
情報基準日:2026年08月09日
職場のセクハラは、「相手が不快に思えば何でもセクハラ」「この言葉を1回言えば必ずセクハラ」と単純に決まるものではありません。
法律上は、職場における労働者の意に反する性的な言動によって労働条件上の不利益を受ける「対価型」と、性的な言動によって就業環境が害される「環境型」が中心となります。事業主には、相談窓口の整備、迅速な事実確認、被害者・行為者への対応、再発防止、プライバシー保護などの措置がすでに義務付けられています。
また、2026年10月1日からは、求職者等に対するセクシュアルハラスメント、いわゆる「就活セクハラ」についても、新たに事業主の防止措置義務が施行されます。2026年8月9日現在は公布済み・施行前です。
この記事では、「どこからがセクハラなのか」を中心に、発言・身体接触・LINE・飲み会・取引先などの具体例、被害を受けたときに残しておきたい記録、会社が取るべき対応、指摘された側の注意点、2026年改正まで整理します。
セクハラとは?
「よくある4つの誤解」
| よくある認識 | 実際 |
|---|---|
| 1回ならセクハラではない | 重大な行為なら1回でも問題になり得る |
| 嫌と言われなければ大丈夫 | 明確な拒否がなかったことだけでは判断できない |
| 飲み会なら職場ではない | 実質的に職務の延長なら職場になり得る |
| 上司から部下だけがセクハラ | 同僚、部下、顧客、取引先等も行為者になり得る |
職場のセクハラとは、職場で行われる労働者の意に反する性的な言動によって、労働条件上の不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることです。 男女雇用機会均等法11条と厚生労働省の指針が、事業主に防止措置を義務付けています。
セクハラには大きく「対価型」と「環境型」があります。
| 種類 | 一言でいうと | 典型例 |
|---|---|---|
| 対価型セクシュアルハラスメント | 性的な言動を拒否・抵抗したことなどを理由に、仕事上の不利益を受けるもの | 性的関係を拒否したことを理由に解雇する、身体接触に抵抗した後に不利益な配置転換をするなど |
| 環境型セクシュアルハラスメント | 性的な言動によって職場が苦痛になり、仕事に看過できない支障が生じるもの | 繰り返し身体を触られる、性的な噂を意図的に流され続ける、性的な掲示物が放置され仕事に集中できないなど |
対価型セクハラとは
対価型セクハラは、性的な要求や言動への対応と、解雇・降格・配置転換などの雇用上の不利益が結び付くタイプです。
厚生労働省指針は、性的関係を求められて拒否した労働者を解雇する例、出張中の身体接触に抵抗した労働者を不利益に配置転換する例などを挙げています。
重要なのは、「性的なことを言われた」だけではなく、その対応を理由として雇用上の不利益を受ける構造があることです。
環境型セクハラとは
環境型セクハラは、意に反する性的な言動によって、働く環境に看過できない程度の支障が生じるタイプです。
身体を触られる、性的な噂を流される、性的な画像等を職場で見せられるといった行為が典型ですが、「何回なら該当する」といった一律の回数基準はありません。
どこからがセクハラになる?
「どこから」を一つのNGワードや回数で決めることはできません。性的な言動か、本人の意に反するか、職場との関係、言動の内容・程度・頻度、当事者間の関係、仕事への影響などを踏まえて判断します。
ここで、「法律上の枠組み」と「個別事案で見る判断材料」を混同しないことが重要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 法律・指針上の基本枠組み | 職場であること、性的な言動であること、労働者の意に反すること、その対応により不利益を受けるか、就業環境が害されることなど |
| 個別判断で見る事情 | 内容・程度、身体接触の有無、頻度・継続性、立場や関係、拒否後の対応、周囲の状況、仕事への影響など |
これは「全部満たせばセクハラ」という独自チェックリストではありません。あくまで、法的枠組みの中で個々の事実を評価するための判断材料です。
「相手が嫌だと言わなかった」なら大丈夫?
いいえ。「嫌だ」と明確に言われなかっただけで、セクハラにならないとはいえません。
職場では、上司・取引先・先輩などとの関係から、その場では笑って受け流したり、明確な拒否を示せなかったりすることがあります。厚労省系資料も、被害を受けた人の主観を重視しつつ、一定の客観性も必要として判断する考え方を示しています。
したがって、「笑っていた」「返信が来た」「その場で抗議されなかった」という一点だけで、相手が望んでいたと判断するのは危険です。
1回だけでもセクハラになる?
1回ならセーフ、というルールはありません。行為が重大であれば、1回でも就業環境を害する可能性があります。
労働局の公式資料では、意に反する身体接触によって強い精神的苦痛を受けた場合には、一度の行為でも就業環境が害されたと評価され得ることが示されています。一方、言動の種類によっては、継続性・反復性が重要な判断材料になることもあります。
つまり、回数は判断材料の一つですが、免責ラインではありません。
冗談のつもりなら問題ない?
行為者が「冗談だった」と考えていたことだけで、セクハラではなくなるわけではありません。
性的な冗談やからかいは、厚生労働省がセクハラの具体例として扱っている言動の一つです。何を意図したかだけではなく、発言内容、場面、相手との関係、継続性、相手の就業環境への影響などを見ます。
男性も被害者になる?同性同士でも成立する?
はい。セクハラは「男性から女性」に限りません。男性も女性も被害者・行為者になり得て、同性間も対象です。
厚生労働省指針は、同性に対するものも含まれ、被害者・行為者の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず対象となることを明示しています。
そのため、女性から男性、男性同士、女性同士、部下から上司の性的な言動も、「立場が典型的でない」という理由だけで対象外にはなりません。
セクハラになり得る具体例
セクハラかどうかは、単語だけでは決まりません。ただし、性的な内容が明確な言動、不必要な身体接触、性的関係の要求、性的情報の流布などは特に注意が必要です。 厚生労働省指針も、性的な事実関係を尋ねること、性的情報を流すこと、性的関係を要求すること、不必要に身体へ触れること、性的な画像等を配布・掲示することなどを例示しています。
| 行為 | 考え方 |
|---|---|
| 「胸が大きい」「スタイルがいい」など体型を性的に評価する | 性的な身体評価になりやすく、繰り返しや公然の発言、上下関係がある場合は特に問題になり得ます。 |
| 髪型や服装を一度褒める | 直ちにセクハラとは断定できません。ただし性的な含み、執拗な容姿評価、拒否後の継続等があれば評価は変わります。 |
| 「恋人いるの?」と聞く | 一度聞いただけで常にセクハラとは限りません。繰り返し、性的質問へ発展する、断りにくい上下関係があるなどの事情が重要です。 |
| 結婚・恋愛について執拗に質問する | 私生活への反復的介入に加え、性的・性別役割的内容を帯びればセクハラになり得ます。 |
| 下ネタ・性的な冗談 | 性的な内容が明確であり、相手や周囲の就業環境を害すれば環境型セクハラになり得ます。 |
| 性経験を尋ねる | 「性的な事実関係を尋ねること」の典型に近く、問題になりやすい言動です。 |
| 食事・デートに誘う | 一度の通常の誘いが直ちにセクハラとは限りません。断られても繰り返す、性的関係を期待させる、評価・人事権と結び付ける場合などは問題が大きくなります。 |
| 執拗に私的な食事へ誘う | 2026年就活セクハラ指針でも、インターン中の執拗な私的食事への誘いが具体例に挙げられています。 |
| 肩を揉む | 医療・業務上の必要性など特殊事情を除き、望まれていない身体接触を続ければ問題になり得ます。 |
| 腰や背中に手を回す | 不必要な身体接触で、身体部位、状況、相手の意思等から性的性質が強く認められればセクハラになり得ます。 |
| 抱きつく・胸などに触る | 重大性が高く、一度でも就業環境への深刻な影響が生じ得ます。刑事法上の問題が別途生じる場合もあります。 |
| 性的な画像・動画を見せる | 性的な図画等を配布・掲示する行為は厚労省指針の例示に含まれます。 |
| 性的な噂を流す | 性的な情報を意図的・継続的に流布する行為は環境型の例に挙げられています。 |
| LINEで性的なメッセージを送る | LINEという媒体だから対象外になるわけではありません。仕事上の関係を背景として就業環境へ影響すれば問題になり得ます。 |
| 部下から上司へ性的な発言をする | 上司→部下でなくても対象になり得ます。セクハラにはパワハラのような「優越的関係」の要件はありません。 |
| 女性から男性へ身体接触・性的発言 | 性別にかかわらず対象です。 |
| 同性間の性的なからかい | 同性間でも対象です。 |
表中の例は、「該当・非該当」を機械的に決める一覧ではありません。実際には、発言の具体的内容、性的性質、頻度、場所、当事者の関係、相手の意思、仕事への影響などから判断します。
「職場」は会社のオフィスだけではない
セクハラにおける「職場」は、普段勤務するオフィスだけではありません。労働者が業務を遂行する場所であれば、取引先、顧客宅、出張先なども含まれ得ます。
厚生労働省指針は、「職場」を、労働者が業務を遂行する場所としています。通常の就業場所ではなくても、業務を行う場所なら対象となり、取引先事務所、商談等で利用する飲食店、顧客宅などが例示されています。
業務の延長と考えられる宴会なども、実質的な職務との関連性によって「職場」と扱われ得ます。逆に、同僚同士が完全に私的な関係で休日に会ったすべての場面まで、当然に男女雇用機会均等法上の「職場」になるわけではありません。
飲み会・二次会
飲み会だからセクハラにならないわけではありません。業務との関係性、参加者、開催目的、参加が実質的に求められていたかなどから、職務の延長と評価される場合があります。
一方、すべての私的飲食会が自動的に「職場」になるわけでもありません。宴会という名称ではなく、実態を見ることが重要です。
出張・社員旅行・移動中
出張先は厚労省系資料でも「職場」となり得る典型です。業務上の移動中や業務と一体の場面も、仕事との関連性を踏まえて判断されます。
LINE・SNS・チャット
LINE、SNS、社内チャットという媒体だけで対象外にはなりません。
業務上の関係を背景に、性的なメッセージ、性的画像、執拗な私的誘いなどが送られ、就業環境に影響した場合は問題となり得ます。2026年10月からの求職者等セクハラ指針では、オンライン・SNSを使った求職活動も明示的に想定し、企業側に使用するSNSの種類等のルールを定める例まで示しています。
オンライン会議・在宅勤務
オンライン会議や在宅勤務中の業務チャットについても、業務遂行の一環として行われている以上、通信手段がオンラインであること自体を理由にセクハラの検討対象から外す合理的理由はありません。これは現行指針の「業務を遂行する場所」という定義からの整理です。
たとえば、オンライン会議で身体や服装を性的に評価し続ける、業務用チャットで性的画像を送る、断られても私的・性的な連絡を続けるといった場合は、内容と就業環境への影響を確認する必要があります。
上司・同僚以外からのセクハラも対象になる?
なります。厚生労働省指針は、行為者として事業主、上司、同僚だけでなく、他社の事業主・労働者、顧客、取引先、患者やその家族、学生なども想定しています。
そのため、取引先の担当者から性的な発言を受けた、顧客から身体を触られた、患者から性的な言葉を繰り返し浴びせられた、といったケースも、職場のセクハラとして会社側の対応が問題になります。
2026年10月1日からは、セクハラとは別にカスタマーハラスメント対策の新たな法的措置義務も施行されますが、顧客による性的な言動については、現時点でも職場のセクハラ指針上、行為者となり得る点を混同しないことが重要です。
セクハラされたらどうすればいい?

まず自分の安全を優先し、可能な範囲で記録を残し、会社の相談窓口や信頼できる上司・人事へ相談してください。会社で対応されない場合や社内で相談しにくい場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)など外部窓口も利用できます。
安全を確保する
身体的な接触や性的関係の強要などがあり、その場にいること自体が危険なら、記録より先に距離を取ることが重要です。必要な場合は、医療機関や警察、法律専門家への相談も検討します。
できる範囲で記録を残す
実務上、後から状況を説明しやすくするため、次の情報をその時点で整理しておくと役立ちます。
| 残しておきたい情報 | 例 |
|---|---|
| 日時 | 2026年8月7日18時20分ごろ |
| 場所 | 会議室、取引先、居酒屋、オンライン会議など |
| 発言・行為 | 記憶している具体的な言葉、身体接触の内容 |
| 当事者 | 誰から誰に対して行われたか |
| 目撃者 | その場にいた人 |
| メール・LINE・チャット | 元データ、スクリーンショット、送信日時 |
| 音声等 | 保存している録音・動画があれば元データを維持 |
| 相談履歴 | 誰に、いつ、何を相談したか |
| 会社とのやり取り | 人事・上司からの回答、面談記録 |
これらは「これがあれば必ず認定される」という勝利条件ではありません。逆に、完璧な証拠がそろうまで相談を待つ必要もありません。
厚生労働省指針は、セクハラが実際に生じている場合だけでなく、発生するおそれがある場合や、該当するかどうか微妙な場合も相談窓口が広く対応するよう求めています。
録音については、取得方法・内容・利用目的・保管や第三者への提供などによって法的論点が変わることがあるため、本稿では「秘密録音なら常に適法」「必ず証拠になる」とは断定しません。重要な案件では、データを編集・加工せず保存したうえで、利用方法を弁護士等に確認するのが安全です。
社内相談窓口へ相談する
事業主は、相談窓口をあらかじめ定め、相談に適切に対応できる体制を整備する必要があります。相談を受けた後は、迅速かつ正確な事実確認を行い、事実が確認された場合には被害者への配慮、行為者への対応、再発防止を行うことが求められています。
外部へ相談する
会社に相談できない、会社が対応してくれない、会社自身との紛争になっている場合には、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が職場のセクハラに関する相談先になります。総合労働相談コーナーも全国に設けられており、内容に応じ適切な窓口につなぐ役割があります。
厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」は夜間・休日にも利用できますが、セクハラ等については専門窓口の案内を基本としています。
会社はセクハラ防止のため何をしなければならない?
会社は「相談が来たら考える」だけでは足りません。方針の明確化、周知・啓発、相談窓口、事実確認、被害者・行為者への対応、再発防止、プライバシー保護、不利益取扱い防止をあらかじめ含む体制が必要です。
主な措置を整理すると次のようになります。
| 会社の対応 | 法的位置付け |
|---|---|
| セクハラを許さない方針を明確にする | 必須措置 |
| 行為者を厳正に対処する方針・規定を整える | 必須措置 |
| 管理職を含む労働者へ周知・啓発する | 必須措置 |
| 相談窓口を設置する | 必須措置 |
| 「セクハラか微妙」な段階でも相談を受ける | 必須措置としての相談体制に含まれる |
| 相談後、迅速・正確に事実関係を確認する | 必須措置 |
| 被害者に適切な配慮をする | 必須措置 |
| 確認した事実に応じ行為者へ適切に対応する | 必須措置 |
| 再発防止策を行う | 必須措置 |
| 相談者・行為者等のプライバシーを保護する | 必須措置 |
| 相談・事実確認への協力を理由に不利益取扱いをしない | 法律上の禁止+周知が必要 |
| 他社から事実確認への協力を求められた場合に協力する | 努力義務として整理されている事項あり |
| ハラスメント横断の一体的窓口など | 指針上「望ましい」取組を含む |
これらは大企業だけの制度ではありません。職場のセクハラ防止措置は企業規模を問わず事業主に求められます。
相談者と行為者のプライバシー
会社には、相談者だけでなく、行為者とされる人や関係者も含めてプライバシーを保護する措置が求められています。
ただし、「秘密を守る」ことと「相手に一切事情を尋ねない」ことは同じではありません。指針は、事実確認のため相談者と行為者双方から事情を確認し、主張が食い違う場合は第三者から聴取することなどを例示しています。
したがって、会社へ相談した場合、調査の過程で相手側への聞き取りが必要になることがあります。相談時に「誰まで情報共有するのか」「本人名を伝える前に相談してほしい」など希望を伝えておくとよいでしょう。
相談したことを理由に不利益を受けない?
労働者がセクハラについて相談したことや、会社の事実確認に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています。
この点は、単なる企業の「望ましい配慮」ではなく、法律・指針上明確に扱われている事項です。
「セクハラをした」と指摘された側はどう対応すべき?
まず、相談者へ直接連絡して撤回を求めたり、口裏合わせをしたりせず、会社の事実確認に落ち着いて協力することが重要です。会社側も、申告だけで直ちに結論を決めるのではなく、双方から事実を確認する必要があります。
実務上は、問題となった日時・場所・会話、自分が保存しているメールやチャット等を消さずに整理し、事実と認識を分けて説明するのが適切です。
「そんなつもりではなかった」「相手も笑っていた」という説明だけでは、性的な言動がなかったことの証明にはなりません。一方で、会社が先入観だけで処分を決めるのも適切ではなく、指針上は迅速かつ正確な事実確認が前提です。
また、申告者への圧力、報復、証拠削除、関係者との証言調整は避けるべきです。懲戒を検討する会社側も、就業規則、認定された事実、行為の内容・程度、過去の対応などに沿って慎重に判断する必要があります。
最高裁の海遊館事件では、複数のセクハラ言動を理由とした出勤停止処分・降格について、その事案の事情の下で会社の処分が有効と判断されています。これは「この言葉を言えば必ず○日の出勤停止」という基準を示した判決ではなく、企業が明確な服務規律と具体的な事実を踏まえて懲戒を行う重要性を示す事例として理解すべきです。
2026年10月1日から就活セクハラ対策も企業の義務に
2026年10月1日から、求職活動等におけるセクシュアルハラスメントについて、新たに事業主の防止措置義務が施行されます。2026年8月9日現在は、法律・省令・指針まで公布済みですが、まだ施行前です。
改正は2025年公布の令和7年法律第63号によるものです。厚生労働省は施行期日を定める政令、厚生労働省令18号、告示52号まで公表しており、施行日は2026年10月1日に確定しています。

「求職者等」とは誰?
改正均等法13条の「求職者等」は、通常の求職者に加え、省令によって次の人が含まれます。
- 事業主が実施する、労働者の採用に資する活動に参加する者
- 教育実習、看護実習その他の実習を受ける者
この定義は2026年厚生労働省令18号で確定しています。
そのため、採用面接だけでなく、企業説明会、企業が行う採用に資するインターンシップ、OB・OG等の社員訪問、教育実習・看護実習なども重要な対象場面になります。告示52号は、面接、少人数説明会、インターンシップ、社員訪問等を具体例として挙げています。
また「求職活動等」は通常の会社施設に限定されず、オンラインやSNSを利用した活動も含まれることが指針で示されています。
会社は何を準備しなければならない?
2026年10月1日からの主な必須措置は次のとおりです。
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| 方針の明確化 | 求職活動等セクハラを行ってはならないと明確化 |
| 厳正な対処方針 | 行為者への懲戒等の方針・内容を規程化し労働者へ周知 |
| 採用活動のルール | 面談時間・場所・実施体制、利用するSNS等のルールを設定 |
| 求職者への周知 | 面談時の留意事項、相談窓口等をWeb・パンフレット等で周知 |
| 相談体制 | 求職者等が利用できる相談窓口を定める |
| 幅広い相談対応 | 明確なセクハラだけでなく、発生のおそれ・微妙な事案にも対応 |
| 迅速・正確な確認 | 相談者と行為者双方、必要なら第三者から事実確認 |
| 被害者への対応 | 両者を引き離す、相談支援等、状況に応じた配慮 |
| 行為者への対応 | 就業規則等に基づく必要な措置 |
| 再発防止 | 事実確認できなかった場合も含め方針周知・研修等 |
| プライバシー | 相談者・行為者等の情報保護とその周知 |
いずれも告示52号に具体化されています。
SNSを使ったOB・OG訪問も注意
告示52号は、企業が労働者向けに、求職者と面談等を行う際の時間・場所・実施体制に加え、やり取りに使うSNSの種類を指定することまで具体例として示しています。
「公式採用担当ではない社員だから会社とは無関係」「個人LINEだから私生活」と単純に切り離すのではなく、採用・職業選択に資する活動との関連を確認する必要があります。
義務と「望ましい取組」を混同しない
2026年改正では、すべての施策が同じ法的強度ではありません。
大学・専門学校等の相談窓口との連携は、告示52号では「望ましい取組」です。また、求職者等が顧客・取引先等から求職活動中にセクハラ類似行為を受けた場合の対応も、必要に応じ適切に対応することが「望ましい」と整理されています。
さらに、改正法13条1項が直接対象としているのは事業主が雇用する労働者による性的な言動です。告示52号は、事業主・法人役員自身による性的言動についても必要に応じ適切に対応するよう努めることが望ましいとしています。
求職者が相談した場合の「不利益取扱い」は?
ここは特に表現に注意が必要です。
改正均等法13条2項と告示52号が明文で禁止・周知対象としているのは、求職者案件の事実確認に協力したり、労働局への相談等を行った「労働者」に対する解雇その他の不利益な取扱いです。
そのため、本稿では「求職者が相談したら、その相談を理由とする不採用や内定取消しが新13条2項によって一律禁止された」とは記載しません。
ただし、企業には求職者が利用できる相談体制、適切な対応、プライバシー保護が義務付けられるため、相談を理由に報復的な扱いをすることは制度趣旨と整合しません。個別事案で他の法的問題が生じる可能性もあるため、企業は相談を採用評価と切り離す運用を徹底するのが適切です。
セクハラとパワハラは何が違う?
セクハラは「性的な言動」が中核であり、上司から部下である必要はありません。一方、職場のパワハラは「優越的な関係を背景とした言動」など法令・指針上の要素があります。
たとえば、同僚から繰り返し性的な噂を流されるケースは、上下関係がなくてもセクハラになり得ます。部下から上司への性的言動も同様です。
一つの言動が、事情によってセクハラとパワハラの双方の問題を含む場合もあります。分類名を先に決めるより、何が起きたかを具体的に確認することが重要です。
セクハラには罰則がある?
「セクハラをしたら一律に○年の刑」という刑罰はありません。会社の措置義務、民事責任、社内懲戒、刑事責任は分けて考える必要があります。
男女雇用機会均等法では、事業主に防止措置を求め、行政による報告徴収、助言・指導・勧告等の仕組みがあります。勧告に従わない場合の企業名公表制度があり、報告を求められたのに報告しない、または虚偽報告をした場合には20万円以下の過料が問題となります。これは、個々のセクハラ行為に直接「20万円の罰金」を科す制度ではありません。
個々の行為者については、事情によって民法上の不法行為責任などが問題になる場合があります。厚労省が紹介する裁判例にも、性的・性差別的言動について個人の不法行為責任が認められた事例があります。
さらに、行為が身体への強制的な性的接触や性交等に及ぶ場合、セクハラの問題とは別に、刑法上の不同意わいせつ・不同意性交等などが問題となる可能性があります。2023年の刑法改正で性犯罪の構成要件は大きく改められ、現行制度では「不同意わいせつ」「不同意性交等」という犯罪類型になっています。
したがって、「セクハラ」という社内・労働法上の評価と、刑事犯罪が成立するかは同じ問いではありません。
裁判例から分かること
海遊館事件
最高裁判所第一小法廷・2015年2月26日判決。最高裁判所裁判集民事249号109頁に掲載されている事案です。
複数の女性従業者等へのセクハラ言動を理由として会社が出勤停止・降格を行い、行為者側がその処分を争いました。最高裁は当該事案で懲戒処分・降格を有効としました。
この事件から「この発言なら必ず出勤停止30日」という相場が導かれるわけではありません。重要なのは、行為の内容・継続性、職場における立場、会社の規律等を含む具体的事情です。
警視セクハラ損害賠償事件
東京地裁2021年10月19日判決、東京高裁2023年9月7日判決。労働経済判例速報2539号に掲載されています。
同僚の警察官による性的・性差別的な価値観に基づく言動について、控訴審は一部の発言について個人の不法行為責任を認めました。
この裁判例も、「特定の単語だけで違法性が決まる」ことを示すものではありません。発言内容、文脈、繰り返し、相手に価値観を押し付けた態様など、具体的事情を見る必要があります。
よくある質問
1回だけの発言でもセクハラですか?
1回なら必ずセーフという基準はありません。 特に重大な身体接触などは一度でも就業環境を害し得ます。発言の場合も、内容・重大性・状況・影響等を確認します。
男性も被害者になりますか?
なります。 男女とも被害者・行為者になり得ます。
女性から男性でもセクハラになりますか?
なります。 法令・指針は「男性から女性」に限定していません。
同性同士でもセクハラになりますか?
なります。 厚労省指針は同性に対するものも含むと明記しています。
飲み会は「職場」に含まれますか?
業務の延長と評価できる宴会などは含まれ得ますが、すべての私的飲み会が自動的に職場になるわけではありません。 開催目的、業務との関係、参加者や状況などを見ます。
LINEだけでもセクハラになりますか?
LINEだから対象外というルールはありません。 業務上の関係を背景とした性的メッセージ等が就業環境を害すれば問題になり得ます。2026年就活セクハラ指針もSNSを具体的に想定しています。
「恋人いるの?」と一度聞くだけでセクハラですか?
一度尋ねただけで必ずセクハラとは断定できません。 ただし、性的な質問へ発展する、断っても繰り返す、評価権限を持つ上司が執拗に聞くなどの事情があれば問題は大きくなります。
容姿を褒めるだけでもセクハラですか?
通常の褒め言葉がすべてセクハラになるわけではありません。 一方、胸・脚・体型などを性的に評価する、繰り返し容姿を品評する、嫌がっているのに続ける場合などは別です。性的な内容か、意に反するか、就業環境への影響などを見ます。
会社に相談すると相手に知られますか?
会社にはプライバシー保護義務がありますが、調査のため行為者側への聞き取りが必要になることがあります。 完全な匿名を常に保証できるとは限らないため、情報共有の範囲を相談窓口へ確認するとよいでしょう。
証拠がなくても相談できますか?
相談できます。 厚労省指針は、セクハラに当たるか微妙な段階や発生のおそれがある段階でも幅広く相談に応じるよう求めています。
退職後でも相談できますか?
退職後の相談を受け付けるか、どの手続を使えるかは相談先や事案によって異なります。まず都道府県労働局等へ事情を伝え、民事上の請求などを検討する場合は期間制限の問題もあるため早めに専門家へ相談するのが安全です。労働局では職場のセクハラに関する相談・紛争解決援助制度が案内されています。
就活中のセクハラは会社に相談できますか?
できます。 現在も就活ハラスメントについて企業、人事、大学のキャリアセンター、労働局等へ相談することが考えられます。労働局も、OB・OG訪問等でハラスメントを感じた場合には早い段階で大学のキャリアセンターや雇用環境・均等部門等へ相談するよう案内しています。
さらに2026年10月1日からは、企業が求職者等向けの相談窓口を設定・周知すること自体が新たな措置義務になります。
まとめ
セクハラの境界を「この発言ならアウト」「一度ならセーフ」と単純化することはできません。
法律上は、職場で行われる意に反する性的な言動によって、雇用上の不利益を受ける対価型、または就業環境が害される環境型が中心です。判断では言動の具体的内容、程度、頻度、関係性、状況、仕事への影響などを確認します。
会社にはすでに、職場のセクハラについて方針の明確化、相談窓口、事実確認、被害者・行為者への対応、再発防止、プライバシー保護等が義務付けられています。
そして2026年10月1日からは、求職者等に対するセクハラについても新たな措置義務が始まります。企業は採用担当者だけでなく、インターンや社員訪問に関係する労働者も含めたルール、SNSの扱い、相談窓口、調査体制を施行前に整える必要があります。
個別の事案については、具体的な状況によって判断が異なります。必要に応じ、都道府県労働局、弁護士などの専門機関・専門家に相談してください。
主な出典
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」および現行の職場セクハラ指針。
厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」。令和7年法律第63号、施行期日政令、2026年厚生労働省令18号、告示52号への公式導線を含みます。
厚生労働省告示第52号「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」。2026年10月1日適用。
都道府県労働局・厚生労働省「あかるい職場応援団」の判断・相談・裁判例資料。