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親が認知症になる前に決めておくこと|財産管理・医療・介護・住まいの準備

※この記事は2026年8月3日時点の制度・情報に基づいています。

親が認知症になる前に決めておきたいのは、「お金の管理を誰にどう任せるか」「医療・介護で何を望むか」「家をどうするか」の3点です。任意後見契約・家族信託・遺言など、本人の判断能力が十分なうちにしか使えない制度がある一方、判断能力が低下した後でも法定後見や日常生活自立支援事業などの支えがあります。大切なのは、認知症になったら何も決められなくなるという誤解を捨て、本人の意思を中心に、早めに・少しずつ話し合っておくことです。この記事では、制度の使える時期・できること・限界を一覧で整理します。

この記事の要点

  • 高齢者の認知症は2022年時点で約443万人、2040年には約584万人と推計されています(厚生労働省研究班・九州大学)。誰にとっても他人事ではありません。
  • 任意後見・家族信託・遺言・財産管理委任は「判断能力が十分なうち」だけ選べる仕組みです。低下後は法定後見等に限られます。
  • 認知症になっても、預金口座が一律・自動で凍結されるわけではありません。ただし金融取引が難しくなる場面はあるため、備えは有効です。
  • 成年後見人がいても、手術などの医療行為への同意を当然に代行できるわけではありません。医療の希望は本人が元気なうちに共有しておくことが重要です。
  • 国の認知症施策は「新しい認知症観」(認知症になっても自分らしく暮らし続けられる)を掲げ、本人の意思決定支援を基本としています。

目次

  1. まず押さえたい基本用語
  2. 最初に知るべき結論:「時期」で使える制度が変わる
  3. 制度の比較表:判断能力が十分なうち/低下した後
  4. 各制度の役割と限界
  5. 家族で確認しておく項目:医療・介護・財産・住まい・運転・連絡先・デジタル
  6. 本人の意思を尊重した話し合いの進め方
  7. よくある誤解と正しい理解
  8. 相談先の使い分け
  9. 今日からできるチェックリスト
  10. よくある質問(FAQ)
  11. まとめ
  12. 参考資料・出典

まず押さえたい基本用語

  • 任意後見制度:本人の判断能力が十分なうちに、将来の支援者(任意後見人)と支援内容を公正証書の契約で決めておく制度。判断能力低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が生じます。
  • 法定後見制度(成年後見):判断能力が低下した後に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度。現行は後見・保佐・補助の3類型です。
  • 家族信託(民事信託):財産の管理・処分を信頼できる家族(受託者)に契約で託す仕組み。営利目的でない信託で、法律上の正式名称ではなく実務上の呼称です。
  • 財産管理委任契約(任意代理):判断能力はあるが体が不自由などの理由で、財産管理を代理人に委任する契約です。
  • 日常生活自立支援事業:判断能力が不十分になっても、契約内容を理解できる程度であれば利用できる、社会福祉協議会による日常的な金銭管理・書類預かり等の支援です。
  • ACP(人生会議):将来の医療・ケアについて、本人・家族・医療者が前もって繰り返し話し合う取り組みです。

最初に知るべき結論:「時期」で使える制度が変わる

認知症への備えは、「判断能力が十分な時期にしか選べない制度」を知ることから始まります。逆算すると、話し合いは早いほど選択肢が多いということです。

任意後見契約・家族信託・遺言・財産管理委任契約は、いずれも本人が内容を理解し判断できることが前提のため、判断能力が下がってからでは原則として利用できません。一方、判断能力が低下した後でも、法定後見や日常生活自立支援事業という公的な支えがあります。つまり「間に合わなかったら終わり」ではありませんが、本人の希望を形に残せるのは元気なうちだけです。まず次の比較表で全体像をつかんでください。

制度の比較表:判断能力が十分なうち/低下した後

【編集部の整理】利用できる時期で見る制度の一覧

制度利用できる時期主にできることできないこと・限界主な相談先
財産管理委任契約判断能力が十分なうち(契約時)預金の出し入れ・支払いなどの代理金融機関によっては代理取引に応じない場合がある。本人の判断能力低下後の継続は不安定弁護士・司法書士
任意後見契約契約は判断能力が十分なうち。効力発生は低下後本人が決めた範囲の財産管理・契約などの代理家庭裁判所による任意後見監督人の選任が必要(報酬も発生)。取消権はない公証役場・弁護士・司法書士
家族信託(民事信託)判断能力が十分なうち不動産・金銭の管理・処分、承継先の指定身上保護(介護契約等)はできない。設計・登記等の初期費用がかかる。受託者に義務と負担信託に詳しい弁護士・司法書士等
遺言(自筆証書・公正証書)判断能力(遺言能力)があるうち死後の財産の行き先の指定生前の財産管理には無力。方式不備は無効。遺留分に配慮が必要公証役場・弁護士・司法書士
エンディングノートいつでも医療・介護・お金・連絡先などの希望の共有法的効力はない―(市販・自治体配布)
法定後見(後見・保佐・補助)判断能力が低下した後財産管理、施設入所などの契約、取消権(類型による)医療行為への同意は代行できない。本人が亡くなるまで続くのが原則(現行制度)。報酬が発生家庭裁判所・市区町村・弁護士・司法書士
日常生活自立支援事業判断能力が不十分でも契約内容を理解できる程度なら可福祉サービス利用の手伝い、日常的な金銭管理、通帳等の預かり不動産売却などの大きな法律行為はできない社会福祉協議会

出典:法務省・厚生労働省・全国社会福祉協議会の各制度解説を基に編集部作成(2026年8月3日確認)

制度改正の予定(2026年8月3日時点:施行前のため、現在は上記の現行制度が適用されます):成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)と、関係法律の整備等に関する法律(同第46号)が2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。改正後は、法定後見の後見・保佐を廃止して補助に一元化し、本人に必要な範囲・期間で利用できる仕組みへ移行する方向です(法務省)。成年後見関係の主要部分は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内の政令で定める日に施行される予定で、具体的な施行日・経過措置・実務運用は今後の公表を確認する必要があります。

各制度の役割と限界

どの制度も万能ではありません。「何のために・どこまで」を分けて考えると、組み合わせ方が見えてきます。

任意後見と法定後見:支援者を「自分で選ぶ」か「裁判所が選ぶ」か

任意後見の最大の意義は、本人が元気なうちに「誰に・何を任せるか」を自分で決められることです。効力発生には家庭裁判所への申立てと任意後見監督人の選任が必要で、監督人の報酬も発生します。一方、準備がないまま判断能力が低下した場合は法定後見となり、後見人等は家庭裁判所が選任します。親族が選ばれる場合もあれば、弁護士・司法書士等の専門職が選ばれる場合もあります。

家族信託:柔軟だが「万能」ではない

家族信託は、たとえば「自宅と預金の一部を長男に託し、本人のために管理し、将来必要なら自宅を売却して施設費用に充てる」といった柔軟な設計ができます。ただし、介護サービスの契約や施設入所手続きといった身上保護は信託ではカバーできず、後見制度等との併用が必要になる場面があります。設計・公正証書・不動産の信託登記などの初期費用もかかります。「家族信託にしておけば全部安心」という説明には注意してください。

遺言:生前対策とセットで考える

遺言は死後の財産の行き先を決めるもので、生前の認知症対策にはなりません。自筆証書遺言は法務局の保管制度(保管申請手数料1通3,900円・法務省)を使うと、紛失や改ざんの心配が減り、家庭裁判所の検認も不要になります。確実性を重視するなら公正証書遺言も選択肢です。

日常生活自立支援事業:低下後の「日常」を支える

判断能力が不十分になった後でも、契約内容を理解できる程度であれば、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業で、公共料金の支払い・預金の出し入れといった日常的な金銭管理や通帳の預かりを頼めます。利用料は実施主体ごとに定められています。大きな財産の処分はできないため、必要になれば法定後見への移行を検討します。

家族で確認しておく項目:医療・介護・財産・住まい・運転・連絡先・デジタル

【編集部の整理】家族会議で確認する7分野

分野確認しておきたいこと
医療かかりつけ医、持病・服薬、延命治療や終末期医療への考え(ACPとして繰り返し話す)
介護どこで暮らしたいか(自宅・施設)、受けたい支援・受けたくない支援
財産口座・保険・不動産・負債の所在(一覧化)、管理を任せたい相手、任意後見・信託等の意向
住まい自宅に住み続けたいか、住み替えの希望、家の名義・権利関係
運転免許返納を考える目安(体調・ヒヤリとした経験)、返納後の移動手段
連絡先友人・親族・専門家(かかりつけ医・取引金融機関・保険担当者等)の連絡網
デジタル資産スマホのロック解除方法の保管、ネット銀行・証券、サブスク契約、SNSの扱い

一度にすべてを聞き出す必要はありません。「財産目録を作る」より先に、「どこに何があるかを本人が書き出しておく」だけでも、いざというときの負担は大きく違います。エンディングノートはその受け皿として有効です。

本人の意思を尊重した話し合いの進め方

準備の主役は家族ではなく本人です。「親のために決めてあげる」ではなく、「本人の希望を聞かせてもらう」姿勢が出発点になります。

国は「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(厚生労働省・2018年策定、2025年3月に第2版)で、認知症になっても本人には意思があり、周囲はそれを引き出し支える立場だと整理しています。2024年12月に閣議決定された認知症施策推進基本計画も、「認知症になったら何もできなくなるのではなく、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という「新しい認知症観」を掲げています。話し合いの実務的なコツは次のとおりです。

  • きっかけは自然に:帰省・法事・ニュースの話題など、日常の延長で切り出す
  • 一度に決めない:結論を急がず、複数回に分けて少しずつ
  • 本人の言葉で残す:エンディングノートや録音メモなど、本人の表現のまま記録する
  • 否定しない:本人の希望が家族の想定と違っても、まず受け止める
  • 専門職を交える:判断が分かれる論点は、地域包括支援センターや専門職の同席で整理する

よくある誤解と正しい理解

【編集部の整理】認知症とお金・制度をめぐる誤解

よくある誤解正しい理解
認知症と診断されたら口座は自動的に凍結される診断だけで一律・自動的に取引が止まる仕組みはありません。ただし、金融機関が本人の判断能力に疑義を持った場合、取引が制限されることがあります。全国銀行協会は、医療費など本人の利益が明らかな支払いについて親族等による払出しに柔軟に対応する考え方を示しています(2021年)。
成年後見人がいれば手術の同意もしてもらえる成年後見人に医療行為への同意権はありません。医療の希望は本人が元気なうちにACP等で共有しておくことが重要です。
家族信託にすれば後見制度は一切不要信託は財産管理に特化した仕組みで、介護契約などの身上保護は対象外です。必要に応じて後見制度等と併用します。
認知症になったら何も決められない認知症になっても、支援を受けながら本人が決められることは多くあります。国の施策も本人の意思決定支援を基本としています。
準備は一度やれば終わり体調・家族状況・制度は変わります。書いた内容は定期的(年1回など)に見直します。

相談先の使い分け

  • 公証役場:任意後見契約・公正証書遺言の作成。
  • 弁護士・司法書士:契約設計の総合相談、家族信託の組成、不動産の登記(司法書士)、紛争性がある場合(弁護士)。
  • 法テラス:収入等の要件を満たす場合の無料法律相談・費用立替の案内。
  • 社会福祉協議会:日常生活自立支援事業の利用相談、法人後見等の地域の権利擁護。
  • 地域包括支援センター:介護・生活全般の入口相談。どの専門職につなぐかの交通整理役。
  • 市区町村(成年後見制度利用支援・中核機関):後見制度の利用相談、申立て費用等の支援制度の案内。

「何から相談すればよいか分からない」段階なら地域包括支援センター、「契約書を作る」段階なら公証役場・弁護士・司法書士、と覚えておくと迷いません。

今日からできるチェックリスト

  •  親の「どこで、どう暮らしたいか」を一度聞いてみる
  •  かかりつけ医・服薬・保険証の保管場所を共有してもらう
  •  財産の所在(口座・保険・不動産・負債)を本人に一覧化してもらう
  •  エンディングノートを渡す・一緒に書き始める
  •  運転について、返納の目安と代替の移動手段を話し合う
  •  スマホ・ネット口座など、デジタルの入口情報の残し方を決める
  •  任意後見・家族信託・遺言について、本人の意向を確認する(実行は専門職に相談)
  •  1年後に見直す日をカレンダーに入れる

よくある質問(FAQ)

Q1. 親がすでに軽い物忘れを指摘されています。もう任意後見や信託は無理ですか。 A. 一律には言えません。契約に必要なのは、その契約の内容を理解できる判断能力であり、診断名だけで決まるものではありません。公証人や医師の確認を経て契約できる場合もあるため、早めに専門職へ相談してください。時間の経過とともに選択肢は狭まります。

Q2. 任意後見と家族信託は、どちらか一方を選ぶものですか。 A. 併用するケースもあります。たとえば財産管理の柔軟性は信託で確保し、介護契約などの身上保護は任意後見で備える、という組み合わせです。財産の内容・家族構成により最適解が異なるため、両制度に通じた専門職に設計を相談してください。

Q3. 後見人には誰がなるのですか。家族がなれますか。 A. 任意後見では本人が契約で選びます。法定後見では家庭裁判所が事案に応じて選任し、親族が選ばれる場合も、専門職や法人が選ばれる場合もあります。親族を候補者として申立てることは可能ですが、必ず選ばれるとは限りません。

Q4. 費用はどのくらいかかりますか。 A. 制度・依頼内容・財産の規模で大きく異なります。目安として、公正証書の作成手数料、家族信託の設計・登記費用、後見人・監督人への報酬(家庭裁判所が決定)などが発生し得ます。金額は個別性が高いため、契約前に必ず見積りと内訳の説明を受けてください。

Q5. 親が「まだ早い」と話し合いを嫌がります。 A. 無理に進めると関係がこじれます。制度の話ではなく「もしものとき、あなたの希望どおりにしたいから教えてほしい」という目的から伝える、自治体のエンディングノートを話の入口にする、認知症以外(災害・入院)への備えとして切り出す、などの工夫が有効です。

Q6. 認知症の予防や早期発見のためにできることはありますか。 A. 気になる変化があれば、かかりつけ医や地域包括支援センター、認知症疾患医療センターに早めに相談してください。原因によっては治療可能な場合もあります。医学的な判断は必ず医療機関で受けてください。なお、本記事は発症前の「備え」(財産・医療・介護・住まいの準備)を扱うものです。認知症の予防そのもの(生活習慣・運動など)は本記事の対象外です。

まとめ

認知症への備えの本質は、制度選びの前に「本人の希望を聞き、共有しておくこと」です。そのうえで、判断能力が十分なうちに使える任意後見・家族信託・遺言等と、低下後も使える法定後見・日常生活自立支援事業の役割と限界を知り、必要な組み合わせを専門職と設計します。認知症は「何もできなくなる」ことではありません。備えは、本人らしい暮らしを続けるための応援です。介護が実際に始まったときの動き方、実家の扱い、身寄りがない場合の備えは、関連記事で解説しています。

参考資料・出典


本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。契約の可否・制度の適用・税務の取扱いは個別の事情により異なります。法的手続きは弁護士・司法書士、税務は税理士、医療上の判断は医療機関にご相談ください。

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