
はじめに:日本の賃金停滞がもたらす影響と本記事の狙い
日本では長年にわたり賃金がほとんど上昇せず、「賃金停滞」が深刻な課題となっています。物価や他国の給与水準が上がる中で賃金だけが取り残されると、働く人々の生活水準や経済全体の活力にも影響が及びます。実際、近年は「物価は上がるのに賃金が上がらない」という声も多く、賃金停滞はビジネスパーソンから政策担当者まで幅広い関心事です。本記事では、2025年時点の最新データをもとに日本の賃金が上がらない現状と国際比較を明らかにし、背景にある3つの構造的要因を解説します。また、賃上げに成功している企業の共通点や政府の支援策、さらに個人としてできるスキルアップとキャリア戦略についても具体的に紹介します。賃金停滞の「なぜ?」に答え、企業や政策立案者が取るべき施策、そして個人が今からできるアクションを考える一助になれば幸いです。
日本の賃金が上がらない現状と国際比較

日本の平均賃金は過去30年間ほとんど横ばいで推移しており、主要先進国の中で明らかに取り残されています。上のグラフは1990年以降のG7各国の平均賃金(米ドル換算)の推移を示したものですが、日本(赤線)は他の国(アメリカ=青線など)が大きく伸びているのに対し、停滞していることが一目瞭然です。またOECD(経済協力開発機構)のデータによれば、2022年時点の日本の平均年収は41,509ドルで、OECD加盟34か国中25位という低い水準にとどまっています。これは世界平均(53,416ドル)や主要先進国と比べても見劣りする数字です。
賃金停滞の深刻さは、為替レートで見た各国との比較からも浮き彫りになります。OECDの集計によると、2023年の日本の平均年収(約491万円)は、アメリカ(約1,241万円)のわずか2分の1以下であり、スイス(約1,616万円)と比べると3分の1程度に過ぎません。今から20年前の2004年には日本の平均年収は466万円でアメリカの450万円よりやや高い水準にありましたが、この20年で日本はほとんど賃金が伸びず、他国に大きく差を付けられてしまったのです。同様に、かつてG7でアメリカに次ぐ第2位だった日本の平均賃金水準は、現在ではG7中下から2番目まで低下しています。さらに貧困率(所得が全国中央値の半分未満の人の割合)でもG7中ワースト2位とされ、日本は「国民全体として賃金水準が低く、格差も大きい国」と指摘されています。
近年は物価上昇(インフレ)の影響もあり、実質賃金の減少が問題化しています。2022~2023年にかけて世界的にインフレ率が高まる中、多くの国で実質賃金が低下しました。2023年第一四半期時点の実質賃金の前年同期比は、OECD平均で▲3.8%の減少、日本も▲3.1%減少しています。日本は他国よりインフレ率が緩やかだったため減少幅は小さいものの、賃金が物価上昇に追いつかず購買力が低下している点では共通です。このように、日本の賃金は長期的な停滞に加え、直近では実質ベースでも目減りしており、家計や経済に大きな課題を突きつけています。
では、なぜここまで日本の賃金は上がりにくくなってしまったのでしょうか?次の章では、その背景にある3つの構造的な原因を探っていきます。
賃金停滞の背景にある3つの構造的要因
日本の賃金停滞には、単なる景気循環以上に構造的な原因が横たわっています。本章では特に重要な要因として、「非正規雇用の拡大」「労働生産性の伸び悩み」「日本的雇用慣行と企業の分配姿勢」の3つに焦点を当てます。
要因1:非正規雇用の拡大による平均賃金の押し下げ
1990年代後半以降、日本ではパートタイマーや契約社員、派遣社員などの非正規雇用が大きく増加しました。総務省「労働力調査」によると、役員を除く雇用者に占める非正規雇用労働者の割合は2023年に37.0%に達し、実に約4割が非正規という状況です。非正規雇用者数は2005年に1,634万人でしたが、その後増加傾向が続き2023年には2,124万人と約1.3倍に増えています。
非正規労働者は一般的に正社員に比べて賃金水準が低く、昇給や賞与も限定的です。そのため、労働市場で非正規の占める割合が高まるほど、全体の平均賃金が押し下げられる構造になっています。また正社員と非正規社員の間には待遇格差があり、企業内で人件費抑制の調整弁として非正規が活用されてきた側面もあります。景気が回復して企業収益が上がっても、非正規労働者にはその利益が十分還元されにくいため、賃金平均に反映されにくいのです。このような労働市場の二層化は、日本の賃金停滞を語る上で避けて通れない要因となっています。
要因2:労働生産性の低迷と新陳代謝の不足
賃金は長期的には労働者一人あたりが生み出す付加価値、すなわち労働生産性によって規定されます。しかし日本の労働生産性は先進国中で相対的に低く、伸びも鈍化しています。公益財団法人日本生産性本部の報告によれば、2022年の日本の時間当たり労働生産性は52.3ドル(約5,099円)でOECD加盟38か国中30位という低水準でした。これは主要先進国で最低クラスであり、日本より生産性が低い国はポルトガルやギリシャなど一部に限られます。G7の中でも日本の生産性は最下位で、例えばアメリカの約6~7割程度にとどまっています。
生産性が低い理由として、日本企業の新陳代謝の停滞や産業構造の問題が指摘されています。かつて世界をリードした日本企業も、家電・半導体などの分野で競争力を失い、その後に新たな高付加価値産業を十分育成できなかったことが中間層の厚みを奪いました。一方、欧米や他の先進国ではIT・サービスなど新興産業が台頭し、高い利益を上げる企業が次々と生まれています。日本は研究開発投資やデジタル化への対応が遅れ、労働あたりの価値創出で後れを取った結果、賃金原資となる生産性が伸び悩んでいるのです。
さらに多くの中小企業では人手に依存したアナログな業務が残り、生産効率の向上が進んでいません。人口減少と高齢化も労働供給の制約となり、生産性向上の喫緊性が高まっています。労働生産性を引き上げることは、賃金上昇の前提条件であり、日本経済の長期停滞を打破する鍵と言えます。
要因3:日本的雇用慣行と企業の分配姿勢
日本企業の雇用・賃金の仕組み自体にも、賃金が上がりにくい要因があります。典型的な日本的雇用慣行として、「新卒一括採用・終身雇用・年功序列賃金」が長く定着してきました。社員の給与は定期昇給によって年齢とともに上がる一方、中途採用者や若手の処遇は抑えられ、会社に長く貢献した人へ厚く配分する文化があります。この仕組み自体は従来、長期的な雇用安定には寄与しましたが、社外の労働市場の相場や個人の生産性に応じた賃金調整が起きにくいという弊害があります。成果や職務内容に見合った昇給が乏しく、「賃金は年功で自動的に上がるもの」という前提で運用されてきたため、企業が戦略的に賃金水準そのものを引き上げるインセンティブが弱かったのです。
また、日本では労働組合が企業ごと(企業内組合)に組織されており、労使交渉も自社の存続や雇用維持を重視する傾向があります。そのため、賃金交渉でも大幅なベースアップ要求より安定的な雇用確保や徐々の昇給に重きが置かれ、強気の賃上げ圧力がかかりにくい構造でした。実際、リクルートワークス研究所の調査によれば、**会社に対して個人で「賃上げしてほしい」と要望した経験がある人は全体のわずか24.7%**にとどまり、75%もの労働者が自分の賃金について会社と話したことがないといいます。日本では労働者自身も賃金交渉に消極的で、「収入より人間関係や働きやすさを重視する」傾向が強いというデータもあります。賃金に対する当事者意識の低さも、賃金停滞を受け入れてしまう一因となってきたのです。
さらに企業側の利益分配の姿勢も課題です。日本企業全体では近年、業績好調により内部留保(利益剰余金)が膨らんでいます。財務省の法人企業統計によると、2023年度の企業の内部留保は600兆9857億円と過去最高を記録し、12年連続で増加しました。しかし、この豊富な蓄えが賃金や国内投資に十分回らず、労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)は低迷しています。例えばOECDの国際比較では、日本の労働分配率は直近で50%前後とアメリカ(約53~54%)より低く、企業利益の労働者への還元度合いが小さいことが示唆されます。言い換えれば、「企業が儲かっても賃上げに消極的」な姿勢が長期停滞の元凶だとの指摘もあります。
このように、日本の賃金が上がらない背景には非正規雇用の増加による平均賃金の頭打ち、低い生産性による限界、そして日本的な雇用・賃金制度と企業行動が複合的に絡み合っています。しかし近年、この流れを変えようとする動きも出てきています。次章では、実際に賃上げに成功している企業に注目し、その共通点から停滞打破のヒントを探ってみましょう。
賃上げに成功している企業の共通点
賃金停滞が続く中でも、近年では積極的な賃上げに踏み切る企業が徐々に増えてきました。2023年の春闘(春季労使交渉)では、政府の要請も後押しして多くの企業が賃上げを実施し、東京商工リサーチの調査によれば2023年度に賃上げを実施(予定含む)した企業は84.8%と過去最大に達しました。賃上げ率(前年からの引き上げ率)も「5%以上」を達成した企業が36.3%に上り、特に中小企業では37.0%が5%超の賃上げを実現しており、大企業(28.7%)を上回ったというデータがあります。人手不足や物価高を背景に、従業員の待遇改善に踏み切る企業が増えているのです。
賃上げに成功している企業にはどんな共通点があるのでしょうか。いくつかの事例から、その特徴をまとめてみます。
- 人材への投資を重視: 賃上げに踏み切る企業は、給与を「コスト」ではなく「人への投資」と捉えている点が共通しています。例えば「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは2023年3月に国内従業員の報酬体系を見直し、年収ベースで最大40%の大幅賃上げを実施しました。背景には「日本の報酬水準が海外に比べて低位にとどまっている」との問題意識があり、グローバル競争力を高め優秀な人材を確保するために思い切った給与引き上げを決断しています。このように、人材確保・定着や士気向上のために賃金を上げることは、将来的な企業の成長につながる投資だという考え方が浸透しています。
- 生産性向上と利益成長を伴う: 賃上げを継続するには原資が不可欠ですが、成功企業は日頃から業務改善やイノベーションによって生産性を高め、賃上げの原資を生み出しています。ユニクロのケースでも、賃上げによる人件費増加(約15%)は「生産性の改善で吸収可能」と説明されており、実際に業績へ大きな悪影響なく賃上げを実現しています。中小企業でも、経済産業省の調査で「賃上げの原資確保のため生産性向上と価格転嫁に取り組んでいる」例が多く報告されています。つまり、業績アップと給与アップの好循環を作り出している点が特徴です。
- 適正な価格転嫁と収益力: 特に中小・サービス業では、人件費増を価格に転嫁する工夫も重要です。近年は原材料費やエネルギーコスト上昇も相まって値上げを行う企業が増えていますが、適正な価格設定で収益を確保し、その一部を賃金に回す企業が賃上げに成功しています。「価格転嫁による収益改善と賃上げ原資の確保」が健全な経営には不可欠だと指摘する専門家もいます。実際、人件費率の高い外食産業などでは、メニュー価格を見直して従業員時給を引き上げた企業も出てきました。顧客の理解を得ながら適切に利益を確保できるかがポイントです。
- 柔軟な給与制度と公正な評価: 賃上げに前向きな企業は、従来の年功序列型の枠を超えた柔軟な人事・評価制度を導入している場合が多いです。例えばサントリーホールディングスは2023年・2024年と2年連続で平均7%前後の大幅ベースアップを実施しましたが、その背景には若手含めた処遇改善と実力に見合った報酬への転換があります。ファーストリテイリングも職種や役割ごとに報酬テーブルを再構築し、従来の年功的な手当を廃止して成果と役割に応じた給与・賞与に切り替える改革を進めています。このように社員の貢献に報いる仕組みを整えた上で賃金水準を底上げすることで、社員の納得感と会社の生産性向上の双方を実現しているのです。
以上のような共通点から言えることは、**賃上げ成功企業は「人への投資」「生産性向上」「適正な利益確保」「制度改革」**といった観点で先進的な経営を行っているということです。「賃金と従業員満足度の向上こそが競争力強化につながる」という経営者の信念と戦略が、数字にも表れているのです。
政府の支援策と制度の活用方法
企業努力だけでなく、政府も賃上げを後押しするさまざまな支援策を講じています。ここでは国の主な施策と、その上手な活用方法について解説します。特に中小企業や働く個人にとって有用な制度があるので、ぜひチェックしてみてください。
- 賃上げ促進税制: 賃上げを行った企業の税負担を軽減するための制度です。たとえば中小企業の場合、前年度より従業員給与総額を1.5%以上増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できます(大企業には別基準)。2024年度の税制改正で控除率が引き上げられ、要件を満たせば中小企業で最大40~45%の税額控除を受けられる仕組みになっています。この「賃上げ税制」を活用すれば、賃上げによるコスト増を一定程度カバーできるため、特に利益圧迫を心配する企業にとって後押しとなるでしょう。利用には確定申告時に所定の書類提出が必要ですが、国が公表しているガイドブック等を参照しながら計画的に賃上げを実施すると効果的です。
- 各種助成金の活用: 厚生労働省では賃金引上げや人材育成に取り組む企業向けに複数の助成金制度を設けています。代表的なものの一つが「業務改善助成金」です。これは事業所内で最も低い賃金(事業内最低賃金)を一定額引き上げ、併せて生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資費用の一部を助成する制度です。引き上げ幅に応じて最大600万円まで支給されるコースがあり、中小企業・小規模事業者が最低賃金+αの賃上げと業務効率化に取り組む際に心強い支援となります。また「人材確保等支援助成金(旧キャリアアップ助成金)」では、非正規社員の正社員転換や処遇改善を行った企業に助成金が支給されます。例えば契約社員を正社員に登用し基本給を昇給させた場合や、パート社員の時給を一定以上アップさせた場合に、一人当たり数十万円の助成金を受け取れる仕組みです。これらの制度は申請手続きが必要ですが、社労士や支援機関の協力を得て積極的に活用することで、人件費増加の負担を緩和しつつ従業員の賃金アップを実現できます。
- 最低賃金引き上げとその活用: 政府は毎年、地域別最低賃金の引き上げを行っており、賃金底上げを図っています。2023年度には全国加重平均で時給1,004円(前年度比+43円、+4.3%)となり、初めて1,000円台に乗りました。最低賃金は法的に企業が支払わなければならない最低ラインで、特に賃金水準の低い業種や地方圏の労働者の収入改善につながります。最低賃金が上がれば、その水準付近で働く人の給与は自動的に引き上げられます。また「最賃付近の賃金層」が厚い企業では、最低賃金改定に合わせて他の従業員の給与テーブルも見直す機会となるでしょう。企業にとってはコスト増ですが、先述の助成金(業務改善助成金は事業所内最低賃金を30円以上アップが条件)を組み合わせることで負担軽減を図れます。労働者にとっては、自分の時給・月給が最低賃金を下回っていないか確認し、引き上げ時には適切に改定してもらうことが大切です。
- リスキリング支援・教育訓練給付: 賃金そのものの支援策ではありませんが、政府は「人への投資」としてリスキリング(学び直し)支援を拡充しています。企業に対しては従業員の職業訓練計画に助成を出す「人材開発支援助成金」などがあり、個人に対しても厚労省の「教育訓練給付制度」を通じて資格取得や専門講座受講費用の一部を補助しています。たとえば一般の中長期講座では受講料の20%(上限10万円)、特定の専門実践教育では50%(年間上限40万円、修了後に70%まで追加支給)といった給付が受けられます。これらを活用してスキルアップを図り、結果的に高付加価値な仕事に就いて賃金アップすることを政府は促進しています。企業は社内研修や社員の資格取得支援にこれら制度を組み合わせてコストを抑えることができますし、個人も自己投資のハードルを下げることができます。
以上のように、政府は税制・補助金・規制の各面から賃上げと人材投資を支援しています。企業側はこうした制度を上手に活用することで、賃上げの実現可能性を高めることができます。また政策動向としては岸田政権の掲げる「新しい資本主義」において「成長と分配の好循環」が謳われており、インフレ率を上回る賃上げの実現が政府から強く求められています。今後も最低賃金の着実な引き上げや、中小企業支援策の拡充など賃金底上げに向けた政策が続く見通しです。企業経営者や人事担当者は最新情報をウォッチし、使えるものは積極的に使って従業員への還元と自社の持続的発展につなげていきましょう。
個人にできるスキルアップとキャリア戦略
賃金停滞を嘆くだけでなく、個人としても自分のキャリアと収入を向上させるためにできることがあります。環境を待つのではなく、自ら行動を起こすことで将来的な賃金アップを実現しましょう。ここでは、働く個人が取り得る具体的なスキルアップとキャリア戦略を紹介します。
- 需要の高いスキルを習得する: 賃金を上げる近道の一つは、市場価値の高いスキルや資格を身につけることです。IT・デジタル技術、データ分析、英語など、企業が求めるスキルを磨けば自然と高い報酬を得やすくなります。政府のリスキリング支援策や教育訓練給付金制度を利用して、仕事帰りや週末にオンライン講座や専門スクールで学ぶのも有効です。「学び直し」に年齢は関係ありません。新しいスキルを身につけて社内でより高度な職務に挑戦したり、専門知識を武器に転職市場でアピールしたりすることで、自分の値段(市場価値)を高めましょう。
- キャリアアップ転職を検討する: 一社にとどまることに固執せず、より良い条件を求めて転職することも選択肢です。日本ではこれまで転職に消極的な風潮もありましたが、昨今は人材の流動化が進み、中途採用で大幅な昇給を得るケースも珍しくありません。社内で昇進や昇給の機会が乏しいと感じるなら、思い切って成長産業や給与水準の高い企業にチャレンジしてみましょう。ただし準備なしの転職はリスクも伴うため、在職中に前述のスキル習得や実績作りを行い、自分の強みを明確にしておくことが重要です。転職エージェントや求人情報を日頃からチェックし、市場で評価される自分になっておくことが賃金アップへの近道です。
- 社内交渉と副業で収入源を増やす: 現職場で働き続ける場合でも、自分から適切に交渉してみる価値はあります。前述の調査のように日本では賃上げ要望をしない人が多いですが、裏を返せば行動する人が少ないからこそ交渉してみる余地はあります。ただ闇雲に「給料を上げてください」というのではなく、自分の実績や他社水準の情報を整理し、客観的な根拠を持って上司や人事に相談してみましょう。例えば「〇〇の資格を取ったので職務の幅を広げたい、このスキルは社内外で△△万円程度の価値があるようです」といったアプローチです。企業側も人材流出は避けたいので、状況次第では前向きに検討してくれる可能性があります。また副業・兼業を解禁する企業も増えています。定時後や休日に自分のスキルを活かした副業に取り組めば、本業の給与にプラスして収入を得ることができます。副業から得た新たなスキルやビジネス感覚が本業に好影響をもたらし、評価アップにつながるケースもあります。収入源を複線化しつつ、本業の価値も高める一石二鳥の戦略と言えるでしょう。
- ネットワーキングと情報収集: キャリア戦略では人とのつながりも大切です。異業種交流会や勉強会、SNSの専門コミュニティなどに参加して最新の業界動向や給与レンジの情報を収集しましょう。他社で活躍する人の話を聞くことで刺激を受け、自分のキャリア形成のヒントが得られます。またメンターとなる先輩や同業の友人を作って相談できる環境を持つことも有益です。「井の中の蛙」にならないよう視野を広げ、常に自分の市場評価を意識することで、タイミングを逃さずキャリアアップのチャンスを掴めるでしょう。
このように、個人ができることは**「学ぶ・動く・交渉する」**に集約されます。会社任せ・国任せではなく、ぜひ主体的に行動してみてください。たとえすぐに大幅な昇給とならなくても、スキルと経験は将来必ず自分に戻ってきます。長期的に見れば自分への投資こそが最高の利回りを生むものです。今からできる一歩を踏み出し、停滞を打破するキャリア戦略を描いていきましょう。
なお、日本の賃金制度の問題や今後の展望についてさらに深く知りたい方には、労働政策研究の専門家である濱口桂一郎氏の著書『賃金とは何か―職務給の蹉跌と所属給の呪縛』がおすすめです。この本では「なぜ日本の賃金は上がらないのか」という問いに対して、歴史的経緯や制度の観点から丁寧に分析がなされています。日本型雇用システムの功罪や職務給導入の課題など、本記事で扱ったテーマをさらに掘り下げた内容となっており、賃金改革のための基礎知識を得ることができる一冊です。興味のある方はぜひ手に取って読んでみてください。
まとめ:賃金停滞打破に向けて今こそ動き出そう
2025年現在、日本の賃金停滞は依然として大きな課題ですが、その現状と原因を正しく理解することで見えてくる打開策があります。国際比較のデータが示す通り、日本の賃金水準は先進国の中で見劣りし、この30年ほとんど成長していません。その背景には非正規雇用の拡大、生産性向上の停滞、日本的雇用慣行による硬直性といった構造問題が横たわっていました。しかし近年、企業側でも人への投資志向に転じて賃上げを実現する動きが出始め、政府も税制や補助金でそれを支援し、最低賃金の底上げなど環境整備を進めています。実際、東京商工リサーチの調査によれば、2023年度に賃上げを実施(予定含む)した企業は84.8%と過去最大となっており、多くの企業が賃上げに踏み切り始めていることが読み取れます。
賃金停滞を打破するには、「成長と分配の好循環」をみんなで作り上げることが肝心です。企業は生産性を高めつつ収益を適正に労働者に還元し、人材への投資を惜しまない姿勢が求められます。政府は引き続き賃上げを後押しする政策を強化し、特に下支えが必要な中小企業や非正規労働者への支援を充実させる必要があります。そして働く私たち一人ひとりも、自らのスキル向上とキャリア開発によって高い付加価値を生み出し、それに見合った報酬を得られるよう行動していきましょう。
賃金が上がるということは、単に個人の懐が潤うだけでなく、消費が活発化し経済が成長し、若者に夢を与え少子化対策にもつながるなど、社会全体に波及効果があります。賃金停滞からの脱却は、日本経済の再生にとって避けて通れない道です。幸いにも変化の兆しは見えてきています。このチャンスを逃さず、企業・政府・個人の三位一体で行動を起こすことで、停滞から成長へと舵を切ることができるでしょう。明日への投資を惜しまず、未来の日本の「稼ぐ力」と「支える力」を取り戻すために、今こそ動き出しましょう。
参考文献・資料
濱口桂一郎『賃金とは何か―職務給の蹉跌と所属給の呪縛』朝日新書、2024年amazon.co.jp
厚生労働省「令和5年度労働経済の分析-持続的な賃上げに向けて-」(2023年)
総務省「労働力調査」2023年平均結果(非正規比率など)jili.or.jpjili.or.jp
公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」プレスリリース(2023年12月22日)jpc-net.jp
OECD “Average annual wages”, “Real wages” データworks-i.comjil.go.jp
『日本の平均年収は先進国の中で今やかなり低い位置に…』(nippon.com、2025年2月3日)nippon.com
中村天江「低賃金に寛容な日本社会―雇用と賃金を約束した日本的雇用の副作用―」(リクルートワークス研究所, 2019年)works-i.comworks-i.com
朝日新聞「売上高が16年ぶり最高に、法人企業統計 内部留保は600兆円超え」(2023年9月)asahi.com
Bloomberg「ファーストリテイリングが日本従業員の報酬改定、年収で最大約40%アップへ」(2023年1月11日)bloomberg.co.jpbloomberg.co.jp
東京商工リサーチ「2023年度の『賃上げ』実施、過去最大の84.8%…」(2023年8月17日)tsr-net.co.jp
経団連「2023年春季労使交渉・大手企業賃上げ集計」(2023年)edenred.jp
厚生労働省「業務改善助成金」公式ページ(2023年拡充内容)freee.co.jp
厚生労働省「教育訓練給付制度の概要」リーフレット(2022年)
Fermented Foods and Health: Recent Research Findings (2023–2025)
1. Fermented Foods and Health Benefits – Meta-Analysis Evidence (2024) Several recent systematic reviews and meta-analyses have evaluated the health effects of fermented foods (FFs) on various outcomes: Metabolic Health (Diabetes/Prediabetes): Zhang et al ...
日本に広がるインド料理店:ネパール人経営の実態と背景
日本のインド料理店市場の推移とネパール人経営の現状 日本各地で見かける「インド料理店」は、この十数年で急増しました。NTTタウンページの電話帳データによれば、業種分類「インド料理店」の登録件数は2008年の569店から2017年には2,162店へと約4倍に増加しています。その後も増加傾向は続き、一説では2020年代半ばに全国で4,000~5,000店に達しているともいわれます。こうした店舗の約7~8割がネパール人によって経営されているとされ、日本人の間では「インネパ(ネパール人経営のインド料理店)」と ...
全国の介護者が抱える主な困りごとと支援策(2025年4月現在)
身体的負担(からだへの負担) 介護者(家族介護者・介護職員ともに)は、要介護者の介助によって腰痛や疲労を抱えやすく、夜間の介護で睡眠不足になることもあります。例えばベッドから車いすへの移乗やおむつ交換などで腰に大きな負担がかかり、慢性的な痛みにつながります。在宅で1人で介護する家族は休む間もなく身体が疲弊しやすく、施設職員も重労働の繰り返しで体力の限界を感じることがあります。 公的サービス: 介護保険の訪問介護(ホームヘルプ)を利用し、入浴や移乗介助など体力を要するケアをプロに任せることができます。またデ ...
食料品消費税0%の提案を多角的に分析する
なぜ今「食料品消費税0%」が議論されるのか 日本で食料品の消費税率を0%に引き下げる案が注目されています。背景には、物価高騰と軽減税率制度の限界があります。総務省の統計によると、2020年を100とした食料品の消費者物価指数は2024年10月時点で120.4に達し、食料価格が約2割上昇しました。この価格上昇は特に低所得世帯の家計を圧迫しています。 現在の消費税は標準税率10%、食料品等に軽減税率8%が適用されていますが、軽減効果は限定的です。家計調査の試算では、軽減税率8%による1世帯当たりの税負担軽減は ...
賃貸退去時トラブルを防ぐための完全ガイド
はじめに賃貸住宅から退去する際に、「敷金が返ってこない」「高額な修繕費を請求された」といったトラブルは珍しくありません。国民生活センターにも毎年数万件の相談が寄せられ、そのうち30~40%が敷金・原状回復に関するトラブルを占めています。本ガイドは、20代~40代の賃貸入居者や初めて退去を迎える方、過去に敷金トラブルを経験した方に向けて、退去時の手続きや注意点、法律・ガイドラインに基づく対処法を詳しく解説します。解約通知から敷金返還までのステップ、退去立ち会い時のチェックポイント、契約書の確認事項、原状回復 ...