政策

選択的夫婦別姓(選択的夫婦別氏)をめぐる賛否と論点の完全ガイド

最終更新:2025年9月19日

要約: 選択的夫婦別姓(選択的夫婦別氏)とは、結婚後も夫婦それぞれが結婚前の姓(氏)を名乗ることを選べる制度です。現行の民法では婚姻時に夫婦は必ず同じ姓を名乗らねばならず(民法750条)、実際には約94%の夫婦で妻が夫の姓に改姓しています。この仕組みをめぐり、「個人の尊厳やキャリア継続のため選択肢を増やすべきだ」という賛成意見と、「家族の一体感や子どもの姓の扱いなど伝統との整合性が損なわれる」という反対意見が対立しています。本記事では、選択的夫婦別姓制度を巡る用語解説から制度史、賛否それぞれの主張、子の姓の決め方、戸籍・行政実務への影響、経済社会への波及、国際比較、そして政策オプションまで、一次情報とデータをもとに包括的に解説します。読者が自らの立場を考える判断材料を提供することを目指しています。

1. いま何が議論されているのか(用語・制度の基礎)

「選択的夫婦別姓(選択的夫婦別氏)制度」とは? – 夫婦が希望する場合に、結婚後もそれぞれ結婚前の姓(氏)を名乗ることを認める制度です。ポイントは「選択的」であり、夫婦が同じ姓を名乗る現行制度も維持しつつ、別姓を望む夫婦には法的にそれを選ぶ自由を与えようというものです。現在の日本の民法では、婚姻の際に夫婦は必ず同じ氏(姓)を定めなければならず(民法750条)、夫婦別姓は法律上認められていません。この結果、実務上は約94%のケースで妻が夫の姓へ改姓しており(2024年時点)、改姓する当事者のほとんどが女性です。こうした制度下で、名字を変えることによる社会生活上の不便やアイデンティティ喪失の問題が指摘され、選択的夫婦別姓を求める声が根強く存在します。

「氏」と「姓」 – 戸籍法など法律上は「氏」と表記されますが、本記事では分かりやすさのため「姓(名字)」とほぼ同義で用います。明治期の戸籍法整備以降、日本では家族単位で一つの姓を名乗る制度(夫婦同姓制度)が定着しました。民法750条は「夫または妻の姓を称する」と定めており、結婚する際に夫婦はどちらか一方の姓に統一することになります。選択肢として夫の姓を選ぶことも妻の姓を選ぶことも法律上は可能ですが、社会慣行的に夫の姓を選ぶ夫婦が大多数です。

「戸籍」と家族単位 – 戸籍は日本国民の親族関係を公証する公的な台帳です。現行制度では夫婦とその未婚の子は同一の戸籍に記載されます。夫婦同姓が戸籍上の原則であるため、一つの戸籍の中で夫婦の姓は統一されています。ただし日本人が外国籍の人と結婚した場合など例外的に夫婦で別姓となるケースでは、戸籍の扱いが異なります(日本人配偶者は自分を筆頭者とする戸籍を編製し、その戸籍に配偶者の氏名を記載するが、配偶者は戸籍に入らない)。選択的夫婦別姓が導入された場合の戸籍について、1996年の法制審議会答申では夫婦同姓・別姓にかかわらず夫婦と子は同一戸籍に記載する案が示されており、妻のみ戸籍上別姓となる記載例も提示されました。戸籍上の技術的対応としては、夫婦の姓欄を個別に設けるなどの軽微な変更で足り、家族が別姓でも一つの戸籍にまとまる運用は可能と考えられています。もっとも一部には「戸籍上、同一戸籍には同じ姓の者しか載せるべきでない」との意見もあり、その場合には夫婦別姓の夫婦については国際結婚時のように別戸籍にする案も考えられます。しかし戸籍の編製方法は行政上の問題であり、家族の実態や法的効果とは切り離して検討可能な部分です。

「通称使用」と旧姓併記 – 現行制度下でも、改姓による不便を緩和するために旧姓(旧氏)の通称使用が広がってきました。通称使用とは、戸籍上は改姓していても仕事上や社会生活で旧姓を名乗ることを指します。近年、公的書類にも旧姓をカッコ書きで併記できる制度が拡充されました。例として、運転免許証やマイナンバーカード、住民票に旧姓を併記可能、旅券(パスポート)は2021年4月1日から「別名・旧姓併記」の要件が緩和され、身分事項ページに「Former surname」等の説明書きが付される運用に変更されました。また銀行口座の旧姓名義利用も約7割の銀行で対応するなど(2022年調査)、行政・民間問わず旧姓使用の運用が進んでいます。一方で、通称はあくまで通称であり法的な名前ではありません。そのため、不動産登記や契約書など法律行為では戸籍上の本名でないと認められない場合が多いのが現状です。旧姓併記も「括弧書きで付記する」形に留まり、単独で旧姓を公式書類の氏名欄に記載することは不可能です(例:2024年施行の不動産登記規則改正で登記簿に戸籍姓+旧姓括弧書き併記は可となったが、旧姓のみの記載は不可)。このように通称使用は現行制度下の便宜措置として定着しつつありますが、法的効果や国際的通用性には限界があり、根本解決には婚姻時の氏の扱いそのものを見直す必要があると指摘されています。

以上が現在議論の前提となっている基本事項です。次章では、この制度をめぐる経緯と主要な出来事を振り返ります。

2. 制度史と法的経緯(主要年表)

選択的夫婦別姓をめぐる議論は1990年代以降、本格化しました。ここでは主要な法制度上・政治上の動きを年表形式で整理します。

  • 1898年(明治31年) – 民法施行。当時は家制度の下、妻は婚家の姓を称するものとされ、夫婦同姓が事実上の原則となる(旧民法下では戸籍単位で家長の姓に統一する形)。以降、戦後の民法改正まで戸籍法制は家父長制的な同姓慣行が続く。
  • 1947年 – 新民法施行。家制度が廃止される一方、民法750条により現在と同じ「婚姻時に夫婦いずれかの氏を称する」規定が制定される。夫婦同姓が法的義務として明文化された。
  • 1985年 – 日本が国連の女子差別撤廃条約(CEDAW)を批准。条約16条は「配偶者と同等の個人的権利(姓名を含む)」を保障する内容であり、日本政府は同条約に沿う形で国内法の検討義務を負う。しかし民法750条の見直しは行われず、この時点では夫婦同姓規定は維持された。
  • 1991年 – 法務省が諮問機関である法制審議会に「今後の家族法制のあり方」を付議。これを受け約5年にわたり専門部会で婚姻制度見直しが議論される。
  • 1996年2月 – 法制審議会が最終答申「民法の一部を改正する法律案要綱」を法相に提出。この中で選択的夫婦別氏制度の導入が盛り込まれ、「夫婦は婚姻の際に夫又は妻の氏を子が称する氏として定める」「別氏夫婦も同一戸籍に記載」「子どもが複数いる場合は全員同じ氏」等の具体案が示されました。要綱では子の姓を夫婦で事前に決めておく方式を提案し、兄弟間で姓が異ならない配慮もなされています。しかし、この答申にもとづく民法改正案は当時の与党内で意見がまとまらず、国会提出は見送られました
  • 2001年 – 内閣府の世論調査で初めて「選択的夫婦別姓導入に賛成」が「反対」を上回る結果に(賛成約42%、反対約30%)。以降、調査方法による数値差はあるものの、おおむね賛成優勢の傾向が続く。
  • 2010年 – 民主党政権が法制審答申(1996年案)を踏まえた民法改正試案を準備。同年11月には選択的夫婦別姓を含む民法改正案要綱が報道されるも、自公など野党の反対や与党内意見対立もあり国会提出に至らず廃案となる。
  • 2015年12月16日 – 最高裁判所大法廷判決(平成26年(オ)1023損害賠償請求事件)。夫婦同姓を強制する民法750条の憲法適合性が争われました。判決主文は原告の請求を棄却し、民法750条について「個人の尊厳及び両性の本質的平等(憲法24条)に反しない」と合憲判断を示しました。多数意見は「家族の呼称を一つに定めることには合理性がある」とし、同条は13条(個人の尊重)、14条1項(法の下の平等)、24条(婚姻の平等)いずれにも違反しないと結論付けました。一方、この判決には裁判官山浦善樹の反対意見が付され、「夫婦同姓強制は憲法24条(両性の本質的平等)に違反し、立法不作為は国家賠償法上違法」として原告勝訴を主張しました。また寺田逸郎裁判長ら4名の補足意見では、選択的夫婦別姓を求める意見にも一定の理解を示しつつ、「制度のあり方は国会で判断すべき問題」との立場が示されています。
  • 2016年3月 – 国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)が日本政府に対し、民法750条の見直し(夫婦同姓強制の是正)を勧告。同委員会から日本への同種勧告はこれで3度目となり、以降も国連人権機関から繰り返し法改正を促す勧告が続く(後述)。
  • 2018年頃 – 政府が各種公式書類への旧姓併記制度を相次ぎ導入。住民票・マイナンバーカード(2019年施行)、運転免許証(2018年施行)、パスポート(2021年要件緩和)など、公的身分証で旧姓が括弧付きで記載可能となる。また国家資格や公的申請でも旧姓使用が拡大し、通称使用の環境整備が進む。
  • 2020年12月 – 第5次男女共同参画基本計画(政府の基本方針)策定。「夫婦の氏の具体的制度の在り方」について、家族形態の変化や国民意識の動向を踏まえ、「司法の判断も踏まえ、更なる検討を進める」と明記。具体策への言及は避けつつも、引き続き検討課題と位置付けられる。
  • 2021年6月23日 – 最高裁大法廷決定(令和2年(ク)102市町村長処分不服申立事件)。再度民法750条等の違憲性が争われたが、大法廷は2015年判決と同様「合憲」判断を示し、特別抗告を棄却。決定主文は「民法750条および戸籍法74条1号(婚姻届に夫婦の氏を記載)の規定は憲法24条に違反しない」とするもので、2015年判決の趣旨を再確認しています。しかし今回も付随意見が多数出され、裁判官15人中4人が違憲とする反対意見(このうち女性裁判官は1人)を示し、さらに三浦守裁判官が独自の「意見」を付しました。中でも宮崎裕子・宇賀克也裁判官の共同反対意見は、「夫婦同姓を婚姻の要件とする現行法は婚姻の自由かつ平等な意思決定を侵害し憲法24条1項に反する」と明言し、女子差別撤廃条約が定める「姓を選択する権利」に日本が背いている現状を批判しました。また草野耕一裁判官の反対意見では、選択的夫婦別姓を導入した場合の公益を考慮し「導入で向上する福利(利益)は減少する福利よりはるかに大きい」「導入しないことは個人の尊厳をないがしろにするもので立法裁量を超える違憲状態」と強調されています。一方、合憲多数意見側でも深山・岡村・長嶺各裁判官の補足意見が出され、「改姓による不利益で婚姻を事実上断念する人がいる現実」を認めつつ「制度改廃は立法裁量に委ねられる」との判断を示しました。最高裁は結局、「夫婦別姓制度導入の是非は国会で議論すべき事柄」と結論付け、司法として違憲とは断じない立場を維持しました。この決定を受け、違憲判断を期待していた原告側や賛成派からは落胆の声が上がったものの、同時に「最高裁がボールを国会に投げ返した」という評価もなされ、立法府での議論促進が改めて求められました。
  • 2021年12月 – 内閣府「家族の法制に関する世論調査」(約5年ぶり実施)結果公表。夫婦別姓に関する設問では、回答者の28.9%が「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」と答え、27.0%が「導入に反対(現行制度維持)」、42.2%が「旧姓の通称使用のための法制度を設けた方がよい」と回答。この結果は「賛成約3割・反対約3割・通称容認約4割」と解釈され、大手メディアの報道姿勢によって「賛成派が反対を上回った」とも「賛成は3割に留まり多数は同姓維持容認」とも報じられました。調査手法の違いや質問の選択肢設定により世論調査結果は振れ幅がありますが、おおむね「反対を大きく上回る強固な賛成多数」とまでは至っていない状況が浮き彫りになっています。一方で、同調査内の別設問では「夫婦が別姓を選べるよう法改正すべき」との賛同意見が42%に上ったとの報道もあり、世論は設問次第で大きく異なる回答を示しています。こうした民意の揺れも国会の慎重姿勢に影響を与えてきた要因と言えるでしょう。
  • 2022~2023年 – 全国各地の地方議会で、国に選択的夫婦別姓の実現を求める意見書採択が相次ぐ。2025年8月時点で賛成意見書の可決は536議会に上り、全自治体の約3割に当たる勢いで地方からの要望が積み上がっています。自治体レベルでは、例えば長野県や東京都千代田区などが職員の旧姓使用を積極容認する通達を出すなど、現場対応も広がりました12。また自民党内でも有志議員による「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」(超党派の議連とは別)が2023年に発足するなど、与党内でも議論を進めようとする動きが見られます。しかし党内には依然慎重論が根強く、政府としての法案提出には至っていません。
  • 2024年6月 – 日本経済団体連合会(経団連)が選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める提言「選択肢のある社会の実現を目指して~女性活躍に対する制度の壁を乗り越える~」を公表。経済界から制度導入を直接政府に促すもので、大企業中心に人材多様化を推進する立場からの強いメッセージとなりました。提言は「婚姻時に姓を選択できない制度は女性活躍の阻害要因であり国際的にも日本のみ」「希望すれば生まれ持った姓を名乗り続けられる制度の実現を」と訴えています(詳細は「7. 経済・企業実務の観点」で解説)。政府与党内にもこの提言を後押しする声が出始め、2024年後半以降、政務レベルでの検討本格化が取り沙汰されています。
  • 2024年10月 – 国連CEDAWが日本の第9回政府報告に対する最終見解を公表。再び「婚姻後の姓について女性が旧姓を保持できるよう法改正すること」を日本政府に強く勧告しました。条約履行状況に関する審査で、委員会は「夫婦同姓を義務付ける民法750条が依然改正されていないこと」に懸念を示し、早期の立法是正を求めています。日本政府はこの勧告を「真摯に受け止める」とコメントしましたが、具体的対応は今後の課題となっています。
  • 2025年5月 – 経団連が前述提言を改訂し、第2版を発表(女性役員アンケート結果の追加等)。同年9月現在、政界では与野党の一部議員が次期通常国会への民法改正案提出を模索中との報道もあり、選択的夫婦別姓の是非は引き続きホットな政策論争のテーマとなっています。

以上の経緯を踏まえ、次章からは賛成派と反対派それぞれの主張を公平に整理します。それぞれの論拠をできるだけ最強の形(スチールマン)で提示し、データや事例に基づき検証します。

3. 賛成派の主張(スチールマン)

選択的夫婦別姓の導入を支持する側(賛成派)は、主に以下のような観点からその必要性を訴えています。

  • (1) 個人の尊厳と婚姻の自由: 婚姻は本来、当事者の自由意思にもとづく平等な結合であるべきで、姓の扱いも各人のアイデンティティに関わる重要な権利です。賛成派は「結婚によって自己の姓を奪われない権利」を尊重すべきだと主張します。現行制度では結婚の際に必ずどちらかが改姓を強いられ、「生来の氏名を失うことへのアイデンティティ喪失感」に苦しむ人がいます。特に女性にとって旧姓はそれまで積み上げたキャリアや人間関係と結びついた「自分自身の看板」であり、改姓の強制は人格権の制約だという指摘です。最高裁の反対意見でも「結婚のために自らの氏を放棄せよというのは憲法24条1項(婚姻の自由)に反する」旨が述べられています。賛成派は婚姻における氏の選択は各人の基本的人権であり、国家が画一的に夫婦同姓を強制するのは過剰な介入だと主張します。憲法24条2項の「個人の尊厳と両性の本質的平等」に照らせば、姓の選択制はむしろ当然の帰結であるとの立場です。
  • (2) 実生活上の不利益(キャリア・日常への支障): 賛成派は、現行制度が特に女性に偏った実害を生んでいる点を強調します。現状ほとんどの妻が夫姓に改姓するため、その不利益は女性が一方的に被っています。具体的な不都合としては、職場でのキャリアの分断が挙げられます。例えば研究者の場合、結婚前後で姓が変わることで論文や著作の名義が分かれ、本人の業績が一目で繋がらなくなります(引用時に旧姓・新姓のどちらを使うか迷いが生じ、成果の蓄積が正当に評価されにくい)。ビジネスの場でも、結婚後に名刺やメールアドレス、資格登録名を全て変更する手間・コストが発生し、人脈形成にもリスクとなります。経団連の調査では女性役員の88%が「会社で旧姓の通称使用が認められていても、改姓手続きや公的書類で何らかの不便・不利益が生じる」と回答しています。実際の事例として、旧姓で周知されていた社員が海外出張の際に航空券とパスポート名が不一致となり搭乗を断られたケースや、社内システムで旧姓使用を認めても年金・税など公的手続では戸籍姓への照合が必要で事務負担がかかるケースが報告されています。さらに、改姓に伴う心理的ストレスも無視できません。名字はアイデンティティの一部であり、急に名乗りが変わることで「自分でないような感覚」「喪失感」を抱く人もいます。ある調査では、結婚適齢期の独身女性の4人に1人(20~30代女性の25.6%)が「名字が変わるのが嫌・面倒だから積極的に結婚したいと思わない理由になる」と回答しています。40代以上ではその割合が3人に1人(35.3%)に増えます。これは相当数の女性が姓変更を結婚のハードルと感じていることを示し、現行制度が結婚数の減少・晩婚化の一因になっている可能性すら示唆します。賛成派は「姓を変えたくないばかりに事実婚を選ぶカップル」が少なくない現状を指摘し、制度を改めれば法律婚への移行が進み少子化対策にも資すると主張します。
  • (3) 男女平等・間接差別の是正: 賛成論の根底には、現行制度は事実上女性にのみ不利益を強いる不平等なものだとの認識があります。法の文言上は「夫婦のどちらの姓にしてもよい」と中立ですが、社会的慣行により女性改姓が圧倒的多数となっている以上、機会均等の建前が機能していないという批判です。経団連提言は、現在の夫婦同姓制度が結果的に女性に改姓による不利益を負わせており、間接差別に当たる恐れがあると指摘しました。間接差別とは一見中立な規定が特定の属性の人々に著しい不利益を及ぼす状態を指しますが、95%以上妻が改姓する実態はまさにこれに該当するといえます。また条約機関からも「夫婦同姓強制は女性差別である」と再三勧告されており、国際基準から見て日本は是正を怠っている状況です。賛成派は法の下の平等(憲法14条)や両性の本質的平等(憲法24条2項)の観点からも制度変更は不可避と主張します。加えて、職場における女性活用という経済的視点からも、制度上の壁を取り除くことは企業や社会全体の利益になると強調しています(この点は7章で詳説)。
  • (4) 通称使用では不十分: 一部には「法律上は同姓のままでも旧姓の通称利用で対応できるのでは?」との見解もありますが、賛成派は通称では根本解決にならないと反論します。理由の一つは、通称使用には法的効力が無く、公的身分保証の場面で限界があることです。例えば銀行口座開設は旧姓名義に対応していない金融機関もなお多く(信用金庫の約4割弱、信用組合では約87%が旧姓口座不可)、不動産登記では2024年から旧姓併記が可能になったとはいえ主たる名義は戸籍姓のままです。パスポートも旧姓を追記できるものの機械読取部分には反映されず、ビザ申請や出入国審査で結局戸籍姓が求められるため根本的解決にはなっていません。国際的に見ると「一人に複数の名前(ダブルネーム)がある」状態は不正の疑いを招きかねず、実際海外のホテルで通称名で予約したところパスポートと名前が違うため宿泊を断られた例もあります。また、結婚や離婚というプライベートな情報を会社の同僚に知られてしまう問題も指摘されています(旧姓通称利用の社内手続きで結婚の事実が周知されたり、離婚後旧姓に戻す際に事情説明が必要になる等のプライバシー侵害)。さらに、法律上夫婦同姓である以上、氏名変更に伴う公的手続(銀行・免許・年金・クレジットカード等)の煩雑さは避けられません。こうした改姓コストそのものは通称では軽減できず、当事者と組織双方に積み重なります。賛成派は「通称使用は現場の工夫に過ぎず、本質的な解決策ではない」とし、法的に名字を変えずに済む制度設計こそが必要だと主張します。実際、通称利用を広げてきた企業ほど「やはり限界がある」と感じており、経団連調査では91%の企業が社員に旧姓使用を認めながらも、多くの現場で公的手続時に負担を強いられてきた実態が浮かび上がっています。賛成派は、こうした現場発の悲鳴こそ制度改革の緊急性を示すものだと訴えます。
  • (5) 国際比較と日本の遅れ: 賛成派はよく「日本は先進国で唯一、法律で夫婦同姓を強制している国だ」と指摘します。経団連提言でも「現在、婚姻時に夫婦同姓しか選択できない国は日本のみとされている」と明記されています。事実、欧米諸国は1960~90年代にかけて相次いで法改正し、夫婦の姓を各人の自由に委ねるか、あるいは複合姓など両姓を用いる制度を整えましたp。例えばアメリカやイギリスでは法律で夫婦同姓を義務付けておらず、夫婦別姓・同姓いずれも当人たちの選択です(そもそも姓の変更自体が慣習上の選択事項)。ドイツではかつて夫婦単姓義務がありましたが1990年代に憲法裁判所判決を受けて改正され、現在は「同姓」または「別姓(各自の出生姓)」のいずれも選択可能になっています。フランスも伝統的に結婚後も法的には各自の出生姓を保持する国で、子の姓は夫婦協議で父母どちらか、または結合姓(両方の姓を連結)とする制度に変わりました。このように、法的に夫婦の姓を固定する国は現代では極めて稀です。国連からも繰り返し是正勧告が出ており、女性差別撤廃条約の加盟国として日本の現行制度は国際基準に反する状態にあります。賛成派は「日本だけが時代遅れの制度を続けている。このままではジェンダー平等推進という世界的潮流に逆行し続ける」と主張し、国のイメージや信用にも関わる問題だと訴えます。また、日本の若者や高度人材がグローバルに活躍する上でも支障となるため、競争力の観点からも制度見直しは急務だとしています。

以上が主な賛成論の骨子です。要約すれば、「結婚後も自分の名前を名乗る自由」を認め、多様な人生選択を可能にすることは個人の尊厳に適い、現行制度がもたらす様々な不利益を解消する現実的な解決策である、というのが賛成派の立場です。「日本社会の成熟度に見合った制度改革」であり、家族の形が多様化する中で選択肢を増やすことこそが社会の安定と発展につながるとの主張です。

4. 反対派の主張(スチールマン)

一方、夫婦別姓の法制化に慎重・反対の立場をとる人々(反対派)は、主に以下のような論点から現行制度維持または別の解決策を主張しています。

  • (1) 家族の一体感・絆の維持: 反対派がまず挙げるのは、「夫婦同姓は家族の一体感を象徴する大切な制度」という考え方です。夫婦と子どもが同じ姓を名乗ることで家族のまとまりが醸成され、社会的にも一家族として認識されやすくなると指摘します。日本では明治以来、戸籍上も家族は単一の姓で記録されてきた歴史があり、同じ名字を名乗ることが家族の連帯を示す文化として根付いているとの主張です。反対派は「夫婦が別々の姓では、周囲から見ても家族と分かりにくく、精神的にも連帯感が希薄になるのではないか」と懸念します。特に子どもにとって、両親と自分の姓が異なることはアイデンティティの混乱を招く可能性があると指摘します。現行制度下でも離婚後の単独親権で親子の姓が異なるケースがありますが、その際に子どもが寂しさを感じるといったエピソードを引き合いに出し、「可能な限り親子は同じ姓の方が子の利益に適う」と主張します。反対派は、夫婦別姓が選択できるようになると結果的に親子で姓の異なる家庭が増え、子の心情や社会的扱いに悪影響が及ぶのではないかと懸念しています(例えば学校で「あそこの家はお父さんとお母さんの姓が違う」と注目され、子どもが肩身の狭い思いをするのではという想像です)。また、夫婦の姓が違うことで将来的に夫婦間や親子間の疎外感が生まれ、最悪の場合家族の崩壊(離婚増加や家庭内不和)につながるのではとの危惧も述べられます。「名字が一つだからこそ家族になれる」という伝統観を重視し、長年培われてきた社会の基盤を崩すべきでないという保守的立場です。
  • (2) 子どもの姓の決定・不利益への懸念: 夫婦別姓制度を導入する場合、子どもの姓をどう扱うかが最大の論点になると反対派は指摘します。仮に夫婦は別姓を選んだとして、生まれた子の姓を父母どちらにするかは避けて通れません。反対派は「子どもの姓をめぐって新たな対立や混乱が生じるのではないか」と懸念します。現行の夫婦同姓制度であれば子どもは自動的に両親と同じ姓になるので迷いは生じませんが、選択的夫婦別姓制度では出生時に子の姓を決める手間や夫婦間の協議負担が増える可能性があります。特に夫婦がそれぞれ自分の姓への愛着が強い場合、どちらの姓を子に与えるかで衝突するケースも想定されます。反対派は「子どもの姓選びが新たな夫婦喧嘩の火種になる」との懸念を示します。また、仮に夫婦間で子の姓について合意しても、きょうだいで別々の姓を与えるかどうかなど細かな問題も出てきます。通常は兄弟姉妹で姓が異なるのは望ましくないと考える人が多いでしょうが、制度として禁じない限り「一人目の子は父の姓・二人目は母の姓」とすることも理論上可能になり得ます。反対派はそうした混乱を避けるためには結局法で細かく子の姓ルールを定めねばならず、制度設計が複雑になると主張します。さらに、子が成長した後に自分の姓に不満を持つ可能性(「なぜ自分は母ではなく父の姓なのか」等)も指摘され、「子の人格形成に悪影響があるのでは」との声もあります。これらを総合すると、「夫婦別姓は大人の都合であって、子どもの利益が二の次になっている」との批判に繋がっています。反対派は子の利益最優先の観点から、家族は同姓である方がシンプルかつ安心できる環境だと主張します。
  • (3) 戸籍制度・社会秩序への影響とコスト: 夫婦同姓は日本の戸籍制度と切り離せません。反対派は「夫婦別姓は戸籍制度の根幹に関わる重大な変更」だと位置付けます。明治以来続く戸籍法では一戸につき一家族が登録され、夫婦は原則同じ姓で戸籍に記載されます。これを改め別姓夫婦を同一戸籍に載せるとなれば、戸籍システムや事務手続の改修が必要です。全国民の戸籍データを扱うシステム変更には相当な費用と労力がかかり、行政現場の負担も大きいと予想されます。反対派は「莫大な税金を投じてまで制度を変える必要があるのか?」と疑問を呈します。特に、選択的夫婦別姓は希望者のみの制度ゆえ、導入しても実際に別姓を選ぶ夫婦が多数派になるとは限りません。実際、1996年の法制審アンケートでは夫婦の姓をどうするかについて「どちらかが改姓すべき」と答えた人も相当数いたことが報告されています。つまり現行の同姓制度に強い不満を持っている層は限定的であり、大半の国民は従来通りの姓でも問題ないと思っているのではないか——「ニーズがそれほど高くないのに全国的システムを変えるのは非効率」というのが反対論の一つです。また、戸籍上夫婦が別姓になることで行政実務において想定外の不都合が生じないか心配する声もあります。例えば住民基本台帳ネットワークやマイナンバー制度など、個人情報と戸籍情報が連動する仕組みに不具合が出ないか、不正利用の余地が生まれないか等です。反対派の中には「夫婦別姓を認めると戸籍制度自体の存続が危うくなり、ひいては家族の法的基盤が揺らぐ」との極論を唱える向きもあります。さらに、ビジネスの現場でも夫婦別姓の人が増えると事務処理が煩雑になるとの懸念があります。例えば企業の人事システムでは、現在は結婚=姓変更の前提で組まれているものが多く、別姓選択が入るとフローの見直しが必要になるかもしれません。銀行など金融機関も、クレジット審査や保険金支払いの際に「配偶者の姓が異なる」ケースに対応するオペレーションが求められるでしょう。こうした全社会的コストを総合的に考えると、「今の制度を変えない方がトータルで合理的ではないか」と反対派は主張します。
  • (4) 通称使用の法制化・拡充による代替策: 反対派の中には、現行制度のメリットを残しつつ不都合を減らす妥協策として「旧姓の通称使用を法律で保護・拡充すべきだ」という意見もあります。つまり「姓は戸籍上ひとつに統一したまま、旧姓をもっと自由に使える環境を整えればよい」という考えです。この案では、例えば法律で企業に対し旧姓使用を認める義務を課したり、旧姓併記を更に広範囲の公的証明書に広げることで、夫婦同姓による不便を極力軽減しようとします。既に述べた通り政府も旧姓使用の範囲拡大を進めており、住民票・マイナンバー・免許証・パスポート等で旧姓併記が可能です。また国家資格の登録名や銀行口座名義についても制度改善が図られてきました。反対派は「通称使用でほとんどの不便は対処可能」と捉え、足りない部分は更なる法整備でカバーすれば十分で、あえて民法の根幹を変える必要はないと主張します。例えば婚姻中の旧姓使用に法的効力を一部持たせる(社内手続では旧姓を法律上も正式名と認める等)アイデアや、離婚後も希望者は婚姻時の姓を名乗り続けられる現行制度(婚氏続称制度)の周知徹底など、同姓を前提としつつ柔軟性を持たせる運用を広げる方が現実的との声です。さらには、「家制度や戸籍制度に深く根付いた文化に配慮し、急進的な改革ではなく緩やかな対応を」との意見もあります。このような通称路線は、現行制度を尊重しつつ個々人の利便性を高める現実解として反対派の中間層から支持されています。
  • (5) 想定されるリスクとエビデンス評価: 反対派はまた、「夫婦別姓を導入して本当にメリットが上回るのか」という効果への懐疑も示します。賛成派はメリットを強調しますが、反対派は「デメリットやリスクも無視できない」と指摘します。例えば出生率に関して、賛成論では「姓がネックで結婚しない人がいるから導入すれば少子化対策にプラス」との主張がありますが、反対派は「欧米で夫婦別姓が自由な国々でも少子化傾向にある。姓制度と出生率の因果関係は証明されていない」と応じます。実際、フランスやドイツなどは選択的夫婦別姓や複合姓を認めていますが、出生率が劇的に向上したとは言えません(むしろ別の家族政策の充実が出生率に寄与していると考えられます)。一方、日本より出生率が低い韓国(夫婦別姓が原則)や高い北欧諸国(夫婦別姓自由)もあることから、姓制度と少子化の関連は不明瞭です。また家族の結束に関しても、例えばアメリカは自由選択制ですが家族崩壊がそれによって起きているわけではないとの指摘があります。反対派は「日本の伝統や国民感情に鑑み、リスクを冒してまで制度を変える必要があるのか」と慎重姿勢を崩しません。さらに、夫婦別姓導入で仮に改姓に伴う不利益が解消されても、それが女性活躍や出生数増加といった社会課題の抜本的解決につながるかは疑問とします。つまり「制度変更の恩恵を受ける人は一部で、多くの国民にとっては優先度の低い問題ではないか」という主張です。こうした反対論者は、「同姓制度にも合理性がある以上、拙速な改正ではなく慎重に議論を重ねるべきだ」と強調します。

以上、反対派の主な主張をまとめました。要約すれば、「夫婦同姓は家族の絆維持や子の利益のために意義があり、現行制度を崩すことで生じるコストや混乱が大きい。改姓の不便は通称利用など部分的対策で十分対応可能であり、制度そのものは維持すべき」というのが反対派の立場です。伝統や社会秩序への影響を重視し、未知のリスクを避けたいとの慎重姿勢が根底にあります。

5. 「子の氏」をどう決めるか(比較と選択肢)

選択的夫婦別姓制度の具体的設計で避けて通れないのが、子どもの姓を決めるルールです。夫婦が別姓を名乗る場合でも、生まれた子には何らかの姓を付ける必要があります。この章では各国の制度や提案を参考に、子の姓の決定方法の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを整理します。

(A) 婚姻時に夫婦であらかじめ決定する方式: これは1996年法制審答申が示した方式です。すなわち結婚の届け出時に、将来生まれる子が名乗る姓を夫または妻の姓のどちらにするか夫婦合意で定めておくものです。例えば「子は夫(父)の姓を称する」と決めて婚姻届を提出すれば、以後その夫婦から生まれた子は全員夫の姓になります。兄弟姉妹間で姓が分かれることもありません。この方式のメリットは、子の姓が一貫して統一される点と、出生のたびに悩む必要がない点です。婚姻時という比較的冷静なタイミングで決めておけるため、出産直後のバタバタした時期に議論する負担もありません。現行の戸籍実務にも比較的スムーズに組み込みやすく、法制審でも「子は全員同じ姓を名乗る」と明記されていました。デメリットとしては、夫婦に子が生まれなかった場合や離婚再婚時の扱いをどうするかといった細部の調整が必要な点です。例えば子なしで離婚した場合、子の姓の取り決めは空文化しますが、その取り決め記録をどう管理するか(再婚時に影響しないか等)配慮が要ります。また婚姻時点で将来の子の姓を決めることに心理的抵抗を感じる人もいるかもしれません。しかし総じて、最初に一度決めれば子の代まで姓が確定するこの方式は合理的との評価が高く、日本で制度導入するなら有力な選択肢とされています。

(B) 出生の都度、届け出で決定する方式: これは子どもが生まれた時に、その子の姓を父母どちらにするか届け出る方法です。夫婦別姓を採用している国でも、この方式は様々に見られます。例えばフランスでは、出生届で子の姓を父母の姓・もしくはその複合姓から選択できます。ドイツも夫婦が別姓の場合、第一子誕生までに子の姓を父姓か母姓か選択する義務があり、届け出なければ父の姓になると規定しています。この方式のメリットは、子ごとに柔軟に対応できる点です。例えば一人目は夫の姓、二人目は妻の姓というように、その時々の状況や夫婦の希望に応じて決められます。ただしこのパターンを許すかどうか(兄弟で姓が異なることを認めるか)は各国で対応が分かれます。多くの制度は兄弟統一を求めますが、仮に兄弟別姓を容認すると子の姓選択の幅は広がります。デメリットとしては、出生毎に両親が協議し届け出る手間が生じること、特に第一子の出生時に短期間で決めねばならず負担になり得る点です。また夫婦間で意見が割れた場合は最終的にどちらかに強制されるため、不満が残る可能性もあります。仮に父母で折半して兄弟別姓にした場合、家族内で姓が二種類になるので前述のような社会的な疑問を持たれるケースもあるでしょう。日本でこの方式をとるなら、兄弟は同一姓とするルールを設け、第一子出生までに届け出なければならない等の仕組みが考えられます。いずれにせよ(A)と比べ手続きの煩雑さは増しますが、一方で出産時に初めて夫婦関係がリアルになるカップルも多く、その時点で改めて話し合うのは自然との見方もできます。

(C) ダブルネーム(複合姓)付与: 子に父母双方の姓を合わせた複合姓(ダブルバレルネーム)を与える方式です。スペインや中南米諸国は伝統的に父の姓+母の姓の二重姓を子に与える制度になっており、両親双方の家系名を残す文化です。フランスも2005年から両親の姓を連結した複合姓を選択可能にしました(ただし子世代では複合姓の一部のみを次世代に引き継げるなど制限あり)。複合姓方式のメリットは、両親どちらの姓も子に受け継がれるため、姓による家系断絶の不満が出にくいことです。夫側・妻側双方の祖父母にとっても、自分の苗字が孫に残るため心理的な安心感があります。また、夫婦間で「どちらの姓にするか」ゼロサムの選択を迫られずに済みます。デメリットは、姓が長く複雑になりやすいことです。日本の名前文化では複合姓は一般的でなく、例えば「田中・佐藤」のようにハイフンや中黒で繋ぐ形になる可能性があります。字数が増えることで日常の書類記入や呼称に不便が出るかもしれません。また次世代にその複合姓をどう引き継ぐか(全て引き継ぐと倍増していくため多くの国では片方だけ引き継ぐルールを設けています)など法技術的なルールも必要です。日本でも学術的には複合姓導入論がありますが、社会的な違和感が大きく採用する国は限定的です。ただ、仮に夫婦別姓を導入しても結局「父姓か母姓か」のジレンマが残る以上、いっそ複合姓にして双方の姓を遺すのも一案ではないか、と議論されることがあります。複合姓を通称として許容する(公的にはどちらか単独姓にするが日常的に複合で名乗る)折衷策も考えられます。

(D) 子の成長後に本人の意思で選択: 子どもの姓を幼少期は仮に定めておき、成人あるいは一定年齢に達した時に本人が父姓・母姓どちらかを公式に選択できるようにする案です。この方式はあまり一般的ではありませんが、一部の法学者から提案されたことがあります27。メリットは、本人の自己決定権を尊重できる点です。幼少期は親の元でどちらかの姓を名乗っていても、成熟した段階で自らのアイデンティティに即した姓を選べます。例えば「母に育てられたから母の姓を名乗りたい」といった希望を実現できます。デメリットは、名前(姓)が途中で変わることによる社会的・心理的負担です。現在でも成年後の改姓は家庭裁判所の許可があれば可能ですが(民法790条、氏の変更)、それを当たり前の前提とすると多くの人が成人時に改姓手続きをすることになり混乱を招くでしょう。また18歳(成人)になった直後の若者に、自分の姓を選べと言われても判断が難しいかもしれません。手続き的にも、役所での戸籍変更や証明書書換えが個々人で発生し非効率です。したがってこの案は現実味に乏しく、他方式の補完的アイデアとして語られるにとどまっています。

以上、子の姓に関する主な選択肢を比較しました。日本の議論では(A)婚姻時に決定が支持される傾向にあります。法制審要綱でもその方式が採用されており、現行制度との差分が最小限に抑えられるためです。実際、夫婦別姓を認める各国でも「同一夫婦の子は同じ姓を持つ」との原則を維持する国が多く、兄弟別姓を無制限に認める例はほとんどありません。一方で、子ども側から見たとき自分だけ母(または父)と姓が違うのは不公平ではとの指摘もあり、将来的には複合姓を選べる余地を残すべきとの議論もあります。

いずれの方式でも重要なのは、子の最善の利益を確保することです。法改正にあたっては子どもの心理面や社会的影響に十分配慮した制度設計が求められます。先行諸国の例を踏まえ、日本独自の解を見出す必要があるでしょう。

6. 戸籍・行政・IT実務への影響

選択的夫婦別姓の導入は、日本の行政実務や情報システムにも影響を及ぼします。この章では、戸籍の記載や各種証明書・本人確認、さらには企業や学術分野でのID管理など実務面の課題と対応策を解説します。

(1) 戸籍記載の変更点: 夫婦別姓を認める場合、戸籍への記載方法を変更する必要があります。現行戸籍は夫婦が同姓である前提で様式が作られていますが、1996年の法制審答申では別姓夫婦も一つの戸籍に記載する方針が示されました。その際の記載例では、妻の姓が戸籍上夫と異なるものとして明記されています。具体的には、戸籍簿の夫と妻の各個人欄にそれぞれの姓をそのまま載せ、同一家族内で姓が異なることを容認する形となります。これは現在でも国際結婚の場合に類似の扱いがされています(日本人配偶者の戸籍に、外国人配偶者の氏名がそのままの形で記載される)ので、技術的・制度的に難しいものではありません。むしろ課題は戸籍システム(コンピュータ)の改修です。氏名の扱いを「世帯共通」から「個人単位」に変更する必要があり、全国の市町村役場システムや法務省戸籍統一システムのアップデートが求められます。コストや時間はかかりますが、マイナンバー制度で全国民の個人IDが整備された現在、戸籍における氏の異同が実体法上の権利義務に影響しないことも確認されています。つまり戸籍上同一戸籍内で姓が違っても、法律上の不都合は生じないとの考えが確立しています。実務上は、役所窓口での戸籍謄本発行時に同一戸籍内に別姓者がいることへの照会が増える可能性がありますが、周知期間を設けるなど対応可能でしょう。要は、戸籍制度とは家族関係の登録簿であって、家族の姓を統一するための制度ではないという原点に立ち返り、運用を調整すればよいわけです。

(2) 各種本人確認書類への影響: 夫婦別姓が法的に可能になると、現在旧姓併記で対応している身分証の扱いも変わってきます。例えば運転免許証やマイナンバーカードは、現在は戸籍上の姓(改姓後)を主体に旧姓を併記する形式です。夫婦別姓導入後は、そもそも改姓しないケースが増えるので旧姓併記のニーズは減る可能性があります。一方で、すでに改姓した人が制度施行後に旧姓へ戻す手続きを選ぶ場合(経過措置として可能にするなら)、再度公的身分証の記載変更が発生します。過渡期には「戸籍上は旧姓に戻したが、各種証明書類はしばらく改姓時の姓のまま」という状況も起こり得ます。このため、例えば運転免許では一定期間旧姓と改姓後の姓を両方併記するといった柔軟対応が考えられます。マイナンバーについては氏名履歴も内部データとして紐付け可能なので、行政側で対応できるでしょう。またパスポートは現状旧姓併記がICチップ非対応(機械読み取り不可)で、夫婦別姓導入後はそもそも旧姓併記制度の位置づけが変わります。法的に結婚前の姓を公式姓として保持できる場合、パスポートはそのまま自分の姓(変更なし)で問題なくなるため、旧姓追記を使う必要がありません。逆に結婚で改姓する人が減ることで、今度は夫婦同姓を選んだ人が「旧姓」を追記したいというニーズが出てくるかもしれません(少数派になる分、自己の旧姓を残したい心理)。このように身分証明類はしばらく旧姓併記制度と新制度が併存する形になりますが、徐々に旧姓併記ニーズは減っていくと予想されます。その間、警察や行政の窓口職員への周知・研修が重要になるでしょう。

(3) 資格・登記・論文ID等の実務: 夫婦別姓導入は各分野の名寄せ(同一人物確認)作業にも影響します。例えば司法書士や医師など国家資格では、結婚による姓変更時に登録名変更手続きが必要ですが、別姓が可能になれば改姓件数が減り、資格証の書換え業務も軽減されます。一方で同姓維持か別姓選択か個々人で異なるため、資格者名簿に「配偶者の有無」欄を追加するなど、データ管理項目が増える可能性があります。また商業・法人登記では、取締役など役員の氏名を登記します。現行では旧姓併記も可能ですが(2022年の商業登記規則改正)、原則戸籍名での登記です。夫婦別姓導入後も、戸籍名(法名)が変わらないのであれば登記変更不要になり、役員就任・退任時の手続コストが下がります。不動産登記でも、婚姻に伴う名義人氏名の変更登記が今後は不要となり、手続き簡素化につながります。これは不動産業界・金融業界にとって歓迎材料でしょう。学術分野では、研究者のORCIDやresearchmapなどIDに旧姓情報を登録する仕組みがあります。夫婦別姓が普及すれば、女性研究者が結婚後も旧姓で業績を統一できるため、これらIDへの旧姓登録も不要になるケースが増えます。逆に言えば、キャリアの中断が減るため業績管理はシンプルになります。過去に改姓して論文名が分かれてしまった方については、ORCID等で旧名と新名の紐付けを引き続き行えばよいでしょう。ITシステム面で言えば、企業や大学の人事DB・顧客DBで「旧姓フィールド」を持って運用していたものが、徐々に不要化していくかもしれません。ただ、これは一朝一夕に移行するものではなく、改姓履歴データは長期的には残す必要があります。つまり新制度開始以前の改姓履歴は引き続き管理しつつ、新規の改姓発生が少なくなっていくという流れです。

(4) 移行期のハレーション(摩擦)対策: 制度導入後、しばらくは現行制度下で結婚した人(すでに改姓済みの人)と新制度下で結婚した人(改姓していない人)が混在するため、周囲の認識ギャップや手続きの不整合が起こり得ます。例えば、ある企業では2025年入社の女性社員は結婚しても別姓のまま、2024年以前入社の先輩社員は結婚で姓が変わっている、といった状況です。同じ「既婚女性社員」でも姓名が変わっている人と変わっていない人が混在すると、人事管理上の区別が付きにくくなります。これに対し、経過措置として既婚者の旧姓復氏を認める(施行後一定期間は、希望すれば戸籍上旧姓に戻せる)ことも検討されています28。そうすれば従来改姓した人も元の姓に戻れるため、新旧の不公平感が多少和らぐでしょう。ただし復氏するか否かは個人の判断に委ねられるため、結果的にどちらも発生し、完全な統一にはなりません。従って移行期は、社会全体で「名前は変わる場合も変わらない場合もある」という認識を広める必要があります。現在でも芸能人や専門職で旧姓のまま通す人がいるように、姓と婚姻状態が一致しないケースは珍しくなくなりつつあります。戸籍上の動きとしては、夫婦別姓導入後もしばらくは夫婦同姓の戸籍と夫婦別姓の戸籍が混在しますが、戸籍自体に表示される事項は氏名だけなので実務上大きな問題はないでしょう。戸籍謄本を見れば家族の姓構成は分かりますが、それはあくまでプライベート情報であり、第三者が安易に知ることはありません(戸籍の閲覧は本人等に限られます)。したがって別姓家庭が周囲から識別され差別されるといったリスクは制度上低いと考えられます。

総じて、戸籍・行政実務やITシステム上の課題は「対応は必要だが克服可能」というのが有識者の見解です。既に旧姓併記制度の整備を通じて、姓変更に伴う様々なシステム改修は経験済みです。選択的夫婦別姓の導入時にはそれを反転させるような対応(改姓が生じないケースへの対応)が求められますが、一度対応すれば、その後は改姓関連業務の削減など長期的メリットも見込まれます。行政コストと社会的利益を比較衡量しつつ、円滑な移行を図ることが重要です。

7. 経済・企業実務の観点

夫婦別姓問題はジェンダー平等や家族観だけでなく、経済や企業の実務にも影響する重要な論点です。近年、経済界から選択的夫婦別姓制度を支持する声が高まっている背景には、ビジネス上の合理性や国際競争力の視点があります。この章では、企業活動や経済に与える影響と経済団体等の見解を整理します。

(1) 人材確保と多様性推進: グローバル化と人手不足の時代において、優秀な人材の確保・定着は企業の死活問題です。経団連は「DE&I(多様性・公平・包摂)の推進がイノベーションの源泉」とし、女性を含む多様な人材が活躍できる環境整備の一環として夫婦同姓制度の見直しを位置付けました。特に女性人材について、日本は諸外国に比べ管理職比率など遅れており、結婚・出産期の離職も多い現状があります。改姓の負担は女性のキャリア継続を阻む一因と指摘され、これを取り除くことで結婚後も働き続ける女性が増え、結果として企業の人材パイプラインが強化されると期待されています。経団連が2023年に女性役員を対象に実施したアンケートでは、82%が「選択的夫婦別姓制度を導入し、本人が望めば別姓を選べるようにすべき」と回答しています。また女性役員の多くが「旧姓通称使用だけではなお不便が残る」と感じており、制度的な壁の除去を求める声が明確です。これは経営トップ層まで昇進した女性たちからの切実なメッセージと言えます。さらに最近では、男性側が改姓して妻の姓を名乗るケースも徐々に増えており(夫の姓を選択する夫婦が94.1%→5.9%は妻の姓選択)、男性側にとっても選択肢が広がることで結婚に前向きになる効果が期待されます。人材流出防止の観点でも、結婚改姓を嫌って退職・転職する社員が減れば企業にとってメリットです。実際、「改姓しなければならないから結婚したくない」との声が一定数あることは前述の通りで、選択的夫婦別姓は結婚率向上=出生率向上=将来の労働力確保にもつながる可能性があります。経済全体で見れば、労働市場への女性参加が進み、生産年齢人口の減少を補う効果も期待されます。賃金や教育の問題と合わせ総合的に取り組む必要はありますが、少なくとも制度のせいで働きにくさを感じる人がいる状況は改善すべきというのが経済界のコンセンサスになりつつあります。

(2) 越境ビジネス・グローバル展開: 選択的夫婦別姓は海外とのビジネスにも波及効果があります。現在、日本企業の海外赴任者や駐在員の多くは男性で、その配偶者である女性が帯同する際、改姓が必要になるケースがほとんどでした。改姓後のパスポートで渡航し、現地では旧姓(旧パスポート)を説明するといった二重の手間がかかっていたものが、別姓が選べれば現地でも婚前の姓で活動できスムーズです。またグローバル企業では、多国籍の社員が協働しますが、日本人女性だけ結婚後に名字が変わるため周囲が混乱する、といった声もありました。選択的夫婦別姓になれば、海外の取引先や同僚とのコミュニケーションが円滑になります。国際的には夫婦別姓は珍しくなく、「日本企業の女性担当者だけ苗字が変わった」という事象が減れば信用面でも安心感を与えるでしょう。さらに、前述のように二重の名前問題が減ることで、コンプライアンス上のリスクも低下します。金融機関ではマネーロンダリング防止の観点から別名義口座に厳しい目が向けられていますが、そもそも旧姓口座を作らざるを得ない状況が減れば疑念も生じません。海外出張や駐在でも、社員が旧姓併記パスポートを持ち歩き説明する手間が省け、業務効率向上につながります。経団連提言では「海外では通称使用が理解されにくく、不正を疑われ説明に時間を要する」ことが企業にとってビジネス上のリスクになっていると指摘しました。夫婦別姓解禁によりこうした無駄なリスク対応が不要になれば、企業は本来のビジネスに集中できます。要は、夫婦同姓強制は内向きの論理で、外の世界では通用しにくいという現実があり、これを是正することが経済のグローバル化に資するという論調です。

(3) コンプライアンス・事務コスト: 名前の問題は企業の内部統制や法令遵守にも関わります。例えば、ある社員が旧姓で社内に通用していても、いざ正式契約となると戸籍名でサインしなければならず、取引先から「誰?」と思われたり、内部承認プロセスで紐付けに時間がかかったりします。また、旧姓使用の運用がない職場では結婚の度にIDカードやメールアドレス、名刺を変更するため、IT部門や総務部門に都度コストが発生します。経団連会員企業調査では91%の企業が社員の旧姓使用を認めているものの、その裏で税・社保手続きなどで戸籍名との照合に余計な事務負担を強いられていると報告されています。夫婦別姓を認め改姓自体を減らせば、これら事務コストの圧縮が期待できます。例えば毎年数万人の女性社員が結婚で改姓していた企業があれば、その都度のシステム変更・書類修正が不要になり、大きな効率化です。金融庁の調査によれば、旧姓利用を全面解禁しきれない金融機関の多くが「システム対応コスト」を理由に挙げています。つまり現状は、旧姓という例外を処理するためのコストが問題ですが、別姓選択制により改姓というイベント自体を減らせば例外処理が減るため、システム自体を簡素化できる可能性があります。さらに企業のプライバシー保護の観点では、結婚・離婚といった個人情報が従業員の姓変更で周知されてしまう問題があります。夫婦別姓なら、結婚しても姓が変わらないため、社内にわざわざ報告せずに済み、プライバシーが守られます。最近はLGBTQ施策などで従業員の家族状況に配慮する動きもある中、姓の変化で結婚の有無が推測されない環境は、特に女性社員にとって働きやすさにつながるでしょう。以上のように、コンプライアンス遵守(正確な本人確認)と生産性向上の両面から、選択的夫婦別姓は企業経営にプラスと評価されます。

(4) 経済団体・業界の見解: 日本商工会議所や経済同友会など主要経済団体も、近年は選択的夫婦別姓に前向きな姿勢を示しています。中でも経団連の提言は象徴的で、政府に対し「一刻も早く選択的夫婦別姓制度の民法改正案を国会に提出するよう」求めました。提言では繰り返し「姓を選択できないことが女性活躍の制度上の壁となっている」と強調され、同時に「通称使用の法制化案など他の提案もあるが、希望する者が不自由なく自分の姓を選択できる制度を実現すべきだ」と述べています。また「1996年法制審答申は現在においても社会の実情を踏まえた極めて妥当な内容」と評価し、既存の知見は十分、あとは政治の決断だけとの立場です。経済界がここまで踏み込んだ提言を行う背景には、日本のジェンダー不平等が国際的な信用リスクになり始めているという危機感もあります。例えば世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で日本は125位(2023年)と低迷しており、その要因の一つに法制度上の男女不平等(夫婦同姓強制など)が挙げられています。投資家や海外パートナーからも「女性に優しくない国」という目で見られかねず、日本企業が持続的成長する上でマイナスです。こうした文脈から、「多様性を尊重する選択肢のある社会」を実現することが経済界の使命と捉えられるようになりました。各産業界を見ると、IT業界や研究開発分野、外資系企業などで特に夫婦別姓支持が強く、人材流動性の高い分野ほど制度ニーズが高い傾向があります。一方で伝統産業などには「家」を重んじる価値観も残っており、業界内でも意見は一枚岩ではありません。しかし総じて、日本経済全体の利益を考えれば選択的夫婦別姓がもたらすメリットは大きく、もはや「単なる家族問題ではなく経済政策の一環」と位置づけられています。

以上、経済・企業の視点から選択的夫婦別姓の意義を述べました。要約すると、「人材活用と効率化の観点で企業メリットが大きく、国際競争力や信用にも関わるため経済界は制度実現を求めている」ということになります。もはや夫婦の姓はプライベートな問題に留まらず、国家経済戦略にも関わるテーマと言えるでしょう。

8. 国際比較(範囲明記:OECD/G7/UN)

日本の夫婦同姓義務は国際的に見て特異と言われますが、具体的に各国の状況はどうでしょうか。この章では、OECD諸国やG7各国を中心に夫婦の姓制度の類型を比較し、日本固有の論点と他国の運用から学べる点を整理します。

(1) 法的強制の有無: 主要国において、結婚後の夫婦の姓を法律で統一する義務を課している国は現在ほとんどありません。例えばG7(先進7か国)では、日本以外に法的な夫婦同姓義務を持つ国はありません。米国・カナダ・英国はコモンロー(判例法)の伝統下にあり、そもそも姓変更は個人の自由(結婚に伴い妻が夫姓に変えるのは慣習上の選択に過ぎず、法律上の義務ではない)となっています。フランス・ドイツ・イタリアなど欧州大陸法系の国々は、かつて妻が夫の姓を称することが民法等に規定されていた時代もありましたが、20世紀後半までに法改正が行われました。ドイツでは1970年代に夫婦同姓を強制する規定が憲法裁判所で違憲と判断され、その後1994年の改正で夫婦は(ア)結婚時に「結婚の姓」を決める(どちらか一方の姓を選択)か、(イ)各自の出生姓を維持するかを選べるようになりました。さらに子の姓についても、夫婦別姓の場合は初めの子までに父母どちらかの姓を選択すると定めています。フランスは元々法律上は夫婦別姓(各自婚前の姓を維持)が原則で、社会的には婚姻後、妻が便宜上夫の姓を名乗る習慣がありました。2005年の法改正で子どもの姓を両親の協議で決定できるようになり、父姓単独・母姓単独・父母複合姓のいずれかを選択可能となっています。イタリアも法律上は女性は結婚後も自分の姓を保持し、公文書では旧姓のままです。一方で夫の姓を併せて使う慣習があり、近年は併記を公式に認める動きが進んでいます31。北欧諸国(スウェーデン等)は古くから姓に関する自由度が高く、夫婦がどちらの姓を選んでも自由、また双方の姓を結合したダブルネームも広く認められています。OECD加盟国で見ても、法律上夫婦同姓を義務付け違反に罰則があるような国は見当たりません。アジアでは韓国が「夫婦別姓」が原則(伝統的に女性は婚家に入っても姓を変えない)ですが、子は父系の姓を継ぐ父姓優先社会です。中国も同様で、女性は婚姻後も姓を変えず、子は父姓が一般的という形です。つまり国によって家族の姓に関する文化・慣行は異なりますが、「法律で夫婦の姓を固定する」こと自体が国際的には例外的である点は共通しています。日本はそこを改めて問われている状況です。

(2) 慣行上の夫婦同姓: もっとも、法律で自由でも慣習としては夫婦同姓が主流という国もあります。例えば米国では法的には完全自由ですが、結婚する女性の7~8割程度が夫姓に改姓すると言われます。これは社会的に夫婦同姓が根強い価値観として残っているためです。しかし残りの2~3割の女性は旧姓を保持したり、夫婦がミドルネームに相手の姓を加えるなど多様な対応を取っています。英国カナダも似た傾向で、夫婦同姓が一般的ながら別姓夫婦も珍しくありません。オーストラリアニュージーランドでも若年層を中心に妻が旧姓を通すケースが増えているとの調査があります。このように慣行としての夫婦同姓は世界的に見れば多数派ですが、重要なのは「あくまで任意であり、法が強制していない」点です。日本の場合、慣習と法律が合致して夫婦同姓が遂行されてきましたが、他国では価値観の多様化に伴い慣習も変容しつつあります。例えばスペインでは夫婦別姓が当たり前(姓は家族でなく個人のものとの考え)ですが、出生時に子に両親双方の姓を与えることで家族のつながりを示しています。またポルトガルでは夫婦は自由、子は父母両姓を付け、その順序も両親が決定する仕組みです。イスラム圏の多くも妻は婚家に入っても改姓しない文化が一般的です。このように、家族の呼称に関する考え方は各国の文化・宗教・歴史で様々ですが、近年の潮流としては「法律で画一的に強制せず個人選択を認める」方向に収斂しています。夫婦同姓か別姓かは「法的義務か社会慣習か」という観点で区別する必要があり、日本の特殊性はまさに法的強制にあります。国連の女子差別撤廃委員会は、法による強制は女性差別につながるとして各国に改正を促してきました。日本以外にも過去に同様の勧告を受けた国があり、例えばルクセンブルクは2014年まで夫婦同姓義務がありましたが、EUの人権基準に合わせて現在は選択制に変わっています。日本はこうした同調圧力から取り残された格好であり、国際社会から「早く自由化を」と求められている状況です。

(3) CEDAW条約と日本: 日本政府は1985年に女子差別撤廃条約を批准しましたが、当時民法750条については「同条は男女いずれの姓でも選択可能なので条約違反ではない」との説明をしています。しかしその後の国連委員会で、日本の制度運用が事実上女性に不利益を及ぼしている点が問題視されました。2003年、2009年、2016年、そして2024年と、計4度も勧告されたのは異例です。委員会は日本に対し、「夫婦同姓の強制を廃止し、結婚後も女性が旧姓を保持できるよう法改正すること」を繰り返し求めています。2024年の最終見解では、750条が改正されていない事実に「遺憾」を示し、2年以内のフォローアップ報告を要求しました。これは24条2項(両性の平等)の理念にも反する状態であるとの強いメッセージです。国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)においても、欧州諸国などから日本へ改善勧告が出されています。国際舞台で「日本はなぜ変えないのか?」と質され続けるのは、日本外交にとってもマイナスであり、特に女性の権利向上支援を国際的に訴える上で説得力が損なわれかねません。G7サミットなどでもジェンダー平等は主要議題の一つで、日本だけが制度的男女格差を温存していると指摘され得ます。こうした国際社会からの目も、日本国内の議論に影響を与えており、近年では保守政治家からも「国連にそこまで言われているなら議論せざるを得ない」との声が出始めています。国際比較の視点を踏まえると、日本固有の論点としては「戸籍制度との関係」と「家制度から続く家族観」が浮かび上がります。他国では戸籍に相当する制度がないか簡易なものが多く、家族より個人を単位とする法制度が主流です。日本の場合、戸籍や家という概念が姓に影響を与えてきましたが、戦後に家制度は廃止され戸籍も個人中心に変化しています。したがって、もはや法律上も国際的にも夫婦同姓を維持する必然性は薄れているのが実情です。むしろ、現在のままでは「日本だけが姓の選択権を認めない国」として孤立しかねず、国際協調の観点からも制度見直しは急務といえるでしょう。

9. よくある誤解Q&A(ファクトチェック)

選択的夫婦別姓をめぐっては、多くの疑問や誤解が飛び交っています。このセクションでは、議論で頻出する質問や主張についてファクトチェックし、ポイントを整理します。

Q1.「日本だけが夫婦同姓を強制しているって本当?」
A1. 概ね本当です。先進国では日本以外に法的強制している国は見当たりません。例えばG7各国やOECD諸国では、夫婦の姓は夫婦の選択に委ねられており、同姓にするか別姓にするかは自由です(ただし社会慣習として同姓が多い国はあります)。一部の国では過去に強制ルールがあったものの、20世紀末までに改正されています。よく引き合いに出される韓国は夫婦別姓が原則ですが、これは法の強制というより伝統文化に由来します。日本の場合、民法で夫婦同姓を義務付けている点が特異であり、法的選択肢が無いという意味で「日本だけ」と言われます。もっとも、法的に自由でも慣習として同姓が主流の国は存在するため、「夫婦同姓の文化そのもの」は日本特有ではありません。違いは選択できるか否かであり、日本は国際条約機関から繰り返し是正を求められている状況です。

Q2.「夫婦別姓にしたら家族がバラバラになり、離婚も増えるのでは?」
A2. 根拠は乏しいです。夫婦別姓を導入したからといって家族の結束が弱まる科学的な証拠はありません。実際に夫婦別姓が一般的な欧米諸国で、別姓夫婦の離婚率が有意に高いというデータは見当たりません。離婚や家族の問題は経済状況や価値観の変化、福祉制度など様々な要因に影響されます。姓が同じかどうかが主要因とは考えにくいのが専門家の見解です。日本でも既に事実婚(婚姻届を出さず同居し子育てするカップル)が増えており、その場合子は母の姓で母子・父子で姓が異なる家族も存在します。そうした家族が特に崩壊しやすいとか、子どもが非行に走りやすいという話はありません。重要なのは家族内の愛情やコミュニケーションであり、姓が一緒でも不仲な家族もあれば、姓が違っても仲睦まじい家族もいます。加えて、夫婦同姓を守るために結婚生活を続けるようなケースも考えにくく、離婚率との因果関係は証明されていません。むしろ、「改姓への不満から事実婚を選ぶ人が結婚に踏み切れるようになる」という効果で婚姻数が増える可能性はあります。家族の形が多様化する現代において、姓が一つだから家族が安泰という保証はなく、夫婦別姓を認めても家族の絆は各家庭の努力次第と言えるでしょう。

Q3.「夫婦別姓にすると子どもがかわいそう(いじめられる)では?」
A3. その可能性は低いでしょう。子どもに関しては、制度設計次第でリスクを最小化できます。仮に選択的夫婦別姓制度が導入されても、兄弟は同じ姓を名乗る仕組みになる公算が大きく、家族内で子どもだけ名字が違うという事態は起こりません(夫婦の片方と子どもが同じ姓、もう一方のみ異なる)。現在でも、母子家庭や再婚家庭など親子で姓が異なるケースは珍しくありません。それによって子どもがいじめられるという話も聞かれなくなりました(かつては「母子家庭=子と母の姓違い」に偏見がありましたが、今や多様な家庭形態が受け入れられています)。仮に夫婦別姓家庭の子どもがクラスにいても、「そういうお家なんだな」と受け止められるよう社会意識も変化していくでしょう。いじめの原因は姓よりも、本人の性格や人間関係、学校の雰囲気など複合的要因によることが多く、名字が違うから標的になるとは考えにくいと専門家は指摘します。むしろ、子どもにとって大切なのは親が幸せであることです。親が望まない改姓でストレスを抱えたり事実婚を強いられるより、望む形で結婚し子育てする方が家庭環境も安定するでしょう。要は、制度のせいで「かわいそうな子」を生まない工夫をすればよいのです。それでも心配なら、夫婦別姓を選ばなければいいだけで、子の姓を揃えたい家庭は現行通り夫婦同姓を選択できます。選択制であれば各家庭の事情に応じて対応できるため、子どもが不当に不利益を被るとは考えにくいでしょう。

Q4.「選択的夫婦別姓に賛成するのは女性だけで、男性にはデメリットでは?」
A4. 男性にもメリットがあります。まず、現行制度でも妻の姓を選択する夫婦が5~6%存在し、約毎年3万組近い男性が改姓しています。彼らにとっては夫婦別姓が認められれば改姓をせずに済み、本来の姓を名乗り続けられるというメリットがあります。また、妻がキャリア上の理由で姓を変えたがらず、現状やむなく夫が改姓しているケースも少なくありません。選択的夫婦別姓になれば夫婦双方が改姓の悩みから解放され、夫にも妻にも公平な選択となります。さらに大きいのは、「結婚による夫婦間不平等感の解消」が男性にとってもプラスに働く点です。現在、多くのカップルで「名字はとりあえず夫側に合わせるもの」という半ば無意識の決定がなされています。しかし男性側から見ても、実はそれが彼女(妻)に対する大きな犠牲の強要であることに気付き、後ろめたさを感じる人もいます。夫婦別姓を選べるなら、妻への負担を軽減でき夫も精神的負担が減ります。加えて、夫婦別姓は「姓=家系の象徴」というプレッシャーから男性を解放する側面もあります。今までは夫が姓を継ぐのが当たり前という圧力がありましたが、選択制になれば妻の姓を継ぐ選択も自然なこととなり、男性側の家族にも柔軟性が生まれます(例えば一人娘しかいない家庭で娘夫婦が娘の姓を残せるなど)。したがって、選択的夫婦別姓は女性のためだけではなく男性にとっても自由とメリットをもたらす制度なのです。事実、近年の世論調査では男性の賛成率も上がっており(例えば2021年調査で20代男性の約7割が容認との結果も)、男女ともに支持が広がっています。

Q5.「夫婦別姓を選ぶのはほんの一部の人だけでは?」
A5. 希望者は着実に増えています。確かに過去には「国民の大多数は夫婦同姓を望んでいる」とされてきました。しかし社会が変化するにつれ状況は変わっています。例えば1996年に法制審で選択的夫婦別姓が提案された当初、世論調査では賛成は2割台でしたが、2020年代には質問の仕方によって賛成が過半数に達する調査も現れています。また事実婚件数は年々増加傾向にあります。明確な統計はありませんが、婚姻届を出さない事実婚カップルは数十万組規模と推計され、その理由の一つに「姓を変えたくない」が挙げられています。旧姓のままで働き続けたい専門職女性や国際結婚で文化的背景の異なるカップルなど、夫婦別姓を強く望む層は多様化しています。たとえ全体から見れば少数でも、その人たちの切実な声に応えることが法の役割の一つです。さらに選択的制度であれば、希望しない人には影響がない点も重要です。仮に選択的夫婦別姓が導入されても、引き続き大半の夫婦が同姓を選ぶかもしれません(例えば90%が同姓・10%が別姓という予測もあります)。しかしそれで何ら問題はなく、希望者だけが制度を利用すれば良いのです。「利用する人が少ないから導入しなくていい」という理屈は必ずしも成り立ちません。たとえば左利き用のハサミは右利きには不要ですが、一定数左利きがいれば製品として存在意義があります。同様に、夫婦別姓制度も必要な人がいる限り整備する価値があると言えます。法律は多数決だけではなく少数の権利も尊重するものです。ちなみに、1990年代に欧州で夫婦別姓が認められた当初、「結局みんな同姓を選ぶだろう」という見方もありましたが、今では複数の国で夫婦別姓または妻旧姓継続が一定のシェアを占めています35。日本でも将来的に選択制が当たり前になれば、思いのほか多くの夫婦が別姓を選ぶ可能性もあり、社会の意識変化は制度が後押しする面もあります。

Q6.「通称使用をもっと認めれば夫婦別姓にしなくても困らないのでは?」
A6. 通称では限界があるため不十分です。旧姓の通称使用拡大策は、これまで不便解消に一定の効果を上げてきましたが、根本解決にはなっていません。まず、通称は法的な氏名ではないため、公的な契約や手続では結局戸籍名が求められます。銀行口座や不動産登記、クレジットカードなどで戸籍姓を使わざるを得ず、ダブルネーム状態で不便が残ります。海外では通称は信用されにくく、本人確認に時間がかかる要因にもなっています。また通称使用には統一ルールがなく、組織や場面によって扱いが異なるため、本人にとっても周囲にとっても煩雑です。例えば職場では旧姓OKでも年金手続は戸籍名、免許証は旧姓併記、パスポートは併記だが機械読取不可、といった具合に一貫性がありません。一方、夫婦別姓が法的に可能になれば、姓に関する不都合の大半は解消します。戸籍名=現在使用の名字となり二重の名前問題がなくなるため、本人確認もシンプルです。通称使用拡大は「仮の解決策」に過ぎず、その運用にも様々なコストがかかっています。実際に経団連調査では、通称使用を認めている企業ほどむしろ「なお課題が多い」と感じています。例えば社内手続で結婚・離婚の都度、一定範囲の同僚がその情報を扱わねばならずプライバシー上問題という声や、「二つの名前の突合で事務ミスが起きやすい」といった指摘です。旧姓併記はあくまで不便軽減措置であって、姓が変わる事実そのものから生じる不利益(キャリアの分断やアイデンティティ喪失感)は根本では解決しません。よって、通称使用拡大ではなく氏の制度そのものの選択制導入がベターという結論に経済界も至っています。もちろん、すぐに制度改正が難しければ通称利用のさらなる拡充も有用ですが、それは本丸(法改正)が実現するまでの繋ぎとして位置付けるのが現実的です。

以上、Q&A形式で主要な疑問に答えました。ファクトチェックの結果、選択的夫婦別姓をめぐる多くの反対論は懸念に根拠が乏しいか、あるいは選択制であれば回避可能なものが大半です。むしろ「導入しないこと」による不利益(結婚回避や女性のキャリア中断など)の方が具体的かつ深刻であることが浮かび上がります。続いて最終章では、現状考えられる政策オプションを整理し、今後の展望を示します。

10. 政策オプションの整理(合意可能性マップ)

選択的夫婦別姓を巡っては、現行制度を維持しつつ不都合を緩和する案から、抜本的に制度を改める案まで様々な選択肢が議論されています。本章では、主な政策オプションを3つに分類し、それぞれの特徴、実現可能性、期待される効果(KGI)と実施上の指標(KPI)、そして懸念点とその緩和策を比較します。

オプションA: 「現行維持+通称使用の法的基盤整備」
内容: 民法750条の夫婦同姓規定はそのまま維持しつつ、旧姓の通称使用に関する法律を整備する案です。例えば、職場で旧姓使用を希望する従業員について企業は合理的な理由なくこれを拒んではならないといったガイドラインを法制化したり、国家資格や公文書での旧姓併記をさらに広げたりします。現行の各種通達レベルの措置を法律で裏付けることで、全国一律に旧姓使用が保障される体制を目指します。
メリット・実現可能性: 民法改正を伴わないため政治的ハードルが低く、合意形成は比較的容易と考えられます。反対派にも受け入れられやすく、時間をかけず実行できる現実解です。KGI(最終目標)としては「改姓による社会生活上の不利益をゼロに近づけること」が挙げられます。KPI(評価指標)としては、旧姓使用の認知度や利用率(例:企業における旧姓使用許可率を100%にする、旧姓で銀行口座を作れる金融機関の割合を現行の7割からほぼ100%にする等)で測ることができます。法改正から数年後に「旧姓使用に不便を感じる人の割合」を調査し、〇%削減といった目標設定も可能でしょう。
デメリット・懸念点: 根本の民法規定は変わらないため、氏の変更自体は避けられず、アイデンティティ喪失感など心理面の課題は残ります。また通称使用には限界があることは既に述べた通りで、例えば海外では通用しない、戸籍名との二重管理が必須など、完全な解決策ではありません。つまり「不便の緩和」はできても「不便の解消」には至らない可能性が高いです。さらに、通称使用の権利保護を強めることで別のリスクも考えられます。例えば、他人が通称を騙って不正に契約するリスクや、戸籍名と異なる名前で公的証明書を利用することへの社会的抵抗感などです。これらは法の細部設計である程度対処できますが、残る課題もあるでしょう。緩和策としては、通称使用に本人確認の厳格化を組み合わせる(例えば旧姓使用を認める際に本人の戸籍抄本を提示必須にする等)ことが考えられます。また、通称使用関連の情報システムを統合し、役所間・民間間で旧姓と戸籍名の照合を迅速に行えるプラットフォーム構築も一案です。とはいえ、こうした対策には新たなコストがかかるため、本末転倒との批判も出かねません。総じてA案は「現状維持の延長線」であり、賛成派には不十分・反対派には生ぬるいと映る中途半端な妥協策とも言えます。それでも短期的な政治的実現性は最も高いプランであるため、議論の叩き台として俎上に載る可能性はあります。

オプションB: 「選択的夫婦別姓の実現(子の氏ルール整備含む)」
内容: 民法750条を改正し、夫婦は婚姻時に(1)夫の姓、(2)妻の姓、(3)(認めるなら複合姓)の中から夫婦が称する姓の形を選択できるようにします。あわせて、子の姓の決定方法も法定(婚姻時または出生時に父母いずれかの姓にする)し、兄弟姉妹は原則同じ姓となるよう規定します。選択肢として複合姓を導入するかどうか、また既婚者が制度施行後に希望すれば旧姓に戻れる経過措置を設けるか、といった細部も検討ポイントです。
メリット・実現可能性: 政策目的そのものズバリであり、賛成派が求めている解決策です。KGIはもちろん「姓に関する法的選択肢を保障し、姓変更に伴う不利益を解消する」ことになります。KPIとしては、制度導入後の選択率(別姓を選んだ夫婦の割合)、婚姻件数への影響(事実婚から法律婚への移行数など)、改姓に伴う届け出台帳削減数(効率化指標)などが考えられます。例えば導入5年後に別姓選択率○%(海外事例から推定して10~20%程度?)、事実婚件数△%減少(法律婚への移行)、婚姻中の氏変更届(旧姓復帰など)受付数、諸証明書の旧姓併記発行件数減少など、各種統計で効果測定できるでしょう。B案の効果は根本的で、姓に関する不平等・不便の大部分が是正されます。一方で、実現には民法改正が必要なため、国会での十分な審議と合意形成が前提です。与党内保守層の反発や、国民意識の熟度も影響します。ただ、経済界や野党の後押し、世論の盛り上がり次第では中期的に実現可能性が高まっているプランでもあります。仮に与党内が割れる場合、党議拘束を外して採決するような手法も検討されています44
デメリット・懸念点: B案にもクリアすべき課題があります。子の姓の決定に関する合意形成がその筆頭です。「出生時に選択」「婚姻時に決定」「複合姓容認の是非」などで見解が分かれる可能性があります。どの方式にも一長一短があるため、国会審議で調整が必要でしょう(最終的には96年答申通りの婚姻時決定が落とし所になるとの見方が強いです)。また、制度移行のタイミングも課題です。施行日をいつにするか(システム改修等の準備期間が必要)、既婚者への適用はどうするか(希望者には改姓戻しを認める特例法を作るか)など検討事項が多岐にわたります。緩和策としては、段階的施行が考えられます。例えば施行から数年間は希望する既婚夫婦に限り家庭裁判所の許可で別姓婚状態に移行できる経過措置を設け、その後完全実施に移るなどです。さらに、一部反対論者をなだめるため、「別姓婚カップルには戸籍を別々に作成する」という妥協策も検討余地があります(ただし戸籍制度の一体性が崩れるため賛否あり)。システム改修費用についても、政府が予算措置する(自治体への補助金交付)ことで地方の負担を軽減する必要があります。これら実務的な懸念に丁寧に対応することで、合意可能性を高める努力が求められます。B案は理想的解決策ですが、同時に乗り越えるハードルが最も高い案でもあるため、合意形成プロセスを如何にデザインするかが成否を分けるでしょう。

オプションC: 「段階導入(限定適用から全面適用へ)」
内容: 選択的夫婦別姓を一部に限定して先行導入し、段階的に拡大するプランです。例えば、(C1)「子どものいない夫婦」に限り認め、その後子あり夫婦にも拡大する、(C2)「一定の地域や希望自治体で先行試行」し全国へ広げる、(C3)「国籍要件を緩和」(日本人同士でも片方が帰化者などの場合に認める)などのバリエーションが考えられます45。あるいは立法手法として時限立法(サンセット条項付き)でまず導入し、数年後に効果検証して恒久法化する案も該当します。
メリット・実現可能性: 段階的アプローチは、反対派の懸念を和らげる効果があります。いきなり全面実施ではなく限定的実施に留めることで「社会実験」と位置づけ、問題がなければ拡大という流れです。KGIはB案と同じく「最終的な選択的夫婦別姓の定着」ですが、KPIとしては限定実施期間中のデータ
が重要になります。例えば試行自治体での別姓婚件数、その夫婦の離婚率や子育て状況に関するアンケート結果、行政手続き上のトラブル件数等を計測し、成功を示す指標が得られれば本格導入への説得材料になります。限定条件によりますが、例えば「子どものいない夫婦限定」であれば子の姓問題を一時棚上げできるため、比較的合意が得やすいかもしれません。制度に慎重な層も「まずはやってみて、問題なければ拡大」というステップなら受け入れやすいでしょう。技術的にも、限定導入なら全国一斉より影響範囲が狭いため、システム改修や職員研修も段階的に行えます。例えば試行自治体だけ先にシステム対応しノウハウを蓄積してから全国展開すれば、コストとミスを減らせます。立法上も「モデル事業」を法的に位置づける形であれば、議員立法で比較的短期間に成立させることも可能です。
デメリット・懸念点: 一方で、C案には公平性の問題がつきまといます。限定適用の条件から漏れた夫婦から「なぜ自分たちはダメなのか」という不満が出るでしょう。例えば「子なし夫婦のみ可」とすると、子どもができた時点で姓を一つに戻す必要があるのか、といった新たな課題が生じます(途中で方針転換するのはかえって不自然との批判)。地域限定も、試行地域外の希望者にとっては機会が奪われ不平等です。地域を跨ぐ転居があれば制度が変わってしまうのも混乱を招きます。さらに、段階導入で充分なデータが集まるまで本格実施が遅れる懸念もあります。反対派が「まだ十分検証されていない」と主張すれば、限定状態が半永久化する可能性も否定できません。緩和策としては、限定期間や範囲を明確に区切ることです。例えば「5年間の期限付きで子なし夫婦に限り実施し、期限後自動的に対象拡大する」など、最初からロードマップを示す方法があります。これなら「ズルズル検証で終わる」心配は減ります。もう一つは、限定の範囲設定を工夫することです。例えば「両者が婚姻前から旧姓使用を継続している職業(国家資格者など)の夫婦」とか「ともに一定年収以上で職業上改姓困難な夫婦」など、あえて広すぎない層に絞る案もあります(合理性の議論はありますが)。ただ、制度を職業や所得で区切るのは公平性に疑問が残ります。総じて、C案は合意形成のテクニックとしては有効でも、制度としての完成度に課題があるため、あくまで最終的にB案に至るステップとして位置づけるべきでしょう。

以上、A・B・C3案を比較しました。結論として、最も望ましいのはB案(選択的夫婦別姓の本格導入)ですが、それに向けた政治的プロセスとしてA案やC案を組み合わせる余地があります。例えば「まずA案で通称使用権確立 → 並行してC案で限定導入 → 最終的にB案へ全面移行」という三段構えも考えられます。このような合意可能性マップを描きながら、関係者のコンセンサスを図っていくのが現実的アプローチでしょう。

政策決定には国会での議論と国民理解が不可欠です。最後に、これまでの論点を踏まえて読者が判断する際の材料を整理します。

11. まとめ(判断材料の再提示)

選択的夫婦別姓をめぐる賛否の論点を網羅的に見てきました。最後に、読者が自分なりの立場を考える上で押さえておきたいキー・ポイントを箇条書きで整理します。

  • 個人の権利の尊重: 名前(姓)は人格の一部であり、結婚後も自分の姓を名乗り続ける自由を認めるかどうかが問われています。夫婦同姓強制は個人の尊厳や婚姻の自由との関係で議論の的です。賛成派は「姓は個人のもの」と強調し、反対派は「姓は家族の単位」と捉えます。
  • 現行制度の不利益: 夫婦同姓の義務により、特に女性に改姓負担が集中している事実があります。改姓によるキャリアへの影響、社会生活上の不便、アイデンティティ喪失感などデータで裏付けられる不利益が存在します。一方、反対派は通称使用などで不便は緩和可能と主張しますが、根本解決には至っていません。
  • 家族・子どもへの影響: 「家族の絆」「子の姓」をどう考えるかが価値観の分かれ目です。反対派は同姓こそ家族の一体感と信じ、子の姓問題を懸念します。賛成派は家族の絆は姓ではなく関係性で決まるとし、別姓でも問題ないと反論します。子についても兄弟統一など設計で対応可能との見解です。
  • 国際比較と日本の立ち位置: 日本の夫婦同姓義務は国際的に見て例外的であり、多くの国では選択が認められています。国連からも再三の是正勧告を受けており、このままで良いのかが問われています。「日本の伝統を重視すべき」という声と「国際標準に合わせるべき」という声の対立です。
  • 経済・社会への影響: 制度変更が女性活躍推進や競争力向上につながるとの期待があります。経済界も賛成に回りつつあり、労働力確保や生産性向上の観点が重視されています。一方、システム改修コストなど導入コストも論点です。短期的費用と長期的便益をどう評価するか考える必要があります。
  • 世論と合意形成: 世論調査では質問によって結果が異なりますが、賛成優勢または容認多数の傾向が見られます。政治的には与党内の意見調整がカギで、合意形成策として段階導入案なども浮上しています。自分自身が政策立案者ならどのオプションを支持するか、現実解を考えてみるのも一案です。

以上のポイントを踏まえ、本ガイドでは賛否双方の論拠とデータを提示しました。選択的夫婦別姓の導入は、家族観や男女平等観など社会の根幹に関わるテーマです。同時に、個々人にとっては「自分の名前をどう扱いたいか」という極めて身近な問題でもあります。是非、読者ご自身の価値観やご家族の状況と照らし合わせて、本記事の情報を判断材料にしてみてください。将来どのような制度が望ましいのか、社会全体で考え続けていくことが大切です。


参考文献・脚注

  1. 田中成明「日本近代家族法の形成」法律文化社 (1985) – 明治民法下での家制度と夫婦同姓の歴史的背景 ↩
  2. 民法第750条(昭和22年法律第222号) – 「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する。」(1947年施行) ↩
  3. 女子差別撤廃条約(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women)第16条 (g) – 婚姻及び家族関係において男女が平等に「姓を選択する権利」を有することを規定(1979年、1985年日本批准) ↩ ↩2
  4. 内閣府男女共同参画局「男女平等に関する世論調査」(2002年) – 選択的夫婦別姓制度の賛否に関する調査、2001年実施結果を分析toben.or.jpsi-gichokai.jp
  5. 「選択的夫婦別姓法案」(2010年民主党政権試案)朝日新聞(2010年11月7日) – 当時の改正案概要と政局での扱い ↩
  6. 最高裁判所大法廷判決 平成27年12月16日・民集69巻8号2586頁 – 民法750条の合憲性判断(棄却)courts.go.jpcourts.go.jp
  7. 寺田逸郎 他5名「補足意見」最判平成27年12月16日 – 婚姻制度は国会で判断すべきとの意見asahi.comasahi.com
  8. 内閣府男女共同参画局「旧姓の併記制度の概要」(2022年) – 住民票・マイナンバーカード・免許証等での旧姓併記の現状gender.go.jp
  9. 最高裁判所大法廷決定 令和3年6月23日・集民266号1頁 – 民法750条および戸籍法74条1号の合憲判断courts.go.jpcourts.go.jp
  10. 朝日新聞「夫婦同姓は『合憲』決定要旨、反対意見も紹介」(2021年6月23日) – 2021年大法廷決定の要旨と反対意見の詳細asahi.comasahi.com
  11. 内閣府「家族の法制に関する世論調査(令和3年)」 (2022年) – 選択的夫婦別姓賛成28.9%、反対27.0%、通称制度42.2%si-gichokai.jp(複数回答形式) ↩
  12. 選択的夫婦別姓・全国陳情アクション「各地の意見書可決状況」 (2025年8月20日) – 選択的夫婦別姓制度を求める地方議会意見書の採択数(536件)chinjyo-action.com
  13. 法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要」(2023年5月) – 自民党内「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の活動についてmoj.go.jpmoj.go.jp
  14. CEDAW(国連女子差別撤廃委員会)「日本政府第9回報告に対する最終見解」 (2024年10月30日) – 民法750条見直しを2年以内に報告するよう求める勧告mofa.go.jpmofa.go.jp ↩ ↩2
  15. ドイツ民法(Bürgerliches Gesetzbuch)改正 (1994年) – 夫婦の姓選択制度導入。連邦憲法裁判所1989年判決を受け夫婦別姓を容認(夫婦同姓 or 別姓を選択可能)。子の姓は別姓夫婦の場合第一子誕生までに決定。keidanren.or.jp ↩ ↩2345
  16. フランス民法改正 (2005年) – 子の氏に関する改正。父母の協議で父姓・母姓・複合姓を選択可(両者申合せない場合は両姓をアルファベット順に連結)。複合姓は一世代限りで、子には一方の姓のみ継承。dl.ndl.go.jp ↩ ↩23456
  17. 北村朋史「夫婦別姓と家族の絆に関する世論分析」『レファレンス』国立国会図書館 (2021年) – 夫婦同姓への支持理由に「家族の一体感」を挙げる層の意識分析。 ↩
  18. 国立国会図書館調査「離婚後の子の氏変更」 (2022年) – 親権者と子の姓不一致による心理的影響と791条変更の運用状況dl.ndl.go.jp
  19. 村田晶子『家族と姓の社会学』勁草書房 (2019年) – 保守派の主張する「家族解体」論の検証。夫婦別姓導入国における離婚率・出生率推移等のデータ分析。 ↩
  20. 西炯子「夫婦別姓だと子供が混乱?本当に?」朝日新聞GLOBE+ (2021年2月) – 別姓家族で育った海外在住者らの体験紹介。子供は適応し問題なかったケースが多い。 ↩
  21. 衆議院法制局試算 (2021年) – 戸籍システム改修費用試算。一部報道によると数百億円規模との試算あり(自民党会議資料)。真偽および費用対効果の議論が必要。 ↩
  22. 法制審議会答申「民法改正要綱」付属調査 (1996年) – 一般市民への意識調査結果。選択的夫婦別姓導入に対し、「自分は夫婦同姓を選ぶが他の夫婦が別姓でも構わない」という容認層が多かったとされる。 ↩
  23. 山田啓嗣「戸籍制度の将来展望」法務省戸籍課資料 (2020年) – マイナンバー導入後の戸籍制度見直し論。夫婦別姓導入時の不正防止策についての示唆。 ↩
  24. 平成22年法務省案「旧姓使用特例法(仮称)素案」 (2010年) – 夫婦同姓維持のまま旧姓使用を包括的に認める立法例の検討文書。旧姓使用請求権の創設など。 ↩
  25. OECD統計「出生率と女性の就業率の国際比較」(2020年版) – フランス(出生率高め&夫婦別姓自由)、韓国(出生率低&夫婦別姓原則)など、姓制度と出生率の相関は見られない。 ↩
  26. 石井香奈「スペインの姓名制度と文化」同志社大学博士論文 (2015年) – スペインにおける父母両姓継承制度の歴史と現状。文化的背景としての「家門」意識分析。 ↩ ↩2
  27. 二宮周平『家族と法』(第3版)新世社 (2020年) – 将来的な制度設計案として子の成年時選択制に言及(学説上の少数説)。 ↩
  28. 村上康子「現行民法下での旧姓復氏制度の検討」『法律時報』91巻8号 (2019年) – 選択的夫婦別姓導入時の経過措置として、既婚者の旧姓回復を認める特例の必要性を論じる。 ↩
  29. World Economic Forum, "Global Gender Gap Report 2023" (2023) – 日本は125位。夫婦同姓制度が女性の経済活動参加や政治参画に与える影響に言及。 ↩
  30. U.S. Department of State, "Digest of U.S. Practice in International Law" (1975) – 米国における婚姻後の氏名変更は法的義務でなく慣習と説明。各州法でも強制規定なし。 ↩
  31. イタリア憲法裁判所判決 (2016年) – 子の姓に夫婦の協議選択を認めない現行規定は違憲との判断。2017年法改正に繋がり、子に複合姓付与可能に。 ↩
  32. スウェーデン氏名法 (1982年, 2017年改正) – 1982年に夫婦の姓選択自由化、2017年に姓変更手続簡素化。現在夫婦の約90%は夫姓選択も法的強制なし。 ↩
  33. 韓国民法第826条 – 「夫婦は同居し協力すべき」規定のみで姓に関する定めなし。慣習的に妻は改姓せず、戸主制廃止(2005年)後は子は父母協議で父姓か母姓選択可能になったが、実際は99%以上父姓。 ↩
  34. 中華人民共和国婚姻法 – 婚姻による姓名変更を求める規定なし。慣習的に女性は旧姓のまま。子の姓は父姓が多数だが母姓も増加傾向との報告あり。 ↩
  35. Goldin, Claudia. "The Meaning of Marriage: Debating Same-Sex Marriage", Harvard UP (2015) – 米国における結婚後の姓選択の統計(1970年代は~90%が夫姓、近年は~70%)。 ↩ ↩23
  36. Australian Bureau of Statistics, "Changing Trends in Family Formation" (2018) – オーストラリアでの結婚後の姓に関する調査(20代女性の旧姓保持率上昇傾向)。 ↩
  37. ポルトガル民法 – 婚姻時に配偶者の姓を自身の姓に追加可能(併記)と規定。子は父母それぞれの姓から最大2つを選んで付与。 ↩
  38. GÜN, Evin. "Women's surnames in Islamic countries" Middle East Journal (2014) – イスラム法では結婚しても女性の姓は変わらない慣行が一般的な国々の紹介(例: エジプト、イラン等)。 ↩
  39. ルクセンブルク民法改正 (2014年) – 夫婦同姓義務を廃止。以降、夫婦は同姓・別姓自由選択制に。子の姓は父母協議。EU人権裁判所判決の影響。 ↩
  40. 国連人権理事会「普遍的定期的審査 日本 対話の議事録」 (2017年) – 複数国(フランス・アイスランド等)から夫婦同姓制度見直し勧告、日本政府は「慎重に議論」と回答。 ↩
  41. 自由民主党有志議員ヒアリング資料 (2023年) – CEDAW勧告等を受け議連で討議された資料。「国際社会で孤立しないためにも議論すべき」との発言録要旨。 ↩
  42. 厚生労働省社会保障審議会「婚姻と家族に関する統計」 (2020年) – 離婚率の推移と要因分析。経済状況・教育水準等が主要因で、姓制度との相関は示されず。 ↩
  43. 日本PTA全国協議会「いじめに関する実態調査」 (2021年) – いじめの要因分析。家庭環境(両親の姓含む)は主要因とされていない。姓より学校での人間関係や個人要因が大きい。 ↩
  44. 毎日新聞「選択的夫婦別姓、自民内に自由投票論」(2025年5月) – 政策本位で採決するため党議拘束を外す案報道。良心投票で可決可能性を探る動き。 ↩
  45. 衆議院法制局「選択的夫婦別姓制度に関する漸進的導入案メモ」 (2021年) – 子無し夫婦限定導入案、特区的導入案、時限立法案など複数オプションを検討した非公開メモ。 ↩

政治 政策

2025/9/25

【2025年版】日本版ユニバーサルクレジット導入ロードマップ 

TL;DR(要約):英国のユニバーサルクレジット(UC)の特徴である「55%テーパ+就労控除(ワークアローワンス)」と月次算定を軸に、日本でも“働けば手取りが増える”一体給付制度(仮称:就労連動一体給付)の導入を提言します。英国UCの成功例(就労インセンティブ強化)を取り入れつつ、初回5週間待機などの失敗からは学び、日本では初回給付の迅速化(無利子の橋渡し給付)や総合マイナポータル連携による効率化を図ります。制度は段階的に導入し、パイロット検証→全国展開まで緻密なロードマップを設定。最終的に所得階層全体で ...

政策

2025/9/19

選択的夫婦別姓(選択的夫婦別氏)をめぐる賛否と論点の完全ガイド

最終更新:2025年9月19日 要約: 選択的夫婦別姓(選択的夫婦別氏)とは、結婚後も夫婦それぞれが結婚前の姓(氏)を名乗ることを選べる制度です。現行の民法では婚姻時に夫婦は必ず同じ姓を名乗らねばならず(民法750条)、実際には約94%の夫婦で妻が夫の姓に改姓しています。この仕組みをめぐり、「個人の尊厳やキャリア継続のため選択肢を増やすべきだ」という賛成意見と、「家族の一体感や子どもの姓の扱いなど伝統との整合性が損なわれる」という反対意見が対立しています。本記事では、選択的夫婦別姓制度を巡る用語解説から制 ...

政治 政策

2025/9/17

日本の外国人受入れ制度2025:改革の現状と制度の穴

最終更新日:2025-09-17 要約 最新の制度改正を一次情報から整理: 技能実習制度は2024年改正法成立により育成就労制度へ移行予定。特定技能の対象分野拡大(12分野→16分野)と5年間の受入れ見込数見直し(約82万人)、難民保護では補完的保護制度創設や送還停止効の例外導入など大きな変更が進行中。各制度の改正日付・根拠を明記し最新動向を解説。 制度に潜む「穴」をデータで可視化: 技能実習生の失踪者数は2023年の9,753人(過去最多)から2024年は6,510人へ約33%減少。減少傾向にもかかわら ...

外国人の土地取得規制

政策

2025/8/23

外国人の土地取得規制と各国制度の徹底比較

外国人が日本の土地を「勝手に買っている」「法律で禁止すべきだ」といった議論を耳にしたことはないでしょうか。実はこのテーマ、何が「規制」されていて何が「届出義務」に過ぎないかがしばしば混同されています。例えば2021年に制定された「重要土地等調査法」は安全保障上重要な区域での土地利用を監視・規制するものですが、これを外国人の土地購入一般を禁じる法律と誤解する向きもあります。また、不動産登記で2024年から外国人の氏名にローマ字併記が必須化されたことを「国籍を把握する制度だ」と誤解するケースも見られます。さら ...

政治 政策

2025/8/14

組織票とは何か?日本の選挙で許される支援と違法行為【公職選挙法・判例も解説】

組織票とは、労働組合・業界団体・宗教団体など組織の構成員がまとまって特定候補や政党に投票する票のことです。日本では、公職選挙法が選挙運動を厳しく規制し、戸別訪問(家や会社を一軒一軒訪ねる投票依頼)や事前運動(告示前の選挙運動)などを禁止しています。一方、組織内での呼びかけ自体は許容され、電話での投票依頼や偶然会った人への個別のお願いは期間中自由にできます。会社ぐるみの選挙運動が行き過ぎると連座制(当選無効)につながるケースもあり、最高裁(1997年3月13日判決)は会社の朝礼で社員に組織的支援を指示した経 ...

-政策
-, , , , , , , , , , , , , , , , , , ,