数GW(たとえば世界の電解槽容量は1.4GW)に達し、2030年には500GW近くまで計画されています。市場調査でも、グリーン水素関連市場は2024年に数十億USD規模と評価され、年率数十%で成長しています。
- 技術成熟度: 太陽光・風力発電の大規模化と組み合わせて、水素製造プラント(電解槽)の技術進展が進んでいます。世界では欧米・中国で商用プラントが続々建設され、製鉄業や化学工場でグレイ水素代替の動きも出ています。一方でコストが課題で、2020年代末からは電解槽のコスト低減と効率向上が進む見込みです。燃料電池(PEFC/HFCV)も日本や韓国の自動車・重機メーカーが普及に注力しており、2010年代から実用化段階に入っています。
- 政策支援・政府動向: 日本は2020年に2050年目標を宣言し、2021年には「グリーン成長戦略」で水素を重点分野に位置付けました。2023年にはGX実行推進法で水素関連の支援体制を構築し、2024年に「水素社会推進法」を成立させました(2030年までに低炭素水素等の供給計画やビジネスプランの申請受付開始予定)。米国や欧州でも再生可能H₂戦略が相次ぎ、工場建設・購入補助金制度を打ち出しています。日本は再生可能エネルギー賦課金や電気料金の引き下げ支援などで電解電力低減を図るほか、水素供給チェーン形成を国策で促進しています。
- 主な導入事例:
- 日本:福島県の「Fukushima Hydrogen Energy Research Field(FH2R)」:水電解1.2MWプラント(2020年稼働)【文献[1]】、東京電力LNG火力とのCO₂回収・水素製造実証等
- 欧州:スウェーデンの「Hydrogen for Steel(Hybrit)」:再エネ由来H₂でグリーンスチールを生産(実証段階、2026年商用開始目標)
- 中東:アブダビの巨大太陽光+電解プラント(2023年開始予定、年間50万t/年規模)やサウジの大型プロジェクト
- 自動車・輸送:トヨタ・日産のFCV展開、韓国・米国のFCトラック、燃料電池船舶・ドローン等の実証。
- 現在の課題: グリーン水素の最大の課題はコストで、再エネ電力や電解技術の改善が不可欠です。また、水素供給網・貯蔵設備の整備、燃料電池車両・インフラの普及も途上です。今後は安価なグリーン水素の確保と長距離・大量輸送の技術、燃料電池システムの信頼性向上が鍵となります。
4. 全固体電池とリサイクル技術
- 技術概要: 全固体電池は、従来のリチウムイオン電池(液体電解質)に替え、固体電解質を用いる次世代バッテリーです。内部発火リスクが低く、高エネルギー密度化が期待されます(航続距離延伸・充電時間短縮など)。一方、電極・電解質材料や製造技術は現在も開発中で、実用化にはまだ課題があります。また、EVバッテリーの急増に伴い、リチウムイオン電池のリサイクル需要も高まっています。電池リサイクルでは「黒鉛・ニッケル・コバルト」などの希少金属を回収・再利用する技術開発が進展しており、日本企業も積極的に参入しています。
- 市場規模: 全固体電池市場はまだ小規模ですが、急成長が予測されています。市場調査によれば2024年には約0.99億USD、2032年まで年率40%以上で成長すると見込まれています。電池リサイクル市場も同様に拡大中で、リサイクル市場全体は数十億USD規模へ成長しています。特にリチウムなど資源価格高騰を背景に、国内外でリサイクルプラント建設・自動車メーカーの参加が活発化しています。
- 技術成熟度: 全固体電池はトヨタ・パナソニックなどが開発中で、2020年代後半の実用化に向けて試作・試験が続いています。日本は2010年代から研究開発を推進しており、2025年頃から量産プラント建設の動きも出始めています。リサイクル技術については、セパレート→黒鉛化(黒鉛回収)や湿式/熱処理により貴金属を回収するプロセスが確立されつつあります。2024年には三井物産が電池リサイクルJV「J-Cycle」を設立、パナソニックも住友金属鉱山と協業し製造過程スクラップからニッケル回収を開始するなど、実運用フェーズが進んでいます。
- 政策支援・政府動向: 日本政府は「資源循環」や「再利用促進」を政策課題に掲げ、電池リサイクル促進法制の整備や研究開発支援を行っています。また、グリーンイノベーション基金などにより次世代電池開発への投資を強化しています。欧州も「バッテリー規則」でリサイクル義務を課し、クレジット制度等でリサイクル高効率技術を促進しています。全固体電池については、技術開発支援や実証実験の助成が今後注目されます。
- 主な導入事例:
- 日本:三井物産とJ-Cycleによる茨城リサイクル工場計画(2024年JV設立、2024年稼働予定)
- 日本:パナソニック・住友金属鉱山の協力プロジェクト(EV電池廃スクラップからニッケル回収、2025年開始)
- 海外:欧州連合や米国の企業による大型リサイクル施設建設(ベルギー・ポーランド・米国テキサスなど)
- 全固体電池:日米韓中の企業・大学によるパイロット工場(搭載試験車両・ロボット用バッテリー)
- 現在の課題: 全固体電池は固体電解質の低温導電性向上や製造コスト、長期信頼性が課題です。リサイクルでは、廃バッテリーの収集・分別システム構築と、コスト効率の高い金属回収プロセス開発が必要です。電動車普及とともに廃バッテリーが増加する前に、サプライチェーンを確立する取り組みが急がれます。
5. グリーンスチール・低炭素コンクリート
- 技術概要: グリーンスチールは高炉製鉄工程で石炭還元の代わりに水素還元や電気炉を用いる技術です。水素還元では再生可能エネ由来のH₂を利用し、CO₂排出を大幅に削減します。低炭素コンクリートは、セメント原料を改良したり、二酸化炭素をコンクリート内部に固定化したりすることで製造時のCO₂排出を低減した建材です。これらは鉄鋼・建設業界から大排出源を脱炭素化し、製品ライフサイクル全体でのCO₂低減を図ります。
- 市場規模: 市場調査では、グリーンスチール市場は2024年に約38億USD(前大手市場の定義による)で、2034年には3,181億USDへ爆発的成長すると予測されます(年率55%以上)。グリーンスチールの内訳では、大型電炉や水素製鉄プラントの導入が主要因です。一方、低炭素コンクリートはまだニッチ市場ですが、CO₂ゼロセメントの普及で2030年代に数兆円規模の需要が期待されています。
- 技術成熟度: 世界的にはスウェーデンSSABの「Hybrit」(水素製鉄)の試験プラントが進んでおり、2026年に商用化を目指します。中国やインドでも水素・電炉製鉄が試行段階です。日本では細田・K30炉(電炉)の増設や高炉へのH₂混焼実証が進行中で、2030年以降のCCUS併用も検討されています。低炭素コンクリート技術では、欧州や日本の研究機関でCO₂吸収型混和材(フライアッシュ活用)などが開発され、実用化実験が進んでいます。
- 政策支援・政府動向: 欧州は炭素国境調整措置(CBAM)や炭素価格でグリーンスチール開発を後押しし、各国が補助金・税優遇を設けています。日本でも鉄鋼業のGHG削減計画が策定され、H₂原料化プロジェクトへの支援や輸送・排出権問題に対応する研究が進められています。低炭素コンクリートでは、政府の建設需要にCO₂削減材料を優先採用する方針や、JIS規格改正による使用促進などの動きがあります。
- 主な導入事例:
- スウェーデンSSAB(HYBRIT):水素還元製鉄(2025年デモライン、2026年商用開始目標)
- 日本:JFE/古河電工による高炉炭粉還元(HC処理炉)実証、NSSMC(日鉄住金)の低コークス炉、CO₂分離技術共同開発
- 欧州:ArcelorMittalの「XCarb」認証鋼(低炭素鋼板)販売、HyCem(スペイン)やCarbon8(英国)のカーボン固定コンクリート技術実用化
- 現在の課題: グリーンスチールは大量の再エネと水素製造能力、巨大プラントの建設コストが課題です。加えて「どの程度低炭素とみなすか」(GHG算定の透明性)も国際課題となっています。低炭素コンクリートは、性能(強度・耐久性)とコスト面で通常コンクリートとのトレードオフがあり、加えて生産プロセスの最適化が必要です。
6. 循環型素材(生分解性プラスチック・ケミカルリサイクル)
- 技術概要: プラスチック廃棄物問題への対応として、自然環境で分解可能な「生分解性プラスチック」や、使用済プラスチックを化学的に原料に戻す「ケミカルリサイクル」が注目されています。生分解性プラスチックはポリ乳酸(PLA)やPHAなど植物由来ポリマーで、用途ごとに素材研究が進みます。ケミカルリサイクルは、熱分解や溶剤抽出等でポリマー鎖を分解し、モノマーや油化成分に戻す手法で、PETボトルやポリエチレン廃材から新原料を回収します。
- 市場規模: 日本のバイオプラスチック市場は2024年に約822百万USDと評価され、2033年に約2,405百万USDまで成長すると予測されています(2025~2033年CAGR約12.7%)。アジア太平洋地域全体では2024年に約1,248.6百万USD、2030年に2,442.1百万USDになる見込みです。ケミカルリサイクル市場も2023年に日本で約707.2百万USD、2030年に1,018.3百万USDと成長(CAGR約5.3%)すると推定されています。
- 技術成熟度: 生分解性プラスチックは食品包装や農業資材で実用化が進みつつあり、拡大傾向にあります。ただしコストや物性が課題で、使用場所は限定的です。ケミカルリサイクルは欧米で商用施設が稼働し始め、日本企業もサンプルプラント実証を進めています。たとえば江崎グリコと東レはプラ系廃棄物の加水分解リサイクル技術を共同開発中です。
- 政策支援・政府動向: 日本は「プラスチック資源循環法」を改正し、事業者にリサイクル義務を課すとともに、ケミカルリサイクルを促進する認定制度を導入しました。また海外の廃棄物輸出規制強化に対応し、国内リサイクル技術の革新支援に乗り出しています。EPR(製造者責任)や容器包装リサイクル法の改定で、再生樹脂・代替素材使用を拡大する動きも活発です。
- 主な導入事例:
- 日本:ポケットマルシェ「カプセルコーヒー」(PLAカプセル)、アサヒ飲料PETボトル(一部バイオマスPET化)
- 欧米:ペロブスカイト社などによる生分解性レジンの開発、各国スーパーでのPLA袋採用拡大
- ケミカルリサイクル:JEPLANのPET-to-PET施設、トヨタ紡織・昭和電工の使用済電線の化学リサイクル実証
- 農業:稲わら由来バイオプラスチック実験や、食品残渣からPHA製造のスタートアップ例
- 現在の課題: 生分解性プラスチックは、適切な産廃処理が行われないと劣化せずマイクロプラスチック化のリスクもあります。またコストが従来品より高く、汎用性能(耐熱性など)が低い場合もあります。ケミカルリサイクルは、収集・分別体制の整備やエネルギー効率向上が課題であり、製造コストと環境負荷を同時に見極める必要があります。
ビジネスインパクトと導入ステップ
これら最新技術の普及は、企業にとって大きなビジネス機会であると同時に、投資リスクの軽減手段でもあります。新技術は温暖化規制の強化に対応するだけでなく、新製品・新市場創出に直結します。ただし導入には巨額投資や技術検証が必要なため、初期段階では政府補助金や税制優遇を活用しつつ実証実験から始めることが重要です。具体的な導入ステップは、①温室効果ガス排出インベントリの算定・見える化、②ターゲット削減量に応じた技術選定、③パイロット・実証プロジェクト実施、④コスト・供給チェーンの確立 ……といった段階を踏みます。長期的には、これら技術を自社の事業計画に組み込み、新たなバリューチェーンを構築することが、グリーン成長と企業競争力強化につながります。
ケーススタディ&最新事例(国内外)
- CCUS: カナダ・オイルサンド製造所のCO₂回収活用事例(排出削減とEOR*への転用)、EUの除却施設で製鉄所からのCO₂を貯留(ホロゲンプロジェクト)など。
- DAC: アイスランドClimeworks「Mammoth」(前述)、サウジアラムコの大気回収実験プラント、北米企業Carbon Engineeringのテキサスプロジェクト。
- 水素: 福島県の水素製造施設(FH2R)、および欧州の水素燃料供給基地(例:オランダのGate H2 – 世界最大級のグリーン水素製造プラント)など。燃料電池車ではトヨタMirai・日産アリアなど国内外普及車種が販売中。
- バッテリーリサイクル: 三井物産とボルタ、ミラクルエターナルの合弁「J-Cycle」(2024年設立)、パナソニック・住友金属鉱山のEV電池リサイクルプログラム、米国のパナソニック/Redwood(米国)、欧州のUmicoreなど各社動向。
- グリーンスチール: SSAB HYBRITプロジェクト(前述)、アルセロール・ミッタルのXCarb認証鋼の納入拡大、トヨタ自動車がグリーンスチール板の採用計画(2025年計画)、日本製鉄・JFEの水素混焼実証プロジェクトなど。低炭素コンクリートでは、新日鉄住金建材のCO₂吸収型セメント実験など。
- 循環型素材: 日本製紙のPLA生分解性フィルム、クボタの木質ペレットコンクリート、テラサイクルの再利用プログラム、など。欧州ではAR化学リサイクル工場(ベルギーPlasticas)の稼働、ソーダストリームのボトル回収プログラムなど。
まとめ:2025年以降の展望とアクションプラン
2025年以降は、これら技術の本格実用化・市場拡大の本番となります。各企業は、自社の排出・原料使用の状況を踏まえたロードマップを策定し、政府公募事業や連携プロジェクトへ積極参加を検討すべきです。短期的には実証投資で技術検証を進めると同時に、政府・産業界と共同で規制緩和・需要創出策を働きかけ、コスト低減を図ります。2025年以降、CCUSやDACの普及で国内外のエネルギー市場が変動し、エネルギーコスト構造やサプライチェーンが刷新される可能性があります。企業は政策動向を注視し、新興市場への先行投資・提携でリーダーシップを握ることが求められます。早期に具体的な行動計画を立て、技術導入のステップ(パートナー選定、試験運用、商用展開)を踏むことがカーボンニュートラル経営の鍵となるでしょう。
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参考文献:
[1] IEA (2023) “Tracking Carbon Capture, Utilisation and Storage”, IEA Energy System, https://www.iea.org/reports/carbon-capture-utilisation-and-storage
[2] 経済産業省「日本におけるCCSプロジェクト本格始動」(2023年6月13日付ニュースリリース), https://www.meti.go.jp/english/press/2023/0613_001.html
[3] GlobeNewswire (2025) “Carbon Capture, Utilization & Storage Technologies Market Report”, https://www.globenewswire.com/news-release/2025/02/28/3034910/28124/en (2024年34億USD→2029年96億USD)
[4] 経済産業省「DACロードマップWG 資料」(2024年6月「第4回検討会資料」), https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/dac_wg/pdf/005_02_00.pdf (DAC実証例、CCS併用等)
[5] Climeworks (2024) “The five milestones that defined 2024” (企業ブログ), https://climeworks.com/news/2024-year-in-review (Mammoth施設年36千tCO₂)climeworks.com
[6] E&E News (2024) “New DAC plant poised for record removals”, by P. Behr (EE Times), https://www.eenews.net/articles/new-direct-air-capture-plant-poised-for-record-removals/ (Mammothの年間36千tCO₂、コストなど)
[7] 経済産業省「GX推進に向けた検討会資料」(2024年6月, DAC関連議論資料), https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/dac_wg/pdf/005_02_00.pdf (DAC技術課題と支援方策)
[8] ECCJ (2024) “Japan’s Policies Towards a Hydrogen Society” (プレゼン資料), https://www.asiaeec-col.eccj.or.jp/wpdata/wp-content/uploads/ecap34-meti.pdf (日本の水素基本戦略・法整備)
[9] Recycling Today (2025年4月1日) “Panasonic, Sumitomo cooperate on battery materials recycling in Japan”, https://www.recyclingtoday.com/news/panasonic-sumitomo-lithium-ion-battery-scrap-recycling-japan/ (パナソニック×住友金属鉱山のニッケル回収)
[10] Mitsui & Co. (2024年5月15日) “Mitsui to invest in lithium-ion battery recycling plant in Japan”, https://www.mitsui.com/jp/en/topics/2024/1249200_14380.html (バッテリーリサイクルJV「J-Cycle」設立)
[11] 資源エネルギー庁「エネこれ」(2023年5月10日)『鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~「グリーンスチール」とは何か?』, https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/green_steel_01.html (Hybritや国際動向)enecho.meti.go.jp
[12] Precedence Research (2025年1月16日) “Green Steel Market Size to Hit USD 318.18 Billion by 2034”, https://www.precedenceresearch.com/green-steel-market (2024年38億USD→2034年3,181億USD)
[13] IMARC Group (2024) “Japan Bioplastics Market Size, Share & Growth”, https://www.imarcgroup.com/japan-bioplastics-market (日本生分解性プラスチック市場 2024年822.1百万USD→2033年2,405.7百万USD)imarcgroup.com
[14] Grand View Research (2023) “Japan Chemical Recycling Of Plastics Market Size & Outlook, 2030”, https://www.grandviewresearch.com/horizon/outlook/chemical-recycling-of-plastics-market/japan (日本ケミカルリサイクル市場 2023年707.2百万USD→2030年1,018.3百万USD)
*用語解説:EOR(Enhanced Oil Recovery)は石油回収増進技術のこと。
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概要 ナノテクノロジーの進歩により、ナノロボット医療が老化を制御し「不老不死」に近づく手段として注目されています。冒頭ではナノロボットの定義と特性、続いて老化の最新科学的理解、さらにナノメディシンによる5つの介入アプローチを解説します。最後に、技術ロードマップ、商業的展望、倫理・規制課題を整理し、ステークホルダー別の具体的アクションを提示します。要点: ナノロボット医療は生命延長技術の新たな柱となりつつあり、研究開発から実用化・規制まで包括的な視点が重要です。 ナノロボット概論(定義・原理・設計要素) ナ ...
ベーシックインカム×AI時代の仕事の未来――「働く」のパラダイムシフトとは?
1. はじめに:BI×AI時代がもたらすパラダイムシフト ベーシックインカム(BI:政府が全国民に最低限の生活費を定期給付する政策)と人工知能(AI)の発展が組み合わさる「ベーシックインカム×AI時代」が到来しつつあります。これは「働くとは何か」という根本的な問いに変革を迫るパラダイムシフトです。AIによる業務自動化が進めば、多くの仕事が機械に任される一方、人々には最低限の収入(BI)が保障される可能性があります。この状況では、「生活のために働く」から「意味のために働く」への価値観シフトが起こるでしょう。 ...