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SMR(小型モジュール炉)完全ガイド【2025年版】

TL;DR(要約):小型モジュール炉(SMR)は出力300MWe以下の原子炉を工場製造モジュールで量産する構想で、2025年までに初の建設許可や設計認可が相次ぎ実現段階に入りつつある。北米ではカナダがBWRX-300炉の建設を承認(2025年4月)し総事業費209億カナダドルを公表、米国でも初のSMR設計(NuScale社77MWe×6基プラント)がNRCの標準設計認可を取得(2025年5月)。欧州でも英国がロールス・ロイス社SMRを国家支援で採択(2025年6月)、ポーランドは欧州初となるGE日立BWRX-300炉の建設地を決定(2025年8月)。一方、経済性やサプライチェーン、規制適合性には依然課題が多く、コスト低減の実現や燃料(高濃縮度低濃縮ウラン=HALEU)の供給確保、地元合意形成など克服すべきハードルが残る。政策立案者や投資家にとってSMRは電力のみならず産業熱供給や水素製造の選択肢として注目されるが、実現には実証データと官民連携による慎重な戦略が必要である。

1. 最新アップデート(2025-09-26時点)

  • 北米(米国・カナダ): カナダ初のSMR建設許可発給 – 2025年4月4日、カナダ原子力安全委員会(CNSC)はオンタリオ州ダーリントン原発敷地でのGE日立BWRX‑300(出力300MWe)1基の建設許可(有効期限:2035年3月31日まで)を発給。さらに5月8日、オンタリオ州政府は同プロジェクト4基合計の総事業費を209億カナダドル(約1兆5千億円)と見積もり州が財政支援する方針を発表。米国ではSMR設計の初承認として、NuScale社の6基構成プラント(合計462MWe、各77MWe)の標準設計認可(SDA)を原子力規制委員会(NRC)が2025年5月29日付で承認。これによりNuScale設計は建設・運転許可申請時に詳細設計審査を省略でき、2030年までの運転開始を目指す計画が現実味を帯びた。一方、同設計を用いる米国初の商用計画「CFPP(Carbon Free Power Project)」は電力コスト見通し上昇(90米ドル/MWh近く)と出資自治体の離脱により2023年11月に中止が決定。データセンター需要の高騰も追い風となり、2024年には米エネルギー省(DOE)がビッグテック企業にSMRへの共同投資を要請。例えばGoogleは2030年に最初のSMRを稼働させ、2035年までに累計500MWの供給を目標(初号サイトはテネシー州)データセンター隣接地に導入する契約を締結し、AmazonもX-energy社へ5億ドル出資してワシントン州にXe-100(80MWe×4基)計320MWeのSMR群を2030年代前半に稼働させる計画を発表した。なお2023年12月14日には米国初の非LWR実証炉となるKairos社Hermes(35MWt・1基)の建設許可が2023年12月14日。別計画『Hermes 2』(35MWt×2基)は2024年11月21日に建設許可されており、先進炉分野の規制経験蓄積が進んでいる。
  • 欧州(英国・ポーランドほか): 英国は国家主導のSMR選定でロールス・ロイス社案を採択 – 2025年6月10日、イギリスの公的組織GBE–N(グレートブリティッシュ・エナジー–ニュークリア、旧称GBN)は2年間の国際コンペを経てRolls‑Royce SMR(出力470MWe級PWR)を優先交渉相手に決定したと政府が発表。政府は支出見込み25億ポンドの支援策を表明し、年内に契約締結と開発会社設立を目指す。2030年代半ばまでに英国内で初号機稼働・その後複数基展開し、少なくとも供給連鎖の70%を国内調達する目標も示された。一方で英国の規制当局(ONR)は既にRolls‑Royce SMRの設計審査(GDA)を進行中(2021年開始、期間4年規模)で、並行してGE日立のBWRX‑300やHoltec社SMR-300も審査を受けている(Holtec英法人は2024年8月にGDA第1段階を最短10か月で完了)。東欧ではポーランドが欧州初のSMR建設に踏み出し、国営石油会社OrlenとSynthos社の合弁OSGEがGE日立BWRX-300導入を決定。2025年8月28日に第1号機の建設予定地をウッチ県ヴウォツワヴェクに選定した。環境影響評価スコープ設定も完了し、2030年代前半の稼働を目指す。同国政府は「欧州初のBWRX-300となる」と強調しており、発電だけでなく化学プラントへの蒸気供給源として2050年までに複数サイトでのSMR展開を計画する。フランスは国内開発中の「Nuward」(出力170MWe級PWR)を2030年代初頭までに実証予定で、フィンランドやスウェーデン、エストニアなど北欧でも電力各社がSMR導入調査を加速している。
  • アジア(中国・日本ほか): 中国が世界初の高温ガス炉SMRを商業運転 – 2023年12月、山東省の石島湾原子力基地に建設されたHTR‑PM(出力210MWe、高温ガス冷却・黒鉛減速)実証プラントが168時間連続運転試験を経て商業運転に入った。同炉は250MWtの小型炉心2基で1基のタービンを駆動し、ヘリウム冷却・球状燃料(8.5%濃縮TRISO被覆粒子燃料)を採用する先進炉である。高温(750℃以上)の熱を安全に取り出し石油化学向けの蒸気供給と発電の両立を狙うもので、実証成功により中国政府は6基連結の大規模プラント「HTR‑PM600」(650MWe)建設にも着手するとしている。また、中国初の商用SMRである「玲龍一号」(CNNC社ACP100、出力125MWe級PWR)も海南島長江サイトで建設が継続中で、2024年8月には原子炉内部構造物の据付完了など主要工程を達成した。同炉は2021年7月に着工済みで、2026年の送電開始を目標としている。日本は政策転換によりSMR等の新増設を容認 – 2023年2月に閣議決定したGX基本方針で「次世代革新炉」の開発・建設が公式に盛り込まれ、既存原発の60年超運転延長も可能とする法改正が行われた。2030年代後半の高温ガス炉(HTGR)実証機稼働を目指し、経産省は2023年に三菱重工を代表企業に選定。同社は核燃料サイクル機構と協力し、高温工学試験炉(HTTR, 出力30MW熱)を用いた水素製造試験(熱化学法)に世界で初めて成功する計画で、2028年までの水素製造一貫実証をNRA(原子力規制委員会)に申請中である。日本のデモHTGRは950℃級の熱供給能力を持ち水素製造に特化した設計となる見通しで、運転開始は2030年代半ばが目標とされる。その他、日本は高速炉や融槽炉など先進炉分野でも国際協力を強化しつつあり(米国との高速炉試験炉計画、ポーランドとのHTGR協力など)、エネルギー安全保障と産業競争力の観点から次世代炉の位置付けを再評価している。

2. SMRとは(定義・設計思想・誤解しやすい点)

SMR(Small Modular Reactor)とは、一般に「電気出力で約300MWe以下」の比較的小型の原子炉で、主要構造をあらかじめ工場製作したモジュールとして現地組立・据付する設計思想を指す。SMRは1基では発電規模が小さいが、同一設計の炉を多数量産(エコノミー・オブ・シリーズ)することでコスト低減や短工期化を図る。そのため従来の大規模炉と異なり、需要に応じ複数基を段階的に増設していく運用(モジュール追加による漸増)が可能で、初期投資の負担軽減やリスク分散にも繋がるとされる。国際原子力機関(IAEA)は出力300MWe未満を「スモール」、300~700MWeを「ミディアム」と分類してきた経緯があり、「SMR」は本来「Small and Medium Reactors」の略でもあった。しかし近年は主にSmall Modular Reactor(小型モジュール炉)の意味で用いられ、vSMR(very small SMR)など極小出力(数十MWe以下)の設計も含めて議論されるようになっている。各国で提案中のSMR設計は80種類以上にも上り、その技術的アプローチは多岐にわたる(後述)。

SMRの設計思想: 小型化に伴う経済性の悪化(スケールメリット損失)を、製造の標準化量産効果で補う点がSMRの狙いである。具体的には原子炉モジュールを工場で予め製作し、品質管理の徹底と現地工期短縮を図る。例えば主要構造を輸送可能サイズ(数百トン程度)に収め、現地では基礎と接続工事のみとする据付方法などが検討される。また設置容量が小さい分、従来は大型炉には不向きだった辺地や小規模電力系統での利用も可能となる。実際、北米では老朽石炭火力サイトの代替としてSMRを導入する構想が唱えられ、送電網容量の小さい地域でも数百MWe級の原子力が設置できる点が注目されている。他方、モジュール化の概念には誤解もある。一部のSMRは原子炉1基を複数モジュールで構成する(例:大型炉心を分割)ケースがあるが、通常SMRと言えば1つの原子炉設備自体が工場製のモジュール単位であることを指す。本記事では後者の意味でSMRを用いる。

安全設計と規模の関係: 小型炉は出力が低い分、万一の事故時の崩壊熱や放射性物質の総量が限定され、安全確保が容易との指摘がある。多くのSMRはさらなる受動的安全(パッシブセーフティ)設計を取り入れており、外部電源や能動系に頼らずとも自然現象(熱対流、重力、水の蒸発潜熱など)で炉心冷却を維持できる。例えば自然循環による緊急炉心冷却、重力落下による制御棒挿入、空冷式の格納容器熱除去など、大規模炉で培われた安全機構を簡素化・小型炉向けに再設計している。この結果、設計上想定される事故影響の局限化(緊急時の住民避難範囲を発電所敷地内に収められる可能性)が期待され、米国ではSMR向けに防災区域(EPZ)の大幅緩和を認める規則改定が行われた。ただし注意すべきは、安全余裕向上と表裏一体で出力当たりの資本コスト上昇固有技術リスクも存在する点である。後述の通り、幾つかのSMRは従来より高濃縮度の燃料や未実証の冷却材・燃料形状を採用しており、安全審査の不確実性や運用経験の不足といった課題も孕む。

3. 技術タイプ別マップ

現在開発・検討中のSMRは、その原子炉タイプに応じて大きく4カテゴリに分類できる。以下に主要タイプごとの典型的な仕様と代表例を示す。

  • (a) 従来型軽水炉系(LWR系): 冷却材・減速材に軽水(普通の水)を用いる、最も実績ある方式。出力は数十~数百MWe級。燃料は低濃縮ウラン(濃縮度<5%が多い)で、燃料形状も従来型(ジルカロイ被覆の円筒ペレット燃料)を踏襲。原理的には現在の大型原発と同じ加圧水型(PWR)または沸騰水型(BWR)だが、SMR向けには一体型圧力容器(蒸気発生器や加圧器を炉内に内蔵して配管を簡素化)設計が採用されることが多い。代表例: NuScale VOYGR(77MWe PWR, 米), GE Hitachi BWRX‑300(300MWe BWR, 米・日), Rolls‑Royce SMR(470MWe PWR, 英), Holtec SMR-160/300(160→300MWe PWR, 米)等。LWR系SMRの特徴は技術成熟度が高く規制上も親和性が高い点で、初期商用SMR案件の多くが該当する。一方で単基コストは依然高く(後述のOntario計画で初号機約61億CAD, kW単価約1.46万USD)、設計のシンプルさに比し経済性に課題を残す。
  • (b) 高温ガス炉系(HTGR系): ヘリウム等の気体冷却材と黒鉛減速材を用いる炉。燃料は直径数センチのトリソ粒子燃料(TRISO)を多数封入した特殊形状で、燃料自体が高い被覆耐熱性を持つ。出力は1基あたり数十MWe(Xe-100は80MWe)だが、高温ガス炉は必要に応じ複数モジュールを連結してタービンを駆動する(例:HTR-PMは小炉心2基で210MWeタービン1台)。出口冷却材温度が750〜900℃と非常に高く、発電のみならず水素製造や産業炉への熱供給など多用途利用が魅力。代表例: X-energy Xe‑100(80MWe×4 高温ガス炉, 米), 高温工学試験炉HTTRベースの実証炉(50MW熱級, 日), GTHTR300シリーズ(日本提案のモジュール炉concept), 中国HTR-PM(210MWe実証, 2×250MWt, 中)等。燃料は濃縮度5~20%程度のHALEUを用いるため燃料調達が課題だが、運転時は全原子炉方式中でも極めて安全余裕が高い(冷却材喪失でも炉心が溶融しにくい)と評価される。中国では唯一商用段階に到達したSMRとしてHTR-PMが運開したが、日本や米国も2030年代の実証運転を目指し開発を進めている。
  • (c) 高速炉系(FNR系: Na冷却/塩冷却/金属冷却): 中性子を減速せず高速のまま核分裂連鎖に利用する原子炉。冷却材にナトリウム(Na)や塩(塩化物/フッ化物)、鉛・鉛ビスマス等を用いる。燃料は高濃縮度(HALEUあるいはプルトニウム混合酸化物など)で、小型炉心でも臨界を維持できる。高速炉SMRは核燃料サイクルとの親和性が高く、長寿命燃料や使用済燃料の再利用(増殖・焼却)を視野に入れる設計も多い。代表例: TerraPower Natrium(345MWe Na冷却+溶融塩貯熱, 米), ARC-100(100MWe Na冷却, 加), SVBR-100(100MWe Pb-Bi冷却, 露), 4S (10MWe Na冷却, 日/米) 等。特徴として炉心が小型化しやすく出力当たりの設備が簡素になり得る点がある(冷却系に高圧を必要とせず配管が少ないなど)が、可燃性の金属冷却材(ナトリウムの水反応性など)や材料腐食、高融点による凝固対策など新たな安全課題も伴う。また核拡散観点から高濃縮燃料の管理が重要。Natriumは2020年代後半の実証炉建設を目指し米DOEが支援中だが、濃縮度20%のHALEU燃料入手遅延で当初計画から遅れが出ていると報じられる。
  • (d) 溶融塩炉系(MSR系): 核燃料を溶融させた塩(フッ化物塩や塩化物塩)に溶解し、同じ液体を冷却材兼用する方式(液体燃料炉)。もしくは固体燃料+溶融塩冷却のFHR(高温溶融塩冷却炉)も含む。溶融塩炉は燃料が液体のためオンラインでの燃料交換や再処理が可能となる潜在性があり、長期間連続運転や高燃料利用率が期待される。高温ガス炉同様に高温(~700℃)熱源として化学工業プロセスへの適用も検討される。代表例: Terrestrial Energy IMSR(195MWe, 固体燃料+溶融塩一次冷却, 加), Moltex SSR(300MWe級, 液体燃料塩, 加/英), Kairos Power Hermes(試験炉30MWt, 液体塩冷却+TRISO燃料, 米)等。MSR系はその柔軟性から「原子力版フレキシブル電源」として注目される一方、技術成熟度(TRL)が最も低く実証段階のプロジェクトは限られる。核燃料が配管を循環する独特の設計ゆえ、腐食対策・封じ込め・メンテナンスや規制基準策定など解決すべき課題が多い領域である。

以上を踏まえ、主要SMRタイプの比較表を下記に示す。

タイプ冷却材 / 減速材代表設計(出力)燃料濃縮度主な安全機構技術成熟度(TRL)主用途・特徴
軽水炉系軽水 / 軽水NuScale (77MWe)
BWRX-300 (300MWe)
RR SMR (470MWe)
~5%(低濃縮U)受動余熱除去(自然循環)
従来型燃料・実績大
高(設計認証段階)発電(系統電源)、
熱供給(限定)
高温ガス炉系ヘリウム / 黒鉛Xe-100 (80MWe×4)
HTR-PM (210MWe)
5–15%(HALEU)TRISO燃料の耐熱性
強制循環不要(自然放熱)
中(実証機運転あり)発電+産業熱(水素製造等)、
高温プロセス熱
高速炉系Na, Pb-Bi, FLiBe塩 / なしNatrium (345MWe)
ARC-100 (100MWe)
15–20%(HALEU)大気圧炉心(配管破断なし)
受動余熱除去(Na沸騰熱伝達)
中(一部試験炉運転)発電(中規模系統)、
核燃料リサイクルとの連携
溶融塩炉系フッ化物塩 他 / 黒鉛等IMSR (195MWe)
SSR (300MWe)
5–15%(HALEU)※設計による常圧液体燃料・冷却
(燃料のオンライン処理)
低(研究・設計段階)発電+熱(多目的)、
ロードフォロー潜在性

※TRL=Technology Readiness Level(技術成熟度)。HALEU=高濃縮度低濃縮ウラン(濃縮度5~20%のウラン燃料)。

4. 注目ベンダー/案件の実態比較(FOAK/NOAKの区別)

世界で先行するSMRプロジェクトや開発ベンダーの状況を整理する。本節では特に初号機建設(FOAK: First-of-a-kind)段階にある注目案件について、許認可の進捗や事業性、課題を比較する。なおSMRは量産効果によるコスト低減が前提であり、商業化にはFOAKからNOAK(Nth-of-a-kind、量産機)への移行が鍵となる。

  • GE Hitachi BWRX‑300(米・日): 日立GEが設計する出力300MWeの自然循環式BWR。最有力案件はカナダ・オンタリオ州ダーリントン新炉計画で、原子炉設置予定地の環境影響評価とサイト整備は既存許可を活用し迅速化、2025年4月に建設許可取得済み。オンタリオ州政府は2030年末までの初号機運転開始(OPG公表)と、その後2032年までに計4基(計1,200MWe)設置を目標に掲げる。事業コストは初号機単体61億CAD+共用設備16億CAD、2号機以降は約44億CAD/基と見積もられ、FOAKからNOAKで約28%コスト低減するとされる。米国でもTVA(テネシー渓谷公社)が同設計を選定し、2025年4–5月に原子力規制委へClinch Riverサイト1基目の建設認可を申請、審査は2026年末までに完了予定。2033年頃の運開を目指す計画で、既に前倒しで一部サイト造成も開始していると報じられる。ポーランドでもOSGE社が初号機サイトを決定(前述)し、2026年までに投資判断、2033年稼働を目指す。BWRX-300の強みは「ESBWR(米国設計認証取得済)の派生で既存燃料を使用」し規制適合性が高い点にある。一方でOntario計画では当初想定より費用増大が明らかになり、再生エネ+蓄電シナリオと比べ経済優位性に議論もある。今後のコスト削減実現とスケジュール順守が国際的な試金石となる案件である。
  • NuScale VOYGR/US460(米): 米NuScale Power社が開発するSMRプラント。出力77MWeのPWRモジュールを最大6基組み合わせ(計462MWe)一つの発電所とする構成が「VOYGR-6」(別称: US460)である。米国NRCにおいて唯一設計認証済み(SMR第1号)の炉型(50MWe版の設計認証(DC)は2023年1月19日、77MWe×6のUS460は2025年5月29日に標準設計承認(SDA))であり、規制上の先行者としてメリットを享受する。しかし商用案件の進捗は曲折があり、先述のUAMPS/CFPP計画(アイダホ国立研究所サイト、2030年稼働予定・6基構成)はコスト高と需要不足で中止に追い込まれた。その後、新たな有力案件としてルーマニア(チェルナボダ旧重水炉サイト)での4基構成プロジェクトが国際支援の下進められており、Fluor社・ルーマニア国営Nuclearelectricaなどとの協力で2028年頃のFID(最終投資判断)を目指す。また米国内ではデータセンターや産業向け電源として大手企業とのPPA交渉が進行しているとされ、Doosan社(韓国)でモジュール製作が開始されるなどサプライチェーン構築も動き出した。NuScaleの課題はFOAKプラントの具体的コストで、同社は2030年運開の初プラントで約89ドル/MWhの発電単価を目指すが、エネルギー市場での競争力確保には更なるコスト低減が必要と見られる。現在、米政府はSMR市場創出のため2024年以降18か月以内の新規制適用や官民PPA推進の包括政策を打ち出しており、NuScaleがその恩恵を受けられるか注視される。
  • Rolls‑Royce SMR(英): 英ロールス・ロイス社が中心となり開発中の出力470MWe級PWR。一次系は外部蒸気発生器を持つ3ループ構成(加圧水型)で、英国での大量受注を見込み1基あたり約20億ポンド(約3,600億円)へのコスト低減を掲げる。英国では政府出資も得て設計開発と工場製造の準備を進めてきたが、今回GBE–Nによる国家選定で優先権を獲得し、初号機サイト選定や事業会社設立が加速する見通し。規制審査(GDA)は2021年4月に開始し2024年末までに中間報告の予定。順調なら2026年にも設計認証を取得し、2030年代前半の運転開始を目指す計画である。英国以外でもチェコ(ČEZ社が出資参加)やスウェーデン、オランダ、トルコなどで候補技術に挙げられ、2023年12月にはオランダ政府が同設計を含むSMR導入検討を公式表明した。Rolls-Royce SMRの強みは大型炉(西屋AP1000等)の要素技術を踏襲しつつ出力抑制した堅実な設計にあるが、その出力規模(470MWe)はしばしばSMRの範疇を超えるとも言われる(一般的SMR定義300MWe以下に比べ大きい)。そのため国内外で需要が想定より限定的になる懸念もあり、シリーズ化によるコスト目標達成が実現できるかが焦点となる。
  • Holtec SMR-160/SMR-300(米): 使用済燃料貯蔵事業で知られる米Holtec社が開発する中小型PWR。初期設計は出力160MWeであったが、英GDA申請に合わせ改良型「SMR-300」(300MWe級)を提示している。特徴は冷却に空気を併用できるハイブリッド冷却系で、水資源が乏しい内陸部でも建設可能とされる。英国では2023年10月にGDA審査入りし、わずか10か月でStep1(基本計画審査)を完了する迅速ぶりを示した。一方本国アメリカでは、Holtec社が2022年に買収したパリセーズ原発(ミシガン州、2022年閉鎖済)敷地へのSMR-300×2基設置計画を発表。2023年にはDOEの原発再稼働支援公募に応募するも落選し既存炉復旧は断念したが、同サイトをSMR新設の先行モデルケースと位置づけ、初号機の「シャベル投入から稼働まで3年」の実現を公言している。もっとも工期3年は大規模炉の1/3以下で野心的な数字であり、実現には規制短縮策やモジュール製造の高度化が前提となる。Holtecは韓国・日立との協業で製造拠点を増強する計画も示しており、資本力では劣るベンチャーながら迅速な規制対応とグローバル展開を武器にシェア獲得を狙っている。
  • X-energy Xe-100(米): 高温ガス炉SMRの有力株である米X-energy社の設計。出力80MWeのヘリウム冷却炉を4基集約し320MWeプラントとする。最大750℃の高温蒸気を供給可能で、水蒸気改革による水素製造や石油化学プロセス熱への転用を狙う。米DOEの先進炉実証プログラム(ARDP)に選定され、政府資金の支援を受けワシントン州ハンフォードでの4基実証炉建設を計画中(地元電力会社Energy Northwestと協力)。しかし地元合意や州法調整に時間を要し、2030年頃まで実証機初号運転は遅れる見通しである。そうした中、2023年に化学大手Dow社が連携パートナーに加わり、テキサス州シードリフト工場にXe-100を導入する計画が浮上した。2025年3月にはNRCへ建設認可申請を提出し、北米初の産業用途SMRとして工場の老朽ガスタービンを置換する計画が進んでいる。Dow案件はDOE支援も得ており、2026年頃の局限的建設開始~約30か月の審査を経て着工との見通し。X-energyは既に約11億ドルの民間資金を調達済みで、燃料製造拠点(テネシー州でのTRISO工場)も建設中と経営基盤が比較的盤石である。課題はやはり規制適合性(TRISO燃料とヘリウム炉心の安全実証)であり、NRCから求められる実証データを充足できるかが商用化のカギとなる。加えて発電コストについても将来的な量産で大型PWR並み(60~70ドル/MWh)への圧縮を目標とするが、現状は部材に特殊品が多くコスト高傾向にある。米国ではAmazonやGoogle等の関与で約5GWのSMR展開構想も打ち出されており、Xe-100がその主力の一つと目されている。
  • 中国:ACP100「玲龍一号」/ HTR-PM(中): 中国は政府主導で2系統のSMRを開発中。ACP100「玲龍一号」は中国核工業集団(CNNC)が開発した125MWe級の3ループPWRで、世界初の陸上商用SMRとして2021年に海南島で建設開始。2024年に原子炉圧力容器の据付や主要ポンプ試験が完了し、2026年前後の運転開始を予定する。電気出力は小さいが、電気・熱併給や海水淡水化も視野に、離島や内陸の小規模グリッド向けに標準プラント化する構想がある。一方、高温ガス炉HTR‑PMは中国核工業集団と清華大学が主導した実証プロジェクトで、2021年に送電、2023年12月に商業運転入りした。HTR-PMは2基の小型炉心で210MWeの発電設備を駆動するが、将来的には6基連結のHTR-PM600(650MWe級)として既存大型石炭炉の代替を狙う計画である。中国政府は2030年までにHTR-PM600を含むSMRプラント複数基の建設を掲げ、沿岸部を中心に適地選定中と報じられる。中国SMRの特色は国家プロジェクトとして進められている点で、コストよりもエネルギー自給と技術リーダーシップが重視される傾向がある。ただ実証炉を運開したHTR-PMですらFOAKで予算超過・工期遅延(初コンクリートから運転まで約11年)を経験しており、中国といえどSMRの経済性確立にはなお課題を抱える。

以上の主要案件をまとめ、許認可やスケジュール、費用等の比較表を示す。

プロジェクト (設計)設置国・サイト許認可進捗2初号機運開目標CAPEX目安3燃料供給先用途留意点(教訓)
ダーリントンSMR
(BWRX-300)
カナダ・オンタリオ州設計認証なし(CNSC直接許可)
建設許可取得(2025年4月)
2029年末(1号機)
2032年(4号機)
初号機61億CAD+共通16億CAD
2号機以降44億CAD/基
LEU(<5%)州電力網(石炭代替)FOAK費用高騰に州公的支援
Clinch River SMR
(BWRX-300)
米国・テネシー州設計認証済(US-ESBWR派生)
建設許可申請中(審査中、~2026)
2033年(TVA計画)–(TVA非公表、推定40億USD規模)LEU地域電力網+産業初の商用SMR建設許可申請(2024年)
UAMPS CFPP
(NuScale VOYGR)
米国・アイダホ州設計認証取得(NRC, 2020/2025年)
サイト許可済(ESP取得)
計画中止(2023年)–(見積発電単価89$/MWh)LEU地方自治体PPA需要不足で中止。オフテイカー確保教訓
ルーマニアSMR
(NuScale VOYGR)
ルーマニア・旧チェルナボダ設計認証取得済
サイト許可申請準備
2030年頃(想定)–(米政府・EXIM融資支援)LEU国家電力網欧米初の国外SMR展開、国際協調案件
Rolls-Royce SMR英国(サイト選定中)GDA審査中(Step2段階)
2025年末設計認証目標
2035年前後(予想)20億ポンド/基(量産目標値)LEU(~5%)国家電力網英政府の戦略選定(2025年)
Palisades SMR
(Holtec SMR-300)
米国・ミシガン州設計認証未取得
DOE支援申請中
2030年頃(目標)27.5億USD/基(Holtec目標)LEU地域電力網+産業既存原発サイト活用。再稼働断念の転用
Xe-100 Dow米国・テキサス州設計認証未取得
建設許可申請提出(2025年3月)
2032年(想定)–(試算中、DOE支援あり)HALEU(15.5%)Dow化学社内電力・蒸気米初の産業SMR案件。認可30か月見通し
Xe-100 ENW
(X-energy)
米国・ワシントン州設計認証未取得
環境調整・州法対応中
2030年前後(予想)40億USD規模(4基合計)HALEU(15.5%)州電力網+水素製造DOE実証プログラム。州地元調整が鍵
HTR-PM(実証機)中国・山東省石島湾認可取得(運転許可2021年)
商業運転開始(2023年12月)
2023年12月達成初号機約440億元(推定)LEU(8.5%)地方電力+産業蒸気世界初のSMR運転。11年で稼働
玲龍一号(ACP100)中国・海南省長江設計認可済(中国国家能源局)
建設中(2021年~)
2026年(予定)50億元(約780百万USD)LEU(<5%)離島独立電源世界初の陸上商用SMR建設中

5. 規制・政策の最新動向

SMR導入には各国の規制フレームワーク整備と政策支援が不可欠である。2020年代前半は主要国でSMR向けの新制度策定が進んだ。

  • 米国: NRC(原子力規制委)は先進炉向けの新規制「10 CFR Part 53」を進行中。これは従来の軽水炉規制を大幅に見直し、技術非依存・性能ベースの安全目標を設定する枠組みで、SMR/高度炉の多様な設計に柔軟に適合できる内容となる。Part53提案ルールは2024年10月31日に連邦官報公告され、パブリックコメントは2025年2月28日まで受け付けられた。NRCは2026年5月までに最終案を委員会提出、2027年末までに最終制定する計画で、法定期限(NEIMA法)に沿って進捗している。またSMRの非常時対応要件緩和も実現しつつある。2023年末にNRCは「SMR・その他新技術(ONT)の緊急時準備に関する最終規則」を公布し、従来大型炉に適用していた一律の防災計画を見直した。新ルールでは炉心特性に応じ、防護区域(EPZ)の半径縮小やオフサイト策定要件の緩和が可能となり、設計上リスクの小さいSMRはサイト境界をEPZにできる道が開かれた。これにより将来的にSMRの立地制約(周辺地域の避難計画等)が大幅に軽減される見通しだ。政策面では2022年インフレ抑制法(IRA)でSMR電源への生産税額控除(PTC)を創設し、さらに2024年5月には大統領行政令で新規原発の審査迅速化(18か月目標)や国防総省・エネルギー省による先行調達拡大が指示された。電力市場での評価軸も見直されつつあり、容量信用や非炭素価値を織り込む市場改革が議論されている。
  • カナダ: カナダは連邦規制当局CNSCが中心となり、SMR技術へのベンダー設計レビュー(VDR)を早期から実施してきた(※VDRは法的認可ではなく、設計段階の助言的レビュー)。2021年以降、オンタリオ州電力(OPG)によるダーリントン新設計画を契機に具体的な許認可プロセスへ移行し、2025年4月に世界初のSMR建設許可発給を実現した。ダーリントンでは2012年に大規模炉を前提とした環境影響評価とサイト許可が済んでおり、これをSMRに転用できるよう2024年に環境審査適合性判断をクリアしている。つまり新規制対応より既存枠組の活用で初号機を迅速化した格好だ。現在カナダには他にも、サスカチュワン州のユーティリティ(SaskPower)がBWRX-300を2035年稼働で計画中(2029年建設判断予定)、ニュー ブランズウィック州ではARC社の高速炉SMR実証を検討中など、複数のSMR案件が存在する。政策的には2022年にSMRロードマップを策定し、連邦から各種補助(技術開発資金C$1.2億、SMR部署創設等)や法制度の調整を行っている。注目点は環境審査や先住民協議などプロセスへの合意形成で、ダーリントン許可でも先住民との協議を慎重に重ねた点が評価された。カナダはSMRを輸出産業に育成する意向も示しており、英国やルーマニアとの協力覚書も結んで自国技術(例: Terrestrial社IMSR)を売り込んでいる。
  • 英国: 英国は脱炭素とエネルギー安定供給の両立策として、「2030年代に少なくともSMR1基を稼働」との政策目標を掲げる。2023年に新設した官民組織GBN(Great British Nuclear、2024年よりGBE–Nに改称)がSMR技術選定コンペを主導し、2025年6月にRolls‑Royce SMRを優先選定した。政府は今後財政措置・規制緩和で同社案の商業化を後押しし、遅くとも2035年までに国内初のSMRプラント運開を目指す。具体策として規制資産ベース(RAB)モデルによる資金調達や、CFD(差額決済契約)適用による電力買取保証が検討されている。また規制面では原子力規制局(ONR)と環境庁(EA)が共同でGeneric Design Assessment (GDA)制度を運用中で、現在RR社SMRを含む3設計が審査中である(RR社は2021年開始、GE日立とHoltec社は2023年開始)。政府はGDA審査費用の一部補助や、人材確保策に予算を投入しており、審査の同時並行処理で数年規模の短縮を狙う。さらに2023年には欧州他国のSMR規制当局との協力(EMNR協定)にも署名し、国際的な標準化と相互承認に布石を打っている。英国内では安全文化醸成も重視され、SMR開発・製造に伴うサプライチェーン準備(品質基準、認証制度)の整備も始まっている。
  • 日本: 日本は福島事故後に原子力政策が停滞していたが、近年のGX(グリーントランスフォーメーション)政策で原子力を積極活用する方針に転換した。2023年成立のGX脱炭素電源法では、廃炉決定炉の建て替え(リプレース)として「次世代革新炉」の新増設を認め、政府は高経年炉20基程度の後継にSMR等を充当するシナリオを描く。経産省は革新炉として(1)高経済性の安全炉(改良型LWR)、(2)高温ガス炉(HTGR)、(3)小型炉(SMR含む)を想定し、2030年代以降の実用化を目標に官民で技術開発投資を拡充中だ。規制面ではNRA(原子力規制委員会)が新型炉ワーキンググループを設置し、高温ガス炉など従来基準が想定しないタイプへの安全規制の在り方を議論している。特にHTGRは冷却材喪失時の挙動が軽水炉と異なるため、評価手法や実証試験データの充実が必要とされる。NRAはHTTRでの水素製造実証試験についても慎重な安全審査を進めており、2024年頃までに判断を下す予定である。政策的支援策としては、官民出資の次世代原子炉開発支援機構(仮称)を設立し、融資保証や人材育成、国際標準化への参画を強化するとしている。日本は欧米諸国と比べ規制認可に長期間を要する懸念があるため、各段階での並行作業・審査効率化や、海外実証炉データの活用等で先行事例を取り入れる工夫も必要とされる。

6. 経済性: コスト構造と資金調達

SMRの経済性評価はFOAK(初号機)とNOAK(量産機)で大きく異なる。FOAK段階では設計開発費や初期プラント建設費が嵩み、同規模の大型炉や他電源よりも高コストとなる傾向が強い。実際、前述のオンタリオSMR計画では初号機コストが約1.46万USD/kWに達し、4基まとめた場合でも約1.29万USD/kWと見積もられた。これは大型原発の典型(5,000–8,000USD/kW)を上回り、風力・太陽光(1,000–2,000USD/kW+蓄電設備)と比べても見劣りする水準である。しかしながらシリーズ第N号機(NOAK)ではFOAK比で20–50%のコスト低減が各社より示されている。IEA(国際エネルギー機関)の分析によれば、SMRの資本費は2040年までに中国で2,500USD/kW、欧米でも4,500USD/kW程度まで低下し得るとされ、これは従来大型炉の学習曲線を上回るペースである。この前提には(1)設計の標準化、(2)製造モジュール化による大量生産効果、(3)建設工期短縮による金融コスト圧縮、が含まれる。反面、実現しなければ経済競争力を欠くリスクも大きい。特に建設遅延や規制対応の長期化はコスト増要因であり、スケジュール管理が重要となる。

コスト構造: SMRの建設費内訳は大型炉と同様、設備費(原子炉モジュール・タービン島・冷却設備等)と現地工事費、人件費、予備費からなる。モジュール化により現地工事費の割合を低減できればコスト改善が見込める。現時点の試算では、SMR特有の安全簡素化により設計許認可費と安全設備費は削減可能だが、一方で単位出力あたり材料量が増える(例: 原子炉容器や格納容器は一定厚さが必要なため小出力でも薄型化できない)ため材料費・機器費は上昇するとの指摘がある。運転期間全体で見ると、SMRは出力が小さい分運転維持費(O&M)や燃料費の占める割合も大きくなる可能性がある。NuScale社は6基プラントの発電コスト内訳を建設費65%、O&M20%、燃料15%程度と試算していたが、CFPP中止時には燃料費高騰や資材インフレで見積りが上振れした。つまりSMRは初期投資のハードルは低い反面、ライフサイクルで見た費用競争力を慎重に精査すべきとされる。

資金調達と支援策: 現状のSMRプロジェクトの多くは公的支援なしには成立しない。各国政府は原子力の再興を国家戦略と位置付け、様々な財政的インセンティブを投入し始めている。主要なスキームを以下に整理する。

  • 差額決済契約(CfD): 政府が一定の電力価格(ストライクプライス)を保証し、市場価格との差額を補填する方式。英国がHinkley Point C大型炉に適用したのが代表例。SMRにも適用検討中で、投資家に予測可能な収入を約束できるメリットがある。一方、市場価格以上の差額分は電気料金や政府財政で賄われるため、高すぎる設定は国民負担となるジレンマがある。
  • 規制資産ベース(RAB)モデル: 発電所建設費を公共インフラの一部とみなし、電力料金規制で一定の投資リターンを保証する方式。建設途中から一定報酬を得られるため資金調達コスト(WACC)を抑えられるメリットがある。英国はSizewell C大型炉に導入を決定し、SMRにもRAB適用を示唆している。
  • 税制措置・生産支援: 米国はIRA法で新規原発の電力に対し1MWhあたり最大15ドルの生産税額控除(PTC)を付与する制度を創設(2032年まで運開の設備に10年間適用)。SMRはこの上限を受け取れるようになっており、プロジェクト収支に大きく寄与し得る。また投資税額控除(ITC)適用も拡充され、原発建設費用の30%を税控除可能となった。
  • 政府融資・保証: 原発は初期費用が巨額で商業銀行が融資を嫌がるため、政府系金融機関が低利融資や債務保証を行う。米国ではエネルギー省ローン保証プログラムが拡充され、NuScaleやTerraPower案件に適用検討中。カナダや韓国も公的融資枠をSMR輸出に活用する方針を示す。
  • 燃料供給支援(HALEU確保): 先進SMRの多くはHALEU燃料を要し、現在供給源が限られる。米DOEはCentrus社と契約し2023年に試験的にHALEU濃縮を開始。さらに今後数年間で年間20トン規模のHALEU生産を目指し、予算措置(2024年度1.5億ドル)やロシア産転換体依存の低減策を講じている。こうした上流供給への公的関与もSMR普及には不可欠となる。

LCOE感度分析: SMRのレベライーズドコスト(LCOE、均等化発電原価)は資本費の影響が大きい。試算によれば、NuScale VOYGRプラントのLCOE約90ドル/MWhは資本費(WACC=8%前提)に占める割合が75%以上とされ、資本コストを下げる事が最重要。仮にWACCを低コスト調達で5%に抑えられればLCOEは20%以上低下する。また稼働率も効くパラメータで、容量係数を90%から95%に上げればLCOE約5%減となる。反対に建設遅延1年ごとにIRR(内部収益率)は数ポイント低下する。加えてSMRはモジュール単位停止時の影響が大きく、複数基サイトでの一斉稼働率低下に備えた余力(例えばN+1基冗長)も考慮が必要との指摘がある。総じて、SMRビジネスは資本集中リスクを公的支援で下げ、長期安定稼働で利益を得るモデルと言える。

系統外アプリの事業性: SMRのユニークな活用例として、発電用途以外の収益源が注目されている。例えばデータセンターや製造業が自社内にSMRを設置し、24時間無炭素電力と蒸気を自己消費するケースである。前述のDow社やマイクロソフトの事例のように、需要家がPPA(電力購入契約)でSMRから長期電力調達をコミットすれば、事業者側は収入確実性が増し金融調達も容易となる。特にデータセンター業界はAI需要で電力消費が急増し、米国では2028年までに需要が2倍(176TWh→325–580TWh)になる見通し。大手テック企業は再エネだけでは24/7電力を賄い切れないとして原子力への直接投資に踏み出しており、SMRがその受け皿となりつつある。また、水素製造(クリーン水素)市場でも原子力熱利用に関心が高い。高温ガス炉や一部の融解塩炉は熱化学水分解法で高効率水素製造が可能と見られており、日本・ポーランド・英国などがデモ計画を練っている。仮に水素価格が将来上昇すれば、SMRからの熱供給ビジネスは発電より採算が取れる可能性もある。ただ現状では水素市場価格(1kg数ドル)に対し原子力熱コストは割高で、追加の炭素価格付けや規模拡大が必要とされる。

7. サプライチェーンと燃料

燃料供給(HALEU問題): 先述の通り、SMRの中には従来より濃縮度の高い燃料(HALEU, 高濃縮度低濃縮ウラン)を必要とするものが多い。濃縮20%未満とはいえ、現在商業供給される低濃縮ウラン(LEU, <5%)より遥かに高濃度で、既存の濃縮工場では対応できない。加えて世界唯一のHALEU供給源だったロシア(高濃縮ウラン在庫のダウンブレンド)が地政学的理由で利用困難となり、燃料供給はSMR最大のボトルネックになりつつある。米国DOEは危機感を強め、2022年にCentrus社と試験的HALEU製造契約を締結、オハイオ州の工場で2023年末に初のHALEU六フッ化ウランを生産した。しかし量はわずか数kgで、商業炉需要(数トン単位)には遠く及ばない。米国は今後数年で年20トン規模のHALEU生産を目指し、新規遠心分離プラント建設や既存Urenco USA工場の濃縮度引上げを検討している。欧州でもUrenco社が英独蘭政府と協議しHALEUライセンス取得に動くが、需要の不透明さから民間投資は慎重だ。日本など非核兵器国がHALEUを扱うにはIAEA保障措置や輸出管理の問題も絡むため、国際的な供給枠組み(多国間コンソーシアム)が模索されている。なおHALEU不要なSMR(例: BWRX-300やRR SMR)は燃料面で有利だが、逆に言えばそれらは既存炉並みの性能に留まりSMRとしての革新性は小さいとも言える。燃料戦略は各SMR開発における重要な要素である。

モジュール製造と据付: SMR普及にはサプライチェーンの整備が不可欠である。工場製作モジュールの量産には、対応可能な製造企業を早期に確保し品質認証を行う必要がある。例えば原子炉圧力容器は大鍛造品が必要だが、世界には日本製鋼所など限られたメーカーしか対応できない。SMR向けには一部モジュールを小分割しより多くの工場で製作できる工夫も検討されるが、それでも大量発注に耐える製造能力の育成はチャレンジである。NuScaleは韓国・斗山重工に一次側モジュール製造を委託し既に12基分の鋼材切断に着手している。Holtecは自社米国工場の他、韓国の現代建設や三菱電機と協力して重工業拠点の新設を計画する。各国政府もSMRを成長産業と捉え、自国企業を参画させようと競争が起きつつある。例えば英国はSMRに70%国産調達を要求し、工場立地を国内に促している。

建設・据付の人材: SMRだからといって建設が全自動になるわけではない。現地での設置・配管接続・試運転には従来型原発と同様に熟練技術者が必要である。特に同時並行で複数モジュールを建設する際、従来工期の短縮を狙って作業ピークが重なると、人員手配がボトルネックになる可能性が指摘される。また中小規模の電力会社がSMR導入する場合、自社に十分な原子炉技術者がいないケースも多い。このためEPC請負企業やベンダー自らが運転保守サービスを提供するビジネスモデルも検討される(例: NuScaleは自社で運転員訓練プログラムを用意)。一方で一連の原子力品質保証(QA/QC)文化を新参入のサプライヤーや建設現場に浸透させる必要もあり、これは過去の米国AP1000建設遅延で問題となった点である。SMRではデジタル技術活用(BIMやモジュール追跡システム)で品質管理効率化が図られるが、最終的には経験豊富なプロジェクトマネジメント人材が鍵を握る。

規制対応の調和: サプライチェーン面でもう一つの課題は国際規格と相互承認である。各国で設計認証や部材認証を一から取得していてはコスト増となるため、規制当局間での協調が進んでいる。2023年には欧州の7カ国規制庁がEMER²ICというSMR事前評価協力体制を発足させた。これはOSART等の多国間レビューを通じ、ある国での部分的な安全評価結果を他国審査に活用する試みである。またIAEAも原子炉設計の標準化に向け安全基準の提言を強化している。しかし一方で、各国の固有事情(テロ対策要件や耐震設計基準など)や法制度の違いから完全な審査共用は難しいとも言われる。ベンダー側では設計を各市場向け若干変更するマルチバリアント戦略も取り得るが、それでは量産メリットが減殺される。真の意味で「どこでも造れて、どこでも設置できる」SMRとなるには、なお国際協調に乗り越えるべき課題が多い。

8. リスクと論点(反対意見も含めて公正に)

SMR推進にはバラ色の将来像が語られる一方、批判的視点からの論点整理も重要だ。本節ではSMRにまつわる主要な懸念・反対論を取り上げ、可能な限りデータに基づき検証する。

  • コスト超過・経済リスク: 原子力の新設は近年ことごとく予算超過を起こしており、SMRも例外ではない。むしろサイズが小さい分、発電単価への影響は大きい。オンタリオSMR計画の試算では、仮に想定コストを20%上回ればLCOEは100ドル/MWhを超え、同規模の再エネ+蓄電コスト(太陽光+蓄電で~50ドル/MWh程度)を大幅に上回る。反対派は「SMRは未熟な技術ゆえ実績がなく、見積コストは楽観的」と批判する。IEEFA(エネルギー経済分析機関)の報告でも、2020年時点のNOAK費用予測2,900USD/kWに対しオンタリオ初号機実績は約5倍(~14,600USD/kW)になったと指摘される。これについてはFOAKとNOAKの違いを無視した比較との反論もあるが、少なくともFOAKの経済性は厳しいことは事実である。投資家保護の観点からは、公的支援で市場導入段階まで育てる必要があり、失敗時の損失補填を誰が負うか明確化が求められる。
  • スケジュール遅延: 大型炉の工期遅延は世界的に深刻だが、小型化すれば即解決とは限らない。モジュール供給の遅れや現場工事トラブル、人材不足は規模に関わらず起こり得る。むしろSMRは複数基を並行建設するケースが多く、プロジェクトマネジメントは煩雑になる可能性もある。HTR-PM実証炉は当初5年計画が最終的に11年を要したが、これは新技術の知見不足やサプライチェーン調達難が一因だった。SMR計画も多くは初物尽くしであり、工期の信頼性は未証明である。スケジュール遅延による金利負担増はコストを押し上げ、需要家との契約リスクも発生する。電力会社としては、SMR導入が既存設備のリプレースタイミングに間に合わなければ電力逼迫を招くリスクがあり、遅延時のバックアップ計画が必要となる。
  • 規制不確実性: 各国規制当局はSMR審査に前向きだが、安全を犠牲にするものではない。例えば米NRCはKairos社の溶融塩試験炉に許可を出した際、安全評価報告が数千ページに及んだ。またNRCはNuScale設計の一部変更(モジュール出力50→77MWe)に対し再審査を行い2年近く要した。反対派は「規制簡素化は安全軽視につながる」と批判し、一部市民団体はSMRのEPZ縮小に反対している。規制基準が未整備な新技術(例: TRISO燃料の実証データや溶融塩腐食評価)では当局も慎重にならざるを得ず、審査予見性は低い。この不確実性はプロジェクトファイナンス上の大きなリスクであり、事業主体は予備期間や追加費用計上を余儀なくされる可能性がある。
  • 廃棄物・バックエンド: 小型でも核廃棄物は出る。むしろ燃料を高燃焼度化すると単位発電量あたりの廃棄物発生量が増える可能性もある(長く燃やすほど超ウラン元素が蓄積し崩壊熱が増すため)。米スタンフォード大学等の研究では、一部SMR設計は大型炉より5~30倍多い使用済燃料量を生むとの試算もあると報告された。ただ設計により差が大きく、一概には言えない。高温ガス炉のように燃料密度が低いが自己完結性が高いもの、溶融塩炉のようにオンライン除染で廃棄物を集約可能なものなど様々である。いずれにせよ各国の最終処分政策は大型炉前提であり、SMR特有の形態(例: TRISO燃料の被覆壊れ燃料や二次液体廃棄物)に対応した標準は未確立だ。反対派は「解決策無きまま新しい種類の核ゴミを増やすな」と批判しており、業界側は廃棄物最小化設計やリサイクルサイクル構想で応えている状況である。
  • 核拡散・セキュリティ: HALEU利用が不可避なSMRでは、濃縮度向上に伴う拡散リスクが指摘される。濃縮20%に近づけば核兵器転用のハードルが下がるため、拡散リスク評価(Proliferation Resistance & Physical Protection)が重要になる。特に新興国市場へ輸出する場合、適切な保障措置と核物質防護が前提となる。また一部SMR(例えばマイクロ炉)は遠隔地に設置され管理員常駐を前提としないものもあり、テロリスクや核物質盗難リスクへの懸念もある。業界側は「地下埋設設置や工場一体燃料密封輸送でリスク低減できる」と説明するが、国際的な監視体制の構築が求められる。
  • 立地選定と合意形成: SMRは「どこにでも置ける」と言われるが、現実には適地選定と地元合意は容易でない。例えばフランスでは離島コルシカへのSMR設置案が住民反対で頓挫した例がある。日本のように原子力不信の強い国では、新規サイト提案は政治的に極めて難しい。現実的には既存の原発サイトや大工業地帯が候補となるが、その場合も使用済燃料の扱い(中間貯蔵や輸送)や事故時の避難計画など詰めるべき点は多い。SMRメーカーは「事故時敷地外影響なし」を主張するが、規制当局がそれを完全に認めるか未知数である。地元説明では専門的内容を平易に伝える工夫が必要で、透明性と対話が欠かせない。
  • 保険・損害賠償: 小型炉でも重大事故が起これば損害賠償は発生する。各国の原子力損害賠償制度は大型炉を前提に賠償枠(例: パリ条約では1事故あたり€12億)を設定しているが、SMRを多数展開した場合、事故確率が上がる可能性もある。保険料率をどう設定するか、複数サイトでの同時多発事故に備えるのかといった論点も存在する。またペナルティ規定(例えば工期遅延賠償や性能保証違反)は民間事業として重要だが、原子力特有のリスクをどこまで事業者が負担するか明確化が必要だ。これら契約・保険の取り扱いを詰めなければ、民間資本は安心して参入できない。

以上のように、SMRには多角的なリスクが存在する。推進派の主張(小型ゆえ安全・安価・柔軟)と反対派の主張(結局高コスト・新たなリスク増大)のギャップを埋めるには、データに基づく検証と透明な情報開示が要となる。初号機の実績データが蓄積すれば、こうした論争にも一定の決着がつくだろう。それまでは各プロジェクトが成功裏に進むよう、リスク低減策を講じつつ慎重に推進する姿勢が求められる。

9. 日本の導入に向けた実務チェックリスト

日本がSMR導入を検討する場合、以下の実務的観点のチェックリストに沿って準備を進める必要がある。

  • ユースケース整理: まずSMRの用途を明確化する。候補として(1)既存原発のリプレースによるベースロード電源(大規模系統向け発電)、(2)製鉄・化学プラント等への産業熱供給(熱電併給)、(3)地方都市の地域熱供給(Cogenerationによる暖房・電力)、(4)離島・遠隔地電源(ディーゼル代替)などがある。それぞれ経済性・必要台数・適合技術が異なるため、優先度をつける。
  • 候補サイトの適合性: SMRといえども立地条件は重要。既存原子力サイト(福島第一など事故炉跡含む)は基盤整備や地元理解で有利だが、規制上の扱い(新規設置とみなすか、増設か)を確認する必要がある。新規サイトの場合、活断層・津波・火山等のサイト評価を1から行うコスト・期間を考慮する。さらに冷却水確保も課題で、内陸設置の場合は空冷式炉や高温炉の利用、淡水化等の工夫を検討する。
  • 規制要件の事前把握: 日本の現行規制基準は軽水炉想定であるため、高温ガス炉や高速炉、溶融塩炉には適用困難な箇所がある。規制当局と早期に協議し、設計段階から規制要求を織り込む。例えば耐震設計方針や多重防護の解釈、フィルターベント等の要否を詰める。また新技術に対して規制側が要求する安全実証試験(例えばHTGRの全炉停止時自己冷却試験など)の有無も確認する。
  • 事業スキーム・財務: 日本で商用SMRを建設する場合、電力会社単独ではリスクが大きいため官民共同事業の形を取る可能性が高い。政府系金融機関(日本政策投資銀行など)からの低利融資、立地自治体への財政支援(交付金)、税制優遇(減価償却の特別償却)等を組み合わせ、投資採算性を確保する。加えて、発送電分離後の日本では新規電源を電力会社が契約してくれる保証がないため、長期PPA契約を産業界と結ぶなど需要面の確保も重要。
  • 地元合意形成: 原子力施設特有の自治体調整が必要。既存原発立地なら地元了解プロセス(知事・市町村長の同意)が踏襲されるだろう。一方、新規立地なら周辺自治体も含めた安全協定締結や説明会開催などゼロから始めねばならない。過疎地等では原発誘致への期待感もあるが、福島以降の世論を踏まえ丁寧なリスク説明と透明性が不可欠。
  • 系統接続・系統強化: SMRは出力が小さいため、電力系統への接続容量も比較的少なくて済む。ただし多数導入する場合は系統増強が要る。特に北海道や九州など一部地域では将来SMR電源を受け入れる余地(火力リプレース枠)が考えられるが、そこに送電線容量を割り当てる調整がいる。また離島に導入する場合、系統安定化(無調相機能や予備力)の設計が必要。
  • 使用済燃料・廃棄物管理: SMR由来の使用済燃料をどうするか事前に検討する。通常のLEU燃料なら六ヶ所再処理or中間貯蔵で対応可能だが、HALEUやTRISO、塩状の使用済燃料は既存施設で扱えない可能性がある。専用のキャスク開発や処理技術開発を視野に、バックエンド費用も積み立て計画に含める。高レベル廃棄物については、ガラス固化方式が適用できるのか、塩の場合はそのまま固化して処分するのかなど検討課題がある。
  • 運転員・技術者育成: 日本でSMRを運転・保守する人材をどう確保するか。現行の運転員国家資格(主任技術者など)がSMRでも適用されるのか、必要な要員数は大型炉より少ないのか等を確認する。設計者・製造者についても、国内で知見が乏しいタイプは海外提携や人材交流で底上げする。例えば高温炉ならJAEAや日立が知見を持つが、溶融塩炉は経験皆無なので海外スタートアップとの協業も検討に値する。
  • エネルギー政策整合性: 最後に、SMR導入が日本のエネルギーミックス全体で適切な位置づけかを検証する。2030年までの短期的には再エネ拡大・既存原発の活用で対応しつつ、SMRは2030年代後半以降のオプションとなる。CO₂削減効果、電源多様化効果、地域振興効果など定性的メリットを整理し、他の選択肢(蓄電、需要応答、水素発電など)と比較評価することが重要である。

以上のチェックポイントを踏まえ、日本でSMRを「実装」するには相当の準備と時間がかかることが分かる。一方で、海外動向を待ってからでは国内供給網の参画が難しくなるため、先行投資と情報収集を今から進めておく価値は高い。政策当局には現実的なロードマップ策定が期待される。

10. FAQ(People Also Askを意識)

Q1. SMRは本当に安いのか?
A1. 現時点では初号機コストが高く、必ずしも安価とは言えません。例えばカナダのBWRX-300計画では初号機の設備単価が約1.46万USD/kWに上ります。しかし複数基量産時には約30%低下する見込みで、2040年頃には従来大型炉並みかそれ以下のコストになる可能性があるとIEAは予測しています。各国政府も補助制度で経済性を底上げしようとしており、長期的には安価なクリーン電源となる潜在性があります。ただコスト低減が計画通り進む保証はなく、引き続き実証段階でのコストデータ検証が必要です。

Q2. SMRは従来の大規模原子炉と何が違うの?
A2. 主な違いは(1)出力規模(SMRは数十~数百MWeで大規模炉の数十分の一)、(2)モジュール化設計(工場製造部品を現地組立)による建設アプローチ、(3)受動安全機能の強化や革新的燃料の採用など安全・設計面の工夫です。大規模炉は「一極集中型」発電ですが、SMRは小型ユニットを数多く展開して分散電源としても利用できます。一方、大規模炉は規模メリットで発電単価を抑えてきた実績がありますが、SMRは量産メリットが出るまでは割高になり得ます。要は小回りが利くが高コストというトレードオフがあり、将来的な製造革新でその差を埋めようとしているのがSMRと言えます。

Q3. マイクロ炉との違いは?
A3. 明確な定義はありませんが、マイクロ炉(vSMRやMNRとも)は出力数百kWe~数MWe程度の極小型炉を指すことが多いです。SMRが工場製造とはいえ現地据付型なのに対し、マイクロ炉はコンテナサイズで工場封入されたまま輸送・設置し、使い捨て電池のように燃料が尽きたら工場に持ち帰る運用も想定されています。例として米国防総省向けのeVinci炉(熱出力14MWt)やOklo社Aurora炉(電気出力1.5MWe)などがあります。技術的には高速炉や高温ガス炉の小型版が多く、出力が小さいぶん発熱密度を高くするためHALEU燃料を用いる傾向にあります。マイクロ炉は無人運転や遠隔地設置も視野に入れていますが、その分セキュリティ確保や熱効率(スケールが小さく熱損失が相対的に大きい)に課題があります。総じてマイクロ炉はまだ研究段階が多く、まずSMR(数百MWe級)が実用化した後にニッチ用途で登場すると見込まれます。

Q4. 高温ガス炉(HTGR)は水素製造に有利なの?
A4. はい、HTGRは高温の熱を取り出せるため水素製造に適しています。具体的には熱化学サイクル(水を熱と化学反応で分解)に必要な900℃近い熱源を提供できる唯一の炉型です。例えば日本が計画中のHTGR実証炉は950℃の熱で水素を製造することを目標にしています。一方、従来の軽水炉は蒸気温度300℃程度で、水素製造には電気分解に頼るため効率が悪いです。ただHTGRでも経済性や安全性を含め実証はこれからであり、製造した水素のコストが安価な化石燃料由来水素や再エネ由来水素と競争できるかが課題です。中国のHTR-PMは発電と同時に500℃の蒸気を石油精製プロセスに供給する運用を始めており、まずは高温プロセス熱利用から商業化していく流れです。

Q5. SMRはどれくらい安全なの?事故時に本当に避難不要?
A5. 安全設計上は非常に高い目標を掲げています。多くのSMRは炉心が小さく蓄熱が少ないため、冷却が途絶えてもゆっくりと自然冷却でき、重大事故(炉心溶融や大量放出)の確率を極小化しています。米国規制当局も「最悪事故でも敷地境界を越えて放射線被害が及ばない」設計なら防災計画を簡素化できるとルール化しました。具体例として、Holtec社SMR-300は最悪事故でも敷地内退避で十分との設計を謳い、原子炉建屋の敷地境界をそのまま避難区域にできるとしています。しかしこれは理論上の前提であり、規制当局が完全に認めたわけではありません。反対論者は「SMRでもテロ攻撃や想定外シナリオなら大事故が起こり得る」と主張します。現実には、事故時避難の有無はケースバイケースで、設計とサイト条件に大きく左右されます。HTGRのように燃料が溶けない特性の炉もありますが、それでも放射能放出ゼロを保証するものではありません。したがって「絶対避難不要」との宣伝はやや過剰で、あくまで従来より避難の可能性が極めて低いという意味合いと理解すべきでしょう。

Q6. 使用済燃料の処分はどうなる?
A6. 基本的には従来の原発と同様、使用済燃料は冷却後に再処理または直接処分が必要です。ただSMRでは燃料形状や組成が特殊な場合があり、既存施設で対応できないことがあります。例えばTRISO燃料(黒鉛ボール)の使用済燃料はそのままでは再処理困難で、減容処理する技術開発が必要です。また溶融塩炉の燃料塩は固めてからでないと輸送・処分できません。各SMR開発企業は「自社炉の使用済燃料量は少ない」と主張しますが、相対的なものであり絶対量は確実に発生します。将来的に高速炉や高温炉で燃料を再利用するサイクルが構築できれば廃棄物量は減りますが、実現には長い年月がかかるでしょう。それまでは各国で中間貯蔵するしかなく、日本でも将来SMRを導入するなら新タイプ燃料用の貯蔵設備・輸送容器の設計が必要になると考えられます。

Q7. なぜ最近ビッグテック企業がSMRに注目しているの?
A7. データセンターなどIT産業の電力需要が爆発的に伸びており、クリーンで安定した大量電力を24時間確保する必要に迫られているためです。AI時代で巨大データセンター群が消費する電力は世界全体の数%にも達し、2030年には米国で全電力需要の9%がデータセンター由来との予測もあります。再生可能エネルギーだけでは夜間や無風時に途切れるため、自家発電用に小型原子炉を導入しようとする動きが出ています。GoogleはKairos社SMRを500MWe相当導入する契約を結び、AmazonもX-energy社へ出資して将来自社データセンターにSMR電力を使う計画です。これらビッグテックは脱炭素目標を掲げており、SMRがクリーンエネルギー調達の切り札になると期待しているのです。もっとも、まだ実機がないため本格導入は遅くとも2030年代になるでしょう。

Q8. 日本はSMRを導入すべき?
A8. 非常に慎重な検討が必要ですが、長期的選択肢として用意しておく価値はあります。日本の電力需要は2050年カーボンニュートラルへ向け電化が進み増加傾向です。再生エネ拡大や省エネだけではまかないきれない部分を原子力で補うなら、柔軟に増減でき安全性も高いSMRは魅力的です。また産業用熱供給や水素製造など新需要にも応えられます。しかし、日本で新規原発を建てるハードル(社会的受容性、費用、時間)は依然高いです。少なくとも2030年代前半までは既存炉の活用と再エネで乗り切り、その後のカーボンフリー電源としてSMRを実用化するか否か見極めるのが現実的でしょう。導入するにしてもまず既存原発サイトでのリプレース(建て替え)から始め、小型炉で実績を積みつつ理解を得ていく段階的戦略が考えられます。

Q9. SMRは再エネと競合する?それとも補完関係?
A9. 基本的には補完関係と考えられます。再エネ(太陽光・風力)は出力が天候に左右されるので、バックアップや調整力が必要です。SMRは出力可変設計にしてグリッドバッファとして働く構想もあります。例えば米TerraPower社はナトリウム冷却SMRに溶融塩の蓄熱併設し、再エネ余剰時に熱を蓄え必要時に発電量を増減する「ハイブリッド運用」を提案しています。高温ガス炉も出力を高速に調整できる特性があります。一方で、同じ無炭素電源として競合要素もあります。限られた予算や政策資源を再エネかSMRかに配分する必要があり、両方同時は難しい場合もあるでしょう。ただ2050年ネットゼロ達成には再エネ最大化と並行してそれでも足りない部分を埋めるバックアップが不可欠との見方が一般的で、SMRはその候補の一つです。IEAも再エネ+SMRのシナジーに期待を示しています。

Q10. 世界のSMR導入計画は本当に実現するの?
A10. 確実ではありませんが、一部は動き出しています。最も先行する中国ではHTR-PMが商業運転中であり、2026年には玲龍一号が完成見込みです。カナダと米国も2030年前後の稼働を目指す計画を具体化しています。しかし過去にも「第4世代原子炉」など夢の新型炉計画が遅延・頓挫した例は多く、SMRも楽観は禁物です。現時点で実現性が高いのは、既存技術の延長線上にあるLWR系SMRでしょう。一方、革新的な高速炉・高温炉・MSR系は初号機実証がこれからで、軌道に乗るのは2040年以降かもしれません。各国政府・企業のコミットメントは強くなっており、資金も投入され始めました。技術的障壁を乗り越えられるか注視が必要です。したがって一部は予定通り動くが、大半は遅延または規模縮小というのが現実的な見通しでしょう。エネルギー転換の選択肢として、SMRが十分成熟するまで他の低炭素手段も並行して推進すべきです。

用語集(日本語→英語)

  • 小型モジュール炉(SMR) – Small Modular Reactor. 出力300MWe以下でモジュール化工法を採用する原子炉。
  • 高温ガス炉(HTGR) – High Temperature Gas-cooled Reactor. ヘリウム冷却・黒鉛減速の高温炉。
  • 高速増殖炉(FBR) – Fast Breeder Reactor. 高速中性子で核燃料を生産(増殖)する炉。SMR文脈ではFast Neutron Reactor (FNR)とも。
  • HALEU燃料 – High-Assay Low-Enriched Uranium fuel. 濃縮度5~20%のウラン燃料。「高濃縮度低濃縮ウラン」に相当。
  • TRISO燃料 – TRIstructural-ISOtropic fuel. 炭化物核燃料粒子を3層の被膜で覆った高温炉用燃料。
  • 受動的安全 – Passive safety. 非常時に人為操作や外部電源に頼らず自然現象で炉心冷却等を行う安全設計。
  • FOAK/NOAK – First of a Kind / Nth of a Kind. 初号機と量産機。
  • 設計認証 – Design Certification. 原子炉設計そのものの安全審査合格証。
  • GDA – Generic Design Assessment. 英国での包括的設計審査プロセス。
  • ESP – Early Site Permit. 米国の原子力発電所予定地に対する事前許可制度。
  • CFD – Contract for Difference. 差額決済契約。電力の固定買取制度の一種。
  • RABモデル – Regulated Asset Base model. 電力料金規制で資本費に一定利益を保証するスキーム。
  • PPA – Power Purchase Agreement. 電力購入契約。需要家と発電事業者の長期売電契約。
  • IRA法 – Inflation Reduction Act. 2022年米国のインフレ抑制法。気候投資を含む。
  • 核拡散抵抗性 – Proliferation Resistance. 核物質が兵器転用されにくい性質。
  • 保障措置 – Safeguards. IAEA等による核物質監視措置。
  • EPZ – Emergency Planning Zone. 原子力緊急時防護措置を計画する防災区域。

参考文献(脚注に対応/一次情報優先)

  1. カーボン・コメンタリー(Chris Goodall)「The first test for new Small Modular Reactors (SMR)」(2025年5月11日)。オンタリオ州政府はダーリントンSMR4基計画の総費用を209億カナダドル(約150億米ドル)と試算carboncommentary.comcarboncommentary.com。(換算レート:1CAD≒0.72USD〔2025年5月時点〕) ↩
  2. 設計認証(Design Certification)とは炉型設計そのものの安全審査。建設許可(Construction Permit/Licence)は個別サイトでの建設を許可するもの。運転開始前には運転許可(Operating Licence)も必要。表中ESPは早期サイト許可(Early Site Permit)の略。 ↩
  3. CAPEX=資本的建設費(目安)。推計値含む。 ↩

2025年09月30日: 初版公開(本記事)作成.

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