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ナフサ不足は現在どうなっている?2026年8月の供給・品薄・値上がりを検証

公開日:2026年8月16日
最終更新日:2026年8月16日
情報基準日:2026年8月16日 10:30 JST
反映済みの最新統計:経済産業省「石油統計」2026年6月分速報、石油化学工業協会2026年6月実績、日本銀行「企業物価指数」2026年7月分

2026年8月16日現在、日本全体でナフサが一律に枯渇している状況ではありません。経済産業省は、代替調達、中間製品の輸入、在庫の活用などにより、全体として必要な量を確保し、ナフサ由来の化学製品を含む石油製品を年度を越えて供給できるとの見通しを示しています。

ただし、危機が終わったわけでもありません。ホルムズ海峡の船舶通航は平時から大きく落ち込んだままで、特定原料や特定製品の「目詰まり」、高い輸送費・原料費、納期の不安定さが残っています。現在は「日本全体の総量不足」よりも、品目別の供給制約と価格高騰に注意すべき段階です。

この記事で分かること

  • ナフサ不足は2026年8月現在、どこまで改善したのか
  • 政府の「足りている」と現場の「届かない」が両立する理由
  • 実際に受注停止・出荷調整が起きた製品と、その後の状況
  • ナフサ不足で値上がりしやすい製品と、根拠が弱い噂の違い
  • 「いつまで続くか」を判断する三つの時計
  • 家計と中小企業が取るべき現実的な対応

ナフサ不足の現在地――2026年8月16日時点

本稿では、「改善」を輸入・生産・在庫または企業の受注状況に回復が確認された状態、「注意」を航路・品質・納期などに再悪化要因が残る状態、「判断困難」を公表資料だけでは現在の供給状態を確定できない場合とします。

領域現在の判定根拠と注意点
日本全体の必要量改善しているが注意政府は全体として必要量を確保し、年度を越えて供給継続できるとの見通し。ただし主要航路は正常化していない
ナフサの調達代替調達で改善中東以外からの調達や中間製品輸入が進んだ。一方、輸送距離・運賃・品質適合の課題は残る
国内の石化生産最新実績では低水準2026年6月のエチレン生産は28万9,100トン、実効稼働率は66.5%。定期修理の影響を含む
PE・PPなど主要樹脂直ちに全国不足とは言いにくい6月末の在庫はLDPE3.2か月、HDPE3.5か月、PP2.7か月相当。ただし全グレード・全企業の供給を保証する数字ではない
一部の川下製品改善例と未確認例が混在住宅設備や一部溶剤では調整解除を確認。一方、過去の制限後に現在状況を公表していない企業もある
価格高騰が中心、注意継続7月の国内企業物価は前年同月比7.2%、化学製品12.9%、プラスチック製品9.1%。ナフサ以外の要因も含む
ホルムズ海峡高いリスクが継続8月11日にKplerが追跡した通航船舶は8隻。紛争前の通常約130~140隻/日を大きく下回る
ナフサ在庫単独では判断しにくい原油・石油備蓄とナフサそのものの在庫は別。石油備蓄日数をナフサ在庫日数へ読み替えることはできない

政府の供給見通し、石油化学工業協会の6月実績、日本銀行の7月企業物価、Reutersが報じたホルムズ海峡の船舶追跡データを基にした整理です。

ナフサとは何か――原油からプラスチック製品まで

ナフサ(naphtha)は、原油を蒸留して得られる比較的軽い石油留分です。日本語では「粗製ガソリン」と呼ばれることがありますが、自動車用ガソリンをそのまま意味する言葉ではありません。

石油化学工場では、ナフサを約850度の高温で分解し、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどの基礎化学品を作ります。さらにベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族製品にもつながり、さまざまな樹脂、合成ゴム、溶剤、接着剤の原料になります。

流れを単純化すると、次のようになります。

原油・輸入ナフサ

製油所・輸入基地

ナフサ

ナフサクラッカー・芳香族設備

エチレン・プロピレン・ブタジエン・ベンゼンなど

ポリエチレン・ポリプロピレン・合成ゴム・溶剤・接着剤など

包装材・建材・自動車部品・日用品・医療資材・農業資材など

ただし、すべてのプラスチックがナフサだけから作られるわけではありません。海外では天然ガス由来のエタンやLPGを原料とする設備もあり、再生材やバイオ原料も使われます。また、同じナフサでも軽質・重質、成分構成が異なるため、別の国から調達したナフサを既存設備へそのまま同じ条件で投入できるとは限りません。

なぜ2026年にナフサ不足が起きたのか

1.中東情勢とホルムズ海峡の通航減少

直接の引き金は、中東情勢の緊迫化によってホルムズ海峡の船舶通航が大幅に減ったことです。

経済産業省の2026年7月資料によると、2025年の日本のナフサ調達は、おおむね「中東からの輸入4割、国内精製4割、その他地域からの輸入2割」という構造でした。しかも、国内で精製するナフサの原料となる原油も海外に依存しています。「国内精製4割」は、国内資源で4割を賄っているという意味ではありません。

2026年8月12日付のReuters報道によると、Kplerが8月11日にホルムズ海峡で追跡した船舶は8隻でした。10日平均の約12隻も下回り、紛争前の通常約130~140隻/日とは大きな差があります。元の調査稿にあった「8月12日の通航が8隻」ではなく、正しくは「8月12日に報道された8月11日の通航が8隻」です。

さらにUAEは、8月14日にホルムズ海峡を航行中のADNOC船舶が攻撃を受けたと発表し、イランを非難しました。Reutersの記事公開時点でイラン側の即時コメントはなく、攻撃主体についてはUAE側の主張として扱う必要があります。英国海事機関も同日に不明な飛翔体による別の船舶被害を報告しましたが、同じ船舶の事案かどうかは確認されていません。

関連記事として、NEWS DAILYの「ホルムズ海峡封鎖発言報道で何が変わる?日本の輸入不安とエネルギー価格を整理」でも、日本の輸入経路が受ける影響を解説しています。

2.代替調達には時間と費用がかかる

政府と企業は中東以外からの原油・ナフサ調達や、エチレンなど中間製品の輸入を進めました。全体量の確保には効果がありましたが、遠距離輸送、船の確保、海上保険、港湾調整などの費用が増えます。

経済産業省の資料では、2026年4月のナフサ関連タンカーのスポット運賃が、前年同月比で約11倍まで上昇しました。これはすべての輸送契約が11倍になったという意味ではありませんが、緊急のスポット調達が極めて高コストになったことを示します。

原油の代替調達については、NEWS DAILYの「原油調達が約10割回復との報道で何を見る?燃料コストと家計負担の確認ポイント」も参考になります。

3.石油化学設備の定期修理が重なった

2026年6月のエチレン生産は28万9,100トンで、前年同月比19.1%減でした。実効稼働率は66.5%で、3社3プラントが定期修理中でした。

この数字にはナフサ不足だけでなく、計画されていた定期修理の影響も含まれます。「エチレン生産が減ったから、すべてナフサ不足が原因」と判断するのは不正確です。ただし、輸入不安と設備停止が同時に起きたことで、川中・川下の調達不安を強めました。

4.代替ナフサは品質・組成が同じとは限らない

ナフサは一種類の均質な原料ではありません。軽質ナフサと重質ナフサでは成分が異なり、得られるエチレン、プロピレン、芳香族製品などの比率も変わります。

日本全体の数量が確保できても、特定設備に適した品質が不足したり、特定の中間製品だけが足りなくなったりすることがあります。ここが「総量は足りているのに、必要な原料が届かない」という現象の一因です。

5.前倒し発注が流通の偏りを広げた

将来の欠品を恐れて発注を早めたり、複数の仕入先へ重複して注文したりすると、実需を上回る注文がサプライチェーンへ流れます。メーカー側は本当の需要量を把握しにくくなり、在庫が特定企業や特定商流に偏ります。

経済産業省は、ナフサ関連製品について「供給の偏り・流通の目詰まり」を課題として扱っています。2026年8月14日時点で、目詰まり・偏り解消への協力を表明したのは201団体、258社でした。

政府は「足りている」、現場は「不足」――なぜ両方が成立するのか

政府が主に見ているのは、日本全体として必要量を確保し、経済全体の供給を続けられるかです。国内精製、非中東からの輸入、中間製品輸入、在庫活用を合わせ、全体として供給を継続できるかを判断します。

一方、建設会社、塗装会社、製造業者が必要なのは「日本全体で何キロリットルあるか」ではありません。

  • 指定されたメーカーのシンナーを来週20缶確保できるか
  • 指定工法で使う接着剤を代替できるか
  • 代替品への変更に顧客や設計者の承認が必要か
  • 納期までに現場へ届くか

という、製品・品質・数量・納期が限定された問題です。

そのため、「ナフサ不足」は次の四つに分けて考える必要があります。

  1. 総量不足:日本全体のナフサ量が不足する
  2. 品質・組成の不足:必要な種類のナフサや中間製品が足りない
  3. 流通の目詰まり:在庫はあるが必要な企業・地域へ届かない
  4. 価格高騰:数量は確保できても調達費が高い

中国塗料は2026年4月14日、溶剤原料などの調達環境が厳しく、一部原材料に数量制約が生じているとして、製品ごとに供給数量を制限すると公表しました。三協化学も一部製品の納期・出荷数量を調整しましたが、同社は7月8日に調整解除と通常注文体制への復帰を公表しています。

このように、同じ時期でも「全国総量は確保できる」と「特定製品は納期回答できない」が同時に成立します。

石油備蓄があっても、ナフサ在庫と同じではない

政府の石油備蓄は、原油などを中心としたエネルギー安全保障の仕組みです。「石油が何日分ある」という数字を、そのまま「ナフサが同じ日数分ある」と読み替えることはできません。

備蓄原油を放出しても、製油所で精製する必要があります。原油の性状によって得られるナフサの割合も異なり、製油所や石化設備の稼働状況にも左右されます。ナフサは揮発性が高く、保管上の制約もあるため、政府資料でも原油段階の備蓄との役割分担が論点になっています。

ナフサ不足で何がなくなるのか――公式情報から分類

本稿では、製品ごとの状況を次のように分類します。

  • A:現在も欠品・受注停止・出荷制限が公式に確認できる
  • B:一時的な制限があったが、再開・改善が公式に確認できる
  • C:値上げは確認できるが、現在の数量不足は確認できない
  • D:供給リスクはあるが、全国的な具体的不足は確認できない
  • E:ナフサとの関係が間接的、または因果関係が弱い
  • F:過去の制限は公式確認できるが、現在の解除・継続を公開情報で確認できない

2026年8月16日時点で今回確認できた公開一次資料の範囲では、全国規模で幅広い日用品が不足する「A」の状態は確認できませんでした。ただし、個別企業・個別商流の在庫や納期は別途確認が必要です。

分野・企業分類2026年8月16日時点の整理
PE・PPなど主要樹脂C/D6月末に約2.7~3.5か月相当の在庫があり、直ちに全国供給困難とは見込まれていなかった。一方、プラスチック製品価格は上昇
包装フィルム・食品容器D原料との関係は強いが、全国的不足を示す一次資料は確認できない
ゴミ袋・レジ袋・ラップD主にPE系原料を使うが、「全国でなくなる」とする公式根拠は確認できない
三協化学の一部溶剤B納期・出荷数量を調整していたが、7月8日に通常注文体制へ復帰
中国塗料の一部製品F4月14日に数量制約と供給数量制限を公表。本稿の検索範囲では8月16日までに解除を明示する公開発表を確認できず、継続とも解除とも断定しない
日本ペイントの塗料・シンナーC6月1日出荷分から溶剤系塗料25~35%、水性塗料20~30%の価格改定。シンナーは3月に75%改定。数量制限とは分けて考える
クリナップのシステムバスB4月15日から新規受注を停止したが、4月22日に受注再開。現在も停止中と書くのは誤り
接着剤・シーリング材・断熱材D原料リスクはあるが、業界全体の現在の全国不足を示す資料は確認できない。品番ごとの確認が必要
食品包装B/Dカルビーは14商品で包装印刷を2色へ簡素化し、供給継続を優先。食品そのものの不足ではない
自動車部品・家電部品D樹脂や接着剤を使うが、ナフサ単独を原因とした全国的完成品不足は確認できない
紙おむつ・生理用品D/EPE・PP不織布などとの関係はあるが、「必ず不足する」とする根拠はない
医療用資材D樹脂原料の影響は受け得るが、医療資材全般の全国的欠品は確認できない
農業用フィルムDPE系原料の価格・供給リスクはあるが、全国不足の一次確認はない
AdBlueE主成分は尿素水であり、AdBlue自体をナフサ製品と扱うのは不適切
食品そのものE主な影響経路は包装材や物流費。食品原料がナフサになるわけではない

主要樹脂の在庫、各社の受注・出荷対応、価格改定、包装仕様変更に関する公式資料を基に分類しています。

すでに改善した影響と、今も残る影響

改善が確認できるもの

クリナップは2026年4月14日、原材料調達の困難を理由にシステムバスルームの新規受注停止を公表しました。しかし4月21日には、生産・出荷体制が整ったとして4月22日からの受注再開を発表しています。

三協化学も、一部製品で行っていた納期・出荷数量の調整について、7月8日に解除を発表しました。

また、石油化学工業協会によると、6月末の在庫はLDPEが3.2か月、HDPEが3.5か月、PPが2.7か月相当でした。同協会は、直ちに供給が困難になる状況ではないとの見方を示しています。ただし、この数字はすべてのグレード、すべてのメーカー、すべての地域で供給制約がないことを意味しません。

今も注意が必要なもの

一つ目は、ホルムズ海峡の安全と通航量です。8月11日の通航船舶はKpler集計で8隻にとどまり、平時とは大きく異なります。

二つ目は、品目・企業別の目詰まりです。過去の制限後、解除を公式発表した企業もあれば、現在状況を公表していない企業もあります。全国統計だけでは、特定品番の納期までは分かりません。

三つ目は、価格です。日本銀行が2026年8月13日に公表した7月の国内企業物価指数は、前年同月比7.2%上昇しました。化学製品は12.9%、プラスチック製品は9.1%の上昇です。輸入物価指数も円ベースで29.1%上昇しました。

これらはナフサだけを原因とする数字ではありません。原油、為替、輸送費、電力、人件費なども含みます。それでも、化学・樹脂関連の価格上昇圧力が強いことは確認できます。

原材料高が企業物価や家計負担へ波及する仕組みは、NEWS DAILYの「コストプッシュ型インフレ×積極財政:長期金利と物価の同時制御は可能か?」でも解説しています。

家計や暮らしにはどう影響するのか

一般家庭に最も表れやすい影響は、突然すべての商品が店頭から消えることよりも、値上げ、容量や包装仕様の変更、納期の長期化です。

カルビーは2026年5月12日、中東情勢に伴う一部原材料の調達不安定化を受け、14商品で包装に使う印刷インクの色数を2色へ変更すると発表しました。中身の品質には影響しないとし、包装を簡素化して安定供給を優先した事例です。

このように、原材料の供給不安は「商品が消える」だけでなく、「見た目を簡素化して販売を続ける」という形でも現れます。

また、原料価格が下がっても、店頭価格が同時に下がるとは限りません。メーカーが高値で仕入れた在庫、緊急輸送費、包装材、人件費、契約更新の時期を経て販売価格へ反映されるためです。数量面が改善した後も、価格の正常化には時間がかかります。

家庭では、SNSの「なくなる商品一覧」を見て大量購入する必要はありません。通常の買い物周期を大きく変えず、メーカーや販売店が正式に供給制限を発表した商品だけを確認するのが基本です。

乳幼児、高齢者、障害のある人、医療的ケアを必要とする人など、代替しにくい用品がある家庭では、通常の防災備蓄の範囲で残量と入手先を早めに確認してください。必要以上の買いだめは、流通在庫の偏りを強める可能性があります。

中小企業・事業者が確認すべきこと

建設、塗装、製造、食品加工、包装、物流、小売などでは、「ナフサ価格が上がった」という大きな話だけでなく、自社の原価と納期へ落とし込む必要があります。

確認項目実務上の確認方法対応
ナフサとの関係BOM、仕様書、SDS、仕入先へ確認直接原料、中間材、包装材、副資材に分ける
現在庫現在庫÷通常の日次使用量在庫日数を数値化する
発注残注文番号、数量、確約納期を一覧化「発注済み」と「納期確定」を分ける
代替品技術・品質・営業で確認品質試験、顧客承認、法令確認の要否を記録
仕入先集中メーカー別・原料別の依存比率を算出同じメーカーの別商社だけでは分散にならない
原価上昇危機前単価と最新単価を比較製品1個、工事1件当たりの増加額に直す
見積・契約有効期限、価格調整条項を確認原材料急騰時の再協議条件を明文化する
粗利益新しい仕入価格で再計算売上高だけでなく粗利額・粗利率を見る
資金繰り在庫増加額、前払金、回収サイトを反映3~6か月の資金繰り表へ織り込む
顧客説明値上げ通知、統計、仕入実績を保存「ナフサだから」ではなく品目別根拠を示す
過剰発注実需と安全在庫を分ける二重・三重発注と後日のキャンセル連鎖を避ける

価格転嫁は「原価が何円増えたか」で説明する

2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法、いわゆる取適法では、対象となる取引で中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、委託事業者が適切な協議を行わず、一方的に代金を決める行為が禁止されています。

ただし、すべての企業間取引へ自動的に適用されるわけではありません。資本金、従業員数、委託内容などの適用要件を確認する必要があります。

価格交渉では、「仕入れが上がったので10%値上げしたい」だけでなく、原料、包装材、物流費、歩留まり、代替材試験費、外注費を積み上げ、製品1個または工事1件当たりの原価が何円増えたかを示すことが重要です。

制度の対象と実務対応は、NEWS DAILYの「下請法は『取適法』へ|2026年1月施行で何が変わった?発注・受注企業の実務を解説」で詳しく確認できます。

ナフサ不足はいつまで続くのか――三つの時計で考える

「○月○日に終わる」と単一の日付で答えることはできません。見るべきなのは、次の三つの時計です。

時計A:ナフサ総量・調達量が安定するまで

政府は代替調達、中間製品輸入、在庫活用によって必要量を確保できるとの見通しを示しています。この時計は三つの中で最も早く改善しやすいものです。

ただし、代替調達ができていることと、ホルムズ海峡が正常化したことは同じではありません。主要航路の安全性、船舶数、運賃、海上保険が安定するまでは、再悪化リスクが残ります。

時計B:中間製品・川下製品の納期が正常化するまで

原料が日本へ届いても、製油所、ナフサクラッカー、中間製品メーカー、加工会社、商社、施工会社へ流れるには時間がかかります。

さらに、特定グレードの不足、代替材の品質試験、顧客承認、前倒し発注の整理が必要です。全国統計が改善しても、個別製品の納期がすぐに戻るとは限りません。

時計C:価格改定が落ち着くまで

価格の時計は最も遅れる可能性があります。高値で調達した原料や高額な緊急輸送費は、企業の在庫や原価として残り、契約更新や価格改定を通じて時間差で川下へ波及します。

そのため、「数量不足は改善したのに値上げが続く」ことは矛盾ではありません

今後の三つのシナリオ

以下は公開資料を基にしたNEWS DAILYの整理であり、政府の公式シナリオではありません。公的機関が発生確率を示していないため、確率は付けません。

シナリオ成立する条件想定される状況
改善ホルムズ通航が安定、非中東調達を継続、設備定修が終了、前倒し発注が沈静化数量と納期が順次正常化し、価格だけが遅れて高止まりする
基本総量は代替調達で確保するが、主要航路は不安定全国的枯渇は回避しつつ、特定品目・企業・地域で目詰まりと値上げが残る
悪化船舶攻撃の拡大、保険・運賃の再上昇、代替調達難、製油所・石化設備の障害特定中間製品の供給制限が再発し、川下の受注停止へ波及する

2026年8月16日時点では、総量を代替調達で支えている一方、主要航路が正常化していない「基本シナリオ」型の状態として見るのが妥当です。これは政府の公式評価ではなく、公開資料を総合したNEWS DAILYの分析です。

政府の対策と日本の供給構造に残る課題

政府は、非中東からの原油・ナフサ調達、中間製品輸入、在庫活用、供給網の目詰まり調査、業界への偏り解消要請などを組み合わせています。

今回の危機が示したのは、「石油を何日分持っているか」だけでは石油化学製品の供給を守れないという点です。

必要なのは、次の対策を一体で進めることです。

調達先の分散
代替原油・ナフサの品質適合
タンカー・海上保険の確保
国内精製能力の維持
石化設備間の融通
中間製品の輸入
川下企業への早期情報共有

ナフサを大量に備蓄すればすべて解決するわけでもありません。揮発性や保管安全性、品質、設備との適合性を踏まえ、原油備蓄、製品在庫、調達契約、国内生産を組み合わせる必要があります。

今後どの数字を見れば「解消した」と判断できるか

ナフサ不足の解消は、単一の統計では判断できません。

確認先主に見る項目読み方の注意
経済産業省「石油統計」ナフサの生産・輸入・販売・在庫、原油輸入速報と確報、原油とナフサを区別する
財務省「貿易統計」国・地域別の輸入数量・金額「揮発油」などの品目定義を確認する
石油化学工業協会エチレン生産・稼働率、PE・PPの生産・出荷・在庫定期修理の影響と需要減を分けて考える
日本銀行「企業物価指数」化学製品、プラスチック製品、輸入物価ナフサ以外の為替・エネルギー要因も含む
企業公式発表受注停止、数量制限、解除、価格改定古い停止情報だけでなく解除発表も確認する
海運情報ホルムズ海峡の通航、運賃、保険日々変動するため月次統計より早く動く

2026年8月16日時点で、経済産業省の石油統計は6月分速報、石油化学工業協会の詳細月次は6月実績、日本銀行の企業物価指数は7月分が最新です。統計の対象月と記事の情報基準日を混同しないことが重要です。

NEWS DAILYとして「不足がほぼ解消した」と判断するには、少なくとも次を同時に確認する必要があります。

  • ナフサの輸入・国内生産が複数月安定する
  • 在庫が異常な速度で取り崩されていない
  • エチレン・主要樹脂の供給が正常化する
  • 主要企業の緊急受注停止・数量制限がほぼ解除される
  • 納期回答が通常化し、前倒し発注が沈静化する
  • ホルムズ海峡または代替ルートが安定する
  • 化学・樹脂関連の価格上昇率が鈍化する

数量が戻っただけでは、価格の時計が止まっていないため「完全収束」とは言えません。

ナフサ不足に関するよくある質問

2026年8月現在、日本はまだナフサ不足ですか?

日本全体でナフサが枯渇している状況ではありません。政府は全体として必要量を確保し、供給継続できるとの見通しを示しています。一方、ホルムズ海峡の通航不安、品目別の目詰まり、価格高騰は残っています。したがって、「全国的な総量不足」よりも「供給不安と製品別制約が残る局面」と考えるのが適切です。

政府が「足りている」と言うのに、なぜ企業は「足りない」と言うのですか?

政府は日本全体の供給可能量を見ていますが、企業は特定メーカー、特定品質、特定数量、特定納期の商品を必要とします。総量が足りていても、品質差、設備停止、在庫の偏り、前倒し注文によって、現場だけ不足することがあります。

ナフサ不足でプラスチック製品は全部なくなりますか?

そのような根拠はありません。2026年6月末の主要樹脂には約2.7~3.5か月相当の在庫があり、石油化学工業協会は直ちに供給困難になる状況ではないとの見方を示しました。ただし、すべてのグレードや個別製品の供給を保証する数字ではありません。

何が最も影響を受けましたか?

2026年春に公式情報で確認しやすかったのは、シンナー・溶剤、塗料、接着剤、一部住宅設備・建材です。その後、受注・出荷調整を解除した企業もあります。古い受注停止情報を現在も続いているように扱わないことが重要です。

石油備蓄があれば、ナフサも安心ですか?

同じ意味ではありません。石油備蓄は原油などを中心とする制度で、ナフサ製品そのものの在庫日数ではありません。原油からナフサを作るには精製設備が必要で、原油の性状や設備稼働によって得られる量も変わります。

ナフサ不足はいつまで続きますか?

単一の日付では答えられません。総量の時計は改善していますが、個別製品の納期と価格には時間差があります。ホルムズ海峡の安全と通航が安定するまでは、再悪化リスクも残ります。

ゴミ袋、ラップ、紙おむつを大量購入すべきですか?

全国的な欠品を裏付ける一次資料は確認できません。通常の買い物と一般的な防災備蓄の範囲を基本とし、必要以上の買いだめは避けてください。代替が難しい医療・介護・乳幼児用品は、メーカーの公式供給情報を個別に確認するのが適切です。

まとめ

2026年春のナフサ供給不安は、実際に企業の受注、出荷、価格へ影響しました。シンナー、溶剤、塗料、住宅設備などでは、企業が公式に供給制限や受注停止を発表した事例があります。

しかし、2026年8月16日現在、春の状況をそのまま「今も全国で続いている」と表現するのも正確ではありません。代替調達と中間製品輸入が進み、主要樹脂には一定の在庫があり、受注・出荷調整を解除した企業もあります。

同時に、危機が完全に終わったわけでもありません。ホルムズ海峡の船舶通航は平時を大きく下回り、品目別の目詰まりと高い企業物価が残っています。

現在地を一文でまとめると、次のとおりです。

日本全体の総量不足は代替調達で大きく緩和したが、ホルムズ航路の供給不安、品目別の目詰まり、価格高騰は残っている。

「何がなくなるか」という不安だけで判断せず、総量、品質、設備、中間製品、川下在庫、価格を分けて確認することが、家計にも企業にも最も有効な対応です。

主な参考資料

  • 経済産業省「石油統計速報 令和8年6月分」(2026年7月31日公表)
  • 経済産業省「石油等の供給構造の強靱化に向けて」(2026年7月7日)
  • 経済産業省「素材産業」(2026年6月12日更新)
  • 資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」
  • 資源エネルギー庁「今こそ知りたい、日本の『石油備蓄』のしくみとは?」(2026年4月13日)
  • 石油化学工業協会「2026年6月の生産・出荷実績に関するコメント」(2026年7月16日)
  • 日本銀行「企業物価指数(2026年7月速報)」(2026年8月13日)
  • Reuters「Hormuz shipping traffic falls to one-week low amid hostilities」(2026年8月12日)
  • Reuters「UAE says Iran attacked ADNOC vessel in Hormuz, urges waterway's reopening」(2026年8月15日確認)
  • クリナップ「システムバスルームの新規受注再開について」(2026年4月21日)
  • 三協化学「中東情勢の影響に伴うご注文・出荷調整解除について」(2026年7月8日)
  • 中国塗料「中東情勢の緊迫化について」(2026年4月14日)
  • 日本ペイント「中東情勢に伴う当社製品の価格改定について」(2026年5月13日)
  • カルビー「中東情勢の影響による一部商品仕様見直しのお知らせ」(2026年5月12日)
  • 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」

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2026/8/16

米は余り始めた?2026年の米価格下落、備蓄米放出と農家経営を検証

※本記事は、2026年8月16日時点で公表されている資料を基に作成しています。2026年産米の全国の収穫量と品質はまだ確定していません。 2025年、政府は高騰する米価格への対策として、主食用の政府備蓄米を約59万トン放出しました。店頭には「古古米」「古古古米」と呼ばれる低価格の米も並び、米不足への不安は次第に薄れていきました。 ところが2026年に入ると状況は反転します。スーパーの米価格は下落基調となり、2026年6月末の民間在庫は243万玄米トンに増加しました。農家段階でも価格下落が表面化し、JA福井 ...

教育・スキル

2026/8/8

小・中学校の「理科」完全ガイド|何年生から始まり学年別に何を学ぶ?

「理科って何年生から始まるの?」「うちの子の学年では何を習っているの?」——お子さんの時間割を見て、ふと気になったことはないでしょうか。理科は小学3年生から始まり、中学3年生までの7年間で、物理・化学・生物・地学のもとになる内容を少しずつ積み上げていく教科です。この記事では、文部科学省の学習指導要領に基づいて、学年別に学ぶ内容・代表的な実験・つまずきやすいポイント・家庭でできる支援を、保護者の方にも学び直したい大人にも分かるようにまとめました。本文の内容は2026年8月15日時点の現行制度に基づいています ...

経済・ビジネス

2026/8/13

「空いている店」を別の店が使う?間借りレストランに学ぶシェア型店舗の仕組み

情報基準日:2026年8月13日 夜しか営業しない居酒屋の前を、昼間に通ったことはないでしょうか。 シャッターは閉まっていても、店内には客席、厨房、冷蔵庫、シンク、コンロがあります。そして、営業していない時間にも家賃や設備の維持費は発生します。 では、その昼間だけ別の事業者がカレー店を営業したらどうなるのでしょうか。 夜は居酒屋、昼はカレー店。同じ店舗を、時間帯によって別の事業者が使う。これが「間借りレストラン」を理解する最も分かりやすいイメージです。 この記事の結論間借りレストランの本質は、単なる「安い ...

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