国内・国際 政策

サイレント・インベージョンとは何か?

中国の“静かな侵略”があなたの身近に及んでいるとしたら――。2018年に刊行された『サイレント・インベージョン』(クライブ・ハミルトン著)は、オーストラリアにおける中国の巧妙な影響力工作を暴き、自国の主権が侵食されつつある現実に警鐘を鳴らしました。本書は出版直後から政治・社会に激震を与え、外国勢力による干渉を阻止するための政策転換にまで結びついたのです (Hamilton 2018; Welch 2018)。この記事では、その「静かな侵略」の手口と影響、オーストラリアの対応策、そして国際社会、とりわけ日本への示唆を、最新の知見も交えて解説します。読めば、中国の影響力工作がどのように行われ、それに対して民主社会がいかに立ち向かえるのかがクリアになるでしょう。

本書が警告する「静かな侵略」の手口

A: 中国共産党はオーストラリアの政界・社会のあらゆる層に密かに入り込み、自国に有利な影響力を行使している――これが本書の指摘する「静かな侵略」の実態です。 具体的には、政治家への資金提供や取り込み、華人コミュニティや学生への工作、学術研究やメディアへの浸透など、多岐にわたる手口でオーストラリア社会を“内側から”形作ろうとしているのです。以下、Q&A形式で主要な工作の手口を見ていきましょう。

Q: 政治家への影響工作にはどんな手口があるのか?

A: 親中的な資金提供や役職斡旋によって、オーストラリアの政界に巧妙に働きかけています。 中国政府と関係の深い中国系富豪らが与野党の政治家に多額の政治献金を行い、その見返りに中国寄りの発言や政策を引き出そうとするケースが明らかになりました。たとえば実業家の黄向墨(ファン・シアンモー)は2010年代に政治家らへ累計約270万豪ドル(他の中国系富豪との合算では最大670万豪ドル)を献金し、自身が創設に関与したシンクタンク※ACRIを通じて親中的な世論醸成を図ったとされています。実際、本書は多数の現・元政治家を「中国政府の影響下にある可能性がある人物」と列挙していますが、企業役職就任の具体的数値までは示していません。こうした「政界工作」の典型例として、劉特佐(サム・ダスティヤリ)上院議員が中国側に迎合する発言を繰り返し、献金疑惑の発覚後に辞職に追い込まれた事件も有名です。これらは氷山の一角に過ぎず、長年にわたり中国がオーストラリアの政策決定層に影響力を及ぼそうとしてきた証左だといえます。

Q: オーストラリア華人社会やメディアはどのように利用されている?

A: 中国政府は在豪華人コミュニティの団体や中国語メディアを通じて、世論や言論空間をコントロールしようとしています。 たとえば、中国大使館の影響下にある愛国団体が華人社会で活動し、中国政府に批判的な言動を封じる圧力をかけるケースがあります。実際、中国共産党の対外工作部門である統一戦線工作部の関連団体「中国和平統一促進会」オーストラリア支部などは、中国大使館の指導の下で地元華人を取り込み、親中派集会の動員や反中国的な動きの監視に関与してきました。また、中国系資本がオーストラリアの中国語新聞社を買収し、報道の論調を親中寄りに変える動きも指摘されています。これにより、中国政府に都合の悪いニュースが華人コミュニティに届きにくくなるだけでなく、大学キャンパスでの中国政府批判を封じ込める圧力となる場合もあります。実際、大学講師が台湾を「独立した国」と言及したところ、中国領事館が大学に抗議し、大学側が講師に注意するといった事例も報告されています。このように、中国政府は在外華人社会のネットワークや言論基盤を利用し、“見えない形”で他国社会への影響力を行使しようとしているのです。

Q: 学術・教育分野への浸透もあるのでしょうか?

A: はい。大学や研究機関を通じて先端技術や軍事転用可能な情報を取得しようとする動きが確認されています。 オーストラリアの主要大学には多数の中国人留学生・研究者が在籍し、中国軍と繋がりのある研究者が身分を偽って留学する事例も報告されています。本書によれば、オーストラリア人研究者が知らぬ間に中国人民解放軍の関連研究に協力していたケースや、宇宙・AI・暗号など安全保障上敏感な技術が中国側に流出するリスクが指摘されています。実際、中国軍所属の科学者が海外の大学で学ぶ「Picking flowers, making honey(外国の花を摘み中国で蜜を作る)」戦略により、2007年以来2,500人以上もの軍人研究者が留学し先端知識を持ち帰ったと報告されています。ASPI は「豪州の大学が人民解放軍(PLA)関連研究への寄与度で五眼中最も高い」と分析しています(正確な倍率は未公表)。さらに、中国政府は各国の大学に孔子学院を設置して中国語・文化教育を提供していますが、その運営過程で大学への干渉や言論統制の懸念もかねてより指摘されています (Davies 2019)。こうした教育・研究分野への浸透工作に対し、オーストラリア政府と大学は2019年以降「大学外国干渉タスクフォース」を組み、ガイドライン策定や情報共有によってリスク軽減に努めています。しかし専門家は「現在の対策は一過性の対応にすぎず、脅威の深化に応じた継続的かつ協調的な安全保障意識が不可欠」と警鐘を鳴らしています。

Q: その他に指摘されている影響工作の例はありますか?

A: 宗教や地方政府など、見落とされがちな領域にも中国の静かな働きかけが及んでいます。 本書では、中国共産党がキリスト教などの宗教コミュニティに対しても「滲透(しんとう)」を試みていると描写しています。実際、中国政府は海外の中国系教会に工作員を送り込み、教会内で中国共産党の影響力を広めるよう指示していたとされます。豪州国内の中国系教会のウェブサイトに「中国共産党の台頭は神の御心による」旨の記述が掲載された例も報告されました。また、地方レベルでは、オーストラリア南部タスマニア州での大規模リゾート開発計画に中国企業が関与していることに対し、「中国が南極進出の足掛かりとして土地取得を狙っている」と地元政治家が警告したケースもあります。このように、宗教から地方経済に至るまで、中国政府はあらゆるチャネルで影響力の構築を図っているのです。

以上のような手口が積み重なった結果、オーストラリアでは「国家の主権が音もなく浸食されつつある」とハミルトン氏は警告しました。多くの中国系エリートや組織が“静かに”送り込まれ、公然とスパイ行為をするのでなく内側から世論や政策を動かそうとする様は、まさに現代の「静かな侵略」と言えるでしょう。

豪州政策はどう変わったか(2018–2025)

A: 「サイレント・インベージョン」が提起した問題に直面し、オーストラリアは2018年に抜本的な外国干渉対策法を成立させ、その後も大学との協働や安全保障制度の拡充によって対策を強化してきました。 具体的には、2018年の外国干渉防止法成立と通信インフラからの中国企業排除を皮切りに、研究分野のガイドライン策定や対外関係の見直しなど、国家戦略レベルで大きな転換が図られました。2025年現在も、官民連携による体制強化と法整備が進められています。

政策転換の始まり: 外国干渉防止法の成立(2018年)

2017年末から2018年にかけて、オーストラリア政府は中国による影響工作への危機感から、大胆な立法措置に踏み切りました。当時のターンブル首相は「外国勢力が我々の政治に前例のない規模で干渉を試みている」と述べ、外国干渉対策法制パッケージを議会に提出しました。この法案は与野党の超党派支持を得て迅速に審議され、2018年6月に成立しました。同法は以下のような画期的内容を含んでいます。

  • 外国からの政治献金の禁止: 政党や政治家への海外からの献金を全面的に禁じ、不透明な資金流入を遮断しました。
  • 外国代理人の登録制度: 他国政府や関連組織のために政治的活動を行う個人・団体に対し、外国エージェント登録(FITS法)を義務づけました。米国のFARAにならった透明化措置で、登録を怠れば刑事罰も科されます。
  • スパイ・内乱罪の厳格化: 諜報(エスピオナージ)の定義を拡大し、機密情報の所持自体を犯罪とするなど処罰範囲を強化しました。また、外国政府の指示で政治に干渉する行為を新たに違法化しました。
  • 政治的機密漏洩への対応: 公務員等が外国のために政治的意思決定に干渉する行為も明確に処罰対象となりました。

これらの措置により、「外国の代理人」と見なされる人物を洗い出し、公正な民主プロセスを守る法的武器が整えられました。実際この法律成立後、中国政府と密接な関係にある人物への監視が強化され、2019年には中国系富豪の黄向墨の永住権取り消し(入国禁止)など具体的な対抗措置も取られました(Kearsley 2019)。もっとも、審議段階では「表現の自由が萎縮しかねない」との懸念も上がり、グリーンズ党など一部少数政党は「強権的すぎる」と反対しました。しかし主要政党は「外国による選挙干渉は断じて許さない」と結束し、結果的にオーストラリアは先進民主国の中でもいち早く包括的な対外干渉抑止法制を手にしたのです。

対中関係の急冷と安全保障政策の強化

この新法成立に前後して、オーストラリアの対中政策は安全保障を最優先する路線へ大きく舵を切りました。2018年には、政府が中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の5G参入を禁止する決定を下します。これは外国干渉のリスクが高い通信インフラから中国政府影響下の企業を排除する措置で、米英など他国にも影響を与えました。また2018年には、Critical Infrastructure Centre(重要インフラ審査局)が新設され、通信・電力・港湾などのインフラへの外国投資を安全保障の観点から精査する制度も整備されています。これは2015年に中国企業がダーウィン港の99年租借権を取得したことへの批判を教訓としたもので、同様に2016年に中国国有企業による送電網買収が安全保障上の理由で直前で阻止されるなど、経済と安全保障の線引きを見直す動きが相次ぎました。

さらに2020年には、連邦政府が州政府や大学などによる外国との協定を審査・破棄できる「対外関係法」を制定し、これに基づき2021年にはビクトリア州政府が中国と結んでいた「一帯一路」協力覚書を破棄しています。このように国家安全保障の観点から対中関係を再構築する一連の政策により、中国側は猛反発。2018年以降、中国政府はオーストラリアとの閣僚級対話を凍結し、豪州産石炭の通関遅延(事実上の輸入制限)など経済的報復にも乗り出しました。両国関係は数十年来最悪と言われるほど冷え込みましたが、この冷却期間にオーストラリアは法制度と安全保障網を着々と固めたのです。

官民連携による防御態勢の構築

対中関係が悪化する中でも、オーストラリアは開放経済・多文化社会としての利点を損なわぬよう工夫しながら防御策を進めました。その象徴が大学・研究機関と政府の協働です。2019年、政府と豪州大学協会は「大学外国干渉タスクフォース(UFIT)」を結成し、同年11月に外国干渉対策ガイドラインを初公表しました。このガイドラインでは、研究分野でのリスク評価やサイバー防御強化、機微技術へのアクセス管理など具体策が示され、各大学はこれを受けて研究提携や留学生受け入れの審査を厳格化しています。2021年にはガイドラインの改訂版が発表され、より詳細なリスク評価手順や政府による支援策が盛り込まれました。例えば、中国人民解放軍と関係が深い大学出身の留学生が先端技術研究に参加する場合のチェック体制や、教員・職員への研修強化などが挙げられます。

政府側でも、内務省や教育省が中心となって大学における外国干渉対策の年次調査やワークショップを開催し、各校の取り組み状況や課題を共有する取り組みを続けています。2023年公表の報告書(対象データは2022年度)で、全豪42大学の自己点検結果がまとめられ、成功事例や新たな障壁が分析されました。その結果、大学側からは「各種規制の複雑さや負担」に対する懸念も示されましたが、一方で政府との情報共有ネットワークが徐々に浸透しつつあることも確認されています。「安全保障は政府だけでなく大学・産業界も共有すべき責務」との認識が広がり、実際に2023年には有力大学で構成するグループ・オブ・エイトが元国防高官を共同議長とする安全保障委員会を立ち上げ、政府との連携強化に乗り出しました。このように官民のパートナーシップにより、単なる規制強化ではなく「協調的なリスク管理」への移行が図られています。

もっとも、安全保障の専門家からは現状に対する厳しい評価も聞かれます。2025年6月に発表されたオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の報告書は、「この7年間で対策は前進したが、脅威の高度化に対して対応は追いついていない」と指摘します。具体的には、従来のスパイ行為や不透明献金に加え「研究者への個別工作」「サイバー攻撃」「法律の抜け穴を突いたローフェア(法手続きの濫用)」など、多様化する手口が指摘されており、対応には発想の転換が必要だと警告しています。同報告書は、今後は「不断のアップデートと政府・大学・企業の共同責任」に基づくエコシステム強化が不可欠だと強調しています。もし対応を怠ると、報告書では「現在のペースのままでは豪州が西側の“weakest link”になる恐れがある」と警鐘を鳴らしています。このようにオーストラリアでは現在も試行錯誤が続いており、“静かな侵略”への対応は長期的な課題となっています。

国際社会への示唆――日本への教訓

A: オーストラリアの経験は、民主主義国家における中国の影響力工作の実態と、その対抗策の必要性を如実に示しています。日本にとっても対岸の火事ではなく、官民挙げた予防策と透明性の確保が急務であることを教訓として伝えています。 すなわち、「開かれた社会」であることを悪用した巧妙な干渉に対し、法律・制度面での備えと国民の意識向上を図ることが、国際社会共通の課題となっているのです。

“カナリア”となった豪州――他国への警鐘

オーストラリアはその地政学的位置と多文化社会ゆえに、中国の影響力工作の「先行事例」となりました。ある専門家は「オーストラリアは中国共産党干渉工作の炭鉱のカナリアだ」と表現しています。実際、2017年以降に露見した政治献金スキャンダルや諜報事件は、欧米諸国にも大きな衝撃を与えました。その結果、米国では中国人研究者の査証制限や孔子学院の閉鎖、ヨーロッパでも中国系企業による重要インフラ買収の規制強化など、各国が次々と対策に乗り出しています。米連邦捜査局(FBI)は中国による大学・研究機関への体系的スパイ活動を繰り返し警告し、実際にハーバード大学教授が中国からの資金受領を隠した罪で逮捕される事件も起きました (Doshi 2020)。カナダでも2019年に諜報当局が「中国はカナダの政治制度に長期的脅威をもたらす」と報告し、2023年には中国政府が特定政党に有利な工作を行っていた疑惑が政治問題化しました (Leuprecht 2019; Global News 2023)。イギリスは2023年にオーストラリアに倣った外国影響力登録制度を導入し、中国のみならずロシアなどによる見えない干渉の摘発に乗り出しています。こうした国際的潮流は、豪州発の警鐘が各国を目覚めさせた結果とも言えるでしょう。

もっとも、各国事情により対応温度差もあります。経済的に中国への依存が高い国ほど対策には慎重で、例えばニュージーランドでは親中派政治家の献金問題が指摘されつつも法整備は豪州ほど進んでいません (Brady 2018)。その点、オーストラリアは米国と同盟関係を結び、中国への経済依存も相対的に分散できていたことが迅速な対応を可能にした側面があります。しかし中国の影響力工作は規模・対象国とも拡大傾向にあり、どの民主国家も無縁ではいられないのが現実です。国境を越えた情報共有や協調行動も含め、国際社会全体で対処すべき問題として認識が深まっています。

日本への教訓: “想定外”を想定した備えを

日本もまた、中国から見れば重要な標的たり得る近隣の民主国家です。現在、日本ではオーストラリアほど露骨な政治介入スキャンダルは報じられていませんが、それは表面化していないだけでリスクが存在しないわけではありません。むしろオーストラリアの例から学ぶべきポイントは多々あります。

まず法制度面の備えです。日本には外国代理人の登録制度も包括的な対外干渉禁止法も存在せず、事実上スパイ行為を取り締まる法律も未整備と言われます (岡部 2022)。現在適用できるのは刑法の外患誘致罪や国家公務員法の守秘義務違反など限られた範囲で、経済・学術分野での情報流出や外国資金による政治工作に特化した規制は手薄です。例えば日本の公安調査庁OBは「日本には実質的なカウンターインテリジェンス(防諜)機能がない。スパイ容疑があっても盗聴を含む強制捜査はテロ・薬物事犯以外では困難だ」と指摘しています。また政治資金面でも、献金先を迂回した外国資本からの寄付や、政治家への便宜供与を完全に防ぐ仕組みは不十分との声があります。こうした弱点を突かれれば、“静かに”“合法的に”日本の世論や政策形成に影響を及ぼされかねません。日本政府は近年、安全保障関連法制の整備や経済安全保障推進法の成立など動きを見せていますが、豪州のような直接的な外国干渉防止策には踏み込めていません。オーストラリアの事例は、日本もまたスパイ防止法や外国エージェント登録制度の是非を真剣に検討すべき段階に来ていることを示唆しています。

次に学術・技術分野での対策です。日本は理工系の高等教育に多くの中国人留学生・研究者を受け入れており、その中には中国政府系の奨学金(国家建設高水準大学公派研究生項目など)で派遣され、一定の制約下に置かれている人材もいます。中国政府奨学金を受けた留学生は「国家への忠誠」を誓約させられ、定期報告義務を課される秘密契約に署名している場合があると報じられています。彼らの家族は中国から出国制限下に置かれることもあり、もし中国当局から指示があれば研究データの提供などを拒めない状況に置かれる可能性があります。実際、徳島大学では2021年、中国人研究員が不正に持ち出した薬学研究データを中国に送信していた事件が発覚し逮捕されています。日本政府は2021年に「安全保障分野での技術流出防止ガイドライン」を策定し、大学に対し外国人研究者や外資との共同研究のリスク評価を求め始めましたが、その実施は各大学の裁量に委ねられ、法的拘束力はありません。オーストラリアが大学との協働によりガイドラインを策定し、政府が年次調査まで行っているのに比べ、日本はまだ危機意識も対策も途上と言えます。「オーストラリアにできて日本にできない理由はない」との指摘もあり (Searight 2020)、研究現場における透明性とリスク管理を日本も一層強化していく必要があるでしょう。

最後に国民の意識醸成です。オーストラリアでは「静かな侵略」が大きな社会問題として報道され、世論の後押しで厳しい法律が成立しました。一方日本では、中国の影響力工作について一般にはあまり議論されていません。しかし、中国は自国に批判的な言論を封じるため在日華人社会や親中派言論人を動かす可能性もあり、実際に北海道大学元教授が中国当局のスパイに仕立て上げられ長期間拘束される事件も起きています(産経新聞2022年)。リスクは存在するのに見えていないだけ、という状況を放置すれば、“気づいた時には手遅れ”になりかねません。オーストラリアの例は、「侵略」は軍事だけではなく情報戦や世論戦の形でも進行し得ることを私たちに教えています。日本も平時からこの問題に関するオープンな議論を深め、国民の危機意識と理解を高めておくことが重要です。

まとめれば、オーストラリアは中国の影響力拡大にいち早く直面し、苦い経験を経て防衛体制を築きつつあります。その教訓は日本を含む他の民主国家にとって、「開放性」と「安全保障」のバランスをいかに取るかという普遍的課題への示唆となっています。日本は経済・人材面で中国と深い関係を持つだけに、オーストラリア以上の慎重さと戦略的対応が求められるでしょう。幸いオーストラリアとの間には緊密な情報交換や安保協力の枠組み(QUADやAUKUSなど)も芽生えています。こうしたパートナーシップも活用しつつ、見えざる侵略に対抗する知見と体制を強化していくことが、日本の企業・社会のリスクマネジメント上ますます重要になるといえます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 『サイレント・インベージョン』とは何ですか?

A1. オーストラリアの公共倫理学者クライブ・ハミルトンが2018年に発表した書籍で、副題は「中国の影響力がオーストラリアをどう操っているか」です。中国共産党による政治・社会への隠れた干渉を膨大な調査で暴き、同国の主権侵害に警鐘を鳴らした作品です (Hamilton 2018)。発売直後から論争を呼び、豪州政府が外国干渉防止法を成立させる一因にもなりました。

Q2. なぜこの本は論争を巻き起こしたのですか?

A2. 中国の影響力工作を名指しで告発する内容だったためです。出版前に大手出版社が「中国側の圧力」を懸念し発売中止する事態となり、最終的に別出版社から刊行されました。また本書は40人以上の政治家や実業家を中国の「代理人」として批判しており、名指しされた人々や中国政府は強く反発しました。豪州人権委員会の人種差別担当コミッショナーだったティム・サウスマサーネ氏は「黄禍論を想起させる煽情的表現がある」と本書を批判し、中国系市民への差別を助長しかねないとの懸念も呈しています (Soutphommasane 2018)。一方、著者は「調査協力者は中国系豪州人であり、人種偏見による著述ではない」と反論しました。

Q3. オーストラリアの外国干渉防止法とは何ですか?

A3. 2018年にオーストラリアで成立した一連の法律で、外国政府やその代理人による政治干渉やスパイ活動を取り締まる枠組みです。主な内容は、(1)外国からの政治献金の全面禁止、(2)外国のために政治活動する代理人の登録義務化、(3)国家機密の漏洩や外国への協力行為に対するスパイ罪の厳罰化などです。違反すれば厳しい刑事罰が科され、2018年以降実際に中国の関与が疑われる人物の訴追例も出ています。豪州はこの法律で外国からの見えない干渉に法的手段で対抗する先進国のモデルケースとなりました。

Q4. この本の出版は本当に政策に影響を与えたのですか?

A4. はい、与えました。本書が提起した問題は豪州世論を動かし、外国干渉防止法成立を後押しした要因の一つと広く評価されています。実際、ハミルトン氏自身が議会公聴会に本書を提出し法案支持を訴える場面もありました。学術的にも「2018年の本書出版が中国への警戒感を一段と高め、政策転換の転機となった」と分析されています。もっとも政府内では本書以前から中国問題への懸念が高まっており、元上級顧問ジョン・ガルナウト氏の調査報告など複合的要因が作用しています。それでも、メディアや有権者の関心を喚起し立法に至る環境を整えた点で、本書の影響は大きかったと言えるでしょう。

Q5. 中国政府はこの本やオーストラリアの対抗策にどう反応しましたか?

A5. 中国政府は本書の内容を強く否定し、オーストラリアに対し「冷戦思考だ」と非難しました。中国外交部報道官は「中国は他国の内政に干渉したことはない」と反論し、豪州メディアの一連の報道を“一笑にも値しない”と切り捨てています。また、外国干渉防止法の制定やファーウェイ排除に対しては、2018年以降高官対話の停止や石炭など資源貿易の遅延措置といった形で報復しました。加えて、中国共産党系メディアはハミルトン氏を「反中扇動者」と批判し、本書を名指しで“デマ”と決めつけています。しかし2022年、豪州情報機関が中国による選挙干渉未遂を摘発するなど事実が積み上がるにつれ、中国側も表立った反論は控えるようになっています。総じて中国政府は、自らへの批判を封じ込めようと豪州に圧力をかけましたが、豪州の世論と政策の流れはそれを押し返した形です。

Q6. 他の国もオーストラリアに倣って対策を取っていますか?

A6. はい、徐々に広がっています。米国は以前から対外代理人登録法(FARA)を持ち、近年は中国人研究者へのビザ規制強化や孔子学院の閉鎖支援など対策を強めました。イギリスは2023年に外国影響力登録制度を導入し、中国やロシアの代理人活動を可視化しようとしています。カナダやニュージーランドも政治献金規制や情報機関の権限拡大など豪州に学んだ動きを見せています。特にカナダでは中国による選挙干渉疑惑が問題化し、独立調査や対策法制検討が進行中です。欧州では、リトアニアが台湾問題で中国から経済報復を受けた経験を踏まえ、EU全体で経済的威圧への対抗措置を議論しています。もっとも、オーストラリアほど包括的な法律を整えた国はまだ多くありません。ただ、中国による影響工作が国際問題として周知されるにつれ、「豪州に続け」と各国で法整備や防諜の強化が加速しているのは確かです。日本でも経済安全保障推進法が成立し、学術分野の外国資金開示などが盛り込まれましたが、豪州型の包括法は今後の検討課題です。

Q7. 日本では同様の問題は起きているのですか?

A7. 目立った事件は公には報じられていませんが、潜在的リスクは存在します。例えば、中国企業による北海道の土地買収問題や、政界OBが中国企業の高額顧問に就任するケースは指摘されています。また前述のように大学研究者による技術流出事件も起きました。中国大使館が在日華人団体と連携して世論工作を行っているとの見方も専門家から出ています。現状、日本には豪州のようなスパイ防止法や外国代理人登録制度が無いため、水面下の干渉行為を発見・摘発するハードルが高いと言われます。そのため「問題が見えていないだけで起きていないとは限らない」のが実情です。オーストラリアの例は、日本も対策を講じなければ“静かな侵略”の土壌があることを示しています。

Q8. 企業には中国の影響力工作によるどんなリスクがあり、どう対処すべきですか?

A8. 企業も他人事ではありません。中国市場や資本に依存する企業は、知らぬ間に中国政府の政治目的に利用されるリスクがあります。例えば中国の関連団体から奨学金や研究資金を受けた大学発ベンチャーが、その見返りに中国側に有利な技術提供を求められるケースなどが想定されます。また中国企業との合弁や提携を通じて機微な技術情報が流出する恐れもあります。対処策としては、リスクの事前評価と情報開示の徹底が挙げられます。豪州では企業に対し外国出資の透明化や重要インフラ入札時のセキュリティ審査が義務づけられています。日本企業も、自社が中国関連の資金や人材と関わる際には、その背後に政府の意図がないか慎重に見極める必要があります。また従業員向けにサイバーセキュリティ教育を行い、スパイ行為の手口や接近戦術について啓発することも有効です。要は「備えあれば憂いなし」で、平時から情報管理やコンプライアンス体制を強化し、怪しい働きかけには組織的に対抗する仕組みを作ることが重要です。

Q9. 『Hidden Hand(隠れた手)』とは何の本ですか?

A9. 『Hidden Hand』は、クライブ・ハミルトン氏がドイツ人研究者マレイケ・オールバーグ氏と共著で2020年に出版した本で、中国共産党が欧米諸国で展開する統一戦線工作を扱ったものです。『サイレント・インベージョン』が豪州国内に焦点を当てたのに対し、『Hidden Hand』はヨーロッパや北米での影響工作や情報戦にスポットを当てています。出版前に中国から法的圧力がかかり発売延期になるなど話題を呼びました。内容は各国の政治家・実業家・学者らがいかに中国の「見えざる手」に取り込まれているかを具体例と共に暴露するもので、統一戦線戦略(党の対外工作戦略)の解説書としても有用です。本書は各国に「眠れる市民や政治家を目覚めさせる」のが目的とされ、実際イギリスやドイツでも議会で議題に上るなど大きな反響を呼びました。

Q10. 著者クライブ・ハミルトンはどんな人物ですか?

A10. クライブ・ハミルトン(Clive Hamilton)はオーストラリアの公共知識人・著作家です。1953年生まれ。オーストラリア国立大学で経済学博士号を取得後、シンクタンク「オーストラリア研究所」の初代所長を務めました。気候変動問題の論客として知られていましたが、2010年代から中国の海外影響力に警鐘を鳴らす活動に注力し始めます。2008年からはチャールズ・スタート大学の公共倫理学教授を務め、2018年に『サイレント・インベージョン』を発表しました。同書は中国政府の圧力で一時出版が見送られるトラブルも乗り越えた経緯から「言論の自由を守った本」とも評価されます。ハミルトン氏は現在も執筆や講演を通じ、民主社会における中国の影響力について積極的に発言しています。近著に前述の『Hidden Hand』(2020年)や、気候変動倫理に関する著作などがあります。

まとめ/行動提案

中国による「静かな侵略(サイレント・インベージョン)」は、一見穏やかに見える手段で他国の意思決定に影響を及ぼす新たな挑戦です。オーストラリアはその現実に直面し、試行錯誤の末に法整備と社会の免疫力向上に動き出しました。その経験から浮かび上がるキーワードは「透明性」と「統合的対応」です。民主主義の強みである開放性を維持しつつ、見えざる干渉には光を当てて透明化し、政府・企業・学術機関・市民社会が一丸となって対処する枠組みが求められます。

日本に暮らす私たちにとっても、オーストラリアの教訓は他人事ではありません。ビジネスパーソンであれば、自社が知らぬ間に地政学リスクを抱え込んでいないか、取引先や提携先の背後に不透明な意図がないか、常にチェックが必要でしょう。政府や自治体レベルでは、法制度の整備と情報当局の機能強化に加え、民間とのパートナーシップを築いてリスク情報を共有することが重要です。大学や研究機関は、学問の自由を尊重しつつ国家機密や先端技術の管理を厳格化し、研究者の利益相反開示制度を整える必要があります。

幸い、オーストラリアが築いた対策モデルや国際協力の枠組みが参考になります。「知は力なり」の言葉通り、まず何が起きているのかを知り議論することが第一歩です。本記事で概観したように、静かな侵略の手口は多岐にわたりますが、その本質は「相手の無関心や油断につけ込む」点にあります。であればこそ、私たち一人ひとりが関心を持ち、疑問に思ったら調べ、議論し、声を上げることが最大の防御策となるでしょう。開かれた社会の開かれた議論こそが、静かな侵略を跳ね返す力になるのです。

オーストラリアの毅然とした対応は、一時的に中国との関係悪化を招きましたが、自国の民主主義と主権を守る上で不可欠なコストでした。日本もまた、経済的利益と安全保障のバランスを冷静に見極め、必要な一線は譲らず引く覚悟が求められます。静かな侵略に対して静かに門戸を閉ざすのではなく、オープンな議論と断固たる措置で立ち向かう――それが、このグローバル時代における主権防衛の新しい姿と言えるでしょう。

最後に、本稿で触れた問題は決して中国やオーストラリアだけの話ではなく、21世紀の国際社会全体が直面する課題です。高度に相互依存した世界では、見えない影響力が国境を越えて広がります。しかし同時に、民主主義国同士が経験と知恵を共有し合うことで、私たちはこの課題に立ち向かうことができます。「知られざる侵略」を「皆が知るところ」とし、対策を講じていくことこそが、自由で開かれた社会を次世代に引き継ぐ鍵となるのです。

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2025/7/31

サイレント・インベージョンとは何か?

中国の“静かな侵略”があなたの身近に及んでいるとしたら――。2018年に刊行された『サイレント・インベージョン』(クライブ・ハミルトン著)は、オーストラリアにおける中国の巧妙な影響力工作を暴き、自国の主権が侵食されつつある現実に警鐘を鳴らしました。本書は出版直後から政治・社会に激震を与え、外国勢力による干渉を阻止するための政策転換にまで結びついたのです (Hamilton 2018; Welch 2018)。この記事では、その「静かな侵略」の手口と影響、オーストラリアの対応策、そして国際社会、とりわけ日本 ...

国内・国際 政策

2025/7/30

海外における外国人問題:移民・難民・留学生・技能実習生の現状と課題

導入・問題提起 近年、世界各国で外国人にまつわる問題がクローズアップされています。移民として新天地を求める人々、紛争や迫害から逃れた難民、高度教育を受けるために国境を越える留学生、そして技能習得を名目に海外で働く技能実習生など、その形態は多岐にわたります。グローバル化や少子高齢化に伴い人の国際移動は避けられない潮流となっており、それに伴う社会的課題も複雑化しています。例えば受け入れ国では、外国人労働者の雇用や地域社会への統合、治安への影響が議論され、一方送り出し国では人材流出や家族の分断といった問題があり ...

政策 社会

2025/7/29

右翼と左翼の違いとは何か?初心者向け解説

① 右翼と左翼とは何か 政治における右翼(右派)と左翼(左派)とは、人々や政党の思想的な立場を表す言葉です。一般に右は伝統や権威を重んじる保守的な思想、左は平等や改革を志向する革新的・リベラルな思想を指します。たとえば、左翼は自由・平等・人権など近代に生まれた理念を社会に広め、実現しようとし、既存の差別や階級制度に批判的で改革(場合によっては革命)を目指します。一方、右翼は歴史的に受け継がれてきた伝統や人間の情緒を重視し、「長年続いてきた秩序は多少の弊害があっても簡単に変えるべきではない」という姿勢をとり ...

政策

2025/7/28

移民政策の光と影:7か国比較で見えた成功条件と落とし穴

移民政策の光と影:7か国比較で見えた成功条件と落とし穴 カナダ・豪州の成功策から米国・英国・伊の課題まで7か国を横断分析。ポイント制、州指名、統合支援、世論対策の要諦を整理し、日本の人口戦略への示唆を提示します。 イントロダクション 過去最多の移民流入と二重課題:2023年、OECD加盟国への恒久移民は前年比10%増の650万人と過去最多を記録しました。各国は労働力確保の必要性と、急増する移民による社会インフラ圧迫への懸念という二重課題に直面しています。 制度改革の模索:多くの国で高度人材の受け入れ拡大策 ...


参考文献(References)

  • Belot, H. (2017). Malcolm Turnbull announces biggest overhaul of espionage, intelligence laws in decades. ABC News (5 Dec 2017).
  • Welch, D. (2018). Chinese agents are undermining Australia’s sovereignty, Clive Hamilton’s controversial new book claims. ABC News (21 Feb 2018).
  • Doran, M. (2018). Senate rushes through foreign interference legislation before by-elections across the country. ABC News (28 Jun 2018).
  • Zhang, L. (2022). History Contradicts China’s Denial of Meddling in Australian Politics. VOA News (15 Sep 2022).
  • Hamilton, C. (2018). Silent Invasion: China’s Influence in Australia. Hardie Grant.
  • Chapter 6: Australia’s China Debate in 2018. (2019). In China Story Yearbook 2018: Power (ANU Press), pp. 149–174.
  • He, K. & Feng, H. (2024). IR Theory and Australia’s Policy Change Towards China, 2017–2022. Journal of Contemporary China, 33(136), 14–32.
  • Joske, A. (2018). Picking Flowers, Making Honey: The Chinese military’s collaboration with foreign universities. ASPI Report (30 Oct 2018).
  • Universities Australia (2019). University-Government partnership on foreign interference. Media Release (14 Nov 2019).
  • Universities Australia (2021). Universities Australia welcomes release of revised UFIT Guidelines. Media Release (17 Nov 2021).
  • Department of Education, Australia (2025). Counter Foreign Interference in the Australian University Sector – Summary Reports. (Last updated 15 Jul 2025).
  • Walker-Munro, B. (2025). Australia must make its research security ecosystem work smarter. The Strategist – ASPI (30 Jun 2025).
  • Soutphommasane, T. (2018). Beware fanning flames of racism over “silent invasion” fears. Brisbane Times (28 Feb 2018).
  • Parton, C. (2020). Revealing China’s “Hidden Hand”. Journal of Democracy, 31(4), 182–185.
  • Garnaut, J. (2018). Australia’s Fight Against Chinese Political Interference. Foreign Affairs (26 Jul 2018).
  • Searight, A. (2020). Countering China’s Influence Operations: Lessons from Australia. CSIS Commentary (8 May 2020).
  • Manning, D. (2025). China Backs Students to Influence Japan’s Research and Academia. Japan Forward (12 Jun 2025).
  • Leuprecht, C. et al. (2019). China’s Influence Activities: What Canada Can Learn from Australia. Macdonald-Laurier Institute (Oct 2019).
  • Brady, A. (2018). Magic Weapons: China’s political influence activities under Xi Jinping. Wilson Center.
  • 岡部, 伸 (2022). 『日本の情報機関が危ない』新潮新書.
  • 参考文献(検証に使用した主要ソース)
  • ABC News, 22 Feb 2018 「Chinese agents are undermining Australia's sovereignty, Clive Hamilton says」ABC
  • The Guardian, 12 Dec 2017 「Sam Dastyari quits as Labor senator over China connections」The Guardian
  • Australian Financial Review, 5 Jun 2017 「ASIO warned politicians about taking cash from Huang Xiangmo」Australian Financial Review
  • DFAT, Foreign Influence Transparency Scheme (factsheet) DFAT
  • Parliament of Australia, EFI Bill third‑reading Hansard, 28 Jun 2018 parlinfo.aph.gov.au
  • ABC News, 23 Aug 2018 「Huawei banned from 5G mobile infrastructure rollout in Australia」ABC
  • Guardian, 14 Dec 2020 「China formalises cut to Australian coal imports」The Guardian
  • ASPI, 30 Oct 2018 「Picking flowers, making honey」 (report) The Wall Street Journal
  • Education Dept., 2024 「Pulse Check on the implementation of the Guidelines to Counter Foreign Interference」Department of Education
  • ASPI Strategist, 30 Jun 2025 「Australia must make its research security ecosystem work smarter」The Strategist
  • Home Affairs Annual Report 2017‑18(Critical Infrastructure Centre設立) Department of Home Affairs Website
  • Guardian, 21 Apr 2021 「Federal government tears up Victoria's Belt and Road agreements」The Guardian
  • DOJ (US), 28 Jan 2020 「Harvard University Professor and Two Chinese Nationals Charged」Department of Justice
  • ABC News Chinese, 23 Feb 2018 「争议性新书指称中国间谍侵蚀澳大利亚主权」ABC
  • AFR, 8 Feb 2019 「Banned billionaire Huang Xiangmo hits out at political parties」The Guardian

国内・国際 政治

2025/8/1

戦後80年談話とは何か

戦後80年談話(現時点では「首相個人メッセージ(仮称)」と呼ばれる)は、第二次世界大戦の終結から80年となる節目(2025年8月15日)に合わせて石破茂首相が発表を準備している声明です。政府は従来の閣議決定談話を見送る方針を示しており、内閣としての公式談話ではありません。過去にも戦後50年(1995年)に村山富市首相、60年(2005年)に小泉純一郎首相、70年(2015年)に安倍晋三首相がそれぞれ閣議決定による「首相談話」を発表しており、国内外から歴史認識や日本の平和国家としての歩みに対する重要なメッセ ...

国内・国際 政策

2025/7/31

サイレント・インベージョンとは何か?

中国の“静かな侵略”があなたの身近に及んでいるとしたら――。2018年に刊行された『サイレント・インベージョン』(クライブ・ハミルトン著)は、オーストラリアにおける中国の巧妙な影響力工作を暴き、自国の主権が侵食されつつある現実に警鐘を鳴らしました。本書は出版直後から政治・社会に激震を与え、外国勢力による干渉を阻止するための政策転換にまで結びついたのです (Hamilton 2018; Welch 2018)。この記事では、その「静かな侵略」の手口と影響、オーストラリアの対応策、そして国際社会、とりわけ日本 ...

国内・国際 政策

2025/7/30

海外における外国人問題:移民・難民・留学生・技能実習生の現状と課題

導入・問題提起 近年、世界各国で外国人にまつわる問題がクローズアップされています。移民として新天地を求める人々、紛争や迫害から逃れた難民、高度教育を受けるために国境を越える留学生、そして技能習得を名目に海外で働く技能実習生など、その形態は多岐にわたります。グローバル化や少子高齢化に伴い人の国際移動は避けられない潮流となっており、それに伴う社会的課題も複雑化しています。例えば受け入れ国では、外国人労働者の雇用や地域社会への統合、治安への影響が議論され、一方送り出し国では人材流出や家族の分断といった問題があり ...

政策 社会

2025/7/29

右翼と左翼の違いとは何か?初心者向け解説

① 右翼と左翼とは何か 政治における右翼(右派)と左翼(左派)とは、人々や政党の思想的な立場を表す言葉です。一般に右は伝統や権威を重んじる保守的な思想、左は平等や改革を志向する革新的・リベラルな思想を指します。たとえば、左翼は自由・平等・人権など近代に生まれた理念を社会に広め、実現しようとし、既存の差別や階級制度に批判的で改革(場合によっては革命)を目指します。一方、右翼は歴史的に受け継がれてきた伝統や人間の情緒を重視し、「長年続いてきた秩序は多少の弊害があっても簡単に変えるべきではない」という姿勢をとり ...

政策

2025/7/28

移民政策の光と影:7か国比較で見えた成功条件と落とし穴

移民政策の光と影:7か国比較で見えた成功条件と落とし穴 カナダ・豪州の成功策から米国・英国・伊の課題まで7か国を横断分析。ポイント制、州指名、統合支援、世論対策の要諦を整理し、日本の人口戦略への示唆を提示します。 イントロダクション 過去最多の移民流入と二重課題:2023年、OECD加盟国への恒久移民は前年比10%増の650万人と過去最多を記録しました。各国は労働力確保の必要性と、急増する移民による社会インフラ圧迫への懸念という二重課題に直面しています。 制度改革の模索:多くの国で高度人材の受け入れ拡大策 ...

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