政策

外国人の土地取得規制と各国制度の徹底比較

外国人の土地取得規制

外国人が日本の土地を「勝手に買っている」「法律で禁止すべきだ」といった議論を耳にしたことはないでしょうか。実はこのテーマ、何が「規制」されていて何が「届出義務」に過ぎないかがしばしば混同されています。例えば2021年に制定された「重要土地等調査法」は安全保障上重要な区域での土地利用を監視・規制するものですが、これを外国人の土地購入一般を禁じる法律と誤解する向きもあります。また、不動産登記で2024年から外国人の氏名にローマ字併記が必須化されたことを「国籍を把握する制度だ」と誤解するケースも見られます。さらに、日本には1974年から国土利用計画法による大規模取引の事後届出制がありますが、これは取引を禁止・制限するものではなく実態把握のための制度です。

本記事では、まず日本における外国人の土地取得を巡る制度全体像を整理し、「重要土地等調査法」 vs 「国土利用計画法の届出」 vs 「登記実務」の違いを明確にします。その上で、米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・EU諸国・デンマーク・スイスといった主要国の規制も概観し、日本の状況を多面的に捉えます。それぞれ制度の目的(安全保障か市場安定か)、対象範囲、手続(事前審査か事後報告か)、例外規定、違反時の措置といったポイントを一次資料に基づいて解説します。最後に、これらの制度が実務や社会に与える影響を評価し、ありがちな誤解をQ&A形式で正し、読者が実務でチェックすべき事項や将来的な政策の選択肢について考察します。

本記事は特定の投資行動を推奨するものではなく、法的助言ではありません(詳しくは末尾の注記を参照)。しかし、最新の制度動向とデータを踏まえた中立的な解説により、この複雑な「外国人の土地取得問題」について正確な理解を得る一助となれば幸いです。それでは日本の制度から順に見ていきましょう。

日本の制度全体像:重要土地等調査法・国土利用計画法・不動産登記

外国人の土地取得に関連して日本で運用されている主な制度は、(1)重要土地等調査法(2)国土利用計画法の土地取引届出制度、そして(3)不動産登記における氏名のローマ字併記要件の三つです。それぞれ目的も管轄も異なるため、まず全体像を整理しましょう。

  • 重要土地等調査法(正式名称:「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」)
    2021年6月に公布され、2022年9月20日に全面施行された新しい法律です。安全保障上重要な施設の周辺国境離島に所在する土地等について、その利用状況を政府(内閣府)が調査し、必要に応じて利用を規制できる枠組みを定めています。2022年から段階的に施行され、2025年6月時点でも区域指定の追加が行われました。後述するように、この法律では「注視区域」および「特別注視区域」を指定し、特別注視区域内の土地取引には事前の届出義務が課されます。また、区域内で安全保障に支障を及ぼす行為があった場合には勧告・命令が可能です。まさに国防や機能維持を目的とした法律であり、対象は特定エリアに限られます。
  • 国土利用計画法の土地取引届出制度(1974年制定、1975年施行)
    全国どこでも適用される制度で、一定規模以上の土地取引を行った場合に事後に届け出る義務があります。取引そのものを禁止・許可制にするものではなく、取引情報を行政が把握し土地利用の適正化に役立てることが目的です。1974年の法制定当初は事前届出制でしたが、1998年の法改正で原則として契約締結後2週間以内の事後届出制に移行しました。現在の届け出対象は以下のように取引規模に応じ定められています。
    • 市街化区域内の土地取引:2,000㎡以上
    • 上記以外の都市計画区域内(非線引き区域・調整区域等):5,000㎡以上
    • 都市計画区域外の土地取引:10,000㎡以上
    複数の隣接する土地を一団として購入する場合は合計面積で判断されます(例えばそれぞれ1,000㎡でも同一買主が同時期に隣接取得し合計2,000㎡超なら届出必要)。届け出先は土地所在地の市町村経由で都道府県知事です。行政は届出内容から土地の利用目的を審査し、必要に応じて計画変更の勧告等を行います。罰則として、届出を怠ったり虚偽届出をした場合は6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(国土利用計画法47条)。この制度は外資・内資を問わず全ての大規模取引が対象であり、安全保障目的ではなく土地利用計画上の観点から運用されています。
  • 不動産登記における外国人氏名のローマ字併記(2024年4月開始)
    これは法律というより登記実務上の運用変更です。日本では不動産登記の名義人は原則「氏名(または法人名)と住所」を登記します。従来、外国人が登記名義人となる場合、その氏名は住民票等に基づきカタカナ等で表記していました。しかし2024年4月1日以降、外国籍の個人が新たに所有者として不動産登記される場合、その氏名のローマ字表記(アルファベット)を付記することが義務化されました。例えばジョン・スミスさんが土地を取得すれば、登記名義は「ジョン・スミス(JOHN SMITH)」のようにローマ字が括弧付きで記録されます。この変更の目的は本人確認の厳格化です。外国人名の読みやつづりをパスポート等と照合しやすくし、登記情報の正確性・透明性を高める狙いがあります。誤解してはいけないのは、登記に国籍情報を載せるわけではない点です。あくまで氏名の読みを補足するものであり、登記に「この名義人は外国籍である」と記載されるわけではありません。登記制度上、国籍は登記の目的ではなく、公示すべき事項でもありません。そのため、ローマ字併記導入は外国人所有の土地を政府が把握・監視する措置ではなく、純粋に表記の一貫性と照合容易性のための運用改善といえます。実務上は、外国人が登記申請する際に住民票(ローマ字氏名記載有り)やパスポート写しを添付してローマ字表記を証明する運用となっています。法人については対象外で、あくまで個人の氏名のみの措置です。

以上の3点をまとめると、重要土地等調査法は「安全保障目的の特定エリア監視・規制」、国土利用計画法届出は「全国対象の大規模取引モニタリング」、登記ローマ字併記は「名義人識別の利便性向上」というように、それぞれ役割が異なります。次に、重要土地等調査法と国土利用計画法の内容をもう少し詳しく見た上で、両者の違いを表で整理します。

重要土地等調査法:安全保障目的の土地モニタリング

改めて重要土地等調査法のポイントを整理します。この法律の背景には、自衛隊基地周辺や国境に近い土地が外国資本に買われ、将来的に安全保障上の懸念となるという問題意識がありました。実際、北海道の対馬沖離島や米軍基地周辺の森林買収などが報道され、政府内で議論が進んだ経緯があります。2020年の閣議決定「骨太の方針2020」でも、安全保障の観点から土地所有実態の把握が明記され、法整備の方向性が示されました。

この法律のポイント

  • 内閣総理大臣(実務担当は内閣府)により、安全保障に重要な施設等の周囲約1km国境離島を対象に「注視区域」または「特別注視区域」を指定できる。
  • 注視区域は、防衛施設・沿岸警備施設・原発・自衛隊共用空港などの周囲で、その土地利用が重要施設の機能を阻害することを防止する必要がある区域です。また、人が住む国境離島地域も含まれます。
  • 特別注視区域は、注視区域の中でも特に重要な施設(指揮中枢や離島拠点など)や、代替困難な機能を持つ場合に指定されます。無人の国境離島で国・自治体以外の所有地がある場合も特別注視に指定可能です。
  • 注視区域・特別注視区域に指定されたエリア内では、政府が土地利用状況を調査し、もし重要施設機能を阻害するような利用(例えば通信傍受設備を設置する等)があれば是正勧告中止命令を出せます。命令に従わない場合の罰則も規定されています(2年以下の懲役等)。
  • 特別注視区域内では、土地や建物の売買等で所有権移転や賃借権設定の契約を結ぶ際に、事前に内閣総理大臣への届出が義務付けられました。原則は契約締結“前”の届出が必要です。やむを得ない場合(調停・競売・仮差押・裁判上の和解・遺言等)のみ、契約締結後2週間以内の届出が認められます(施行令・規則で細部規定)。対象は一定面積以上の土地取引で、面積要件は一律で、土地は200㎡以上、建物は延べ床面積200㎡以上(複数筆は合算)です。この届出により、政府は誰がその土地を取得するか事前に把握し、必要なら審査期間中に契約停止や中止勧告も可能となります。
  • 2023年までに既に三次にわたり区域指定が行われ(例:2023年1月に46箇所の特別注視区域・134箇所の注視区域を指定)、さらに2025年6月25日に4回目の指定変更が告示され、2025年8月1日から効力が発生しました。例えば防衛省市ヶ谷駐屯地周辺や、新たな自衛隊関連施設周囲が追加指定されています。

重要土地等調査法は「外国人土地取得規制法」と呼ばれることもありますが、厳密には国籍を直接の対象とはしていません。区域内であれば日本人の所有であっても調査対象になり得ます。ただし立法目的からして、想定されるリスク源は主に外国資本であるため、結果的に外国人・外国企業の動向が注目されています。

国土利用計画法の届出制度:全国網羅の土地取引モニタリング

一方、国土利用計画法(国土法)の届出制度は、バブル期以前から存在する経済的観点の制度です。土地の過度な投機的取引や無秩序な開発を抑制し、適正な土地利用を図る目的で導入されました。都道府県知事が一定規模以上の取引を把握し、必要なら土地の利用目的を変更するよう勧告等できます。安全保障目的ではないため、外国人だけでなく日本企業・日本人同士の取引も対象です。また、原則として契約締結後の報告であり、届出をしても取引自体は原則有効に進められます(事前届出ではないので契約そのものを止める仕組みではない)。

現行制度の詳細ポイント:

  • 届出の猶予は契約日を含め2週間以内(契約日から起算)。不動産売買契約書を交わしたら速やかに所定の届出書を作成し、市町村経由で都道府県へ提出します。
  • 届出内容には、取引当事者の氏名・住所、土地の所在・面積、契約日、代金額、利用目的(将来その土地を何に使う予定か)等を記載します。
  • 都道府県は届出情報を審査し、利用目的がその地域の計画に適合しない場合、勧告によって計画変更などを求めることができます。例えば市街化調整区域で本来建物を建てられない土地なのに「宅地開発する」と届出があれば、目的変更を勧告するケースです。勧告に従わない場合は内容を公表されます(それ以上の強制措置はありません)。
  • 前述の通り罰則は、無届出・虚偽届出に対し6ヶ月以下懲役または100万円以下罰金です。過去には罰則適用例も報告されていますが、大半のケースでは「うっかり届出忘れ」で後から是正対応しているようです。
  • 監視区域・注視区域:国土利用計画法にも実はこうした名称の制度があります。知事が必要と認めれば特定の市町村を「監視区域」等に指定し、その中ではより小規模な取引でも事前届出を課すことができます。東京都では小笠原諸島が監視区域となっており500㎡超で事前届出となっています。しかしこの制度は現在全国的にはほぼ指定されておらず(沖縄県が一部離島で指定した例などがあります)、一般には意識されていません。重要土地等調査法の注視区域と紛らわしいですが、両者は別制度ですので注意してください。

以上を踏まえて、日本の「重要土地等調査法」と「国土利用計画法(届出)」そして関連する「登記制度変更」の比較を以下の表にまとめます。

表1:日本における外国人土地取得関連の主要制度比較

項目重要土地等調査法 (2022施行)国土利用計画法 届出 (1975施行)不動産登記 ローマ字併記 (2024開始)
主目的安全保障(基地・国境離島機能の保全)土地利用計画の適正化・投機抑制(経済目的)登記名義人の識別容易化(事務効率・正確性)
対象エリア/取引政府が指定する注視区域・特別注視区域内全国(一定規模以上の全ての土地取引)全国(外国人個人が不動産所有権取得する場合)
対象者国内外問わず当該区域内の土地等所有者・利用者(主に外国資本を想定)土地取引の買主・取得者(外国人か日本人かを問わない)外国籍の個人名義人(法人・日本国籍者は対象外)
主な義務特別注視区域内での一定規模以上の売買等は事前届出(契約前に内閣府へ届出)。区域内利用状況調査への協力義務。一定規模以上の土地売買等は事後届出(契約締結後2週間以内に知事へ届出)。登記申請時に外国人氏名のローマ字併記情報を提供(住民票・パスポート等提出)。
審査・規制権限届出受理後、内閣府が安全保障上問題ないか審査。問題行為には勧告・命令で是正可。命令違反時は罰則適用。届出内容を都道府県が審査。利用目的に不適切があれば勧告可能(強制力なし、公表措置のみ)。登記官が書面確認しローマ字を登記記録に追加。国籍情報の記録・審査はなし。
罰則無届出・虚偽届出は「6月以下の懲役」または「100万円以下の罰金」/命令違反は「2年以下の懲役」または「200万円以下の罰金」です、命令違反は「2年以下の懲役」または「200万円以下の罰金」です。無届出・虚偽届出は6月以下懲役または100万円以下罰金。勧告違反は公表措置のみ。特になし(要件不備なら登記却下されるだけ)。
所管内閣府(重要土地等調査法担当室)都道府県(窓口は市町村経由)法務省(登記所=法務局)
最新動向2025年8月1日、新たな区域指定が発効。今後も指定区域拡大の可能性あり。毎年数万件以上の届出実績。違反件数は僅少。2022年に重要土地法施行に伴い一部役割分担議論あり。2024年4月1日施行。運用開始直後で実務定着中(外国人登記申請時にローマ字証明を要請中)。

次章では、これら制度が実際にどのようなケースで関係してくるか、具体例を挙げて説明します。特に安全保障に関係するケース(基地周辺・国境離島等)では重要土地等調査法、それ以外の大規模取引では国土利用計画法、単なる所有権登記時には登記規則、といった具合にケースごとに関与する制度が異なります。理解を深めるため、想定シナリオ別に見ていきましょう。

ケースで理解する外国人土地取得:典型シナリオと適用制度

ここでは、外国資本による土地取得に関する典型的なシナリオをいくつか取り上げ、どの制度がどのように適用されるかを解説します。実務上、ケースによって重要土地等調査法の届出が必要だったり、国土利用計画法の届出義務が生じたり、あるいは特に規制なく自由に取引できたりと様々です。それぞれ確認してみましょう。

  • ケース1:外国企業が自衛隊基地周辺の土地を取得する場合
    シナリオ: 首都圏近郊の自衛隊基地から半径500mの範囲にある1,000㎡の土地を、海外企業A社が購入しようとしている。
    適用制度: このケースでは、土地が重要施設(防衛関係施設)周囲おおむね1,000m以内に該当するため、エリアはおそらく重要土地等調査法の注視区域特別注視区域に指定されています。もし特別注視区域であれば、この外国企業A社と売主は契約締結前に内閣総理大臣への届出が必要です。届出後、内閣府はA社の国籍・事業内容や、その土地の用途(利用目的)を審査し、基地機能に脅威がないかチェックします。問題なければ一定期間経過後に契約実行が可能となります。なお土地面積1,000㎡なので国土利用計画法届出(都市計画区域内なら2,000㎡以上が対象)には該当しません。また、A社が購入後に登記する際は、法人なのでローマ字併記の規定も関係しません(個人の場合のみ)。 補足: 特別注視区域指定は全国でも限られた基地周辺のみですが、該当すれば日本企業でも届出義務があります。外国企業だから特別というより、区域内取引は一律届出義務であり、その上で当局が外国資本かどうか注目するというイメージです。
  • ケース2:国境離島のリゾート用地を海外富裕層が購入する場合
    シナリオ: 長崎県対馬市の沿岸部にある5,000㎡の土地を、外国人Bさん(非居住)が個人で別荘開発目的で購入。
    適用制度: 対馬市は有人国境離島であり、重要土地等調査法の注視区域(または特別注視区域)に指定されている可能性があります。もし注視区域であれば利用状況のモニタリング対象です。特別注視区域であれば、Bさんと売主は契約前届出が必要です。面積5,000㎡は国土利用計画法の届出基準(都市計画区域外1ha以上)に該当します。したがって、契約締結後2週間以内に長崎県に対して事後届出もしなければなりません。つまり、このケースでは重要土地法と国土法の両方の届出が要求される可能性があります。登記については、Bさん個人なので氏名にローマ字を併記して申請することになります。 補足: 国境離島では水道などインフラ運営用地が外国人に買われると懸念されるケースがあり、重要土地等調査法施行前から注目されていました。現在、対馬市や石垣市など主要な離島は注視区域となっています。
  • ケース3:上水道の水源林を海外資本の企業が買収する場合
    シナリオ: 北海道某町で市街地から離れた山林50haを、中国資本の林業会社C社が購入しようとしている(当地は上水道水源涵養林に近接)。
    適用制度: まず、この地域が自衛隊基地等ではないので重要土地等調査法の区域には該当しない可能性が高いです(同法は原子力施設周囲等も対象ですが、水源地だけでは指定されません)。従って重要土地法の届出義務は生じません。しかし50ha(=500,000㎡)の森林となれば、これは国土利用計画法の届出基準(都市計画区域外で1万㎡以上)を大幅に超えますので必ず事後届出が必要です。C社は契約締結後に市役所経由で北海道知事に届出を行い、土地利用目的(例:「林業経営」「水資源保全」等)を記載します。北海道庁はその内容を踏まえ、不適切な用途(例えば無計画な開発や転売目的)が疑われれば計画変更の勧告ができる仕組みです。なお、北海道では2010年頃から外国資本による森林買収が注目され、2011年以降独自に調査公表も行っています。2023年末時点で北海道内の外国資本等による森林所有は累計3,528ha(所有者271者)に上ります。今回の50haもその統計に加わるでしょう。登記に関してC社は法人なのでローマ字併記は不要ですが、代表者が外国人なら登記委任状などでローマ字氏名が出てくる場面はあるかもしれません。 補足: 北海道では外資の森林買収が一時「中国企業が水源地を買い漁っている」と報じられ社会問題化しました。しかし実際の取得件数・面積は近年減少傾向で、2023年は全国でも33件・134haに留まります。監視は続けつつも、過度な不安とならない冷静なデータ検証が必要です。
  • ケース4:都市部の大規模商業地を海外ファンドが取得する場合
    シナリオ: 東京23区内の商業地3,000㎡を、シンガポール籍の不動産ファンドがオフィスビル用地として取得。
    適用制度: 東京23区の市街地は重要土地等調査法の指定区域にはなっていません(基地や国境離島ではないため)((例外:防衛省市ヶ谷地区[新宿区]は特別注視区域等)。取引前に指定一覧で要確認です)。したがって同法の届出や規制は関係ありません。土地3,000㎡は市街化区域のため国土利用計画法の届出基準2,000㎡超に該当し、事後届出が必要です。海外ファンドが登記名義人になる場合、通常は国内代理人の法人名義(SPCなど)で登記されるためローマ字併記の問題も出ません。このように、都市部商業地の取引は特段の「外国人規制」は無く、他の国内取引と同様に進みます。ただし、近年では大都市圏の不動産市場に海外マネーが大量流入すると価格高騰を招くとの指摘もあり、カナダのように住宅市場で外国人購入を一時禁止する例(後述)も出ています。日本では現時点、商業地・住宅地とも外国資本への制限は設けられていませんが、国土利用計画法届出を通じデータは把握しています。東京都などでは届出情報から毎年の土地取引動向を分析公表しています。
  • ケース5:その他のケース
    その他、農地については外国人でも取得自体は可能ですが、農地法上の許可や事業要件が必要です(農地法は国籍規定は無いが、農業従事条件あり)。また宅地造成で開発許可が必要な場合も国籍による制限はありません。一方、国家戦略特区で土地を貸与する際など、個別法で国籍条項を設けるケースもわずかに存在しますが例外的です。全般として、日本では「外国人が土地を自由に買える」ことが原則であり、そのうえで(1)安全保障上重要な土地は事前届出で牽制し、(2)大規模取引は事後届出で用途チェックし、(3)所有権移転登記で最低限の情報把握に努めている、という形です。

以上のケーススタディから分かるように、日本の枠組みは「原則自由、例外的に特定用途・地域で規制」というアプローチです。では他の国々はどうでしょうか?次に海外主要国の外国人土地取得規制を見ていきます。

海外主要国の制度比較:外国人の不動産取得規制

外国人による不動産(特に土地・住宅)の取得については、各国が自国の事情に合わせて様々な制度を設けています。安全保障、経済的な住宅価格対策、自国資源の保全など目的は国によって異なり、規制の形態も事前の政府許可制から包括的な購入禁止事後届出統計報告のみまで多岐にわたります。ここでは米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・EU(の共通枠組み)に加え、参考としてデンマーク・スイスの特殊な例も含めて概観します。

米国:CFIUS(対米外国投資委員会)による不動産取引審査と州法の動向

連邦レベルの制度(CFIUS不動産規制):
米国には伝統的に「外国人が土地を買うこと」を包括的に禁じる連邦法はありません。ただし、安全保障上重要な施設周辺の土地取引については、対米外国投資委員会(CFIUS, シフィアス)が審査権限を持ちます。これは2018年の外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に基づき拡張された枠組みで、31 CFR Part 802に具体的な規則が定められています。

  • 対象範囲: CFIUSが審査できる「カバード不動産取引」は、米軍や情報機関等の敏感な施設周辺にある不動産を外国人が取得・賃借・権利取得する場合です。具体的には規則の付属書に約200以上の軍事施設や政府施設が列挙され、それぞれについて何マイル以内がカバー範囲か定められています。当初(2020年施行時)は核ミサイル基地や軍港など限定的でしたが、2024年11月の最終規則改正で大幅に拡大されました。新ルールでは60以上の軍事基地が追加され、既存の10基地の対象範囲も拡張されています。例えば、新たに40基地について半径1マイル以内、19基地について半径100マイル以内が追加され、一部既存基地も1~100マイルの中間エリアが審査対象になりました。これにより、全米30州以上でCFIUS審査対象となる地域が広がったとされています。
  • 手続と効果: 対象となる土地取引を外国人が行う場合、必ずしも事前届出は義務ではありませんが、任意の届出をしてCFIUSの審査を受け、安全保障上問題ないという「安心書(Safe Harbor)」を得ることが一般的です。仮に届出せずに後からCFIUSに問題視されると、最悪その取引を強制的に巻き戻す(権利放棄や売却命令)措置を受ける可能性があります。また故意の規則違反には民事罰(取引額の一定割合の罰金)も科されえます。CFIUSは外資による米企業買収(31 CFR Part 800)も管轄しますが、不動産単体取引にもこのように特化ルールがある点が特徴的です。
  • 例外: 一般的な商業用不動産や、標的施設から十分離れた場所の土地、そして居住用不動産(個人が住む家を購入する場合)はCFIUSの対象外です。例えばホワイトハウス近隣の商業地取得などは対象ですが、ニューヨークのマンション購入程度ではまず関与しません。また、外国人でも米国永住権者や米法人子会社を通じた取引など、厳密には外国政府の意図が及ばないと見なされる場合は審査免除されるケースもあります。

州レベルの規制:
米国では最近、特に中国を念頭に置いた州法レベルでの外国人土地所有制限が話題です。約14の州が農地や敏感地の外国人保有を何らか制限する法律を制定・検討しています。その中でもフロリダ州のSB-264(2023年成立)は代表例です。

  • フロリダ州SB-264(2023年7月施行): 中国・ロシア・イラン等7つの「懸念外国」の国籍・法人による農地および軍事施設・重要インフラから10マイル以内の土地取得を禁止しました。特に中国国籍者については州全域で住宅含め不動産購入を原則禁止し、例外として非観光ビザ保持者が5マイル以上離れた住宅1件(2エーカー以下)を購入可と定めています。違反購入された不動産は州政府への没収(収用)の対象となり、購入者は重罪(第三級重罪)、売却に関与した者も軽罪に問われます。非常に厳しい内容です。
  • この法律に対しては、在米中国人らが憲法違反(財産権侵害・差別)を主張して提訴しました。2023年8月、地裁は原告の差止め請求を退けましたが、2024年2月に第11巡回区控訴裁判所が一部原告への適用差止めを認める判断を出しています。連邦法(CFIUS等)による包括的枠組みとの矛盾(連邦政府の権限との衝突)が論点で、控訴裁は「国家安全保障に関する対外投資審査は連邦の専権事項であり、州法は連邦法に抵触する可能性が高い」と指摘しました。このため最終判断までフロリダ法の適用が一部凍結されています。
  • フロリダ以外にも、テキサス州やルイジアナ州などが中国人の農地取得を制限する法を検討しました。背景には、中国企業による米農地買収(例:ノースダコタ州グランドフォークスの件)への警戒や、食料安全保障上の懸念があります。なお米農務省の統計によれば、外国人が保有する米国農地(森林含む)は2023年末時点で約4,500万エーカー(全私有農地の3.5%)に上ります。その内、中国資本は約38万エーカー程度と1%未満ですが、近年増加傾向にあることから政治問題化しています。

まとめ: 米国では連邦ではCFIUSによる安全保障審査州では個別に外国人の土地購入禁止措置が動いています。他国に比べ土地所有権は強い権利として守られてきましたが、安全保障絡みで今後も規制強化の議論が続くでしょう。

カナダ:外国人住宅購入禁止の一時措置(2023-2025 →2027に延長)

カナダは近年、不動産価格高騰の対策として思い切った措置を講じました。2023年1月1日施行の「外国人による住宅不動産購入禁止法」です。これはその名の通り、一時的に外国人がカナダの住宅を購入することを禁止するものです。当初2年間(2023-2024)の時限法でしたが、2024年2月にさらに2年延長が発表され、2027年1月1日まで継続することになりました。

  • 制度趣旨: 都市部の住宅価格高騰と空き家増加への対策です。海外からの投資マネーが住宅を「金儲けの資産」にしてしまい、現地住民が買えない状況を是正する狙いがあります。財務省発表では「住宅は家族が住むものであり投機の対象にさせない」という趣旨の声明が出されています。
  • 対象範囲: 「住宅用不動産」の定義は建物が3戸以下の住宅を指し、戸建て住宅・タウンハウス・コンドミニアムユニット等が含まれます。逆に4戸以上の集合住宅や商業物件は対象外です。また大都市圏(CMA=10万人以上都市圏、CA=1万人以上都市圏)の物件のみが禁止対象で、それ以外の田舎町や農村部の住宅は購入可能とされています。つまり都会の住宅への外国資本流入を抑制する措置と言えます。
  • 禁止内容: 外国籍の個人、及びカナダ非居住の外国法人は、対象期間中カナダで住宅不動産を購入できません。売買契約を締結すること自体が違法となります。違反すると最大1万カナダドルの罰金が科され、さらには裁判所命令でその不動産を強制売却させられる可能性もあります。なお罰則適用は買主だけでなく、故意に買主を助けた代理人などにも及びます。
  • 主な例外: いくつか重要な例外があります。例えば永住権保持者や市民権取得者にはもちろん適用されません。また一時的居住者でも、一定条件を満たす留学生や就労者は例外的に購入可能です。具体的には留学生なら過去5年中4年以上滞在かつ納税・価格50万ドル以下等、就労者なら有効な労働許可が183日以上残存等の条件があります。さらに2023年3月の規則改正で、外国人が開発目的で空き地を購入することなどいくつか規制緩和が行われました。例えば住宅を建設・提供することを目的とする場合の土地購入が解禁されています。また上述のとおり農村部や大規模物件も最初から除外されています。加えて米国人やメキシコ人についてはUSMCA(NAFTA後継協定)の関係で扱いが緩和されているとの情報もあります。
  • 延長とその影響: 政府は2024年2月4日にこの禁止措置を2年間延長し2027年までとする意向を発表しました。2023年一年間の住宅市場動向を見ると、一部都市で価格鈍化が見られたものの、カナダ中銀の利上げ等他要因もあり政策効果を評価するのは難しい状況です。一方で留学生らから「自分たちも住宅を買えず不便」との声もあり、一部条件緩和された経緯もあります。いずれにせよ先進国でここまで直接的に外国人購入を禁止する例は異例で、日本でも話題となりました。カナダ政府は他にも住宅供給拡大策を多数講じており、本措置はその一環と位置付けられています。

まとめ: カナダは住宅問題への対症療法的に「外国人お断り」策を採りました。恒久策ではなく2027年までの時限措置ですが、市場へのインパクトと海外からの投資姿勢に与える影響は注目されています。

オーストラリア:FIRB承認制度と空室・手数料対策

オーストラリアも不動産分野で外国投資に積極的にルールを設けている国です。ポイントは(1) 外国人が住宅物件を購入する際には事前に政府の許可(FIRB承認)が必要、(2) 保有後に家を空き家にしておくと課徴金が科される(3) 申請や保有にかかる各種手数料が高額という点です。

  • FIRB承認制度: FIRB(海外投資審査委員会)は政府の組織で、外国人からの投資提案を審査・助言します。オーストラリアでは外国人が既存の住宅を購入することは原則できません。例外として、新築住宅(誰も住んでいない新規物件)や空き地(一定期間内に住宅建設義務あり)は購入可能ですが、いずれも事前にFIRBの承認が必要です。また一時的なビザで滞在する外国人は滞在中の自宅として既存住宅を買えますが、出国時に売却しなければなりません。これら承認申請には物件価格に応じた申請料(手数料)が課され、2023年時点で住宅一件あたり数千〜数万豪ドルに上ります。2024年4月にはその申請料が3倍に引き上げられたと報じられました。
  • 空き家に対する課徴金(空室料): 外国人が購入した住宅をきちんと利用させるため、2017年から年間の半分以上空き家にしていると追加費用を徴収する制度が導入されました。具体的には、取得から毎年「Vacancy fee return(空き家状況報告)」を提出し、もし1年間で183日以上住宅が無人であれば空室料の支払い義務が発生します。その額は当初は購入時の申請料と同額でしたが、2024年4月9日以降開始の空室年からは倍額に引き上げられました。例えば100万豪ドルの物件購入で$13,200の申請料を払ったなら、空き家にすると翌年$26,400の空室料を課される計算です。これは住宅を賃貸に出すか売却するよう促す強いインセンティブとなります。
  • 商業不動産等: 住宅以外の用途(オフィスや農地など)も一定額以上の投資はFIRB承認が必要です。特に農地は国防や食料安全保障の観点から厳しく、州政府が別途規制する場合もあります。例えば州によっては外国人所有の農地面積に上限を設けたり、会社の株式として農地権益を取得する場合にも報告義務があります。
  • 罰則: 無承認で購入したり、空室料報告を怠ったりすると、厳しい罰金強制売却命令が待っています。FIRB関連法では、故意違反の場合、購入額相当の罰金や強制処分が可能です。これまでにも中国人の不正購入物件が強制売却させられた例があります。

最近の動向: オーストラリア政府は住宅不足と価格上昇対策として、外国投資からの歳入を増やしつつ実需者向け供給を増やす政策をとっています。2023-24年度予算では外国人の不動産投資申請手数料を2倍〜3倍に引き上げ、空室料も倍化しました。これは「海外投資家にも相応のコスト負担を求め、その資金を住宅政策に充てる」狙いとされています。また、これらの厳しい措置が講じられても海外投資の魅力はなお残るとの計算もあるようです。

まとめ: オーストラリアは事前承認課金によるコントロールという独自路線です。完全禁止ではありませんが、コスト面・手続面でハードルを上げ、むしろ投資される場合はその利益を公共目的に還元する発想とも言えます。

ニュージーランド:海外投資法(OIA)による住宅購入規制

ニュージーランドは2018年に外国人による住宅不動産購入を大幅に制限しました。Overseas Investment Amendment Act 2018(海外投資法改正2018)で、原則として海外居住の外国人は既存住宅を取得できなくなりました。

  • 制度の概要: 2018年10月22日施行の改正法により、外国人(NZ市民でない、かつ「Ordinarily Resident(通常居住者)」でない人)は住宅地(Residential Land)を購入する場合に政府の事前承認が必要となりました。承認は基本的に下りない仕組みで、実質的に既存住宅は外国人購入禁止に近い効果を持ちます。これにより、従来多くの海外富裕層が買っていたオークランドなどの住宅市場が鎮静化しました。
  • 対象と例外: 「Ordinarily Resident」とはNZの永住権を持ち、一定日数以上NZに住んでいる人を指し、そうでない海外在住者は皆規制対象のOverseas Person扱いです。ただしオーストラリア人とシンガポール人はそれぞれNZとの自由貿易協定により例外扱いで、この規制を受けません(相互主義的な措置)。また新築マンションの一定割合については外国人購入を許す例外もあります。例えば大型開発物件では、全戸のうち60%まで海外販売可などのルールがあります。さらに観光産業促進のため、ホテルコンドミニアムについては例外的に購入後リースバックする形で認める制度も導入されました。
  • 承認の仕組み: どうしても購入したい外国人は、Overseas Investment Office (OIO)に申請し、「その投資がNZに有益をもたらす」ことを示す必要があります。例えば大規模な土地開発をして住宅供給を増やす場合などです。しかし通常の個人が住宅を自己目的で買うのは益がないため承認されません。
  • 背景: この規制はNZで住宅価格高騰が深刻化し、特に中国人富裕層の爆買いが社会問題視されたことを受けたものです。結果として、施行後は海外からの住宅購入は激減しました。一方、外国直接投資のイメージ悪化や、富裕移民誘致への逆効果を懸念する声もあります。

まとめ: NZは「家はニュージーランド人のためのもの」との明確な政治メッセージを打ち出した形です。外国人にはハードルが非常に高く、これもまた一つの国内世論への応答でした。

EU共通枠組とヨーロッパの特殊例(デンマーク・スイス)

EUには、加盟各国の対外投資規制を調整するFDIスクリーニング規則(2019年制定、2020年施行)があります。この規則2019/452は、加盟国が安全保障上問題のある外国投資を審査するための共通基準と情報共有メカニズムを定めたものです。各国は独自に対内投資審査制度を持ちつつ、EU委員会や他国と協議できるようになりました。

ただしこれは企業買収やエネルギー・通信インフラ投資等が主眼で、土地の取得そのものを直接対象にはしていません。もっとも、例えば港湾や防衛関連施設の用地取得は結果的に審査対象になり得ます。また東欧諸国では、EU加盟時に西欧資本が農地を大量取得するのを防ぐため、一時的な移行措置として外国人の農地購入を制限する例がありました(ポーランド等)。現在もハンガリーなど一部で農地は自国民しか買えない仕組みが続いていますが、EU域内の資本移動の自由との兼ね合いで徐々に撤廃されています。

EU加盟国内で特異なのがデンマークです。デンマークはEU加盟時に例外扱いを認められており、外国人(EU域外はもちろんEU市民でも)による不動産購入に許可制を敷いています。具体的には、デンマーク国内に5年以上継続居住していない外国人が不動産(住宅・別荘)を買うには、法務省の事前許可が必要です。EU市民でもデンマークで仕事をするとか恒久的に移住する計画があれば許可が下りますが、単なるセカンドハウス目的のEU市民購入は拒まれる場合があります。これはデンマークの海辺の「サマーハウス」(別荘)が外国人に買い占められる懸念から導入されました。

最後にスイスのレックス・コーラー(Lex Koller)法です。スイスはEU非加盟ですが富裕層が不動産を買いたがる国として有名で、長年外国人購入を制限する法律を維持しています。Lex Koller(1983年制定のANRA法)は、外国人(非居住者)がスイスで住宅用不動産を取得する際に州政府の許可を要求するものです。実質的に居住用の家や別荘は許可枠が少なく、特定のリゾート地で年間一定数だけ外国人購入が許されます。面積も制限があり、高額な別荘でも最大200平米程度までなど条件があります。逆に商業不動産やホテル、上場不動産会社の株式などは比較的自由化されています。

スイスでは外国人が許可なく不動産を買った場合、登記ができず無効となり、最悪強制売却となります。各州に許可審査官庁があり、毎年許可件数(例:別荘x件等)が公表されています。直近では規制緩和論もあるものの、国内世論は慎重です。


以上、主要国の制度を見てきました。各国の特徴を表2にまとめます。

表2:主要国における外国人土地・住宅取得規制の比較

国・地域外国人取得の主な規制内容対象用途・地域承認/届出の種別違反時措置所管
日本安全保障施設周辺等:重要土地等調査法による届出・利用規制
大規模取引:国土利用計画法で事後届出
その他:原則自由(登記でローマ字記載)
基地周辺1km・国境離島 等(区域指定制)
全国(一定面積以上取引)
区域内は事前届出(特別注視区域)
全国で事後届出
勧告・命令・罰金(重要土地法)
罰金・懲役(国土法届出違反)
内閣府・都道府県
米国安全保障施設周辺:CFIUSによる審査権限(任意届出)
州独自:州法で農地・一定エリア購入禁止例あり
連邦指定の軍事基地等周辺(1〜100マイル範囲)
州法は州内農地・施設周辺10マイル等
CFIUSへ任意届出(事前・事後可)
州法は事前許可or禁止
強制売却・民事罰(CFIUS)
没収・刑事罰(州法違反)
財務省(CFIUS)
各州政府
カナダ住宅:外国人の購入一時禁止(〜2027)
商業・他:原則自由(州税制で課税強化例あり)
都市圏の既存住宅(3戸以下物件)
※郊外・4戸以上建物は対象外
なし(禁止)
※例外対象は許可申請可
$10,000以下罰金・強制売却連邦政府(住宅担当)
豪州住宅:外国人の既存住宅購入禁止、新築は承認制
空室:年半年以上空きは課徴金
全国の住宅不動産
(商業・農地も高額は承認要)
FIRB事前承認(新築等)
年間空室報告義務
承認違反は強制売却・罰金
空室報告怠りは罰金
財務省(FIRB)
ATO(税徴収)
NZ住宅:外国人の既存住宅購入原則禁止全国の住宅用地
(豪・星国民等除く)
OIO事前承認(公益性必要)承認なし契約は無効・罰金海外投資庁(OIO)
EU安全保障:FDIスクリーニング枠組みに各国制度
:原則資本の自由、農地例外措置のみ
安全保障関連業種全般
農地規制は一部国のみ
事前届出(独仏など制度あり)投資禁止・条件付許可加盟各国(EU情報共有)
デンマーク総合:外国人は不動産購入に法務省許可要全国(EU市民も5年未居住は要許可)事前許可申請許可なければ登記不可法務省
スイス住宅:非居住外国人の購入は州許可制全国(州ごと許可枠設定)州政府への事前許可申請登記拒絶・強制売却各州(連邦法)

(注記:上記表は主要な内容を簡略化したもので、各国詳細な例外規定があります。)

国によって、外国人の土地取得に対するスタンスは様々です。日本は比較的自由な部類ですが、重要土地等調査法の導入で安全保障面の歯止めを作った形です。次章では、これら規制が実際にどのような効果や課題をもたらしているか、そして一般の方に多い誤解は何かを見ていきます。

規制の影響評価:安全保障・市場・地域社会へのインパクト

各国の外国人土地取得規制は、それぞれ政策目的がありますが、その効果(メリット)と副作用(デメリット)を総合的に見る必要があります。ここでは主に日本を軸に、(A)安全保障への寄与、(B)不動産市場・経済への影響、(C)地域社会への影響の観点から評価します。

安全保障への寄与

日本: 重要土地等調査法の運用開始により、少なくとも政府が基地周辺や離島の土地利用状況を継続監視できる体制が整いました。例えば、防衛省は2023年度に初めて基地周辺の土地取引状況調査結果を公表し、一定の把握が進んでいます。また、もし将来、外国政府の関連会社が基地周辺で不審な施設を建設しようとすれば、勧告・命令で止められる法的根拠ができたことは抑止力になります。一方でこの法律は実際に強制的に土地取得を阻止するものではないため、「そもそも外国人に買わせない」ほどの強烈な安全保障効果はありません。結局、買われた後に利用を監視するという受動的措置です。また都市部については制度の射程外で、例えば東京の重要インフラ近くの土地購入など安全保障リスクが潜んでも対応できません。この点は今後の課題とされています。

海外: 米国CFIUSの拡張は安全保障寄与が大きいと言えます。特に2023年に問題視された事例(中国企業によるノースダコタ州空軍基地近隣の土地購入)は、地元市が開発計画を拒絶し、CFIUS制度強化の呼び水となりました。2024年ルール改正でCFIUSのカバー範囲が大幅に広がり、今後似た案件が事前にブロックされやすくなるでしょう。「国家安全保障の前には市場原理よりも審査を優先する」というメッセージを明確に発した形です。他方、フロリダ州法のように人種や国籍に基づく規制は安全保障というより政治的アピール色も強く、効果と弊害の議論が起きています。

不動産市場・経済への影響

住宅市場: カナダやNZの例を見ると、外国人排除策は短期的に住宅価格の安定化に寄与したと報告されています。カナダでは外国人購入禁止発表後、一部都市で価格伸び率が鈍化しました(ただし利上げの影響もあり要因分解が難しい)。NZでは2018年規制後、海外買い需要が減り高価格帯住宅の伸びが抑えられたと言われます。ただ、その反面投資資金の流入減による住宅建設ペースの低下といった副作用も指摘されます。実際NZでは規制後も住宅不足が続き、価格は一時高騰しました。規制だけでなく、総合的な住宅政策が必要なのは言うまでもありません。

商業投資: 日本や豪州は基本的に商業用地への外資投資を歓迎しています。日本の大都市圏オフィス市場ではここ数年、中国・シンガポール・欧米の不動産ファンドが活発で、外資による再開発も増えています。これは経済にプラスです。過度な規制はこうした良質な投資まで締め出す恐れがあります。豪州は承認制を課しつつも、上場企業や大型商業プロジェクトへの外資は自由化しています。日本でも現時点、商業地には何の規制もないため、六本木のビルが外国ファンドに買われようと自由です。ただ将来的に、例えば重要インフラ(水道施設等)用地や農地が外資に買われ続けると、社会の不安が市場に影響するかもしれません。実際、米国アイオワ州などでは「外国に農地を取られる」との懸念が農家に広がり、農地価格に影響したとの調査もあります。日本の農地はそもそも農家以外買えませんが、森林は自由なので、北海道では一時外資買収報道で周辺地価格が上がったという話もありました。

コスト負担: 豪州の空室税や申請料のように、外国投資家にコストを課す政策は歳入を生むメリットがあります。豪政府はこれで年間数億豪ドルを徴収し、住宅政策財源としています。日本も国土利用計画法届出で得た情報を元に、不動産取得税の適正化や固定資産税の捕捉などに活用できる余地があります。

地域社会への影響

地域振興 vs 資源囲い込み: 外国資本による土地取得は、過疎地域では時に歓迎されます。例えば北海道ニセコ地区ではオーストラリアや香港の投資でリゾート開発が進み、地域経済が潤いました。ただ一方で地元住民から「地価が上がりすぎて地元民が土地を持てない」「景観が損なわれた」との声もあります。重要なのは地域の合意形成です。日本の制度は事後報告中心なので、地元が事前に関与する仕組みが弱いという課題があります。欧州では地域ごとに開発許可制度が厳格で、外国人か否かに関わらず自治体の裁量が大きい国もあります。日本でも届出情報を地元自治体と共有し、必要なら地域計画を見直す等のフィードバックが求められます。

治安・公共リスク: 安全保障以外にも、例えば森林荒廃(「買ったまま放置」「違法伐採」)や不法投棄といった問題が懸念されることがあります。ただこれらは外資に限った話ではなく、日本人オーナーでも起こり得ます。規制で外資だけ排除しても根本解決にはなりません。実際、北海道で2010年代に報じられた外資の森林取得案件も、違法伐採などの問題は国内業者によるケースが多く、外国資本だから特段悪いとも言えないデータがあります。むしろ林野庁や自治体が森林管理や所有実態を的確に把握する仕組みを整える方が重要でしょう。現在、林野庁は毎年市町村から外国資本による森林取引の報告を集めています。この継続が地域の安心感につながります。

外資の質と経済外交

規制が強まると、短期投機型の投資家は敬遠しますが、長期で地域に根ざす投資家は残るとも言われます。例えばカナダの規制延長は、中国人富裕層の投機的コンドミニアム購入を減らしましたが、本気で移住・定住する人には道を開けています。日本でも、「本当に日本に貢献してくれる外資なら歓迎、そうでないならお引き取りを」というメッセージをどう出すかが問われます。それは外交にも影響します。あからさまに特定国を排除すれば関係悪化も招きます。米フロリダ州法には中国政府だけでなく米国内の中国系市民も強く反発しました。規制と多様性尊重のバランスは難しい問題です。


以上、制度の効果と影響を見てきました。では、実際に巷で語られる「外国人の土地取得」に関する話にはどんなものがあり、何が事実で何が誤解なのでしょうか。次章ではQ&A形式でよくある疑問に答えます。

誤解と事実:外国人土地取得をめぐるQ&A

外国人の土地取得に関しては、多くの疑問や都市伝説のようなものが存在します。ここでは15以上の典型的な質問を取り上げ、Yes/Noを交えながら正確な回答と根拠を示します。

Q1. 外国人は日本で土地を自由に買えますか?
A1. 基本的にはYes。日本には外国人の土地取得そのものを包括的に禁止・制限する法律はなく、国籍を理由に契約を拒むこともできません。ただし、一部のケースで重要土地等調査法に基づく事前届出が必要になる区域があります。また大規模取引なら国土利用計画法で事後届出をしますが、これは外国人に限った話ではありません。

Q2. 外国人が土地を購入するのに政府の許可は要りますか?
A2. No(一般には不要)。日本では不動産登記の際に国籍や在留資格を確認する仕組みはなく、政府許可制ではありません。購入後に一定の場合で届出する義務はありますが、事前の許可・認可は求められません。許可制を採る国(例:デンマーク、スイス)とは異なります。

Q3. 重要土地等調査法で「外国人が土地を買えなくなった」って本当?
A3. No。重要土地等調査法は土地取引の禁止や無効化を定めるものではなく、特定区域での届出義務や利用規制を課す法律です。外国人でも日本人でも、区域内で売買契約自体は有効に締結できます。ただし特別注視区域内なら事前届出が必要で、内容次第で勧告が出る可能性があるということです.

Q4. 国土利用計画法の届出をすれば外国人の購入でも安心なの?
A4. 部分的にYes。届出制度は契約後の報告なので、事後的なチェックに過ぎません。ただし都道府県が利用目的を審査し、不適切なら勧告できるので、明らかに怪しい利用計画(例:投機目的ですぐ転売等)が抑止される効果はあります。ただ、外国人だから特段詳しく審査する仕組みではなく、日本人と同様の扱いです。よって安全保障上の安心という意味では限界があります。

Q5. 外国人名義の土地面積が日本の何%か把握されていますか?
A5. No (全国集計データはない)。登記に国籍情報が無く、公的統計でも「外国人所有土地総面積」は算出されていません。林野庁は外国資本の森林取得累計を発表していますが(2006-2023年で2,868haなど)、これは届出情報から手集計したものです。農地も農水省がAFIDA的報告は行っていません。大まかな推計は困難です。

Q6. 「中国人が日本の水源地を買い漁っている」のは事実?
A6. No (誇張です)。確かに2000年代後半に中国系資本が北海道などで森林購入した例はありました。しかし林野庁の調査によれば年間数十件・数十~百数十ヘクタール程度で推移しており、極端な“爆買い”ではありません。また、水源地の保全は所有者が誰かにかかわらず森林法等で規制されています。外国人所有だと即水が外国に送られる、などという話は根拠薄弱です。

Q7. 日本人は外国で土地を買えますか?
A7. Yes (多くの国で可能)。例えば米国・カナダ・豪州・東南アジア諸国などでは日本人でも不動産を購入できます。ただし国によって条件があります。タイではコンドミニアムは買えるが土地所有はできないなどの制限がありますし、欧州もデンマークのように許可制の例があります。また国によっては固定資産税の他に「外国人所有税」を課す都市もあります(シンガポールなど)。

Q8. 沖縄の土地は外国人は買えないって聞いたけど?
A8. No (誤情報です)。沖縄県独自の外国人土地取得禁止などはありません。米軍基地用地は日米地位協定下で特殊ですが、そこを除けば沖縄でも東京でも原則は同じです。一部、国境離島(沖縄の有人離島含む)が重要土地法の注視区域になっているため届出対象になる場合があるというだけです。

Q9. 届出をせず外国人が土地取得したらどうなる?
A9. 法律上罰せられます。国土利用計画法の届出義務に違反すると6ヶ月以下懲役または100万円以下罰金です。実際に摘発されるかはケースバイケースですが、悪質だと処罰され公表されるでしょう。重要土地法の届出違反は「6月以下の懲役」または「100万円以下の罰金」です。つまり事後的に罰則で担保されています。登記自体は止められませんが、処罰リスクがあります。

Q10. 外国人が日本の土地を買っても“所有権”は完全には保障されない?
A10. No (日本人と同じく保障されます)。日本は所有権の保護が強固な国です。外国籍だから所有権が弱いということはありません。ただ、例えば重要土地法で利用に制限がかかる区域では、所有していても有害な用途に使えない制限は受けます。これは日本人所有でも同じなので、国籍差ではありません。

Q11. 「土地」は買えても「地下の資源」は外国人に渡らないって本当?
A11. Yes (地下資源は基本的に国有)。日本では地面の下の鉱物資源や、水の公共的利用権は法律で管理されています。例えば温泉掘削や水の採取は許認可制です。外国人が土地を買っても勝手に地下水を大量汲み上げて輸出することはできず、水資源保護条例などで規制があります。したがって、水源林を外国企業が持っていても、水利用には別途許可が要ります。

Q12. 自衛隊基地の隣地がもし外国人所有だったら、強制収用できますか?
A12. ケースバイケース。現行法では外国人所有だから即収用という規定はありません。重要土地法に基づき利用状況に問題があれば最終的に使用停止命令まで可能ですが、土地自体を取り上げること(収用)は規定されていません。ただし国は安全保障上必要と認めれば土地収用法等で取得できなくはないでしょうが、それは最終手段です。

Q13. 登記簿見れば外国人所有かどうか分かる?
A13. 登記簿に国籍欄はありません。ただし2024/4/1以降に新たに所有権を取得して登記される「外国人の個人」については、氏名にローマ字が併記されます(法人・日本国籍者は対象外)。このためローマ字併記がある=外国人個人と判断できますが、併記がない場合でも施行前の既存登記・名義未更新・法人名義等があり、国籍は断定できません

Q14. 日本政府や自治体が外国人土地買収に対抗して“買い戻し”した例はある?
A14. Yes (わずかにあります)。例えば国境離島の無人島(長崎県の島)が香港人に買われたケースで、政府が交渉して買い戻した例があります。また北海道の森林でも自治体や企業が将来の水源保全のため外国企業から買い取った事例が報告されています。ただ恒常的な仕組みとして買戻し基金等があるわけではありません。

Q15. 将来的に日本でも外国人の住宅購入を禁止する可能性は?
A15. 現時点では低そうです。カナダ型の大胆な規制は、日本では住宅市場の構造(外国人購入比率が極めて低い)から言って緊急性が薄いです。また観光業や国際都市戦略の観点から、外国人の不動産投資をむしろ促進したい声もあります。政府方針でも安全保障面以外での外資規制強化には慎重です。ただ、将来状況が変われば議論は起きる可能性があります。

以上が主なQ&Aです。誤解が多い部分は、「重要土地等調査法=外資の土地取得禁止」と思われていること登記ローマ字併記=国籍記載と勘違いされること、届出制度の性格(許可ではなく報告)が理解されていないことなどでした。本記事を通じてそれらが少しでも解消されていれば幸いです。

次に、実務で外国人が関わる土地取引に際して注意すべき点をチェックリスト形式でまとめます。

実務チェックリスト:外国人関与の土地取引で留意すべきポイント

外国人(または外国企業)が日本の土地を取得する取引に関わる際、当事者・仲介業者・金融機関・自治体職員それぞれが確認すべき事項があります。以下にチェックリストとして整理します。

購入検討者(外国人投資家)向け:

  • 取得予定地が重要土地等調査法の注視区域/特別注視区域に該当するか確認する(内閣府ウェブの指定区域一覧で公表)。該当する場合、契約前に届出が必要なことを理解し、手続きを計画する。
  • 物件の面積が国土利用計画法の届出基準を超えるか確認(市街化区域2,000㎡など)。超える場合、契約後2週間以内に届出が必要なので事前に書類準備。
  • 用途によっては別の許可が要ることを確認(農地なら農地法許可、水利使うなら水利権許可など)。国籍というより用途制限に注意。
  • 取得後の利用計画を明確にしておく。届出書に記載するため、また不明瞭だと行政勧告のリスク。例えば「資産保有目的」とだけ書くより「〇〇事業のため保有」等具体的に。

不動産仲介・事業者向け:

  • 重要事項説明時に重要土地等調査法の特別注視区域である旨を説明する(宅地建物取引業法施行令3条1項63号〔2022/9/20施行〕により、注視・特別注視区域の別が重要事項に追加)。該当地域なら届出義務などを契約前に買主・売主へ周知する。
  • 売主買主が契約締結したら速やかに国土利用計画法届出書作成をサポートする。外国人との取引でも書式は同じだが、契約当事者の住所氏名のローマ字転記等正確に。
  • 登記申請時に備えて、外国人買主には住民票(ローマ字氏名付)を取得してもらうか、非居住者ならパスポートコピー+署名証明の準備を依頼。司法書士と連携し、ローマ字併記ルールに沿った表記確認を行う。
  • 取引スキームで外資比率に注意。例えば外国法人が日本法人を設立して購入する場合、一見届出不要そうでも、最終実質所有者が外国人なら重要土地法届出義務があるため見落としなく(法第13条は名義人でなく契約当事者ベース)。

金融機関(融資担当)向け:

  • 担保物件が特別注視区域の場合、届出受理証の提出を融資実行要件にするなどの対応を検討。無届出で契約無効にはならないが法令遵守の観点から。
  • 外国企業・外国人に融資する際、その返済原資や国内拠点有無など審査を厳格に(これは通常の与信管理)。土地規制とは直接関係ないが、マネロン対策含め注意。

自治体(届出受付担当)向け:

  • 土地取引届出を受理したら、外国人当事者か否かをチェックし、関係部署と情報共有する(例えば総務省の重要施設所在市町村なら内閣府への情報提供など)。もっとも法令上の扱いは日本人届出と同じなので差別的取扱いはしない。
  • 届出内容に不明点があれば早めに照会。特に外国法人で国内代理人の記載漏れなど書類不備が散見されるため。
  • 林野庁や道府県から外国資本の森林取得状況調査の依頼が来た際は速やかに協力(自治体が窓口となるため)。

以上のような点をチェックすることで、外国人関与の土地取引でも法令遵守と円滑な手続きが実現できます。

政策オプションと今後の展望:国際比較から考える

最後に、各国の制度から得られる示唆を踏まえて、日本が今後取り得る政策オプションと、そのトレードオフを考えてみます。

  1. 規制強化の是非: 安全保障上懸念の高い分野では、さらなる規制も選択肢です。例えば自衛隊基地や原発周辺については、現在は届出制ですが将来的に事前許可制に移行することも議論に上り得ます。または特定国による取得を一時凍結するような措置も理論上あり得ます。ただしカナダやフロリダの例を見ると、経済界や国際関係への影響も大きいため、慎重な検討が必要です。
  2. データ収集と透明化: まず前提として、外国資本の土地所有実態をより正確に把握する努力が重要です。登記のローマ字併記は一歩前進ですが、匿名化された所有構造(外国人が日本法人を介して買うなど)も多く、現行では見えません。法人の実質所有者情報の活用や、統計調査の充実が求められます。林野庁の年次調査や都道府県の届出情報分析を、もっと広く共有するべきでしょう。
  3. 各制度の連携: 重要土地等調査法と国土利用計画法は別々に動いていますが、今後は例えば「国土法届出情報から安全保障上疑わしい事案を内閣府に通知する」仕組みなど、縦割りを超えた対応が考えられます。また自治体の都市計画や土地利用規制(都市計画法の用途地域指定等)との組み合わせで、安全保障リスクを下げることも可能です。
  4. 国際協調: EUのように各国がスクラムを組んで外国投資を審査する動きもあります。日本もQuad(日米豪印)やG7などで、安全保障関連の土地・資産取得情報を共有し合う枠組みが作れないか検討する価値があります。グローバル企業は国境をまたいで活動しており、一国で閉じた規制よりも多国間の監視ネットワークが効果的な場合もあります。
  5. バランスの確保: 政策は常にトレードオフです。外国資本の受け入れを絞りすぎれば経済のダイナミズムが失われ、逆に野放しでは安全保障や国民生活に不安が出ます。日本のこれまでのアプローチは比較的リベラルでしたが、状況変化に応じ微調整する柔軟性が求められます。例えば「規制のサンセット条項を付け定期見直しする」「特にリスクが高まった分野だけ限定立法する」など、段階的・検証可能なやり方が望ましいでしょう。

今後注目すべき指標としては、届出件数の推移(外国資本の動向を示唆)、実際に勧告・命令が発動された事例の有無、住宅市場の需給動向(外国人需要が価格に与える影響)などが挙げられます。これらをウォッチしつつ、必要なら政策を調整していくことになるでしょう。

まとめ

  • ポイント1:日本では外国人の土地取得は原則自由であり、一部安全保障上重要な区域(基地周辺・国境離島等)でのみ重要土地等調査法に基づく届出・利用規制が導入されている。経済的観点では国土利用計画法による事後届出制が全取引対象にあるが、これは規制ではなく統計・計画目的の制度である。
  • ポイント2:主要国の比較では、カナダやNZのように外国人の住宅購入を禁止・制限する例、豪州のように承認制+課金強化する例、米国のように安全保障審査に特化する例がある。日本は比較的オープンだが、2021年法施行で安全保障面の穴を補完した。今後も国際情勢や世論次第で調整の可能性がある。
  • ポイント3:誤解を避けるためには、「何が届出義務か」「何が許可制か」を明確に理解する必要がある。外国人だから即禁止ではなく、きちんと制度に沿って手続きを踏めば投資も歓迎されているのが日本の現状である。一方で、制度を悪用する動きには厳正に対処する枠組みも整いつつある。

日本は今後も「開かれた投資環境」と「国民生活の保護」を両立させる舵取りが求められます。本記事がそのための正確な知識整理に役立てば幸いです。最後に、参考文献と付録資料を示します。

(本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法的アドバイスではありません。)

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政治 政策

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組織票とは何か?日本の選挙で許される支援と違法行為【公職選挙法・判例も解説】

組織票とは、労働組合・業界団体・宗教団体など組織の構成員がまとまって特定候補や政党に投票する票のことです。日本では、公職選挙法が選挙運動を厳しく規制し、戸別訪問(家や会社を一軒一軒訪ねる投票依頼)や事前運動(告示前の選挙運動)などを禁止しています。一方、組織内での呼びかけ自体は許容され、電話での投票依頼や偶然会った人への個別のお願いは期間中自由にできます。会社ぐるみの選挙運動が行き過ぎると連座制(当選無効)につながるケースもあり、最高裁(1997年3月13日判決)は会社の朝礼で社員に組織的支援を指示した経 ...

政策 社会

2025/8/11

外国人による日本制度悪用論をデータで検証する

外国人が「日本の制度を食い物にしている」という論調があります。しかし、公的データに基づいて検証すると、それらの多くは一部の事例が誇張された誤解であることが見えてきます。本記事では、生活保護や医療保険、高額療養費、技能実習、永住制度、免税制度から犯罪統計やマナー問題まで、一次情報にもとづき“外国人による日本制度の悪用”論の真偽と実態を検証します。 生活保護を巡る外国人受給の実態 外国人にも生活保護が支給される根拠:生活保護法では「全ての国民(日本国民)が対象」と規定されていますが、1954年の旧厚生省通知に ...

政策 経済・マクロ分析

2025/8/10

韓国のソウル一極集中:人口・経済偏在の現状と処方箋【2025年最新版】

韓国ではソウル首都圏(ソウル市・京畿道・仁川市)に人口の50.8%・名目GDPの52.3%が集中し、500大企業本社の約77%(ソウル284社)が所在します。地方では20代若者の流出が顕著(2023年、全羅北道で3.3%流出超過など)。政府は首都機能の世宗市移転や今後5年間で全国270万戸(首都圏158万戸)の住宅供給策を進めていますが、一極集中の是正には集積の利益と負の外部性の綱引きが続いています。 定義と歴史的推移 韓国の「ソウル一極集中」とは、ソウル首都圏(Seoul Capital Area: ソ ...

政治 政策

2025/8/6

消費税はどこへ消える?使い道を徹底解説

現在、日本の消費税率は10%(国税7.8%+地方税2.2%)です。この税収は当初の約束どおり全額が社会保障費に使われているのか、疑問に思ったことはないでしょうか。政府は税率引き上げの際に「将来世代へのツケ回しを防ぐため」と強調しましたが、その使途を巡っては議論が絶えません。本記事では消費税の仕組みと実際の使われ方を一次資料から検証し、誤解や論争点をわかりやすく解説します。 消費税収の仕組みと最新額 まず、消費税の基本的な仕組みと最新の税収規模を押さえましょう。消費税10%のうち、7.8%分は国税、2.2% ...

参考文献

一次情報(法律・政府発表・統計など)

  • 内閣府「重要土地等調査法」公式ページ(令和7年8月1日更新、6月25日区域指定変更告示)。
  • 重要土地等調査法(令和3年法律第84号)条文 - e-Gov法令検索。
  • 国土利用計画法(昭和49年法律第92号)および施行令 - e-Gov。
  • 国土交通省「一定面積以上の土地取引には届出が必要です」リーフレット(1998年改正後の現行制度解説)。
  • 法務省民事局 通達「令和6年4月1日以降の所有権登記名義人が外国人である場合の氏名のローマ字併記について」(民二第552号)ほかQ&A。
  • 林野庁「外国資本による森林取得に関する調査結果(令和5年分)」プレスリリース(2024年7月19日)。
  • 北海道「海外資本等による森林取得状況」最新公表資料(令和6年7月)。
  • 米国財務省プレスリリース/e‑CFR/Federal Register:31 CFR Part 802(2024年11月最終ルール)。
  • フロリダ州法 SB‑264 「Interests of Foreign Countries」(2023年7月1日施行)。
  • カナダ財務省ニュースリリース(2024年2月4日):外国人による住宅所有禁止の延長。
  • カナダ住宅公社(CMHC)「住宅不動産の非カナダ人購入禁止法」解説ページ。
  • オーストラリア税務局(ATO)「外国人住宅投資家向け手数料と空室料」案内(2025年7月改定)。
  • オーストラリア外国投資庁(FIRB)ガイダンスノート「住宅不動産への外国投資規制」(2023年版)。
  • New Zealand Overseas Investment Office(LINZ): Guidance on Residential Land(2018)。
  • EUR‑Lex:FDIスクリーニング規則(2019/452)。
  • デンマーク外務省:外国人によるデンマーク不動産取得の案内。
  • スイス連邦司法警察省(FOJ)/Fedlex:Lex Koller(BewG)ガイド・条文。
  • USDA FSA(AFIDA)年次報告(2023年):米国農地の外国人保有約4,500万エーカー(私有農地の約3.5%)。

二次情報・分析等

  • ACLUプレスリリース(2024年2月1日):フロリダ州法SB‑264の一部差止め判決。
  • アイオワ州立大学 AgDMレポート(2025年7月):米国とアイオワ州における外国人農地保有の実態。
  • 東京財団政策研究(2021年):グローバル時代にふさわしい土地制度とは。
  • ほか各種報道・白書・解説資料。

付録

主要用語集

  • 重要土地等調査法:基地・原発・国境離島周辺の土地利用を監視・規制する日本の法律(2022年施行)。略称「重要土地法」。
  • 国土利用計画法:全国の一定規模以上の土地取引に事後届出を義務付ける日本の法律(1975年施行)。略称「国土法」。
  • 注視区域:重要土地法で指定される監視区域。防衛施設周囲や国境離島等。特別注視区域より緩やか。
  • 特別注視区域:注視区域のうち特に重要な区域。土地取引に事前届出義務あり。
  • CFIUS:Committee on Foreign Investment in the US。米国の対米外国投資委員会。企業買収や不動産取引を安全保障審査する。
  • FIRB:Foreign Investment Review Board。豪州の外国投資審査委員会。外国人の不動産購入に承認を出す機関。
  • OIO:Overseas Investment Office。NZの海外投資事務所。外国人の重要資産取得を審査。
  • FDIスクリーニング規則:EU規則2019/452。加盟国の対内投資審査制度の協調を図る枠組み規則。
  • Lex Koller:スイスの外国人土地取得制限法の通称(1983年制定のANRA法)。許可制を定める。

略語

  • CMA/CA:カナダ統計局の都市圏区分(Census Metropolitan Area / Census Agglomeration)
  • SB‑264:フロリダ州上院法案264号(2023年法律)
  • AFIDA:米国農地外国投資開示法(Agricultural Foreign Investment Disclosure Act, 1978年)
  • FIRRMA:米国外国投資リスク審査現代化法(2018年、CFIUS改革法)

関連年表

  • 1974年:日本、国土利用計画法成立(大規模取引届出制導入)。
  • 1983年:スイス、Lex Koller施行(外国人不動産購入許可制)。
  • 1998年:日本、国土法改正(事前届出を事後届出に転換)。
  • 2018年:米国FIRRMA法成立(CFIUS権限拡大、不動産対象追加)。NZ、外国人住宅購入原則禁止を施行。
  • 2019年:EU、FDIスクリーニング規則制定(2020年10月施行)。
  • 2021年:日本、重要土地等調査法成立(翌年9月全面施行)。
  • 2023年:カナダ、外国人住宅購入禁止法施行(のち延長)。フロリダ州SB‑264成立。
  • 2024年:日本、不動産登記の外国人氏名ローマ字併記開始。米国、CFIUS不動産規制拡大。カナダ、住宅禁止措置を2027年まで延長。豪州、外国人申請料・空室料大幅引上げ。

以上が本稿のすべてです。ご精読ありがとうございました。

外国人の土地取得規制

政策

2025/8/23

外国人の土地取得規制と各国制度の徹底比較

外国人が日本の土地を「勝手に買っている」「法律で禁止すべきだ」といった議論を耳にしたことはないでしょうか。実はこのテーマ、何が「規制」されていて何が「届出義務」に過ぎないかがしばしば混同されています。例えば2021年に制定された「重要土地等調査法」は安全保障上重要な区域での土地利用を監視・規制するものですが、これを外国人の土地購入一般を禁じる法律と誤解する向きもあります。また、不動産登記で2024年から外国人の氏名にローマ字併記が必須化されたことを「国籍を把握する制度だ」と誤解するケースも見られます。さら ...

社会

2025/8/21

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 2025年の日本では、婚姻件数・出生数が過去最低水準となり、生涯未婚率も上昇しています。結婚と独身のどちらが「得」かは一概に言えず、お金・健康・幸福度・キャリア・制度上のメリット・デメリットがそれぞれ存在します。例えば経済面では、共働き夫婦は収入を合算でき生活に余裕が出やすい一方、独身は生活費が1人分で済み自由に使える時間・お金が多い傾向です。健康・幸福面では、国の大規模研究で「未婚者は既婚者より死亡リスクが高め」との結果や、既婚者のほうが平均幸福度が高い調査もあります。しかし同時に、結婚には家事・育児 ...

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