
初回公開:2025年12月22日/最終更新:2026年8月14日
国旗損壊罪は、2026年8月13日から適用されている現行法です。実物の日本国旗を、人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法で、公然と損壊・除去・汚損すると、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金の対象になり得ます。
ただし、国旗を燃やした、踏んだ、文字を書いたという外形だけで、直ちに犯罪や逮捕が決まるわけではありません。法律上の「国旗」に当たるか、物理的な損壊・汚損が生じたか、公然性があるか、方法の要件を満たすか、正当行為などにより違法性が否定される事情があるかを個別に判断します。
この記事で分かること
- 国旗損壊罪の正式名称、成立日、公布日、施行日、罰則
- 犯罪の成立に必要な4つの主な要件
- 燃やす、踏む、文字を書く、処分する場合の考え方
- ライブ配信、録画投稿、YouTubeプレミア公開、生成AIの扱い
- 警察庁通達が示した逮捕・現行犯逮捕の判断
- 自分の国旗と他人の国旗で何が違うのか
- 刑法92条「外国国章損壊等罪」との違い
- 表現の自由をめぐる賛成・反対の考え方
国旗損壊罪とは――2026年8月13日に施行された新しい法律
一般に「国旗損壊罪」と呼ばれているのは、「国旗の損壊等の処罰に関する法律」によって設けられた犯罪です。法務省のQ&Aでは「国旗損壊等罪」という呼称も使われています。刑法の一部を改正したものではなく、独立した法律として制定されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 国旗の損壊等の処罰に関する法律 |
| 法律番号 | 令和8年法律第69号 |
| 国会提出日 | 2026年6月16日 |
| 発議者 | 松野博一衆議院議員ほか16名 |
| 成立日 | 2026年7月17日 |
| 公布日 | 2026年7月24日 |
| 施行日 | 2026年8月13日 |
| 法律の形式 | 刑法改正ではなく独立した法律 |
| 法定刑 | 2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金 |
法律案は議員立法として提出され、衆議院と参議院で可決されました。成立経過は、参議院の議案審議情報で確認できます。
国旗損壊罪の条文と罰則
法律の本則は3か条です。処罰の中心となる第2条は、国旗を、公然と、人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法で、損壊・除去・汚損することを要件としています。
第1条(定義)
この法律において「国旗」とは、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物をいう。
第2条(罰則等)
人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の方法に該当するかどうかの判断は、行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行うものとする。
第3条(適用上の注意)
この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。
条文全文と附則は、衆議院の議案本文で確認できます。附則には、施行後3年を目途に、損壊場面の映像のインターネット利用や、損壊された国旗の公然展示などを踏まえて制度を検討する条項も置かれています。
国旗損壊罪が成立する4つの主な要件
1.法律上の「国旗」に当たること
対象となるのは、国旗国歌法に定める日章旗として用いられていると、社会通念上認められる「有体物」です。典型例は、式典、官公庁、学校、店舗、家庭などで、実際に日本国旗として掲揚・使用されている布製や紙製の旗です。
旗の大きさや素材だけで決まるのではなく、その物が現実に日本国旗として使われているかを含めて判断されます。
- お子様ランチに付属する小旗
- Tシャツに描かれた日の丸
- 国旗を模したピンバッジ
- 日の丸が描かれたゴルフボール
- 日の丸のフェイスペイント
- アニメ、漫画、ゲームの中に描かれた国旗
- 生成AIによって作られた架空の国旗損壊動画
- 旭日旗
- 日の丸の位置や色、形が大きく異なり、日章旗と認識できない旗
これらは、警察庁通達の別添資料で、基本的にこの法律の「国旗」に当たらない例として示されています。ただし、他人のTシャツや商品、旭日旗などを壊した場合は、国旗損壊罪に当たらなくても、器物損壊罪など別の犯罪が問題になる可能性があります。
2.「損壊・除去・汚損」のいずれかに当たること
| 行為 | 一般的な意味 | 例 |
|---|---|---|
| 損壊 | 物理的に壊し、本来の効用を失わせる | 破る、切り刻む、燃やす |
| 除去 | 掲揚・設置されている場所から取り去り、国旗としての効用を失わせる | 引きずり降ろす、持ち去る |
| 汚損 | 不潔にしたり、汚れを付着させたりする | 泥や汚物を付ける |
国旗を素手で殴っただけで物質的な破壊がなく、国旗をくしゃくしゃにしただけで破損がなく、新品の靴で踏んでも汚れや破損が全く生じなかった場合は、基本的に「損壊」や「汚損」に当たらない例として示されています。不快に見えることと、法律上の損壊・汚損に当たることは分けて判断されます。
3.「公然」と行われたこと
自宅の密室で、配偶者など特定の少人数だけを前に行う場合は、基本的に公然性を欠くと整理されています。一方、駅前広場、公園、公道などの人目に触れる場所や、不特定の人が視聴できるライブ配信は、公然性が認められる可能性があります。
警察庁通達の別添資料では、ライブ配信について、現実に多数の人が視聴している必要はなく、同時接続者数が少ない場合でも該当し得るとされています。
4.「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」であること
単に国旗が破れたり汚れたりしただけでは足りません。行為の外形、周囲の状況、場所、使用した物、損壊・汚損の程度など、客観的な事情を総合して判断します。
重要なのは、国旗に書かれた政治的な主張やメッセージの内容そのものではなく、どのような物を使い、どのような態様で損壊・汚損したかです。応援の寄せ書きや、墨汁で文字を書いた行為は、文字の大きさだけで直ちに方法の要件を満たすものではないと整理されています。一方、汚物を使って文字を書く場合は、言葉の内容ではなく、汚物を使った方法が判断の対象になります。
「侮辱目的」は明文の要件ではない
刑法92条と異なり、国旗損壊罪の条文には「日本国を侮辱する目的」といった目的要件はありません。まずは、行為の外形や周囲の状況などの客観的な事情から構成要件に当たるかを判断します。
ただし、構成要件に該当すると判断された後、刑法35条の正当行為などによって違法性が否定されるかを検討する段階では、政治的意見を表明する目的だったのか、単なる嫌がらせ目的だったのかなど、行為の目的も考慮されます。
警察庁通達が示した「対象になり得る行為」
| 行為の例 | 主な判断ポイント |
|---|---|
| 駅前広場などで、自分が持参した国旗を引き裂く、燃やす、切り刻む | 損壊、公然性、方法の要件を満たしやすい |
| 国や自治体の庁舎前に掲揚された国旗を引きずり降ろして投げ捨てる | 「除去」に当たり得る |
| 公園や公道で国旗を勢いよく踏みつけ、泥だらけにする | 踏みつけにより実際に汚損している |
| 国旗に糞尿などを擦り付ける | 汚損の方法が客観的に問題となる |
| 国旗を切り刻んだり燃やしたりする様子をリアルタイム配信する | 不特定または多数が認識できる状態なら公然性を満たし得る |
| 悪天候の日に、あえて国旗を公道へ置き、泥や雨でひどく汚す | 意図的な汚損と評価され得る |
| 車の往来が激しい公道に国旗を置き、タイヤ痕などでひどく汚す | 公然かつ意図的な汚損と評価され得る |
| 式典で旗の代わりに国旗を表示しているモニターを物理的に壊す | 国旗として使用されている有体物の損壊と整理されている |
具体例と警察の運用方針は、警察庁通達「国旗の損壊等の処罰に関する法律の施行に伴う関係規定の適切な運用等について」で確認できます。
基本的に対象外と整理された行為
| 行為の例 | 対象外とされる主な理由 |
|---|---|
| 国旗を素手で殴ったが、物理的な破壊が生じなかった | 「損壊」に当たらない |
| 国旗をくしゃくしゃにしたが、破損しなかった | 「損壊」に当たらない |
| 掲揚中の国旗を遮蔽物で瞬間的に隠した | 一時的な遮蔽だけでは「除去」に当たらない |
| 新品の靴で踏んだが、汚れや破損が生じなかった | 「汚損」「損壊」に当たらない |
| 自宅の密室で配偶者だけを前に損壊した | 公然性を欠く |
| 自室で撮影し、後日動画サイトに投稿した | 損壊した時点で公然性がない |
| 録画動画をYouTubeプレミア公開した | ライブ風でも事前録画であり、損壊時に公然性がない |
| 非公開の場所で映画の損壊場面を撮影し、後日上映した | 損壊時に公然性がない |
| すでに壊された国旗を後から展示した | 展示自体は損壊・除去・汚損する行為ではない |
| 古くなった国旗を処分目的で焼却した | 通常の処分方法は、基本的に方法の要件に当たらない |
| イベントで配布した小旗を回収して廃棄した | 通常の回収・処分である |
| 危険防止のため、設備に絡まった国旗を切って取り除いた | 安全確保を目的とする行為である |
| 日本代表チームを応援するため国旗に寄せ書きをした | 方法の要件に当たらない |
| 雨の日に通常どおり掲揚し、結果として汚れた | 意図的な汚損ではない |
ライブ配信・録画投稿・YouTubeプレミア公開の違い
インターネット上の発信では、「国旗を損壊した時点で公然性があったか」が重要です。
| ケース | 現行法上の基本的な整理 |
|---|---|
| 損壊行為をリアルタイムでライブ配信する | 対象になり得る |
| ライブ配信の同時接続者が少ない | 少人数でも公然性を満たし得る |
| 自宅で撮影した損壊動画を後日投稿する | 投稿自体は基本的に対象外 |
| 録画動画をYouTubeプレミア公開する | 基本的に事後投稿と同じ扱い |
| 他人の損壊動画を後から転載・リポストする | この法律の損壊行為には基本的に当たらない |
| すでに壊れた国旗の画像や動画を公開する | 公開だけでは基本的に対象外 |
| 生成AIで架空の損壊動画を作る | 実物の国旗の損壊がないため対象外 |
| アニメ、漫画、ゲームで損壊場面を描く | 実物の国旗の損壊がないため対象外 |
ただし、撮影時に観客や通行人がいた場合は、動画を後日公開したかどうかとは別に、撮影時の行為について公然性が認められる可能性があります。事後投稿や、損壊された国旗の展示は、施行後3年を目途とする見直しの検討対象に含まれています。
生成AI・アバター・モニターは対象になるのか
生成AIで作った国旗損壊の画像や動画は、実物の国旗という有体物が存在しないため、基本的に対象外です。国旗自体を仮想空間のアバターとして表現し、それを壊す映像を配信する場合も同様です。
一方、配信者の姿だけをアバターとして表示しながら、現実の実物の国旗を損壊してライブ配信する場合は、実物の国旗の損壊と公然性があるため、対象になり得ます。
また、式典で実物の旗の代わりに国旗を表示しているモニターをハンマーなどで物理的に壊す場合は、基本的に構成要件に該当する例として示されています。デジタル画像かどうかだけでなく、現実の有体物が国旗として使用され、それを物理的に壊したかが判断の分かれ目です。
国旗に文字を書くと犯罪になるのか
国旗に文字を書いたことだけで、直ちに国旗損壊罪が成立するわけではありません。スポーツ大会で日本代表を応援するために国旗へ寄せ書きをする行為は、基本的に方法の要件に当たらないとされています。
墨汁で日の丸に文字を書いた場合も、文字の大きさだけで「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」と判断されるものではありません。国旗に書かれた言葉が政府を支持する内容か、政府や法律に反対する内容かによって、構成要件該当性を左右してはならないという整理です。
ただし、汚物を使って文字を書くなど、文字の内容とは別に、使用した物や汚し方が方法の要件を満たす場合は対象になり得ます。
古くなった国旗を処分すると犯罪になるのか
古くなったり汚れたりした国旗を、廃棄する目的で処分する行為は、通常の方法であれば基本的に国旗損壊罪の対象外です。警察庁通達の別添資料では、古くなった国旗を廃棄するため、屋外の人目に付く場所で焼却する場合も、基本的には方法の要件に当たらない例として示されています。
ただし、これは国旗損壊罪についての整理です。屋外焼却に関する廃棄物処理法、消防関係法令、火災予防条例、施設管理規則、自治体のごみ処理ルールなどは別に守る必要があります。実際に処分する際は、自治体の分別ルールに従う方法が安全です。
映画・舞台・芸術表現は対象になるのか
映画やドラマの完成作品に国旗が損壊される映像が含まれていても、上映や配信それ自体が国旗を物理的に損壊する行為ではないため、基本的に対象外です。非公開の場所で実物の国旗を損壊する場面を撮影し、その映像を後日上映する場合も、撮影時に公然性がなければ基本的に対象外と整理されています。
一方、大勢の人が見ている公開ロケや舞台上で、実物の国旗を実際に損壊する場合は、公然性が認められる可能性があります。その場合でも、刑法35条の正当行為として違法性が否定されるかを別に検討します。
- 政治デモで、国旗損壊以外の手段では主義主張を伝えられない状況で行われた場合
- 舞台演劇で、国旗を損壊する場面が作品上欠かせず、その場面にふさわしい態様で行われた場合
- 映画の公開ロケで、撮影現場であることが明らかな状況で行われた場合
以上は「違法性が否定される可能性がある例」であり、必ず無罪になるという意味ではありません。反対に、政治的・芸術的表現を名目としていても、社会的に相当でない方法で行われた場合は、違法性が否定されない可能性があるとされています。
国旗を燃やしたら必ず現行犯逮捕されるのか
国旗を燃やしたからといって、必ずその場で現行犯逮捕されるわけではありません。
警察庁は2026年7月24日、全国の都道府県警察に対して、構成要件に該当するかだけでなく、正当行為などによって違法性が否定される事情がないかを組織的かつ緻密に検討し、検察当局とも緊密に連携するよう求めました。
- 逮捕の理由があるか
- 逮捕する必要性があるか
- 収集した証拠にどの程度の証明力があるか
- 構成要件に当たることが明確か
- 正当行為など、違法性を否定する事情がないことが明確か
特に現行犯逮捕については、違法性を否定する事情がないことを含め、犯罪であることが明白で、犯人も明白な場合に限ることに注意するよう求めています。したがって、警察官が国旗を燃やしたり踏んだりする場面を見たとしても、外形だけを見て機械的に現行犯逮捕する運用ではありません。
もっとも、通達は「逮捕しない」と定めたものではありません。犯罪と犯人が明白で、逮捕の必要性もあると判断されれば、現行犯逮捕を含む刑事手続が行われる可能性があります。
自分で買った国旗を壊しても処罰されるのか
自分で購入した国旗でも、国旗損壊罪の対象になり得ます。条文は国旗が他人の所有物であることを要件にしていません。
- 法律上の国旗に当たる実物である
- 損壊・除去・汚損が生じている
- 公然と行われている
- 人に著しく不快または嫌悪の情を催させる方法である
- 正当行為などにより違法性が否定されない
施行前は、自分の物を自分で壊す行為について、国旗であることを理由に直接処罰する法律はありませんでした。新法の施行により、自己所有の国旗も処罰対象になり得る点が大きな変化です。
他人の国旗を壊した場合は別の犯罪も問題になる
他人や会社、学校、自治体、国などが所有する国旗を壊した場合は、国旗損壊罪だけでなく、器物損壊罪も成立する可能性があります。掲揚されている国旗を降ろすために許可なく建物や敷地へ立ち入れば、建造物侵入罪などが問題になることもあります。式典や営業を妨害した場合は、威力業務妨害罪などが問題になる可能性もあります。
警察庁通達の別添資料では、国旗損壊罪と器物損壊罪の両方が成立する場合、両罪は「観念的競合」になると整理されています。これは、1つの行為が複数の犯罪に当たる場合に、刑法のルールに従って刑を処理する仕組みであり、単純に刑罰が足し算されるという意味ではありません。
刑法92条「外国国章損壊等罪」との違い
刑法92条は、外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊・除去・汚損する行為を処罰する規定です。国旗損壊罪と刑法92条では、対象と成立要件が異なります。
| 比較項目 | 日本国旗に関する国旗損壊罪 | 刑法92条・外国国章損壊等罪 |
|---|---|---|
| 対象 | 日本国旗 | 外国の国旗その他の国章 |
| 法律の形式 | 独立した法律 | 刑法に規定 |
| 行為 | 損壊・除去・汚損 | 損壊・除去・汚損 |
| 侮辱目的 | 明文の要件ではない | 外国に侮辱を加える目的が必要 |
| 公然性 | 明文で必要 | 明文の要件ではない |
| 方法の限定 | 著しく不快・嫌悪の情を催させる方法が必要 | 同様の方法要件はない |
| 法定刑 | 2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金 | 2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金 |
| 起訴の条件 | 外国政府などの請求は不要 | 外国政府の請求がなければ起訴できない |
| 自分の所有物 | 対象になり得る | 外交上保護される国旗・国章かが問題となる |
刑法92条の現行条文は、e-Gov法令検索「刑法」で確認できます。
刑法92条の1965年最高裁決定――隠す行為も「除去」になるのか
刑法92条の「除去」について最高裁判所の判断が示された代表的事例が、1965年4月16日の最高裁第三小法廷決定(昭和39年(あ)第200号・刑集19巻3号143頁)です。
事件の概要
中華民国の駐大阪総領事館に掲げられていた国章の前に、「台湾共和国大阪総領事館」と書かれた看板を取り付け、国章を外から見えない状態にした事件です。国章そのものを取り外したり、物理的に壊したりしたわけではありません。
最高裁の判断
最高裁は、国章を遮蔽する方法が国章としての効用を失わせるものであり、「除去」に当たるとした原審の判断を維持しました。つまり、国章を場所から持ち去らなくても、その場所で国章として果たしている役割を失わせるほど覆い隠せば、「除去」になり得ると示したものです。
新しい国旗損壊罪へそのまま当てはめることはできない
1965年の決定は、外国の国旗・国章を対象とする刑法92条についての判断です。新しい国旗損壊罪には、刑法92条にない公然性、方法の要件、表現の自由への注意規定があります。警察庁資料では、掲揚中の日本国旗を遮蔽物で「瞬間的に隠しただけ」の場合は、基本的に除去に当たらないと整理されています。
長時間にわたり国旗としての役割を失わせたのか、一時的に見えなくしただけなのかなど、具体的な態様によって判断が変わる可能性があります。
施行前と施行後で何が変わったのか
| 場面 | 2026年8月12日まで | 2026年8月13日以降 |
|---|---|---|
| 自分の国旗を人前で燃やす・破る | 国旗であることを理由に直接処罰する規定はない | 新法の要件を満たせば対象になり得る |
| 他人の国旗を壊す | 器物損壊罪などが問題になる | 器物損壊罪に加え、新法も問題になり得る |
| 掲揚された日本国旗を引きずり降ろす | 侵入、業務妨害、器物損壊などが問題になる | 加えて新法の「除去」に当たり得る |
| 国旗損壊をライブ配信する | 国旗の損壊自体を直接処罰する規定はない | 公然性などを満たせば対象になり得る |
| 録画済み動画を後日投稿する | 国旗損壊罪は存在しない | 投稿自体は基本的に新法の対象外 |
| 外国の国旗を壊す | 刑法92条が適用され得る | 刑法92条の扱いは変わらない |
この法律が適用されるのは、2026年8月13日以降に行われた行為です。施行前の行為を、新しくできた法律によってさかのぼって処罰することはできません。
表現の自由との関係
国旗を燃やす、破る、汚すといった行為は、政治的な抗議や芸術表現として行われることがあります。そのため、国旗損壊罪をめぐっては、憲法21条が保障する表現の自由や、憲法19条が保障する思想・良心の自由との関係が大きな論点です。
法律と警察庁通達に設けられた配慮
- 正当に保障される政治的・芸術的表現を不当に処罰しない
- 国旗に書かれたメッセージの内容だけで構成要件該当性を判断しない
- 行為者の思想、世界観、主義主張を狙い撃ちにした検挙をしない
- 構成要件だけでなく、刑法35条による違法性阻却も検討する
- 現行犯逮捕を含む逮捕判断を組織的かつ慎重に行う
推進側は、公然性、方法の限定、客観的事情による判断、第3条の注意規定などによって、処罰範囲は限定されていると説明しています。
日弁連や東京弁護士会は反対
日本弁護士連合会は、法案の段階で反対する会長声明を公表し、保護しようとする利益や処罰の必要性、要件の明確性、政治的表現への萎縮効果などに問題があると指摘しました。
東京弁護士会は施行前日の2026年8月12日、法律に基づく立件を行わないことと、速やかな廃止を求める会長声明を公表しました。同会は、「著しく不快または嫌悪」という基準は受け止め方が人によって異なり、自己所有の国旗を使った政治的表現が刑事手続の対象となる可能性自体が表現活動を萎縮させると主張しています。
関連資料:日本弁護士連合会の会長声明/東京弁護士会の会長声明
合憲か違憲かはまだ確定していない
法律が成立・施行されたことと、その法律が憲法に適合するかについて裁判所の最終判断が示されたことは別です。国旗損壊罪は施行直後であり、具体的事件を通じた裁判所の憲法判断はまだありません。
- 「著しく不快または嫌悪」という基準が十分に明確か
- 政治的表現への規制として必要かつ合理的か
- 具体的事件への適用が表現の自由を侵害していないか
- 第3条、附帯決議、警察庁通達に沿った限定的な運用がされたか
「法律が施行されたため合憲性に問題はない」「反対意見があるため直ちに違憲である」と、現時点で一方的に断定することはできません。
海外では国旗損壊をどう扱っているか
| 国 | 主な扱い |
|---|---|
| 日本 | 公然と、著しく不快・嫌悪の情を催させる方法で日本国旗を損壊・除去・汚損する行為を処罰 |
| アメリカ | 政治的抗議としての国旗焼却は、連邦最高裁判決により表現の自由として保護 |
| ドイツ | 国旗など国家の象徴を公然と侮辱したり、公に掲示された国旗を破壊・汚損したりする行為を処罰 |
| フランス | 公的機関が主催・規制する行事で、国旗や国歌を公然と侮辱する行為などを処罰 |
| 韓国 | 大韓民国を侮辱する目的で国旗・国章を損傷・除去・汚損する行為を処罰 |
海外にも国旗に関する処罰規定はありますが、侮辱目的が必要か、公的に掲示された国旗だけが対象か、公的行事に限定されるか、政治的表現が憲法上保護されるかなど、成立要件と運用は国ごとに異なります。
施行後に注目すべきポイント
初めての立件・起訴事例
どのような行為が最初に捜査や立件の対象となるかによって、実際の運用が見えてきます。警察が事件として捜査しても、検察が不起訴とする可能性があります。逮捕、送検、起訴、有罪判決は、それぞれ別の段階です。
方法の要件に関する裁判所の判断
「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」という要件について、裁判所がどのような基準を示すかが重要です。警察庁通達の別添資料は参考になりますが、裁判所を法的に拘束する判例ではありません。
ライブ配信と限定公開の境界
不特定の人が見られるライブ配信は対象になり得ますが、特定少数だけが参加する配信や閉鎖的なオンライン空間をどのように扱うかは、今後の具体例によって明確になると考えられます。
施行後3年を目途とした見直し
- 国旗損壊場面を撮影した動画の事後投稿
- 損壊・汚損された国旗の公然展示
- これらに類する行為
- 法律の実際の施行状況
将来、インターネット上の事後投稿などが新たな規制対象として議論される可能性はありますが、現時点で改正内容が決まっているわけではありません。
よくある質問
Q1.国旗損壊罪はいつから施行されていますか
2026年8月13日に施行されました。2026年7月17日に成立し、7月24日に公布された「国旗の損壊等の処罰に関する法律」は、現在すでに効力を持つ現行法です。
Q2.日の丸を燃やすと必ず犯罪になりますか
必ず犯罪になるわけではありません。法律上の国旗に当たるか、公然性があるか、方法の要件を満たすか、正当行為などにより違法性が否定されないかを判断します。ただし、駅前広場など人通りの多い場所で、自分が持参した国旗を燃やす行為は、基本的に構成要件に該当する例として示されています。
Q3.国旗を燃やすと必ず現行犯逮捕されますか
必ず逮捕されるわけではありません。警察庁は、犯罪であること、違法性を否定する事情がないこと、犯人が明白であること、逮捕の必要性があることなどを組織的に検討するよう求めています。
Q4.国旗を踏んだだけで犯罪になりますか
踏んだことだけで直ちに犯罪になるわけではありません。勢いよく踏みつけて泥だらけにするなど、実際に汚損した場合は対象になり得ます。一方、新品の靴で踏んでも汚れや破損が生じなかった場合は、基本的に汚損・損壊に当たらないと整理されています。
Q5.自分で買った国旗を破っても犯罪になりますか
公然性と方法の要件などを満たせば、犯罪になり得ます。国旗が自分の所有物か他人の所有物かは、国旗損壊罪の成立要件ではありません。
Q6.国旗に文字を書いたら犯罪になりますか
文字を書いたことだけで直ちに犯罪になるわけではありません。応援の寄せ書きや、墨汁で文字を書いた行為は、文字の大きさや内容だけで方法の要件を満たすものではないとされています。ただし、汚物を使って文字を書くなど、書き方や使用した物によっては対象になり得ます。
Q7.古くなった国旗を燃やして処分しても犯罪になりますか
処分目的の通常の行為であれば、基本的に国旗損壊罪の対象外です。ただし、屋外焼却に関する法令や自治体のルールは別に守る必要があります。
Q8.ライブ配信と録画投稿で扱いは違いますか
違います。損壊行為をリアルタイムで配信する場合は公然性を満たし得ます。一方、自宅などで撮影した動画を後日投稿する場合、投稿自体は基本的に国旗損壊罪の対象外です。
Q9.YouTubeプレミア公開はライブ配信として扱われますか
事前に録画した動画をYouTubeプレミア公開する場合は、基本的に事後投稿と同じ整理です。視聴者と同時に見る機能があっても、国旗を損壊した時点で公然性がなければ、投稿自体は対象外とされています。
Q10.生成AIで作った国旗損壊動画は対象ですか
基本的に対象外です。生成AIの画像や動画には、法律上の国旗に当たる有体物の損壊がないためです。
Q11.旭日旗も国旗損壊罪の対象ですか
この法律の対象ではありません。対象は国旗国歌法に定める日章旗として用いられている有体物です。ただし、他人の旭日旗を壊せば、器物損壊罪などが問題になる可能性があります。
Q12.映画や舞台で国旗を壊す場面も対象ですか
映像や物語の中で国旗が壊れる描写だけなら対象外です。非公開の場所で撮影し、後から映画を上映する場合も、損壊時に公然性がなければ基本的に対象外です。一方、公開ロケや舞台上で実物の国旗を損壊する場合は、公然性が認められ得ますが、刑法35条により違法性が否定される可能性があります。
Q13.すでに破られた国旗を展示すると犯罪になりますか
現行法では、展示する行為だけで国旗を新たに損壊・除去・汚損したことにはならないため、基本的に対象外と整理されています。ただし、施行後3年を目途とした制度見直しの検討対象に含まれています。
Q14.刑法92条との違いは何ですか
国旗損壊罪は日本国旗を対象とし、公然性と方法の要件があります。刑法92条は外国の国旗・国章を対象とし、外国を侮辱する目的と、起訴に当たって外国政府の請求が必要です。
Q15.施行前に行った行為も処罰されますか
処罰されません。国旗損壊罪が適用されるのは、2026年8月13日以降に行われた行為です。
Q16.表現の自由に反しないのですか
評価が分かれています。法律には、表現の自由などの憲法上の権利を不当に侵害しないよう留意する規定があります。一方、日弁連や東京弁護士会などは、要件が不明確で政治的表現を萎縮させるとして反対しています。最終的な合憲性について、裁判所の判断はまだ示されていません。
まとめ
「国旗の損壊等の処罰に関する法律」は、2026年8月13日に施行されました。実物の日本国旗を、人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法で、公然と損壊・除去・汚損すると、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金の対象になり得ます。
ただし、国旗に関する不快な行為がすべて犯罪になるわけではありません。法律上の国旗に当たるか、物理的な損壊・除去・汚損が生じたか、公然性があるか、方法の要件を満たすか、正当行為などにより違法性が否定されないか、逮捕の理由と必要性があるかを確認する必要があります。
ライブ配信は対象になり得る一方、録画動画の事後投稿やYouTubeプレミア公開は、損壊時に公然性がなければ基本的に対象外です。国旗を踏んだ場合でも、汚れや破損が生じなければ、損壊・汚損には当たらないと整理されています。古い国旗の通常の処分、応援目的の寄せ書き、生成AIによる架空動画なども、基本的に対象外です。
方法の要件や表現の自由との境界については、今後の捜査、起訴判断、裁判例によって具体化される部分が残っています。施行済みの条文だけでなく、警察庁の慎重な運用方針と、今後の実際の適用事例を継続して確認する必要があります。
参考資料
- 衆議院「国旗の損壊等の処罰に関する法律案・議案本文」
- 参議院「国旗の損壊等の処罰に関する法律案・議案審議情報」
- 法務省「国旗の損壊等の処罰に関する法律 Q&A」
- 警察庁「国旗の損壊等の処罰に関する法律の施行に伴う関係規定の適切な運用等について」
- e-Gov法令検索「刑法」
- 日本弁護士連合会「国旗の損壊等の処罰に関する法律案に反対する会長声明」
- 東京弁護士会「法律の施行にあたり、その立件を行わないこと及び速やかな廃止を求める会長声明」
- Texas v. Johnson, 491 U.S. 397(1989年)
- ドイツ連邦司法省・ドイツ刑法90a条
- フランス政府・刑法433-5-1条
- 韓国法制研究院・韓国刑法105条
埼玉県63市町村の現状と課題:地域差から読み解く自治体戦略
埼玉県は人口約732万人(2025年4月現在)を擁し、東京都市圏の一角を成す都市部から山間の過疎地域まで多様な市町村を抱えています。本記事では、県内63市町村それぞれが直面する課題と、その背景にある人口・産業構造、財政力、住環境、交通網、防災リスク、医療福祉などを統合的に整理します。さらに、地域類型ごとの特徴を比較し、埼玉県全体の構造的な課題を浮き彫りにした上で、自治体が実現可能な解決策のロードマップを提示します。自治体職員や政策立案者がエビデンスに基づいて意思決定できるよう、最新の統計と一次資料に基づき …
北方領土問題とは?歴史・日露の主張・返還されない理由をわかりやすく解説【2026年最新】
情報基準日:2026年8月22日 北方領土問題とは、北海道の北東にある択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島の帰属をめぐる、日本とロシアの未解決問題です。 現在、北方四島ではロシアが行政を行い、実効支配しています。日本政府は四島を「日本固有の領土」と位置づけ、ロシアによる占拠には法的根拠がないと主張しています。 一方、ロシア政府は、第二次世界大戦の結果として南クリル諸島へのロシアの主権が確立したとの立場です。 1956年の日ソ共同宣言には、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本へ「引き渡す」と記されています。し …
ベトナム人の不法滞在「最大1億ドン」は新設ではない 新政令283号と入管出頭を一次資料で検証
2026年9月10日施行のベトナム政令283/2026/NĐ-CPは、契約終了後に自ら海外へ違法残留する対象労働者に8,000万~1億ドンの罰金を定めます。ただし、同額・ほぼ同じ要件は旧政令12/2022/NĐ-CPにも存在しました。 すべてのベトナム人オーバーステイが一律対象でも、9月10日以降に帰国しただけで自動的に罰金が徴収される制度でもありません。 ※この記事は2026年8月22日時点のベトナム政府、出入国在留管理庁などの公表資料を基にした一般的な制度解説です。個別案件への法 …
2027年統一地方選挙とは?日程・対象自治体・投票できる人・立候補条件をわかりやすく解説
情報基準日:2026年8月7日(本記事は同日時点で確認できた法令・総務省資料・過去の選挙記録に基づいています) 次回・第21回統一地方選挙は2027年(令和9年)春に実施される見込みですが、2026年8月7日時点で、投票日・告示日は法的に確定していません。統一地方選挙の期日は毎回、前年に国会で成立する「臨時特例法」で定められ、前回2023年の例では前年11月に法律が成立しました。過去の例からは2027年4月の前半・後半2回の日曜日実施が見込まれるものの、これは推測であり、正式な日程は特例法の成立を待つ必要 …
2025年国勢調査の結果【速報値】都道府県人口増減ランキングと東京一極集中を解説
情報基準日:2026年8月7日(本記事の数値は、2026年5月29日に総務省統計局が公表した「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」=速報値に基づきます。確定値〔人口等基本集計〕は2026年9月までに公表予定です) 2025年10月1日現在の日本の総人口は1億2,305万人(速報値)で、2020年から309万7千人・2.5%の減少となり、調査開始以来最大の減少幅を記録しました。人口が増えたのは東京都と沖縄県の2都県だけで、45道府県は減少。一方で世帯数は5,712万5千世帯へ2.3%増加し、「人は減るのに世 …




