静岡市清水区の清水駅前銀座商店街はかつて賑わいの中心でしたが、近年は駅前シャッター街化が進んでいます。この記事では、清水駅前シャッター街再生に向けて、現状診断からクイックアクション、インキュベーション支援、アンカー施設の導入、DX・キャッシュレス化、資金調達スキーム、まちづくり会社によるガバナンス、成功・失敗事例、そして36か月のロードマップまでを網羅的に解説します。全国ご当地ラーメン通りやコスプレ喫茶、ホビーのまち構想、清水河岸の市リニューアルなど新要素を含め、自治体・商店街・金融機関・投資家向けに実践的な提案をお届けします。
現状診断
清水駅前銀座商店街を含む清水地区は、駅前に大型店（旧丸井清水店（H13閉店）、西友清水店（H27閉店）など）を失って以来、約20～25年間にわたり中心街の賑わいが減退してきました。現在、清水駅前銀座商店街振興組合の加盟店舗は76軒で、そのうち17軒が空き店舗となっており（空き率約22%）、駅前商店街の先行きに危機感が高まっています。静岡市の調査によれば、清水駅前銀座や清水中央銀座、清水銀座など5地点の歩行者通行量は2016年（H28）ごろに一時増加に転じたものの、以降は再び減少傾向が続いています。このように、地域全体で駅前シャッター街化が深刻化しており、清水駅前エリアの回遊性も低下しています。背景には消費者のライフスタイル変化や郊外大型商業施設の台頭、少子高齢化による人口減など複合的要因があり、商店街自身の事業ビジョン・資源の不足も課題です。
- 商店街構成: 現在76店中17店が空き店舗。廃業や商店会解散も増加。
- 歩行者減少: 清水地区では歩行者通行量が依然として減少傾向。
- 大型店撤退: 駅前の丸井・西友閉店で商業核消失。
- 既存努力: 既に商店街側は毎月イベント開催で来街促進に取り組むものの、抜本対策は不十分。
クイックアクション
まずは短期的に周辺から人を呼び込む施策を展開します。たとえば、空き店舗を活用したポップアップストアを導入し、期間限定ショップや地元ベンチャーの実証場とします。地元グルメ（ラーメン、魚介）や特産品の販売、期間限定のコスプレ喫茶やホビーショップを開くことで試行錯誤できます。季節イベントとして七夕まつりやイルミネーションのほか、全国ご当地ラーメンフェアや「清水ホビー＆アニメ祭」、コスプレ撮影会などを企画し、話題性と回遊を高めましょう。周辺の清水港・三保松原・七ツ梅等と連携し、小規模なクルーズ船寄港日に連動イベントを行うのも有効です。また、商店街の景観改善（清掃ボランティア、壁面アート、新看板設置）や照明・フリーWi-Fi整備などで、通行者に好印象を与えましょう。
- 空き店舗でポップアップ：地元起業家や学生による雑貨・カフェを期間限定出店。
- テーマイベント：毎月のマグロ解体ショー、ラーメン博、ホビー即売会等を開催。
- 広報強化：ソーシャルメディアやARアプリでイベント情報を拡散し、来訪動機づけ。
- 商店街クリーン・グリーン活動：週末の清掃・花壇整備で地域愛着を醸成。
事例: 清水駅前銀座商店街振興組合は既に月例イベントで来街促進に取り組んでおり、これに全国ラーメン通りやアニメ／コスプレ要素を融合させることで新たな集客機会とできます。
インキュベーション
中長期視点では、新規事業者の育成・定着を目指したインキュベーション支援が必要です。空き店舗や商店街のコミュニティスペースを活用し、起業準備のためのシェアオフィスやコワーキングスペースを整備します。例えば岩手県釜石市では、空き店舗をDIYで改修してコワーキングスペース「co-ba kamaishi marudai」を開設し、地元起業家やボランティアを集めて商店街再生を推進しています。静岡市でも同様に、商店街事務所や貸しスペースに小規模ビジネス講習会・相談窓口を設置し、若手・クリエイター・移住者らの創業を支援します。商店街組合やまちづくり会社は、これら入居者に対し低家賃貸与や補助金情報提供、販路拡大のマッチングなどを行い、新規参入者のスムーズな定着を図ります。特に若者や女性起業家にはメンター制度を活用し、事業継続力を高めます。
- 起業家サポート: 商工会議所・産業支援機関と連携し、創業セミナーや相談窓口を定期開催。
- 空き店舗改修支援: 建築家や地元大学・NPOと協働して空き店舗を共同改修し、店舗コスト削減とデザイン向上を両立（DIY型リノベなど）。
- ネットワーキング: 商店街の交流会やワーキンググループを通じ、異業種コラボを促進。
- インキュベーション機能: 空き家・空きビルを活用したインキュベ施設（創業サテライトオフィス、シェアキッチン等）を整備。
成功例: 釜石市の事例では、自分たちの手で空き店舗を改装した後、コワーキングスペースを起点に地元起業家コミュニティが形成され、新店舗開業を実現しています。清水でも同様に、地元産業や学生との連携によるインキュベーション施策を強化すれば、新陳代謝が生まれます。
アンカー施設
商店街活性化の要はアンカー施設の導入・誘致です。清水港に隣接する清水河岸の市（魚市場）は、2025年4月にリニューアルオープンした大型集客施設で、年間約80万人の来場者を誇ります。同時に整備された駿河湾フェリー新ターミナルとペデストリアンデッキでJR清水駅と直結し、東西の拠点間の回遊性を大幅に向上させました。今後、河岸の市と商店街が観光コンテンツ（マグロ解体ショー等）を共有することで、相互送客が期待できます。
新たなアンカーとしては、地域資源や特色を生かしたテーマ型施設が有効です。全国ご当地ラーメン通りのように各地の名物ラーメン店を集積する飲食テーマゾーン、あるいはアニメ・ゲーム・おもちゃを扱う「ホビーのまち」構想を提案します。清水ならではの海産物や富士山に加え、若年層を呼び込むコスプレ喫茶やマンガ喫茶などのサブカル的アンカーも視野に入ります。例えば、新横浜ラーメン博物館（1994年開館）は全国のラーメン文化を集約し、多くの観光客を集める成功事例です。清水駅前でもこうした専門施設を核に据え、駅⇔市場⇔商店街間の「面」で回遊誘導することで商圏を拡大します。
- 既存アンカー: 清水河岸の市「新いちば館」。今後1日1,000人超えを見込む（年間100万人）。
- 新規誘致: ご当地ラーメン通りやフードテーマパーク、アニメ/フィギュアショップ集積、ミニ水族館、図書館・カルチャーセンター等。
- サブカル要素: コスプレ喫茶やホビーショップで「オタク集客」。これらは地域外からの若者や外国人観光客向け訴求ポイントになる可能性大。
- 回遊促進: 駅前広場整備や観光案内所設置で観光動線をつくり、商店街から河岸・港エリアへの回遊を促す。
新横浜ラーメン博物館（神奈川）や油津商店街（宮崎・日南、アニメイベント活用）などは、地域資源とテーマを融合して商店街への人流を創出した好例です（詳細は成功事例章参照）。清水駅前でも、こうしたアンカー戦略で“面”としての賑わい創出をめざします。
DX・キャッシュレス
デジタルトランスフォーメーション（DX）を推進し、商店街の利便性と魅力を高めます。具体的には以下のような施策を検討します：
- キャッシュレス決済: 全店舗へのQRコード決済・電子マネー導入を支援。導入後は客単価が平均12.7%、来店頻度が8.3%増加するという統計もある。高齢客にはポイントカードで還元も併用し、利用者を啓発します。
- デジタルマーケティング: 商店街共通のWebサイト・SNSでイベントや店舗情報を発信し、観光客向けに多言語対応。清水港クルーズ船客向けにスマホ観光ガイドを提供して回遊を促進。
- スマートサイン: 空き店舗にARマップや電子看板を設置し、商店街の歴史やおすすめ店を紹介する。
- センサー・IoT: 歩行者カウンターやSNS投稿分析で混雑状況を可視化し、各店舗への集客データや改善指標とする。
- オムニチャネル: 商店街共通のECサイトやネット通販サービスも視野に入れ、店舗在庫情報を可視化する。これにより非来街客の売上獲得も狙います。
DX化で集客効果を高めながら、キャッシュレスは感染症対策・インバウンド対応としても有効です。IT導入補助金やキャッシュレス推進事業を活用して導入コストを抑えましょう。
資金調達スキーム
再生プロジェクトには、国・地方の補助金や民間資金を組み合わせた多様な資金調達が不可欠です。主な資金源としては次のものが考えられます：
- 国・県補助金: 地方創生推進交付金、商店街振興事業補助金、観光地域づくり法人（DMO）支援、観光庁施策など。過去の事例では、商店街イベントや空き店舗対策で市町村の補助金を活用し、新規出店を支援しています。
- 自治体補助: 静岡市や県による中心市街地活性化事業（アーケード改修・広場整備）や清水区独自の支援プログラム。地域魅力創出に連動した補助金申請を積極的に行います。
- 金融機関融資: しずおか信用金庫や商工中金等との協調融資枠、創業支援融資枠を活用。リノベーションやアンカー施設建設資金を長期低利で調達します。
- 民間投資: 地域商業活性化ファンド、クラウドファンディングの活用。全国有名事例では、地域特産品プロジェクトにサポーターを募るクラウドファンディングで運営資金を集めています。
- 自治体債: 必要に応じて市債や第三セクターによる株式出資も検討。商店街組合・まちづくり会社への追加出資を募り、運営母体の自己資本を充実させます。
また、イベントや観光施策のコストは運営型補助金（GoTo商店街、観光型地域づくり交付金など）で賄える場合が多いです。資金スキーム設計では、費用対効果を明確にし、補助金活用では国・県施策の「見える化」を怠らないことが重要です。
ガバナンス（まちづくり会社・KPI管理）
成功には実行体制と指標管理が鍵です。まちづくり会社（商店街活性化会社）を設立し、行政・商店街・地元企業・外部専門家など多様なステークホルダーを参画させることで、市場原理に基づく専門的運営を行います。清水駅前銀座商店街振興組合も近年まちづくり会社を立ち上げたところで、組合員外の人材参加や主体的運営の受け皿が整いつつあります。商店街組織と連携し、①アクションプラン策定、②実施推進、③KPI分析・見直しまで一貫して担う体制を構築します。
運営の基本方針としては、住民・商店主への定期報告と合意形成、事業別予算執行の透明化、会計管理の適正化を徹底します。KPI（主要業績評価指標）には次のような項目を設定しましょう：来街者数、空き店舗率、平均客単価、リピート率、イベント参加者数、観光客消費額、アンケート満足度など。月次や四半期で実績をチェックし、課題があれば事業計画を柔軟に修正します。たとえば、河岸の市リニューアル後の1日あたり平均集客、人件費対集客数、商店街売上高の推移などは重要指標です。
また、まちづくり会社にはハイブリッド型職員（行政出向者・プロデューサー・地域コーディネーター）の配置が望ましいです。タウンマネージャー役（中心市街地マネージャー）を設け、行政・商業関係者・住民の調整を行うことで、PDCAサイクルを回す体制を維持します。さらに、官民連携協議会を毎年開催し、広く意見集約を図ります。
成功事例3選＋新事例
- 新横浜ラーメン博物館（神奈川県横浜市） – 1994年開館のフードテーマパーク。全国のご当地ラーメン店を屋台形式で集積し、老朽化した商業施設跡地に観光客を呼び込みました。年間100万人級の集客を誇り、清水でも「ご当地ラーメン通り」構想のモデルとなります（運営主体は民間企業）。
- 油津商店街（日南市・宮崎県） – 2010年代にアニメ聖地巡礼と連携し、商店街活性化に成功。既存店舗でアニメスタンプラリーやイベントを開催し、外部人材と町おこし会社が新規出店を促進しました（宮崎日日新聞など報道）。
- ゆりの木通り商店街（静岡県浜松市） – 空き店舗を「アートギャラリー」や「フリースペース」に改修し、クリエイターや学生ボランティアが参加するイベントを精力的に実施。結果、3年間で33店舗の新規出店を実現しました。
- 油津・霧島等の近年事例 – また、清水河岸の市のように既存施設をリニューアルして再集客するケースや（清水河岸）、全国的には熊本桜町バスターミナル（商業施設）や地元主体の商店街スタンプラリー成功例などがあります。海外ではスペインやフランスで歴史的商店街を魅力化する地方創生プロジェクトも参考になります。
失敗事例に学ぶリスクと回避策
過去の再生プロジェクトでの失敗要因には、計画性の欠如、財政破綻、住民無視、需要乏しさなどが挙げられます。例えば、投資を優先して直営型テーマパークを安易に誘致したものの集客不足で債務超過に陥った商店街もあります。以下の点に注意してリスクを低減します：
- 需要調査不足: ニーズや市場規模の過小見積もり。事前に商圏分析やアンケート調査で需要を検証し、戦略の妥当性を担保します。
- 財政過大: 大型開発で借入依存すると、想定集客が達成できない場合に返済負担が事業を圧迫します。補助金や公的支援を活用しつつ、段階投資（フェーズ分け）で進め、投資回収プランを練ることが重要です。
- 組織ガバナンスの弱さ: 商店街組合と行政の連携が不十分だと、責任所在が曖昧になります。まちづくり会社など明確な推進体制を設定し、権限と役割を定めましょう。
- 単発施策: 一過性イベントだけで終わり、継続性がないと再衰退します。恒常的な運営計画と資金計画を作り、長期ビジョンに基づく取組を継続する必要があります。
- 過度な「箱もの」志向: 施設誘致ばかりに注力すると、地域外来客が増えず内需だけでは赤字に。地域特性と組み合わせて選定し、住民メリットも同時に設計します。
事前リスク管理では、プロジェクトの経営計画（事業スキーム）を慎重に作成し、複数のケース（ハイリスク・ローリスク）を比較検討します。外部コンサルティング活用で第三者視点を取り入れるのも有効です。
チェックリスト＆ロードマップ（0～36か月）
0～3年での主なステップをまとめます。
- 0～6か月（準備期）: 現状調査とキックオフ。商店街組合・市役所・商工会・学識者でワーキングチームを立ち上げ、SWOT分析・意見交換を実施。空き店舗リストアップ、イベントアイデアの設計、公的補助金応募計画を並行して進めます。まちづくり会社の設立準備（定款作成、出資検討）もこの期間に着手。
- 6～12か月（体制整備期）: マーケティングと小規模施策実行。前項で得た診断結果をもとにロードマップを具体化。クイックアクション（ポップアップ、露店祭など）のテスト実施、地域PR、DXインフラの検討を開始。市や金融機関との協力枠組み（補助金確保、融資相談）を固める。イベントで得た来街データから商店街のKPIを定義。年間事業計画書を策定。
- 12～24か月（施策実行期）: アンカー導入・改修やインキュベ支援の本格化。清水河岸の市の開業状況をモニタリングし、商店街側もそれに連動したイベント・飲食提供を計画。ご当地ラーメン通りやコスプレ喫茶などの企画プレゼンを行い、必要な改修・出店支援を開始。まちづくり会社が正式発足していれば、常駐スタッフやタウンマネージャーが事業を牽引。デジタル決済やセンサー等の導入もこの時期に集中投資します。資金調達ではクラウドファンディングや企業協賛企画を実施し、地元の参画を広げます。
- 24～36か月（評価・改善期）: 効果検証と体制強化。導入した施策のKPIを評価し、計画どおり集客・売上が上がっているか検証します。効果不十分な部分は組合員・市が協議し改善案を実行。好調な取り組みには投資拡大。次フェーズ（3年以降）の中長期計画を練り、将来のまちづくりビジョンと予算を確立します。
各ステップで必要な支援・人材は、早期に商工会議所や大学、地元企業、観光協会などを巻き込むことで確保できます。上記チェックリストに沿って、「見える化」しながら着実にプロジェクトを進めていきましょう。
まとめ：清水駅前銀座商店街の再生には、空き店舗再生とデジタル戦略を柱に、地域資源を最大活用した街づくり会社主導の総合的な施策展開が不可欠です。補助金や投資資金を的確に組み入れながら、小規模な成功体験を積み上げ、段階的にアンカー施設や特色商業を導入していくことで、老舗商店街の息を吹き返すことができます。特に清水河岸の市リニューアルは強力な追い風となるため、商店街と連携した回遊動線の構築が鍵です。全国事例から学びつつ、ご当地ラーメン通りやコスプレ喫茶、ホビーのまちといった斬新な要素を取り入れて、賑わいと経済力を取り戻しましょう。
参考文献・出典: 静岡市（2022）『中心市街地活性化基本計画（清水地区）』city.shizuoka.lg.jp・清水駅前銀座商店街振興組合事例（中小企業庁資料）chusho.meti.go.jpchusho.meti.go.jp・静岡放送 S―ナニュース（2024年）newsdig.tbs.co.jp・静岡新聞DIGITAL（2025年）fnn.jpfnn.jp・テレビ静岡（FNN）（2025年）fnn.jpfnn.jp・中小企業庁『商店街活性化事例』chusho.meti.go.jpchusho.meti.go.jp・経済産業省『地域商業実態調査令和4年度』ai-government-portal.com・中部経済産業局（2023）『商店街DX推進事例集』ai-government-portal.com・その他業界誌・論文chusho.meti.go.jpchusho.meti.go.jp（年度・著者省略）。
清水駅前銀座商店街シャッター街再生のロードマップ
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