導入部
李在明（韓国新大統領）の人物像と政策は、東アジアのみならず国際社会全体に重要な影響を及ぼすテーマである。本記事では、国際政治の専門家の視点から李在明の生い立ちや政治的経歴、人となり（人物像）とともに、経済政策、対日外交、安全保障政策を中心にその政策の特徴を分析する。特に李在明は貧困家庭に生まれ工場労働から身を起こしたという異色の経歴を持ち、強い正義感とポピュリスト的な政治手法で知られている。こうした人物像と政策スタンスの両面から、「李在明（韓国新大統領）の人物像と政策」に関する最新の研究と動向を整理し、その国際的な意味合いを考察することが本稿の目的である。本稿では過去36か月以内に発表された査読付き論文や政府・シンクタンク資料を用い、客観的エビデンスに基づき李在明政権の政策を評価する。本稿では、李在明政権の政策を過去36か月以内の査読論文や政府・シンクタンク資料に基づき評価し、専門家と一般読者の双方にとって有益な分析を試みる。
李在明は2025年の大統領選挙で勝利して政権の座に就いた人物であり、その登場は韓国政治の振り子を革新勢力へと大きく振り戻すものとなった。国内では高まる経済格差や北朝鮮の核問題への対応、さらには米中対立の激化や日本との関係改善といった課題に対し、新大統領がどのようなビジョンと戦略を示すかに大きな注目が集まっている。
背景
李在明は1963年に韓国中部で貧しい家庭に生まれ、幼少期から工場労働に従事した経歴を持つ。少年時代に工場事故で左腕に障害を負ったものの、独学で高校卒業認定試験に合格し、大学で法学を修めた努力家である。弁護士となってからは、産業災害の被害者や都市再開発で立ち退きを迫られた住民など、社会的弱者の権利擁護に尽力した。こうした「下からの叩き上げ」の人生経験が彼の進歩主義的信念を形作ったとされ、自らも「貧困による不正義を目の当たりにしたことが政治を志した原点だ」と語っている。
政界入り後、李在明は革新系政党「共に民主党」の政治家として頭角を現した。2010年、ソウル近郊の城南市長選挙で当選（4年後に再選）し、2018年から2021年まで韓国最大の人口州である京畿道知事を務めている。地方行政の経験を通じ、青年手当と呼ばれる若年層向けのベーシックインカム施策など革新的政策を試行し、その実績が全国的な知名度向上につながった。やがて全国政界に活動の場を移し、2022年3月の大統領選挙に革新与党（当時）の候補として挑むも、尹錫悦（ユン・ソクヨル）候補に対し得票率0.73%差という韓国史上最僅差で惜敗した。李在明はその後、最大野党の代表として政権与党を厳しく追及する立場に回ったが、一方で自身も複数の不正疑惑（都市開発事業を巡る収賄容疑など）で捜査を受ける試練に直面した。しかし本人は一貫して無実を主張し続け、支持者からの強固な支持も相まって政治的影響力を維持した。
2025年には前政権の混乱を受けて執行された大統領選挙で圧勝し、ついに国家元首の座に就任する（尹錫悦前大統領が任期途中で議会により弾劾・失職したことに伴う選挙）。これにより政権は革新勢力へと交代し、李在明は文在寅（ムン・ジェイン）元大統領以来となる進歩派の大統領となった。文氏とは同じ民主党出身で北朝鮮との融和や福祉重視といった理念を共有する一方、李在明自身はより歯に衣着せぬ物言いや大胆な政策提唱で知られており、党内左派・穏健派の垣根を超えて支持を集めてきた経緯がある。他方、保守系の尹錫悦前政権との違いも鮮明である。尹政権は米国や日本との同盟強化、企業主導の経済成長戦略を重視したが、李在明は国内の社会的公正や包摂を重んじ、外交面でも民族志向を背景にした自主性を掲げる点で対照的である。このように李在明の人物像と政治的立ち位置は、直近の前任2政権（革新の文在寅、保守の尹錫悦）双方と比較しても際立った特徴を持っているといえる。
分析
経済政策
李在明が掲げる経済政策は、所得再分配の強化と経済成長の両立を模索する独自のアプローチが特徴的である。まず注目されたのが、2022年大統領選で公約に据えた「全国民へのユニバーサルベーシックインカム（UBI）」構想である。李在明は全国民に年間100万ウォン（約840米ドル）の基本所得を支給し、加えて19〜29歳の若者および農漁村住民にはそれぞれ年100万ウォンを上乗せ給付するという大胆な政策を提唱した。財源についても土地保有税や炭素税の導入、歳出改革による財源確保策を具体的に示し、社会全体の底上げによる内需拡大と格差是正を両立させるビジョンを示したのである。このベーシックインカム政策は韓国社会において革新的な試みであり、多くの賛同を集める一方で労働供給への悪影響や財政負担を懸念する声も専門家から上がった。しかし最近の研究では、李在明モデルの基本所得額（2024年最低賃金の50%相当）は労働市場への劇的な悪影響を及ぼさないとの分析も示されており、社会実験としてのUBIの可能性に学界の関心が集まっている。
もっとも、李在明は2025年の再挑戦にあたり、かつて旗印とした再分配政策一辺倒の路線を修正している。ハーバード大学で博士号を持つ柳鐘一（ユ・ジョンイル）氏ら専門家の助言も得て、ポストコロナ時代の経済競争力強化を前面に打ち出した成長戦略へと舵を切ったのである。具体的には、人工知能（AI）やデジタル産業への集中的投資による第四次産業革命の推進、国内産業の高度化と新規雇用創出を通じた「成長と包摂」の実現が掲げられている。実際、李在明陣営は選挙戦で「経済最優先」を強調し、当選後は直ちに「経済非常対策本部」を設置してインフレや雇用への緊急対応に当たると公言していた。このように李在明の経済政策は、初期の積極的な所得再分配から近年は技術革新と成長促進に重点を移しており、従来の進歩派にありがちだったイデオロギー志向から実用主義（プラグマティズム）への転換を示している。この転換は、国民の中道層の支持を獲得しつつ経済危機に実効的に対処する現実路線と評価でき、今後の政策運営にも柔軟性が反映されるものと見られる。
対日外交
韓国の歴代政権にとって日本との関係は、歴史問題と安保協力のバランスを取る難題である。革新派の文在寅政権下では、日本統治下の徴用工や慰安婦問題をめぐり両国関係が悪化し、2018年の韓国大法院（最高裁）による日本企業への賠償命令判決を発端に日本側が対韓輸出管理を厳格化する事態に発展した。これに対し、保守派の尹錫悦前大統領は米国の仲介も得ながら関係改善に動き、韓国財団が元徴用工に肩代わり補償する解決策を2023年に打ち出した。この案は日本政府から歓迎され、米国も「画期的」と評価したが、李在明率いる野党勢力は「日本への屈服だ」と猛反発した。実際、李在明はこの政府案を「韓国史上最悪の屈辱で外交史に残る汚点」と酷評し、加害企業が一切支払わない内容を「歴史的正義の放棄」に等しいと非難した。
このように歴史問題に対して強硬な姿勢を示す李在明だが、一方で日本そのものに敵対的というわけではないことを強調している。2025年の大統領選キャンペーンでは「日本は隣国であり協力して相乗効果を生み出さねばならない」と表明し、自身に対する「反日的」イメージを和らげる発言も行った。実務面では、北朝鮮や中国への対応で日米韓の安全保障協力が必要な点は認識しており、保守政権下で進んだ日韓関係の改善努力を大統領就任後も大局的には維持する姿勢を示している。ただし、日本による過去の加害への真摯な対応が不十分なままでは、韓国国内世論が日韓接近を許容しない現実もある。専門家の見立てでは、李在明政権下でも韓国世論に根強い歴史認識が制約となり、「残念ながら日韓関係は冷え込んだ状態が続くだろう」との指摘もある。実際、進歩派（革新勢力）には民族の誇りを重んじ日本の軍備強化を警戒する傾向があり、李在明自身も同盟重視一辺倒の姿勢には距離を置くとみられる。総じて李在明の対日外交は、歴史問題で妥協せず日本に誠意ある対応を求めつつ、安全保障や経済分野では現実的な協力を模索するという両面性を帯びている。
安全保障政策
北朝鮮への対応や米中関係を含む安全保障政策において、李在明は理想論よりも現実的利害を重視するプラグマティックな姿勢を鮮明にしている。対北朝鮮政策では、基本的に対話と関与を支持しつつも、無条件の融和ではなく核放棄に向けた段階的措置など「条件付きの対話」を追求する立場である。文在寅政権が唱えた無条件の融和政策と比較すると、北朝鮮に具体的な非核化行動を求める点で李在明は一歩踏み込んだ現実主義を取っている。また、米朝関係についてはドナルド・トランプ前米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の首脳会談再開を支持する意向を示唆しており、米国が希望する場合には在韓米軍の役割見直し（駐留縮小）にも反対しない可能性があると報じられている。これは保守派には懸念材料だが、短期的な緊張緩和には資するとの見方もある。
李在明は韓米同盟の重要性を認めつつも、自国の主権と国益を最優先に据える姿勢を示している。進歩政党である共に民主党は伝統的に民族自決や対米自主路線を掲げてきたが、近年は北朝鮮の核武装進展や米中対立激化を背景に、安全保障面で従来より現実的・戦略的な志向へ転換しつつある。李在明自身、選挙戦では南北間の2018年軍事合意の復活など平和措置を唱える一方で、米国との同盟や日本との安保協力の重要性も認めるバランス感覚を示した。実際、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射やロシア・中国との安保連携深化により、韓国を取り巻く安全保障環境は悪化の一途をたどっている。こうした状況下で韓国世論も揺れ動き、近年の世論調査では約7割もの国民が自前の核武装に賛成するなど強硬論も高まっている。李在明政権はこのジレンマに直面しつつ、現実解として米国の「拡大抑止」（核の傘）強化と韓国軍の防衛力増強によって国民の安全保障不安に応える方針とみられる。専門家は、韓国が国防費をGDP比3%以上に引き上げて軍備を増強し米韓同盟を一層強固にする選択肢を提言しており、李在明も同盟国との協調の下で抑止力強化を図ると予想される。
対中国政策については、米中間の戦略的競争が激化する中で難しいかじ取りが迫られる。尹錫悦前政権はクアッド（Quad）や半導体サプライチェーン協力など米国主導の枠組みに接近したが、李在明は中国を過度に刺激しないよう慎重なバランス外交を志向するとみられる。例えば台湾海峡有事への対応では可能な限り「戦略的曖昧さ」を維持し、米韓間で密かな協議は進めつつも対外的には中国の「一つの中国」原則を尊重する態度を取るだろうと指摘されている。こうした姿勢は、同盟国である米国との協力を続けながらも中国との経済関係や地域安定を損なわない現実的配慮といえる。総じて李在明の安全保障政策は、北東アジアの緊張緩和と韓国の安保利益確保との両立を図る「現実的なバランス外交」と評価できる。理念やイデオロギーより実利を優先しつつ、必要な軍事力と外交対話の双方を駆使するアプローチは、今後5年間の韓国外交・安全保障の指針となっていくだろう。
結論
李在明（韓国新大統領）の人物像と政策を総括すると、彼は庶民派のポピュリストとしての原点を持ちながらも、現実的な政策判断を下せる指導者像が浮かび上がる。貧困層の代弁者としてスタートした彼の政治手法は、果敢な福祉政策と言葉遣いの激しさで注目を集めてきたが、大統領としては国民統合と中道路線の模索が不可欠となる。経済政策では、所得再分配と成長促進のバランスを取り、国内の不平等是正と国際競争力強化の両立に挑んでいる。対日外交では歴史認識を貫きつつも、地域の安定に向け実務的な協力を排除しない現実路線を敷いている。安全保障政策でも、対話による平和共存の理想と同盟・抑止力の現実を両立させるべく柔軟に舵を取る姿勢が見られる。
もっとも、李在明政権の船出には国内外から大きな期待とともに懸念も寄せられている。国内では依然として保守・進歩の政治的分極が深刻であり、僅差の選挙結果が物語るように国民の意見は割れている。李在明自身に対する汚職疑惑などの影も残る中、彼が掲げる大胆な政策を実行に移すには、国会との協調や国民的合意形成が課題となろう。また、北朝鮮の出方や米中対立の行方次第では、当初の公約の修正や柔軟な戦略転換も求められる可能性がある。国際社会は、韓国のこの新指導者が直面する経済・外交・安全保障上の試練をどのように乗り越えていくか注視している。李在明の今後の5年間のリーダーシップ如何では、東アジアのパワーバランスや日米韓協力体制、さらには北東アジアの平和構想にも大きな影響が及ぶだろう。「李在明（韓国新大統領）の人物像と政策」をめぐる今後の展開から目が離せない。
酒々井町の現在地と未来への政策提案
はじめに 千葉県印旛郡酒々井町（しすいまち）は、豊かな自然と歴史を有する一方で、成田国際空港近郊のベッドタウン・商業拠点として発展してきた人口約2万人の町です。近年は少子高齢化と人口減少が進み、高齢化率は3人に1人が高齢者という状況に達しました。一方、在留外国人も増え、2023年末時点で町人口の約4.6%（約926人）を占めています。町財政は小規模自治体として堅実に運営されていますが、今後は職員高齢化に伴う人件費増や老朽インフラ更新への対応が課題となっています。また治安面では年間100～150件ほどの刑法 ...
神奈川県の市区町村が抱える現状と課題とは？人口減少・高齢化・地域経済から解決策まで徹底解説
神奈川県に暮らす人々の多くは、「自分の街の将来はどうなるのだろう」「人口減少や高齢化の影響で生活は大丈夫だろうか」といった不安を抱きがちです。神奈川県全体ではこれまで人口増加が続いてきましたが、近年は少子高齢化の波が押し寄せ、県内でも地域ごとに人口の増減や課題の差が顕著になっています。本記事では、神奈川県全体および各市区町村の最新データをもとに現状と課題を整理し、人口減少・高齢化、地域経済、インフラ・防災など複数の分野にわたる問題点と解決の方向性をわかりやすく解説します。県内在住の子育て世代や高齢者、自治 ...
東京都の市区町村が抱える現状・課題とその解決策をわかりやすく解説
東京都は日本の首都であり、1400万人超が暮らす巨大都市です。一方で、その行政構造は特別区（23区）、多摩地域（26市と西多摩の町村）、島しょ地域（伊豆諸島・小笠原諸島の町村）と多様な市区町村の集合体から成ります。都心の高密度な特別区から、緑豊かな西部の山間地域や遠く離れた島々まで、地域ごとに地理や役割も異なります。このように多様な東京都において、各市区町村が直面する現状と課題を知ることは、住民の日々の暮らしや東京都全体の将来を考える上で重要です。本記事では、人口動態、インフラ、防災、福祉、環境、産業、デ ...
千葉県の市区町村が抱える現状と課題、その解決策
導入 (千葉県の位置づけと記事の目的) 千葉県は東京湾に面し、首都圏の一角をなす地域です。西部は東京・千葉市方面へのアクセスが良く、大都市近郊の住宅都市が広がります。一方、房総半島の南部や九十九里浜沿岸などには豊かな自然環境や農漁村地域が広がり、地域によって都市部と農山漁村部が共存する多様な顔を持っています。さらに県内には成田国際空港や東京ディズニーリゾートといった国際的な拠点もあり、物流・観光の要地としての役割も担っています。 本記事では、そんな千葉県内の各市区町村について現状と課題を整理し、共通点と地 ...
立憲民主党「衰退」の理由を探る：最大野党の苦戦を読み解く
立憲民主党は2017年の結党以来、国政選挙で野党第一党の座を維持してきました。しかしその党勢は一進一退を繰り返し、近年では「衰退」とも形容される状況にあります。「衰退」とは何を指すのか？ 議席数の減少、政党支持率の低迷、他党に押されて野党内での相対的地位が揺らぐことなどが挙げられます。かつて旧民主党として政権を担った流れを汲む立憲民主党が、なぜここまで苦戦しているのか――本稿では最新の選挙結果や各種分析をもとに、その理由を多角的に解説します。タイトルや各見出しにある「立憲民主党」「衰退」「支持率低下」とい ...
参考文献
- Power, J. (2025, June 3). Who is Lee Jae-myung, South Korea’s new president? Al Jazeera. [Medium] ＜https://www.aljazeera.com/news/2025/6/3/who-is-lee-jae-myung-south-koreas-new-president＞
- You, J., & Choi, J. (2022). Will South Korea Be the First Country to Introduce Universal Basic Income? （リサーチペーパー）Basic Income Earth Network. [Medium] ＜https://basicincome.org/wp-content/uploads/2022/02/You-and-Choi_revised.pdf＞
- Lee, S. (2025). Examining the potential impact of universal basic income on labor supply: Focusing on the South Korean models. International Journal of Social Welfare, 34(1), e12715. DOI: 10.1111/ijsw.12715 [High]
- Park, J. H. (2025, May 16). The progressive theorist behind Lee Jae-myung’s economic policy reinvention. Korea Pro. [Medium] ＜https://koreapro.org/2025/05/the-progressive-theorist-behind-lee-jae-myungs-economic-policy-reinvention/＞
- Draudt-Véjares, D. (2025, May 29). The Transformation of South Korean Progressive Foreign Policy. Carnegie Endowment for International Peace. [High] ＜https://carnegieendowment.org/2025/05/29/transformation-of-south-korean-progressive-foreign-policy＞
- Atlantic Council. (2025, May 30). Experts React: What does South Korean President Lee Jae-myung mean for Indo-Pacific security? Atlantic Council – New Atlanticist. [Medium] ＜https://www.atlanticcouncil.org/blogs/new-atlanticist/experts-react/what-does-president-lee-jae-myung-mean-for-south-koreas-future/＞
- Kim, N. (2023, March 6). 野党代表、徴用工解決策を「歴史上最悪の屈辱」と非難 (与党の第三者弁済案に猛反発) [Press release]. 聯合ニュース（Yonhap）. [Medium] ＜https://jp.yna.co.kr/view/AJP20230306003300882＞
- Smith, J., Choi, S.-H., & Murakami, S. (2023, March 6). South Korea companies to pay to resolve forced labour dispute with Japan. Reuters. [High] ＜https://www.reuters.com/world/asia-pacific/south-korea-announce-plans-resolve-forced-labour-dispute-with-japan-2023-03-06/＞
- Martin, A. K. T. (2025, May 21). South Korean presidential front-runner says he’s not hostile toward Japan. The Japan Times. [Medium] ＜https://www.japantimes.co.jp/news/2025/05/21/japan/politics/lee-jae-myung-japan/＞
日中関係の悪化—現状と今後のシナリオ予測
2020年代半ば、アジア太平洋の秩序を揺るがす日中関係の緊張が高まっています。尖閣諸島周辺での中国公船の活動常態化や台湾海峡を巡る軍事的圧力、経済安全保障をめぐる制裁合戦など、両国間の摩擦は安全保障から経済、人的交流にまで及びます。日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、また安全保障上も米中対立の焦点に位置するため、この関係悪化が与える影響は国家戦略から企業経営まで広範囲に及びます。本稿では2023～2025年の動向を踏まえ、今後12～24か月（～2027年初頭）の複数シナリオを定量・定性的に分析します ...
核武装の全体像：歴史・国際枠組みと日本の論点
はじめに 要約：核武装は安全保障を揺るがす重厚なテーマです。本記事では核武装の概念から歴史、国際条約、主要国の戦略、日本の議論、抑止理論、コスト・リスク、代替策、将来展望まで包括的に解説します。 第二次世界大戦後、核兵器は国家の安全保障を左右する特別な兵器となりました。核兵器を保有すること、すなわち「核武装」を巡る議論は、国際政治の根幹に関わる重要課題です。特に被爆国である日本では「核を持たず」とする政策（非核三原則）を長年掲げてきましたが、近年の安全保障環境の変化（北朝鮮の核ミサイル開発や中国の軍拡、ロ ...
戦後80年談話とは何か
戦後80年談話（現時点では「首相個人メッセージ（仮称）」と呼ばれる）は、第二次世界大戦の終結から80年となる節目（2025年8月15日）に合わせて石破茂首相が発表を準備している声明です。政府は従来の閣議決定談話を見送る方針を示しており、内閣としての公式談話ではありません。過去にも戦後50年（1995年）に村山富市首相、60年（2005年）に小泉純一郎首相、70年（2015年）に安倍晋三首相がそれぞれ閣議決定による「首相談話」を発表しており、国内外から歴史認識や日本の平和国家としての歩みに対する重要なメッセ ...
サイレント・インベージョンとは何か？
中国の“静かな侵略”があなたの身近に及んでいるとしたら――。2018年に刊行された『サイレント・インベージョン』（クライブ・ハミルトン著）は、オーストラリアにおける中国の巧妙な影響力工作を暴き、自国の主権が侵食されつつある現実に警鐘を鳴らしました。本書は出版直後から政治・社会に激震を与え、外国勢力による干渉を阻止するための政策転換にまで結びついたのです (Hamilton 2018; Welch 2018)。この記事では、その「静かな侵略」の手口と影響、オーストラリアの対応策、そして国際社会、とりわけ日本 ...
海外における外国人問題：移民・難民・留学生・技能実習生の現状と課題
近年、世界各国で外国人にまつわる問題がクローズアップされています。移民として新天地を求める人々、紛争や迫害から逃れた難民、高度教育を受けるために国境を越える留学生、そして技能習得を名目に海外で働く技能実習生など、その形態は多岐にわたります。グローバル化や少子高齢化に伴い人の国際移動は避けられない潮流となっており、それに伴う社会的課題も複雑化しています。例えば受け入れ国では、外国人労働者の雇用や地域社会への統合、治安への影響が議論され、一方送り出し国では人材流出や家族の分断といった問題があります。日本でも外 ...
