
結論サマリ: 日本は今後15年間で急速な人口減少と高齢化に直面しつつ、産業構造の転換とグリーントランスフォーメーション(GX)を迫られます。政府は2035年までに新車電動化100%や温室効果ガス削減目標を掲げ、防衛費を国内総生産(GDP)の2%へ倍増させる計画です。一方で出生数減やインフラ老朽化など構造課題も深刻です。本稿ではベース(現状趨勢)・楽観(改革成功)・慎重(リスク顕在化)の3シナリオで日本の2035年像を予測し、主要指標のレンジと確信度、および考え得るリスクと対策を考察します。
2035年の日本を左右する5大ドライバー
日本の未来を形作る主要な要因として、以下の5つのドライバーが挙げられます。これらは各シナリオの前提条件にもなり、2035年の日本社会・経済を左右する鍵です。
- 人口動態(少子高齢化): 生産年齢人口の減少と高齢者割合の上昇が続き、国内市場の縮小や労働力不足に直結します。2022年の合計特殊出生率は1.26と低迷し、出生数も2023年は72万7,288人(確定値)と過去最低水準でした(参考:2024年概数は68万6,061人・合計特殊出生率1.15)。仮説: 人口減少はほぼ確実(確信度: High)で、リード指標: 年間出生数・生産年齢人口比率・高齢化率。反証可能性: 大規模な出生率向上策や移民受け入れ拡大で人口増に転じれば仮説修正。
- 雇用・賃金(経済力の基盤): 人口減を前提に、一人当たり生産性向上と労働参加率の上昇が不可欠です。2023年春闘では正社員平均3.58%の賃上げが実現し約30年ぶりの高水準となりました。だが物価上昇に追いつかず、実質賃金の伸び悩みが課題です。仮説: 緩慢な経済成長下で賃金は名目上昇も実質横ばい(確信度: Medium)。リード指標: 賃上げ率・消費者物価指数(CPI)・労働参加率。反証可能性: 技術革新や競争環境変化で生産性が飛躍すれば、実質賃金上昇に転じる可能性。
- 技術革新と産業競争力: 半導体・デジタル・グリーン分野での投資と技術進展が、経済成長のカギです。政府主導で先端半導体製造企業Rapidusが設立され、2025年7月には2ナノ試作に成功、2027年の量産開始を目指しています。自動車産業でも2035年新車電動化100%(HV含む)の目標が掲げられました。仮説: 日本企業は選択と集中で特定分野の競争力を維持(確信度: Medium)。リード指標: 研究開発投資/GDP比・特許出願件数・産業別輸出額。反証可能性: 技術開発が停滞し国際競争力を喪失すれば、産業空洞化シナリオも現実味を帯びる。
- エネルギー転換・GX(グリーン成長): 2050年カーボンニュートラル実現に向け、2030年に温室ガス46%減(13年比)や再生エネ36~38%電源比率を目標。原発も安全確保を前提に運転延長・次世代炉開発へ政策転換しています。仮説: 2030年代前半までに再エネ拡大と原発再稼働が進み、化石燃料依存は大幅減(確信度: Medium)。リード指標: 再エネ比率・CO2排出量・カーボンプライシング価格。反証可能性: 再エネ導入停滞や原発トラブルで火力依存が続けば、目標未達となりうる。
- 安全保障・地政学: 中国・北朝鮮の軍事動向や米国との同盟関係が、日本の安保環境を大きく左右します。政府は防衛費を2027年度にGDP比2%へ拡充し、長射程ミサイルなど「反撃能力」保有を決定。台湾海峡有事リスクやサプライチェーンの地政学リスクも注視が必要です。仮説: 日米同盟を軸に防衛力強化が進むが、地域緊張は高止まり(確信度: Medium)。リード指標: 防衛予算/GDP比・有事シナリオの報道頻度・外交関係。反証可能性: 国際情勢の劇的緩和や逆に衝突発生で、安全保障政策の前提が覆る可能性。
以上のドライバーを踏まえ、次章では分野別に2035年までの見通しを3シナリオで具体的に描写します。各セクターごとに前提条件や主要指標を示し、シナリオごとの違いを明示します。
分野別見通し(シナリオ別の未来像)
人口・労働
- 前提: 日本の人口は減少が避けられず、2035年には総人口が約1億1,664万人(外国人含む)まで縮小する見通しです。2023年時点(約1億2,400万人前後)から約770万人減少し、高齢化率は30%台後半に達します。生産年齢人口(15~64歳)の割合低下を労働参加率向上で補えるかが鍵です。
- ベースシナリオ: 出生率は当面1.3前後で推移し大幅な回復はないものの、雇用環境の改善で女性・高齢者の就業が進みます。就業者数は2023年の6,747万人から2035年に約7,122万人へ約375万人増加すると推計されています。高齢者の労働参加で総労働力は支えられ、外国人就業者も377万人まで増加(2023年205万人から約1.8倍)。一方、年間総労働時間は働き方改革の定着で2035年に平均1,687時間と2023年比▲163時間短縮の見込み。賃金は名目賃金が緩やかに上昇し時給2,023円(2035年)まで伸びるが、実質賃金は1,693円(2035年)と2020年代後半をピークに低下に転じる予測です。労働力不足は慢性化するものの、定年延長やAI活用で生産性向上に取り組み、成長率は潜在成長力(年1%前後)を維持(確信度: High)。
- 楽観シナリオ: 政府の少子化対策や働き方改革が奏功し、合計特殊出生率は2030年代に1.5台まで改善。移民・高度外国人材の積極受け入れもあり、総人口減少ペースが鈍化(1億1,300万強で下げ止まり)します。AI・自動化導入で一人当たり生産性が大きく向上し、労働投入減を補って経済成長率も1%台後半を実現。企業は大胆な賃上げで人材確保に動き、実質賃金も上昇に転じます。例えば大企業を中心に毎年3%以上の賃上げが継続し、物価を上回る収入増となる見込み(確信度: Low)。働き手不足は外国人労働力や70歳超までの就業で緩和され、介護・建設などの現場ではロボットが人手を代替します。
- 慎重シナリオ: 少子化に歯止めがかからず、2030年以降の出生数は年60万人割れも現実味を帯びます(政府予測では2059年に年出生数が50万人割れとの推計)。その結果、2035年の人口は1億1,000万人程度まで想定より減少。人手不足から地方中小企業の廃業が相次ぎ、成長率はゼロ近傍に低迷。労働需給逼迫で一時的に賃金は上振れするも、インフレ高進に追いつかずスタグフレーション懸念が生じます。若年層の減少で自衛隊すら定員割れが深刻化し(現状でも約2万人の隊員不足)、安全保障面でも影響が現れる可能性があります(確信度: Medium)。企業は省力化投資や拠点統廃合を急がざるを得ず、地方から都市への人口移動も一段と進行して地域格差が拡大します。
産業・技術
- 前提: 日本の産業界は、自動車・電機など主力産業の転換期にあります。カーボンニュートラルやデジタル化の波を受け、半導体やEV、グリーンテック分野への巨額投資が進行中です。官民連携で先端半導体製造を目指すRapidusは北海道に最先端工場(IIM-1)を建設、2027年から2ナノ量産を計画しています。また台湾TSMCも熊本県で2024年末に製造を開始し(初期は22nm/28nmプロセス)、第2工場では7nm世代チップの量産開始を2029年頃まで延期しつつ進めています。自動車ではトヨタなど国内各社が電動車へのシフトと自動運転技術開発を加速中です。
- ベースシナリオ: 主要産業の構造転換は概ね軟着陸します。自動車メーカーはハイブリッド車(HV)を含む新車販売電動化100%(2035年)規制に対応し、2030年頃までにEV/PHVラインアップを拡充。ただし2023年現在のEV比率は2.22%に過ぎず、当面はHV中心の電動化となります。半導体ではRapidusやTSMCの新工場稼働により、国内供給網が一部復活。RapidusはIBMとの協業で先端ロジックを2027年以降量産開始し、日本発の2nmチップがAI・5G向けに供給されます(初期歩留まりは要注視)。一方、メモリ大手のキオクシア再編や米マイクロンの広島投資(EUV型DRAMを2026年量産予定)などを経て、国内半導体産業は世界シェア10%超を維持。観光産業もコロナ禍から回復し、訪日客数は2023年に2,507万人(2019年比79%)まで戻りました。2030年に向け政府目標の6,000万人には届かないまでも、年間5,000万人規模まで増加し観光消費も拡大(目標15兆円に対し12兆円程度)と想定されます。総じて日本経済は年平均実質成長率0.5~1.0%程度で推移し、2035年の名目GDPは約700兆円前後(世界3位キープ)と予測(確信度: Medium)。
- 楽観シナリオ: イノベーションが開花し、日本発の新産業が生まれます。大学・企業の研究開発投資が実を結び、創薬やロボティクス、クリーンエネルギーで世界的企業が輩出。政府のスタートアップ支援策も奏功し、ユニコーン企業が2030年代前半に複数登場します。半導体ではRapidusが量産を軌道に乗せ、2030年代半ばに1nm世代の量産技術を確立。国内製造装置メーカーなど関連産業も成長を牽引します。自動車は全固体電池や水素エンジン等の実用化で次世代モビリティをリードし、海外市場シェアを維持。訪日観光はアフターコロナのアジア富裕層需要を取り込み、2030年代には年間6,000万人突破(政府目標を達成)。リニア中央新幹線の開業も前倒し(2030年頃までに一部開業)し、地域間の人流・物流が活性化します。これらにより日本の経済成長率は1~2%台を回復し、国民総所得(GNI)も増加基調に(確信度: Low)。先端分野への積極投資で雇用も創出され、“失われた〇〇年”から脱却するシナリオです。
- 慎重シナリオ: 技術開発や設備投資が思うように進まず、産業競争力の低下が顕在化します。自動車市場では世界的EVシフトに出遅れ、2030年時点で日本のEV比率は3割程度に留まるとの予測もあり、国内メーカーは中国・欧米勢にシェアを奪われます。半導体も巨額投資に見合う商業的成功を収められず、Rapidusは歩留まり改善に苦戦して量産遅延。TSMC熊本工場もコスト高で増設計画が縮小されるなど、期待ほどの波及効果が出ません。観光業は中国など海外情勢の不確実性に左右され、訪日客が4,000万人台で頭打ちに。インバウンド消費への過度な依存が地方経済の脆弱性となります。不動産市場では人口減を背景に住宅需要が減退し、空き家率は2023年の13.8%からさらに上昇、2035年頃には20%近くに達する恐れがあります(ある試算では2033年に約30%へ上昇との指摘)。この結果、建設・不動産業も収縮し地価も下落傾向。日本経済はほぼゼロ成長に陥り、一人当たりGDPは主要国中で見劣りし続ける展開です(確信度: Medium)。長期停滞で企業の国内投資は減少、アジアの中堅国に経済規模で迫られる可能性も否めません。
エネルギー・気候・GX
- 前提: 日本は2030年度までに温室効果ガス46%削減(2013年比)を公約し、エネルギーミックスでも再生可能エネルギー比率36~38%、原子力20~22%、化石燃料約41%への転換を計画しています。政府は2021年に第6次エネルギー基本計画を策定し、この目標達成に向けた政策を推進中です。またGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議にて、排出量取引制度の導入と炭素税強化を決定。具体的には2026年度に排出量取引を義務化、2028年度から炭素に対する賦課金(炭素税)を追加導入する法律が成立しました。さらに官民で今後10年間に150兆円投資を促すべく、GX経済移行債(グリーンボンド)20兆円超の発行も計画しています。
- ベースシナリオ: エネルギー転換は政策目標に沿って進みます。2030年時点で再エネ比率は約36%に達し、太陽光・風力の導入が拡大(特に洋上風力は複数の大規模案件が稼働)。石炭火力は老朽設備の廃止が進み、残存設備ではアンモニア混焼などで排出削減に寄与。原子力は安全審査をパスした既存炉の最大60年超運転が認められ、2030年までに稼働原発が20基超に増加。電力需給における原発比率は約20%を維持します。電力の脱炭素化により、電気自動車やヒートポンプの導入効果が最大化され、2035年のエネルギー起源CO2排出量は大幅減少(2005年比▲50%以上)。政府は2030年後半にさらなる削減目標(2040年までに▲60%超)を設定し、水素・CCUS(炭素回収)の実用化も加速。カーボンプライシングの定着で企業は排出コストを織り込み、省エネ投資や再エネPPA契約が一般化します。総じて、2050年カーボンニュートラルへの軌道に乗り、国際的な約束を概ね履行するシナリオです(確信度: Medium)。
- 楽観シナリオ: 技術革新と国民的合意により、より早い脱炭素シフトが実現します。洋上風力・地熱などポテンシャルの高い再エネ源が大胆に開発され、2040年頃までに再エネ比率50%以上に到達。蓄電池革命で再エネの不安定性も克服し、送配電インフラ高度化により大量導入が可能に。原子力では安全性が飛躍的に向上した次世代炉(SMR等)が2030年代半ばから運用開始。福島事故以降停滞していた原子炉新増設も慎重に再開し、原発比率も維持または微増します。エネルギー自給率は大幅に改善し、中東情勢等に左右されにくい安定供給を確保。水素社会の実現も見えてきて、製鉄や化学工業でグリーン水素が実用化。GXは経済成長の原動力となり、国内に新規産業・雇用を創出します。結果として2035年時点でCO2排出量は2013年比▲50%以上削減、パリ協定の整合性を超えるペースで減少(確信度: Low)。世界的なカーボンプライシング拡大で日本企業も競争力を維持し、環境と成長の両立を果たす理想的シナリオです。
- 慎重シナリオ: エネルギー転換に困難が生じ、目標未達のリスクが高まります。再エネ開発は環境アセスの長期化や立地受け入れ難航で進まず、2030年の再エネ比率は30%強に留まる可能性も。一方、原発再稼働も地元了解に時間を要し、想定より基数が増えない事態に。追加的な電源確保が遅れた場合、政府は石炭火力を一部延命せざるを得ず、2030年以降も電力の4~5割を化石燃料に頼る展開となります。温室ガス削減は進捗遅れ、2030年▲46%目標に届かず▲35~40%程度にとどまる恐れ(確信度: Medium)。その場合、国際的な批判や炭素国境調整措置で輸出産業が不利益を被る可能性もあります。カーボンプライシングの価格が低迷し企業の脱炭素投資インセンティブが働かない、一方で国民負担感だけが増すなど制度運用にも課題が噴出。エネルギー安全保障の面でも、化石燃料価格変動に引き続き翻弄され、電力料金高騰が産業・家計を圧迫します。極端な気候災害(猛暑や台風)もインフラ被害をもたらし、電力網の強靭化・分散化の必要性が露呈するでしょう。
インフラ(リニア等)
- 前提: 高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化が加速しています。道路橋は2030年時点で建設後50年以上が約54%に達する見通しであり、トンネル等でも同様に今後20年間で老朽資産が激増します。この“インフラ老朽化問題”に対応すべく、国・自治体はメンテナンスサイクルの確立や更新投資の確保が喫緊の課題です。一方、次世代の大型プロジェクトとしてリニア中央新幹線(東京~名古屋)の建設が進行中ですが、環境問題等で遅延し当初予定の2027年開業は困難となっています。
- ベースシナリオ: インフラ維持管理への投資が拡充され、現状の機能は概ね維持されます。政府はインフラ長寿命化計画に基づき、橋梁・トンネルの計画的修繕を推進。予算制約下でも危険度の高い箇所から耐震補強や補修を実施し、重大事故の未然防止に注力します。老朽管路の更新(上下水道やガス管)もAIを活用した点検効率化等により進捗。リニア中央新幹線は、静岡工区の遅延等により2027年開業は断念。開業時期は未確定(一部報道で2034年以降の見通し)。開業時期は当初より約10年遅れるものの、中京圏~首都圏間の移動時間短縮(約40分程度)が実現し、両経済圏の一体化がさらに進展します。都市部ではリニア開業に合わせて品川・名古屋駅周辺の再開発が完了し、新ビジネス拠点が形成。空港・港湾など他の主要インフラも大過なく稼働が続き、首都直下地震など大災害の発生は免れています(確信度: Medium)。
- 楽観シナリオ: インフラ刷新が大胆に進み、公共投資が経済成長にも寄与します。政府は老朽インフラ更新に思い切った財政措置を講じ、地方の道路・橋も含め更新サイクルを前倒し。AIやIoTセンサーでリアルタイム監視を実現し、補修から予防保全へ移行します。2030年代には主要高速道路や新幹線の耐用年数超過問題が解決され、利用者に安全・快適な移動サービスを提供。リニア新幹線は想定より早く2030年頃に部分開業し(山梨実験線の延伸活用等)、経済的波及効果が前倒しで顕在化します。さらに大阪延伸も計画が具体化し、2045年予定が繰り上がる可能性も。スマートシティ化が全国で進み、都市インフラ(交通・エネルギー・通信)の統合管理により効率性が向上。モビリティでは自動運転交通網が整備され、高齢者や過疎地の移動を支えるようになります。これら公共インフラの整備拡大が内需を刺激し、地域経済にも恩恵をもたらす好循環が生まれます(確信度: Low)。
- 慎重シナリオ: インフラ整備の遅れや大規模災害の発生で、社会基盤の脆弱化が顕在化します。老朽橋やトンネルで通行制限や事故が頻発し、物流や通勤に支障をきたすケースが増加。人手不足により自治体がインフラ点検・補修を十分行えず、「2030年クライシス」と呼ばれるインフラ維持困難層の拡大が現実化します。この結果、安全上やむなく閉鎖する道路・公共施設が各地で発生し、日常生活にも影響。さらに巨大地震などのリスクも現実のものとなります。政府地震調査委員会の評価では南海トラフ巨大地震の30年以内発生確率は「約80%」とされ、2035年までの間に万一これが発生した場合、太平洋側の広範囲に壊滅的被害が及ぶ想定です(死者最大32万人規模)。首都直下地震や大規模水害なども重なれば、日本経済は長期停滞どころか縮小局面に入るリスクがあります(確信度: Low〈しかし無視できない〉)。リニア計画も静岡県の環境懸念が解消しないまま凍結され、膨大な sunk cost(埋没費用)と債務だけが残る最悪シナリオも否定できません。
安全保障・地政学
- 前提: 国際情勢の変化に伴い、日本の安全保障政策は大きな転換を迎えています。2022年末に国家安全保障戦略等「防衛三文書」が改定され、敵基地攻撃も可能とする「反撃能力」の保有や、防衛費の抜本的増額(5年で約43兆円、2027年度にGDP比2%目標)を決定しました。今後はサイバー、防衛技術、宇宙など新領域での能力強化が焦点です。また中国の台頭と米中対立、北朝鮮の核ミサイル開発により、日本周辺の軍事リスクは高まっています。
- ベースシナリオ: 日本は日米同盟を基軸に抑止力を強化しつつ、周辺国との関係安定化に努めます。防衛力整備計画に沿ってスタンドオフミサイルや無人機部隊の配備が進み、2027年までに「反撃能力」を整備。F-35戦闘機やイージス艦も増強され、防空・ミサイル防衛体制は向上します。2035年に向けては次期戦闘機(F-X)の日英伊共同開発が順調に進み、2035年度までに開発完了・配備開始の目標を達成。これにより航空優勢維持に必要な戦力更新が実現します。人的側面では、自衛隊定員約24.7万人に対し慢性的に存在する2万人規模の欠員を縮小すべく、待遇改善や女性隊員登用拡大を推進。徴兵制の復活等は論外としても、民間との人材獲得競争に対処するため予備役やサイバー人材の活用など柔軟策が取られます。地政学リスクについては、2020年代後半に懸念された台湾海峡での有事は回避され、中国とは経済関係を維持しつつ安定的な抑止関係を構築(米中の一定の対立継続を前提)。北朝鮮とも外交対話が行われ、ミサイル発射は頻度が減少します。総じて日本の安全保障環境は緊張感を孕みつつも現状維持が図られ、大規模紛争への巻き込まれは避けられています(確信度: Medium)。
- 楽観シナリオ: アジア太平洋地域で平和外交が奏功し、軍事的緊張が大きく緩和されます。米中間で軍備管理や危機管理メカニズムが確立し、台湾問題も平和的な妥協点が模索される方向に転換。日本は対中直接抑止の負担が軽減され、防衛力強化策を急進させる必要性が薄れます。その結果、防衛費の増額は達成するものの、2030年代に入ると伸びは鈍化しGDP比2%前後で安定推移。余剰の予算は災害対策や経済投資に振り向けられます。また韓国との関係改善も進み、北東アジアでの地域安保協力(弾道ミサイル防衛のデータ共有など)が深化。自衛隊は高度な装備に加え、ソフト面(サイバー防衛や宇宙監視)での国際協調を強化します。日本独自の衛星コンステレーション網や量子通信ネットワークも2035年頃までに整備され、安保と民生の両面で技術優位性を確保。核軍縮に向けた外交努力も実り、北朝鮮核問題も一定の封じ込めに成功します。国民生活において徴兵制などの議論は生じず、むしろ安全保障技術が民間転用され経済にプラスとなるシナリオです(確信度: Low)。
- 慎重シナリオ: 地政学的リスクが顕在化し、日本は戦後最大の安全保障危機に直面します。2020年代末から2030年代初頭にかけて台湾海峡で軍事衝突が発生し、日米と中国の関係が急激に悪化。シーレーン途絶やサイバー攻撃によりエネルギー・食料供給が不安定化、国内経済も混乱します。日本は有事に備え、本土防衛力を緊急強化せざるを得なくなり、防衛費はGDP比3%に迫る勢いで拡張(財政負担は急増)。しかし人口減で自衛隊員確保は限界に達し、無人兵器や米軍支援抜きでは防衛維持が難しい状況に。最悪の場合、局地的な武力紛争への参加や領土紛争が起こり、自国民の生命が脅かされる可能性も否定できません。国内では安全保障を巡る世論が二分され、政治的にも不安定化。外交的には友好国との連携強化で対応するものの、グローバルサプライチェーン寸断など経済被害は甚大で、日本企業も生産拠点の国内回帰や多角化を余儀なくされます。このシナリオでは日本の安保戦略は抑止から実戦対応へ性格を変え、平和国家としての在り方に試練が訪れるでしょう(確信度: Low)。
以上のように、各分野でベース・楽観・慎重の3シナリオに分けて将来像を描きました。次に、2025年から2035年までの主要な出来事や計画を年表形式で整理し、今後のマイルストーンを確認します。
2025年~2035年の年表(主要マイルストーン)
年度 | マイルストーン・出来事(計画値や見通し) |
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2025年 | 大阪・関西万博開催(5G活用やスマートシティ技術を披露)。公金受取口座登録制度は任意。また、預貯金口座付番制度(口座管理法)は2025年4月1日に制度拡充されたが、届出は任意。航空機の羽田・成田両空港の発着容量拡大策開始。防衛費対GDP比が約1.5%に達する見通し。 |
2026年 | (経済) 日銀がインフレ率2%を安定的に達成し金融正常化へ移行との観測も。(GX)改正GX推進法の成立(2025年)により、2026年度からGX-ETSの段階的義務化、2028年度から化石燃料賦課金(炭素賦課金)の導入が制度として位置づけ。詳細設計は実施段階で調整。東京証券取引所が企業の気候情報開示を本格義務付け予定。 |
2027年 | (安全保障)防衛費GDP比2%目標の年度(達成は未確定) – 2023~27の5年で43兆円程度を計画(防衛力整備計画)。国産スタンドオフミサイル「島嶼防衛用高速滑空弾」実戦配備。(技術) 量子技術イノベーション戦略の中間評価。(交通) リニア中央新幹線当初の開業目標年(実際は延期へ)。 |
2028年 | (GX) カーボンプライシング本格導入 – 化石燃料への炭素賦課金を開始(当初税率は低め、以降段階的上昇)。GX経済移行債の発行累計額が10兆円規模に。福島第一原発の処理水海洋放出が完了見通し。 |
2029年 | (産業) TSMC熊本第2工場稼働開始(7nm世代半導体量産へ)。メタバースやWeb3関連の国内規制が整備完了。空の移動革命に向けエアモビリティ(eVTOL)の実証路線運航を開始。 |
2030年 | (環境) 2030年温室ガス▲46%削減目標の達成年。再生可能エネルギー電源比率36-38%目標。(自動車) 小型商用車新車の20~30%を電動化目標年。EV充電器30万基整備、FCV水素ステーション1,000基整備目標年。(観光) 訪日外国人6,000万人・旅行消費15兆円の政府目標年(達成可否は要検証)。 |
2031年 | (人口) 団塊ジュニア世代(1971-74年生)が全員60歳以上となり、高齢就業者が大幅増加する時期。出生数低迷により18歳人口が100万人を下回る可能性。(財政) 高齢者数増加ピークに伴い社会保障給付費が年間150兆円規模に迫るとの試算も。 |
2032年 | (技術) 汎用人工知能(AGI)開発で国際競争が激化、日本はAI倫理指針に基づき産学官で協調(AI基本法の成立を経て統一基準を運用開始)。(防災) 首都直下地震発生確率(30年以内70%)の評価期間に入る。 |
2033年 | (不動産) 空き家件数2,150万戸・空き家率30%に達する可能性 – NRI試算で住宅の3割が空き家となる年。住宅市場規模の縮小や住宅業界再編が本格化。 |
2034年 | (産業) 国産旅客ジェット(スペースジェット計画後継)が市場投入される可能性。5Gの次の世代移動通信規格(6G/IOWN)の商用化に伴い、トラフィック処理能力が飛躍的向上。 |
2035年 | (社会)政府方針に基づき新車販売の電動車比率100%(HV・PHV・BEV・FCVを含む)を目指す。ガソリンスタンド数は現在の半減以下に減少し、EV充電網や水素供給網が主要インフラ化。(防衛) 次期戦闘機(F-X)開発完了・配備開始。自衛隊の構成が有人・無人複合体制に移行し、AIドローン部隊が正式編成。(人口) 総人口約1.12億人、高齢化率約38%(75歳以上人口が初めて総人口の20%超に)。老年人口指数のさらなる上昇で社会保障制度の転換点。 |
注: 上記マイルストーン年表は公的計画値や報道ベースの見通しをまとめたものです。実際の達成時期は政策の進捗や情勢により前後する可能性があります。特にリニア開業や観光目標などは不確実性が高く、最新情報に留意する必要があります。
続いて、これらのシナリオやマイルストーンを踏まえ、主要なKPI(重要指標)の2035年における想定レンジと確信度を比較表で示します。
3シナリオ比較(ベース/楽観/慎重)
下表に、ベースライン・楽観・慎重の各シナリオで主要KPI(指標)の2035年時点推計値レンジと、見通しに対する確信度をまとめます。
指標 (2035年) | ベースライン (現状趨勢) | 楽観シナリオ (改革成功) | 慎重シナリオ (リスク顕在) |
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総人口 | 約1億1,200万人 (高齢化率 ~38%) 確信度: High | ~1億1,500万人(出生率改善・移民増で下げ止まり) (高齢化率 ~36%) 確信度: Low | ~1億1,000万人(出生更なる減少) (高齢化率 ~40%弱) 確信度: Medium |
就業者数 | 約7,100万人 (高齢者就業増で労働力確保) 確信度: High | ~7,300万人(+主婦・シニアフル活用) (AI補完で生産性向上) 確信度: Medium | ~6,800万人(若年人口減でマイナス) (労働需給逼迫) 確信度: Medium |
実質GDP成長率 (年平均) | 約0.5%/年(潜在並み) 〈2030年代前半は0~1%〉 確信度: Medium | ~1.5%/年(潜在超える) 〈技術革新牽引〉 確信度: Low | ~0%/年(停滞) 〈場合により負成長〉 確信度: Medium |
一人当たりGDP (名目) | 約5.5万ドル 〈世界順位: 25位前後〉 確信度: Medium | ~6万ドル(向上) 〈主要国上位に返り咲き〉 確信度: Low | ~5万ドル(横ばい~低下) 〈相対的低迷〉 確信度: Medium |
再生エネ比率 (電源構成) | 40~45% 〈原子力20%、化石35~40%〉 確信度: Medium | 50%超 〈原子力25%、化石25%以下〉 確信度: Low | 30~35% 〈原子力15%、化石50%前後〉 確信度: Medium |
CO2排出量 (13年比) | ▲50%前後削減 〈年5億トン程度〉 確信度: Medium | ▲60%以上削減 〈目標超過達成〉 確信度: Low | ▲40%未達 〈排出量横ばいに〉 確信度: Medium |
新車EV比率 (乗用車) | 約30% (HV主体で100%電動化達成) 確信度: High | 50%超 (EV本格普及・輸出も増) 確信度: Low | 15~20% (HV依存・EV普及停滞) 確信度: Medium |
訪日外国人 (年間人数) | 5,000万前後 (観光消費 ~12兆円) 確信度: Medium | 6,000万超 (政府目標達成) 確信度: Low | 4,000万程度 (コロナ前比微増止まり) 確信度: Medium |
空き家率 (住宅総数比) | ~18% (都市部含め増加続く) 確信度: High | ~15%(抑制成功) (利活用促進で減少傾向) 確信度: Low | 20%超 (特に地方で深刻) 確信度: Medium |
防衛費 (対GDP比) | 約2.0% (年約12兆円規模) 確信度: High | ~2.0%弱(緊張緩和で抑制) (年10兆円台半ば) 確信度: Medium | 2.5~3.0%(有事備え増額) (年15兆円超も) 確信度: Low |
注: 上記は想定シナリオに基づく概算値であり、確信度は各シナリオの実現可能性評価を示しています(High: 極めて蓋然性高い、Medium: 状況次第で変動、Low: 実現には相当ハードルあり)。引用データは最新公表値や信頼性の高い推計に基づいています。例えば人口は国立社会保障・人口問題研究所の中位推計を基にしています。実際の数値は政策効果や不測の事態により変動し得る点にご留意ください。
次に、将来の不確実性に備えるために認識しておくべきリスク要因を、発生確率と影響度の観点から整理します。
リスクマップ(発生確率×影響度)
日本の2035年までを見通す上で、以下のような主要リスクが存在します。それぞれについて発生確率(Prob.)と影響度(Impact)を評価し、想定されるトリガーや回避・緩和策とともにまとめます。
リスクシナリオ | 発生確率 | 影響度 | 想定トリガー | 回避・緩和策 |
---|---|---|---|---|
大規模自然災害 (首都直下地震・南海トラフ巨大地震など) | 中~高 (30年内発生確率: 南海トラフ80%) | 極めて大 (人的・経済被害は甚大) | プレートひずみ蓄積、活断層活動期 | インフラ耐震化、早期警報・避難訓練、分散バックアップ体制(首都機能移転計画等)、防災予算の確保 |
地政学的危機 (台湾海峡・朝鮮半島有事、米中衝突など) | 中 (次第に高まりつつある) | 極めて大 (エネルギー・物流寸断、武力攻撃リスク) | 中国指導部の武力行使決断、偶発的軍事衝突 | 外交的抑止(同盟強化・多国間協調)、防衛力整備による高い阻止力、サプライチェーン多元化(経済安全保障) |
経済財政クライシス (深刻な景気後退や財政破綻) | 低 | 大 | 世界金融危機、新興国波及、国債暴落(金利急騰) | 機動的金融・財政政策(経済対策で需要下支え)、財政健全化計画の着実な実行、日銀と政府の連携による市場安定 |
技術停滞・競争敗北 (デジタル・AI・GX分野で遅れ) | 中 | 中~大 | 人材・投資不足、規制阻害、ガラパゴス化 | オープンイノベーション推進、教育改革でDX人材育成、官民の規制サンドボックス活用、国際標準の積極採用 |
社会システムの持続不能 (年金・医療制度の破綻、地方消滅など) | 中 | 大 | 人口減少加速、政策手遅れ | 社会保障改革(給付と負担見直し)、地方創生策拡充(集約都市・関係人口増)、移民受け入れルール整備 |
分析: 最も注意すべきは、自然災害と地政学リスクという発生確率が相対的に高く影響甚大な事象です。特に南海トラフ地震は30年以内発生確率が75~80%と評価される現実的脅威であり、発災すれば数十万規模の死者や経済損失(数百兆円)が見積もられています。地政学リスクも昨今高まっており、発生確率: 中程度ながら影響は計り知れません。これら高インパクト領域には国家レベルでの備えと国際連携が不可欠です。
一方、経済ショックや技術遅滞はグローバルな波及や内政の失策で起こり得るものの、適切な政策対応や民間活力で回避・緩和できる余地があります。社会制度の持続性に関しては時間軸を長く取ればリスク顕在化は避けられず、早めの制度改革が求められます。政府は年金受給開始年齢の引上げや給付水準見直し、自治体間連携による集約型行政などを進めていますが、2030年代はその成否が問われる時期となるでしょう。
各リスクに対して、上表に示したような対策(防災インフラ投資、外交努力、経済安全保障、規制改革、社会保障見直し等)を講じることで、シナリオの悪化を防ぎつつ持続可能な発展に繋げることが重要です。
企業・自治体の実務インパクト(ToDoリスト)
以上を踏まえ、2035年に向けて企業や自治体が直面するであろう現実的な課題と、今から取り組むべき対応策を整理します。
- 労働力確保と生産性向上: 人手不足が常態化する中、企業は賃上げや働きやすい職場環境整備による人材確保が急務です。同時に、AI・ロボットや業務効率化ツール導入で一人当たり生産性を高め、労働投入の減少を補う必要があります(例: 流通・外食などサービス業では無人店舗やセルフレジの標準化)。自治体も高齢者や女性の潜在労働力を活用する地域プロジェクトを推進し、移住促進等で地域の担い手を確保します。
- デジタル・AI戦略の推進: あらゆる業種でデータ利活用とAIの実装が競争力の鍵となります。企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)人材を育成・採用し、社内システムやサービスにAIを統合する計画を早期に策定するべきです。政府によるAIガイドライン(AI開発・利用の倫理指針)を踏まえた社内ルール整備も重要です。また自治体も行政サービスのデジタル化(オンライン手続の完全実施、自治体AIチャットボット導入等)で住民利便性を向上させるとともに、職員の業務負担軽減と人件費抑制を図ります。
- グリーン対応とカーボンニュートラル: 企業はGX時代に向け、自社の排出削減計画を再点検し、2030年・2050年目標の達成ロードマップを示すことが求められます。具体的には、省エネ投資(工場・ビルの断熱化や高効率設備への更新)、再エネ電力の直接調達(PPA契約拡大)、EVやFCV社用車への切替などです。排出量取引や2028年開始の炭素税に備え、排出量データ管理やクレジット活用の専門チームを社内に設置する動きも必要になります。自治体も地域の再エネ潜在量を引き出す政策(屋根ソーラー義務化支援や地域新電力設立)を講じ、地域経済内でエネルギー価値が循環する仕組みづくりを目指します。
- 空き資産の利活用と都市計画: 人口減で増える空き家・遊休不動産への対策は、自治体と企業双方にとって重要テーマです。自治体は空き家バンクの充実や規制緩和で、空き家の転用(賃貸化、解体後の土地利活用)を促進する施策を拡充します。また都市計画では公共施設の統廃合やコンパクトシティへの再編を計画的に進めます。民間不動産業や建設業も、リノベーション需要の発掘や解体・除却ビジネスへの参入など、新しい市場機会に備える必要があります。2033年に空き家率30%超との予測もある中、「ストック活用型」ビジネスへの転換は業界全体の生き残り策となります。
- 防災・BCP強化とサプライチェーン見直し: 災害大国・日本で企業活動を続けるには、事業継続計画(BCP)の強化が不可欠です。特に首都直下地震や大規模水害に備え、データの遠隔バックアップ、緊急時の在宅勤務体制、代替生産拠点の確保などを再検討しましょう。サプライチェーンについても、一極集中の解消や複数国調達を進め、地政学リスクへの耐性を高めます。自治体も地域防災計画を最新化し、企業や住民との協働訓練を通じて災害対応力を底上げすることが求められます。
- 人材多様化と教育投資: 労働人口減に対処するため、企業は女性・高齢者・外国人といった多様な人材の活躍推進に取り組みます。ダイバーシティ&インクルージョン施策を進め、働きやすい職場環境(例: フレックスタイム、リモートワーク制度、介護支援制度)を整備することが競争力の源泉になります。また、中長期視点では次世代教育への投資が重要です。デジタル人材・理工系人材を増やすため、産学官で奨学金やインターンシップの拡充を支援し、2030年代の人材基盤を強固にしましょう。自治体も地域の学校教育でICTやAIリテラシーを高めるカリキュラムを導入し、地方から先端人材を輩出する土壌を育てます。
以上のToDoリストは、迫りくる2035年に向けた実践的適応策です。人口減少やカーボンニュートラル、DXなど大きな変化はリスクであると同時に、新たな成長機会でもあります。各主体が先手を打ち戦略を持って行動することで、「慎重シナリオ」のリスクを回避し「楽観シナリオ」に近づけていくことが可能です。
最後に、本稿の内容に関連して読者の皆様から寄せられそうな質問を想定し、FAQ形式で補足説明します。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ3つのシナリオに分けて予測するのですか?
A1. 将来予測には不確実性が伴うためです。ベースラインは現状の延長線上で最も起こりやすい未来像、楽観シナリオはポジティブな変化(政策成功や技術革新)が重なった場合、慎重シナリオはリスクが現実化した場合を描いています。複数シナリオを検討することで、意思決定者は幅広い状況に備えた戦略を立てられます。
Q2. 今回のベースライン予測はどの程度信頼できますか?
A2. ベースラインは最新の統計データや公的機関の推計(人口推計やエネルギー計画など)を基にしており、現時点では最も蓋然性が高いシナリオです。ただし社会の動向次第で予測は変化し得ます。定期的に仮定を見直し、最新データでアップデートすることが重要です。本稿のベースラインも 2025年時点の情報 に基づくもので、将来の状況変化で修正が必要になる可能性があります。
Q3. 人口減少は本当に止められないのですか?
A3. 短期的に大幅な少子化改善は難しいと見られます。出生数はすでに年間80万人を下回り、仮に合計特殊出生率が上昇しても効果が現れるのは20年ほど後になります。ただ、政府も教育無償化や子育て支援拡充に乗り出しており、出生率低下を緩和する余地はあります。また移民受け入れも議論が進めば人口減を部分的に補える可能性があります。ただし移民政策には社会的コンセンサス形成が必要です。総合的には、「減少をゼロにはできないが緩やかにする」ことは可能であり、楽観シナリオではその前提を置いています。
Q4. 2035年には日本の国際的地位(経済規模や影響力)はどうなっているでしょうか?
A4. 経済規模では、2035年時点でも日本はおそらく世界第3位の経済大国であり続ける見通しです(中国・米国に次ぐ位置)。しかし成長率の差から相対的な存在感は低下傾向にあります。一人当たりGDPでは他の先進国やアジア新興国に追い抜かれるケースも増えるでしょう。一方で技術力や外交面でのソフトパワーは、日本が引き続き影響力を持つ分野です。特に気候変動や開発援助、人材交流などで日本の役割は評価されており、これらを通じた国際貢献が鍵となります。防衛面では、平和国家路線を維持しつつも抑止力を強化している点で国際社会からの注目が集まります。総合的に、経済規模は相対縮小しても質的な存在感(技術・文化・外交)は維持し続けることが、日本が国際社会で尊敬される道と言えるでしょう。
Q5. 2035年、普通の人の生活はどう変わっていますか?
A5. いくつか具体例を挙げます。まず身近なところでは、移動手段が変わる可能性があります。電気自動車(EV)や自動運転車が普及し、ガソリンスタンドの代わりに充電スポットが当たり前になります。またMaaS(サービスとしてのモビリティ)が発達し、都市では車を所有せずともアプリでオンデマンド交通を利用できるでしょう。エネルギー面では、家庭に蓄電池や太陽光発電が普及し、電力の地産地消が進むかもしれません。光熱費も省エネ家電や断熱住宅の普及で今より抑えられるでしょう。働き方ではテレワークが定着し、副業やフリーランスが増えるなど個人のキャリアが多様化しています。AIアシスタントが日常生活を支え、家事や雑務の一部はロボットに任せられるかもしれません。高齢者もデジタル機器を難なく使いこなし、遠隔医療や見守りサービスで安心して暮らせる社会を目指しています。
Q6. 防衛費が2倍になると暮らしへの影響はありますか?
A6. 防衛費増加分は財源として増税や歳出削減が必要となるため、間接的に国民負担に影響します。政府は防衛費増にあたり一部を法人税やたばこ税の増税で賄う方針を示しました。そのため2030年頃までにこれら税負担が増える見込みです。ただし額としては社会保障費などに比べれば限定的です。また防衛関連産業への投資増は雇用創出効果もあります。国民生活で直接実感する変化としては、自衛隊の装備や人員体制が強化されることで災害派遣の迅速化や地域防災力向上につながるといったメリットもあります。防衛費増はあくまで安全保障環境への対応策であり、それ自体が生活を豊かにするものではありませんが、必要な保険料として理解される面もあります。
Q7. EVや再エネ中心の社会になると電力供給は大丈夫でしょうか?
A7. 電力需要はEVや電化の進展で増えますが、その分効率化や蓄電技術の進歩も見込まれています。2030年代には蓄電池コストが大幅低下し、夜間や余剰電力の活用が進むでしょう。政府目標では2030年に再生エネ比率36~38%ですが、これを上回る導入ができれば、発電量自体は不足しないと予想されます。課題はピーク需要対応と安定供給です。猛暑時の冷房需要などピークに備え、火力(特にガス火力)は一定残りますし、蓄電池や需要側調整(デマンドレスポンス)も普及が進むでしょう。また次世代型の原子力や大量の水素発電といったオプションも検討中です。総じて技術開発とインフラ投資が計画通り進めば、EV・再エネ社会でも電力は安定供給できると考えられます。ただし慎重シナリオで述べたように、投資遅延や政策ミスがあれば供給不安が生じるリスクもゼロではありません。
Q8. 日本の財政赤字は膨らむ一方ですが、2035年には大丈夫でしょうか?
A8. 財政状況は厳しいですが、2035年時点で日本国債が信認を喪失している可能性は低いとみられます。理由の一つは、日本は巨額の国内貯蓄に支えられており国債の9割以上を国内で消化できている点です。また日銀の金融緩和により低金利環境が維持され、利払い負担が抑制されています。ただし安心はできません。2060年代まで高齢化に伴う社会保障費増大が続く見込みで、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は2025年度から先送りされました。2035年までに財政健全化が進まなければ、将来的な増税や年金給付削減など国民負担が一層重くなります。したがって財政改革(歳出効率化と税制見直し)は待ったなしの課題です。政府の骨太の方針でも2020年代後半から歳出抑制を図る計画があり、経済成長と合わせて債務対GDP比の安定化を目指す方針です。要は、2035年まで急激な財政破綻は考えにくいものの、時間を稼いでいる間に構造改革を断行できるかが問われます。
参考文献:
2035年までの日本の未来予測:ベース・楽観・慎重シナリオ分析
結論サマリ: 日本は今後15年間で急速な人口減少と高齢化に直面しつつ、産業構造の転換とグリーントランスフォーメーション(GX)を迫られます。政府は2035年までに新車電動化100%や温室効果ガス削減目標を掲げ、防衛費を国内総生産(GDP)の2%へ倍増させる計画です。一方で出生数減やインフラ老朽化など構造課題も深刻です。本稿ではベース(現状趨勢)・楽観(改革成功)・慎重(リスク顕在化)の3シナリオで日本の2035年像を予測し、主要指標のレンジと確信度、および考え得るリスクと対策を考察します。 2035年の日 ...
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- 【経済産業省】「自動車・蓄電池産業におけるグリーン成長戦略」(2021年6月策定):contentReference[oaicite:79]{index=79}
- 【一般社団法人 日本自動車会議所】「23年の国内電動車販売比率、暦年初5割超」(2024年1月17日):contentReference[oaicite:80]{index=80}
- 【資源エネルギー庁】「エネルギーミックス(2030年度目標値)」第6次エネルギー基本計画(2021年10月):contentReference[oaicite:81]{index=81}
- 【経済産業省】「GX推進法に基づくカーボンプライシング制度の概要」(2023年):contentReference[oaicite:82]{index=82}:contentReference[oaicite:83]{index=83}
- 【日本政府観光局(JNTO)】「訪日外客数(2023年年間推計)」(2024年):contentReference[oaicite:84]{index=84}
- 【国土交通省】「観光立国推進基本計画(第4次)」(2022年)- 2030年訪日客6,000万人目標を明記:contentReference[oaicite:85]{index=85}
- 【総務省統計局】「令和5年住宅・土地統計調査(速報)」(2023年) - 空き家数900万戸・空き家率13.8%:contentReference[oaicite:86]{index=86}
- 【野村総合研究所】「2030年の住宅市場~空き家率の予測と抑制策~」(2017年6月):contentReference[oaicite:87]{index=87}
- 【国土交通省】「社会資本の老朽化の現状と将来予測」(2019年):contentReference[oaicite:88]{index=88}
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- 【政府地震調査委員会】「南海トラフ巨大地震の発生確率について」(2020年1月):contentReference[oaicite:96]{index=96}:contentReference[oaicite:97]{index=97}
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