教育

GIGAスクール構想後のデジタル格差:現状・課題・対策

GIGAスクール構想により学校ICT環境は飛躍的に整備された。しかし、端末の家庭利用やネット接続、教員ICTスキルなどに地域・家庭間の格差が残る。本記事は最新データをもとに現状と課題、今後の対策を検証する。

要約

  • 1人1台端末と校内ICT環境の整備状況 – 2020年以降のGIGAスクール構想によって児童生徒1人1台の学習用端末配備と高速ネットワーク整備がほぼ全国で実現しました。2024年3月時点で端末整備は平均1.1台/人、普通教室の無線LAN整備率96.2%に達しています。授業でICTを活用する頻度も向上し、小中学校の約6割以上が「ほぼ毎日」ICTを活用しています。
  • 残るデジタル格差の実態 – インフラは整っても地域や家庭ごとのICT活用格差が顕在化しています。例として、インターネット回線速度は全国平均81.0%の学校が1Gbps以上を確保していますが、地域差が大きく、最高の埼玉県97.0%に対し最低の福島県は46.7%に留まります。また端末の家庭持ち帰り利用は小学校32.6%、中学校41.9%が「毎日持ち帰り」を実施する一方、約1割の学校では端末持ち帰りを許可していません。家庭のネット環境によってはオンライン学習へのアクセスに差があり、経済的困難のある世帯へのルータ貸与支援も十分に活用されていない実態があります。
  • 今後の対策と第二フェーズ「NEXT GIGA」 – 文部科学省はGIGAスクール構想の第2期として「NEXT GIGA」を推進し、端末の更新格差是正に取り組みます。具体策として、端末更新費用への国の補助(1台当たり55,000円、補助率2/3)の創設、都道府県単位での共同調達の義務化、家庭学習用通信環境への定額補助(公立は上限1万円)などが講じられています。さらに、端末の家庭持ち帰りを標準化し、安全に運用する仕組みづくり、校内ネットワーク帯域の増強とフィルタリング運用見直し、教員のICT研修拡充やICT支援員配置など、総合的な対策が進められています。
  • 結論 – GIGAスクール構想でハード面の土台は整ったものの、「使いこなし」の段階で生じるデジタル格差が今後の課題です。家庭・地域間での環境差や教員スキル差を是正し、真に学びの質を高めるためには、政策面での継続支援と現場での創意工夫が不可欠です。以下、詳しく現状データと課題、対策を解説します。

主要ファクト

  • 学習者用端末整備率児童生徒1人あたり平均1.1台の端末が配備(2024年3月時点)。全国の公立学校で概ね「1人1台」が実現しています。
  • 校内ネットワーク普通教室の無線LAN整備率96.2%、全普通教室でのネット接続率98.3%に向上(2024年3月)。ほぼ全ての教室でWi-Fi等によりインターネットに接続可能。
  • 高速回線導入状況81.0%の学校が1Gbps以上の高速インターネット回線を整備(2024年、前年66.3%から大幅増)。ただし都道府県間で46.7%~97.0%と差が残ります。
  • 授業でのICT活用頻度「ほぼ毎日」ICTを活用する教員の割合は小学校65.3%、中学校62.8%(2023年度)。週1回以上に広げると小学校99.0%、中学校97.4%に達し、ICT活用が日常化。
  • 端末の家庭持ち帰り毎日持ち帰りを実施する学校は小学校32.6%、中学校41.9%(2023年度)。時々持ち帰りを含めると約8割超が家庭での端末利用を認める一方、「持ち帰り不可」の学校も1割前後存在。
  • 教員のICT活用指導力:自己評価で「できる・ややできる」と回答した教員の割合は、授業準備等でICT活用できる能力89.6%、授業でICTを活用して指導する能力80.4%など、全項目で8割前後(2024年)。年々向上傾向にあります。
  • 端末更新支援策:国は端末更新用に1台当たり55,000円を補助基準額とする基金を創設(補助率2/3、予備端末15%以内)。令和5年度補正予算(2023年)で2,661億円(案)を計上し、今後5年程度かけて計画的に更新。当面は令和7年度までの更新分(約7割)を計上。。
  • 家庭ネット環境支援:経済困難世帯向けにモバイルルータ貸与(通信料定額上限1万円)の補助制度を実施。しかし2021年度末までに整備ルータの6割以上が未貸与と会計検査院が指摘。需要予測の過大や家庭学習の限定実施が理由。
  • 高等学校の1人1台端末:高校でも2024年度までに全自治体で端末配備完了予定。多くはBYOD/BYAD方式で、生徒自ら指定端末を調達。低所得世帯には最大45,000円の購入支援が用意され、家庭負担軽減を図っています。

GIGAスクール構想で実現したICT環境の現状

1人1台端末の整備達成と台数の水準

2019年に発表されたGIGAスクール構想により、全国の小中学校で児童生徒一人一台の端末配備が一気に進みました。2020~2021年度の集中的な整備の結果、2022年3月には初めて端末台数が児童生徒数を上回り(端末1.0台/人)、以降も端末の追加・更新で直近3年間は「1人あたり1.0台以上」を維持しています。2024年3月現在で全国平均1.1台/人と、予備機を含め児童生徒数を上回る端末が確保されています。これにより、教室での「1人1台」学習環境がほぼどの学校でも実現しました。

端末整備率に地域差はほとんどなく、全自治体の99.9%が義務教育段階で1人1台端末整備を完了しています。小中学校のみならず、高校段階についても各自治体で端末整備が進められ、2024年度内に全自治体で高校生用端末の1人1台配備が完了予定とされています。高校では公費による整備のほか、生徒が自分の端末を用意するBYOD/BYAD方式が主流ですが、経済的負担に対しては各都道府県で補助制度(後述)が整備されています。

校内ネットワーク環境の飛躍的向上

端末とともに、校内のネットワークインフラも質・量ともに大きく改善しました。GIGAスクール構想前の2019年3月時点では、児童生徒用PCの台数は平均0.2台/人、普通教室の無線LAN整備率は41.0%程度でした。それが2023年3月時点で無線LAN整備率96.2%まで飛躍的に向上し、ほぼ全ての普通教室にWi-Fiが設置されたことになります。残る未整備の数%についても、モバイル通信等でカバーされており、普通教室の98.3%で何らかの形でインターネット接続が可能な状況です。

また、校内LANだけでなく対外接続回線の高速化も大きく前進しました。学校のインターネット回線速度(理論値)1Gbps以上の整備率は、全国平均81.0%(2024年3月)に達しています。これはGIGA整備前の2020年度末時点15.0%からわずか数年で大幅に改善したもので、多くの学校でギガビット級の回線が利用できるようになったことを示します。都道府県別では最高の埼玉県で97.0%の学校が1Gbps以上を確保する一方、最低の福島県では46.7%にとどまるなど地域差もみられます(詳細は後述)。しかし全体としては1Gbps回線網の普及が急速に進み、「動画の同時視聴や大容量教材のダウンロードも概ね支障なく行える」水準に近づいています。

授業におけるICT活用の定着

ハード整備の進展に伴い、授業でのICT活用も日常化が進んでいます。文部科学省が実施する全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)では、授業担当教員に対しICT機器活用頻度を尋ねていますが、「ほぼ毎日」ICTを活用して授業を行う教員は小学校65.3%、中学校62.8%に上り、前年から約7ポイント上昇しました。週1回以上の活用に範囲を広げれば、小学校99.0%、中学校97.4%とほぼ全ての教員が定常的にICTを活用している状況です。これはGIGA端末配備以前には考えられなかった劇的な変化で、黒板とノートだけだった教室にタブレットや大型提示装置が加わり、調べ学習や動画視聴、デジタル教材の活用などが当たり前の光景になりつつあることを示しています。

児童生徒自身もICTに触れる機会が格段に増えました。2023年度の全国学力調査によると、児童生徒に配備された端末を「日常的(毎日〜時々)」に家庭で利用できていると学校が回答した割合は、小学校90.4%、中学校87.4%に達しました。学校外でも端末を活用した学習が広がりつつあり、特にコロナ禍で経験したオンライン学習のノウハウが各家庭や地域に定着し始めています。また、不登校児童生徒の学び支援やオンライン相談へのICT活用も徐々に増え、週1回以上活用している学校が小学校43.1%、中学校54.5%にのぼるなど、学習以外の面でも端末とネットを活かす動きがみられます。

このように、GIGAスクール構想を経て教育のICT基盤整備という点では質量ともに大きな成果が出ました。一人一台端末と高速ネットワークによって、「いつでも・どこでも・誰でも」デジタル教材やインターネットリソースにアクセスできる条件が整ったといえます。次に、この基盤の上で顕在化してきた格差の現状を見ていきます。

浮き彫りになったデジタル格差の課題

ハード・インフラ面の整備が一巡した今、地域間・家庭間・人材間に残る「デジタル格差」が課題として浮上しています。主な格差要因として、(1) 家庭での端末利用環境、(2) 学校間のネットワーク品質、(3) 教員のICT活用指導力、(4) 高等学校段階での格差 が挙げられます。それぞれ最新データを基に現状を整理します。

家庭での端末持ち帰り利用とネット環境格差

家庭環境による学習機会の差は依然として大きな論点です。GIGA端末自体は全員に行き渡りましたが、「それを家庭で使えるか」は学校や地域によって対応が異なります。2023年度の調査では、端末を毎日持ち帰って家庭で利用できるようにしている学校は小学校で32.6%、中学校で41.9%にとどまり、半数以上の学校では毎日持ち帰りを許可していません。「時々持ち帰り利用」を含め約8~9割が家庭利用を何らか認めているものの、残り1割強の学校では「基本的に持ち帰らせていない」状況でした。持ち帰り制限の理由としては、家庭での破損・紛失リスクへの懸念や、フィルタリング管理の難しさ等が指摘されています。結果として、同じ自治体内でも学校によって家庭学習で端末を使える子と使えない子が生まれる事態になっています。

さらに、持ち帰りが可能でも家庭にインターネット接続環境がない・不十分なケースもあります。総務省の調査では日本全体のインターネット世帯普及率は90%近いとされますが、経済的困難を抱える世帯や地域によっては子供が自宅でブロードバンドにアクセスできない場合があります。この対策として文部科学省は2020年度より「家庭学習のための通信機器整備支援事業」を実施し、経済的に厳しい家庭へWi-Fiルータ等を貸与する費用を補助しました。具体的には国公立学校の児童生徒を対象に1台あたり定額最大1万円(通信料含む)、私立学校には1/2補助(上限1万円)という内容で、各自治体がモバイルWi-Fiルータを整備しました。

しかし、この家庭向けルータ支援は必ずしも有効に機能したとは言えません。会計検査院の調査によれば、整備されたルータの6割以上が2021年度末までに一度も貸し出されていなかったことが指摘されています。全国で整備された約17.8万台のうちピーク時に貸与されたのは6.5万台程度で、11万台超が未使用でした。理由として、想定より「ルータ貸出希望者が少なかった」自治体が全体の30%超(74自治体)あったほか、「端末持ち帰り自体が進まなかった」「家庭学習は緊急時のみという方針だった」等が挙げられています。つまり自治体側の需要予測が過大で余剰が発生したケースや、保護者の不安・理解不足で希望者が少なかったケースが考えられます。また、制度上貸出対象を低所得世帯などに限ったことで、潜在的なニーズを拾いきれなかったとの指摘もあります。このように、家庭のネット環境整備は「端末配れば解決」とならない複雑な課題であり、一部の子供たちは依然として十分なオンライン学習環境を得られていない現状があります。

学校間・地域間で異なるネットワーク速度と運用

前述のように全国平均では高速回線整備率が81%に達したものの、地域間格差は無視できません。東日本のある県教育委員会の担当者は「自治体WAN(広域ネットワーク)経由で接続している地域では帯域が細く、同時接続で速度低下が顕著」と課題を述べています。実際、2024年3月現在でも1Gbps以上の回線を導入できていない学校が約2割あり、その多くは地方の中小自治体や過疎地の学校です。地理的条件や地域ネットワーク網の制約で光ファイバー増強が遅れているケースや、教育委員会単位で一括接続している方式のため各校への帯域配分が不足しているケースがあります。極端な例では岩手県は64.3%(通信速度1Gbps以上・令和6年3月1日現在)で、なお全国で下位層にあります。一方、1Gbps以上は全国平均81.0%。上位県では95%以上(例:埼玉97.0%)だが、低位県は46.7%(福島)と地域差が大きい状況です。

ネットワーク運用ポリシーの違いも格差を生んでいます。自治体によっては学校からインターネットへの接続を県や市の教育センター経由に限定し、厳格なフィルタリング・監視下に置いています。この場合、アクセスが集中すると回線が逼迫したり、一部のクラウドサービスがブロックされ授業で使えない、といった弊害が報告されています。逆に一部自治体では学校ごとに商用プロバイダと直接契約し、フィルタリングも必要最低限にとどめて高速性・柔軟性を優先している例もあります。例えば佐賀県などは比較的早期に全校1Gbps直収接続を実現し、オンライン授業や動画配信のスムーズさで成果を上げています。一方でセキュリティ確保や児童の不適切アクセス対策との両立が課題となるため、各地で「校内直収 vs 広域WAN経由」「フィルタの厳しさ」のバランスに差が生じているのが実態です。このようなインフラ運用面の差異も、結果的に地域ごとのICT活用度や利便性の格差につながっています。

教員のICT活用指導力と研修機会の差

人材面での格差も看過できません。端末やネットを使いこなすのは最終的に人であり、特に教員のICT活用指導力には地域差・個人差があります。文科省の調査では教員自らの自己評価によるICT指導力(4つの大項目A~Dについて「できる・ややできる」の割合)を測定していますが、2024年3月時点で「授業準備・校務にICTを活用する能力」(A)は全国平均89.6%と大半の教員が自信をつけています。一方、「授業でICTを効果的に活用して指導する能力」(B)は平均80.4%に留まり、依然2割弱の教員は十分にはできていないと感じています。特に、児童生徒同士の協働学習でICTを使わせる指導やプログラミング的思考教育など、「児童生徒にICT活用を指導する能力」(C)ではできる割合81.6%と他項目より低めです。裏を返せば、約2割の教員はICTを授業に取り入れることに不安や不慣れさを抱えている可能性があります。

都道府県別に見ると、愛媛県や徳島県ではA~D全項目で教員の肯定的回答割合が全国トップクラス(90%以上)であるのに対し、人口規模の大きい都市部で平均以下となっている例もあります。教員研修の受講率にも地域差があり、2021年度ではICT研修受講率が長崎県96.6%、長野県96.2%に対し、和歌山県54.5%、神奈川県58.0%と開きがありました。自治体による研修機会の提供やICT支援員の配置数の違いが背景にあります。財政に余裕がある自治体や意欲的な教育委員会は研修を積極推進し、全教員に近い受講率を達成していますが、そうでない地域では教員任せで研修が十分行き渡っていない場合があります。

また、学校単位でもICTに熱心な教員がいる学校とそうでない学校では端末活用の雰囲気が異なります。先進校では管理職やICT推進担当が中心となり、校内研修や情報共有で教員間のスキル差を埋めていますが、取組の弱い学校では宝の持ち腐れになっているとの声もあります。「整備はしたが『使っている』『学びが変わった』という実感は数字ほどではない」という現場の指摘もあり、機器の有無より「人の使いこなし格差」が課題となっているのです。

高校段階における端末整備と負担格差

GIGAスクール構想の対象外だった高等学校についても触れておきます。高校では国の直接支援が手薄だったため、各自治体・学校ごとに1人1台端末環境の整備方針が分かれました。多くの公立高校ではBYOD/BYAD(家庭購入)方式を採用し、保護者負担で生徒自ら端末を用意する形をとっています。そのため、家庭の経済状況による端末スペックや準備率の差が懸念されました。この点、国も放置せず2021年度以降「高等学校等における1人1台端末整備のための支援」を開始し、住民税非課税世帯等の生徒に対し端末購入費の補助(上限45,000円)を行っています。例えば東京都は『端末購入支援金』を実施(保護者負担額は原則3万円等、詳細は年度・要件により異なる)しています。このように低所得層への配慮はあるものの、「自前購入」が前提の高校では依然として家庭による機種選定・管理の負担があり、デジタル格差の新たな要因となりえます。一部では学校指定機種を一括購入するBYADで機種統一や管理ソフト導入を図っていますが、それでも経済的・技術的サポートが必要な家庭へのフォローや、端末費用をめぐるトラブル(滞納や買い控え)等の課題も報告されています。

以上、現状の課題として「家庭」「学校」「人材」「高校」の各側面でデジタル格差が残存していることを見てきました。次章では、これら格差解消に向けて国・自治体・学校が進めている施策や、今後取り組むべき対策について解説します。

デジタル格差解消に向けた主な取り組みと対策

上述の課題に対し、文部科学省および各教育委員会はGIGAスクール構想第2章「NEXT GIGA」として様々な施策を展開・計画しています。ここでは主要な対策を(1)端末の更新支援、(2)家庭学習環境の整備、(3)校内ネットワーク強化と運用改善、(4)教員研修・人材支援の4つに分けて説明します。

端末の更新と共同調達によるコスト平準化

端末更新問題の顕在化:初期に整備された端末は2024~2025年にかけて導入後4~5年を迎え、バッテリー劣化や故障増加が進みます。各自治体で次期更新の財政負担が大きな課題となっており、「端末更新を計画的に進めないと新旧混在や買い替え困難による格差が生じかねない」と懸念されています。こうした状況を受け、政府は2023年度補正予算で「GIGAスクール構想の推進~1人1台端末の着実な更新~」と題した事業に2,661億円もの大型予算を計上し、端末更新を強力に支援する方針を打ち出しました。

国の更新補助(GIGA加速化基金):具体策として創設されたのが各都道府県に設置する「GIGAスクール構想加速化基金」です。これは国の補助金で都道府県に基金を造成し、市町村の端末更新事業に充てる仕組みです。補助基準額は1台当たり55,000円(地域加算あり)で、国庫補助率は2/3(残り1/3を自治体負担)と定められました。また予備端末は更新対象台数の15%以内まで補助対象とされ、壊れた時の代替機確保も支援します。この額55,000円は当初計画の45,000円から引き上げられたもので、物価高騰や端末価格の変動を考慮したとみられます。基金の整備事業は原則5年間(終了日は令和11年3月31日)。当面は令和7年度までに約7割の更新を見込む運用。

共同調達の推進:端末更新を進めるにあたり、文科省は都道府県に共同調達会議の設置を義務付け、都道府県を中心とした“共同調達等”を前提(例外可)。GIGA構想当初から「コスト低減と事務負担軽減のため、可能な限り複数自治体でまとめて機種を購入すべし」とされてきましたが、NEXT GIGAではそれを徹底するため、都道府県ごとに共同調達会議の設置を義務付け、各市町村が必ず参加するよう求めています。会議で取りまとめた台数・機種条件で一括発注することでボリュームディスカウントを引き出し、価格上昇を抑える狙いです。仮に共同調達が困難な場合でも、所定の「オプトアウト」条件(例えば既にリース契約中など)に該当すれば個別調達も認められます。実際に大阪府枚方市など一部自治体は独自調達を選択していますが、基本的には共同調達への参加が補助金交付の前提となっています。さらに、文科省主導でベンダー企業とのマッチングの場「自治体ピッチ」を開催するなど、円滑な調達を後押しする施策も取られています。

運用費用の平準化検討:端末整備は購入だけでなく維持管理費用もかかります。今後は端末管理システムやアクセサリ交換、通信料などを含めたTCO(総保有コスト)を見据えた予算計画が重要です。文科省は各自治体に対し、基金終了後も見据えてリース活用や更新サイクルの平準化を検討するよう促しています。また、省内では「学校ICT環境整備の地方財政措置化」も議論されており、義務教育費国庫負担金等にICT関連経費を組み込む可能性もあります。いずれにせよ端末更新は一度で終わりではなく継続的に発生するため、国の大型補助がある今のうちに更新モデルを確立し、将来の財政負担を滑らかにすることが格差防止の観点からも重要です。

家庭での持ち帰り学習推進と通信環境サポート

持ち帰り標準化への方針:文科省は端末を授業だけでなく家庭学習でも活用することを推奨しています。2022年には各教育委員会宛に「児童生徒による学校端末の家庭持ち帰り活用の促進について」とする通知を発出し、感染症流行などの緊急時に限らず平時から家庭で端末を使わせるよう求めました。実際、全国学力調査の分析でも「家庭で端末利用が日常的な学校ほど学力テストの平均正答率が高い傾向がある」と報告されており、持ち帰りの教育効果が示唆されています。こうした背景から、「端末持ち帰りを標準とし、学習の場を家庭にも拡張する」ことがGIGA第2期の柱と位置付けられています。

安全なBYOD/BYAD設計:持ち帰りや家庭使用が進むと、情報セキュリティや適切利用のルール作りが不可欠です。とりわけ高校では生徒自身の私物端末(BYOD)や指定端末(BYAD)を使うため、フィルタリングソフトやMDM(モバイル端末管理)の導入が進められています。学校指定の「アカウント」で端末を管理し、家庭でも学校と同等のフィルタリングをかけたり、有害サイトブロックをかける仕組みです。また、深夜の利用制限(ペアレンタルコントロール)や、紛失時のリモートロック機能など、安全に持ち歩ける技術的対策が講じられています。自治体によっては家庭への説明会を開き、保護者と協力してルール策定(夜10時以降は使用しない等)を行っている例もあります。BYADの場合は機種統一されているため管理が比較的容易ですが、BYODで機種が多様な場合は操作法の違いからトラブル対応に手間取ることもあり、学校現場へのサポート体制拡充も課題です。

家庭の通信環境支援の充実:前述した家庭向けルータ貸与支援は必ずしも十分活用されませんでしたが、引き続き経済的困窮世帯やネット未整備世帯へのサポート策は重要です。文科省は「いつでもどこでも学べる環境」をキーワードに、自治体が行う家庭通信費支援策の事例収集・情報提供を進めています。例えば兵庫県尼崎市では必要世帯にモバイルWi-Fiを無償貸与し、費用は市が全額負担しています。東京都は就学支援金受給世帯への通信費補助を検討中です。今後は単にルータを備えるだけでなく、「生徒宅に光回線を引く際の補助」や「スマホのテザリング費用補助」など、各家庭の事情に応じた柔軟な支援が求められています。また貸与ルータ未活用問題を踏まえ、余剰ルータを地域の学習スペースや図書館に転用する等の工夫も提案されています。鍵となるのは「必要な子に確実に届く支援」を設計することであり、自治体と学校、福祉部局などが連携して対象者を把握し手厚くフォローしていく必要があります。

校内ネットワークの増強と運用改善

さらなる帯域増強(10Gbps化等):1Gbps対応が8割を超えたとはいえ、ネット利用が高度化する中でさらなる高速化も視野に入ります。特に複数クラスで同時にオンライン配信や双方向通信を行う場合、1Gbpsでも不足を感じる場面があり、将来的には10Gbps回線へのアップグレードも検討されています。既に一部の教育委員会では来年度予算要求に10Gbps対応費を盛り込んでいます。また、校内ネットワークについても無線LANのアクセスポイント増設やWi-Fi6への更新など、同時接続端末数の増加に耐え得る環境づくりが進められています。文科省は令和7年度以降のICT環境整備方針案の中で、学校の通信帯域目標を引き上げる方向性を示唆しており、国の財政措置による継続支援も検討されています。

直収化とクラウド活用:ネットワーク格差を是正するため、学校から商用クラウドへ直接アクセスできる経路の整備が重要です。自治体WAN経由のボトルネックを解消するため、教育用トラフィックのみ直接インターネットブレイクアウトさせる仕組みや、教育コンテンツをキャッシュするCDNの活用などが提案されています。総務省も自治体広域ネットワークの見直しを議論しており、学校現場から「オンライン学習サービスは自治体NWを迂回させてほしい」といった要望も出ています。今後、ネットワーク設計を教育用途に最適化することがデジタル格差是正につながるでしょう。

フィルタリングとセキュリティの最適化:安全と利便性のバランスを取った運用ルール見直しも進められています。極端に厳しいフィルタ設定で学習上有用なサイトまでブロックされるケースでは、ホワイトリスト方式への移行や、教員権限で一時的に解除できる仕組みを整えた自治体もあります。また教育情報セキュリティポリシーの策定率が平均74.2%に留まるなど、セキュリティポリシー整備自体に地域差がある現状を受け、策定支援や標準モデル提示が行われています。文科省はガイドラインで「校内LANは学習用と校務用を分離する」「クラウドはゼロトラストの考え方で利用する」等を示し、地方における統一的なセキュリティ水準引き上げを図っています。監視・管理ツールについても、各校ごとでは手が回らないため県域でSOC(セキュリティ監視センター)を設置する例も出てきました。こうしたネットワーク管理の高度化によって、地方でも都市部と同水準のネット環境を維持できるよう支援することが格差解消の鍵となります。

教員のICT指導力向上と人的サポート

体系的な教員研修の強化:人的な格差を縮めるには、やはり教員研修の充実が王道です。文科省は令和6年度から全教員のICT研修受講を事実上必須化する方針を掲げており、各自治体で計画的な研修実施が求められています。研修内容も単発の操作説明に留まらず、「ICTを活用した授業デザイン」や「プログラミング的思考の指導法」など実践的なプログラムが用意されつつあります。文科省が認定するICT活用教育アドバイザーの派遣制度も拡充され、専門家を呼んで校内研修を行う自治体も増えました。さらに、教育大学等の教員養成段階からICT指導力育成に力を入れる取組も始まっています。こうした教員のスキル底上げ策は、中長期的に全国の指導力格差を是正する効果が期待できます。

ICT支援員と外部人材の活用:すぐに全教員がエキスパートになるのは難しいため、ICT支援員などサポート人材の配置も重要です。総務省の調査では2021年度時点で全国の小中学校の約6割に何らかの支援員が配置されていましたが、配置数や専門性には地域差がありました。現在、文科省はGIGAスクール運用支援としてICT支援員の配置費用を補助しており、多い自治体では数十校に1人から数校に1人へと増員しています。支援員は教員からの相談対応や授業準備の手伝い、トラブル対処などを行い、「困ったときにすぐ駆けつけてくれる存在」として現場を支えます。また企業やNPOと連携し、外部のICT人材を非常勤講師やアドバイザーとして招く取り組みもみられます。地方では人材確保が課題ですが、オンラインで専門家とつなぐ遠隔支援の仕組みなど工夫がされています。人的サポートを手厚くすることで、ベテラン教員でも安心してICTに挑戦でき、結果として児童生徒への活用が進むという好循環が期待できます。

ナレッジ共有と横展開:自治体間・学校間で格差が生じないよう、優れた実践事例の横展開も促進されています。先進校のICT活用事例を共有するオンラインフォーラムや、教育委員会同士の情報交換会が開催され、成功要因や失敗教訓が共有されます。文科省も「EdTech導入実証事業」の成果を公開したり、各地域の研修教材を集約したポータルを整備するなどして、地域間ギャップの是正に努めています。重要なのは、「他山の石」を取り入れる謙虚さと、地域に適した形にアレンジする柔軟さです。各学校・教師が孤軍奮闘するのではなく、全国レベルで知見を共有し支え合うことで、格差のないICT活用が可能となるでしょう。

以上のように、多方面からデジタル格差解消策が講じられています。最後に、関係者ごとに具体的にどんな点に留意すべきかをチェックリスト形式で整理します。

関係者向け実務チェックリスト

● 教育委員会・自治体向け

  • 端末更新計画の策定と資金確保 – GIGA加速化基金や地方債等を活用し、複数年にわたる端末の更新スケジュールと予算を明確にする。
  • 共同調達の推進 – 都道府県共同調達会議へ積極参加し、市町村間で機種・数量を取りまとめて発注する。独自調達の場合も国の要件を満たす形で手続きを行う。
  • 校内ネットワーク増強 – 学校回線の1Gbps未満エリアを洗い出し、ISPや総務省と連携して光回線敷設・増速を図る。将来的な10Gbps対応も視野に設備更新計画を立てる。
  • セキュリティポリシー策定 – 教育情報セキュリティポリシーを未策定の場合は早急に策定し、既存ポリシーもクラウド活用を踏まえてアップデートする。
  • ICT支援員等の配置 – 財源措置を講じて支援員数を拡充し、全校で定常的なICTサポートが受けられるようにする。採用難の場合はオンライン支援など代替策も検討する。
  • 家庭支援の周知 – ルータ貸与や通信費補助の制度を必要な家庭に確実に案内し、希望調査をきめ細かく行う。未利用ルータの有効活用策についてもガイドラインを示す。

● 学校(校長・ICT担当者)向け

  • 端末持ち帰りルール整備 – 端末の家庭持ち帰りを前提とした校内ルールを策定(利用範囲、時間、保管方法、破損時対応など)し、生徒・保護者へ周知する。持ち帰り不可の場合も明確な理由を説明する。
  • フィルタリング設定見直し – 授業や学習で必要なサイト・サービスがブロックされていないか定期的に点検。不適切な制限は教育委と相談し緩和する。特に家庭学習時のフィルタは学習に支障ないレベルに設定。
  • 教員研修と情報共有 – 校内でICT研修計画を立て、全教員が年1回以上受講する機会を設ける。他校の実践事例を共有したり、得意な教員が社内勉強会を開くなど横の連携を強める。
  • 端末管理・トラブル対応 – 故障や不具合時の対処フローを整備(支援員や業者連絡先の明示、予備機の貸出方法など)。BYOD/BYADの場合は紛失時の責任や修理手順も明文化。
  • 保護者との連携 – 保護者説明会等でICT活用の意義や家庭でのルールづくりを呼びかける。家庭での端末利用状況について定期的にアンケートを行い、課題を把握して教育委員会へフィードバックする。

● 保護者・地域向け

  • 家庭内ネット環境の整備 – 子供がオンライン学習できるWi-Fiや有線ネット環境を整える。経済的理由で難しい場合、遠慮なく学校や行政に相談し、ルータ貸与や支援制度を利用する。
  • 家庭でのICT利用ルール – 家族で話し合い、端末の使用時間帯や用途、保管場所などルールを決めて子供に守らせる。夜間は保護者が端末を預かる、リビングでのみ使用する等、安全に配慮する。
  • 子供の学習見守り – 端末でどんな学習をしているか関心を持ち、成果物を見せてもらったり、一緒に調べ物をするなどポジティブに関与する。必要以上に制限・禁止するのではなく適切に励ます姿勢が大切。
  • 学校とのコミュニケーション – 学校から配布されたICT利用規約や注意事項を熟読し、不明点は問い合わせる。家庭で発見した課題(ネットが遅い、端末が使いにくい等)は学校に伝え、解決策を協議する。
  • 地域での活用支援 – 地域の図書館や公民館でオンライン学習スペースを提供する活動に協力する。自治会やPTAで子供のICT活用について情報交換し、地域ぐるみでデジタル学習を支える風土を作る。

以上のチェックリストを参考に、各立場でできる取り組みを進めることが大切です。

結論:次世代の学びに向け格差是正を継続的に

GIGAスクール構想によって、日本の初等中等教育はハード面で飛躍的な前進を遂げました。1人1台端末と校内ネットワークという「道具立て」は揃い、ICTを活用した個別最適な学び・協働的な学びへの土台ができています。しかしその恩恵を真に全国すみずみまで行き渡らせるためには、今なお残るデジタル格差の解消に継続的に取り組むことが必要です。

現状の格差は、かつての「端末がない」「ネットが遅い」といったゼロイチの格差から、「利活用の巧拙」による質的格差へと性格を変えています。家庭のネット環境や学校の運用方針、教員のスキル・意識といったソフト面の違いが、子供たちの学びの機会や深まり方に影響を与える段階です。この課題はハード整備よりも解決が難しく、人間の慣習や制度のアップデートが求められます。まさに「教育DX(デジタルトランスフォーメーション)」の真価が問われる局面と言えるでしょう。

幸い、国はNEXT GIGAとして財政支援や制度整備に乗り出し、自治体・学校も知恵を絞り始めています。重要なのは、格差是正と創造的活用を両立させる視点です。ただ平均点を揃えるだけでなく、ICTを使って各地域・学校の強みを伸ばし、全国の教育水準を底上げしていくことが理想です。そのためには、データに基づいて現状を検証し、良い実践は取り入れ、問題はオープンに議論する姿勢が欠かせません。

教育のデジタル格差は放置すれば将来の学力格差・技能格差に直結しかねない重大な問題です。だからこそ、今ここで丁寧に対応し、公平で質の高い学びを保障することが求められます。GIGAスクール構想後の新たなステージで、日本全体としてデジタルラーニングの環境と文化を成熟させていく――その道筋を着実に歩み、真の意味で「誰一人取り残さない」教育ICTを実現していきましょう。

用語集(Glossary)

  • GIGAスクール構想:2019年に文部科学省が打ち出した学校ICT化政策。「Global and Innovation Gateway for All」の略で、全国の小中学校等に児童生徒1人1台の学習用端末と高速ネットワークを整備する計画。2020~2021年度の国の補正予算により一気に実現した。
  • NEXT GIGA:ネクスト・ギガ。GIGAスクール構想の第2期フェーズを指す文部科学省の方針・取組み。端末の更新や格差是正、ICTの本格活用促進など、整備後の課題に対応するための計画。2024年度から始動し、共同調達や追加補助金などの施策が含まれる。
  • BYOD/BYAD:学校における端末調達方式の一種。BYOD(Bring Your Own Device)は生徒や教職員が自分の私物端末を持ち込んで使う方式。BYAD(Bring Your Assigned Device)は学校・自治体が指定した機種を各家庭で購入し持ち込む方式。高校で1人1台を実現する手段として広まった。BYADは機種統一により管理が容易になるメリットがある。
  • ICT活用指導力:教員がICT(情報通信技術)を効果的に授業や校務で活用できる能力のこと。文科省の定義ではA~Dの4つの大項目(教材研究・準備へのICT活用、授業でのICT活用、児童生徒へのICT活用指導、情報活用の基盤的指導)に分類される。各教員が自らの達成度を「できる/ややできる/どちらともいえない/あまりできない/できない」で自己評価する形で毎年調査されている。
  • 学習者用コンピュータ:児童生徒が学習に直接使用するための端末の総称。タブレット、ノートPC、Chromebook等を含む。文科省調査では「教育用コンピュータ」とも呼び、公費で整備されたものだけでなくBYOD端末も含めて台数をカウントする。指導者用(教員用)端末や校務用端末とは区別される。
  • 無線LAN整備率:学校の普通教室(ホームルーム教室)に無線LANアクセスポイントが設置されている割合。GIGAスクール構想以前は4割程度だったが、同構想で飛躍的に進展し現在ほぼ100%近い。なお特別教室等を含めた全体では若干下回る場合もある。
  • 共同調達会議:都道府県が設置する、域内市町村の端末調達を取りまとめる組織。教育委員会担当者や情報政策担当者が集まり、機種選定や数量の調整、ベンダーとの交渉方針を協議する。文科省が基金補助を行う条件として各都道府県に設置を義務付け、効率的な大量購入を推進している。
  • 家庭学習のための通信機器整備支援事業:2020年度開始の文科省補助事業。長期休校等でも児童生徒が自宅でオンライン学習できるよう、自治体がモバイルルーター等を購入する費用を国が補助した。公立は定額上限1万円、私立は1/2補助1万円などの条件でルータが整備されたが、貸与希望が想定より少なく未使用が多かった(会計検査院指摘)。

クイックQ&A

Q: GIGAスクール構想で何が達成されたの?
A: 全国の小中学校で児童生徒一人一台の端末配備と高速ネットワーク整備が実現し、授業でICTを日常的に活用できる環境が整いました。例えば普通教室のWi-Fi整備率は96%に達しています。

Q: それでもデジタル格差があるのはなぜ?
A: インフラは揃っても、家庭によってネット環境が違うことや、地域でネット回線速度に差があること、教員のICT指導スキルにばらつきがあることなど、ソフト面の違いで格差が生じています。また高校では家庭負担による端末調達が多く、経済状況による差も出やすいです。

Q: 学校のネットが地域で違うって具体的に?
A: 例えば1Gbps以上の回線を持つ学校は全国平均81%ですが、都市部ではほぼ100%整備された県もある一方、低い地域では半数以下にとどまります。さらに、ある県では全校を県立教育ネットワーク経由で接続していて速度が出ないなど、設計方針でも差があります。

Q: 家庭にネットがない子はどうしてる?
A: 文科省はモバイルルータ貸与の支援をしましたが、多くの地域で希望者が想定より少なく、2021年度末までに6割以上のルータが使われずに残りました。今後は必要な家庭に確実に行き渡るよう、学校からの働きかけや通信費補助などの充実が求められます。

Q: NEXT GIGAって何ですか?
A: NEXT GIGAはGIGAスクール構想の次の段階のことで、端末の更新や自治体間の活用格差是正などに取り組む文科省の施策パッケージです。補助金による端末更新支援(1台5.5万円)や共同調達の推進、教員研修強化などが含まれます。

Q: 国の55,000円補助金とは?
A: 2024年度に創設された「GIGAスクール構想加速化基金」による端末更新補助です。児童生徒用端末1台あたり55,000円を基準額とし、国がその2/3を負担(自治体1/3負担)します。この基金で初回整備端末の買い替えを下支えします。

Q: 高校生の1人1台はどうなってる?
A: 高校段階の1人1台は各自治体の判断で進展中。低所得世帯等への端末購入支援(上限45,000円)などの支援策が実施されている。多くは生徒が自前購入する形(BYOD/BYAD)ですが、低所得世帯には最大45,000円の補助があります。学校指定機種を買わせている場合も多く、大学進学時にも使えるPCを用意するケースが増えています。

Q: 教員のICT活用指導力は十分なの?
A: 改善していますが十分とは言えません。自己評価では授業でICTを活用できる教員は約80%に上りますが、裏を返せば2割は自信がない状況です。自治体により研修機会に差があり、今後すべての教員が一定のICT指導力を身につけられるよう研修の必修化や支援員サポートが進められています。

FAQ(よくある質問と回答)

Q1. GIGAスクール構想後の現在、全国の学校ICT環境はどの程度整備されているのですか?
A1. 端末とネットワークの整備はほぼ完了し、高い水準にあります。児童生徒用端末は全国平均で1人あたり1.1台が配備され、Wi-Fiもほぼ全教室に入りました。また8割以上の学校が1Gbps級の高速インターネット回線を導入済みです。これらのインフラ面では地域間の差は縮まりつつあり、「端末もネットもない」という環境は解消されました。今後はこの整った環境を活かして、いかに効果的な学びを実現するかが課題となっています。

Q2. それなのに「デジタル格差」が問題になるのはなぜでしょうか?
A2. ハードが整ってもソフト面・運用面での格差が残っているからです。一つは家庭のICT環境格差です。学校から端末を持ち帰れるか、家庭にネット回線があるかで学習機会に差が出ます。また学校間の運用差もあります。ネット回線が遅かったり厳しすぎるフィルタリングでうまくICTを使えない学校もあります。一方、自治体や学校のICT推進体制の差、つまり人材・スキル格差も無視できません。教員の研修不足やICT支援員の配置状況によって、同じ端末があっても活用の度合いに差が生まれています。要するに、「使う場」と「使い方」の格差が今なお残っているため、デジタル格差が問題視されているのです。

Q3. 子供が家でネットを使える環境がない場合、どんな支援が受けられますか?
A3. 文部科学省や自治体から家庭学習用の通信支援を受けられる可能性があります。具体的には、希望すればモバイルWi-Fiルータの貸与を受けられる制度が各地にあります。この費用は国や自治体が補助しており、対象は主に低所得世帯です。学校を通じて申請する形になっているので、家庭にネット環境がなくお困りの場合は遠慮せず担任や学校ICT担当に相談してください。また地域によっては通信費(月額料金)の補助制度がある場合もあります。ただ、貸与ルータが十分使われていない現状もあるので、必要な場合は積極的に声を上げていただくことが大切です。

Q4. 学校間でネットワークやICT活用に差があるのは学校の責任ですか?
A4. 学校単独というより、設置者(自治体)の政策や地域事情によるところが大きいです。例えばネット回線の整備は自治体予算や地域の通信インフラに左右されます。自治体によっては全校一律で高速回線を入れていますが、財政や地理条件で難しい場合もあります。またICTの利活用推進策(研修や支援員配置)も教育委員会の方針によります。もちろん校長先生や教員の意識によって校内の活用度に差が出る面もあります。しかし、それも研修機会やサポート体制と関係しています。したがって学校間格差は個々の学校だけでは解決困難で、自治体レベル・国レベルでの支援策が重要になります。現場の声をくみ上げつつ、教育委員会が主導して改善していく必要があります。

Q5. 今後、このデジタル格差を是正するためには何が必要ですか?
A5. 継続的かつ多面的な取り組みが必要です。まず国の支援策(NEXT GIGA)の下で端末更新やネットワーク増強を計画的に進め、ハード面の差を広げないこと。次に、各自治体が家庭へのサポートを拡充し、端末の家庭活用を標準にすることが大切です。例えばルータ支援のきめ細かな運用や、学校外の学び場の提供などです。さらには人への投資として教員研修を充実させ、ICT支援員等を増やし、すべての学校でICTを使った指導が当たり前にできるようにする。これらを不断に継続することが求められます。また、データに基づいて格差の状況を監視し、効果の高い施策に柔軟に予算を振り向ける機動力も必要でしょう。要は、「整備して終わり」ではなく常に改善を続ける姿勢が鍵です。デジタル技術自体も進歩しますから、その変化にも対応しつつ格差是正と教育の質向上を両立していくことが重要です。

Q6. 保護者や地域としてデジタル格差解消に協力できることはありますか?
A6. はい、保護者・地域にもできることがあります。まず家庭での理解と協力です。子供が安全に端末を活用できるよう家庭ルールを作ったり、ネット環境を整えたりすることは大きな助けになります。また学校とコミュニケーションを密にし、困り事があれば共有してください。保護者の声が行政を動かすこともあります。地域では、放課後に子供がICTで学べる場を提供するNPO活動やボランティアも考えられます。企業や大学と連携してプログラミング教室を開いたり、図書館にフリーWi-Fiスペースを作る事例もあります。要は「学校任せ」にせず、社会全体で子供たちのデジタルラーニングを支えることが大事です。それが巡り巡って格差の縮小につながります。

Q7. GIGAスクール構想は今後どう発展していくのでしょうか?
A7. 今後数年はNEXT GIGAの取組み期間として、端末更新や環境の高度化にフォーカスされます。その後は、より学びの内容面でのデジタル化が進むでしょう。例えばデジタル教科書の本格導入や、一人ひとりの学習データを活用した個別最適化などです。また高校や大学、社会教育へと1人1台の流れが波及し、生涯学習でも当たり前の基盤になると考えられます。GIGAスクール構想自体はハード整備が一段落したので名称としてはフェーズ2ですが、教育のDXはこれからが本番です。子供たちが将来に必要な力を育むため、技術と教育の融合はさらに発展していくでしょう。その際に格差が生まれないよう、今回取り上げたような視点で政策を調整し続けることが肝要です。

Q8. 現在の補助や施策はいつまで続くのですか?
A8. 端末更新補助の加速化基金は現時点では2025~2027年度の3年間程度を想定した時限的措置です。ただ、端末は今後も継続的に更新が必要になるため、終了後も何らかの地方財政措置に組み替えられる可能性があります。通信費支援もコロナ禍に始まった臨時的事業でしたが、各自治体の判断で継続しているところもあります。教員研修や支援員配置は当面続ける方針です。いずれも国の予算措置には限りがあるため、各自治体が自走できる仕組みに移行していくことが求められています。保護者負担についても、今後景気や物価によって補助内容の見直しがあるかもしれません。重要なのは、その時々で「何が格差の要因になっているか」を注視し、機動的に施策を講じ続けることでしょう。

Q9. デジタル格差の解消は学力向上に本当に寄与するのでしょうか?
A9. 直接的・短期的な因果関係を測るのは難しいですが、間接的には寄与すると考えられます。先述のように、全国学力調査ではICT活用が進んでいる学校ほど平均正答率が高い傾向が報告されました。これはICTの活用それ自体が学力を上げるというより、ICTを使いこなせる教師がアクティブな学びを展開していたり、子供たちも主体的に学習している可能性を示唆します。デジタル格差を是正することで、どの子も同じように豊かな学習機会を得られるようになります。それが結果的に学力向上や学習意欲向上につながることが期待できます。ただし、ICTはあくまで道具なので、使い方次第です。だからこそ格差なくICTを使える土壌を整えた上で、質の高い指導法を追求していくことが大切なのです。デジタル格差解消は学びの土台を平らにする作業と言えるでしょう。

Q10. 今後の教育ICTで目指す理想像は何ですか?
A10. キーワードは「誰一人取り残さず、誰もが最大限能力を伸ばせる」ことです。理想的には、家庭環境や地域差によらず全国どこでも同水準のデジタル学習機会が保証され、さらに一人ひとりの興味・関心・習熟度に合わせてICTがサポートしてくれる状態です。例えば、ネットを通じて地方の子供も都会の専門家から学べたり、自分のペースで先取り学習や復習ができたり、障害のある子もテクノロジーでバリアを感じない——そんな教育の実現です。学校の枠を超えて世界中とつながり学ぶことも当たり前になるでしょう。そのための基盤整備がGIGAスクール構想であり、今はまだ途中段階です。デジタル格差を解消することは、その理想に向けた土台固めです。最終的なゴールは、デジタル技術が子供たち一人ひとりの可能性を最大限引き出し、どの子も夢や目標に向かって学び成長できる教育を実現することだといえます。

参考資料・出典:(文中に示した出典以外の参考リンク)

  • 文部科学省「令和5年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果【確定値】」(2024年10月公表)reseed.resemom.jpreseed.resemom.jp
  • 国立教育政策研究所「令和5年度 全国学力・学習状況調査 報告書」(2023年7月)reseed.resemom.jpreseed.resemom.jp
  • 文部科学省「GIGAスクール構想加速化基金 管理運営要領」(令和6年1月29日決定)mext.go.jp
  • 教育新聞 (2022) 「家庭学習のための貸し出しルータ6割以上が未利用と指摘」kyobun.co.jpkyobun.co.jp
  • Reseed (2024) 「学校ICT実態調査、インターネット接続状況など地域差…文科省」reseed.resemom.jpreseed.resemom.jp
  • SBフレームワークス (2024) 「NEXT GIGAとは?共同調達や補助金の内容、2025年以降の計画」sbfw.co.jp (監修:玉橋丈児)

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