
※本記事は2026年7月21日時点の法令・公表情報に基づいています。
この記事の結論
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づき、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策がすべての事業主の義務になります。労働者を1人でも雇う企業・個人事業主が対象で、中小企業への猶予はありません。企業は、カスハラに毅然と対応し従業員を守る方針の明確化、相談窓口の整備、被害発生時の事実確認や被害者への配慮、特に悪質な事案への対処体制づくりなど、厚生労働省の指針が示す10項目の措置を講じる必要があります。カスハラとは、顧客等の言動のうち社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境を害するものを指し、正当な苦情やクレームは該当しません。義務違反への直接の罰則はありませんが、行政の助言・指導・勧告や企業名公表の対象になり得ます。
この記事の重要ポイント
- 施行日は2026年10月1日で確定しています(施行期日を定める政令=令和8年政令第17号)。根拠は2025年6月4日成立・6月11日公布の改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)です
- 対象は労働者を1人でも雇用するすべての事業主で、業種・規模を問わず、中小企業の経過措置はありません
- カスハラは①顧客等の言動、②社会通念上許容される範囲を超える、③就業環境が害される、の3要素すべてを満たすもので、電話・SNSなどネット上の言動も含みます。正当な苦情は該当しません
- 企業が講じるべき措置は指針(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日公布)で10項目が定められ、「特に悪質な事案への抑止体制」はカスハラ対策に固有の内容です
- 同じ2026年10月1日から、就活生・インターンシップ生など求職者等に対するセクハラ対策も義務化されます。義務違反への直接罰はありませんが、勧告・企業名公表、報告徴収(虚偽報告等は過料)の対象になります
変更前・変更後の比較表
| 項目 | 2026年9月30日まで | 2026年10月1日以降 |
|---|---|---|
| 法律上の位置づけ | カスハラ対策の措置義務なし(厚労省の企業マニュアル等による自主対応、一部自治体の条例) | 労働施策総合推進法に基づく事業主の「雇用管理上の措置義務」 |
| 対象 | ― | 労働者を1人でも雇用するすべての事業主(業種・規模不問、経過措置なし) |
| 求められる対応 | 任意 | 方針の明確化・相談体制・事後対応・悪質事案への抑止体制など指針の10項目 |
| 働く人の保護 | 会社の姿勢に依存 | 相談したこと等を理由とする不利益取扱いをされない旨の周知などが義務化 |
| 履行確保 | ― | 労働局による助言・指導・勧告、勧告に従わない場合の企業名公表、報告徴収(虚偽報告等は20万円以下の過料) |
| 求職者等へのセクハラ対策 | 「望ましい取組」 | 措置義務(同日施行) |
読者別に見ると、接客・窓口・電話対応で働く人は「一人で抱え込まない仕組み」を会社に求められるようになります。経営者・店長は2026年10月1日までに方針・相談体制・対応ルールの整備が必要です。人事・労務・法務担当者は、社内規程やマニュアル、研修・周知、記録方法など、義務を果たすための具体的な方法の設計が実務の中心になります。消費者にとっては、要望や苦情を伝えること自体は今までどおり可能ですが、伝え方によっては「カスハラ」として毅然とした対応を受ける場面が増えます。
カスハラ対策の義務化とは?2026年10月1日に何が変わる
結論から言うと、2026年10月1日から、事業主はカスタマーハラスメントを防止するための「雇用管理上の措置」を必ず講じなければならなくなります。これまで法律上の義務がなかった分野に、パワハラ・セクハラ対策と同じ仕組みが導入される改正です。
根拠となるのは、2025年6月4日に成立し6月11日に公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)です。この改正法のうちカスハラ対策と求職者等に対するセクハラ対策の義務化部分は、施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)により2026年10月1日施行と確定しました。あわせて、企業が講じるべき措置の具体的な内容を定めた「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)が2026年2月26日に公布され、施行日から適用されます。2026年4月24日には運用通達と解釈Q&Aも公表されており、制度の全体像はすでに出そろっています。
背景には、カスハラの広がりがあります。厚生労働省の委託調査「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」(全国の労働者8,000人対象、2024年5月公表)では、過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を受けた労働者は10.8%で、パワハラ(19.3%)に次ぎ、セクハラ(6.3%)を上回りました。東京都(2025年4月施行)をはじめ北海道、群馬県、三重県桑名市などでは防止条例が先行していますが、いずれも罰則のない理念型が中心で、全国一律の事業主義務を定めるのは今回の法改正が初めてです。
対象になる企業と「顧客等」の範囲
対象は、労働者を1人でも雇用するすべての事業主です。会社の規模や業種を問わず、個人事業主も従業員を雇っていれば対象で、パワハラ防止法のときのような中小企業の適用猶予はありません。
保護されるのは「顧客等」から迷惑行為を受ける労働者です。指針によると、顧客等とは、顧客、取引の相手方、施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者その他事業に関係を有する者を指し、今後商品の購入やサービスの利用をする可能性がある人も含みます。具体例として、商品・サービスの購入者や問い合わせをする人、取引先の担当者、契約交渉の相手方担当者、施設・サービスの利用者とその家族、施設の近隣住民が挙げられています。つまり、消費者からのクレームだけでなく、企業間取引(BtoB)での取引先担当者の言動や、病院での患者・家族、自治体窓口での住民の言動も対象になり得ます。また、対面に限らず、電話、メール、SNSや口コミサイトなどインターネット上の言動も含まれます。
カスタマーハラスメントの定義——正当なクレームとの違い
カスタマーハラスメントとは、職場において行われる①顧客等の言動であって、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいい、3つの要素をすべて満たすものを指します(改正労働施策総合推進法・指針)。
最も重要なのは、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに該当するわけではないという点です。商品の不具合の指摘やサービスへの改善要望など、内容にも伝え方にも問題のない苦情は正当なクレームであり、企業の改善の機会でもあります。指針は、②「社会通念上許容される範囲を超えた言動」を次の2つの軸で整理しています。
| 軸 | 典型例(指針より) |
|---|---|
| 言動の内容が範囲を超えるもの | そもそも要求に理由がない、商品・サービスと全く関係のない要求/契約で想定しているサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難・不可能な要求/不当な損害賠償要求 |
| 手段や態様が範囲を超えるもの | 身体的な攻撃(暴行・傷害)/精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要)/威圧的な言動/継続的・執拗な言動/拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) |
判断にあたっては、言動の目的、経緯や状況(労働者側の問題行動の有無・程度を含む)、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮します。内容と手段・態様のどちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得る点に注意が必要です。例えば、要求内容自体は正当でも、長時間の拘束や大声での罵倒という手段をとればカスハラになり得ます。
なお、障害のある人が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たらないと指針に明記されています。企業は、消費者の権利や、障害者差別解消法における差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務にも留意しながら対策を講じる必要があります。
企業に義務付けられる10の措置
2026年10月1日以降、事業主が必ず講じなければならない措置は、指針で次の10項目が定められています。
| 分類 | 措置の内容 |
|---|---|
| 方針の明確化・周知啓発 | ①カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する/②カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処方法(指針が例示するのは、管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部へ情報共有する等)を労働者に周知する |
| 相談体制の整備 | ③相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知する/④窓口担当者が適切に対応できるようにする |
| 事後の迅速・適切な対応 | ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する/⑥被害を受けた労働者への配慮の措置を適正に行う/⑦再発防止に向けた措置を講ずる |
| 悪質事案への抑止措置 | ⑧特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定めて労働者に周知し、対処できる体制を整備する(カスハラ対策に固有の項目) |
| 併せて講ずべき措置 | ⑨相談者等のプライバシー保護に必要な措置を講じ、周知する/⑩相談したこと等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する |
法律・指針が義務として求めているのは、こうした方針・対処方法の明確化と社内周知、相談体制、事後対応、抑止体制などの「中身」です。就業規則への記載や特定の形式のマニュアル作成、全従業員研修そのものが単独で義務付けられているわけではなく、これらは義務を実効的に果たすための代表的な方法にあたります(どの方法で実現するかは各社が選べます)。
このほか、義務ではない「望ましい取組」として、商品・サービス理解と対応力を高める研修、消費者心理や障害特性・認知症の症状への理解を深める取組、労使の参画による運用状況の把握と見直し、自社の従業員が他社の従業員にカスハラをしない旨の方針提示などが示されています。また、事業主・労働者それぞれに、カスハラ問題への関心と理解を深め、他社の労働者への言動に注意を払う「責務」(努力義務)が定められました。働く人は保護されるだけでなく、自分が取引先や店舗で加害者にならないよう注意を払う努力も求められます。
義務に違反した場合、直接の刑事罰はありません。ただし、労働局による報告徴収や助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表されることがあります。報告をせず、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料の対象です。加えて、対策を怠って従業員が被害を受ければ、安全配慮義務違反として民事上の責任を問われるリスクや、離職・採用難につながるリスクもあります。
働く人・消費者への影響
働く人にとっての最大の変化は、「客からの理不尽な言動は我慢するもの」という状態に法律上の区切りがつくことです。具体的には、一人で対応させない・上司に引き継ぐといった対処方法が職場で明確になって共有され、社内相談窓口が設けられ、相談したことを理由とする不利益取扱いから守られます。会社が対応してくれない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーに無料・匿名で相談できます。
消費者・利用者にとっては、要望や苦情を伝えること自体は制限されません。変わるのは、暴言・土下座の強要・長時間の居座り・執拗な電話・SNSでの従業員攻撃といった手段をとった場合に、企業が対応を打ち切る、出入りをお断りする、警察や法的措置につなげるといった毅然とした対応を受けやすくなる点です。伝えたい内容があるときは、事実と要望を具体的に、冷静に伝えることが、結果的に最も解決への近道になります。
企業への影響——実務負担とBtoB・委託先への広がり
企業側には、2026年10月1日までに体制を整える実務負担が生じます。法律・指針が求めるのは前章の措置の「中身」であり、その実現方法は各社の実情に応じて選べます。実務では、就業規則・社内規程・社内通知など自社に適した方法での明文化、対応マニュアルの作成、窓口担当者の教育、応対記録の仕組みづくりが代表的な方法です。店頭やWebサイトでの顧客向けの方針掲示は義務ではありませんが、抑止効果が期待できる取組として広がっています。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月)、ポスター・研修動画(ポータルサイト「あかるい職場応援団」)は無料で利用でき、東京都のように中小企業向けの奨励金を設ける自治体もあります。
見落とされがちなのが、企業間の関係です。取引先の担当者からの著しい迷惑行為も「顧客等」の言動としてカスハラになり得る一方、自社の従業員が取引先でカスハラの行為者になる可能性もあります。指針は、他の事業主から事実関係の確認などへの協力を求められた場合に応じる努力義務を定め、協力を求めたことを理由とする契約解除等の不利益な取扱いは望ましくないとしています。事実が確認できた場合には、就業規則等に基づき行為者を懲戒等の対象とすることが望ましいとされており、購買・営業部門を含めた全社的な教育が必要です。なお、自社の職場で働く他社の従業員(メーカーの派遣販売員など)や個人事業主への言動についても、同様の方針を示すことが望ましい取組とされています。フリーランスに業務委託する場合は、フリーランス法(2024年11月施行)に基づくハラスメント対応の体制整備義務がすでに別途課されている点にも注意してください。
業種別に見るカスハラの典型例と対応の型
指針の類型を各業種に当てはめると、次のような整理ができます(実際の該当性は個別の状況により総合判断されます)。
| 業種 | 起こりやすい言動の例 | 対応の型 |
|---|---|---|
| 飲食店 | 大声での罵倒、土下座の強要、威圧的な言動や長時間の居座り | 店長へ引き継ぎ、複数名対応、退去要請、不退去なら警察通報 |
| 小売店 | 理由のない返品・交換の強要、不当な損害賠償要求、従業員個人をSNSで晒す行為 | 対応範囲の基準を明示、SNS投稿は証拠保全のうえ削除請求・法的措置を検討 |
| コールセンター | 執拗な繰り返し電話、長時間の拘束、オペレーターへの暴言 | 録音を行う場合の案内、対応時間・回数の上限ルール、切電基準の明文化 |
| 医療・介護 | 患者・利用者やその家族からの暴言・暴力、提供範囲を超えるサービスの要求 | 複数名対応と記録、警備・警察との連携。病状・認知症の症状や障害特性に起因する言動は配慮と区別して対応 |
| 自治体窓口 | 住民による威圧的言動、窓口の占拠、特定職員への執拗な攻撃 | 組織対応への切り替え、対応打ち切り基準の設定、庁内共有 |
いずれの業種でも共通する「対応の型」は、①現場が一人で抱えず管理者へ引き継ぐ、②あらかじめ決めた基準で対応を打ち切る、③記録を残す、④悪質な場合は警察・弁護士へ、という流れです。
メリット
働く人にとっては、精神的負担の軽減と離職防止につながり、相談への不利益取扱い禁止により声を上げやすくなります。企業にとっては、対応基準の明確化により現場の判断が統一され、対応時間の浪費が減り、人材確保の面でもプラスに働きます。正当なクレームとカスハラを区別する枠組みが共有されることで、本来の顧客の声を商品・サービス改善に生かしやすくなる効果も期待できます。
デメリット・課題
一方で課題もあります。第一に、線引きの難しさです。カスハラ該当性は総合判断のため、現場が過度に萎縮して正当な苦情まで門前払いする「過剰防衛」や、逆に「カスハラ」という言葉が安易に使われて顧客との信頼関係を損なうおそれがあります。第二に、小規模事業者の負担です。専任の人事担当がいない店舗でも、方針・対処方法・相談先の整備は必要です(マニュアルなどの形式は自由で、相談窓口は経営者自身や外部委託でも構いません)。第三に、記録に伴うプライバシー管理の負担、SNS上の行為への対応の難しさ、カスハラ認定をめぐる顧客・従業員双方との紛争リスクです。義務化はゴールではなく、運用しながら基準を磨き続ける出発点と考える必要があります。
よくある誤解
- 「苦情を言う顧客はすべてカスハラ」:誤りです。正当な苦情・要望は該当しません。内容または手段・態様が社会通念上許容される範囲を超えた場合に問題になります。
- 「2026年10月から顧客が処罰される法律ができる」:誤りです。義務を負うのは事業主(対策を講じる義務)で、顧客への直接の罰則を定めた法律ではありません。ただし暴行・脅迫・不退去などは従来どおり刑法等の犯罪に該当し得ます。
- 「大企業だけが対象」:誤りです。労働者を1人でも雇うすべての事業主が対象で、猶予措置はありません。
- 「罰則がないから対応しなくてよい」:勧告・企業名公表や過料の仕組みがあるほか、安全配慮義務違反による損害賠償リスク、人材流出リスクがあります。
- 「録音は義務/録音していれば何をしてもよい/録音は違法」:いずれも不正確です。録音・録画は法律上の義務ではなく任意の記録手段で、導入する場合は利用目的や個人情報の取扱い、顧客への案内方法などの確認が必要です(後述)。
- 「BtoBは関係ない」:取引先の担当者も「顧客等」に含まれ、自社の従業員が加害者になる場合の協力・懲戒の枠組みも指針に定められています。
顧客対応の録音・記録を行う際の注意点
録音・記録は、事実関係の確認(措置⑤)や再発防止(措置⑦)を支える有効な手段ですが、録音・録画そのものが法律上一律に義務付けられているわけではありません。導入するかどうか、どの範囲で行うかは各事業主の判断です。導入する場合の実務上のポイントは、①録音・記録の目的(応対品質の向上・事実確認など)を定めて社内ルールに位置づける、②記録は日時・場所・相手の言動・対応者・対応内容を事実ベースで残す、③電話などを継続的に録音する場合は、利用目的、個人情報の取扱い、保存期間、アクセス権限、顧客への案内方法をあらかじめ確認する、の3点です。「この通話は応対品質向上のため録音しています」といったガイダンスや店内掲示による案内は、一律の法的義務ではありませんが、トラブルの予防や行き過ぎた言動の抑止に役立つ実務として広く行われています。
従業員が危険を感じたとき・警察や弁護士に相談すべき場面
身の危険を感じたら、その場での説得を続けるのではなく、離れる・複数名対応に切り替える・管理者に引き継ぐことを優先します。指針も、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報することを、あらかじめ定めておく対処方法の例として挙げています。殴る・物を投げる(暴行)、「殺すぞ」等の発言(脅迫)、金品の不当な要求(恐喝)、業務の妨害(威力業務妨害)、退去要請に応じない居座り(不退去)などは、ためらわず110番通報する場面です。また、SNSでの誹謗中傷や従業員の晒し行為への削除請求・発信者情報開示、悪質なクレーマーへの出入禁止通知や損害賠償請求などは、弁護士への相談が有効です。各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)は、制度や企業対応についての相談を無料で受け付けています。
今から準備すべきこと——施行日から逆算したスケジュール
2026年10月1日の施行までに、基本方針・対処方法・相談体制という義務の中核を固め、従業員への周知を済ませておく必要があります。目安として、2026年8月末までに方針と対応ルール・規程類の整備、9月に研修・説明会・資料配布などによる周知、10月から運用開始という段取りが現実的です。厚生労働省の企業マニュアルとリーフレット、指針本文を土台にすれば、ゼロから作る必要はありません。
個人向けチェックリスト(働く人)
- 自社にカスハラ対応の方針・対処ルール・相談窓口があるか確認した(2026年10月1日以降は整備が会社の義務)
- 「一人で対応しない」「上司に引き継ぐ」など、自分の職場の対処方法を把握した
- 被害を受けたときの記録の残し方(日時・相手の言動・状況)を知っている
- 相談しても不利益な取扱いを受けない仕組みがあることを理解した
- 社外の相談先(都道府県労働局雇用環境・均等部(室)、総合労働相談コーナー)を控えた
- 自分が客・発注者の立場になったとき、加害者にならない伝え方を意識している
企業向けチェックリスト(経営者・人事労務担当者)
- 基本方針:カスハラに毅然と対応し従業員を守る基本方針を明確化し、社内に周知した。必要に応じて店頭やWebサイトで顧客等にも掲示する
- 社内規程・明文化:方針や、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止を、就業規則、社内規程、社内通知など自社に適した方法で明文化した
- 対応マニュアル(対処方法の文書化):初期対応、管理者への引き継ぎ基準、対応打ち切り基準、悪質事案への対処方針を、現場が参照できる形にまとめた(形式は自社に適した方法でよい)
- 相談窓口:窓口を設置して担当者を決め、対応手順とプライバシー保護のルールを整備した(外部委託・経営者兼務も可)
- 研修・周知:従業員が方針と対応方法を理解できるよう、研修、説明会、資料配布などを実施した
- 記録方法:応対記録の様式を決めた。通話録音やカメラを用いる場合は、利用目的・保存期間・アクセス権限・顧客への案内方法を確認した(録音・録画自体は法律上の義務ではない)
- 緊急時の連絡先:警察(110番)、本社・本部、顧問弁護士、警備会社などの連絡フローを現場で確認できるようにした
- 委託先・取引先との連携:他社からの事実確認への協力手順(努力義務)、自社従業員が行為者となった場合の調査・懲戒ルール(望ましい取組)、派遣・常駐スタッフや業務委託先への方針共有(望ましい取組)を決めた
- 求職者等セクハラ対策(面接・OB訪問・インターンのルール明確化、求職者向け相談窓口の周知)も同時に整備した
まとめ
2026年10月1日のカスハラ対策義務化は、「顧客対応の我慢」を個人の問題から会社の仕組みの問題へと転換する改正です。企業がすべきことは、指針の10項目に沿って、方針・対処方法・相談体制・記録や研修などの運用を自社に合った形で整えること。働く人がすべきことは、自社の仕組みを知り、一人で抱え込まないこと。そして消費者を含む私たち全員に、伝えるべきことは冷静に伝え、許容範囲を超える言動はしないという心構えが求められます。2026年10月1日の施行までに、まずは厚生労働省の指針とリーフレットの確認から始めてください。
FAQ
Q1. カスハラ対策の義務化はいつから始まりますか?
2026年10月1日からです。2025年6月に成立・公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)に基づき、施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)で確定しています。
Q2. どの企業が対象ですか?小さな会社や個人事業主も含まれますか?
労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象です。業種・規模を問わず、個人事業主も従業員を雇っていれば含まれ、中小企業への猶予措置はありません。
Q3. カスタマーハラスメントの定義は何ですか?
①顧客等の言動で、②業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、③労働者の就業環境が害される、という3要素をすべて満たすものです。電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれます。
Q4. 苦情やクレームを言ったらカスハラになりますか?
なりません。正当な苦情・要望はカスハラに該当しないと指針に明記されています。ただし、内容に理由がない要求や、暴言・土下座の強要・居座りなど手段が行き過ぎた場合は、要求内容が正当でもカスハラになり得ます。
Q5. 会社が対策をしないと罰則はありますか?
直接の刑事罰はありませんが、労働局の助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は企業名が公表されることがあります。報告徴収に応じない、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料の対象です。民事上の安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。
Q6. 従業員としてカスハラを受けたらどうすればよいですか?
まず一人で対応を続けず、上司・管理者に引き継ぎ、社内の相談窓口に相談してください。相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されます。会社が対応しない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーに無料で相談できます。
Q7. SNSの誹謗中傷や口コミサイトへの書き込みもカスハラになりますか?
なり得ます。指針は電話やSNS等インターネット上の言動も対象になると明記しており、従業員個人への攻撃や事実に反する投稿は、削除請求や発信者情報開示など法的措置の対象にもなり得ます。
Q8. 取引先の担当者からの迷惑行為も対象ですか?
対象です。「顧客等」には取引の相手方や契約交渉の担当者も含まれます。逆に自社の従業員が取引先で行為者となった場合、相手企業からの事実確認に協力する努力義務があり、事実が確認されれば就業規則等に基づく懲戒などの対応が望ましいとされています。
Q9. 従業員数人の店は、最低限何から始めればよいですか?
①「カスハラには毅然と対応し従業員を守る」という方針を決めて従業員に周知する(必要に応じて店頭にも掲示)、②「一人で対応しない・この基準で対応を打ち切る・危険なら110番」という対処方法を共有する、③相談先(経営者本人や外部窓口でも可)を明確にする、の3点が出発点です。厚生労働省の企業マニュアルとリーフレットが無料で利用できます。
Q10. 就活生へのセクハラ対策も同時に義務化されるのですか?
はい。同じ2026年10月1日から、求職者やインターンシップ生など「求職者等」に対するセクハラ防止措置が義務化されます(改正男女雇用機会均等法、指針は令和8年厚生労働省告示第52号)。面接やOB・OG訪問のルール明確化、求職者等への相談窓口の周知などが求められます。
参考資料・一次情報(いずれも2026年7月21日閲覧)
一次情報
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(カスハラ・求職者等セクハラ義務化の総合案内ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html - 厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」(改正法・施行期日政令〈令和8年政令第17号〉・省令・告示の掲載ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html - 厚生労働省 リーフレット(詳細版)「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf - 「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日公布・PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf - 「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号・PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf - 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(Q&A、2026年4月24日・PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001695619.pdf - 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月・PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf - 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度調査結果、2024年5月公表)掲載ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html - 政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイント」(2025年10月)
https://www.gov-online.go.jp/article/202510/entry-9370.html
補助的に参照した専門情報(二次情報)
- BUSINESS LAWYERS「2026年10月カスハラ対策が義務化!企業が講ずべき措置を解説」 https://www.businesslawyers.jp/articles/1457
- 長島・大野・常松法律事務所「カスハラ対策が企業の義務に—改正労働施策総合推進法のポイント」 https://www.nagashima.com/publications/publication20250711-1/
- 商事法務ポータル「厚労省、令和5年度『職場のハラスメントに関する実態調査』報告書を公表」 https://portal.shojihomu.jp/archives/68385
106万円の壁は2026年10月にどう変わる?社会保険・手取り・企業負担をわかりやすく解説
※本記事は2026年7月20日時点の法令・公表情報に基づいています。施行日等は政省令により変更される可能性があるため、最新情報もあわせてご確認ください。 この記事の結論 2026年10月から、パート・アルバイトが勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するかどうかの条件のうち、「月額賃金8.8万円以上(年収約106万円)」という賃金要件が撤廃される予定です。最低賃金の上昇により、週20時間以上働けば月8.8万円を超えるのがすでに通常となっているため、この改正は実態に合わなくなった基準を法令上も整理する ...
AI時代の住民参加とは? 毎月10秒で地域課題を可視化する新しい民主主義の可能性
編集部注記:本記事で紹介する「毎月10秒アンケート」は、本記事が提示する構想・提案であり、現在どこかの自治体で実際に運用されている制度ではありません。記事後半で紹介する国内外の事例のみが、政府・自治体等の公表資料で確認された事実です。 この記事の結論 AIは「大量の住民意見を整理・要約・分析する補助役」であり、政策を決めるのは住民・行政・議会である。本記事はこの前提のもと、スマートフォンで毎月10秒回答できる住民アンケートという構想を提案する。 台湾の政策提言プラットフォーム「Join」、兵庫県加古川市が ...
地域未来戦略とは?地方創生2.0との違いをわかりやすく解説【2026年原案】
この記事の結論 地域未来戦略は、高市内閣が2026年夏の決定を目指す、地方政策の新しい全体戦略です。2026年6月30日の第2回地域未来戦略本部で原案が示されました。石破内閣の「地方創生2.0基本構想」が生活環境や移住・関係人口を含む10年構想だったのに対し、地域未来戦略は「強い地域経済」を前面に出し、産業クラスター形成と投資促進に重心を移します。対象は47都道府県すべてで、計画期間は2030年度までです。2026年7月17日時点では原案段階であり、閣議決定はまだ公表されていません。 要点 2026年6月 ...
2026年改正地域交通法で何が変わる?交通空白・共同運行・自治体の役割を解説
路線バスの減便・廃止が全国で相次ぐなか、「交通空白」の解消を正面から掲げる改正地域交通法が2026年6月に成立・公布されました。本記事では、法律で何が決まり、いつから、誰に、どのような影響があるのかを、2026年7月17日時点の一次資料に基づいて解説します。 この記事の結論 2026年6月3日、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律」(改正地域交通法)が成立し、6月10日に公布されました(令和8年法律第35号)。柱は、休廃止のおそれがあるバス路線などの「交通空白」に対し、市町村など ...
つなぎ国債とは何か 成長投資財源・国債増発・金利への影響をわかりやすく解説
つなぎ国債は、将来の償還財源を前提に、成長投資や危機管理投資に必要なお金を先に確保するための“橋渡し型”の国債です。赤字国債とは性格が異なりますが、発行されれば国債市場の需給や長期金利に影響し得るため、財源の具体性と発行規模が大きな焦点になります。 この記事でわかること つなぎ国債とは何か、その定義と考え方 赤字国債・建設国債・復興債・GX経済移行債との違い なぜ成長投資や危機管理投資の財源として注目されているのか 国債増発、長期金利、住宅ローン、企業借入、為替、株式市場への影響 生活者・投資 ...




