政治

石破茂首相辞任表明後の政局はどう動く?次期総裁選の行方と市場・外交への影響

2025年9月7日、石破茂(Shigeru Ishiba)首相は記者会見で辞任を正式表明した。7月の参議院選挙惨敗と党内から高まる退陣要求を受け、政権維持よりも党内分裂の回避を優先した決断だ。参院選後に与党は参議院でも過半数を喪失し、衆議院と合わせて少数与党に転落した異例の事態。本稿では、石破首相辞任の背景と今後の焦点となる自民党総裁選の構図、政局不安が及ぼす市場・経済への影響、日米で合意された関税交渉の中身、そして今後想定される3つの政局シナリオを詳説する。

現状整理:石破首相辞任に至った背景

参院選敗北と与党過半数割れ: 2025年7月20日の第27回参議院選挙(改選125議席)で、自民党・公明党の連立与党は改選議席の獲得目標(50議席)に届かず、わずか47議席(自民39、公明8)に留まった。非改選を含めても参議院で過半数維持に失敗し、与党は参院でも少数与党に転じた。選挙当夜、石破茂首相は「比較第一党として責任を果たす必要がある」と述べ、続投意向を示した。しかし与党の参院過半数割れにより、衆議院に続いて参議院でも過半数を失う異例の政権運営となった。

党内圧力と幹事長辞意: 参院選敗北直後から自民党内では石破首相の進退を問う声が拡大した。9月2日、自民党の森山裕(Hiroshi Moriyama)幹事長が敗北の責任を取り辞任の意向を表明。森山氏は石破首相に自身の進退を一任すると述べ、後任決定まで幹事長職に留まる考えを示した。石破首相は同日、「しかるべき時期に責任を判断する」と述べる一方、日米関税交渉の妥結までは政権を維持する考えも示唆していた。「多くの同志を失ったことはひとえに私の責任」と敗北を陳謝しつつ、「(日米の)関税交渉はきちんと道筋をつけないといけない」と述べ、外交上の懸案処理を優先する姿勢を見せた。

辞任表明と理由: そして9月7日夕方、石破首相は記者会見で「自民党総裁を辞任する」と正式表明した。表明の中で、直前に日米間で合意した関税交渉について「一つの区切りがついた」と説明し、参院選敗北の責任を取るには「今が適切なタイミングだと考えた」と述べている。石破氏は新総裁を選ぶ総裁選には出馬せず、後進に道を譲る考えも明言した。辞任決断の背景には、党所属議員と地方代表の過半数が求めれば臨時総裁選を実施する党則に基づき、9月8日にも総裁選前倒し(任期途中での実施)の手続きに入る見通しがあったことがある。石破氏は「このまま前倒しの是非を採決すれば党内に決定的な分断を生みかねない」と述べ、党内抗争を避けるため自発的に退く選択をした。実際、石破氏は辞任表明前日の9月6日夜、菅義偉(前首相)や小泉進次郎農相と会談し、「党の分裂はあってはならない」という進言を受けたという。石破氏の辞任決断には、こうしたベテランや次世代リーダーからの説得が影響したとみられる。

次期自民党総裁選:候補・方式・スケジュール

有力候補の顔ぶれ: 石破首相の後任を決める自民党総裁選には複数の候補者が名乗りを上げる見通しだ。中でも有力視されるのは3氏:高市早苗(Sanae Takaichi)前経済安保相、小泉進次郎(Shinjiro Koizumi)農林水産相、林芳正(Yoshimasa Hayashi)官房長官である。高市氏(64歳)は党内屈指の保守強硬派で、憲法改正や靖国神社参拝を主張する一方、経済面では大胆な財政出動を訴え、日銀の利上げにも反対する立場が際立つ。昨年9月の総裁選では石破氏に決選投票で敗れたが健闘し、今回初の女性首相の可能性を秘めている。小泉氏(44歳)は小泉純一郎元首相を父に持つ若手改革派で、党のガバナンス刷新や政治とカネ問題の克服を掲げる。昨年の総裁選では「スキャンダル続きの党に信頼を取り戻す改革者」とアピールし善戦、敗北後も石破政権で農相としてコメ価格高騰抑制策など目玉政策を担った。環境相時代(2019年)には脱原発や「気候政策はクールでセクシーであるべき」との発言で注目されたが、金融・財政政策に関する明確な見解は未知数だ。林氏(64歳)は岸田前政権から石破政権まで官房長官を務める要職で、元外相・防衛相など閣僚経験も豊富な実力者である。英語堪能で米ハーバード大学留学歴もあり、国際感覚に優れる。政策面では金融政策への政治介入に慎重で「日銀の独立性尊重」を繰り返し訴えてきた点が特徴だ。財政についても過度な債務膨張を警戒しつつ、防衛費増額などには現実的に対応できるバランス派との評価がある。

選出方式:フルスペックか簡易型か: 総裁選の実施方式も焦点だ。自民党総裁選には(1)党所属国会議員と党員・党友が参加するフルスペック型と、(2)党所属国会議員と都道府県連代表等に限定した簡易型(両院議員総会)がある。通常任期満了に伴う選挙は前者で行われるが、首相辞任に伴う緊急選挙では後者も選択可能だ。今回、政治空白を最小化するため簡略型になる可能性が高いとの見方もある。方式によって有利となる顔ぶれも異なる。昨年(2024年)9月の総裁選ではフルスペックで実施され石破氏が決選投票で勝利した。この時の1回目投票で石破氏に次ぐ2位・3位だった高市氏と小泉氏は、地方票で一定の支持を得ており、今回もフルスペックならこの2人が有力視される。一方、簡易型(国会議員票の比重が高い形)になれば、茂木敏充・小林鷹之両氏など他の中堅・ベテランにも浮上の目が出るだろう。党所属議員間の主導権争いも絡むため、執行部がどちらの方式を選ぶかは各候補の思惑にも影響される。

想定スケジュール: 自民党は石破首相の辞任表明を受け、速やかに総裁選の準備に入る。党則上、告示から投開票まで最低1週間程度の選挙期間が必要だが、今回のような緊急時には日程短縮も可能とされる。報道によれば昨年同様のフルスペック方式を前提に投開票日を10月上旬とする案が浮上している。例えば「9月下旬告示・党員投票、10月上旬決選投票・新総裁決定」という日程だ。一方、簡易型ならば国会議員中心の両院議員総会で早期決着も可能で、極端な場合9月中の新総裁誕生もあり得る。いずれにせよ、新総裁就任後には国会での首相指名選挙を経て新首相が正式決定する流れだ(詳細は後述のFAQ参照)。なお、連立与党が衆参とも少数の現状では、自民党総裁=首相の座が自動的に確定しない点に留意が必要である。

政局×経済:市場インパクトの実測値

円・株・金利の動向: 政局不安と政策期待は直近の市場にも表れている。参院選前後から円安・債券安(長期金利上昇)が進行し、30年国債利回りは9月上旬に過去最高の約3.28%(~3.285%)を付けた。与党の選挙敗北や財政拡張観測を織り込んだ動きで、円相場もドル高に振れドル円は9月2日に一時148円台後半(147円後半~148.4円前後)まで円安が進行し約1ヶ月ぶり安値水準を記録した。実際、9月2日には「森山幹事長辞意」報道や日銀副総裁のハト派発言を受け円が148.40円まで売られたと伝えられる。株式市場は一方で底堅く、9月5日には日経平均株価は9月5日に43,018.75円で引け、43,000円台を回復。米ハイテク株高や日米関税交渉合意による不透明感後退が追い風となり、この日は前日比+438円の43,018円と8月下旬以来の高値水準となった。輸出関連の自動車・機械株が関税懸念の緩和で買われた半面、週末の米雇用統計発表や「総裁選前倒し」党内投票(9月8日見込み)を控え、上値では利益確定売りも出た。総じて日本株は今年夏場に史上最高値圏まで急伸しており、高値警戒感と材料難からイベント通過後は緩やかな上昇継続との見方が市場では聞かれる。

次期政権の政策シナリオと市場の織り込み: 投資家は次期総裁が誰になるかで政策の方向性が変わる点にも注目している。石破政権は財政規律重視で消費減税に否定的な姿勢が強かった。その石破氏が退陣することで、「より財政拡張に前向きな総裁が誕生する可能性」が意識されており、金利上昇・円安圧力として表れている。例えば高市早苗氏が新首相となった場合、過去に日銀の利上げを牽制した経緯があり、市場は金融政策運営への彼女の影響を注視している。一方、小泉進次郎氏が総裁に就けば、野党第一党の立憲民主党や第三極の日本維新の会との連携も視野に入るため、市場は増税凍結や減税を含む積極財政への期待と不安を織り交ぜて反応する可能性がある。

直近では、政治的不透明感の高まりが日銀の金融政策にも影響を及ぼすとの指摘がある。SBI新生銀行の森翔太郎氏は「政治動向が不透明なため、当面は利上げに動きにくいのではないか」と分析する。新政権が誕生すれば補正予算編成や経済対策が予想され、世論も物価高対策として減税を支持していることから「新政権は財政拡張的な方向に向かうのではないか」との見方もある。その場合、財政拡大観測による円売りが起こりやすく、ドル円相場であと数円の円安余地もあり得ると指摘される。ただし米国側の金利低下要因(弱い米雇用統計など)も重なっており、日本要因だけで一方的な円安・金利上昇には行きにくいとの声もある。いずれにせよ総裁選の日程や新総裁の顔ぶれが固まるまで、為替・債券市場は政策思惑で揺れやすい局面が続くとみられる。

外交・通商:日米関税合意の中身

石破政権が「最後の課題」と位置付けた日米関税交渉が9月に大筋決着した。9月5日(米国時間4日)、トランプ米大統領が対日関税措置に関する大統領令に署名し、7月の日米合意内容を履行する方針を示した。この大統領令には以下のポイントが含まれる。

  • 自動車関税の15%への引き下げ: 米国が日本から輸入する自動車・部品に対する追加関税(通商拡大法232条)を含め、総計15%に関税率を引き下げる(官報公示後7日で発効、救済は8月7日に遡及)。これは今年4月時点の総計27.5%(基礎2.5%+追加25%)を15%の単一税率に引き下げ、他の関税と重ねない措置で、発効時期は「官報(Official Publication)公示後7日」とされた。自動車関税引き下げの詳細は大統領令内容が連邦官報に掲載後7日以内に公示される予定で、既に15%以上の関税率がある品目には追加課税しない特例措置が8月7日まで遡って適用される。日本側交渉担当の赤沢亮正経済再生相は「ようやく」とSNSに投稿し、4月以降10回に及ぶ訪米交渉の成果に安堵の意を示した。林芳正官房長官も「7月の日米合意の着実な実施だ」と歓迎し、石破首相も「経済や雇用への影響を極小化すべく万全を期す」とコメントしている。
  • 巨額の対米投資コミット: 日本側は米側の要請に応じて、総額5,500億ドル(約81兆円)規模の対米投融資を約束し、その内容を確認する覚書に署名した。米政府は日本からのこの巨額投資の投資対象を選定する権限を持つとされ、事実上、投資先決定も米側主導となる。この投資枠組みは日本企業による米国内のインフラ・産業プロジェクトへの出資や融資基金創設を含むもので、日米経済関係の結びつきを強化する狙いだと米側は説明している。もっとも、日本側にとっては極めて大きな負担であり、「利益配分が米国9:日本1ではないか」といった不平等合意との指摘も専門家から出ている。
  • 農産品・食品市場の譲歩: 大統領令および関連文書には、日本が米国産コメのミニマムアクセス(最低輸入枠)数量を現行比75%増や米農産物(トウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール等)を年間80億ドル購入すると明記された。コメについては国際約束上の枠内での増量だが、国内農家への影響は避けられず、政府は追加支援策を検討中と報じられる。また、日本製航空機・部品に新関税を課さないことも改めて確認され、医薬品や半導体など他分野でも「日本が他国より不利にならない」特例が盛り込まれた。さらに、同時に公表された日米共同声明では、「米国製防衛装備品の調達増」「ボーイング機100機の購入」「アラスカLNGのオフテイク協議」も明記された。
  • 合意履行の監視と条項: 米側は日本による合意履行を監視し、約束不履行の場合は大統領令を修正できるとの条項も盛り込んだ。これは、日本が上記の投資・輸入約束を守らなければ再び関税引き上げを含む措置を取る可能性を示唆するもので、実質的に日本側に履行圧力をかける規定といえる。

今回の合意について、米財務長官は「日米の経済的結びつきを強化する歴史的合意」と評価し、商務長官も「驚くべき歴史的合意を発効させるものだ」と述べた。一方、日本国内では「義務だらけの不平等合意」との批判や、関税15%という数値自体もなお高水準で自動車業界の試練は続くとの指摘がある。事実、15%の関税が依然課されることで「日経平均が上値を追うには更なる材料が必要」と市場関係者は冷静だ。石破首相自身も「本合意で経済や雇用への影響が極小化されるよう万全を期したい」と述べ、防衛的な姿勢を見せた。いずれにせよ、石破政権はこの関税交渉妥結を“一区切り”として政権を退くことになり、通商交渉の火種と成果は次期政権に引き継がれる。

シナリオ分析:今後の3つの展開

石破首相の辞任後、政局は複数の可能性に分岐する。以下では想定される3つのシナリオを分析する。

S1:自民党内早期集約で短命内閣回避

自民党が次期総裁候補を早期に一本化し、国会の首相指名選挙でも他党を巻き込まず自民単独で新首相を選出できた場合だ。例えば小泉進次郎氏が後継総裁となり、日本維新の会など野党第三極と政策連携する順当路線が想定される。この場合、新首相は衆参少数与党という厳しい状況ながらも、補正予算など重要案件で協力を得られれば解散総選挙を当面回避しつつ政権運営が可能となる。党内基盤が強固で短期での退陣圧力が弱まれば、“短命内閣”にはならず一定の安定政権となるシナリオである。政権が安定感を取り戻せば市場も安心感から円安・金利上昇に歯止めがかかる可能性が高い。実際「政局不透明感が後退すれば円や長期金利の上昇圧力は和らぐ」との指摘もある。ポイントは新総裁が党内各派の支持を素早くまとめられるか、および国会で過半数割れを補う他党との連携策を打ち出せるかだ。小泉氏が維新と連携するルートは現実味があるとされ、これが実現すれば追加経済対策や減税にも道が開け、来年以降の政権維持に弾みがつくだろう。

S2:ねじれ深刻化で補正予算・重要法案が停滞

新総裁が決まっても党内・国会対策に手間取り、衆参ねじれの弊害が表面化するシナリオだ。参議院で与党が少数のため、補正予算や主要法案の審議が滞り、政策遂行能力への疑念が強まる。特に年末までに成立させたい今年度補正予算が野党の反対で難航すれば、景気対策も後手に回り国民の不満が高まる恐れがある。石破政権末期にも国会で与党が他党と組んで法案を通す必要に迫られていたが、次期政権でも同様の綱渡りが続けば政権支持率は低迷しかねない。このシナリオでは新首相の求心力不足が露呈し、党内で早くも「○○降ろし」の囁きが始まる可能性もある。市場面では、政治不安から外国人投資家が日本株や円を売り越すリスクが指摘される。実際、専門家は「石破氏辞任による混乱は海外勢の日本株売り・円売りの引き金となり得る」と警鐘を鳴らしていた。このシナリオ下では政権が重要法案を通せないまま停滞し、遅くとも来年の通常国会で行き詰まる展開が予想される。

S3:解散総選挙カード、来春までに現実味

最後は新首相が早期に衆議院解散・総選挙に踏み切るシナリオだ。連立与党は既に衆院でも過半数割れ状態にあり、現在のままでは政権安定は望めない。新総裁が党内基盤強化と民意の信任獲得を狙い、思い切って国民に信を問う可能性は十分ある。タイミングとして取り沙汰されるのは年明け~来春(2026年初頭)だ。まず年末にかけ補正予算や重要政策の骨格を示し、支持率を浮揚させた上で解散に打って出る戦略が考えられる。また参議院ねじれを踏まえ、総選挙での勝利によって連立与党の議席を大幅増やし、参院野党を切り崩す狙いもある。もっとも選挙にはリスクも伴う。現状の与党不人気を考えると、大敗すれば野党連立政権樹立という政権交代すら現実味を帯びる。実際ロイターは「連立与党が両院で少数のため、理論上は野党党首が首相になる可能性もわずかながら存在する」と伝えている。このシナリオでは、新首相は博打的決断を迫られるが、裏を返せば選挙を通じてしか膠着状態を打破できないとも言える。日本政治はかつて1994年、参院ねじれを背景に自民党が下野し社会党政権が誕生した例(村山富市首相)がある。そうした前例も踏まえ、新政権が追い詰められれば解散カードが現実味を帯びるだろう。その際の争点は(1)物価高対策と消費減税の是非、(2)外交・安全保障政策、(3)統治能力(政治とカネ問題の清算含む)と予想される。

タイムライン(2025年7月~10月上旬)

  • 2025年7月20日:参議院議員選挙投開票。 改選125議席のうち自民39・公明8の計47議席に留まり、与党が参院過半数を喪失。石破首相が続投表明。同日夜、森山裕自民幹事長が敗因を「物価高対策の説得力不足」などと分析し、自身の進退は「総裁と相談する」とコメント。
  • 7月21日:選挙結果確定。 NHKなどが非改選含め与党の参院過半数割れと報道。野党側では立憲民主22、国民民主17、参政14、日本維新7など躍進。石破首相、テレビ出演で改めて続投意思を表明。
  • 7月23日:石破首相が党役員会で参院選敗北を陳謝。 「地位にしがみつくつもりはない、しかるべき時に決断する」と発言。同日、森山幹事長は参院選総括文書を取りまとめ。
  • 9月2日:自民党両院議員総会開催。 森山裕幹事長が辞意表明、石破首相に進退一任。石破首相「適切に判断する」「しかるべき時期に責任を取る」とコメント。党内で臨時総裁選(前倒し)の是非を8日にも採決方針が共有される。
  • 9月4日(米時間):米大統領、対日関税引下げの大統領令署名。 日米が7月に合意した関税措置履行へ。自動車関税を27.5%→15%へ引下げ、5,500億ドル対米投資の覚書締結など。
  • 9月5日:日米共同声明発表。 大統領令詳細公表。林官房長官「着実な実施を歓迎」表明。東京株式市場で関税合意を好感し日経平均が4万3018円まで上昇。
  • 9月6日夜:石破首相、菅義偉前首相・小泉進次郎農相と会談。 菅氏が「党分裂はあってはならない」と進言、石破氏は熟考。
  • 9月7日:石破茂首相、辞任を正式表明。 18時の緊急記者会見で「参院選敗北の責任を取り総裁辞任」「総裁選には出馬せず」と発言。党則に基づく前倒し総裁選の採決に触れ「党内分断を生みかねない」と辞意の理由を説明。
  • 9月8日:自民党執行部が臨時総裁選の要件確認。 (※石破氏辞任により前倒し採決は見送りに)党総務会で総裁選日程協議へ。
  • 〜9月中旬:自民党総裁選告示(予定)。 候補者の立候補受付、20人推薦人必要。討論会・地方遊説など短期集中で実施。
  • 10月上旬:自民党総裁選投開票(見通し)。 フルスペックなら党員投票併用の一回目投票、過半数得票者なければ決選投票。簡易型なら両院議員総会で国会議員票と都道府県連票で選出。当選者は新自民党総裁に就任。直後に臨時国会召集し首班指名選挙へ。
  • 10月上旬〜中旬:臨時国会で首相指名選挙。 衆参本会議で新首相を選出(衆議院で多数を占めた候補が選出される見通し)。第XX代内閣総理大臣が誕生、新内閣発足。

FAQ(よくある質問と答え)

Q1: 自民党総裁選はどのような方式で行われる?
A1: 自民党総裁選には党員も含めた通常方式(フルスペック)と、国会議員と都道府県代表だけで選ぶ緊急簡易方式があります。通常方式では全国の党員・党友票と国会議員票を合わせて争い、1回目投票で過半数がなければ上位2名で決選投票(この際地方票は都道府県ごと1票ずつ計47票に縮小)となります。一方、首相辞任に伴う緊急時には党則で両院議員総会による選出が可能で、この場合国会議員票(現在自民党所属衆参議員数)と各都道府県連1票ずつで決まります。今回、党内手続き上はまず9月8日に臨時総裁選実施の要件確認が予定されましたが、石破首相自ら辞任を表明したため前倒し採決は不要になり、執行部主導で日程や方式が決まる見通しです。

Q2: 首相辞任後、国会ではどうやって新首相を選ぶの?(首班指名選挙の手続き)
A2: 内閣総理大臣の指名選挙は憲法の規定により国会両院で投票して行われます。まず衆議院本会議で議員による投票が行われ、同様に参議院本会議でも投票します。各院で多数を得た候補が一致すればその者が首相指名となります。もし衆参で異なる指名結果になった場合、衆議院の議決が優越し衆議院側の候補が首相に指名されます(過去には2008年に参院が野党候補を指名したが、最終的に衆院の与党候補が首相となった例があります)。今回、自民党新総裁が国会第一党の候補となりますが、与党は参院で少数のため参院では野党候補(例えば立憲民主党の野田佳彦代表など)が擁立される可能性があります。しかし最終的には衆議院の多数決で自民党総裁が指名される見込みです。なお首相指名後、天皇の任命を経て新首相が正式就任し、組閣(内閣人事)を行います。

Q3: 野党側の対応は?首相選出や政権運営のカギを握るのは誰?
A3: 野党は参議院で与党を上回る議席を持つため重要なキャスティングボートを握ります。新首相の指名にあたっては、最大野党の立憲民主党(野田佳彦代表)が対抗馬として首相候補になる見通しです。ただ、衆院では依然自民党が第一党であることから、野党勢力だけで首相を選出するのは困難です。一方、政権運営では日本維新の会国民民主党といった中道野党の動向が鍵となります。維新は政策的に自民との連携余地があり(例:小泉氏が総裁になれば維新との協力が順当との見方)、国民民主も参院でキャスティングボートを握る存在です。実際、石破政権末期には与党が国民民主へ秋波を送り予算協力を得る可能性が報じられました。したがって、新政権が安定多数を確保するにはこれら野党の一部と政策協定を結ぶか、あるいは野党の協力を得やすい人物(穏健改革派の小泉氏など)を首班に据えるシナリオが考えられます。逆に野党が結束して対決色を強めれば国会は停滞し、補正予算や重要法案の成立が遅れるでしょう。なお、立憲の野田代表は財政再建に前向きな財政タカ派として知られ(首相在任時に消費増税を決断)、今回の参院選では食料品の消費税減税を掲げるなど柔軟路線も見せています。野党側がこうした政策カードを使い与党を揺さぶる可能性にも注意が必要です。

Q4: 石破首相辞任で円相場はどう動く?
A4: 現時点で円相場は一時的に下落(円安)方向に振れました。石破首相の辞任観測が高まった9月初旬、長期金利急騰と英国など海外の財政懸念も相まって円は売られ、ドル円は1ドル=148円台後半まで下落しています。これは約1ヶ月ぶりの安値水準で、政治的不安定さが円安の一因となった形です。もっとも市場では「新政権の財政拡張期待で金利上昇・円安圧力はあるが、米金利動向次第で一方向には傾きにくい」との声もあります。今後の円相場は次期総裁の財政スタンスに左右されそうです。例えば高市氏のように大胆な財政出動派が首相となれば一段の円安要因になり得ますし、林氏のように財政規律重視なら相対的に円の信認が保たれやすいでしょう。また、総裁選のタイミング次第では日銀の金融政策イベント(10月に金融政策決定会合)と前後するため、新政権発足時期が近づく10月末までは神経質な値動きが続く可能性があります。総じて、政治の不透明感が払拭され新政権の政策の方向性が明確になるまでは、円相場は147~150円前後のレンジで不安定な推移をするとの見立てが多いようです。

Q5: 解散総選挙の可能性と時期は?
A5: 可能性は十分あり、タイミングは新首相の戦略次第です。与党が衆参少数では、いずれ信任を問う必要が出てきます。新首相が就任直後に「近いうち解散」を表明するシナリオも考えられますが、実務上は選挙準備期間が必要なため早くて2026年初頭との見方があります(衆院の任期満了は2028年10月。2024年10月総選挙から4年)。まず年末までに補正予算を成立させ、経済対策をアピールした上で来年1〜2月に解散、3月総選挙という日程感です。この場合、参議院のねじれ状況を打破し政権安定を図る狙いがあります。逆に、野党側が政権奪取の好機とみて内閣不信任案提出や対決色を強めれば、新首相は早期解散に追い込まれるかもしれません。新政権の支持率も判断材料です。発足直後に高支持率となれば「今なら勝てる」と解散を打つでしょうし、低迷すれば当面解散は避けるでしょう。解散総選挙になれば争点はやはり経済政策(減税の是非)と政治改革になる可能性が高く、石破政権で浮上した汚職・不祥事問題への対応も論点化しそうです。なお選挙の結果次第では、自民党が単独過半数を取り戻せるか、あるいは野党連立政権の誕生もあり得ます。首相辞任まで招いた有権者の怒り(物価高や政治とカネ問題)がどこまで沈静化するか、解散時期を決める上で新首相は慎重に見極めるでしょう。

データ付録

表1:2025年7月20日参院選・政党別獲得議席数(改選125議席)

政党名獲得議席数 (改選125中)
自由民主党(与党)39
公明党(与党)8
立憲民主党22
国民民主党17
参政党14
日本維新の会7
日本共産党3
れいわ新選組3
保守党2
社会民主党1
みらい党1
無所属・その他8
与党合計47
野党合計(主要計)78
出典:NHK開票速報等

表2:次期自民党総裁・有力候補3名の政策スタンス比較

候補者財政政策金融政策外交姿勢安全保障
高市早苗(64歳・衆院)
前経済安全保障相
拡張財政派(大規模な財政出動を主張。減税や歳出増で景気刺激)金融緩和積極派(日銀の利上げに反対。追加緩和も容認)保守強硬(靖国神社参拝を継続。対中姿勢も強硬で台湾支援重視)防衛力増強に前向き(憲法9条改正論者。敵基地攻撃能力保有も支持)
小泉進次郎(44歳・衆院)
農林水産大臣
財政規律と成長投資の両面(明確な増減税方針は未定だが、持続可能な財政に言及。一方で育児支援など将来投資重視)中立(金融政策に大きな持論示さず。現状維持見込み)国際協調・改革志向(気候変動対策に注力。対米関係重視だが、脱原発を提唱した経験あり)安保現実路線(父譲りの現実主義で同盟重視。維新など他党とも安保法制で協調可能と目される)
林芳正(64歳・衆院)
内閣官房長官
財政健全派(債務残高に警戒感。社会保障財源確保に理解。ただし防衛費増には柔軟)引き締め慎重派(日銀の独立性を尊重し、拙速な利上げ要求はしない立場)外交巧者(元外相として日米同盟重視。英語堪能で対欧外交にも強み)バランス重視(防衛相経験者として抑止力強化に理解。一方で外交的解決を志向し、中国とも対話路線)

注:候補の年齢は2025年9月現在。林氏は参議院選出(衆院経験あり)。政策スタンスは報道及び本人発言に基づく。

まとめ

石破茂首相の辞任劇は、長期政権を誇った自民党が衆参ねじれという政治的試練に直面する中での出来事だった。参院選敗北と相次ぐ不祥事で有権者の審判を受け、与党は戦後初めて両院で少数与党に転落した。石破氏は日米関税交渉の妥結を最後の花道に、党内分裂回避のため自ら退く道を選んだ。その結果、日本政治は新たなリーダーと体制を模索する局面に入る。今後誕生する新首相は、参院で過半数を欠く前例の少ない政権運営に挑むことになる。野党との協調による政策実現か、解散総選挙による信任取り付けか――いずれにせよ困難なかじ取りが待ち受ける。経済面でも、政局不安は円安・金利高騰という形で表れ、市場は政治の安定を渇望している。外交では巨額の対米コミットメントを背負い、内政では物価高対策やガバナンス改革が急務だ。今回の首相交代は、日本の統治能力と民主主義の健全性が問われる試金石でもある。新政権には、国民の信頼を取り戻し「安定と改革」を両立する政治を実現できるかという重い課題が突きつけられている。

Footnotes

  1. ロイター「石破首相が辞任表明、米大統領令『一つの区切り』 総裁選出馬せず」(2025年9月7日)jp.reuters.comjp.reuters.com
  2. ロイター「参院選、自公で過半数に届かず 石破首相は続投表明」(2025年7月21日)jp.reuters.comjp.reuters.com ↩ ↩2
  3. ロイター(英語)「Who could replace Ishiba as Japan's prime minister」(2025年9月7日)reuters.comreuters.com ↩ ↩234
  4. ロイター「石破首相が辞任表明:識者はこうみる」(2025年9月7日)jp.reuters.comjp.reuters.com ↩ ↩23
  5. ロイター「日経平均は続伸、4万3000円回復 米株高や米大統領令が追い風」(2025年9月5日)jp.reuters.comjp.reuters.com
  6. ブルームバーグ「トランプ氏、日本の自動車関税15%に引き下げ-大統領令に署名」(2025年9月5日)bloomberg.co.jp
  7. ロイター「〔焦点〕日本車各社、米関税の大統領令に安堵も試練続く ブランド...」(2025年9月5日)jp.reuters.com

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