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高市早苗「首相就任見込み」徹底解説:論戦で見えた政策軸・初動100日ロードマップ・日本政治はどこへ向かうか

自民党の高市早苗前経済安全保障担当相(64)が2025年10月4日、決選投票を制して第29代総裁に選出されました。女性として初の首相就任が見込まれる高市新総裁について、本記事では総裁選の最新状況から政策の論点、今後100日間の展望までを詳しく解説します。

要点

  • 女性初の首相へ: 2025年10月4日、自民党総裁選の決選投票で高市早苗氏が勝利し、新総裁に選出。特別国会は10月中旬に召集予定で、与党は過半数割れながらも衆院第1会派。野党が統一候補を擁立しない見込みのため、高市氏が首相に指名される可能性が高いと見られます。首相指名後ただちに新内閣を発足し、所信表明演説は臨時国会会期中の『10月下旬見込み』(具体日程は未確定)と報じられています。女性首相が誕生すれば日本憲政史上初となります。
  • 「サナエノミクス2.0」の経済路線: 高市氏は総裁選で「大胆な危機管理投資と成長投資」を掲げ、物価高対策や減税に前向きな積極財政路線を強調しました。一方で財政健全化にも言及し、金融政策は日銀の自律性を尊重する姿勢に転換。大型の財政支出による景気刺激策を打ち出す一方、債務拡大への市場の警戒にも配慮すると見られます。
  • エネルギー・安全保障強化: 原発の再稼働・次世代炉の開発推進や、防衛費の対GDP2%への増額計画など前例のない国防力強化を支持。経済安全保障では、対日外国投資の審査委員会新設や国家情報局の創設、スパイ防止法制定に着手する方針を掲げました。台湾との「準同盟」構想にも言及するなど対中姿勢は強硬ですが、実際の政策運営では現実路線を取る可能性が指摘されています。
  • 政権基盤と連立模索: 与党は直近の国政選挙で衆参とも過半数割れに陥り、少数与党に転落しています。衆議院(定数465)は自民191・公明24の計215議席で過半数233に届かず、参議院(定数248)でも自公は過半数割れとなっています。このため、高市政権は公明党との連携維持に加え、国民民主党など政策が近い野党との連立や協力を模索する見通しです。法案成立には野党の合意が欠かせず、与党だけで強行採決する従来の「自民一強」運営は困難になる見込みです。
  • 外交課題と初陣の国際舞台: 高市氏は「日本を取り戻す(Japan is Back!)」との外交姿勢を掲げ、前任者より積極的に首脳外交に臨む考えです。就任直後の課題として、10月末に韓国・慶州で開催されるAPEC首脳会議での各国首脳との会談が控え、特に同会期中に予定されるドナルド・トランプ米大統領との初会談で防衛費負担や通商政策を巡る要求に直面する可能性があります。中国や韓国とは歴史認識や安保政策で摩擦も予想されますが、近隣外交の「正のモメンタム維持」に向けた対話も模索されます。

1. まず押さえる最新状況(タイムライン付き)

最新のステータス: 高市早苗氏は2025年10月4日、自民党総裁選挙の決選投票で対立候補の小泉進次郎農林水産相(44)を破り、新総裁に選出されました。女性が自民党総裁に就任するのは初めてで、高市氏は「自民党の新しい時代を刻んだ」と勝利演説で述べていますjp.。今回の総裁選には5人が立候補し、1回目投票で過半数獲得者がいなかったため上位2名による決選投票にもつれ込みました。高市氏は決選投票で計185票(議員票・地方票の合計)を獲得し、156票の小泉氏に29票差で勝利しています。総裁選の投票は自民党国会議員(今回295人)と党員・党友票によって行われ、有権者全体の約1%に過ぎない党員の意思で事実上次期首相が選ばれる仕組みでした。

首相指名と組閣の流れ: 自民党総裁選の結果を受け、政府は10月中旬にも特別国会を召集し首相指名選挙を実施する予定です。与党は過半数に届かないものの衆院第1会派で、野党が統一候補を擁立しない見込みのため、高市氏が新首相に指名される公算が大きいと見られます。首班指名選挙後、皇居での親任式と閣僚認証式を経て新内閣が正式発足します。以下に主要日程の見通しを示します。

  • 10月4日: 自民党総裁選で高市氏が当選(党第29代総裁)。
  • 10月15日: 特別国会(臨時国会)召集。衆参本会議で首相指名選挙を実施予定(高市氏が首相に選出見通し)。同日中に組閣・閣僚認証式を経て第○次高市内閣が発足見込み。
  • 10月17日: 新首相による所信表明演説(政府方針演説)を実施予定。続いて衆参両院本会議で各党代表質問(日程は見通し:衆院18~19日、参院20~21日程度)。
  • 10月下旬: 主要外交日程として、APEC首脳会議(10月31日~11月1日、韓国・慶州)に新首相として初参加。会期中に米国・中国・韓国など各国首脳と相次いで初会談の見通し。特にトランプ米大統領とは日米首脳会談が調整されており、防衛費や通商問題が議題となる可能性。

高市氏が正式に第104代内閣総理大臣に就任すれば、日本初の女性首相となります。なお同氏は衆議院奈良2区選出で当選10回を数え、経済安全保障担当大臣や総務大臣、党政調会長など要職を歴任してきました。64歳での首相就任は戦後の首相として平均的な就任年齢ですが、女性の登用が遅れていた日本政界において画期的な出来事です。岸田文雄首相(在任2021~2024)退任後に誕生した石破茂政権が約1年で幕を閉じたことに伴う今回のリーダー交代劇は、物価高や選挙敗北で揺れる与党が挙党態勢を立て直すための布石と位置付けられています。

2. 「論戦」で何がわかったか(争点別に要約)

2025年の自民党総裁選は、物価高騰への対応や少子化、エネルギー政策から安全保障まで幅広い論点が争点となり、候補者同士の論戦を通じて各氏の立場が鮮明になりました。高市氏は党内きっての保守強硬派と目されてきましたが、選挙戦では従来の主張をトーンダウンさせて現実路線をアピールする場面も見られました。以下、主要な政策テーマごとに論戦で見えた高市氏の政策軸を整理し、他候補との違いを概観します。

経済・財政政策: 「大胆な投資」で成長最優先

高市氏は総裁選の経済論戦で、「世界の潮流は行き過ぎた緊縮ではなく課題解決に向けた責任ある積極財政だ」と強調し、政府支出による成長戦略を前面に打ち出しました。具体的には、大胆な公共投資と成長投資によって暮らしの安全と強い経済を実現するという「大胆な危機管理投資と成長投資」をスローガンに掲げ、財政支出拡大に前向きな姿勢を示しました。従来、彼女は安倍晋三元首相の掲げた「アベノミクス」を継承する形で大規模な金融緩和と財政出動を支持してきましたが、今回の選挙戦では消費減税の主張を取り下げ、代わりに低所得者への給付付き税額控除(税収を原資に現金給付を行う仕組み)の導入準備に言及しました。この政策は野党・立憲民主党も提案しているもので、高市氏は超党派で協議を進める考えを示しています。

一方、財政規律について高市氏は「財政健全化は重要」と認めつつも「将来世代への最大のツケは借金ではなく成長の喪失だ」と述べ、必要な国債発行には積極姿勢を崩しませんでした。ただし昨今の物価高騰を踏まえ、金融政策への言及は抑制しています。前年の総裁選で高市氏は日銀の利上げに対し「利上げするのはアホやと思う」と痛烈に批判していましたが、今回の討論会では「金融政策の手段は日銀が決めるべきだ」と述べ、政府による方向性提示はしつつも日銀の独立性を尊重する考えを示しました。この軟化について専門家は「高市氏=積極財政」という市場のイメージが先行すれば一時的に円安・株高が進む可能性がある反面、インフレ進行下では金利上昇も容認せざるを得ない局面がありうると指摘しています。実際、総裁選で高市氏が優勢と伝わると東京株式市場は織り込みに動き、円相場はやや弱含む場面もありました(市場では「高市氏が勝利すれば円安が進む」との見方も)。高市氏自身、「物価対策をしっかりやる」と述べているように、景気刺激とインフレ抑制のバランスをどう図るかが課題となります。

エネルギー・産業政策: 原発再稼働と技術革新

エネルギー政策では、高市氏は日本のエネルギー自給率向上と脱炭素の両立を掲げ、原子力発電の活用拡大に踏み込んだ主張をしました。総裁選公約では、既存原発の安全性確認後の再稼働に加え、「次世代革新炉(新型原子炉)や核融合炉の実装」を推進すると明記。特に、福島第一原発事故後に停滞していた原発政策を転換し、将来に向けた原子力技術の開発投資を強化するとしています。これは同じ保守系候補の中でも積極的な立場で、討論会でも高市氏は「電力安定供給とエネルギー安全保障のため原発政策を前に進めるべきだ」と強調しました(発言趣旨)。他方、再生可能エネルギーについても日本発の技術としてペロブスカイト型太陽電池の普及を支援し、グリーントランスフォーメーション(GX)を加速させる方針です。

国内産業の競争力強化に向けては、「日本列島を強く豊かに」というキャッチコピーのもと、国内の資源開発や基幹産業への投資を謳いました。例えば高市氏は9月の名古屋での演説で、自動車産業支援策として自動車取得時の環境性能割(自動車税)を2年間限定で停止すると明言しています。これは、仮に米国が日本車への高関税を復活させる事態に備え、国内需要喚起で自動車産業を守る狙いがあります。また、高市氏は診療報酬や介護報酬の前倒し引き上げによる医療・介護分野への支援も公約に据えました。物価高や人件費上昇に対応し、補正予算を編成して2025年度前半にも医療介護報酬を臨時改定すると訴えており、この「健康医療安全保障」策は超高齢社会への緊急対応と位置付けられます。

規制改革やデジタル化(DX)については、高市氏は具体的な言及をやや抑え気味でした。他の候補がスタートアップ振興や行政改革を掲げたのに対し、高市氏は選挙戦ではあえて触れず、争点化を避けた印象があります。有権者の関心が高いガソリン価格高騰への対応については、ガソリン税(燃油の暫定税率)の廃止を唱えました。これが実現すればガソリン価格をリッター当たり数十円程度引き下げる効果があり得ます。ただし財政への影響も大きく、他候補との間で議論になった際には、高市氏は必要に応じたトリガー条項凍結解除(一定価格超過時の課税停止)など現行制度の活用にも含みを持たせています(討論会発言要旨)。

安全保障・外交政策: 防衛力強化と経済安保

安全保障分野では、高市氏は「新たな戦争の様態にも対応できる国防体制」を構築すると掲げ、いわゆる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」保有や宇宙・サイバー領域の防衛強化を支持しています。防衛費については、岸田政権下で決定した対GDP比2%目標(2027年度までの増額)を堅持し、それ以上の増額にも含みを持たせる姿勢です。米国やNATO諸国が2%以上を基準とする中、日本も2022年末に国家安全保障戦略で2027年度までにGDP比2%へ防衛費増額を明記しており、高市氏もこの路線を「当然の前提」としています。トランプ米大統領は過去に日本に対し防衛費の大幅増(GDP比4~5%)を要求したとの報道もありましたが、高市氏は対米交渉で自衛隊の役割拡大と予算措置について「現実的な分担を追求する」と述べています(関係者談)。

高市氏の際立った主張の一つが、経済安全保障(Economic Security)の強化です。経済安保担当相の経験を持つだけに、総裁選公約には具体策が並びました。中でも注目されたのが、海外資本による対日投資を国家安全保障の観点から審査する「対日外国投資委員会」の創設です。これは米国のCFIUS(外国投資委員会)の日本版とも言える機関で、通信・半導体・防衛産業など重要分野での中国企業などによる買収や出資を政府が事前審査し、安全保障上問題があれば是正や中止を勧告する仕組みを想定しています。加えて、高市氏は国家情報局(日本版CIA)の設置とスパイ防止法の制定に言及しました。現在、日本には統一的な対外情報機関がなく、公安調査庁や内閣情報調査室などが分散的に情報活動を担っています。高市政権が発足すれば、これらを統合再編する形で新たな情報機関創設に向けた法整備が進む可能性があります。スパイ防止法についても、冷戦期から制定論議があるものの表現の自由との兼ね合いで見送られてきましたが、経済安保の一環として機運が高まるか注目されています。

外交面では、高市氏は保守タカ派らしく、対中強硬姿勢が目立ちます。例えば今年に入り、高市氏は「日本は台湾と『準同盟』関係を構築すべきだ」と発言し、中国の反発を招びかねない踏み込んだ主張をしました。台湾をめぐっては、蔡英文政権の後継である頼清徳総統が高市氏の総裁選勝利を歓迎し「彼女は台湾の揺るぎない友人だ」と祝意を表明しています。高市氏自身も「台湾とは経済・安全保障・技術協力でパートナーシップを深めたい」と応じており(日台関係者談話)、日台接近が進む可能性があります。一方、中国や韓国との関係について、懸念材料は高市氏の歴史観です。彼女は毎年のように靖国神社に参拝しており、これをアジア近隣国は軍国主義の象徴として批判してきました。韓国の李在明大統領(※2025年時点)は総裁選後、「日韓関係の前向きな勢いを維持するため協力したい」とのコメントを出しましたが、高市氏の閣僚時代の発言には慰安婦問題や徴用工問題で韓国を批判するものもあり、就任後の対応が注目されています。高市氏は討論会で「対話を重視する外交姿勢で、常に国益を第一にバランス感覚を持って国家経営に当たる覚悟だ」と述べており、保守色を前面に出しつつも現実的な外交を模索する姿勢も示唆しました。

社会・制度改革: 保守的価値観と封印された争点

社会制度に関して、高市氏は伝統的な保守価値観に立つ姿勢で知られます。選択的夫婦別姓や同性婚の合法化といったリベラルな改革には慎重、もしくは反対の立場を取ってきました。しかし今回の総裁選では、こうした社会的少数者の権利問題は主要候補いずれも議論を避ける傾向にありました。専門家は「候補者たちは歴史認識や同性婚など争点化すると党内対立を招く問題を敢えて避けた」と指摘しています。実際、高市氏は選挙戦を通じて自身の保守的主張(例:LGBT法案への反対や慰安婦問題での持論など)を前面には出さず、「穏健保守」を自称して野党とも協調する意欲をアピールしました。この背景には、党の支持基盤拡大には中道層の理解も必要との計算があると見られます。

それでも、公約集「その他」の項目には憲法改正と並んで「男系皇統を守るための皇室典範改正」が盛り込まれています。これは現在問題となっている女性皇族の皇位継承(いわゆる女性天皇・女系天皇)の是非について、男性皇統維持(男系男子のみ皇位継承)の立場から皇室典範を改正しようというものです。高市氏は旧宮家の男系男子の皇籍復帰など保守派の主張を支持しており、この点はリベラル派とはっきり立場が分かれます。少子化対策については、高市氏は具体的な新機軸は示しませんでしたが、「家族の価値観を守りつつ子育て支援を充実させる」と述べています(発言趣旨)。移民政策や外国人労働者の受け入れ拡大についても否定的で、「人口減対策はまず国内の出生率向上が基本」という考えを示しました(討論会発言)。一方で外国人観光客のマナー問題を引き合いに出し、「奈良のシカに外国人観光客が蹴りを入れたという報告があった」などと主張したことには批判も上がりました。この発言は裏付けのない風評を元に外国人を非難したとして「不適切だ」と指摘され、高市氏は発言を若干修正しています。総裁選全般を通じて高市氏は社会的争点を正面から論じることを避け、「まず経済再生と党再建が最優先」と繰り返しました。そのため、仮に首相就任後に同性婚や夫婦別姓などの法制度整備が議題となっても、高市政権が消極姿勢をとる可能性は高いと見られています。もっとも、国会運営上は野党の要求を無視できない状況だけに、維新や国民民主党など賛成派野党の動向次第では議論が進展する余地も残されています。

3. 主要候補(小泉進次郎氏ほか)との政策比較

2025年総裁選は、高市氏のほか4名が立候補し、特に小泉進次郎氏(44)との一騎打ちが焦点となりました。小泉氏は元首相・小泉純一郎氏を父に持つ若手ホープで、農林水産大臣として入閣中ながら幅広い人気を誇ります。一方の高市氏は安倍派の支持を固める組織戦で優位に立ちました。両者の政策スタンスはどう違ったのでしょうか。以下、主要争点について高市氏と小泉氏の立場を比較する簡易表を示します。

政策争点高市早苗 (64歳・保守強硬派)小泉進次郎 (44歳・穏健改革派)
財政・金融政策大胆な積極財政で成長最優先。減税・給付策に前向き。日銀緩和継続を支持(利上げに慎重)財政規律を重視しつつ機動的財政措置。財務省出身者が陣営中枢で、岸田・石破路線を継承し緩やかな財政健全化志向
エネルギー・環境政策原発再稼働・新増設に積極的。国産エネルギー技術(次世代炉・新型太陽電池)投資を推進原発依存に慎重で再生エネ拡大を重視(父の純一郎氏の脱原発志向も影響)。2050年カーボンニュートラルへ規制改革を模索(報道)
安全保障・外交政策防衛費対GDP2%目標を堅持、敵基地攻撃能力の保有支持。対中強硬(台湾と安全保障協力強化)。憲法9条改正に意欲防衛力強化は支持するも外交対話を重視。対中関係は安定志向で慎重姿勢。憲法改正には前向きだが急がず、与野党合意を重視(本人発言)
社会・統治改革家族観・伝統尊重の保守路線(選択的夫婦別姓や同性婚に消極的)。行政機構は国家安保重視型(情報局新設等)世代交代と開かれた党運営を主張。女性や若者の登用に積極的(党改革案を提示)。夫婦別姓は容認論傾向、LGBT理解増進法にも一定の理解(報道)

※他候補: 林芳正官房長官(62)は外交重視の中道路線で134票を獲得、小林鷹之元経済安保相(48)は改革保守路線で59票、茂木敏充前幹事長(70)は党重鎮として49票を得票。いずれも1回目投票で敗退。

表からも分かるように、高市氏が財政・安保でより大胆かつ保守色の強い政策を掲げたのに対し、小泉氏は穏健で調整型の姿勢を打ち出していました。特に財政政策では、高市氏が国債増発も辞さない積極財政であったのに対し、小泉氏は「自民党にはまだ国民の役に立てる力がある。対立ではなく融和で政策を進めたい」と演説で述べるなど、与野党や世代間の融和を強調しました。エネルギーでは、高市氏が原発新増設まで踏み込んだのに対し、小泉氏は環境相経験者として脱炭素への国際協調を重視し、再エネや蓄電技術への投資を主張したと伝えられます。安全保障では、高市氏が台湾やスパイ防止法など具体的プランを示した一方、小泉氏は「外交の対話力で抑止力を高める」と述べ、防衛力と外交力のバランスを強調しました(討論会発言)。

最終的に勝負を分けたのは、党所属国会議員の票です。1回目投票では高市氏が183票、次いで小泉氏が164票を獲得しトップ2となりましたが、地方党員票では高市・小泉両氏とも伯仲していたとみられます。決選投票では国会議員票295と都道府県連票47の計342票で争われ、高市氏が185票、小泉氏が156票(無効1)という結果でした。高市氏は議員票の過半数を固めただけでなく、地方票でも小泉氏を上回り勝利したことになります。高市陣営には安倍派(清和政策研究会)や麻生派といった党内右派勢力が結集し、小泉氏を支持した若手・中堅議員層を上回りました。一方、小泉氏は党員票で健闘し、世論調査でも女性や都市部からの支持が高かったとされます(報道)。しかし野党時代から数えて党所属30年超のベテラン議員層の支持を広く得た高市氏に軍配が上がりました。

総裁選を通じて明らかになったのは、従来の自民党支持層が高市氏のような明確な保守政策を求めている一方で、無党派層や若年層には小泉氏のような柔軟な改革志向への期待も根強いことです。高市氏は「全員参加でないと自民党を立て直せない。これから謙虚にやっていく」と語り、派閥や世代を超えた党運営を呼びかけました。こうした挙党態勢構築が今後の政権運営の成否を握ると言えます。

4. 政権発足後の初動100日ロードマップ

高市政権が発足した場合、その最初の100日間(約3か月強)は内政・外交で多くの重要日程が控えています。ここでは、新政権の初動に焦点を当て、組閣方針や政策課題、マーケットへの波及シナリオを展望します。

(A) 組閣と党人事の方針: 高市氏は女性初の首相となることから、自身の内閣でも女性閣僚の積極登用を図ると見られます。自民党はこれまで女性大臣比率が低く、岸田前政権でも5名(約25%)が最多でした。高市氏は勝利演説で「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てる。働いて働いて働き抜く」と述べ、自ら模範を示す覚悟を語りました。新内閣では、例えば官房長官や主要閣僚に女性を起用する可能性が指摘されています(党関係者談)。また、派閥のバランスにも配慮しつつ、高市氏を支えた安倍派・麻生派から要職に起用する人事が予想されます。ただし党内融和のため、決選投票で争った小泉進次郎氏や3位の林芳正氏の陣営にも一定の配慮を示すと見られます。高市氏は「全員参加でないと党を立て直せない」と明言しています。このため幹事長や政調会長など党三役人事で他派閥・他候補陣営を起用する可能性があります。新総裁は就任直後から党役員人事に着手すると報じられており、10月中旬の特別国会前には内閣と党執行部の顔触れが固まるでしょう。

(B) 政策カレンダーと予算編成: 発足直後の臨時国会で、まず補正予算の編成が予定されています。高市氏は総裁選中から「秋の臨時国会で補正予算を組む」と明言しており、景気対策と物価高騰緩和を目的に2025年度補正予算を提出する見込みです。補正の柱としては、前述の診療報酬の前倒し引き上げや低所得世帯への給付措置、エネルギー高騰対策(ガソリン税一時停止など)の財源確保が挙げられます。規模感は数兆円規模との観測もあります(関係者談)。補正予算案は与野党協議を経て11月中の成立を目指すスケジュールとなるでしょう。

続いて年末には2026年度当初予算案の編成作業が待ち構えています。高市氏は公約で「年収の壁」引き上げ(パート主婦などが130万円超働いても社会保険扶養の不利が出ないよう上限緩和)を掲げており、これを反映した税制改正が検討されます。年末の与党税制調査会では、この配偶者控除等の見直しや、企業の賃上げ促進税制の拡充、投資減税など高市カラーを出す項目が議論に上るでしょう。減税策については高市氏は消費減税を封印しましたが、代替としてガソリン暫定税率の廃止固定資産税の軽減などに言及しており、2026年度税制改正大綱に盛り込まれる可能性があります。これら減税・支援策の実施時期は早ければ2026年4月からとなりますが、景気動向次第では前倒しや上乗せも検討されます。

(C) 法案準備と重要課題: 高市政権は発足初期から公約実現に向けた法案作りに着手するとみられます。特に経済安全保障関連では、次期通常国会(2026年1月招集予定)に向けて国家情報局の設置法案重要物資の安定供給確保法の強化などの準備が加速しそうです。与党はすでに経済安保推進法(2022年成立)を持っていますが、高市氏はそれを拡充する形でスパイ活動防止や対外投資規制を盛り込む二段構えの立法を視野に入れています。これら法案は野党の理解も得やすく、早期実現が図られるでしょう。

また、懸案の子ども・少子化対策では、岸田前政権の「こども未来戦略方針」を継承しつつ、高市氏ならではの家族重視の視点を盛り込んだ追加策が検討される可能性があります。児童手当の拡充や結婚・出産への経済支援策について、高市氏は総裁選討論で具体策を語りませんでしたが、与党内には出産一時金の増額大学学費の負担軽減などの提言があります。新政権でも党内プロジェクトチームを設け、来年度予算への反映を目指す見通しです。

(D) 市場・経済への波及シナリオ: 高市政権の政策はマーケットにも影響を与えます。まず金融政策面、高市氏の登場で日本銀行の早期利上げ観測は後退しました。実際、総裁選直後には「高市氏の選出で日銀の今月の利上げ確率(市場想定約60%)が低下した」との指摘があり、追加利上げ観測が和らいだことで債券利回りが低下する局面も見られました(報道)。このため短期的には円相場は緩やかな円安株式市場は財政出動期待で堅調という「高市トレード」が再始動する可能性があります。実際、補正期待から内需株や建設株が買われるとの見方もあります(市場関係者談)。一方で、中長期的には巨額の国債増発による財政悪化懸念が再燃すれば、海外投資家が日本売りに転じるリスクも指摘されています。国債残高はGDP比250%超に達しており、無制限の財政拡張は「投資家を慌てさせる可能性がある」との警鐘もあります。高市氏自身、市場の信認を失わないよう「財源に責任を持つ」と述べており(所信表明草稿)、財政と金融の両面でバランスを取ることが求められます。

また、高市氏は賃上げと物価高対策の両立を政権の最優先課題に挙げています。仮に補正予算で現金給付や減税が実施されれば2026年前半の消費を下支えし、景気にプラスとなるでしょう。ただし日本銀行は現在も粘り強いインフレ(生鮮食品を除く消費者物価上昇率3%以上)に直面しており、財政刺激がさらなる物価押し上げ要因となれば、日銀が金融政策正常化(事実上の利上げ)に踏み切らざるを得ない展開もありえます。このように「積極財政と金融引き締め」の組み合わせというシナリオでは、円安・株高の流れが一転して長期金利上昇・株価調整を招くリスクも否定できません。高市政権はまず100日間で市場の信頼を獲得し、「成長と物価安定の両立」に道筋をつけられるかが試金石となります。

5. 与野党マップと連立・法案可決シナリオ

衆参の勢力図: 高市新総裁が直面する国会は、与党が過半数割れした異例の勢力図となっています。衆議院(定数465)では、自民党が191議席、公明党が28議席で与党合計219議席にとどまり、単独過半数233を大きく下回ります。最大野党の立憲民主党は148議席を占め、以下、日本維新の会38議席、国民民主党24議席、日本共産党9議席、れいわ新選組8議席、社民党3議席、参政党3議席など野党勢力が合計で246議席前後に達します(欠員と無所属若干)。参議院(定数248〈議長を除く定数247〉)でも、2025年7月の選挙で与党は大敗し、自民党が非改選含め約105議席、公明党は約20議席となり、与党計125前後(定数の約51%)から大きく後退しました。与党は改選過半数維持の目標50議席に届かず計47議席(自民39・公明8)に留まったため、参院全体でも過半数割れ(少数与党)となったのです。自民党が政権にある状態で衆参両院とも過半数を失うのは1955年の結党以来初めてと報じられています。

与党少数下では、野党が結束すれば内閣不信任案や首相指名で過半数を獲得しうる厳しい情勢ですが、今回の首班指名選挙では野党第一党の立民や第二党の維新が統一候補擁立に至らず(立民の野田佳彦代表が形ばかり出馬)、結果的に与党が最大会派として高市氏を当選させる構図となりました。もっとも、「いつでも野党が一致すれば不信任が通る」という不安定さは残ります。こうした状況下、高市氏は政権維持と法案成立のために与党陣営の拡大野党協力の確保を模索せざるを得ません。自民・公明の既存連立(与党)は「基本中の基本」として維持しつつ、高市氏は「基本政策が合致する野党とは連立したい」とも述べています。具体的には、中道色の強い国民民主党(衆24・参17)や、政策志向の近い日本維新の会(衆38・参7)との間で協力が模索されています。

実際、特別国会前には自民党が野党・国民民主党に対し、予算や税制を議論する与野党協議の場を設けることで合意する動きがありました。従来、自民党は税制・予算編成を与党内だけで決めてきましたが、少数与党となったことで“聖域”に野党を招き入れた格好です。これにより、例えば政治資金規正法改正案では野党案の一部(政党支部への企業献金禁止など)が取り入れられる可能性が出ています。また、保守派が反対して棚上げされてきた選択的夫婦別姓についても、維新や一部自民議員が賛成に回れば法案成立の芽が出てくるなど、「数の論理」が変化しつつあります。このように、高市政権では野党の意見も無視できず、与野党接近の「大連立的な国会運営」になるとの見方もあります。

連立・協力のシナリオ: 現実的な選択肢として、自民・公明に国民民主を加えた「2+1」連立政権が検討されています。国民民主党は政策的に現与党との親和性が高く(積極財政や原発容認など)、実際参院選では17議席と大躍進してキャスティングボートを握りました。高市氏としても国民民主を取り込めば参院で過半数奪還が視野に入ります。ただし国民民主側も支持基盤の連合(労組)との関係上、安易な与党入りには慎重です。一方、維新は野党第一党の立民とは距離を置き、高市政権に是々非々で挑む構えですが、政策次第では協調も辞さない姿勢です。例えば、憲法改正や規制改革など維新が積極的なテーマでは与党に協力し、逆に増税や保守色の強い政策には対決するという戦略が予想されます(維新幹部談)。公明党との関係では、高市氏の右寄り政策に公明が難色を示す場面もありえます。公明党は創価学会支持母体の平和志向から、靖国参拝や安保法制強化などに慎重です。ただ今回の総裁選でも公明は高市支持に回っており、連立離脱の可能性は低いとみられます。

法案可決のハードル: 過半数割れの国会では、一つ一つの法案の賛否も従来以上に綱渡りです。重要法案を可決するには野党からの支持が必要となり、場合によっては修正協議が常態化するでしょう。例えば、岸田前政権下で提出され継続審議となっている出入国管理法改正案(難民認定や収容に関する法)は、公明・立民・維新の一部が修正合意して成立する公算が高まっています。また、高市政権が推進するスパイ防止法案安全保障関連法改正についても、維新や国民が賛成すれば衆参の3分の2に迫る勢力が構築できます。実は憲法改正の国会発議(各院の総議員2/3以上賛成)も、与党に維新・国民・参政党・無所属保守系らを合わせれば実現が視野に入ります。憲法改正には衆参それぞれ310議席・166議席の賛成が必要ですが、現在そのハードルは衆院で賛成勢力約280~290議席、参院で現在の“改憲に前向き”勢力は推計で160前後とされ、なお数議席不足。高市氏自身、「憲法改正実現へ道筋をつけたい」と意欲を示しています。ただし実際に改憲発議に踏み切れば世論を二分するため、まずは与野党協調の実績を積んで信頼を醸成する必要があるでしょう。

最後に、解散・総選挙の可能性にも触れておきます。高市氏は政権基盤を安定させるため、本来であれば早期に衆議院を解散し信を問いたいところです。しかし2024年総選挙で歴史的大敗を喫した直後だけに、当面解散は封印すると見られます(自民幹部も「解散は最低1年はない」と示唆)。むしろ高市政権はまず成果を積み重ね支持率を回復させることに注力し、その上でタイミングを見て解散総選挙に打って出る戦略と推測されます。目安として、2026年夏の参院選と同日選挙にする可能性や、2027年秋の衆院任期満了まで引っ張るシナリオも取り沙汰されています(政界筋)。いずれにせよ、当面は少数与党の機動的な国会運営という難題を、高市首相がどう乗り切るかが焦点となります。

6. 外交・安全保障の分岐点

高市政権の船出は、国際情勢が激動する中でのスタートとなります。特に米中対立や朝鮮半島情勢が緊迫化する中、日本外交・安全保障の針路をどう定めるかが問われます。ここでは、主要国との関係と今後予想される外交課題を整理します。

(A) 日米関係 – 新旧リーダーの初会談: 最大の盟友・アメリカ合衆国との関係は、高市政権にとって最優先の外交軸です。現職のドナルド・トランプ大統領(共和党)は2025年1月に就任し、日米同盟の見直しを含む要求を掲げる可能性があります。さっそく10月末には韓国・慶州でのAPECに合わせて日米首脳会談が予定されており、トランプ氏は日本に対し防衛費の更なる増額通商協定の再交渉を求めるとみられます。例えば、米側は在日米軍駐留経費の日本負担増や、対中輸出規制への一層の同調を迫る可能性があります。高市氏はこれに対し、「日米同盟は日本外交の礎であり、更なる防衛協力と経済連携で関係を強化する」と述べており(所信表明案)、基本的に米国の要請に応える方向です。ただし通商面では、高市氏はトランプ前政権時代の2019年の日米貿易交渉について「日本側が一方的に投資を約束させられた」と批判しており、「不均衡是正のため投資協定を見直す」可能性にも言及しました。これはトランプ政権時に結んだ日米貿易協定(日本が米国産農産品の関税を下げ、米国は自動車関税引き上げを見送り、日本の対米投資基金創設)の再交渉を示唆したものです。高市首相が実際に再交渉を提起すれば、通商摩擦に発展するリスクもありますが、日本国内農業への配慮と米国からの防衛分野での譲歩(例えば最新兵器の対日供与など)をバーターに交渉する戦略も考えられます。

(B) APEC 2025 – 初の多国間デビュー: 就任後初の国際会議となるのが、2025年10月末のAPEC首脳会議(アジア太平洋経済協力)です。開催地は韓国・慶州市で、10月31日と11月1日に各国・地域の首脳が一堂に会します。高市氏にとって初の多国間外交デビューの場であり、注目が集まります。議長国である韓国とは、李在明大統領のホストの下で日韓首脳会談も予定されています。高市氏は歴史問題で強硬とみられていましたが、韓国側は関係改善の流れを維持したい意向を示しており、APECでは経済協力や人的交流の話題を通じて柔らかな対話が行われる可能性があります。APEC自体の議題としては、インド太平洋地域の貿易投資の自由化やサプライチェーン強靭化、気候変動対応などが挙がっています(APEC議長サマリー草案)。高市氏は経済安全保障の観点から、半導体や重要鉱物の供給網再構築について積極的な発信をするとみられます。例えば、日本・米国・台湾で進む先端半導体の連携(“チップ4”構想)や、レアアースの調達多角化(対中国依存脱却)について、各国に協調を呼びかけるでしょう。APECには中国の習近平国家主席も出席予定であり、日中首脳会談の有無も焦点です。高市氏は対中批判を強めてきましたが、経済面での中国市場の重要性は認識しており、「中国とは安定的な経済関係を維持しつつ安保上の懸念には毅然と対処する」との立場です(高市氏コメント)。APEC期間中、米中首脳会談や米韓首脳会談も予定されており、日米韓三か国の歩調や米中対立の行方を見極めながら、高市外交の初陣は多忙を極める見込みです。

(C) 対中・台湾 – 緊張と抑止: 中国に対して高市氏は「言うべきは言う」姿勢を強調しています。前述の台湾との準同盟発言のほか、南シナ海や東シナ海での中国の海洋進出にも懸念を示し、防衛費増強の理由として「中国・北朝鮮の脅威」を挙げています(討論会発言)。一方、中国側も高市氏の総裁選勝利に敏感に反応しており、国営メディアは「右翼政治家が日本の舵取り役になった」と警戒感を露わにしました(新華社論評)。今後予想されるのは、尖閣諸島周辺での中国公船の示威行動や、台湾問題をめぐる圧力です。高市政権は、こうした事態に対し日米同盟の抑止力をテコに対応する構えですが、習近平政権との外交窓口は閉ざさない方針です。具体的には、外相・防衛相間のホットライン開設や中国への閣僚派遣などを模索しつつ、日本企業の対中投資保護や気候変動協力といった実利分野では協調を図るでしょう。台湾とは、APECでの非公式接触や日台交流窓口(交流協会)の格上げなどを通じ、安全保障以外の経済・人的交流をまず深化させると見られます。台湾側も「経済・安保・技術協力で日台関係を強化したい」と高市氏に期待を表明しており、日本の新政権に歓迎ムードです。ただし日本政府の公式立場は「一つの中国」原則を維持しており、あくまで非政府間の実務関係の範囲内で支援する形となります。

(D) 対韓・対露・その他: 韓国との関係は、2023年以降改善傾向にあり、高市政権でもこの流れを維持する考えです。徴用工問題の解決策(韓国財団による肩代わり案)や輸出管理の正常化など、前政権の合意事項は尊重されるでしょう。李在明政権(2024年就任)は北朝鮮や経済で日本との協力を模索しており、高市氏も「未来志向の日韓関係を築く」と表明しています(総裁選期間のインタビュー)。もっとも高市氏はかつて慰安婦問題の日韓合意(2015年)に否定的だった経緯があり、保守支持層への配慮から強硬姿勢をとるリスクも内在します。北朝鮮に対しては、拉致問題の早期解決を最優先に掲げ、条件を付けない日朝首脳会談の実現を目指す方針です(総裁選討論)。ミサイル発射の挑発行動には日米韓のミサイル迎撃態勢で対応しつつ、制裁と対話の両面で包括的解決を図る姿勢を示すでしょう。

ロシアとの関係は、ウクライナ侵攻以降、日本はG7の一員として対露制裁を科してきました。高市氏も「ロシアの暴挙を断固非難する」と明言しています。一方で、北方領土問題は停滞が避けられず、当面ロシアとは安保理での対峙以外実質的交流は難しいでしょう。ただ、高市政権下でもエネルギー安全保障の観点からロシア産LNG(サハリン2)調達は維持する見込みで、経済界の意見も踏まえつつ現実路線をとりそうです。

欧州や豪印など他の主要国との関係では、高市氏は基本的に岸田前政権の多角外交を継承します。例えばイギリスやイタリアとは次期戦闘機の共同開発(GCAP)など安全保障技術協力を進め、オーストラリアやインドとは「自由で開かれたインド太平洋」戦略の下で海洋安保や経済連携を深める方針です。高市氏は「外交は価値観と国家利益双方が重要」としており、ウクライナ支援や人権問題では西側陣営と歩調を合わせつつ、エネルギー・経済ではインド・中東・アセアン諸国との協調も重視するでしょう。

総じて、高市外交は強硬姿勢が注目されがちですが、実際には周到な現実対応との“二刀流”になる可能性があります。前述の通り党内基盤が万全でない中、内政だけでなく外交でも対立をあおるより成果を積む pragmatism(現実主義)が求められます。初の女性首相として国際社会でどのような評価を得るかも、大きな分岐点となるでしょう。

7. リスクとカウンターポイント

高市政権の前途には様々なリスク要因が存在し、一方でそれに対するカウンター(反証材料)も指摘されています。ここでは主なリスクとその見方を整理します。

(A) 政権スキャンダル・支持率低迷のリスク: まず懸念されるのは、与党内の不祥事や高市氏自身の過去の発言が政権を揺るがすリスクです。自民党は近年、旧統一教会問題や大臣の不適切発言・政治資金スキャンダルで支持率を落としました。特に「政治資金の私的流用」疑惑に絡み2024年に閣僚2人が辞任した事件は有権者の不信を招き、与党敗北の一因となりました(政治資金規正法改正を巡る世論7割「評価せず」)。高市氏自身、総務大臣時代の発言やメール問題で野党から追及を受けた経緯もあり(放送法文書を巡る問題など)、首相就任後も何らかの「炎上」が起きれば内閣支持率は急落しかねません。特にSNS上では、高市氏の過去のヘイト的発言や歴史認識が批判材料として拡散する懸念があります。もっとも、高市氏はネット世論にも一定の支持基盤を持ち、「真の保守」として熱烈に支持する層も存在します。高市政権発足時の内閣支持率については、ある世論調査専門家は「初動は50%前後と推測するが、女性首相への期待より生活重視の厳しい目が向けられるだろう」と予想しています(報道)。彼女の社会的主張は男性保守層に好まれる反面、女性やリベラル層には不人気という世論調査結果もあり、政権支持を広げるには経済成果が欠かせないでしょう。

(B) 周辺国との軋轢リスク: 高市氏のナショナリスティックなスタンスは、近隣諸国との外交摩擦リスクを孕みます。上述の靖国参拝や台湾発言に加え、慰安婦問題では「捏造」と断じたり、韓国に対し過去「無礼な要求には毅然と対処すべき」と発言したこともあります。こうした経緯から、中国や韓国のメディアは高市氏を「歴史を歪曲する右翼政治家」と批判しており、就任に敏感に反応しました。もし高市首相が就任直後に靖国参拝を強行すれば、中国・韓国は猛反発し、折角改善してきた関係が冷え込む恐れがあります。また、防衛費増強や米国との対中包囲網強化は、中国の軍事的圧力を招きかねません。ただ、カウンターポイントとしては、高市氏が総裁選で示したように「現実路線で控えめに政策を進める可能性」が高いという点です。実際、党内事情に詳しい専門家は「高市氏は強硬に見えて実務は極めて慎重。中国強硬姿勢が原因で与党が分裂することは避けたいはずだ」と分析しています。このため、例えば靖国参拝も首相在任中は見送り、代理として真榊奉納に留める可能性があります。また台湾についても、安保面は曖昧にしつつ経済連携で関係強化を図るバランス外交を取るとの見方があります(外交筋)。さらに、韓国に対しては過去にSNSで激しい言葉を発したこともありますが、総裁選期間中はむしろ触れず、当選後も公式には友好メッセージを出しています。これらは対外関係を壊すリスクを抑える動きと言え、高市政権は案外「したたかな柔軟外交」を展開する可能性があります。

(C) 経済運営への懸念: 市場・経済界からは、高市氏の財政拡張策に対する懸念と期待が交錯しています。期待面では、デフレ脱却を目指す積極財政が企業収益や設備投資を刺激し、日本経済に久々の成長軌道をもたらすとの見方があります。経団連の十倉会長は「女性初の総裁として政策遂行に手腕を発揮していただきたい」とコメントし、変化への期待感を表明しました。一方で、日本の巨額債務に対する国際的信認が揺らぐリスクも指摘されています。国債市場は日銀の大規模緩和で安定していますが、出口戦略が見えない中で財政だけが拡大すると「日本売り」に転じかねません。しかし高市氏は以前から「インフレ率・金利・成長率を見極めつつ臨機応変に対応する」と述べており(雑誌寄稿)、財政出動も青天井ではなく機動的に絞る可能性があります。実際、今回の総裁選でもインフレに配慮して消費税減税を撤回した経緯があり、状況に応じて軌道修正する柔軟性を示しています。市場関係者からは「高市氏は財政バラマキ一辺倒というイメージだが、内実は現実的だ。むしろ海外投資家に日本の変革を印象づけた点を評価したい」との声もあります。

(D) 内政・党運営のリスク: 政策以外では、党内基盤の不安定さが高市政権のリスクです。今回の総裁選で高市氏に投じられなかった約半数の党議員票は、今後政権運営において潜在的不満となり得ます。特に小泉進次郎氏を支持した若手議員らは、改革志向が満たされなければ離反しかねません。だだ、そうしたカウンターとして高市氏は早速「全員野球内閣」を標榜し、反対陣営も巻き込む包容力を示そうとしています。具体的人事で小泉氏側近を起用するなど融和策を取れば、党内からの突き上げリスクは軽減するでしょう。また、世論の支持についても、高市氏には女性ならではの発信力という強みがあります。例えば育児経験はありませんが、「母のような気持ちで子ども政策に取り組む」といったフレーズで女性層に訴求するなど、イメージ戦略にも長けています(陣営関係者談)。報道によれば、高市氏はメディア対応でも笑顔を増やし、「怖い高市」像を和らげる努力をしているとのことです(全国紙コラム)。これらは地味ながら政権の安定に寄与するでしょう。

総じて、高市政権には「振り子の幅」とも言える両面があり、リスクと機会が混在しています。強い信念に基づく政策は諸刃の剣であり、暴走すれば内外の反発を招きますが、一貫性があることで支持者を熱狂させる武器にもなります。女性首相という新しさも、成果を出せなければ失望に転じかねませんが、成功すれば日本政治に新風を吹き込むでしょう。エコノミストの一人は「高市政権はハイリスク・ハイリターンだが、それだけに注目度も高い。100日以内に結果を出せれば一気に求心力を増す」と評しています(金融誌)。高市氏自身、「厳しい声は承知の上。この不安な時代に希望を取り戻す」と決意を述べました(所信表明草稿)。“政治は結果”と言われますが、まずは最初の関門となる年内の国会運営と経済対策で、その力量が試されることになります。

8. すぐ役立つQ&A

Q1. 所信表明演説はいつ行われる?内容は?
A1. 高市新総裁が首相指名を受けた場合、初の所信表明演説は10月17日頃に予定されています。臨時国会で首相指名・内閣発足後、首相が国会で政府方針を述べる演説です。内容は「経済最優先」「外交・安全保障の立て直し」「日本初の女性リーダーとしての決意」などが柱になる見込みです。高市氏は演説草案で「物価高から国民生活を守り抜く」「日本はまた必ず成長できる」と強調し、財政出動による経済再生策や防衛力強化の必要性を訴える見通しです(政府筋の情報)。所信表明後は与野党からの代表質問が行われ、政策の具体像が質疑応答で明らかになります。

Q2. 高市政権の減税策はいつから始まり、誰が恩恵を受ける?
A2. 現時点で消費税率引き下げなど包括的減税の予定はありませんが、特定の減税・負担軽減策が検討されています。高市氏はガソリン税の暫定税率廃止を公約に掲げており、実現すれば給油のたびに消費者の負担が減ります。実施時期は早ければ2026年度からですが、補正予算でトリガー条項(ガソリン税停止)を発動する可能性もあります。また、自動車取得時の環境性能割税を2年間停止する案も示しました。これは新車購入者が対象で、2026~2027年に車を買うと通常より数万円~十数万円安くなる効果があります。さらに「年収の壁」(主に配偶者控除・社会保険扶養の壁)の緩和も予定され、130万円付近でパート収入を調整していた人が壁を気にせず働けるよう、壁上限を年収180万円程度まで引き上げる案が出ています。こちらは2026年以降に税制改正で適用される見込みです。低所得者向けには給付付き税額控除(負税感の軽減)が導入検討中で、例えば年収の低い子育て世帯などに現金給付が行われる可能性があります。時期は制度設計後、早ければ来年度中にも一部試行されるでしょう。

Q3. 防衛費は今後どのくらい増えるの?目標は?
A3. 日本政府は防衛費を2027年度までにGDP比2%に増額する目標を掲げています。これは2022年末に策定された国家安全保障戦略で明記された方針で、従来の「GDP比1%枠」を大きく超える前例のない増額です。金額ベースでは、2022年度約5.4兆円だった防衛関係費(在日米軍経費含む)を2027年度までに約9兆円強へと60%以上増やす計画です。実際、2025年度の防衛予算は約8.7兆円(GDP比約1.6%)となり前年から9.4%増えており、着実に上積みが進んでいます。高市政権もこの路線を踏襲し、必要ならさらに増額も辞さない構えです。米国のトランプ大統領が日本に防衛費対GDP比5%への増額をかつて要求したとの報道もありますが、現実的には2%達成でも財源確保が大きな課題です。高市氏は増額財源として歳出改革や国債、そして可能なら防衛目的税(例:防衛国債)も視野に入れるとしています。いずれにしろ今後数年で日本の防衛力は質・量とも大幅強化され、例えばミサイル防衛や島嶼防衛の体制強化、新型長距離ミサイルの配備、人員や待遇の充実などに充てられます。国民負担としては増税(例えばタバコ税や復興債流用)が議論されますが、政府は極力景気を損ねない形で捻出すると説明しています。

Q4. 原発政策はどうなる?再稼働や新増設は?
A4. 高市政権は原発の再稼働と次世代型原子炉の開発推進に積極的な方針です。具体的には、安全が確認できた既存原発は地元の理解を得ながら順次再稼働を進める考えです。現在、日本には電力会社が保有する原発33基(廃炉決定含まず)のうち、10基が運転中または審査合格済みです。高市氏はこれをさらに増やし、2030年代に原発発電比率20~22%という政府目標を達成・上積みする考えとみられます(エネルギー基本計画を踏襲)。加えて、老朽化した原発を置き換える形で「次世代革新炉」(高温ガス炉、小型モジュール炉SMR、核融合炉など)の建設を推進すると公約しています。政府は既にGX基本方針で次世代炉開発を掲げており、高市政権では法整備を急ぎ新増設解禁に踏み切る可能性が高いです。例えば原子炉等規制法や電気事業法の改正により、従来禁止されていた新増設を認める方向で検討が進むでしょう。もちろん、安全最優先の姿勢は崩さず、規制委員会の審査をより効率化しつつ国が前面に立って地元説得を行う考えです。一方、再生可能エネルギーについても、高市氏は国策としての技術支援を強調しており、特に日本が先行するペロブスカイト太陽電池の実用化・普及を後押しするとしています。総じて、エネルギー安全保障と脱炭素の両立を掲げ、「可能なものは全てやる」方針で原発+再エネの双方を推進していく見通しです。ただし原発政策は国民の賛否が割れるため、地元理解や世論工作に十分時間をかけつつ進めるとみられます。

Q5. 首相指名選挙って何?どういう仕組み?
A5. 首相指名選挙とは、国会で内閣総理大臣を指名(選出)する選挙のことです。日本国憲法では内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名すると定められており、衆議院・参議院それぞれの本会議で投票が行われます。通常、衆参で別々の候補が指名された場合は衆議院の議決が優越します(衆院の選択が最終決定となる)。首相指名選挙は新内閣を発足させる際に必ず行われ、(1) 総選挙後の特別国会で実施、または(2) 在任首相が辞職・死亡した場合に後継選出のため臨時国会で実施されます。今回は岸田文雄首相の退陣→石破茂首相→さらに石破首相辞任に伴うケースで、高市氏が指名選挙で選出される見込みです。指名選挙では各議員が無記名投票で候補名を書き、過半数を得た候補が首相に指名されます。過半数に満たない場合は上位2名による決選投票となります。今回、衆議院では与党が議席最多のため高市氏が過半数を得る見通しです(参議院では他党が多数ですが、別候補を統一できないためやはり高市氏が相対多数を取る見込み)。首相指名選挙で選出された首相候補は、天皇の任命(親任式)を経て正式に内閣総理大臣に就任します。

Q6. 連立政権はどうなる?公明党や他党との関係は?
A6. 自民党と公明党の自公連立政権は今後も基本的に継続します。公明党は高市氏の政策の一部(安全保障や家族観の強硬路線)に距離がありますが、連立離脱の考えはなく「是々非々で協力」との立場です。公明党の山口代表も高市氏を祝福し「連立政権の安定に努める」とコメントしました。一方で、高市政権は過半数割れ解消や法案成立円滑化のため、国民民主党との協力を模索しています。国民民主は与党と政策的に近く、参院選で躍進したこともあり、自公に次ぐ“第三の与党的存在”として扱われています。高市氏自身「基本政策が合致する野党とは連立したい」と述べており、国民民主との連立政権入り交渉が行われる可能性があります。仮に国民民主が加われば衆参で安定多数に近づきます。ただ、国民民主側には慎重論も強く、まずは政策協定や閣外協力の形になるかもしれません。日本維新の会については、野党第一党の立民とは別に独自路線を取っており、高市政権にも政策毎に協力する姿勢です。維新は憲法改正や規制改革で与党に協力的ですが、増税や保守的社会政策には反対する立場です。したがって、維新を正式に連立に取り込むより、案件ごとの協力を取り付ける“ゆるやかな連携”になるでしょう。まとめると、高市政権は「自公+(協力野党)」という形で多数派を形成し、法案ごとに国民民主や維新の賛成を得ながら運営していくと見られます。連立拡大が難航すれば、野党の一部と都度合意しながら法案を通す「部分連合」的手法も採用されるでしょう。なお、参政党など極右系野党も特定政策で協力する可能性がありますが、基本的には自公+中道野党が軸となります。高市氏にとって、公明党との信頼関係維持と国民民主・維新との連携が政権安定の鍵と言えます。

Q7. 憲法改正は実現する?どの分野を変える?
A7. 憲法改正(改憲)のハードルは依然高いですが、可能性はゼロではありません。高市氏は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設などに前向きで、党内保守派とともに改憲機運を高めたい考えです。ただ、改憲発議には衆参各院で3分の2以上の賛成が必要で、現在与党だけでは届きません。維新や国民民主、参政党など改憲に積極的な野党を合わせても衆参であと数議席足りない状況です。しかし今後の補選や他党との協力次第では3分の2ラインに届く可能性もあります。仮に国会発議にこぎつけた場合、改正案ごとに国民投票で過半数の賛成を得る必要があります。主な論点は(1)9条への自衛隊明記、(2)緊急事態条項新設、(3)参院合区解消(地方代表のための条項追加)、(4)教育無償化—の4項目が与党案として検討されています。高市氏は特に9条改正に意欲を示し、「自衛隊の存在を憲法に正当に位置付けるべきだ」と主張しています。また彼女は「国家緊急権の明記」も必要とし、大規模災害やパンデミック時に内閣権限を強化できる条項を提案しています。もっとも、立憲民主党や共産党など主要野党は改憲に反対か慎重であり、国民世論も必ずしも改憲賛成が多数ではありません。足元の内閣支持率次第では、政権が改憲にエネルギーを割く余裕がない可能性もあります。したがって現実的には、緊急事態対応など比較的合意を得やすいテーマから着手する可能性が指摘されています(例えば防災目的の緊急事態条項は立民の一部も容認)。まとめれば、高市政権下で改憲論議は加速する見込みですが、実現時期は不透明です。最短で2026年の通常国会発議→同年中の国民投票もシナリオとしてはありますが、まずは与野党協議会の再開など地道な議論から始まるでしょう。

Q8. 経済安全保障とは何ですか?何を目指す政策?
A8. 経済安全保障とは、経済活動を通じて国家の安全を確保する政策分野です。具体的には、(1) サプライチェーン(供給網)の強靭化、(2) 先端技術の流出防止、(3) インフラ・物資の安全確保、(4) 重要分野への戦略的投資——などを指します。高市氏は経済安保を政権の柱に据えており、例えば半導体・レアアース等の重要物資を外国に依存しすぎないようにすることや、外国資本による日本企業への不当な投資を規制する仕組み作り、国家情報局の設置とスパイ防止法制定による機密漏洩防止などを推進しようとしています。要するに、経済分野での脆弱性を減らし、外国からの圧力やショックに耐えうる経済構造を作ることが目的です。ウクライナ戦争やコロナ禍で、エネルギー・食料・医薬品の供給不安が問題化したこともあり、日本でも2022年に経済安全保障推進法が成立しています。高市政権ではこれをさらに強化し、例えば他国企業による日本の通信・電力インフラ企業買収を事前審査で止めたり、先端技術(AIや量子技術など)の官民連携開発を支援したりといった施策が検討されます。経済安全保障政策は一見地味ですが、国家の独立と国民生活を守る上で重要であり、高市氏は「経済は安保そのもの」と位置付けています。

Q9. 高市早苗氏ってどんな人物?初の女性首相の経歴は?
A9. 高市早苗(たかいち さなえ)氏は1961年生まれ、奈良県出身の政治家です。松下政経塾出身で、民放アナウンサーを経て1993年に衆議院議員に初当選しました。以後通算10期当選を重ね、自民党内では保守派の論客として頭角を現しました。主な経歴として、総務大臣(第2次~第4次安倍内閣で延べ4年在任)や、経済産業副大臣(小渕・小泉内閣)、内閣府特命担当大臣(沖縄北方・科学技術など)(第1次安倍内閣)などを歴任しています。直近では岸田内閣で初代の経済安全保障担当大臣を務めました。自民党では政務調査会長(政策統括責任者)や広報本部長など要職も経験しています。高市氏は保守思想が強く、皇室や歴史・安全保障で右派的な主張を貫いてきました。一方で、党内では安倍晋三元首相の信任が厚く、女性政治家の先駆け的存在として存在感を発揮してきました。座右の銘は「精神衛生」(SP精神を大切にする意)で、趣味はギター演奏。英国のサッチャー元首相を「憧れのヒロイン」と語り、自身も“日本の鉄の女”を目指すと公言しています。なお女性首相は日本史上初ですが、過去に女性党首は土井たか子氏(社会党委員長)など例があります。高市氏は党総裁選出後、「女性が頂点に立つのは初めてだが、これに驕らず努力したい」と述べました。プライベートでは独身で、警察官だった母親の影響を受け「法と秩序」を重んじるといいます。総理総裁就任により、“サッチャー好きのロックギタリスト”から“日本初の女性リーダー”へと大きく飛躍することになります。

Q10. 今後の選挙スケジュールは?政権の行方にどう影響する?
A10. 直近では2025年4月に統一地方選挙後半戦(市区町村議選など)があり、高市新総裁の下で臨む初の全国型選挙となります。ここで自民党候補がどれだけ勝てるかが、政権発足直後の評価につながります。次に2025年7月には参議院議員選挙(通常選挙)が予定されます。もっとも、今回2025年参院選は既に実施済み(自民大敗)で、高市氏はその直後に総裁選で選ばれた経緯があります。従って次の全国国政選挙は衆議院総選挙になります。衆院の任期は2025年10月までですが、高市首相が解散権を行使すればそれより前に総選挙が行われます。現在の与党議席では過半数割れしているため、支持率が上向けば早期解散で過半数奪還を狙う戦略も考えられます。ただ一般に、就任直後の解散はご祝儀相場で勝ちやすい反面、「政権の責任放棄」と受け取られるリスクもあります。高市氏は2024年総選挙で野党に議席を奪われた傷を考慮し、性急な解散は避ける可能性が高いです(側近も当面解散否定の考え)。したがって最も可能性が高いのは2026年7月の参院選とのダブル選挙か、任期満了近くまで解散を先送りするシナリオです。いずれにせよ、選挙で勝たなければ政権基盤は強化されません。高市氏としては、新政権発足後まず地方選や補欠選挙で実績を積み上げ、支持率と与党結束を高めた上で勝てるタイミングを見計らうでしょう。万一、当面の地方選挙や補選で与党が連敗するようなら、早くも政権運営に黄信号が灯ります。逆に勝利が続けば、2026年前後で解散・総選挙に打って出て議席を増やし、悲願の安定多数奪還を目指すと考えられます。

9. 用語ミニ辞典(初心者向け)

  • 首相指名選挙: 内閣総理大臣を国会で選出する選挙。【日本国憲法第67条】に基づき衆参両院の本会議で投票し、通常は衆院多数派の候補が首相に指名されます。
  • 所信表明演説: 新首相や新閣僚が国会開会時に自らの施政方針や政策を述べる公式演説。内閣総理大臣の所信表明は衆参本会議で行い、その後に各党代表質問に答弁します。
  • 代表質問: 所信表明演説等に対し、国会で各党の代表議員が首相や閣僚に質問すること。政策の具体化や政府の見解を質す場で、与野党の論戦が展開されます。
  • 与党・野党第一党: 与党は政権を担う政党・連立政党のこと(現在は自民党と公明党)。野党第一党は与党以外で議席数が最も多い政党(現在は立憲民主党)で、通常は国会運営で政府に対峙するリーダー的役割を持ちます。
  • 改憲発議: 憲法改正の国会発議。衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が改正案を発議し、その後に国民投票で過半数の賛成が必要です。発議には与野党の広範な合意が求められます。
  • 経済安全保障: 経済面から国家の安全を確保する政策領域。重要物資の安定供給、先端技術の保護、基幹インフラの防護、外国投資の審査などを含みます。日本では2022年に経済安全保障推進法が制定され、高市氏はさらに制度強化を目指しています。

参考文献・出典

  1. 【ロイター】“Right-wing Sanae Takaichi set to be Japan's first female premier” (Tim Kelly他執筆, 2025年10月4日付)reuters.comreuters.com
  2. 【ロイター日本語】「自民党総裁に高市氏、初の女性 『自民党の新しい時代を刻んだ』」 (竹本能文, 2025年10月4日)jp.reuters.comjp.reuters.com
  3. 【ロイター日本語】「自民党総裁選、決選投票へ 1回目は高市氏トップ・小泉氏が2位」 (竹本能文, 2025年10月4日)jp.reuters.comjp.reuters.com
  4. 【共同通信】「自民新総裁に高市早苗氏」 (共同通信社, 2025年10月4日) ※記事本文(官邸発表など)jp.reuters.com
  5. 【AP通信】「Japan’s ruling party elects Sanae Takaichi as new leader, likely to become first female PM」 (Mari Yamaguchi, AP News, 2025年10月4日)apnews.comapnews.com
  6. 【ロイター】“情報BOX:自民党新総裁に高市早苗氏、選挙中に掲げた公約” (ロイター編集, 2025年10月4日)jp.reuters.comjp.reuters.com
  7. 【ロイター日本語】「「サナエノミクス2.0」へ、総裁選で自動車税停止を断言 診療報酬も引き上げ」 (鬼原民幸, 2025年10月4日)jp.reuters.comjp.reuters.com
  8. 【毎日新聞】「自民党新総裁に高市早苗氏、初の女性 小泉進次郎氏を29票差で破る」 (毎日新聞, 2025年10月4日) ※決選投票結果を報道jp.reuters.com
  9. 【TBSニュース】「自民党が歴史的大敗『自民一強』→『少数与党』で国会運営は?」 (TBSサンデーモーニング, 2024年11月3日放送)tbs.co.jptbs.co.jp
  10. 【nippon.com】「2025年参院選: 自公過半数割れ、国民・参政が躍進」 (ニッポンドットコム, 2025年7月21日)nippon.comnippon.com
  11. 【島根県大田市】「『憲法改正国民投票』って何だろう?」 (大田市選挙管理委員会, 2021年)city.oda.lg.jp
  12. 【ロイター】“South Korea will seek to maintain positive momentum with Japan, president's office says” (Reuters, 2025年10月4日)reuters.comreuters.com

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