
静岡県内の全35市町(政令指定都市の行政区を含む)の現状をデータで俯瞰し、直面する共通課題と地域特有の問題を洗い出します。また、それらの根本原因を分析した上で、自治体・企業・住民が協働して取り組める実行可能な解決策を提示します。以下のポイントが本記事の結論です。
- 人口減少と高齢化の急進展: 静岡県の総人口は2007年(平成19年)の約379.6万人をピークに減少へ転じ、2023年10月時点で約355.3万人まで縮小しました1。全県平均の高齢化率は3割を超え、一部の町では人口の半数以上が65歳以上という深刻な状況です。
- 産業構造と財政力の地域差: 東部・中部の工業集積地や郊外の住宅都市では比較的若年層が多く財政力も高い一方、伊豆・山間地域では観光や農林水産業が主産業である反面、担い手不足と財政基盤の脆弱さが目立ちます。自治体間で財政力指数には大きな開き(最高1.14~最低0.26)があります2。
- 巨大地震・津波など複合災害への備え: 南海トラフ巨大地震の最大想定では県内死者10万人超とされ、沿岸部では震源地に近く津波到達が数分~十数分という地域もあります3。一方で県は大規模防潮堤の整備など先進的な減災策を講じ、「死者8割減」を達成したと主張しています4。住民の避難計画づくりやインフラ耐震化など、引き続き官民挙げた対策強化が急務です。
以下、静岡県全体および地域別・市町村別の詳細な現状分析を行い、最後にそれらを踏まえた短期・中期・長期の解決策ロードマップを提言します。
静岡県の市町村を俯瞰
自治体数と行政区画: 静岡県には2024年1月現在、23市と12町の計35市町があります。村は存在せず、市町村合併(平成の大合併)を経て現在の姿になっています。また、県内には2つの政令指定都市(静岡市・浜松市)があり、静岡市は葵区・駿河区・清水区の3区、浜松市は2024年1月の行政区再編によって7区から中区・浜名区・天竜区の3区に再編されました。したがって、県内全体の自治体単位としては計35市町+6行政区となります(行政区は市の内部区分ですが、地域特性の把握上で本記事では適宜言及します)。
地理と地域区分: 静岡県は東西に長く、行政上は広域的に「伊豆地域」「東部(富士山麓)」「中部(静岡・志太榛原)」「西部(遠州)」のエリアに大別されます(厳密な定義は文脈によりますが、本記事では便宜上この区分を用います)。伊豆半島(賀茂郡・田方郡、および熱海市・伊東市など)を含む伊豆地域、富士山麓から箱根山系に至る東部地域(富士市・沼津市・三島市や駿東郡など)、県都静岡市と大井川流域を中心とした中部地域(志太榛原:焼津市・藤枝市・島田市・牧之原市・吉田町・川根本町 等)、浜松市を中心に天竜川以西の西部地域(遠州地域:磐田市・袋井市・掛川市・菊川市・御前崎市・周智郡森町 等)があります。
各地域で気候風土や産業構造が異なり、人口規模も多様です。静岡市(約68万人)と浜松市(約79万人)の2市で県人口の4割強を占めますが、一方で最小の川根本町や西伊豆町は人口6千人余りに過ぎません。地勢も多様で、南に駿河湾・遠州灘の長い海岸線、北に急峻な赤石山脈(南アルプス)を抱え、東部には日本最高峰の富士山(静岡県と山梨県にまたがる)が聳えます。こうした地理的条件は、各市町の産業や暮らし、災害リスクにも大きく影響しています。
データで見る「共通課題」と背景
静岡県各市町村が直面する共通の課題として、人口減少・少子高齢化、産業人材の不足、財政の硬直化、インフラ老朽化、防災・減災対策などが挙げられます。最新データを基にその現状と背景を見ていきます。
人口減少と少子高齢化
静岡県の人口は2007年を頂点に減少傾向に入っており、直近の国勢調査(2020年10月1日現在)でも前回2015年比で約2%減少しました。さらに住民基本台帳に基づく推計では2023年10月1日時点で約355.3万人となり、前年同日比で28,676人(0.8%)減少しています1。減少の主因は出生数の減少(少子化)による自然減と、首都圏・中京圏への若年層転出超過による社会減です。特に20代の流出が顕著で、大学進学や就職を機に県外へ出る若者が戻ってこない傾向があります。
高齢化も全国平均並みに進行しており、県全体の高齢化率(65歳以上人口割合)は29.8%(2020年国勢調査)からさらに上昇し、2023年時点ではおよそ31%に達すると推計されます。自治体別に見ると、高齢化率が最も低い長泉町で約22.6%に留まる一方、伊豆地方の西伊豆町は約52.6%と人口の半数以上が高齢者という極端な状況です。このように地域差は大きいものの、全般に生産年齢人口(15~64歳)の減少と老齢扶養率の上昇により、地域社会の活力低下や労働力不足が懸念されています。
出生率(合計特殊出生率)は直近で1.40前後と全国平均並みですが5、人口維持に必要な2.07を大きく下回ります。静岡県は2015年に長期人口ビジョンを策定し「2060年に人口300万人を維持」という目標を掲げましたが、現状の延長線では難しく、結婚・出産支援や子育て環境の充実による出生率改善と、県外からの若年層流入促進が急務となっています。
産業・雇用の構造と地域差
製造業の集積と強み: 静岡県は東西に広い産業ベルト地帯を形成し、日本有数の製造業県として知られています。とりわけ浜松市を中心とする西部遠州地域は、輸送用機械(スズキ、本田技研の拠点やヤマハ発動機の本社=磐田市など)、楽器・音響機器(ヤマハ発祥の地)、光電子・医療機器(浜松ホトニクス等)などの工業集積地です。中部の静岡市周辺も、清水港を擁して製紙・化学(富士市の製紙工場群が著名)や食品加工(焼津市・清水区の水産加工など)が盛んで、ものづくり県としての地盤があります。一方、東部地域では富士山麓の裾野市・御殿場市・長泉町などに自動車部品・精密機械の工場が多く立地し、首都圏に近い地の利から研究開発拠点も進出しています。
観光・サービス業と地域経済: 県内には熱海市・伊東市・下田市など温泉リゾートやビーチで栄える観光都市が点在し、特に伊豆地域では観光業が経済の柱です。毎年数百万人規模の観光客が訪れる一方、宿泊者数は伸び悩みや季節変動もあり、観光地ではコロナ禍で大きな打撃を受けました。また農林水産業も静岡県を語る上で重要です。茶の生産量日本一(全国シェア約40%)の静岡県では牧之原市、島田市川根地区など茶産地が広がり、温暖な気候を活かしたみかん・イチゴ栽培や、遠州地方の野菜・花卉園芸も盛んです。ただし担い手の高齢化や後継者不足、収益性の課題は全国同様に深刻で、耕作放棄地や林業衰退も課題となっています。
雇用と人口流動: 製造業が堅調な地域では比較的若年層の地元定着率が高く、有効求人倍率も高めに推移しています。他方、観光・サービス業中心の地域や農山村部では、雇用機会が限られるため若者が都市部へ流出しやすい傾向があります。たとえば、高い財政力と人口増を維持してきた長泉町(東部)は大企業の研究所や工場立地による雇用効果が背景にありますが、伊豆半島南部の町村では働き口が限られるため若年層の転出超過が続いています。このように地域ごとの産業構造が人口動態にも直結しており、将来的な地域経済の維持には、それぞれの強みを伸ばし弱みを補完する広域連携や新産業の創出が鍵となります。
財政状況:豊かな自治体、苦しい自治体
市町村の財政力を示す代表的指標に「財政力指数」があります(基準財政収入額/基準財政需要額の3か年平均値)。静岡県内の財政力指数(令和5年度・3年平均)を見ると、トップは長泉町の1.14で標準的な行政サービスを単独でまかなえる水準です。また工業都市の御殿場市、裾野市、湖西市、富士市などが1.0前後で県内上位に位置しています。一方、最低は西伊豆町と松崎町の0.26、南伊豆町0.29といった伊豆南部の町村が続き、川根本町0.33など山間部も低迷しています。政令市では静岡市0.83、浜松市0.81と中位程度です。このように財政力の地域格差が大きいことが静岡県の特徴です。
財政力の強い自治体は地方法人税・所得税など自主財源が潤沢である一方、弱い自治体ほど地方交付税や国・県支出金への依存度が高く、「人口減→税収減→公共サービス維持困難→さらに人口流出」という負のスパイラルの懸念があります。実際、財政力指数が0.5未満の自治体では、老朽化したインフラ更新や十分な福祉サービス提供に財政的な制約が大きく、将来負担比率(地方債残高など)も高めです。
県全体では財政力指数0.81(政令市含む、令和5年度平均)と全国平均並みですが2、今後、高齢化による社会保障費や防災インフラ維持費の増加が見込まれる中、各市町とも財政の健全性確保と行政サービス維持の両立が課題となっています。特に人口1万人未満の町(川根本町・西伊豆町・松崎町など)では将来的な単独行政の持続に不安があり、広域連合や近隣市町との行政サービス共有、場合によっては市町村合併の再検討も選択肢となるでしょう。
社会基盤と暮らし:交通・医療・住宅
交通インフラ: 静岡県は東海道新幹線・東名高速という国家幹線が横断し、東西方向の連絡は比較的良好ですが、地域によっては公共交通の衰退が顕著です。特に伊豆地域や中山間地では路線バスの減便・廃止や鉄道(例:JR大井川鐵道井川線など)の経営悪化により、交通弱者の移動手段確保が深刻な課題です。高齢者が日常の買い物や通院に困難を来す「買い物難民」も一部で発生しています。県や市町ではコミュニティバスの運行支援やデマンド交通導入を進めていますが、持続可能な仕組みづくりには利用者参加型の工夫が必要とされています。
東海道沿線の都市部では、JR東海道線・身延線、私鉄(静岡鉄道など)や路線バス網がある程度整備されています。しかし、自家用車への依存度が高い郊外地域では慢性的な交通渋滞(例:浜松市の幹線道路や静岡市郊外)や交通事故リスクも課題です。リニア中央新幹線の開業(静岡県内未定区間あり)や新東名高速の全通など将来的な交通基盤整備計画も地域経済に影響を与えるでしょう。
医療・介護: 県内には高度医療を提供する基幹病院(静岡市の県立総合病院、浜松医科大学附属病院など)があり、医療資源は総じて充実しています。ただし、医師や看護師の都市部偏在が指摘され、へき地医療や夜間救急での担い手不足が問題化しています。特に伊豆・山間部では高齢者人口が多いにもかかわらず、かかりつけ医や在宅医療提供者が不足しがちです。県はドクターヘリの運用やオンライン診療推進でカバーしようとしていますが、地域包括ケアシステムの構築は道半ばです。
介護についても、要介護高齢者の増加に対し介護職員の確保が追いつかず、施設整備も需要に対して不足気味です。都市部では介護難民(入所待機)が社会問題化しつつあり、地方では家族介護者の高齢化(老老介護)も課題です。自治体は地域包括支援センターを拠点に見守りや予防ケアに取り組んでいますが、各市町の財政や人材により取組に差があります。
住宅・空き家: 郊外型の住宅開発が進んだ地域(長泉町や袋井市など)では子育て世帯の流入により新興住宅地が増えていますが、一方で中心市街地や山間部では人口減少に伴う空き家の増加が顕著です。総務省調査によれば静岡県の空き家率は2018年時点で全国平均並みの13.5%ですが、別荘地を抱える伊豆地域では20%近い市町もあります。老朽空き家は景観悪化や防災上の危険となるため、多くの自治体が空き家バンクや解体補助制度を設けています。ただ、空き家活用(移住者向け住宅、地域の拠点施設化など)は所有者不明や費用面で進まず、包括的な対策が求められます。
インフラ老朽化・環境・エネルギー
上下水道・道路橋梁: 高度経済成長期以前に整備された上下水道管路、道路橋梁、学校施設などのインフラ老朽化が一斉に進行しています。静岡県は南北に急峻な地形のためトンネルや長大橋も多く、維持管理費の増大が避けられません。自治体によっては耐用年数を超過した水道管の更新が追いつかず、水道管破裂事故や漏水率増加が課題化しています。小規模町村ではインフラ更新コストを単独で負担するのが難しく、県の広域支援や近隣自治体との共同管理(例:水道事業の統合など)を検討する動きもあります。
環境・脱炭素: 温室効果ガス削減や再生可能エネルギー導入も重要な政策課題です。静岡県は再エネとして太陽光発電の導入が進む一方、環境負荷への懸念もあります(メガソーラー開発による森林伐採問題など)。富士山をはじめ豊かな自然環境を有するだけに、県民の環境意識は高く、プラスチックごみ削減運動や公共交通利用促進など脱炭素の取組も各地で見られます。自治体レベルでは静岡市や浜松市がゼロカーボンシティ宣言を行い、企業や大学と連携した技術開発(蓄電池、木質バイオマス活用など)も始まっています。もっとも、中小自治体では専門人材や予算が限られ、県主導の支援策が欠かせません。
自然災害リスクと防災体制
静岡県は日本有数の災害リスク集中地域です。プレート境界に位置し、南海トラフ巨大地震の発生可能性が高いとされています。国の想定ではマグニチュード9クラスの南海トラフ地震が発生した場合、静岡県内の死者数は最悪約10万3千人と全国で最も厳しい被害見込みが公表されました(2025年3月発表)。特に津波による犠牲者が9割近くを占めるとされ、沿岸部の広域に最大波高10~20メートル級の津波襲来が予測されています。伊豆半島南端の下田市や南伊豆町では最大クラス津波が20mを超える可能性が指摘され、駿河湾沿岸の静岡市清水区や駿河区でも最大13mの津波高が示されています3。
加えて、静岡県は震源域に近いため津波到達時間が極めて短い地域があります。駿河湾沿岸の焼津市や榛原郡吉田町では地震発生から数分で高さ5mの津波が押し寄せると想定され、避難の猶予がほとんどありません。このため、「逃げ遅れゼロ」を目標に地域ごとの津波避難計画策定と避難タワー・ビルの整備が進められてきました。県内には津波避難ビルが1,324棟(2012年時点)ありますが、それでもハード整備だけでは死者数を十分減らせないとの指摘もあります。
南海トラフ以外にも、県東部は首都直下型地震(相模トラフ沿い)の影響を受ける可能性があり、伊豆半島東側では1923年関東地震の際に10m級津波が襲来した記録もあります。さらに富士山の火山噴火リスクも無視できません。1707年の宝永噴火では県東部一帯に降灰し農作物被害を出しましたが、現在も噴火が起これば御殿場市・小山町方面への溶岩流や静岡市方面への火山灰降下が想定されています。加えて伊豆東部火山群(天城山周辺や伊東沖)の活動、さらには台風・線状降水帯による豪雨洪水・土砂災害など、多様な自然災害リスクが重層的に存在します。
このような状況下、静岡県と市町は従来より防災先進地として積極的な対策を講じてきました。例えば、県は国に先駆けて「地震防災戦略」(静岡方式)を打ち出し、住宅耐震化や自主防災組織の育成、津波避難施設の整備に注力してきました。その成果もあって、県は「死者数8割減」を達成したとする独自試算を2023年に公表し、国の被害想定に異議を唱えています。実際、浜松市沿岸部には全長17kmに及ぶ巨大防潮堤が2022年までに完成し、地震時の減災インフラとして期待されています。しかし、ハード対策だけでなく、住民一人ひとりの避難行動計画(マイ・タイムライン)策定や、防災教育・訓練によるソフト対策の継続が極めて重要です。
以上、データを基に静岡県の現状と共通課題を概観しました。次章では地域別の特徴と個別論点を整理し、さらに各市町村の状況と注目すべき自治体の動きを取り上げます。
地域別の特徴と論点
同じ静岡県内でも、地域ごとに抱える事情や強み・弱みは異なります。ここでは前述の地域区分(伊豆・東部・中部・西部)に沿って、それぞれの特色と主な論点を整理します。
伊豆地域:観光地と過疎地が混在
伊豆半島は風光明媚な温泉地・避暑地として首都圏からの観光客で賑わう一方、定住人口は減少が著しい地域です。熱海市・伊東市・下田市といった観光都市は、バブル期に別荘開発やリゾート開発が進みましたが、その後の景気低迷や社会構造の変化で空き別荘・空きホテル問題が顕在化しました。2021年7月には熱海市伊豆山で大規模土石流災害が発生し、造成地の盛土崩壊が大きな被害要因となったことから、不要不急の開発見直しや森林保全の重要性も再認識されています。
賀茂郡(東伊豆町・河津町・南伊豆町・松崎町・西伊豆町)の5町はいずれも人口1万人以下で、高齢化率が40~50%台と極めて高く6、買い物や医療アクセスなど日常生活の維持にも課題があります。交通の便が悪く、例えば西伊豆町は鉄道がなく東海道側から山越えの道路のみという地理的孤立もあって、若年層の流出に歯止めがかかっていません。観光資源の掘り起こしと移住促進が地域再生のカギですが、一朝一夕には成果が出にくい状況です。
一方、伊豆半島はユネスコ世界ジオパークに認定されるなど自然・文化資源に恵まれており、環境を活かした観光まちづくりが進みつつあります。例えば下田市や西伊豆町ではワーケーション誘致に乗り出し、都市圏企業との提携でサテライトオフィスを整備する動きがあります。また、河津町の河津桜祭りなど地域ブランド化した観光イベントは経済効果を生んでいます。これらを通じて交流人口から関係人口、定住人口へつなげる取り組みが今後重要です。
論点としては、(1)観光業の担い手確保・サービス多角化(インバウンド対応含む)、(2)高齢者ケアと生活インフラ維持(交通・買い物支援)、(3)災害に強い地域づくり(沿岸部の土砂災害対策、避難体制)などが挙げられます。
東部地域:富士山麓の工業都市とベッドタウン
東部地域には富士市、沼津市、三島市、御殿場市、裾野市など、10万~20万人規模の中核市が連なります。これらの市では工業生産が盛んで、富士市は製紙・パルプ工業の一大拠点、沼津市は機械・食品、御殿場市・裾野市は自動車関連工場と、自動車試験場のある長泉町など製造業が地域経済を支えています。相対的に若年層の割合も高く、例えば長泉町の人口はここ20年で増加傾向が続き、高齢化率約22%と県内で最も低い水準です。これはトヨタ系企業をはじめ企業誘致が奏功した結果といえます。
東部はまた、東京都心から新幹線・高速で1時間圏内という地の利から、東京のベッドタウン的性格も持ちます。三島市や沼津市、さらに函南町などでは都内へ新幹線通勤する住民も多く、東京圏人口の受け皿となってきました。しかし近年、都内在住者のリモートワーク定着で「職住分離」の動機が薄れつつあり、今後ベッドタウン需要が維持できるかは不透明です。そのため、各市とも地元で完結する雇用創出や大学誘致による定住促進策に力を入れ始めています。
富士山麓の御殿場市は、陸上自衛隊演習場や米軍キャンプも所在し、防衛・外交上の施設を抱える自治体でもあります。観光では富士山須走口の玄関口として登山客対応や、富士スピードウェイを活用した国際大会(2023年自転車競技世界選手権など)の誘致実績もあります。御殿場市や小山町では雄大な富士の景観と高原リゾートを活かし、企業研修施設の誘致や移住者向けの大規模宅地開発もみられます。ただし大都市圏近接ゆえ地価が高く、若年世帯には経済的ハードルもあります。
東部地域の論点は、(1)製造業のDX化・脱炭素対応(競争力維持と環境規制への対応)、(2)東京都心との人材・経済交流の活用(企業のサテライトオフィス設置や二地域居住の促進)、(3)富士山噴火や相模トラフ地震への備えです。特に富士市や沼津市は海抜ゼロメートル地帯も多く、南海トラフ地震の津波だけでなく、豪雨時の洪水対策(狩野川や沼川など)が重要です。また富士山火山災害では御殿場市・小山町が被害想定区域に入るため、他地域への広域避難計画が課題となっています。
中部地域:県都と大井川流域の産業・暮らし
中部地域には静岡市とその近隣の志太榛原エリア(焼津市・藤枝市・島田市・牧之原市・吉田町・川根本町など)が含まれます。静岡市(葵区・駿河区・清水区に区分)は県庁所在地として行政機能が集中し、人口約68万人で県内第二の都市です。商業・サービス業も発達し、静岡鉄道や路線バス網が市内交通を担っています。清水区には清水港があり中部圏の物流拠点ですが、港湾機能の一部は近年清水港と焼津港が統合した「静岡県港湾」に再編される動きもあります。
静岡市は2003年に政令指定都市へ移行しましたが、その後人口減少局面に入り、行政区再編(現在3区)や財政構造改革が課題となっています。政令市でありながら財政力指数は0.83と1を下回り、合併相手の旧清水市との経済格差も残ります。中心市街地の活性化(空き店舗対策や再開発)や、周辺山間部(旧庵原郡や梅ヶ島・玉川地区など)の過疎化への対応も抱えています。ただ、静岡市は防災面で先進的取組(減災目標ゼロ宣言等)を行い、地域防災計画のモデルケースになるなどの強みもあります。
志太榛原地域では、藤枝市がベッドタウン・産業都市として人口約14万人に成長し、子育て支援策などで若年層流入に成功しています。焼津市は遠洋漁業の基地としてカツオ・マグロ水揚げ日本一を誇り、水産加工業で全国的に有名です。しかし近年は漁獲量減少や漁業者高齢化、魚食離れに苦戦しており、焼津港は清水港との機能統合に活路を見出そうとしています。島田市や牧之原市は大井川流域で茶業が主産業ですが、気候変動による生産影響や茶価低迷で、生産者の所得確保が課題です。牧之原市は2005年に榛原郡2町合併で誕生しましたが、財政力指数0.70台と自主財源不足が続きます。
大井川流域では、中上流の川根本町が中山間地域の典型として直面する課題が浮き彫りです。人口約6千人、高齢化率約51%、財政力指数0.33と厳しく、過疎と公共交通維持(大井川鐵道井川線は利用客減で一部休止中)など困難な状況です。一方で、川根茶のブランド化やSL列車による観光誘客などユニークな地域資源もあります。脱炭素時代に向け、水力発電資源(中部電力のダム群)を活用した地域振興策なども検討余地があるでしょう。
中部地域全体の論点は、(1)地方中核都市・静岡市の都市問題(中心市街地再生、老朽インフラ更新、広域行政との連携)、(2)伝統産業(漁業・茶業)の高付加価値化と担い手育成、(3)大井川水系をめぐる環境・産業調整(リニア中央新幹線工事での水資源問題も含む)です。また、南海トラフ地震では駿河湾に近い焼津市や吉田町沿岸部の津波リスク、大井川流域の内水氾濫リスクなど、防災上の課題も山積しています。
西部地域:工業都市と農村が共存する遠州地方
西部地域(遠州)は浜松市を中心に、磐田市、袋井市、掛川市、菊川市、御前崎市、森町と広範囲に及びます。浜松市は人口約79万人で県内最大、市域面積も広大で北遠の山村から南部の海浜まで抱える多様な自治体です。元々「楽器とオートバイの街」として栄えた浜松は、現在もスズキ・ヤマハ発動機・河合楽器・ローランドなど製造業本社が集積し、中小の技術力も高いものがあります。近年はベンチャー支援にも力を入れ、産学官連携で光・医療分野の新産業創出も試みられています。
浜松市は2005年の12市町村合併で政令指定都市となりましたが、周辺農村部との行政サービス均衡やインフラ整備コストが大きな課題でした。その一環で2024年に行政区を7区から3区へ統合し、区役所機能の合理化を図っています。これにより年間数億円規模の行財政効果が見込まれ、他の政令市にも影響を与えています。浜松市のもう一つの特徴は外国人人口の多さで、ブラジルやフィリピン出身者を中心に約2万人超が暮らします。多文化共生や子ども教育支援(日本語指導等)が重要な政策テーマです。
浜松市周辺の磐田市・袋井市・掛川市も、東海道沿いの工業都市かつ農業地帯です。磐田市はヤマハ発動機や自動車部品工場が多く立地し、近年も人口16万7千人規模を維持しています。袋井市・掛川市はそれぞれ約8万~11万人で、遠州の農産物集散地でもあります。掛川市は東海道新幹線駅があることから企業誘致や観光拠点づくりに積極的で、市街地では中東遠地域の医療拠点「中東遠総合医療センター」も開院しました。御前崎市は遠州灘に面し中部電力の原子力発電所(浜岡原発)を抱えるエネルギー供給地ですが、発電所停止中の現在は交付金減少など財政課題が表面化しています。
周智郡森町は人口1.7万人余の小規模町で、製茶・みかん・山林など一次産業中心です。遠州地方には他に市町村合併に参加せず単独町村を維持したケースが少なくなく、森町もその一つですが、将来的な人口1万人割れも見据え持続可能な行財政構造の模索が必要です。
西部地域の論点は、(1)基幹産業の転換期対応(CASE時代の自動車産業、電子楽器等の国際競争力維持)、(2)大都市浜松の周辺市町との役割分担(広域公共交通ネットや水資源・ゴミ処理の共同化等)、(3)原発立地地域の安全対策と地域振興です。浜松市は地震本部の想定震源域に一部入るため耐震対策や津波避難も重要ですが、市北部の山間地では土砂災害・孤立対策も含めてきめ細かな防災計画が求められます。
以上、地域別の特色と論点をまとめました。次章では、これらを踏まえて各市町村の要点を一覧表で示した上で、特に注目すべき自治体の現状・課題・対策について掘り下げます。
市区町村別サマリー(一覧表)
以下の表に、静岡県内各市町および政令市の行政区(合計35市町+6区)の主要データをまとめます(人口は2025年12月1日現在の推計値、高齢化率は2023年4月1日時点、財政力指数は令和5年度(3年平均))。また直近の人口増減傾向(2015年→2020年国勢調査の増減率を基に○△×で表記)、主な産業のキーワード、主要な災害リスク要因も付記します。
| 自治体(行政区) | 人口(人)7 | 高齢化率6 | 人口増減8 | 財政力指数2 | 主産業・強み | 主なリスク(災害) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 静岡市合計 | 680,257 | 30.9% | ×(-4.2%) | 0.83 | 製造・港湾・行政(県都) | 南海トラフ津波・豪雨土砂 |
| ・葵区 | 240,091 | 26.5% | × | (市全体) | 行政・商業中心地 | 内陸地震・土砂(梅ヶ島) |
| ・駿河区 | 210,614 | 27.6% | × | (市全体) | 工業(自動車部品等)・文教 | 津波(駿河湾沿岸) |
| ・清水区 | 229,552 | 34.0% | × | (市全体) | 港湾・水産加工・観光 | 津波(清水港)・液状化 |
| 浜松市合計 | 786,491 | 28.5% | ×(-0.9%) | 0.81 | 輸送機械・楽器・光電子 | 南海トラフ津波・内陸活断層 |
| ・中区(浜松市) | 225,693 | 25.4% | × | (市全体) | 商業・行政中心地 | 液状化・地盤沈下 |
| ・浜名区(浜松市) | 336,624 | 27.6% | × | (市全体) | 工業(北部)・農漁業(南部) | 津波(遠州灘)・洪水(天竜川) |
| ・天竜区(浜松市) | 224,174 | 31.3% | × | (市全体) | 林業・水源地 | 土砂災害・孤立(山間部) |
| 沼津市 | 183,584 | 32.3% | ×(-3.7%) | 0.88 | 機械工業・港湾(水産) | 津波(駿河湾)・活断層 |
| 熱海市 | 31,209 | 48.6% | ×(-17.7%) | 0.85 | 観光(温泉) | 土石流・高潮 |
| 三島市 | 104,186 | 30.3% | △(-1.0%) | 0.86 | 観光・工業(食品) | 地震(箱根火山系) |
| 富士宮市 | 125,922 | 30.4% | ×(-3.4%) | 0.84 | 製造(化学)・酪農 | 富士山噴火・土砂 |
| 伊東市 | 64,196 | 43.8% | ×(-12.2%) | 0.65 | 観光(温泉) | 土砂災害・孤立 |
| 島田市 | 90,515 | 31.9% | ×(-4.8%) | 0.69 | 製茶・木工 | 大井川氾濫・内水 |
| 富士市 | 243,940 | 28.7% | △(-0.5%) | 1.00 | 製紙・化学・産業団地 | 津波(駿河湾)・洪水(潤井川) |
| 磐田市 | 165,852 | 29.1% | ×(-3.1%) | 0.78 | 輸送機械(ヤマハ発) | 液状化・天竜川洪水 |
| 焼津市 | 133,788 | 30.1% | ×(-4.0%) | 0.82 | 水産(マグロ)・漁港 | 津波(駿河湾)・地盤沈下 |
| 掛川市 | 111,792 | 28.4% | ×(-4.0%) | 0.84 | 製造(電子)・茶・観光 | 南海トラフ地震(震度7想定) |
| 藤枝市 | 142,270 | 30.9% | △(+0.2%) | 0.82 | 製造(食品)・住宅都市 | 河川氾濫(瀬戸川) |
| 御殿場市 | 84,558 | 26.3% | △(+0.4%) | 1.02 | 製造(自動車)・観光(富士) | 富士山噴火・豪雪 |
| 袋井市 | 85,929 | 25.2% | ×(-1.7%) | 0.81 | 製造(楽器部品)・農業 | 南海トラフ津波・洪水 |
| 下田市 | 18,714 | 42.7% | ×(-14.9%) | 0.46 | 観光(黒船)・水産 | 津波(相模湾)・高潮 |
| 裾野市 | 49,025 | 28.3% | △(+1.5%) | 0.95 | 製造(自動車) | 富士山噴火・地震 |
| 湖西市 | 58,048 | 28.7% | △(+0.1%) | 1.00 | 製造(輸送機器) | 津波(浜名湖) |
| 伊豆市 | 30,117 | 42.3% | ×(-8.8%) | 0.45 | 観光(修善寺)・農業 | 土砂災害・孤立 |
| 御前崎市 | 29,809 | 32.0% | ×(-6.9%) | 0.92 | 農業(茶)・港湾(風力発電) | 津波(遠州灘)・高潮 |
| 菊川市 | 46,785 | 28.1% | ×(-4.1%) | 0.70 | 製茶・製造(繊維) | 南海トラフ地震・液状化 |
| 伊豆の国市 | 46,901 | 33.8% | ×(-4.4%) | 0.63 | 観光(韮山)・農業 | 地震(伊豆東部火山群) |
| 牧之原市 | 41,712 | 32.9% | ×(-6.5%) | 0.70 | 茶・食品加工 | 津波(駿河湾)・風水害 |
| 東伊豆町 | 11,133 | 47.3% | ×(-13.6%) | 0.54 | 観光(温泉)・水産 | 津波(相模湾)・土砂 |
| 河津町 | 6,472 | 43.3% | ×(-15.0%) | 0.39 | 観光(桜)・農業 | 土砂災害・孤立 |
| 南伊豆町 | 7,565 | 48.1% | ×(-17.8%) | 0.29 | 観光(下賀茂温泉)・農業 | 津波・土砂(孤立リスク) |
| 松崎町 | 5,968 | 49.9% | ×(-18.2%) | 0.26 | 農業(田園風景)・観光 | 津波(駿河湾西岸)・土砂 |
| 西伊豆町 | 6,715 | 52.6% | ×(-17.8%) | 0.26 | 観光(夕陽)・水産 | 津波(駿河湾西岸)・孤立 |
| 函南町 | 36,356 | 32.5% | △(-0.8%) | 0.72 | 住宅都市(新幹線通勤圏) | 土砂災害 |
| 清水町 | 32,010 | 26.5% | △(+0.4%) | 0.92 | 商業・住宅都市 | 地震(活断層) |
| 長泉町 | 45,633 | 22.6% | ◎(+9.4%) | 1.14 | 製造・研究所(裾野富士の裾野) | 地震(活断層) |
| 小山町 | 17,357 | 31.7% | ×(-7.6%) | 0.85 | 工業団地・金太郎観光 | 富士山噴火・豪雨 |
| 吉田町 | 29,249 | 26.2% | ×(-6.2%) | 0.87 | 製造(繊維)・農業(葉タバコ) | 津波(駿河湾)・洪水 |
| 川根本町 | 6,223 | 51.3% | ×(-15.8%) | 0.33 | 林業・観光(SL) | 土砂災害・孤立 |
| 森町 | 17,292 | 36.0% | ×(-8.0%) | 0.54 | 農業(果樹)・木工 | 南海トラフ地震・内陸震源 |
表を見ると分かるように、例えば長泉町は人口増加率+9.4%と県内でも突出した増加を示し(2015~2020年)8、高齢化率も22.6%と低く財政力指数も1.14と最も高い2という好循環にあります。一方で西伊豆町・松崎町など伊豆南部の町は人口大幅減・超高齢化・低財政力という三重苦に直面しています。こうした両極端の間に、大多数の市町が位置しており、それぞれの置かれた状況に応じた課題解決策が求められます。
重点的に深掘りする自治体
上記一覧で概観したように、静岡県内には課題先進地とも言える自治体や、ユニークな取り組みで注目される自治体があります。本節では、その中から10自治体程度をピックアップし、現状・課題・打ち手のポイントを簡潔にまとめます。自治体の選定にあたっては、都市部・中小都市・町村部のバランスや地域性を考慮しました。
静岡市:県都が抱える都市問題と防災先進地としての挑戦
- 現状: 静岡市は政令指定都市として県行政や経済の中心地ですが、人口は1990年代をピークに減少傾向です。2020年国勢調査では前回比4.2%減と、政令市の中でも減少幅が大きくなっています。都市圏人口(静岡都市圏)は約100万人規模ながら、周辺への人口分散や東京圏への流出が課題です。産業面では清水港を核とした海運・製造業と、県庁・企業本社等の集積によるサービス業・行政が二本柱です。財政面では、合併相手の旧清水市地域を含めインフラ整備コストが重く、財政力指数0.83と政令市平均を下回ります。
- 課題: (1) 中心市街地の活性化: 駅前地区の商業地空洞化(大型店撤退など)への対策が急務です。再開発事業こそ進むものの、郊外型商業に押され苦戦しています。(2) 人口流出と少子化: 静岡市は合計特殊出生率こそ1.50前後とやや高めですが、大学進学等で若者が流出し戻らないケースが多いです。(3) 防災: 想定震度7となる駿河湾地震(直下型)の震源域を抱え、沿岸は津波、高台含め土砂災害と多様なリスクがあります。特に清水区は津波避難対策が喫緊の課題です。
- 打ち手: 静岡市は「静岡市都市戦略」に基づき、コンパクトシティと公共交通ネット再編を掲げています。中心街への本社機能回帰促進や空きビルのスタートアップ拠点化(家賃補助)など、都心居住とビジネス誘致策を強化すべきでしょう。防災では既に地域防災の先進的モデル(減災目標や全戸耐震診断推進など)がありますが、今後は地震発生を前提とした「逃げ切る」まちづくりが重要です。例えば、全市民対象のマイ・タイムライン作成支援や、避難所運営にDXを導入したリアルタイム物資管理システム構築などが考えられます。これらは国の防災・減災計画とも整合し、補助金(防災・安全交付金等)を活用可能です。
- 参考: 静岡市は独自に「地震津波対策アクションプログラム」を策定し、「死者ゼロ」を目標に掲げています。これは地域住民の自主防災組織活動(シェイクアウト訓練等)の充実にもつながり、他地域への横展開も期待されます。
浜松市:行政区再編とものづくり産業の変革
- 現状: 浜松市は静岡県西部の広域中心都市で、人口約79万人(2023年)と県内最大です。2005年の合併後に政令指定都市となり、産業経済力も高く、中京圏と首都圏の中間に位置する拠点都市です。主要産業は輸送用機械(自動車・オートバイ)と楽器・電子機器で、製造品出荷額は県内トップクラス。近年はベンチャー企業育成にも注力し、「スタートアップ都市浜松」を掲げています。財政は比較的健全で、財政力指数0.81(令和5年度)と政令市平均程度です。
- 課題: (1) 人口微減と郊外化: 浜松市は合併効果で一時人口増となりましたが、その後自然減・社会減で微減傾向です。特に市中心部で人口減・高齢化が進み、都心空洞化が懸念されています。(2) 産業構造の変革: CASE革命など自動車産業の変革期にあり、関連企業が多い浜松経済への影響が心配されています。従来の二輪・内燃機関分野から、電動化・モビリティサービス分野への転換が必要です。(3) 行政効率: 広大な市域ゆえ行政サービスの偏在が課題でした。これに対し浜松市は2024年に行政区を7→3区に統合し、区役所・支所の再編で効率化を図っています。住民サービス低下への不安も指摘されましたが、「区廃止=サービス廃止ではない」ことの周知と、新体制でのきめ細かな地域対応が求められます。
- 打ち手: 浜松市はスマートシティ化による行政効率向上を掲げ、行政区再編に合わせデジタル窓口やAIチャットボット相談を導入しています。短期的には、再編後の住民フォロー(Q&A周知、住所変更支援など)を徹底し、住民の不満を最小化することが重要です。中長期的には、統合による人的・財政的余力を地域課題(交通弱者対策、地域医療支援など)に振り向け、住民参加型の行政サービス補完(地域自治区や協働センター活用)を進めることで、合意形成とサービス維持を両立させます。
- 参考: 前浜松市長のインタビューでは「区を減らしても建物やサービス自体がなくなるわけではなく、むしろ財政健全化に資する」と述べられています。総務省もこの浜松モデルを注視しており、結果次第で他市への波及もあり得ます。ものづくり産業では、中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援に特化した補助金制度や産学官プラットフォームを拡充し、新産業への転換を下支えする施策が効果的でしょう。
富士市:製紙のまちの挑戦と環境対策
- 現状: 富士市は人口約24.8万人、静岡県東部の工業都市です。古紙パルプから高機能素材まで手掛ける製紙業が市内経済の柱で、日本製紙など大手メーカーの工場があります。また富士山南麓の水資源を活かし食品・飲料産業も立地しています。比較的若年人口が多く、高齢化率28.7%と県平均を下回ります。財政力指数1.00と自主財源も潤沢で、市独自施策を打てる余地があります。
- 課題: (1) 産業多角化と環境対応: 製紙業は省エネ・脱炭素やデジタル化の波にさらされ、需要構造も変化しています。富士市では紙産業のスマート工場化やバイオマス発電など環境投資が進む一方、産業全体の将来像を描く必要があります。(2) 大気・水質環境: 工場群による大気汚染・河川水質の問題は昔に比べ改善しましたが、住民意識は高くエコタウン推進が重要です。(3) 防災: 富士山噴火時の降灰リスクと、東海地震(南海トラフ)の揺れ・津波リスクの複合があります。地盤の軟弱な埋立地も多く、液状化対策も求められます。
- 打ち手: 富士市は既に「未来志向型産業都市」を掲げ、製紙技術の転用による新素材開発支援や企業誘致を行っています。今後も、紙からプラスチック代替素材へなどグリーン成長分野への転換を税制優遇や融資で後押しするべきです。加えて、人材確保策として市内工業高校・高専と企業の協業プログラムや、UIJターン技術者への奨励金制度などを拡充し、地元就職率を高めます。
- 参考: 富士市は国の「脱炭素先行地域」に選定されており、製紙工場から出る廃熱や水素を利用したエネルギー循環モデルの構築に取り組んでいます(2022年度)9。これによりCO2排出削減と産業競争力強化を両立する狙いです。環境未来都市としてのブランド化が進めば、若い世代や環境志向企業の誘致にも有利となるでしょう。
長泉町:人口増を続ける郊外都市の秘密
- 現状: 長泉町(ながいずみちょう)は駿東郡の小規模町ながら、人口増加率県内トップ(2015→2020年 +9.4%)8を記録し話題となりました。人口は約4.5万人、高齢化率22.6%と全国平均より低く、子育て世代の流入が顕著です。町内にはトヨタ系の先端技術研究所や医療機器メーカーなどが立地し、ベッドタウンであると同時に産業集積地でもあります。財政力指数1.14と極めて高く、地方交付税非依存の自立財政を実現しています。
- 課題: 発展を遂げる一方、(1) 急増人口へのサービス対応: 保育園・学校のキャパ不足や都市インフラ整備の遅れが課題です。特に新興住宅地での生活道路・公園不足や渋滞が指摘されています。(2) 将来の少子高齢化: 現在は若い町でも、いずれ子どもが巣立てば高齢化が進みます。団塊ジュニア世代が高齢期に入る20年後を見据えたまちづくりが必要です。(3) 周辺市との連携: 長泉町単独では解決困難な広域課題(ごみ処理、交通計画、病院ネットワークなど)にどう対応するか。三島市・裾野市など近隣自治体との役割分担が求められます。
- 打ち手: 長泉町は今の好調を持続可能な形に昇華させる必要があります。具体的には、開発利益を公共投資へ再投資し、学校増設や道路拡幅など基盤整備を機敏に進めることです。財政余力があるうちにインフラの将来更新費用を積立ておくことも健全です。また、企業城下町としてリスク分散のため、誘致企業の業種多様化や地元発スタートアップ育成にも目を向けるべきでしょう。
- 参考: 長泉町は独自施策で子育て支援に注力しており、第3子以降の保育料無料化や子育て世帯への住宅取得補助を行っています。これらが奏功し、転入超過が続いていると分析されています(町調べ)。国の交付金に頼らない先進サービス提供のモデルケースとして、全国の地方都市からも注目されています。
焼津市:水産都市の再生と津波対策
- 現状: 焼津市は人口約13.7万人、駿河湾に面した港町です。遠洋漁業の基地として全国有数のマグロ・カツオ水揚げ港を擁し、関連する水産加工業が盛んです。黒潮一番地とも称される漁業の街ですが、近年の漁業環境悪化で経済規模は縮小気味です。高齢化率30.1%と県平均並み、人口減少率も2015→2020年で-4.0%とやや大きめです。財政力指数0.82で、一定の自主財源は維持しています。
- 課題: (1) 漁業の衰退: 燃油高騰や資源管理強化で遠洋漁業は船隊規模縮小が続き、関連産業も含め雇用が減っています。後継者不足も深刻です。(2) 市街地の浸水リスク: 焼津市の中心街は海抜0m地帯が広がり、地盤沈下も相まって高潮・津波だけでなく大雨時の内水氾濫リスクも高いです。南海トラフ地震では数分で5m級津波が来襲と想定されます。(3) 港湾の広域利用: 清水港との統合で焼津港の位置づけが変わりつつあり、広域港湾計画の中で地域経済をどう発展させるか戦略が必要です。
- 打ち手: 焼津市は水産業の高度化に取り組むべきです。具体的には、漁獲から加工・流通までバリューチェーンを強化し、マグロの高付加価値化(ブランド化や完全養殖支援)や新商品開発(魚食文化の創出)を行います。また、漁港の耐震・防潮改修と背後地の都市再生を一体的に進め、「守る防災」と「攻める港湾再生」の両立を図ります。津波避難については、防潮堤や水門整備のハード対策と並行して、迅速な広域避難計画(隣接する吉田町や島田市への垂直・水平避難など)の策定と訓練が不可欠です。
- 参考: 焼津市は2020年に静岡県と共同で「焼津港再整備計画」を策定し、老朽化した岸壁補修や耐震強化を進めています。津波対策では、想定津波高に応じた避難ビル指定や、地震発生時に即座に水門を閉鎖する遠隔操作システムの導入などが計画されています(静岡県地域防災計画・津波編より)。これらを着実に実行し、市民の安心と漁業の未来を両立させることが目標です。
川根本町:山間過疎地が模索する生き残り策
- 現状: 川根本町(かわねほんちょう)は中部山間地域、南アルプスの山懐にある人口約6千人の町です。静岡県内でもっとも人口規模が小さく、高齢化率は約51%に達しています。町域面積の大半が森林で、かつて林業と茶で栄えましたが現在は過疎化と高齢化が極度に進行しています。財政力指数0.33と自主財源が乏しく、交付税で基礎的行政サービスを賄っている状態です。
- 課題: (1) 生活インフラ維持: 人口減少により公共交通(大井川鐵道の井川線など)の維持が難しくなっています。買い物・医療も町内だけでは完結せず、生活の利便性確保が課題です。(2) 財政の硬直化: 人口減による税収減に対し、高齢者福祉やインフラ維持費が重く、投資的経費を捻出できません。将来、単独の自治体経営が困難になる懸念があります。(3) 孤立リスク: 台風などで道路寸断すると集落が孤立するケースが度々あります。防災面で広域避難や連絡手段確保が重要です。
- 打ち手: 川根本町のような地域では、コンパクトな集落維持と広域連携の両輪が必要です。具体的には、山間部の小規模集落から中心集落への計画的な住み替え(集約化)を支援し、効率的にインフラサービスを提供するモデルを作ります。一方で森町や島田市など周辺自治体や県と協定を結び、行政サービス(例えばごみ収集や救急医療)を広域でカバーする体制を整えます。財政面では、国の過疎債や地方創生交付金を最大限活用しつつ、森林環境譲与税など新たな財源も積極活用していくべきです。
- 参考: 川根本町は観光資源として大井川鐵道SL列車や寸又峡などを持ち、「ゆるキャン△」聖地巡礼など若年観光客誘致にも成功例があります。近年、リモートワーク移住者向けに古民家改修補助を出すなどの取り組みも始まっています。自治体単独では限界がありますが、静岡県が策定した「中山間地振興方針」に沿って、デジタル技術の導入(遠隔診療やオンライン教育)や地域おこし協力隊の活用で新しい人の流れを作ることが期待されます。
熱海市:リゾート都市の再生と災害対応
- 現状: 熱海市は東京から新幹線で1時間弱という立地の温泉観光都市で、昭和期には新婚旅行や企業保養地のメッカとして栄えました。現在の人口は約3.1万人で、高齢化率48.6%と都市部としては異例の高さです。観光客数は年間約300万人と回復基調にありますが、宿泊客の減少やコロナ禍の打撃がありました。財政力指数0.85で交付税には頼らないものの、別荘地整備の反動で市街地の空洞化や老朽化が目立ちます。
- 課題: (1) 空き家・別荘管理: 市内には膨大な別荘・マンションがあり、所有者不明や管理不全の物件が防災上問題となっています。2021年7月の伊豆山土石流では盛土造成地が崩壊し大被害となりましたが、これも土地利用・管理の課題を浮き彫りにしました。(2) 観光の質向上: バブル崩壊後に大規模旅館の倒産もありましたが、近年は再生が進みつつあります。いかに持続可能で質の高い観光業に転換するかが問われます。(3) 高齢者ケア: 移住定住した高齢者が多く、医療機関や介護サービス需要が非常に高いです。観光地ゆえ若者雇用は季節変動もあり、定住促進には雇用の安定が課題です。
- 打ち手: 熱海市は、別荘所有者ら「関係人口」を地域活性化に取り込む戦略が有効でしょう。例えば、所有者組合と連携して空き別荘をワーケーション施設や簡易宿所に転用する仕組みづくり、固定資産税情報を活用した所有者への適切な管理促進通知などが考えられます。また、観光面ではラグジュアリー路線への転換を図り、高付加価値の宿泊施設誘致や国際会議誘致などを推進します。これには観光庁の補助や民間投資が必要ですが、すでにリゾート再生ファンド等の動きもあるため、行政として環境整備を行います。
- 参考: 熱海市は土石流災害を受けて、盛土規制法の制定など国の制度にも影響を与えました。市は被災者支援と並行し、盛土箇所の全数調査やハザードマップ見直しを実施しています。今後は早期の復興と安全なまちづくりを両立させ、観光と居住の安心感を取り戻すことが急務です。
御前崎市:原発立地と地域振興の両立
- 現状: 御前崎市は遠州灘に突き出た御前崎を中心とする市で、人口約3万人、高齢化率32.0%です。主要産業は農業(茶、メロン等)と漁業ですが、市財政・雇用に大きな影響を与えているのが中部電力浜岡原子力発電所の存在です。現在、原発は全基停止中で、再稼働議論が続いています。財政力指数0.92と自主財源は比較的ありますが、それは原発関連交付金収入が背景にあります。
- 課題: (1) 原発頼みからの脱却: 発電所停止により交付金減少が避けられず、市は代替財源確保と産業育成に迫られています。また安全対策・避難計画も未完了で、住民不安があります。(2) 人口減: 2004年合併時から2割近く人口が減り、若者の市外流出が著しいです。立地企業も少なく、新たな雇用創出が必要です。(3) 津波防災: 御前崎は南海トラフ津波で10m超の浸水が想定されます。原発周辺の防潮堤は強化されていますが、市街地や集落の避難体制強化が課題です。
- 打ち手: 御前崎市はポスト原発の地域振興策として、「再生可能エネルギーの拠点化」や「農漁業の高付加価値化」に取り組むべきです。具体的には、洋上風力発電や太陽光発電の適地として民間資本を誘致し、発電収益の一部を地域還元する仕組みを構築します。また、お茶やメロンといった特産品をブラッシュアップし、6次産業化や輸出促進を図ります。観光では御前崎灯台や海岸線を活かしたマリンスポーツ誘致など、ニッチな観光資源の磨き上げも有望です。
- 参考: 浜岡原発について、御前崎市はこれまで経済恩恵を享受する一方でリスクも抱えてきました。国の「原発立地地域振興策」(電源三法交付金等)に加え、今後はエネルギー政策転換に伴う新たな交付金(例えば脱炭素先行地域へのインセンティブ)を積極的に活用し、将来の財政構造転換を進めることが重要です。
以上、重点自治体の状況を概説しました。他にも藤枝市のように人口微増へ転じた都市や、御殿場市のように企業誘致で財政を潤わせている自治体など様々な例がありますが、紙幅の都合上割愛します。次章では、これらの分析を踏まえ、静岡県全体として取り組むべき解決策のロードマップを提言します。
解決策ロードマップ(県・市町・企業・住民の役割分担)
静岡県内市町村が直面する課題に対し、短期・中期・長期でどのような施策を講じ、誰がどの役割を担うべきかを整理します。ここでは県を軸とした広域施策と、市町村現場での具体策を織り交ぜながら、実行可能性の高いロードマップを提案します。
短期(今後1年):実態把握と計画づくり
ねらい: データに基づき課題を明確化し、迅速に着手できる施策から実行に移す。
- 全市町村の課題指標「見える化」
- 具体策: 人口動態・財政・インフラ老朽度・防災力など主要指標を県が統一フォーマットで可視化し、市町村ごとの課題プロファイルを作成する。これは「市町村DX」の一環として県がデータ提供・分析支援を行う。
- 必要な体制: 県企画局が中心となり、市町担当者とデータ検証チームを編成。専門家や大学と連携し客観的分析を担保。
- 費用・財源: 国の地方創生推進交付金を活用し、デジタル技術導入支援の枠組みで財政負担を軽減。
- 成果指標: 6か月以内に全35市町の課題レポート公表(KPI: 35/35自治体で共有完了)。
- 副作用・対策: データの優劣で自治体間に過度な序列意識が生まれないよう、「比較」ではなく「各自治体の改善点の把握」が目的と周知。
- 南海トラフ地震「地域防災アクションプラン」策定
- 具体策: 南海トラフ巨大地震に備え、全市町村が地域特性に応じた行動計画(マイタイムライン普及計画、津波避難訓練計画など)を策定する。県はモデル様式と技術支援を提供し、未策定の町村には職員派遣も行う。
- 必要な体制: 県防災局と各市町防災担当が合同チームを結成。地域ごとにワークショップ形式で住民・企業参加のプランづくり。
- 財源: 内閣府の防災・減災対策交付金や、国土強靭化地域計画策定補助を利用。
- 成果指標: 1年以内に全自治体で個別アクションプラン策定(KPI: 策定完了自治体数)。
- 副作用・対策: 計画倒れを防ぐため、策定時から住民参加型とし、現実的かつ住民に浸透する内容にする。また計画は数年おきに更新前提とし柔軟性を持たせる。
- 行政サービスの広域連携試行
- 具体策: 複数自治体でごみ処理や公共交通など一部サービスを共同運営する試みを開始。例えば、川根本町・島田市・吉田町でごみ処理広域化、伊豆5町でデマンド交通を共同運行、といったモデル事業を短期で立ち上げる。
- 必要な体制: 関係市町の首長による協議会設置。県は調整役とし、必要なら県企業庁等の参画も検討。
- 財源: 総務省の自治体連携促進事業補助を活用。また広域化で効率化される分を参加自治体が分担投資。
- 成果指標: 1年で3件以上の広域連携モデル事業開始(KPI: 共同事業数)。
- 副作用・対策: 広域連携により一時的に各自治体の裁量が減る抵抗感に配慮。十分な事前協議と成果見込みの「見える化」で住民理解を得る。
中期(今後3年):実行と体制強化
ねらい: 短期に立てた計画を本格実行に移し、制度や組織の改革を進める。
- 人口減少対策パッケージの展開
- 具体策: 若者・子育て世帯の県内定着と移住促進を狙い、「住宅支援・雇用支援・子育て支援」の総合パッケージを県主導で実施。具体的には、県内就職の奨学金返還支援、空き家リノベ補助拡充、不妊治療・保育料助成の強化などを一体的に行う。「若者・移住者サポートセンター」を県内2か所(東部・西部)に設置しワンストップ相談窓口とする。
- 必要な体制: 県雇用局・子育て支援課・市町移住担当の横断チーム結成。市町村は地域の空き家情報提供や企業とのマッチング支援を担う。
- 財源: 地方創生推進交付金およびデジタル田園都市国家交付金(移住促進分野)を確保。県・市町の一般財源も持ち寄り。
- 成果指標: 3年後に社会減少幅の縮小(KPI: 年間転入超過数の増加、例えば2025年比で10%改善)。また移住者数増加(KPI: 移住支援金利用者数など)。
- 産業イノベーションと雇用創出
- 具体策: 地域産業の転換を図るため、「オープンイノベーション拠点」を東部(富士市)と西部(浜松市)に整備。産学官が連携し、新エネルギー・医療福祉機器・観光DXなど重点分野のスタートアップを支援する。既存中小企業には専門家派遣(デジタル化・海外展開アドバイス)を県がコーディネートする。あわせて、UIターン人材バンクを創設し、県外の経験人材を県内企業へ斡旋。
- 必要な体制: 県産業振興財団や商工会議所が中心。静岡大学や浜松医大など高等教育機関とも連携協定締結。市町は地元企業の掘り起こしと場の提供を協力。
- 財源: 経産省の地域新成長産業創出補助や、中小企業庁の事業再構築補助金の誘導。県の企業誘致奨励金も重点分野に配分。
- 成果指標: 3年で新規創業件数の増加(KPI: 年100件→120件など)、製造品出荷額の下げ止まりまたは転換事例創出(KPI: 新製品・サービス事例数)。
- 副作用・対策: 新産業偏重で伝統産業が疎かになる懸念に対し、既存企業の収益向上策(デザイン経営導入など)も並行支援。
- 防災インフラとコミュニティ強靱化
- 具体策: 南海トラフ地震に備え、沿岸部の防潮堤整備・耐震化を完了させる(例:駿河湾沿岸の未整備区画着工)。土砂災害警戒区域の砂防ダムや避難路整備も優先的に実施。ソフト面では全自主防災会にデジタル防災資機材(情報共有アプリ、発電機等)を配備し、災害時の自助共助力を高める。
- 必要な体制: 県土木部がハード整備を統括。市町の区長会や自主防災組織連絡協議会を通じ、住民側と調整。民間(NTT等)とも通信確保協定を締結。
- 財源: 社会資本整備総合交付金、防災・減災国費(5か年加速化対策)を継続的に確保。県市町予算は国費マッチングに重点投入。
- 成果指標: 3年以内に主要防潮堤計画の90%以上完成(KPI: 進捗率)、自主防災組織のカバー率100%(既に達成地域多いが未組織地区解消)。
- 副作用・対策: ハード整備は環境や景観への影響もあるため、合意形成を丁寧に(事前説明会・代替案提示)。ソフトは高齢者・障害者など要配慮者支援を織り込み、デジタル弱者にはアナログ訓練も並行。
長期(今後10年):持続可能な地域社会への転換
ねらい: 県全体で人口減少社会に適応し、災害にも強く、人々の幸福度が高い地域を目指す。
- 市町村の再編・広域行政の確立
- 具体策: 人口規模や財政力で困難が大きい自治体については、任意の「連邦制」による広域連合や、近隣市町との合併も視野に検討する。例えば、賀茂郡5町+下田市による「伊豆南地域連合」設立、牧之原市+吉田町+御前崎市の合併検討など。これにより、職員人材や税収をプールし行政効率とサービス維持を両立させる。
- 必要な体制: 県が中立的立場で各自治体間の協議を仲介。総務省とも連携し、合併特例措置や交付税算定での優遇を引き出す。住民投票など民主的手続きを経る。
- 財源: 合併新法に基づく特例交付税や有利な起債措置を最大限活用。広域連合の場合も財政支援を国に要望。
- 成果指標: 10年後に合併または連合で自治体数減少(KPI: 35市町→30未満など)。行政サービス維持に関する指標(学校数、医療機関数の維持)。
- 副作用・対策: 合併反対派への対応として、地域自治区制度で旧市町のアイデンティティ尊重。サービス低下懸念には、合併効果で住民サービスがどう向上するかを具体的に示す。
- デジタル社会インフラの完備
- 具体策: 県内どこでも高度な医療・教育・ビジネスが受けられるよう、光ファイバー・5G網100%整備とデジタル人材育成を完了させる。オンライン診療で山間部の医療アクセスを確保し、VR教育で小規模校の学習機会を充実させ、リモートワークで都市部からの移住も受け入れやすくする。県は「どこでもオフィス静岡」構想を推進し、各地域にサテライトオフィスと交流拠点を整備する。
- 必要な体制: 県情報政策課が通信事業者と計画策定。市町は公共施設を拠点提供し、地元住民の利用促進役となる。民間IT企業とも協定を結び、ノウハウ提供受ける。
- 財源: デジタル田園都市国家予算を長期間確保。民間資本(ふるさと投資クラウドファンディング等)の活用やPPPで施設整備費軽減。
- 成果指標: 10年でブロードバンド未整備世帯ゼロ(KPI: インフラカバー率100%)、遠隔医療利用者数の増加、オンライン移住相談件数増加など。
- 副作用・対策: デジタル活用に乗れない高齢者へのフォロー(デジタル支援員の配置など)をセットで行い、デジタルデバイドを解消する。
- 地域経済循環とエコシステム
- 具体策: 各地域で生み出された富が域内に循環し、人材も地元で活躍できる「地産地消型経済」を確立する。農林水産物の地産地消率向上、再生可能エネルギーの地産地消(マイクログリッド導入)、コミュニティ企業の育成(NPO・協同組合による介護や買い物支援ビジネス)などを推進する。10年後には、県民の幸福度日本一を実感できる地域コミュニティを増やすことを目指す。
- 必要な体制: 県地域局と市町が住民・地元企業・金融機関を巻き込み、「○○地域まちづくり会社」等を設立して事業を運営。大学生の地域就業体験やシニアの社会参加も促す。
- 財源: 都市部からのふるさと納税や地域振興基金創設で資金調達。国交省の地域再生事業や環境省のカーボンニュートラル補助など横断的に獲得。
- 成果指標: エネルギー自給率、食料自給率などの向上(KPI: 例えばエネルギー地産率20%→40%など)、市町村ごとの幸福度アンケートスコア改善。
- 副作用・対策: 経済の閉鎖性に陥らないよう、域外とも適度に交流し外貨も獲得するバランスを取る。また効率ばかりでなく、地域らしさ・居心地の良さを指標に含める。
以上が短期・中期・長期のロードマップです。これら施策の実現には、県・市町・企業・住民が一丸となって挑戦する「オール静岡」体制が不可欠です。幸い、防災や環境、人づくりの分野で静岡県は全国に先駆的な取り組みをしてきた歴史があります。その強みを活かし、「富国有徳の静岡県」ならぬ「幸福度日本一の静岡県」を目指していきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 静岡県で人口が増えている自治体はありますか?
A1. はい、一部にあります。長泉町(ながいずみちょう)が代表例で、近年も首都圏からの転入や企業進出で人口が増加しています。他に御殿場市や清水町など東部の都市や、藤枝市のように僅かながら増加に転じた市もあります。ただし県全体ではほとんどの市町が減少傾向です。
Q2. 静岡市と浜松市ではどちらが今後有望でしょうか?
A2. 両市とも課題と強みが異なり一概に言えません。静岡市は行政・商業の中心で防災先進地でもありますが、人口減少と中心街の衰退が課題です。浜松市は製造業集積による経済力が強みですが、広域市政の効率化(今回の区再編など)が課題でした。今後、静岡市は県都の機能集約と暮らしやすさ向上、浜松市は産業高度化と多文化共生を進め、それぞれの有望性を高めていくでしょう。
Q3. 南海トラフ地震への個人レベルの備えは何をすれば良いですか?
A3. 静岡県民一人ひとりが「自助」としてできる備えは、(1)自宅の耐震化(昭和56年以前の住宅は耐震診断と補強を)、(2)非常持ち出し袋と食料・水の備蓄(最低3日分できれば1週間分)、(3)家族での避難方法・連絡方法の確認(マイ・タイムライン作成)です。特に津波警戒地域の方は、最寄りの高台や避難ビルを日頃から歩いて確認し、避難訓練に参加してください。また静岡県公式の防災アプリやテレビ等で早めに情報収集することも重要です。
Q4. 静岡県の財政は大丈夫でしょうか?
A4. 静岡県自身の財政力指数は直近0.49程度(標準財政規模と比の3年平均)で全国平均並みですが、今後公債費負担や社会保障費増加で厳しさは増すでしょう。ただ県は財政調整用基金を積み立て、健全化判断比率も適正範囲にあります。一方、県内市町では財政力に大きな差があり、弱い自治体は合併や広域連携も検討課題です。県はそうした市町を財政面・制度面で支援し、全体として「大丈夫」にしていく方針です。
Q5. 静岡県で移住にお薦めの地域はありますか?
A5. ライフスタイルによります。都市便利さを求めるなら静岡市や浜松市中心部、自然豊かな子育て環境なら藤枝市や掛川市、リゾート的暮らしなら伊豆地域(伊東市や函南町など)が人気です。長泉町や清水町は首都圏通勤圏で住環境も良く、移住支援も充実しています。静岡県は移住支援金制度の対象地域も多く、UIJターン就職で最大100万円支給などの施策もあります。県の移住ポータルサイトや各市町の空き家バンクをぜひご活用ください。
Q6. 富士山噴火の際、静岡県は大丈夫ですか?
A6. 富士山噴火では主に東部・富士宮市や小山町方面に被害が及ぶと想定されています。溶岩流は山梨県側へ流れる可能性が高いですが、降灰は風向き次第で広域に及びます。県と関係市町は広域避難計画を策定済みで、例えば御殿場市では住民をバスで県西部へ避難させるプランがあります。また火山灰への備えとして、防塵マスク配布や車両のエアフィルター確保なども推進中です。富士山は常時観測されていますので、兆候があれば事前避難となる可能性もあります。いずれにせよ、「大丈夫」にするため入念な事前準備を進めています。
Q7. 静岡県の交通インフラの将来計画は?
A7. 東海道新幹線は引き続き輸送の大動脈で、リニア中央新幹線が開業すれば県内には駅はありませんが東京~名古屋間短縮の恩恵があります。一方、在来線・バスの利用客減少に対し、県は地域鉄道維持費補助やバス路線維持支援を拡充する方針です。新東名高速が全通し、中部横断道(新清水~山梨)が開通するなど、高速道路網は強化されています。将来的には自動運転バスやオンデマンド交通の実用化が期待され、過疎地の移動手段確保にも繋げたいと考えています。
Q8. 浜松市の行政区再編で困ることは?
A8. 郵便物の宛先表記が変わる(例:浜松市北区→浜松市浜名区など)ため、住所変更手続きが一時的に必要です。また区役所が4か所減るため、身近な窓口が遠くなる地域もあります。ただ市は窓口サービスを市民サービスセンター等で代替し、行政サービスそのものは低下しないよう手当しています。区再編の狙いは職員体制の効率化なので、市民にとっては目立った不便はなく、むしろ浮いた人員・財源が他サービス充実に回るメリットがあります。
Q9. 市町村合併はもう行わないのですか?
A9. 2000年代の「平成の大合併」で静岡県も市町村数が大きく減りましたが、現時点で強制的な合併の動きはありません。ただ、人口数千人規模の町村が今後さらに減少すると単独維持が難しくなる恐れがあり、自主的な合併議論が出る可能性はあります。県としては無理強いはしませんが、合併や広域連携で住民サービスが安定確保できるなら、その環境づくり(法制度や財政支援)は行います。時代に応じて「新しい形の自治」(広域連合など)も柔軟に検討されるでしょう。
Q10. 静岡県の将来に希望はありますか?
A10. はい、あります。確かに人口減少や災害リスクなど課題は多いですが、静岡県には豊かな自然、恵まれた立地(首都圏・中京圏の中間)、高い技術力を持つ企業群、そして防災や環境で先進的に取り組んできた歴史があります。これらは逆に考えれば大きなポテンシャルです。県が掲げる「幸福度日本一」というビジョンのもと、行政と地域住民・企業が一体となって課題解決に挑めば、持続可能で魅力ある静岡県を次世代に引き継げると信じています。
参考文献
- 静岡県「少子化をめぐる状況」令和5年版(2023年10月1日時点の人口) ↩ ↩2
- 静岡県市町行財政課「令和5年度 県内市町財政力指数」(2023年12月) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
- 国土交通省中部地方整備局「中部ブロック南海トラフ巨大地震 新被害想定」(2014年) ↩ ↩2
- プレジデントオンライン「南海トラフ巨大地震の死者数想定と静岡県の減災対策」(2025年4月) ↩
- 静岡県「静岡県の新ビジョン(人口ビジョン)」(2015年策定) ↩
- 高齢化率出典:静岡県「令和5年度市町別高齢化率」(2023年4月1日現在) ↩ ↩2
- 人口出典:静岡県推計人口(令和7年12月1日現在) ↩
- 人口増減は2015年国勢調査→2020年国勢調査の人口増減率(境域調整後)に基づき、「◎増加(+5%以上)」「○やや増(0~+5%未満)」「△微減(0~-5%未満)」「×減少(-5%以上)」で表記。 ↩ ↩2 ↩3
- 富士市「富士市ゼロカーボンシティ宣言 アクションプラン」(2022年) ↩
茨城県44市町村の現状と課題をデータで読む――人口減少時代の地域戦略
茨城県は32市・10町・2村の計44市町村から成り、県北・県央・鹿行・県南・県西の5地域に区分されます。2025年10月時点の県人口は約279万1,000人で、9月中に454人減少しました。本記事では、この茨城県の市町村が直面する人口減少・高齢化や産業・財政・インフラなどの課題を、最新データと一次資料から徹底検証し、実行可能な解決策を探ります。結論として、地域ごとの特性に応じた「コンパクト+ネットワーク」戦略や広域連携による行政効率化が鍵となります。その具体像を以下で詳述します。 要点(ポイント): 人口 ...
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